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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-8304(P2018-8304A)
(43)【公開日】2018年1月18日
(54)【発明の名称】アーク溶接電源の出力制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20171215BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20171215BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20171215BHJP
   B23K 9/10 20060101ALI20171215BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20171215BHJP
【FI】
   B23K9/073 545
   B23K9/12 305
   B23K9/095 501A
   B23K9/10 Z
   B23K9/23 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-140400(P2016-140400)
(22)【出願日】2016年7月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】小野 貢平
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001BB08
4E001BB09
4E001CA03
4E001DD02
4E001DD04
4E001QA01
4E082AA03
4E082AA04
4E082AB01
4E082EC03
4E082EC13
4E082ED01
4E082EE03
4E082EF02
4E082JA02
(57)【要約】
【課題】溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、異常電圧を除去する制御を行う溶接方法において、アーク安定性を向上させること。
【解決手段】溶接電流Iwの検出値に対応した基準電圧値を中心値とする予め定めた許容範囲内に溶接電圧Vwの検出値を制限して電圧制限値Vfを算出する異常電圧除去制御を行い、この電圧制限値Vfに基づいて溶接電圧Vwの出力制御を行う。異常電圧除去制御の許容範囲を、シールドガスに占める不活性ガスの体積%が大きくなるほど大きな値に設定する。不活性ガス比率が大きくなると、アーク長の変化が大きくなり、溶接電圧Vwの変化も大きくなる。本発明によれば、この溶接電圧Vwの大きな変化を異常電圧であると誤判別することを防止できるので、アーク安定性を向上させることができる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接し、
溶接電流及び溶接電圧を検出し、前記溶接電流の検出値に対応した基準電圧値を中心値とする予め定めた許容範囲内に前記溶接電圧の検出値を制限して電圧制限値を算出する異常電圧除去制御を行い、
この電圧制限値に基づいて前記溶接電圧を出力制御するアーク溶接電源の出力制御方法において、
前記許容範囲を、母材の材質がステンレス鋼であるときは鉄鋼であるときよりも大きな値に設定する、
ことを特徴とするアーク溶接電源の出力制御方法。
【請求項2】
前記許容範囲を、シールドガスに占める不活性ガスの体積%が大きくなるほど大きな値に設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接電源の出力制御方法。
【請求項3】
前記アーク期間中の前記溶接電流の変化率が基準変化率以上となる期間を含む所定期間中は、前記異常電圧除去制御を停止する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接電源の出力制御方法。
【請求項4】
前記送給速度が逆送減速値となる期間を含む所定期間中は、前記異常電圧除去制御を停止する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアーク溶接電源の出力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接し、溶接電圧に重畳した異常電圧を除去しこの溶接電圧に基づいて出力制御するアーク溶接電源の出力制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡期間とアーク期間とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
【0003】
溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接する方法が提案されている。特許文献1の発明では、溶接電流設定値に応じた送給速度の平均値とし、溶接ワイヤの正送と逆送との周波数及び振幅を溶接電流設定値に応じた値としている。溶接ワイヤの正送と逆送とを繰り返す溶接方法では、定速送給の従来技術に比べて、短絡とアークとの繰り返しの周期を安定化させることができる。
【0004】
