【解決手段】エナメル被覆アルミ線16を包み込んでいる圧着端子10の圧着胴部12は、上部および下部ヒータチップ24,26に挟まれ、かつ通電発熱する上部および下部ヒータチップ24,26を介して、あらかじめ設定された通電時間にわたりあらかじめ設定された加圧力とあらかじめ設定された加工温度の加熱を受ける。
前記第1および第2のヒータチップの材質は、タングステン、タングステン合金、モリブデンまたはモリブデン合金のいずれかである、請求項5〜8のいずれか一項に記載の端子接続構造の製造装置。
前記第1および第2のヒータチップは、押し当て面が平坦で、背面側が中心で最も高く盛り上がり中心から両端に向かって次第に低くなるコテ部と、前記コテ部の両端から逆スロープ状または逆テーパ状に太さを増しながら延びる一対の接続端子部とを有する、請求項5〜9のいずれか一項に記載の端子接続構造の製造装置。
前記第1および第2のヒータチップは、一方向に長尺状に延びるコテ部と、前記コテ部の前記一方向と直交する方向で対向して前記コテ部の両端から延びる一対の接続端子部とを有する、請求項5〜9のいずれか一項に記載の端子接続構造の製造装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気配線に電線を用いる場合は、電線の両端に接続端子が取り付けられる。従来より、この種の接続端子として圧着端子が多用されている。圧着端子は、所与の電線を挿入または装着できる円筒状または断面U字状の圧着胴部(バレル部)と、この圧着胴部の一端から任意の方向に延びる舌部(取付用の板片部)とを一体に有している。圧着胴部に電線の一端部が圧着によって接続され、舌部がボルトで端子盤等に取り付けられる。一般に、圧着端子は、銅系の金属からなり、腐食防止のために錫メッキを施すこともある。
【0003】
一方、電線は、単線、多線(多芯)を問わず、銅線、特に被覆銅線が多用されている。被覆銅線を圧着端子に接続する場合は、銅線の表面から絶縁被膜を除去する必要があり、端子接続構造の量産工場ではヒュージング加工が行われている。この種のヒュージング加工は、圧着胴部内で銅線を速やかに軟化させるために、加熱温度をおよそ700℃〜900℃に制御している。
【0004】
ところで、家電機器や自動車等で使用される電線においては、軽量化とコストダウンを目的として、アルミニウムの芯部(芯線)を有するアルミニウム電線(「アルミ線」と略称されることもある。)の採用が最近増えている。アルミニウム電線は、重量が銅線と比べて相当軽く、価格も銅線の約1/3〜1/2程度と低い。
【0005】
本出願人は、アルミニウム電線の一種である銅クラッドアルミニウム電線について、特に複数の銅クラッドアルミニウム素線を束ねた多芯式の銅クラッドアルミニウム電線について、それと圧着端子との良好な熱カシメの接続を行えるヒュージング加工法を既に開発し、特許文献1で開示している。この特許文献1のヒュージング加工法は、銅クラッドアルミニウム電線を構成する複数の銅クラッドアルミニウム素線を包み込んでいる圧着端子の圧着胴部を一対の電極で挟んで加圧しながら両電極間を通電して熱カシメを行い、その際に圧着胴部の温度を放射温度計により測定して、その測定温度が所定の温度範囲(400℃〜660℃未満)になるように通電の電流にフィードバック制御をかける。このような温度および通電制御により、圧着胴部の内側で各素線間の隙間を塞ぐように、かつ各素線の銅クラッド層を破らずにすべての素線を塑性変形させて良好な物理的強度と電気的伝導度を得るようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミニウム電線のなかには、銅クラッドアルミニウム電線のほかにも、アルミニウム芯部を銅クラッドを介さずに絶縁体(一般にエナメル)で被覆した絶縁被覆アルミニウム電線があり、複数の絶縁被覆アルミニウム素線を束ねた多芯式の絶縁被覆アルミニウム電線も用いられている。しかしながら、上記特許文献1の技法も含めて従来のヒュージング加工法によっては、圧着端子に対する絶縁被覆アルミニウム電線の熱カシメによる接続が非常に困難であり、このことが家電機器や自動車等の用途先において絶縁被覆アルミニウム電線の普及を妨げる要因となっている。
【0008】
