(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-78815(P2018-78815A)
(43)【公開日】2018年5月24日
(54)【発明の名称】食品用加工平兵衛酢外果皮の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20180420BHJP
【FI】
A23L19/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-222075(P2016-222075)
(22)【出願日】2016年11月15日
(11)【特許番号】特許第6224807号(P6224807)
(45)【特許公報発行日】2017年11月1日
(71)【出願人】
【識別番号】516342988
【氏名又は名称】河野 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100197734
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】河野 洋一
【テーマコード(参考)】
4B016
【Fターム(参考)】
4B016LC07
4B016LG02
4B016LP06
4B016LP11
4B016LP13
(57)【要約】
【課題】柑橘類の平兵衛酢果実の外皮(果皮)から中果皮を効率よく確実に剥皮し、外果皮だけを取り出すことができる食品用の加工平兵衛酢外果皮の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】食品用の加工平兵衛酢外果皮を製造する方法であって、平兵衛酢果実から、外皮と果肉とを分離する第1の工程と、該第1の工程で分離した外皮だけを、予め沸騰させた状態の水に投入して15分間煮沸し、その後、火を止めて30分間乃至50分間、前記外皮を蒸らす第2の工程と、該第2の工程の後、前記蒸らした外皮から中果皮の剥皮を行い、外果皮だけを取り出す第3の工程とを備えることを特徴とする食品用の加工平兵衛酢外果皮の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品用の加工平兵衛酢外果皮を製造する方法であって、
平兵衛酢果実から、外皮と果肉とを分離する第1の工程と、
該第1の工程で分離した外皮だけを、予め沸騰させた状態の水に投入して15分間煮沸し、その後、火を止めて30分間乃至50分間、前記外皮を蒸らす第2の工程と、
該第2の工程の後、前記蒸らした外皮から中果皮の剥皮を行い、外果皮だけを取り出す第3の工程とを備える
ことを特徴とする食品用の加工平兵衛酢外果皮の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程の後、前記外果皮を異なる糖度の糖蜜に段階的に漬け込む第4の工程を備え、該第4の工程は、前記外果皮を、糖度50度の糖蜜に1日間漬け込む第1の糖度設定段階と、その後、糖度65度の糖蜜に1日間漬け込む第2の糖度設定段階とを有し、
さらに、前記第4の工程の後、前記糖蜜を切った外果皮を、冷凍する第5の工程と
を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の食品用の加工平兵衛酢外果皮の製造方法。
【請求項3】
前記第3の工程の後、前記取り出した外果皮を冷凍する第6の工程を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の食品用の加工平兵衛酢外果皮の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類の平兵衛酢の外果皮を加工してなる食品用加工平兵衛酢外果皮の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、柑橘類の果肉・果汁を利用した種々の加工食品が製造されている。柑橘類の果皮は、苦み成分(リモノイド)を有するものとして、果肉・果汁と分離するために果実から剥皮処理されていた(実際には、剥皮技術は困難であった。)が、近年、柑橘類の果皮には、薬用、食用、健康、美容等に効果があることが分かり、例えば、柑橘類の果皮を添加した菓子等が製造されている。柑橘類の果肉・果汁を利用する場合、果皮を利用する場合、いずれにおいても、果肉・果汁と果皮を確実に分離(剥皮)することが要求され、いろいろな剥皮の技術が提案されてきた。