消耗電極式アーク溶接においては、溶接ワイヤの先端と母材との最短距離である見かけのアーク長(以下、単にアーク長という)を適正値に維持することが、良好な溶接品質を得るためには重要である。このために、アーク溶接電源はアーク期間中は定電圧制御される。これは、アーク長と溶接電圧とが比例関係にあることを利用して、アーク長を溶接電圧で検出し、この溶接電圧検出値が適正アーク長に相当する電圧設定値と等しくなるように出力制御することでアーク長を適正値に維持するためである。したがって、このアーク長制御の安定化のためには、アーク長を溶接電圧によって高精度に検出する必要がある。
【0005】
消耗電極式アーク溶接は電極プラス極性EPで行うのが通常であるので、溶接ワイヤ先端部に陽極点が形成され、母材表面に陰極点が形成されて、陽極点と陰極点との間にアークが発生する。陽極点はワイヤ先端部付近に形成された状態でほとんど移動しない。これに対して、陰極点は、母材表面の酸化皮膜のある部分を目指してふらふらと移動する。さらに、陰極点は、母材表面の汚れ、溶融池の運動状態、溶融池からのガス放出等によってもふらつく。短時間に陰極点の形成位置が変化しても見かけのアーク長は変化しない。これは、見かけのアーク長はワイヤ送給速度とワイヤ溶融速度との差によって変化するために、十数ms以下の短時間では微小にしか変化できない。しかし、上述した種々の原因によって陰極点がふらつくと溶接電圧に異常電圧が重畳する。この異常電圧は見かけのアーク長とは何ら比例しない電圧である。このために、この異常電圧が重畳した溶接電圧に基づいて出力制御を行うと、アーク長制御系が不安定になり、溶接品質が悪くなる。溶接電圧検出値から異常電圧を除去して見かけのアーク長と比例関係にある溶接電圧検出値を生成する方法が特許文献2に開示されている。
【0006】
特許文献2の発明では、溶接電源の電流容量を複数の電流領域に分割し、これらの電流領域ごとに基準溶接電圧値を設定する。溶接電流及び溶接電圧を検出し、溶接電流の検出値によって適合する電流領域を選択し、この選択された電流領域の基準溶接電圧値を中心値として許容範囲内に溶接電圧の検出値を制限して、異常電圧を除去した溶接電圧制限値を算出する。そして、この溶接電圧制限値に基づいて溶接電圧を出力制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5201266号公報
【特許文献2】特許第5214859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
溶接ワイヤの正送と逆送とを繰り返し、異常電圧を除去した溶接電圧に基づいて出力制御する溶接方法は、主に母材が鉄鋼材であるときに使用されている。この溶接方法を、ステンレス鋼材に適用すると、アークが不安定になりスパッタ量が増加するという問題がある。これは、第1に、アーク期間中に送給速度が連続的かつ急峻に変化しているために、見かけのアーク長の変化が大きくなるためである。第2に、ステンレス鋼のアーク溶接は、鉄鋼のアーク溶接よりもアーク安定性が悪いために、みかけのアーク長の変化が大きくなるためである。
【0009】
そこで、本発明では、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、異常電圧を除去した溶接電圧に基づいて出力制御する溶接方法において、母材の材質がステンレス鋼であっても、アークが安定し、かつ、スパッタ発生量も少ない溶接が可能となるアーク溶接電源の出力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接し、
溶接電流及び溶接電圧を検出し、前記溶接電流の検出値に対応した基準電圧値を中心値とする予め定めた許容範囲内に前記溶接電圧の検出値を制限して電圧制限値を算出する異常電圧除去制御を行い、
この電圧制限値に基づいて前記溶接電圧を出力制御するアーク溶接電源の出力制御方法において、
前記許容範囲を、母材の材質がステンレス鋼であるときは鉄鋼であるときよりも大きな値に設定する、
ことを特徴とするアーク溶接電源の出力制御方法である。
【0011】
請求項2の発明は、前記許容範囲を、シールドガスに占める不活性ガスの体積%が大きくなるほど大きな値に設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接電源の出力制御方法である。
【0012】
請求項3の発明は、前記アーク期間中の前記溶接電流の変化率が基準変化率以上となる期間を含む所定期間中は、前記異常電圧除去制御を停止する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接電源の出力制御方法である。
【0013】
請求項4の発明は、前記送給速度が逆送減速値となる期間を含む所定期間中は、前記異常電圧除去制御を停止する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアーク溶接電源の出力制御方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、異常電圧を除去した溶接電圧に基づいて出力制御する溶接方法において、母材の材質がステンレス鋼であっても、アークが安定し、かつ、スパッタ発生量も少ない溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接電源の出力制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るアーク溶接電源の出力制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
