(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-83395(P2018-83395A)
(43)【公開日】2018年5月31日
(54)【発明の名称】タイヤの加硫方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20180427BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20180427BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20180427BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
B29L30:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-229236(P2016-229236)
(22)【出願日】2016年11月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 彰
【テーマコード(参考)】
4F202
4F203
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AH20
4F202CA21
4F202CB01
4F202CU01
4F202CX10
4F202CZ04
4F203AB03
4F203AH20
4F203AR07
4F203AR11
4F203DA11
4F203DB01
4F203DC01
4F203DL10
4F203DL12
(57)【要約】
【課題】2ピースモールドを用いたタイヤの加硫方法において、サイクルタイムに影響を及ぼすことなく、タイヤを確実に離型させてスムーズに取り出せるようにする。
【解決手段】まず、型開き状態にあるモールド1に未加硫のタイヤTをセットする。次に、モールド1を型閉め状態とし、互いに密着させた上型11と下型12をタイヤTの外面に押し当てるとともに、膨張させたブラダー2をタイヤTの内面に押し当てて、タイヤTの加硫を行う。タイヤTの加硫後、上型11を上昇させて下型12から分離し、モールド1を型開き状態にする。そして、型開き状態にあるモールド1から加硫後のタイヤTを取り出す。モールド1を型開き状態にする工程では、上型11の上昇動作を一時停止することなく連続的に行い、その上昇動作の途中でブラダー2を膨張させることにより上型11と下型12の両方から離れた高さでタイヤTを一時的に保持する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ径方向に沿って延びた分割面によって上型と下型に分割されているモールドを用いたタイヤの加硫方法において、
型開き状態にある前記モールドに未加硫のタイヤをセットする工程と、
前記モールドを型閉め状態とし、互いに密着させた前記上型と前記下型を前記タイヤの外面に押し当てるとともに、膨張させたブラダーを前記タイヤの内面に押し当てて、前記タイヤの加硫を行う工程と、
前記タイヤの加硫後、前記上型を上昇させて前記下型から分離し、前記モールドを型開き状態にする工程と、
型開き状態にある前記モールドから加硫後の前記タイヤを取り出す工程とを有し、
前記モールドを型開き状態にする工程では、前記上型の上昇動作を一時停止することなく連続的に行い、その上昇動作の途中で前記ブラダーを膨張させることにより前記上型と前記下型の両方から離れた高さで前記タイヤを一時的に保持することを特徴とするタイヤの加硫方法。
【請求項2】
前記上型が上昇動作を開始する前に前記ブラダーを収縮させておく請求項1に記載のタイヤの加硫方法。
【請求項3】
前記モールドを型開き状態にする工程では、前記上型と前記下型との間隔が全開時の30%以上となる段階で、膨張させた前記ブラダーにより前記タイヤを保持する請求項1または2に記載のタイヤの加硫方法。
【請求項4】
前記モールドを型開き状態にする工程では、前記上型と前記下型との間隔が全開時の50%を超えない段階で、膨張させた前記ブラダーにより前記タイヤを保持する請求項1〜3いずれか1項に記載のタイヤの加硫方法。
【請求項5】
前記分割面がタイヤ赤道位置よりも上方または下方に設定されている請求項1〜4いずれか1項に記載のタイヤの加硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる2ピースモールドを用いたタイヤの加硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの加硫に用いられるモールドとして、いわゆる2ピースモールドが知られている(例えば、特許文献1〜3)。2ピースモールドは、タイヤ径方向に沿って延びた分割面により分割された上型と下型を備え、タイヤの加硫時には、それらが互いに密着して型閉め状態となる。加硫後は、上型が上昇して下型から分離し、型開き状態となったモールドから加硫済みタイヤが取り出される。
【0003】
加硫後のタイヤが上型または下型に密着することにより、タイヤをスムーズに取り出せないことがある。この密着したタイヤを引き離す作業は、モールドの動作を一時的に停止させて行われるため、サイクルタイムが延びてしまい、生産性が悪化する。したがって、加硫のサイクルタイムに影響を及ぼすことなく、タイヤを確実に離型させてスムーズな取り出しを可能とする手法の提案が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−31782号公報