すなわち、絶縁被覆アルミニウム電線(特に多芯式のもの)と圧着端子との接続に従来のヒュージング加工法を用いた場合は、圧着端子の圧着胴部を挟んで加圧する一対の電極間を通電した時に、圧着胴部の内側で各素線の絶縁被覆(エナメル)が昇華ないし溶融して除去されると直ちに露出するアルミニウム芯部が圧着胴部および自身のジュール熱によって溶けて断線しやすく、加工歩留まりが低い。また、ヒュージング加工を受けている最中の圧着胴部においては、多数の素線が詰まっている内側の温度と外気に触れている表面の温度との間に不定の隔たりがあり、両温度の相関性が低い。このため、圧着胴部の表面温度を放射温度計のような非接触式の温度センサにより測定してその測定温度が所定の温度になるように通電の電流にフィードバック制御をかけても、圧着胴部の内側の温度を的確に制御できないことが多く、このことも加工歩留まりが低い原因の一つとなっている。
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するものであり、絶縁被覆アルミニウム電線と圧着端子との間で良好な熱カシメの接続を高い歩留りで安定確実に行うことができる端子接続構造の製造方法および製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明における端子接続構造の製造方法は、圧着端子の圧着胴部に絶縁被覆アルミニウム電線が接続される端子接続構造を製造するための方法であって、前記絶縁被覆アルミニウム電線を前記圧着端子の前記圧着胴部に包み込まれるように装着する第1の工程と、互いに対向する第1および第2のヒータチップの間に前記絶縁被覆アルミニウム電線を包み込んでいる前記圧着胴部を挟んであらかじめ設定された加圧力を持続的に加える第2の工程と、前記圧着胴部に前記加圧力を加えている間に、第1および第2のヒータチップをあらかじめ設定された通電時間にわたり通電して発熱させ、前記圧着胴部に前記絶縁被覆アルミニウム電線を熱カシメによって接続する第3の工程と、前記熱カシメの加工温度をあらかじめ設定された温度範囲に制御する第4の工程とを有する。
【0011】
本発明における端子接続構造の製造装置は、圧着端子の圧着胴部に絶縁被覆アルミニウム電線が接続される端子接続構造を製造するための装置であって、前記圧着端子の圧着胴部を挟み付けられるように互いに対向して相対的に移動可能に配置される第1および第2のヒータチップと、前記絶縁被覆アルミニウム電線を包み込んでいる前記圧着端子の圧着胴部に前記第1および第2のヒータチップを介して熱カシメのための所定の加圧力を加えるための加圧部と、所定の通電時間にわたり前記第1および第2のヒータチップに前記熱カシメのための独立した第1および第2の電流をそれぞれ供給するための第1および第2のヒータ電源と、前記熱カシメの加工温度を制御するための温度制御部とを有する。
【0012】
本発明においては、被加工物である圧着胴部およびこれに包み込まれている絶縁被覆アルミニウム電線が、互いに対向して被加工物を挟む第1および第2のヒータチップを介して双方向から加圧力と加熱を同時に受ける。この場合、被加工物(圧着胴部/絶縁被覆アルミニウム電線)は、通電の電流がまったく流れないので、自己発熱(通電発熱)せずもっぱら両ヒータチップらの加熱によって熱せられる。かかるヒュージング加工においては、加圧力、加熱温度および通電時間を適正値に設定ないし制御することで、圧着胴部と絶縁被覆アルミニウム電線との熱カシメ接続(つまり、圧着胴部の内側で相隣接する素線の露出したアルミニウム芯部同士の熱圧着および圧着胴部の内壁とこれに隣接する素線の露出したアルミニウム芯部との熱圧着)を安定確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の端子接続構造の製造方法または製造装置によれば、上記のような構成および作用により、絶縁被覆アルミニウム電線と圧着端子との間で良好な熱カシメの接続を高い歩留りで安定確実に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図を参照して本発明の一実施形態を説明する。
[圧着端子および絶縁被覆アルミニウム電線の構成]
【0016】
図1に、この実施形態において端子接続構造を形成する圧着端子とエナメル被覆アルミニウム電線(以下「エナメル被覆アルミ線」という。)の構成を示す。
【0017】