図3】本発明の実施の形態2に係るアーク溶接電源の出力制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図4】横軸に示す不活性ガス比率設定信号Ar(%)と縦軸に示す許容範囲設定信号Hr(V)との関係を示す図である。
図5】本発明の実施の形態3に係るアーク溶接電源の出力制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図6】本発明の実施の形態3に係るアーク溶接電源の出力制御方法を示す図5の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
図7】本発明の実施の形態4に係るアーク溶接電源の出力制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
図8】本発明の実施の形態4に係るアーク溶接電源の出力制御方法を示す図7の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
[実施の形態1]
実施の形態1の発明は、異常電圧除去制御の許容範囲を、母材の材質がステンレス鋼であるときは鉄鋼であるときよりも大きな値に設定するものである。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接電源の出力制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0019】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0020】
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば100μHである。
【0021】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを交互に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0022】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0023】
材質選択回路MSは、母材の材質に対応した番号を溶接作業者が選択すると、その番号の値となる材質選択信号Msを出力する。例えば、鉄鋼を選択するとMs=1となり、ステンレス鋼を選択するとMs=2となる。
【0024】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0025】
基準電圧値設定回路VCは、上記の電流検出信号Idを入力として、電流検出信号Idの値に対応した予め定めた基準電圧値信号Vcを出力する。例えば、この回路には、Vc=a×Id+bの関数が記憶されている。a及びbは正の定数である。
【0026】
許容範囲設定回路HRは、上記の材質選択信号Msを入力として、材質選択信号Msに適合した予め定めた許容範囲設定信号Hrを出力する。
【0027】
異常電圧除去回路VFは、上記の電圧検出信号Vd、上記の基準電圧値信号Vc及び上記の許容範囲設定信号Hrを入力として、電圧検出信号Vdの値を基準電圧値信号Vcを中心値とする許容範囲Vc±Hr内に制限して、電圧制限値信号vfを出力する。
【0028】
電圧設定回路VRは、予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。
【0029】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vr及び上記の電圧制限値信号Vfを入力として、電圧設定信号Vr(+)と電圧制限値信号Vf(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0030】
正送加速期間設定回路TSURは、予め定めた正送加速期間設定信号Tsurを出力する。
【0031】
正送減速期間設定回路TSDRは、予め定めた正送減速期間設定信号Tsdrを出力する。
【0032】
逆送加速期間設定回路TRURは、予め定めた逆送加速期間設定信号Trurを出力する。
【0033】
逆送減速期間設定回路TRDRは、予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
【0034】
正送ピーク値設定回路WSRは、予め定めた正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
【0035】
逆送ピーク値設定回路WRRは、予め定めた逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。
【0036】
送給速度設定回路FRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成された送給速度パターンを送給速度設定信号Frとして出力する。この送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで直線状に加速する送給速度設定信号Frを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで直線状に減速する送給速度設定信号Frを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで直線状に加速する送給速度設定信号Frを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで直線状に減速する送給速度設定信号Frを出力する。
