(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-79736(P2018-79736A)
(43)【公開日】2018年5月24日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/04 20060101AFI20180420BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20180420BHJP
【FI】
B60C15/04 C
D07B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-221739(P2016-221739)
(22)【出願日】2016年11月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】大田 和貴
【テーマコード(参考)】
3B153
【Fターム(参考)】
3B153AA50
3B153CC52
3B153FF16
(57)【要約】
【課題】ビードワイヤージャンピングが生じにくく、空気入りタイヤにねじり変形が生じてもビードコアの周りでゴムのセパレーションが生じにくい空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ビードワイヤ11が複数回巻かれて環状になされて形成されたビードコア1であって、ビードワイヤ11の巻き始め端12がビードコア中心Cよりタイヤ径方向内側かつタイヤ幅方向内側にあり、ビードワイヤ11の巻き終わり端13がビードコア中心Cよりタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向外側にあるビードコア1を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードワイヤが複数回巻かれて環状になされて形成されたビードコアであって、前記ビードワイヤの巻き始め端がビードコア中心よりタイヤ径方向内側かつタイヤ幅方向内側にあり、前記ビードワイヤの巻き終わり端がビードコア中心よりタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向外側にあるビードコアを備える空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ビードワイヤの巻き始め端がビードコアのタイヤ径方向内側面におけるタイヤ幅方向の一番内側の位置にあり、前記ビードワイヤの巻き終わり端がビードコアのタイヤ径方向外側面におけるタイヤ幅方向の一番外側の位置にある、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのビードコアには、主に、シングルストランドビードと呼ばれるものと、グロメットビードと呼ばれるものがある。このうちシングルストランドビードは、1本のビードワイヤが円環状に複数周巻かれて製造されたものである(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
図4示すように、従来のシングルストランドビードとしてのビードコア101では、ビードワイヤの巻き終わり端113がタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向内側の角部に位置するのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−88258号公報
【特許文献2】国際公開(再公表)WO2012/176447号公報
【特許文献3】特開平8−108714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、空気入りタイヤの加硫成型中に、カーカスプライ103のビードコア101よりタイヤ幅方向内側の部分にタイヤ径方向外側に向かう力が加わり(この力が加わる方向を
図4に矢印で示す)、カーカスプライ103がタイヤ径方向外側へずれるいわゆるプライずれが生じることがある。上記のようにビードワイヤの巻き終わり端113がタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向内側の角部に位置する場合は、プライずれが生じるとビードワイヤの巻き終わり端113がカーカスプライ103に引っ張られてタイヤ径方向外側へ浮き上がるいわゆるビードワイヤージャンピングが生じることがあった。
【0006】
また、空気入りタイヤにねじり変形が生じた場合に、ビードワイヤの巻き始め端や巻き終わり端113を起点としてビードコア101の周りでゴムのセパレーションが生じることがあった。
【0007】