【特許文献2】特開平8−169018号公報
【特許文献3】特開2007−185855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、2ピースモールドを用いたタイヤの加硫方法において、サイクルタイムに影響を及ぼすことなく、タイヤを確実に離型させてスムーズに取り出せるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るタイヤの加硫方法は、タイヤ径方向に沿って延びた分割面によって上型と下型に分割されているモールドを用いたタイヤの加硫方法において、型開き状態にある前記モールドに未加硫のタイヤをセットする工程と、前記モールドを型閉め状態とし、互いに密着させた前記上型と前記下型を前記タイヤの外面に押し当てるとともに、膨張させたブラダーを前記タイヤの内面に押し当てて、前記タイヤの加硫を行う工程と、前記タイヤの加硫後、前記上型を上昇させて前記下型から分離し、前記モールドを型開き状態にする工程と、型開き状態にある前記モールドから加硫後の前記タイヤを取り出す工程とを有し、前記モールドを型開き状態にする工程では、前記上型の上昇動作を一時停止することなく連続的に行い、その上昇動作の途中で前記ブラダーを膨張させることにより前記上型と前記下型の両方から離れた高さで前記タイヤを一時的に保持するものである。
【0007】
この方法では、いわゆる2ピースモールドを用いてタイヤを加硫するに際し、上型の上昇動作を一時停止することなく連続的に行うので、サイクルタイムに影響を及ぼさず、したがって生産性を悪化させない。そして、その上型の上昇動作の途中でブラダーを膨張させることにより上型と下型の両方から離れた高さでタイヤを一時的に保持するため、タイヤを確実に離型させることができ、スムーズな取り出しが可能となる。
【0008】
前記上型が上昇動作を開始する前に前記ブラダーを収縮させておくことが好ましい。ブラダーを収縮させることにより、タイヤ(特にトレッド)が多少変形しうる状態になる。それ故、上型が上昇動作を開始したときに、その上型の溝形成用突起がトレッドから抜け出しやすくなり、上昇動作を円滑に開始することができる。
【0009】
前記モールドを型開き状態にする工程では、前記上型と前記下型との間隔が全開時の30%以上となる段階で、膨張させた前記ブラダーにより前記タイヤを保持することが好ましい。かかる方法によれば、タイヤが下型に密着した状況において、膨張させたブラダーにより下型から引き離したタイヤが、その反動で上型に衝突することを防止できる。タイヤが上型に衝突した場合には、タイヤが外傷を負ったり、上型が損傷を受けたりすることが懸念される。
【0010】
前記モールドを型開き状態にする工程では、前記上型と前記下型との間隔が全開時の50%を超えない段階で、膨張させた前記ブラダーにより前記タイヤを保持することが好ましい。かかる方法によれば、タイヤが上型に密着した状況において、膨張させたブラダーにより上型から引き離したタイヤが、その反動で強く振り下ろされる現象を防止できる。タイヤが強く振り下ろされると、下型に衝突したタイヤが外傷を負ったり、下型が損傷を受けたりする懸念がある。
【0011】
前記分割面がタイヤ赤道位置よりも上方または下方に設定されていることが好ましい。分割面がタイヤ赤道位置よりも上方に設定されている場合には、タイヤが下型に密着しやすい傾向にあるため、ブラダーを膨張させるタイミングなどの条件設定に役立てられる。逆の場合には、タイヤが上型に密着しやすい傾向にあり、これも同様である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】空気入りタイヤの加硫に用いられるモールドの一例を概略的に示す断面図
【
図3】上型の上昇動作の途中段階におけるモールドを示す断面図
【
図4】モールドの型開き率及びブラダーの内圧の経時的変化を示すグラフ
【
図5】上型が上昇動作を開始する直前のモールドを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、空気入りタイヤの加硫に用いられるモールド1を示す。モールド1は、タイヤ径方向(
図1の左右方向)に沿って延びた分割面10によって上型11と下型12に分割された、いわゆる2ピースモールドである。図示していないが、上型11と下型12には、トレッドと接触する部分に溝形成用突起が設けられている。モールド1の内部には、ゴム袋状のブラダー2が配置されている。ブラダー2は、加熱加圧媒体が供給されることによって膨張し、加硫時にはタイヤの内面に押し当てられる。
【0015】
モールド1は、上型11と下型12とが互いに分離した型開き状態(
図1参照)と、上型11と下型12とが互いに密着した型閉め状態(
図2参照)との間で、開閉自在に構成されている。型開き状態では、タイヤの出し入れが可能となる。型閉め状態では、後述する間隔Gと型開き率が共にゼロである。図示していないが、モールド1には、モールド1の開閉動作を行う移動機構や、上型11と下型12を加熱する加熱手段、モールド1やブラダー2など各部材の動作を制御する制御部が設けられており、これらには従来公知の構成を適用可能である。