7)上記の1)〜6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンの送給速度設定信号Frが生成される。
【0037】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0038】
減流抵抗器Rは、上記のリアクトルWLと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01〜0.03Ω程度)の10倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、リアクトルWL及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。
【0039】
トランジスタTRは、上記の減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0040】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0041】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0042】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0043】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは、低レベル電流設定信号Ilrとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流設定値となり、その後は予め定めた短絡時傾斜で予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇してその値を維持する電流制御設定信号Icrを出力する。
3)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
【0044】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流制御設定信号Icr(+)と電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0045】
小電流期間回路STDは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から予め定めた電流降下時間が経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる小電流期間信号Stdを出力する。
【0046】
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の短絡判別信号Sd及び上記の小電流期間信号Stdを入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して予め定めた遅延期間が経過した時点までの期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)その後のアーク期間中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
3)その後のアーク期間中に小電流期間信号StdがHighレベルとなる期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、溶接電源の特性は、短絡期間、遅延期間及び小電流期間中は定電流特性となり、それ以外のアーク期間中は定電圧特性となる。
【0047】
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接電源の出力制御方法を示す図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示し、同図(F)は電圧制限値信号Vfの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0048】
同図(A)に示す送給速度Fwは、図1の送給速度設定回路FRから出力される送給速度設定信号Frの値に制御される。送給速度Fwは、図1の正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu、短絡が発生するまで継続する正送ピーク期間Tsp、図1の正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsd、図1の逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru、アークが発生するまで継続する逆送ピーク期間Trp及び図1の逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdから形成される。さらに、正送ピーク値Wspは図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まり、逆送ピーク値Wrpは図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる。この結果、送給速度設定信号Frは、正負の略台形波波状に変化する送給パターンとなる。
【0049】
[時刻t1〜t4の短絡期間の動作]
正送ピーク期間Tsp中の時刻t1において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。これに応動して、時刻t1〜t2の予め定めた正送減速期間Tsdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する。例えば、正送減速期間Tsd=1msに設定される。