【0003】
特許文献1には、「オレンジ、グレープフルーツ、レモン等の果皮の剥きにくい柑橘系果実を、温州みかんのように簡単に果皮が剥けるようにし、それを食品工業的にも簡便に利用できるようにすることを目的」として、「市販されている高圧処理機」を用いて、「果実を切断しあるいは果実丸ごと」、「20℃〜100℃」で「2分間以上」「加圧(及び加熱)処理」すると、「手剥ぎでも剥皮機でも自由に皮を剥ぐことができ」ることが記載されている(明細書第1欄乃至第6欄参照。)。また、特許文献1には、加熱処理の例として、「加圧処理に先立ち、果実を湯どおししたり蒸気とおししたり、高圧処理機に湯を使用する」ことが記載されている(明細書第4欄第21行乃至第23行参照。)。
【0004】
特許文献2には、「柑橘類」の「『カボス』には、果皮中の油泡の苦み成分が余り存在しないことを見出し」(段落「0006」参照。)、「カボスを材料としたマーマレード、砂糖菓子等の砂糖煮であって、該カボスの自然の風味と香りを保持したカボスのマーマレード、砂糖菓子等の砂糖煮の製造方法を提供する」(段落「0007」、
図1参照。)ことを目的として、「黄色化した鮮度のよいカボスを果皮と果肉に分離し、該果皮をスライスまたは所要の大きさにカットした後、該果皮を水煮して柔らかくした処で、砂糖と水あめとゼラチンを含む混合液を加えて煮込むことで製造する」(段落「0008」、
図1参照。)こと、「黄色化した鮮度のよいカボスを果皮と果肉に分離し、該果皮をスライスまたは所要の大きさにカットした後、該果皮を水煮して柔らかくした処で、砂糖を加えて煮込み、該煮込んだ果皮を砂糖にまぶすことで製造する」(段落「0009」、
図1参照。)こと、「黄色化した鮮度のよいカボスを果皮と果肉に分離し、該果肉を冷凍した後、解凍し、該解凍した果皮を用いた構成としている」(段落「0010」、
図1参照。)ことが記載されている。
【0005】
特許文献3には、「かんきつ類の果皮にはビタミンC及びPが多く、また特殊な好ましき芳香を含み、これが果皮(白皮)及び瓢嚢などに含まれる多量のペクチンにより保留されることに着目し、さらに最近栄養的に食物繊維(dletary fiblre)が健康的に極めて重畳であることが注目され、これ等事実から果実粒の繊維が柔かくてくせがないかんきつ類の全体すなわち、果皮、果肉、瓢嚢、さのう、果汁の夫々の成分特性を組合せて多量の食物繊維を含む食品を製造する」こと、「かんきつ類の果実粒をそのまゝか、またはその果皮を適宜に細片化したものを熱湯に入れ、果皮が柔かくなる程度に5〜15分処理し、また果実粒そのまま熱湯処理した場合は果皮を脱皮して細片化し、この細片化した果皮は5〜15メッシュに破砕し、必要あればさらに10〜32メッシュに細砕し、一方脱皮した果肉釆崗(瓢嚢を含む)は破砕して食用有機酸例えば、クエン酸を添加してpH3.6〜2.8望ましくはpH3.2〜2.8に調整し、これに上記の果皮の破砕または細砕物を添加し、1〜12分、望ましくは2〜10分、加熱処理してペースト化するかんきつ類全果実粒の加工法である」ことが記載されている(明細書第1頁乃至第3頁参照。)。
【0006】
特許文献4には、「柑橘類の果実は、可食部分である果肉(砂じょう)がじょうのう膜で包まれ、じょうのうを形成し、じょうのうが外果皮(フラベト)および内果皮(アルベド)からなる果皮で包まれている。一般的にじょうのう膜を内皮といい、果皮を外皮という(