圧着端子10は、銅系の金属たとえば純銅、銅合金またはめっき銅からなり、円筒状の圧着胴部(バレル部)12と、この圧着胴部12の一端から任意の形状で任意の方向に延びる舌部(取付用板片部)14とを一体に有している。
図1の(a),(b)には圧着端子10の構成例を2つ示すが、これらに限定されるものではない。後述するように、圧着胴部12は、エナメル被覆アルミ線16の一端部と熱カシメによって接続するようになっている。舌部14は、電気配線の形態において、そのボルト通し孔15にボルト(図示せず)を通され、端子盤(図示せず)等に取り付けられる。
【0018】
エナメル被覆アルミ線16は、多線式または多芯式の電線であり、線径φがたとえば0.13〜0.5mmの細いエナメル被覆アルミニウム素線(以下「素線」という。)18を複数本たとえば20〜50本束ねている。エナメル被覆アルミ線16は、圧着端子10が取り付けられる端の部分を除いて、ビニル等の絶縁被覆(外装)を纏っていてもよい。
図2に示すように、素線18は、アルミニウムの芯部(芯線)20と、このアルミニウム芯部20を被覆する厚さ10〜30μmのエナメル層22とを有している。
【0019】
この実施形態において、圧着端子10にエナメル被覆アルミ線16を接続するには、ヒュージング加工を行う前に、
図3の(a),(b)に示すように、圧着端子10の圧着胴部12にエナメル被覆アルミ線16の一端部を挿入(装着)する。そして、後述するヒュージング装置(
図5)を用いて、適正値の加工条件(加圧力、通電時間および加工温度)の下で、圧着胴部12にエナメル被覆アルミ線16を熱カシメによって接続する。その結果、
図4の(a),(b)に示すように、外観的には、圧着胴部12が扁平に変形して、エナメル被覆アルミ線16がかしめられる。この扁平に変形した圧着胴部12の内側では、エナメル層22が十分に除去された状態で各素線18が塑性変形し、隣接する素線18と素線18との間および隣接する素線18と圧着胴部12の内壁との間で良好な物理的および電気的接続が形成されている。
[ヒュージング装置の構成]
【0020】
図5および
図6に、この実施形態におけるヒュージング装置の構成を示す。
図5に示すように、このヒュージング装置は、鉛直方向で被加工物を挟着できるように相対向して相対的に移動可能に配置される上部および下部ヒータチップ24,26と、両ヒータチップ24,26を介して被加工物Wに熱カシメ用の加圧力Fを加える加圧部28と、両ヒータチップ24,26に各々独立した熱カシメ用の電流I
U,I
Lをそれぞれ供給するヒータ電源30,32と、両ヒータチップ24,26の温度を加工温度としてそれぞれ測定するための熱電対(温度センサ)34,36および温度測定回路38,40と、装置全体のシーケンスおよび各部(特に加圧部28およびヒータ電源30,32)の動作を制御する制御部42とを有している。
【0021】
上部および下部ヒータチップ24,26は、同一または近似の高抵抗率および高融点を有する金属からなり、たとえば、タングステンまたはタングステン合金、モリブデンまたはモリブデン合金が好適である。また、上部および下部ヒータチップ24,26は、同一または近似の形状を有し、それぞれのコテ部(押し当て部)24a,26aを互いに突き合せるように鉛直方向で対向して相対的に同方向で移動可能に配置されている。
【0022】
この実施形態における上部および下部ヒータチップ24,26は、正面視で略U状の形状を有する板厚が均一の金属板体であり、好ましくは、図示のように、押し当て面が平坦で、背面側が中心で最も高く(太く)盛り上がり中心から両端に向かって次第に低く(細く)なるコテ部24a,26aと、コテ部24a,26aの両端から逆スロープ状または逆テーパ状に太さを増しながら延びる一対の接続端子部24b,26bとを有し、接続端子部24b,26bにて二次導体またはチップホルダ(後述する上部および下部ホルダ44,48)にボルトで結合される。両接続端子部24b,26bがコテ部24a,26aに向かって次第に細くなる構成により、次第に電流密度および抵抗発熱温度が増し、コテ部24a,26aに熱が集中するようになっている。
【0023】
図6に示すように、上部ヒータチップ24は、たとえば銅または銅合金等の導体からなる上部ホルダ44を介して加圧部28の直進駆動軸46(
