特開2018-79815(P2018-79815A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-79815(P2018-79815A)
(43)【公開日】2018年5月24日
(54)【発明の名称】鉄道車両の制振制御システム
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/24 20060101AFI20180420BHJP
   G01M 17/08 20060101ALI20180420BHJP
【FI】
   B61F5/24 F
   G01M17/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-223919(P2016-223919)
(22)【出願日】2016年11月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新村 浩
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信之
(57)【要約】
【課題】重力加速度や遠心加速度の影響を抑える事のできる鉄道車両の制振制御システムの提供。
【解決手段】鉄道車両100の車両構体101の横方向の速度を検出する速度検出手段と、鉄道車両100の車両構体101と台車105の間に設置され、車両構体101と台車105の間の上下方向の減衰力を付与する減衰力付与手段であるサスペンション制御装置104と、サスペンション制御装置104を制御して減衰力制御を行う制御装置118とを備えた鉄道車両100の制振制御システムにおいて、速度検出手段としてレーザードップラーセンサ103を備え、レーザードップラーセンサ103より検出されるデータを、そのまま制御装置118に渡して減衰力制御を行う。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車両構体の横方向の速度を検出する速度検出手段と、前記鉄道車両の車両構体と台車の間に設置され、前記車両構体と前記台車の間の左右方向の減衰力を付与する減衰力付与手段と、前記減衰力付与手段を制御して減衰力制御を行う制御装置とを備えた鉄道車両の制振制御システムにおいて、
前記速度検出手段として非接触速度検出器を備え、
前記非接触速度検出器より検出されるデータを、そのまま前記制御装置に渡して減衰力制御を行うこと、
を特徴とした鉄道車両の制振制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両の制振制御システムにおいて、
前記速度検出手段として加速度センサを備え、
前記非接触速度検出器からの信号が弱くなったことを検出した場合に、前記加速度センサより検出されるデータを、前記制御装置に渡して減衰力制御を行うこと、
を特徴とした鉄道車両の制振制御システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の制振制御システムにおいて、
前記非接触速度検出器に検出面清掃手段を備え、
前記非接触速度検出器の検出面を、前記非接触速度検出器からの信号を検出し、前記検出面清掃手段によって清掃を行うこと、
を特徴とした鉄道車両の制振制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両のアクティブまたはセミアクティブ制振制御システムに関し、具体的には振動計測に非接触のセンサを用いることで制振性能を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の乗り心地改善に関しては、様々な技術が開発されている。特に鉄道車両に発生する振動を制御することで、揺れを積極的に抑えるアクティブまたはセミアクティブ制振制御に関しては、様々な方法が提案されている。鉄道車両の走行時には、レールの設置面の傾斜、軌道狂い、横風、旋回走行時に車両に加わる遠心加速度などの影響によって、車両構体に鉄道車両の進行方向に対して横方向の振動が作用する。この横方向の振動を抑えるために、鉄道車両の車両構体と台車の間に配置される衝撃吸収を目的としたダンパーの制御を行う。
【0003】
特許文献1には、鉄道車両用振動制御装置に関する技術が開示されている。鉄道車両には、車体に作用する横方向の加速度を検出する加速度検出手段と、車体と台車との間に介装され車両の進行方向に対し横方向の車体の振動を抑制するサスペンション装置と、サスペンション装置を制御する制御装置を備え、カント路走行時の超過遠心加速度に伴う積分精度の低下を招くことが無く、その分、振動制御の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−315965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車体に取り付けた振動加速度センサをもとに制振制御を行う制振制御システムを用いる場合、曲線通過時の遠心加速度などの定常成分の影響により、制振性能が悪化する問題がある。これは、振動加速度センサを用い、フィルタを用いてノイズとして定常成分を除去するという手法を採る以上は避けられない問題である。また、フィルタを用いる以上は、フィルタ位相遅れ等の問題も生じる。この様な問題を解決する為に、特許文献1に記載の制振制御システムは、鉄道車両の車体に作用する横方向の加速度に含まれる遠心加速度成分を除去するハイパスフィルタと、信号を位相遅れ補償する位相補償器とを備えているが、遠心加速度の影響を完全に除去することは困難である。
【0006】