【0050】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t2〜t3の予め定めた逆送加速期間Truに入り、0から上記の逆送ピーク値Wrpまで加速する。この期間中は短絡期間が継続している。例えば、逆送加速期間Tru=1msに設定される。
【0051】
時刻t3において逆送加速期間Truが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送ピーク期間Trpに入り、上記の逆送ピーク値Wrpになる。逆送ピーク期間Trpは、時刻t4にアークが発生するまで継続する。したがって、時刻t1〜t4の期間が短絡期間となる。逆送ピーク期間Trpは所定値ではないが、4ms程度となる。また、例えば、逆送ピーク値Wrp=−30m/minに設定される。
【0052】
同図(B)に示すように、時刻t1〜t4の短絡期間中の溶接電流Iwは、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となる。その後、溶接電流Iwは、予め定めた短絡時傾斜で上昇し、予め定めた短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。
【0053】
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
【0054】
その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、図1のくびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。
【0055】
くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、図1の駆動信号DrはLowレベルになるので、図1のトランジスタTRはオフ状態となり図1の減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、図1の電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、トランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間が経過するまでは低レベル電流値を維持する。したがって、トランジスタTRは、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から溶接電流Iwが低レベル電流値に減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので一旦減少した後に急上昇する。同図(F)に示すように、電圧制限値信号Vfは、時刻t1〜t4の短絡期間中は、異常電圧除去制御は行われないので、同図(C)に示す溶接電圧Vwと相似形の波形となる。
【0056】
上述した各パラメータは、例えば以下の値に設定される。初期電流=40A、初期期間=0.5ms、短絡時傾斜=2ms、短絡時ピーク値=400A低レベル電流値=50A、遅延期間=1ms。
【0057】
[時刻t4〜t7のアーク期間の動作]
時刻t4において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、時刻t4〜t5の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。例えば、逆送減速期間Trd=1.5msに設定される。
【0058】
時刻t5において逆送減速期間Trdが終了すると、時刻t5〜t6の予め定めた正送加速期間Tsuに移行する。この正送加速期間Tsu中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは0から上記の正送ピーク値Wspまで加速する。この期間中はアーク期間が継続している。例えば、正送加速期間Tsu=1msに設定される。
【0059】
時刻t6において正送加速期間Tsuが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送ピーク期間Tspに入り、上記の正送ピーク値Wspになる。この期間中もアーク期間が継続している。正送ピーク期間Tspは、時刻t7に短絡が発生するまで継続する。したがって、時刻t4〜t7の期間がアーク期間となる。そして、短絡が発生すると、時刻t1の動作に戻る。正送ピーク期間Tspは所定値ではないが、4ms程度となる。また、例えば、正送ピーク値Wsp=35m/minに設定される。
【0060】
時刻t4においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t4から逆送減速期間Trd中の時刻t41までの遅延期間の間は低レベル電流値を継続する。遅延期間中は、定電流制御が継続している。遅延期間が終了する時刻t41から定電圧制御に切り換わる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t41から正送加速期間Tsu中の時刻t51まで急峻に増加する。時刻t51から正送ピーク期間Tsp中の時刻t61までの期間中は、溶接電流Iwは次第に減少する。
【0061】