図6では点線で模式的に示している。)に結合され、直進駆動軸46と一体に鉛直方向で昇降移動可能となっている。一方、下部ヒータチップ26は、たとえば銅または銅合金等の導体からなる下部ホルダ48を介してベースまたは加工ステージ50に固定されている。加圧部28は、図示省略するが、駆動力ないし加圧力の発生源である電気モータあるいはエアシリンダ、直進駆動軸46を鉛直方向で案内するためのガイド部および調整可能なバネ加圧力を発生するためのバネ部材等を有している。上部および下部ホルダ44,48は、電気ケーブルまたは二次導体45,47を介してヒータ電源30,32(
図1)の出力端子にそれぞれ接続されている。
【0024】
図5において、各ヒータ電源30,32は、交流式または直流式のいずれであってもよく、負荷側に所要の電力または電流を供給できる機能と、出力電流についてオン・オフ式あるいは高速スイッチング式のフィードバック制御を行える機能とを有しており、好ましくはインバータ回路を備えている。
【0025】
熱電対34,36は、上部および下部ヒータチップ24,26のコテ部24a,26aの近傍(たとえば裏側)にそれぞれ取り付けられ、通電中に発熱するコテ部24a,26aの温度を検出する。温度測定回路38,40は、熱電対34,36の出力からヒータチップ24,26のコテ部24a,26aの温度をそれぞれ表す電気信号TM
U,TM
Lを生成し、それらの信号TM
U,TM
Lを熱カシメの加工温度を表す加工温度測定値信号としてヒータ電源30,32に与える。
【0026】
制御部42は、CPU(マイクロコンピュータ)を含んでおり、メモリに格納している各種プログラム(ソフトウェア)にしたがって装置全体ないし各部を制御し、タッチパネル52の入力部および表示部を介してユーザ(作業員、保守員等)と設定値情報やモニタ情報等をやりとりする。設定値に関しては、加圧力、通電時間および加工温度の3つの条件が重要である。所与の被加工物に対してそれら3条件を適宜変えて行われる実験を通じて得られるデータから、ユーザが最適な条件値を選定して、制御部42に設定入力する。
[ヒュージング加工の作用]
【0027】
先ず、ロボットのハンドリング操作または作業員のマニュアル操作により、たとえば
図3に示すようにエナメル被覆アルミ線16の一端部を包み込んでいる圧着端子10の圧着胴部12が、下部ヒータチップ26のコテ部26aの上に被加工物Wとして載置される(
図6の(a))。
【0028】
直後に、制御部42は、加圧部28を作動させ、上部ヒータチップ24を下ろして、そのコテ部24aを圧着胴部12の上面に当て、両ヒータチップ24,26を介して被加工物W(圧着胴部12およびこれに装入されているエナメル被覆アルミ線16)にあらかじめ設定された所定の加圧力Fを持続的に加える(
図6の(b))。この場合、被加工物Wは、上部ヒータチップ24からは垂直下向きの加圧力Fを加えられ、下部ヒータチップ26からは垂直上向きの反作用の力F’を受ける。
【0029】
一方で、制御部42は、ヒータ電源30,32をオンし、上部および下部ヒータチップ24,26に熱カシメのための電流I
U,I
Lを供給する。これによって、ヒータチップ24,26が通電して抵抗発熱し、特にそれらのコテ部24a,26aの部位が最も高温に抵抗発熱する。
【0030】
ここで、ヒータ電源30,32には、温度測定回路38,40より加工温度測定値信号TM
U,TM
Lがそれぞれ与えられるとともに、制御部42より上部および下部ヒータチップ24,26毎に加工温度の設定値S
U,S
Lを表す設定温度信号TS
U,TS
Lがそれぞれ与えられる。ヒータ電源30は、設定温度信号TS
Uに対する加工温度測定値信号TM
Uの誤差を零に近づけるように、電流I
Uの電流値あるいはデューティ比を可変に制御する。また、ヒータ電源32は、設定温度信号TS
Lに対する加工温度測定値信号TM
Lの誤差を零に近づけるように、電流I
Lの電流値あるいはデューティ比を可変に制御する。
【0031】
この場合、加工温度の設定値S
U,S
Lを同じ値に選んでも、電流I
U,I
Lが同じであるとは限らない。図示の例では、舌部14の存在により被加工物W(圧着胴部12/エナメル被覆アルミ線16)は上下対称ではなく、舌部14に近接する下部ヒータチップ24のほうが熱引きが大きい。そうすると、下部側の電流I
Lの電流が上部側の電流I