そこで、本発明はこの様な課題を解決する為に、遠心加速度の影響を抑える事のできる鉄道車両の制振制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による鉄道車両の制振制御システムは、以下のような特徴を有する。
【0008】
(1)鉄道車両の車両構体の横方向の速度を検出する速度検出手段と、前記鉄道車両の車両構体と台車の間に設置され、前記車両構体と前記台車の間の左右方向の減衰力を付与する減衰力付与手段と、前記減衰力付与手段を制御して減衰力制御を行う制御装置とを備えた鉄道車両の制振制御システムにおいて、前記速度検出手段として非接触速度検出器を備え、前記非接触速度検出器より検出されるデータを、そのまま前記制御装置に渡して減衰力制御を行うこと、を特徴とする。
【0009】
上記(1)に記載の態様により、速度検出手段に例えばレーザードップラーセンサ等の非接触検出器を備える事で、遠心加速度などの影響を抑えた制振制御が実現可能となる。これは、レーザードップラーセンサ等の非接触検出器により車両構体の進行方向に対し横方向の速度を直接測定しているためで、加速度センサのように重力加速度や遠心加速度の影響をデータとして拾ってしまう事が無い。このため、速度検出手段からのデータを、フィルタを介さずに制振制御に用いる事が可能となり、フィルタ位相遅れなどの問題を生じない。この結果、制振制御の応答性を向上させ、結果的に鉄道車両の乗り心地の向上に寄与することができる。
【0010】
(2)(1)に記載の鉄道車両の制振制御システムにおいて、前記速度検出手段として加速度センサを備え、前記非接触速度検出器からの信号が弱くなったことを検出した場合に、前記加速度センサより検出されるデータを、前記制御装置に渡して減衰力制御を行うこと、が好ましい。
【0011】
上記(2)に記載の態様により、加速度センサを用いての減衰力制御を行う事ができるので、非接触検出器に何らかの問題が生じて正しく速度が検出できない状態になったと判断された場合も、制振制御を行うことが可能である。
【0012】
(3)(1)又は(2)に記載の制振制御システムにおいて、前記非接触速度検出器に検出面清掃手段を備え、前記非接触速度検出器の検出面を、前記非接触速度検出器からの信号を検出し、前記検出面清掃手段によって清掃を行うこと、が好ましい。
【0013】
上記(3)に記載の態様により、非接触検出器の検出面の汚れに起因する検出精度低下を抑えることができるので、鉄道車両の乗り心地向上に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の、制振制御システムについての模式図である。
図2】本実施形態の、制振制御を行う流れを表すブロック図である。
図3】本実施形態の、データ処理に関するフローチャートである。
図4】本実施形態の、加速度センサによる加速度データを示すグラフである。
図5】本実施形態の、加速度データをフィルタ処理した加速度データを示すグラフである。
図6】本実施形態の、レーザードップラーセンサを用いた加速度データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の実施形態について図面を用いて説明を行う。図1に、本実施形態の制振制御システムについての模式図を示す。本実施形態の鉄道車両100は、車両構体101と台車105を有している。車両構体101は台車105に保持された空気ばね107によって支持される。台車105には車軸106が軸バネ108を介して接続されている。また、鉄道構体101と台車105との間にはサスペンション制御装置104が備えられている。このサスペンション制御装置104は、油圧や電力などによって推力を発生する図示しないアクチュエータを備えている。
【0016】
車両構体101には、加速度センサ110及びレーザードップラーセンサ103を備えている。制御部120は、加速度センサ110又はレーザードップラーセンサ103から得られる車両構体101の進行方向に対し横方向の速度の信号を取り込んで、サスペンション制御装置104を制御する制御装置118を備えている。この、レーザードップラーセンサ103は、図示しない鉄道軌道面へレーザーを照射してその反射波を計測することで鉄道車両100の速度や移動距離を測定するタイプを採用しており、非接触にて鉄道車両100の速度を得ることができる。この速度を微分することで加速度が得られる。なお、レーザードップラーセンサ103の検出面清掃手段として、ワイパーを備える事を妨げない。
【0017】
次に、減衰力制御の流れについて簡単に説明する。図2に、制振制御を行う流れを表すブロック図を示す。制御部120は、加速度センサ110が出力するアナログ電圧よりなる加速度の信号から定常成分を取り除くローパスフィルタ21と、ローパスフィルタ21で処理したアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器22と、デジタル信号に変換された加速度の信号に含まれる低周波成分を除去するハイパスフィルタ23と、ハイパスフィルタ23で処理した加速度の信号を位相遅れ補償する位相補償器24と、位相補償器24よりデータを受け取り、積分処理を行う積分器25と、減衰力制御を行うための制御指令を出力する制御演算部26と、を備えている。なお、速度信号1がレーザードップラーセンサ103からの信号であり、加速度信号2が速度センサ110からの信号であり、どちらかのデータを選択的に制御演算部26で処理する。
【0018】
図3に、データ処理に関するフローチャートを示す。鉄道車両100の減衰力制御を行うにあたっては、フローチャートに示すように、まず、S10では、速度信号1の出力を検出する。S11では、検知エラーが出されるかどうかを確認する。検知エラーは、速度信号1が正常かどうかを確認した上で、例えば信号が弱すぎるなど速度検出に適さないと判断される場合にはエラーが出される。ここで、正常であればS12に移行し、検知エラーと判断されればS13に移行する。S12では、レーザードップラーセンサ103からのデータを取得して制御部120で信号処理を行う。その後、S14に移行する。