図2)。柑橘類の果実は一般的にその外皮および内皮を人の手で剥くことは困難を伴う場合が多い。時間をかけて外皮を剥いたとしてもアルベド層が厚く残っている場合が多く、可食部分を得ることは容易ではない」(段落「0002」参照。)、「本発明の方法は、柑橘類果実の剥皮が容易に行うことができるように、柑橘類果実の外皮の剥皮が容易に行うことができ、かつ内皮と果肉の分離が果肉が実割れすることなく容易に行うことができるように、柑橘類果実に物理的処理および酵素処理を行い、柑橘類果実を加工する方法である。本発明において、このような剥皮が容易に行うことができるようにする処理を剥皮易化という。柑橘類果実の剥皮とは、柑橘類果実の外皮の剥皮および内皮の剥皮をいい、外皮の剥皮とは果実から外果皮と内果皮からなる外皮を剥がすことをいい、内皮の剥皮とは果肉が実割れすることなく内皮と果肉を分離することをいう。すなわち、本発明の方法は、外皮の剥皮が容易に行うことができ、かつ内皮と果肉の分離が果肉が実割れすることなく容易に行うことができるように、柑橘類果実に連続的に物理的処理および酵素処理を行い、柑橘類果実を加工し、剥皮易化した柑橘類果実を製造する方法である。さらに、本発明は柑橘類果実の剥皮方法である」(段落「0010」参照。)と記載されている。
【0007】
上記特許文献1は、果肉(果汁)を利用するために、果皮を剥皮しており、上記特許文献2は、果皮を利用するために、果皮と果肉を分離しており、上記特許文献3は、分離した果皮と果肉(果汁)を混和させており、上記特許文献4は、果肉を利用するために果皮を剥皮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平05−020061号公報
【特許文献2】特公平08−011043号公報
【特許文献3】特開昭58−187157号公報
【特許文献4】特許第5374547号公報
【特許文献5】特開2016−052326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、近年では、殆どの柑橘類の果実は、特許文献5に記載されているように、果皮(外皮)は、表皮と油胞を含む外果皮(フラベド)と、白い海綿状組織の中果皮(アルベド)から構成されていることが知られている(段落「0013」、
図1、
図2参照。)。また、外果皮の油胞、果肉の果汁には、テルピン等の香りの成分が含まれており、中果皮には、リモノイド等の苦み成分が含まれていることが知られている。そして、本出願人は、柑橘類果実のなかで、特に、平兵衛酢(宮崎県日向市周辺地域で栽培されている柑橘類)を食品、特に和菓子に添加して使用したときに、果汁よりも外果皮の方が、香り、風味の点で優れた効果を奏することを見いだし、外果皮のみを食品に利用するために、平兵衛酢果実から、外皮と果肉を分離し、この外皮からさらに中果皮を効率よく確実に剥皮する方法を鋭意検討したのである。なお、本発明においては、特に断りがない場合は、「外果皮」には「油胞」も含まれるものとする。
【0010】
また、平兵衛酢は収穫期間が短い(ハウス物が6月〜7月、露地物が8月〜10月)ので、通年利用するためには、収穫した平兵衛酢を保存しておく必要がある。平兵衛酢の保存方法としては、他の柑橘類の保存方法と同様に、果実を丸ごと冷凍保存する方法が知られてはいるが、この方法では、解凍したときに外果皮のみを取り出すことが不可能であり、平兵衛酢の果実から、果肉と中果皮を除去して残った外果皮だけを保存する技術は、未だ確立されていない。
【0011】
上記特許文献1、2には、柑橘類果実の「果皮」と「果肉」を分離する(「果実」から「果皮」を剥皮する)という技術が開示されているものの、「果皮」が、「外果皮」と「中果皮」から構成される点については何ら開示も示唆もされておらず、記載された事項から、特許文献1、2に記載された技術は、柑橘類果実から外皮を剥皮する、つまり、柑橘類果実から、外果皮と中果皮とを同時に剥皮する技術が開示されているものと認められる。なお、特許文献1は、果肉を利用することを目的としているが、果皮を利用することは目的としていない。また、特許文献2には、果皮中に苦み成分が余り存在しない「カボス」に限定した技術である。
【0012】
特許文献3には、苦み成分のある「白皮」も利用することが記載されているものの、この「白皮」が含まれた果皮を果肉と分離する、つまり、果実から、外果皮と中果皮とを同時に剥皮する技術が開示されているものと認められる。
【0013】