そこで本発明は、ビードワイヤージャンピングが生じにくく、また、空気入りタイヤにねじり変形が生じてもビードコアの周りでゴムのセパレーションが生じにくい空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態の空気入りタイヤは、ビードワイヤが複数回巻かれて環状になされて形成されたビードコアであって、前記ビードワイヤの巻き始め端がビードコア中心よりタイヤ径方向内側かつタイヤ幅方向内側にあり、前記ビードワイヤの巻き終わり端がビードコア中心よりタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向外側にあるビードコアを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態によれば、ビードワイヤの巻き終わり端がビードコア中心よりタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向外側にあるためにビードワイヤージャンピングが生じにくくい。また、ビードワイヤの巻き始め端がビードコア中心よりタイヤ径方向内側かつタイヤ幅方向内側にあり、ビードワイヤの巻き終わり端がビードコア中心よりタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向外側にあるため、空気入りタイヤにねじり変形が生じてもビードコアの周りでゴムのセパレーションが生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の空気入りタイヤのビード部10近傍のタイヤ幅方向断面図。
【
図2】本実施形態のビードコア1のタイヤ幅方向断面図。
【
図3】(a)比較例1の空気入りタイヤのビードコアのタイヤ幅方向断面図。(b)比較例2の空気入りタイヤのビードコアのタイヤ幅方向断面図。(c)比較例3の空気入りタイヤのビードコアのタイヤ幅方向断面図。(d)実施例1の空気入りタイヤのビードコアのタイヤ幅方向断面図。(e)実施例2の空気入りタイヤのビードコアのタイヤ幅方向断面図。
【
図4】従来の一般的な空気入りタイヤのビードコア101近傍のタイヤ幅方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の空気入りタイヤについて図面に基づき説明する。なお本実施形態は例示であって、発明の範囲はこれに限定されない。本実施形態に対して発明の要旨を逸脱しない範囲で様々な変更を行うことができる。
【0012】
図1に示すように、実施形態の空気入りタイヤは、ビードコア1及びビードフィラー2を有するビード部10を備える。2つのビード部10の間ではカーカスプライ3がタイヤの骨格を形成している。カーカスプライ3はビード部10を包むようにタイヤ幅方向内側から外側へ折り返されてタイヤ径方向外側へ巻き上げられている。カーカスプライ3のタイヤの骨格を形成している部分のタイヤ径方向外側には、ベルト層やトレッドゴムが配置されている。またカーカスプライ3のタイヤ幅方向外側にはサイドウォールゴムが配置されている。これらの他、リムストリップ、補強層その他の必要に応じた様々な部材が配置されている。
【0013】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のビードコア1の断面形状は六角形である。ビードコア1のタイヤ径方向内側面14及びタイヤ径方向外側面15はタイヤ幅方向に対して所定角度θで傾斜している。この所定角度θは例えば15°程度である。この傾斜方向(
図2における矢印X方向)をビードコア1の幅方向と定義し、ビードコア1の前記幅方向の長さをビードコア1の幅と定義する。ただし、タイヤ径方向内側面14及びタイヤ径方向外側面15はタイヤ幅方向に対して傾斜していなくても良く、その場合は、タイヤ幅方向をビードコア1の幅方向と定義し、ビードコア1のタイヤ幅方向の長さをビードコア1の幅と定義する。
【0014】
ビードコア1は、1本のビードワイヤ11が環状に複数周巻かれることにより形成されている。ビードワイヤ11は鋼線がゴムで被覆されたものである。
図2に示すように、本実施形態のビードコア1では、ビードワイヤ11の巻き始め端12がビードコア中心Cよりタイヤ径方向内側かつタイヤ幅方向内側にあり、ビードワイヤ11の巻き終わり端13がビードコア中心Cよりタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向外側にある。ここで、ビードコア中心Cとは、ビードコア1の最大幅位置におけるビードコア1の幅方向両端部を結ぶ線の中心のことである。なおタイヤ径方向内側面14及びタイヤ径方向外側面15はビードコア1の最大幅位置とならない。
【0015】
好ましい形態としては、
図2に示すように、ビードワイヤ11の巻き始め端12がビードコア1のタイヤ径方向内側面14におけるタイヤ幅方向の一番内側の位置にあり、ビードワイヤ11の巻き終わり端13がビードコア1のタイヤ径方向外側面15におけるタイヤ幅方向の一番外側の位置にある。
【0016】
図2のビードコア1の断面図上では、ビードワイヤ11がビードコア1の幅方向に列をなして並び、このような列がビードコア1の径方向に何層にも重ねられている。ビードワイヤ11がこのように並んだビードコア1は例えば次のように製造される。まず、ビードコア1のタイヤ径方向内側のビードワイヤ11の列を形成するように、ビードワイヤ11が螺旋巻きされる。このときの巻き始めの位置はタイヤ幅方向内側の位置である。その後続けて、内径側から2列目のビードワイヤ11の列を形成するように、先に螺旋巻きされたビードワイヤ11の上に、ビードワイヤ11が螺旋巻きされる。これが繰り返されて、
図2に示すような、ビードワイヤ11のタイヤ幅方向の列がタイヤ径方向に何層にも重ねられたビードコア1が完成する。ここで、巻き終わりの位置はタイヤ幅方向外側の位置である。
【0017】
ここで、