Uより多く流れることにより、つまり下部ヒータチップ24が上部ヒータチップ26より多く発熱することにより、上部側の加熱と下部側の加熱が均衡することになる。なお、上部および下部ヒータチップ24,26についての加工温度設定値S
U,S
Lは、通常は上記のように同じ値に選ばれるが、必要に応じて両者の間に適宜オフセットを設けることもできる。
【0032】
こうして、
図7に示すように、上部および下部ヒータチップ24,26に挟まれた被加工物W(圧着胴部12/エナメル被覆アルミ線16)は、両ヒータチップ24,26を介して、あらかじめ設定された通電時間にわたりあらかじめ設定された加圧力とあらかじめ設定された加工温度の加熱とを同時に受ける。このヒュージング加工においては、被加工物W(圧着胴部12/エナメル被覆アルミ線16)に通電の電流I
U,I
Lがまったく流れないので、圧着胴部12およびエナメル被覆アルミ線16(素線18)は自己発熱(通電発熱)せずもっぱらヒータチップ24,26からの加熱によって熱せられる。ここで、ヒータチップ24,26は被加工物Wに密着し、しかも自己発熱(通電発熱)しているので、ヒータチップ24,26に取り付けられている熱電対34,36の検出する温度と圧着胴部12の内側の温度との偏差は小さく、かつ相関性も略一定で非常に安定している。これにより、熱カシメの加工温度を的確に制御し、各素線18に対してアルミニウム芯部20を溶かさずにエナメル層22を十分に除去する作用を安定確実に奏することができる。さらに、被加工物W(圧着胴部12/エナメル被覆アルミ線16)に対して両ヒータチップ24,26により上下双方向から必要最小限の接触面積で高い加圧力を同時に加えることにより、圧着胴部12の内側で相隣接する素線18,18の露出したアルミニウム芯部20,20同士の熱圧着、および圧着胴部12の内壁とこれに隣接する素線18の露出したアルミニウム芯部20との熱圧着を安定確実に奏することができる。
【0033】
本発明者は、この実施形態におけるヒュージング加工装置およびヒュージング加工方法の効果を検証する実験を行った。この実験では、エナメル被覆アルミ線16として線径0.4mmの素線18を38本束ねたものを使用し、圧着端子10として
図1の(b)に示すタイプのものを使用し、加圧力、通電時間および加工温度の3条件をバラメータとした。
図8に、その実験結果を一覧表にして示す。
【0034】
図8において、サンプルNo.1は、上記実施形態において加圧力を120N、通電時間を30秒、加工温度(上下部同一)を600℃とした。この場合は、殆ど全部の素線18においてエナメル層22をまったく除去することができず、
図9の(a)に示すようにヒュージング(熱カシメ)加工後でもエナメル被覆アルミ線16が圧着端子10の圧着胴部12から簡単に抜けた。
【0035】
サンプルNo.2は、加圧力を120N、通電時間を20秒、加工温度(上下部同一)を620℃とした。この場合は、
図9の(b)に示すように、少しであるが一部の素線18においてエナメル層22を除去することができた。また、ヒュージング(熱カシメ)加工後はエナメル被覆アルミ線16が圧着端子10の圧着胴部12から抜け難くなった。
【0036】
サンプルNo.3は、加圧力を160N、通電時間を20秒、加工温度(上下部同一)を620℃とした。この場合は、
図9の(c)に示すように、相当多数の素線18においてエナメル層22を除去することができた。また、ヒュージング(熱カシメ)加工後はエナメル被覆アルミ線16が圧着端子10の圧着胴部12から一層抜け難くなった。
【0037】
サンプルNo.4は、加圧力を300N、通電時間を15秒、加工温度(上下部同一)を630℃とした。この場合は、図示省略するが、殆どすべての素線18においてエナメル層22を十分除去することができた。また、ヒュージング(熱カシメ)加工後はエナメル被覆アルミ線16が圧着端子10の圧着胴部12から抜けなかった。
【0038】
サンプルNo.5は、加圧力を400N、通電時間を10秒、加工温度(上下部同一)を630℃とした。この場合も、図示省略するが、殆どすべての素線18においてエナメル層22を十分除去することができた。また、ヒュージング(熱カシメ)加工後はエナメル被覆アルミ線16が圧着端子10の圧着胴部12から抜けなかった。
【0039】