上記特許文献4には、上述したように「じょうのうが外果皮(フラベト)および内果皮(アルベド)からなる果皮で包まれている。一般的にじょうのう膜を内皮といい、果皮を外皮という」(段落「0002」参照。)とあり、「外皮」が「外果皮」と「内果皮」とで構成されていることは開示されている(なお、特許文献4に記載の「内果皮」は、本願発明の「中果皮」に相当するものと思われる。)が、「本発明において、このような剥皮が容易に行うことができるようにする処理を剥皮易化という。柑橘類果実の剥皮とは、柑橘類果実の外皮の剥皮および内皮の剥皮をいい、外皮の剥皮とは果実から外果皮と内果皮からなる外皮を剥がすことをいい」(段落「0019」参照。)とあるので、上記特許文献1〜3と同様に、果実から、外皮を剥皮する、つまり、外果皮と中果皮とを同時に剥皮するものであると認められる。
【0014】
そこで、本発明においては、柑橘類の平兵衛酢果実の外皮(果皮)から中果皮を効率よく確実に剥皮し、外果皮だけを取り出すことができる食品用の加工平兵衛酢外果皮の製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明においては、上記の取り出した外果皮を冷凍保存して、通年利用することができる食品用加工平兵衛酢外果皮の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、食品用の加工平兵衛酢外果皮を製造する方法であって、平兵衛酢果実から、外皮と果肉とを分離する第1の工程と、該第1の工程で分離した外皮だけを、予め沸騰させた状態の水に投入して15分間煮沸し、その後、火を止めて30分間乃至50分間、前記外皮を蒸らす第2の工程と、該第2の工程の後、前記蒸らした外皮から中果皮の剥皮を行い、外果皮だけを取り出す第3の工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の食品用の加工平兵衛酢外果皮を製造する方法であって、前記第3工程の後、前記外果皮を異なる糖度の糖蜜に段階的に漬け込む第4の工程を備え、該第4の工程は、前記外果皮を、糖度50度の糖蜜に1日間漬け込む第1の糖度設定段階と、その後、糖度65度の糖蜜に1日間漬け込む第2の糖度設定段階とを有し、さらに、前記第4の工程の後、前記糖蜜を切った外果皮を冷凍する第5の工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の食品用の加工平兵衛酢外果皮を製造する方法であって、前記第3の工程の後、前記取り出した外果皮を冷凍する第6の工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、柑橘類の平兵衛酢果実から外皮と果肉とを分離し、さらにこの外皮から中果皮を効率よく確実に剥皮して、平兵衛酢の香り・風味がもっとも優れた効果を奏する外果皮だけを取り出すことができるという顕著な効果を奏することができる。
【0020】
また、本発明によれば、上記の取り出した外果皮を、糖度の異なる糖蜜に段階的に漬け込むことで、外果皮の軟らかさと糖度を、食品、特に、菓子類への添加に最適な状態にすることができるという顕著な効果を奏することができる。
【0021】
また、本発明によれば、上記の取り出した外果皮を冷凍保存することで、平兵衛酢の香り・風味がもっとも優れた効果を奏する外果皮だけを食品用として通年利用することができるという顕著な効果を奏することができる。
【0022】
また、本発明によれば、上記外果皮を冷凍することで機械破砕に最適な硬さを形成することができるので、量産性が大幅に向上し、また、上記機械破砕した外果皮を食品に添加する際に、食品に非常になじみやすいという顕著な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の食品用加工平兵衛酢外果皮の製造工程を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の食品用加工平兵衛酢外果皮の製造工程において、4等分した平兵衛酢果実から、外皮と果肉を分離した後の外皮であって、外果皮と中果皮が未分離状態のものを示す図である。
【
図3】