図2に示すように、ビードワイヤ11の巻き終わり端13におけるビードワイヤ11の中心からビードコア中心Cまでのビードコア1の幅方向の距離をle、ビードワイヤ11の巻き始め端12におけるビードワイヤ11の中心からビードコア中心Cまでのビードコア1の幅方向の距離をls、ビードコア1の最大幅をLとする。そして、ビードワイヤ11の巻き始め端12がビードコア中心Cよりタイヤ径方向内側かつタイヤ幅方向内側にあり、ビードワイヤ11の巻き終わり端13がビードコア中心Cよりタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向外側にあることを前提として、le/L≦0.30の関係が成立することが好ましい。また、ビードワイヤ11の巻き始め端12がビードコア中心Cよりタイヤ径方向内側かつタイヤ幅方向内側にあり、ビードワイヤ11の巻き終わり端13がビードコア中心Cよりタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向外側にあることを前提として、ls/L≦0.35の関係が成立することが好ましい。
【0018】
なお図ではビードワイヤ11の巻き始め端12と巻き終わり端13とがタイヤ幅方向の同一断面上に描かれているが、巻き始め端12と巻き終わり端13とがタイヤ幅方向の同一断面上に無い場合もあり得る。
【0019】
本実施形態では、ビードワイヤ11の巻き終わり端13がビードコア中心Cよりタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向外側にあるため、カーカスプライ3のプライずれが生じてもビードワイヤ11の巻き終わり端13がその影響を受けにくい。そのためビードワイヤージャンピングが生じにくい。また本実施形態では、ビードワイヤ11の巻き始め端12がビードコア中心Cよりタイヤ径方向内側かつタイヤ幅方向内側にあり、かつ、ビードワイヤ11の巻き終わり端13がビードコア中心Cよりタイヤ径方向外側かつタイヤ幅方向外側にあることにより、空気入りタイヤにねじり変形が生じてもビードコア1の周りでゴムのセパレーションが生じにくくなっている。
【0020】
特に、ビードワイヤ11の巻き始め端12がビードコア1のタイヤ径方向内側面14におけるタイヤ幅方向の一番内側の位置にあり、ビードワイヤ11の巻き終わり端13がビードコア1のタイヤ径方向外側面15におけるタイヤ幅方向の一番外側の位置にある場合、上記の各効果が大きくなる。
【0021】
ここで、上記のle/L≦0.30の関係が成立する場合、空気入りタイヤにねじり変形が生じたときのビードコア1の周りでのゴムのセパレーションが特に生じにくい。また、上記のls/L≦0.35の関係が成立する場合、ビードワイヤ11の巻き始め端12がカーカスプライ3のプライずれの影響を受けにくく、ビードワイヤージャンピングが特に生じにくい。
【0022】
本実施形態の効果を確認するため、表1及び
図3に示す実施例及び比較例の空気入りタイヤでの、ビードワイヤージャンピングの発生率と、ビードコアの周りでのゴムのセパレーションの有無を調べた。
【0023】
実施例及び比較例の空気入りタイヤの特徴を表1及び
図3に示す。比較例1〜3の空気入りタイヤのビードコアの断面を
図3(a)〜(c)に示し、実施例1〜2の空気入りタイヤのビードコアの断面を
図3(d)〜(e)に示す。
図3において、符号12はビードワイヤ11の巻き始め端を、符号13はビードワイヤ11の巻き終わり端を、それぞれ示している。
図3から明らかなように、実施例及び比較例の各空気入りタイヤでは、ビードワイヤ11の巻き始め端12及びビードワイヤ11の巻き終わり端13の位置が異なる。また、表1におけるL、le、lsは、
図3においてL、le、lsで示す箇所の長さである。
【0024】
ビードワイヤージャンピングの発生率は次のようにして調べた。まず100本の空気入りタイヤを製造した。空気入りタイヤのサイズは11R2.5とした。次に、製造した空気入りタイヤにX線を当ててビードワイヤージャンピングの有無を調べた。そして、ビードワイヤージャンピングが発生している空気入りタイヤの本数を数え、その本数をビードワイヤージャンピングの発生率とした。
【0025】
ビードコアの周りでのゴムのセパレーションの有無は次のようにして調べた。サイズが11R2.5である空気入りタイヤを、JATMA標準リムにリム組みし、JATMA標準空気圧とした。そして空気入りタイヤに前記空気圧に対応した最大荷重を負荷した。空気入りタイヤをドラム試験機上で時速15kmで転動させるとともに、−5度から+5度の角度で揺動させて空気入りタイヤに対しねじり変形させる力を加えた。これを336時間行った後、ビードコアの周りでのゴムのセパレーションの有無を目視で確認した。
【0026】
結果は表1の通りで、実施例の空気入りタイヤは、比較例の空気入りタイヤよりも、ビードワイヤージャンピングの発生が低かった。また、比較例の空気入りタイヤではビードコアの周りでのゴムのセパレーションが生じたが、実施例の空気入りタイヤではビードコアの周りでのゴムのセパレーションが生じなかった。
【符号の説明】
【0028】
C…ビードコア中心、1…ビードコア、2…ビードフィラー、3…カーカスプライ、10…ビード部、11…ビードワイヤ、12…巻き始め端、13…巻き終わり端、14…タイヤ径方向内側面、15…タイヤ径方向外側面、101…ビードコア、103…カーカスプライ、113…巻き終わり端