時刻t4にアークが発生してから予め定めた電流降下時間が経過する時刻t61において、同図(E)に示すように、小電流期間信号StdがHighレベルに変化する。これに応動して、溶接電源は定電圧特性から定電流特性に切り換えられる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは低レベル電流値に低下し、短絡が発生する時刻t7までその値を維持する。
【0062】
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t4にアークが発生するとアーク電圧値に急増し、時刻t41までは逆送によってアーク長が長くなるので、増加する。時刻t41〜t51の期間中は溶接電流Iwが増加するので溶接ワイヤ先端の溶融が促進されて、溶接電圧Vwは増加を継続する。時刻t51〜t61までの期間中は、溶接電圧Vwは、溶接ワイヤが正送され、かつ、溶接電流Iwも減少するので、基本的には次第に減少する。但し、この期間中の一部の期間に異常電圧が重畳している。異常電圧重畳期間中の溶接電圧Vwはその前後の期間よりも大きな値となっている。時刻t61において、小電流期間になると、溶接電圧Vwは急減する。小電流期間信号Stdは、時刻t7に短絡が発生するとLowレベルに戻る。電流降下時間は5ms程度に設定されるので、時刻t61のタイミングは正送ピーク期間Tsp中となる。
【0063】
同図(F)に示すように、時刻t4〜t7のアーク期間中の電圧制限値信号Vfは、時刻t51〜t61中の異常電圧重畳期間中を除き、溶接電圧Vwと相似形の波形となる。これは、これらの期間中の溶接電圧Vwの値が、許容範囲Vc±Hr内であるためである。異常電圧重畳期間中の電圧制限値信号Vfは、高電圧部分がカットされて制限された波形となっている。これは、異常電圧重畳期間中の溶接電圧Vwの値が許容範囲の上限値Vc+Hrを超えているために、この部分がVc+Hrに制限されたためである。
【0064】
異常電圧除去制御は、以下のようにして行われる。
1)溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを検出して電流検出信号Id及び電圧検出信号Vdが出力される。
2)電流検出信号Idを入力として予め定めた関数から対応する基準電圧値信号Vcが算出される。
3)材質選択信号Msの値によって、鉄鋼又はステンレス鋼に適合した許容範囲設定信号Hrの値が設定される。許容範囲設定信号Hrの値は、鉄鋼のときよりもステンレス鋼のときが大きな値になるように設定される。これは、アーク長の変化が、ステンレス鋼のアーク溶接の場合が鉄鋼のアーク溶接の場合よりも大きいためである。ステンレス鋼のアーク溶接の場合に、許容範囲設定信号Hrの値を鉄鋼のアーク溶接の場合と同一値に設定すると、アーク長の変化に伴う電圧検出信号Vdの値を異常電圧であると誤判別して除去してしまうことになる。この結果、アーク長制御が不安定になる。
4)電流検出信号Idに対応する許容範囲Vc±Hrが設定される。
5)電圧検出信号Vdの値が、以下のように許容範囲内に制限される。
Vd<Vc−HrのときはVf=Vc−Hr
Vc−Hr≦Vd≦Vc+HrのときはVf=Vd
Vc+Hr≦VdのときはVf=Vc+Hr
【0065】
上述した実施の形態1によれば、溶接ワイヤの正送と逆送とを繰り返すアーク溶接において、異常電圧除去制御の許容範囲を、母材の材質がステンレス鋼であるときは鉄鋼であるときよりも大きな値に設定する。ステンレス鋼のアーク溶接は、鉄鋼のアーク溶接よりもアイク長の変化が大きい。さらに、溶接ワイヤの送給速度が低速ではなく変化しているので、アーク長の変化がさらに大きくなる。このために、異常電圧除去制御の許容範囲を大きくすることによって、アーク長の変化に伴う溶接電圧の変化を除去しないようにしている。この結果、本実施の形態では、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、異常電圧を除去した溶接電圧に基づいて出力制御する溶接方法において、母材の材質がステンレス鋼であっても、アークが安定し、かつ、スパッタ発生量も少ない溶接が可能となる。
【0066】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、異常電圧除去制御の許容範囲を、シールドガスに占める不活性ガスの体積%が大きくなるほど大きな値に設定するものである。
【0067】
図3は、本発明の実施の形態2に係る溶接電源の出力制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1の材質選択回路MSを不活性ガス比率設定回路ARに置換し、図1の許容範囲設定回路HRを第2許容範囲設定回路HR2に置換したものである。以下、同図を参照して、これらのブロックについて説明する。
【0068】
不活性ガス比率設定回路ARは、シールドガスに占める不活性ガスの体積%を設定するための不活性ガス比率設定信号Arを出力する。シールドガスが、炭酸ガス100%の場合にはAr=0となり、炭酸ガス80%+アルゴンガス20%のマグガスの場合はAr=20となり、炭酸ガス2%+アルゴンガス98%のM2ガスの場合はAr=98となり、アルゴンガス100%の場合はAr=100となる。
【0069】
第2許容範囲設定回路HR2は、上記の不活性ガス比率設定信号Arを入力として、不活性ガス比率設定信号Arを入力とする予め定めた許容範囲算出関数に基づいて許容範囲を算出して、許容範囲設定信号Hrを出力する。許容範囲算出関数については、図4で後述する。
【0070】