図2の外皮から、中果皮を剥皮し、外果皮のみを取り出した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、好適な実施の形態を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、下記の実施の形態は本発明を具現化した例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
本発明の実施形態における食品用加工平兵衛酢外果皮の製造方法について、
図1に示すフローチャートを参照しながら説明する。本実施形態では、特に、和菓子に添加するための食品用加工平兵衛酢外果皮の製造方法について説明する。
【0027】
[第1の工程;ステップS1]
本発明の実施形態における食品用加工平兵衛酢外果皮の製造方法において、まず、第1の工程(
図1のステップS1)では、収穫した平兵衛酢果実から外皮と果肉を分離する。収穫する平兵衛酢は、香りの豊富な緑色状態の果実を用いる。平兵衛酢果実は縦方向に略4等分に切断して分割され、略4等分された果実各々から果肉を取り除く。平兵衛酢果実から外皮と果肉とを分離する方法・手段は、周知の方法・手段であってよく、手作業でも機械作業でもかまわない。分離された外皮には、外果皮と中果皮が残った状態である。分離された果肉は、廃棄してもかまわないし、果肉、あるいは、果肉に含まれる果汁を、他の用途に利用してもよい。
【0028】
[第2の工程;ステップS2]
次に第2の工程(ステップS2)では、第1の工程で分離された外皮から、中果皮を剥皮して、外果皮だけを取り出す。平兵衛酢の外果皮(フラベド)には、果肉(果汁)よりも風味の異なる多くの香り成分が含まれるものと考えられ、中果皮(アルベド)には、苦み成分があるので、外皮から効率よく確実に中果皮を剥皮することが必要である。
【0029】
本工程では、予め、釜に大量の水を入れ、釜に火をいれて水を100℃に沸騰させておく。そして、この沸騰水の入った釜に、外果皮と中果皮とが未分離状態の外皮を投入し、15分間煮沸する。この15分間の時間設定は、周知のタイマーを用いればよい。15分間の煮沸が終了したら、釜の火を止めて、蓋をして、平兵衛酢外皮が釜に投入されている状態で、30分間〜50分間蒸らす。この蒸らし時間は、収穫した平兵衛酢果実の状態(大きさ、外皮の硬さ等)を考慮して、外皮から中果皮を効率的に確実に剥皮するためには、30分間〜50分間がよい。
【0030】
[第3の工程;ステップS3]
第3の工程では、第2の工程で外皮を蒸らした後、外皮を釜から取り出して冷ましてから、中果皮を剥皮して、外果皮だけを取り出す。第2の工程の処理により、中果皮は、外皮から効率よく確実に剥皮することができるので、大掛かりな機械剥ぎをしなくても、手作業でも簡単に外果皮だけを取り出すこと可能である。
【0031】
表1に蒸らし時間と、中果皮の剥皮量の関係を示す。釜に投入した平兵衛酢の総重量は、3kgである。蒸らし時間は、15分間の煮沸が終了し釜の火を止めてから、外皮を釜から引き揚げるまでの時間である。表1に示すように、外果皮から中果皮が確実に剥皮されるためには、蒸らし時間は30分〜50分が適切である。蒸らし時間が50分を超えると、外皮全体が軟らかくなりすぎて、中果皮を外皮からきれいに剥皮できなくなってしまう。
【0033】
図2は、4等分した平兵衛酢果実から、外皮と果肉を分離した後の外皮であって、外果皮と中果皮が未分離状態のものを示す図であり、第2の工程で外皮を蒸らした後、外皮を釜から取り出して冷ました状態を示す。
図3は、
図2の外皮から中果皮を剥皮し、外果皮のみを取り出した状態を示す図であり、第3の工程終了後の状態を示す。
図2では、外皮1は、外果皮1aと中果皮1bと油胞1cから構成され、外皮2は、外果皮2aと中果皮2bと油胞2cから構成されている。外果皮1,2に、それぞれ白い海綿状組織の中果皮1b,2bが付いた状態であるので、油胞1c,2cは、ほとんど視認できない。しかし、
図3では、中果皮1b,2bが確実に剥皮されているので、油胞1c,2cが、はっきりと視認できる。このように、第2の工程の処理を行うことで、第3の工程では、外皮から中果皮を効率よく確実に剥皮して、外果皮のみを取り出すことができる。