サンプルNo.6は、加圧力を400N、通電時間を15秒、加工温度(上下部同一)を630℃とした。この場合も、図示省略するが、殆どすべての素線18においてエナメル層22を十分除去することができた。しかし、
図9の(c)に示すように、一部(端)の素線18が断線した。なお、アルミニウムの融点が660℃であるにもかかわらず、素線18のアルミニウム芯部20が630℃の加工温度で切断したのは、大きな加圧力(400N)を受けたためであると考えられる。
【0040】
上記の実験から、この実施形態におけるヒュージング装置およびヒュージング方法を圧着端子10とエナメル被覆アルミ線16との熱カシメ接続に適用するに当たっては、加圧力、通電時間および加工温度の3条件について最適な設定値の組み合わせがあり、実験等を通じてそのような最適な設定値を探し出す必要はあるが、いったん最適な設定値が決まれば、それを用いる(タッチパネル52を通じて設定入力する)ことで、歩留りの高い熱カシメ接続を保証することができる。
【0041】
なお、本発明者は、
図10Aに示すように、上部ヒータチップ24のみを用いて被加工物W(圧着胴部12/エナメル被覆アルミ線16)の片面にヒュージング加工を施し、次いで被加工物W(圧着胴部12/エナメル被覆アルミ線16)を上下反転させて他の片面にもやはり上部ヒータチップ24のみを用いてヒュージング加工を施す実験を行った。しかし、加圧力、通電時間および加工温度の3条件を如何様に調整しても、圧着端子10とエナメル被覆アルミ線16との熱カシメ接続(圧着胴部12の内側における素線18同士の熱圧着および素線18と圧着胴部12との熱圧着)を良好に行うことができなかった。
【0042】
さらに、本発明者は、
図10Bに示すように、上部ヒータチップ24とホットプレート54との間に被加工物W(圧着胴部12/エナメル被覆アルミ線16)を挟んで上部および下部の両側から加熱する実験も行った。しかし、この場合も、加圧力、通電時間および加工温度の3条件を如何様に調整しても、圧着端子10とエナメル被覆アルミ線16との熱カシメ接続を良好に行うことができなかった。
[他の実施形態又は変形例]
【0043】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものではない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0044】
たとえば、エナメル被覆アルミ線16において、素線18の断面形状は任意であり、円形に限らず、矩形であってもよい。また、エナメル被覆アルミ線16は、多線(多芯)式に限るものではなく、単線式であってもよい。本発明における絶縁被覆アルミニウム電線16または絶縁被覆アルミニウム素線18は、エナメル以外の絶縁被覆を有するものであってもよい。
【0045】
本発明においては、様々なヒータチップを使用することができる。たとえば、上記実施形態においては、
図11に示すように、1枚の金属板を中央部の2箇所で折り曲げたような奥行サイズの大きいチップ形状を有するヒータチップ24,26も好適に使用できる。このタイプのヒータチップ24,26は、奥行方向に長尺状に延びるコテ部24a,26aと、このコテ部24a,26aの奥行方向(長手方向)と直交する方向で対向してコテ部24a,26aの両端からV状またはU状に延びる一対の接続端子部24b,26bとを有している。この場合も、両接続端子部24b,26bがコテ部24a,26aに向かって次第に細くなる構成により、次第に電流密度ないし抵抗発熱温度が増し、コテ部24a,26aに熱が集中するようになっている。
【0046】
この場合、上部および下部ヒータチップ24,26は、
図12に示すように、コテ部24a,26aの奥行方向(長手方向)がエナメル被覆アルミ線16の延びる方向と直交するする向きで(つまり、コテ部24a,26aを流れる電流Iがエナメル被覆アルミ線16の延びる方向と平行になる向きで)、被加工物W(圧着胴部12/エナメル被覆アルミ線16)に当接する。なお、熱電対34,36は、
図12に示すようにコテ部24a,26aの背面に取り付けてよく、あるいは接続端子部24b,26bに取り付けることも可能である。
【0047】
また、上記実施形態におけるヒュージング装置は、絶縁被覆アルミニウム電線以外のアルミニウム電線(たとえば銅クラッド被覆アルミニウム電線)を圧着端子に熱カシメで接続するヒュージング加工にも適用可能である。