図4は、横軸に示す不活性ガス比率設定信号Ar(%)と縦軸に示す許容範囲設定信号Hr(V)との関係を示す図である。同図に示すように、Ar=0%のときはHr=2Vとなり、Ar=100%のときはHr=4Vとなっている。母材の材質が鉄鋼である場合にはAr=0〜20%の範囲のシールドガスが使用される。ステンレス鋼の場合にはAr=98〜100%のシールドガスが使用される。同図から分かるように、不活性ガス比率が大きくなるほど許容範囲は大きくなる。これは、不活性ガス比率が大きくなるほど、アーク長の変化が大きくなるためである。すなわち、不活性ガス比率が大きくなると、アーク長の変化が大きくなるので、許容範囲を大きくしないとアーク長に比例する溶接電圧を異常電圧であると誤判別して除去してしまうからである。
【0071】
上述した実施の形態2の発明によれば、不活性ガス比率が大きくなるほど許容範囲が大きくなるようにしている。このために、使用するシールドガスの不活性ガス比率に応じて適正な許容範囲を設定することができるので、アークの安定性をさらに向上させることができる。
【0072】
[実施の形態3]
実施の形態3の発明は、アーク期間中の溶接電流の変化率が基準変化率以上となる期間を含む所定期間中は、異常電圧除去制御を停止するものである。
【0073】
図5は、本発明の実施の形態3に係る溶接電源の出力制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図1に電流変化率判別回路DIを追加し、図1の異常電圧除去回路VFを第2異常電圧除去回路VF2に置換したものである。以下、同図を参照して、これらのブロックについて説明する。
【0074】
電流変化率判別回路DIは、上記の電流検出信号Id及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)であるときの電流検出信号Idの変化率(微分値)の絶対値を算出し、この値が予め定めた基準変化率異常である期間を所定期間だけオフディレイした期間中はHighレベルとなる電流変化率判別信号Diを出力する。すなわち、この回路は、アーク期間中の溶接電流Iwの変化が基準値異常に急峻である期間を判別している。
【0075】
第2異常電圧除去回路VF2は、上記の電圧検出信号Vd、上記の基準電圧値信号Vc、上記の許容範囲設定信号Hr及び上記の電流変化率判別信号Diを入力として、電流変化率判別信号DiがLowレベルであるときに、電圧検出信号vdの値を基準電圧値信号Vcを中心値とする許容範囲Vc±Hr内に制限して、電圧制限値信号vfを出力する。この回路により、アーク期間中の溶接電流の変化率が基準変化率異常となる期間を含む所定期間中は異常電圧除去制御が停止(禁止)される。
【0076】
図6は、本発明の実施の形態3に係るアーク溶接電源の出力制御方法を示す図5の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示し、同図(F)は電圧制限値信号Vfの時間変化を示し、図2に追加して同図(G)は電流変化率判別信号Diの時間変化を示す。同図は上述した図2と対応しており、同一の動作についての説明は繰り返さない。同図は、同図(G)に示す電流変化率判別信号Diの動作のみが図2と異なっている。以下、同図を参照して電流変化率判別信号Diの動作について説明する。
【0077】
同図において、時刻t4〜t7の期間がアーク期間となる。このアーク期間中において、同図(B)に示すように、溶接電流Iwの変化率が基準変化率以上となる期間は、時刻t41〜t51及び時刻t61の直後の期間となる。このために、同図(G)に示すように、電流変化率判別信号Diは、時刻t41〜t51+オフディレイ期間及び時刻t61直後の期間+オフディレイ期間はHighレベルとなる。電流変化率判別信号DiがHighレベルの期間中は、異常電圧除去制御は停止される。このようにする理由は、以下のとおりである。Di=Highレベルの期間中は、溶接電流Iwが急峻に変化している期間であるので、アーク長が急峻に変化する。これに伴い、溶接電圧Vwも大きく変化する。この溶接電圧Vwの大きな変化を、異常電圧として誤判別するおそれがある。したがって、Di=Highレベルの期間中は異常電圧除去制御を停止することによって、誤判別を防止している。この結果、アークの安定性をさらに向上させることができる。
【0078】
上述した実施の形態3の発明によれば、アーク期間中の溶接電流の変化率が基準変化率以上となる期間を含む所定期間中は、異常電圧除去制御を停止する。これにより、アーク期間中に溶接電流が急峻に変化したことに伴う溶接電圧の変化を異常電圧であると誤判別することを防止することができる。このために、アークの安定性をさらに向上させることができる。本実施の形態は、実施の形態1を基礎とした場合であるが、実施の形態2を基礎とした場合も同様である。
【0079】
[実施の形態4]
実施の形態4の発明は、送給速度が逆送減速値となる期間を含む所定期間中は、異常電圧除去制御を停止するものである。
【0080】
図7は、本発明の実施の形態4に係る溶接電源の出力制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した図5と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、図5に逆送減速期間判別回路DTを追加し、図1の第2異常電圧除去回路VF2を第3異常電圧除去回路VF3に置換したものである。以下、同図を参照して、これらのブロックについて説明する。
【0081】