【0034】
[第4の工程;ステップS4]
第3の工程終了後、第4の工程では、外果皮に糖分を浸透させる。本実施形態では、和菓子用として最適な加工平兵衛酢外果皮を製造するために、糖分を浸透させた外果皮の最終的な糖度が65度になるように設定しているが、必要に応じて糖度は適宜変更されてよい。本工程は、外果皮の糖度を50度にする第1の糖度設定段階と、外果皮の糖度を65度にする第2の糖度設定段階を有する。第1の糖度設定段階と第2の糖度設定段階とは、連続して行われる。
【0035】
第1の糖度設定段階では、まず、第3の工程で取り出された外果皮を、50度よりやや高めの糖度の糖蜜に漬け込む。糖度の低い外果皮を漬け込むことで糖蜜の糖度が50度よりも低くなるので、糖蜜の糖度が50度に戻るまで煮詰める。糖度が50度に戻ったら火を止めて1日間寝かせて、糖分を十分に外果皮に浸透させる。この1日間は、目安として24時間程度である。第1の糖度設定段階終了後、外果皮の糖度は50度に設定されている。
【0036】
次に、第2の糖度設定段階では、まず、第1の糖度設定段階で糖度50度に設定された外果皮を、65度よりやや高めの糖蜜に漬け込む。糖度50度の外果皮を漬け込むことで、糖蜜の糖度が65度よりも低くなるので、糖蜜の糖度が65度に戻るまで煮詰める。そして、糖度が65度に戻ったら火を止めて1日間寝かせて、糖分を十分に外果皮に浸透させる。この1日間は、目安として24時間程度である。第2の糖度設定段階終了後、外果皮の糖度は65度に設定されている。
このように、第3の工程で取り出した外果皮を、2段階に分けて異なる糖度の糖蜜に漬け込むことで和菓子に添加するために適切な糖度と軟らかさを有する加工平兵衛酢外果皮を製造することができる。
【0037】
糖度は、糖度計で計測されて表示されたBrix値である。ここで、第1の糖度設定段階で糖度65度ではなく、糖度50度に設定し、次の第2の糖度設定段階で糖度65度に設定するのは、第1の糖度設定段階から糖度65度に設定すると、外果皮が所望以上の硬さになり、和菓子用として適さなくなってしまうからである。
【0038】
[第5工程;ステップS3]
上述したように、平兵衛酢は、果実の収穫期間が短いので、外果皮を通年利用する場合には、収穫した果実を保存しておく必要がある。第5の工程では、第4の工程終了後、外果皮をザルに上げて糖蜜を切り、袋に入れて冷凍庫で冷凍保存する。このように、外果皮だけを冷凍保存して、通年、食品用として利用することができる。そして、和菓子に添加する必要があるときに、冷凍庫から外果皮を取り出し、細断、破砕等により所望の大きさに形成すればよい。本実施形態では、外果皮を、公知のミンチ機を用いて破砕した。
ここで、量産性向上のためには、冷凍した外果皮を細断、破砕するときは、手作業よりも機械作業の方がよい。また、本実施形態では、外果皮を冷凍して適度に硬くすることで、ミンチ機での破砕時に加工性が向上し、量産性が大幅に向上した。また、破砕した外果皮を和菓子に添加するときは解凍して用いるので、外果皮の硬さは冷凍する前の状態に戻り、和菓子によくなじませることができた。
【0039】
以上のように、本発明では、平兵衛酢果実から果肉と中果皮を分離して外果皮だけを取り出し、この外果皮を加工して和菓子用の加工平兵衛酢外果皮を製造することができた。また、外果皮を冷凍保存することで、平兵衛酢外果皮の通年の利用が可能となり、機械作業の加工性が向上して、量産性が大幅に向上し、かつ、機械破砕することで、和菓子によくなじませることができた。また、香り・風味だけでなく、色、酸味も、平兵衛酢特有のものを残すことができた。
なお、第3の工程終了後の外果皮を、第4工程を経ずに、つまり、糖分を加えずにそのまま冷凍保存してもよい(「第6の工程;ステップS6」)。そうすることで、糖分を浸透させなくてよい菓子類以外の食品(例えば、山葵、味噌、ドレッシング、醤油、ポン酢等。)用として、多種多様の応用が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1,2 外皮
1a,2a 外果皮
1b,2b 中果皮
1c,2c 油胞