【0019】
S13では、加速度センサ110からのデータを取得して制御部120で信号処理を行う。この場合は、図2に示すようなローパスフィルタ21での処理やハイパスフィルタ23での処理を行っている。その後、S14に移行する。S14では、制御部120より制御信号を出力する。制御信号はサスペンション制御装置104を制御するために出力される。そして、S15に移行する。制御信号によってS15では、制振制御を行う。そして処理を終了する。制振制御は、サスペンション制御装置104により行われ、適宜、アクチュエータを動作させてスカイフック理論などに基づいた制御を行う。
【0020】
本実施形態の鉄道車両100の制振制御システムは、上記構成であるため以下に説明するような作用及び効果を奏する。
【0021】
まず、遠心加速度の影響を受けない車両構体101の進行方向に対して横方向の速度検出を行うことができるので、フィルタ処理などによる位相差遅れが生じず、鉄道車両100の乗り心地向上が可能となる。これは、本実施形態の鉄道車両100の制振制御システムが、鉄道車両100の車両構体101の横方向の速度を検出する速度検出手段と、鉄道車両100の車両構体101と台車105の間に設置され、車両構体101と台車105の間の左右方向の減衰力を付与する減衰力付与手段であるサスペンション制御装置104と、サスペンション制御装置104を制御して減衰力制御を行う制御装置118とを備えた鉄道車両100の制振制御システムにおいて、速度検出手段としてレーザードップラーセンサ103を備え、レーザードップラーセンサ103より検出されるデータを、そのまま制御装置118に渡して減衰力制御を行う為である。
【0022】
図4に、加速度センサ110にて加速度を検出した際に得られる加速度データを模式的にグラフに示す。縦軸に加速度を示し、横軸に時間経過を示す。図5に、加速度データよりフィルタで定常成分を除去した様子を模式的にグラフで示す。図6に、レーザードップラーセンサ103から得たデータによる加速度データを模式的にグラフで示す。車両構体101に取り付けられた加速度センサ110は、遠心加速度などの定常成分を含んだデータを検出する為、図4に示すような波形になる。加速度センサ110は、鉄道車両100が曲線通過する場合には遠心力の影響を受けるので、やはり定常成分などがデータに載る結果となる。
【0023】
このデータを制御演算部26で処理するためには、図2に示すようにローパスフィルタ21、A/D変換器22、ハイパスフィルタ23、位相補償器24、及び積分器25での処理を経てデータ処理を行う必要がある。この結果、図5に示すような位相遅れがデータに載ってしまうことになる。この様な位相遅れは位相補償器24を通すことで図6に示すような形に補償できるが、影響を完全に除去することは困難である。位相遅れ時間は数百msec程度ではあるが、この位相遅れが生じた状態では、サスペンション制御装置104を制御部120で制御するにあたって、適切な減衰力制御が困難となる為に、乗り心地を改善しきれないケースもある。
【0024】
一方で、レーザードップラーセンサ103を用いるケースでは、車両構体101の進行方向に対し横方向の速度を直接測定しているが故にこの様な定常成分を含まないデータが得られる。つまり、レーザードップラーセンサ103の出力から、1回微分することでフィルタ処理を介さずに図6に示すような加速度データを得ることができるのである。このため、非接触検出器であるレーザードップラーセンサ103の様な非接触による速度検出、加速度検出をできる方法を用いることで、位相遅れなどの影響を受けないデータが得られ、鉄道車両100の制振制御性能を向上させることが可能となる。
【0025】
なお、加速度センサ110も備えておくことで、レーザードップラーセンサ103からの信号が弱くなるなど、検出エラーが出た場合に、加速度検出を代替することが可能となるため、システムとしての冗長性が高くなる。この結果、鉄道車両100の乗り心地の向上に寄与することができる。
【0026】
また、レーザードップラーセンサ103の検出面は、車両構体101の外部にレーザードップラーセンサ103が備えられる必要がある以上、汚れることも考えられる。このため、検出面清掃手段としてワイパーやウォッシャーを装備するなど検出面を定期的に清掃する手段を設けておけば、レーザードップラーセンサ103から検出される信号の精度を高く保てるというメリットがある。この結果、鉄道車両100の乗り心地の向上に寄与することができる。
【0027】
以上、本発明に係る鉄道車両100の制振制御システムの実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、本実施形態では非接触速度検出器としてレーザードップラーセンサ103を用いているが、レーザー光以外にもマイクロ波を用いるなど、非接触で精度の高い速度又は加速度を検出できる手段であれば、代替することが可能である。検出面清掃手段としてワイパーを備えるとしているが、他の手段で清掃することを妨げない。例えば、乗務員に検出異常を通知する手段を備え、異常を検出した段階でメンテナンスをするなどの手法でも検出精度の維持をすることは可能である。
【符号の説明】
【0028】
100 鉄道車両
101 車両構体
103 レーザードップラーセンサ
104 サスペンション制御装置
105 台車
110 加速度センサ
118 制御装置
120 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6