逆送減速期間判別回路DTは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの変化から逆送減速期間を判別し、この逆送減速期間を所定期間だけオフディレイした期間中はHighレベルとなる逆送減速期間判別信号Dtを出力する。
【0082】
第3異常電圧除去回路VF3は、上記の電圧検出信号Vd、上記の基準電圧値信号Vc、上記の許容範囲設定信号Hr、上記の電流変化率判別信号Di及び上記の逆送減速期間判別信号Dtを入力として、電流変化率判別信号DiがLowレベルであり、かつ、逆送減速期間判別信号DtがLowレベルであるときに、電圧検出信号vdの値を基準電圧値信号Vcを中心値とする許容範囲Vc±Hr内に制限して、電圧制限値信号vfを出力する。この回路により、アーク期間中の溶接電流の変化率が基準変化率異常となる期間を含む所定期間中又は逆送減速期間を含む所定期間中は異常電圧除去制御が停止(禁止)される。
【0083】
図8は、本発明の実施の形態4に係るアーク溶接電源の出力制御方法を示す図7の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示し、同図(F)は電圧制限値信号Vfの時間変化を示し、同図(G)は電流変化率判別信号Diの時間変化を示し、図6に追加して同図(H)は逆送減速期間判別信号Dtの時間変化を示す。同図は上述した図6と対応しており、同一の動作についての説明は繰り返さない。同図は、同図(H)に示す逆送減速期間判別信号Dtの動作のみが図6と異なっている。以下、同図を参照して逆送減速期間判別信号Dtの動作について説明する。
【0084】
同図において、時刻t4〜t5の期間が逆送減速期間Trdとなるので、同図(H)に示すように、逆送減速期間判別信号Dtは、逆送減速期間Trd+オフディレイ期間中はHighレベルとなる。逆送減速期間判別信号DtがHighレベルの期間中は、異常電圧除去制御は停止される。このようにする理由は、以下のとおりである。Dt=Highレベルの期間中は、アーク期間中であり、かつ、溶接ワイヤを逆送している期間であるので、アーク長が急峻に変化する。これに伴い、溶接電圧Vwも大きく変化する。この溶接電圧Vwの大きな変化を、異常電圧として誤判別するおそれがある。したがって、Dt=Highレベルの期間中は異常電圧除去制御を停止することによって、誤判別を防止している。この結果、アークの安定性をさらに向上させることができる。
【0085】
上述した実施の形態4の発明によれば、送給速度が逆送減速値となる期間を含む所定期間中は、異常電圧除去制御を停止する。これにより、アーク期間中に溶接ワイヤが逆送されたことに伴う溶接電圧の変化を異常電圧であると誤判別することを防止することができる。このために、アークの安定性をさらに向上させることができる。本実施の形態は、実施の形態3を基礎としているが、実施の形態1又は2を基礎としても同様である。
【符号の説明】
【0086】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
AR 不活性ガス比率設定回路
Ar 不活性ガス比率設定信号
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DI 電流変化率判別回路
Di 電流変化率判別信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
DT 逆送減速期間判別回路
Dt 逆送減速期間判別信号
E 出力電圧
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EP 電極プラス極性
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
HR 許容範囲設定回路
Hr 許容範囲設定信号
HR2 第2許容範囲設定回路
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
MS 材質選択回路
Ms 材質選択信号
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電源主回路
R 減流抵抗器
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
STD 小電流期間回路
Std 小電流期間信号
SW 電源特性切換回路
TR トランジスタ
Trd 逆送減速期間
TRDR 逆送減速期間設定回路
Trdr 逆送減速期間設定信号
Trp 逆送ピーク期間
Tru 逆送加速期間
TRUR 逆送加速期間設定回路
Trur 逆送加速期間設定信号
Tsd 正送減速期間
TSDR 正送減速期間設定回路
Tsdr 正送減速期間設定信号
Tsp 正送ピーク期間
Tsu 正送加速期間
TSUR 正送加速期間設定回路
Tsur 正送加速期間設定信号
VC 基準電圧設定回路
Vc 基準電圧値信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VF 異常電圧除去回路
Vf 電圧制限値信号
VF2 第2異常電圧除去回路
VF3 第3異常電圧除去回路
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WL リアクトル
WM 送給モータ
Wrp 逆送ピーク値
WRR 逆送ピーク値設定回路
Wrr 逆送ピーク値設定信号
Wsp 正送ピーク値
WSR 正送ピーク値設定回路
Wsr 正送ピーク値設定信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8