【0016】
このモールド1を用いたタイヤの加硫方法について説明する。まず、型開き状態にあるモールド1に、
図1では図示しない未加硫のタイヤTをセットする。タイヤTは、タイヤ軸方向を上下に向けてセットされる。タイヤTをセットしたら、上型11を下降させてモールド1を型閉め状態とし、
図2に示すように、互いに密着させた上型11と下型12をタイヤTの外面に押し当てるとともに、膨張させたブラダー2をタイヤTの内面に押し当てて、タイヤTの加硫を行う。加硫においては、従来公知の加硫条件を適用することができる。
【0017】
タイヤTの加硫後、上型11を上昇させて下型12から分離し、モールド1を型開き状態にする。この上型11の上昇動作は、下型12に対して上型11を相対的に上昇させる動作であればよい。一般には、上型11が鉛直方向に沿って上昇する。そして、その型開き状態にあるモールド1から加硫後のタイヤTを取り出す。このとき、加硫後のタイヤTが上型11または下型12に密着することにより、タイヤTをスムーズに取り出せない場合があるため、本実施形態では、モールド1を型開き状態にする工程を下記のように実行する。
【0018】
即ち、モールド1を型開き状態にする工程では、上型11の上昇動作を一時停止することなく連続的に行い、その上昇動作の途中でブラダー2を膨張させることにより上型11と下型12の両方から離れた高さでタイヤTを一時的に保持する。
図3は、上型11の上昇動作の途中で膨張させたブラダー2によってタイヤTを保持した状態を示しており、上型11と下型12の両方からタイヤTが離れている。これにより、サイクルタイムに影響を及ぼすことなく、タイヤTを確実に離型させてスムーズに取り出すことができる。
【0019】
図4のグラフは、モールド1の型開き率及びブラダー2の内圧の経時的変化を示している。横軸の時間は、上型11が上昇動作を開始する時点を原点とする。縦軸の型開き率は、全開時における上型11と下型12との間隔Gmaxに対する、上型11と下型12との間隔Gの比G/Gmax(%)として求められる。全開時は、下型12に密着した上型11が真上に移動して最も高い位置にある時点を指すが、間隔Gmaxは最大でもタイヤ幅TW(タイヤTの断面幅)の1.5倍とする。モールド1のタイプによっては、全開時から上型11が水平移動したり90度回転したりする場合がある。
【0020】
図4のように、時間の経過に対してモールド1の型開き率は直線的に変化しており、上型11の上昇動作は一時停止することなく連続的に行われる。よって、サイクルタイムが悪化しないという既述の効果とともに、移動機構の負荷を軽減しうるという利点も得られる。また、
図4のように、上型11の上昇動作の途中段階において、ブラダー2の内圧が一時的に高い。この内圧の高いピーク付近ではブラダー2が
図3のように膨張し、これにより上型11及び下型12からタイヤTが確実に引き離される。このブラダー2の再膨張は短時間でよく、例えば3〜4秒に設定される。
【0021】
本実施形態では、
図5に例示するように、上型11が上昇動作を開始する前にブラダー2を収縮させておく。ブラダー2は、加熱加圧媒体が排出されることによって収縮する。収縮させたブラダー2はタイヤTの内面に押し当たらないため、タイヤT(特にトレッド)が多少変形しうる状態になる。その結果、上型11が上昇動作を開始したときに、溝形成用突起がトレッドから抜け出しやすくなるので、上昇動作を円滑に開始できる。2ピースモールドでは、いわゆるセグメンテッドモールドとは異なり、溝形成用突起を有する部材がタイヤ軸方向に沿って移動するので、かかる方法が有用となる。
【0022】
モールド1を型開き状態にする工程では、上型11と下型12との間隔Gが全開時の30%以上となる段階(即ち、型開き率が30%以上の段階)で、膨張させたブラダー2によりタイヤTを保持することが好ましい。かかる方法によれば、タイヤTが下型12に密着した状況において、膨張させたブラダー2により下型12から引き離したタイヤTが、その反動で上型11に衝突することを防止できる。タイヤTが上型11に衝突した場合には、タイヤTが外傷を負ったり、上型11が損傷を受けたりすることが懸念される。
【0023】
また、モールド1を型開き状態にする工程では、上型11と下型12との間隔Gが全開時の50%を超えない段階(即ち、型開き率が50%以下の段階)で、膨張させたブラダー2によりタイヤTを保持することが好ましい。かかる方法によれば、タイヤTが上型11に密着した状況において、膨張させたブラダー2により上型11から引き離したタイヤTが、その反動で強く振り下ろされることを防止できる。タイヤTが強く振り下ろされた場合には、下型12に衝突したタイヤTが外傷を負ったり、下型12が損傷を受けたりすることが懸念される。
【0024】
タイヤTが外傷を負ったり下型12が損傷を受けたりすることを防止する観点から、ブラダー2の膨張は、間隔Gがタイヤ幅TWの3%となるまでに完了しておくことが好ましい。
【0025】
本実施形態では、
図2のように、分割面10がタイヤ赤道位置TE(タイヤ幅方向の中心位置)よりも上方に設定されている。この場合、上型11よりも下型12の方が厚い形状となり、タイヤTが下型12に密着しやすい傾向となる。かかる傾向を踏まえ、例えば、上述のように型開き率が30%以上の段階でブラダー2によりタイヤTが保持される条件設定にすることで、その実効性が高められる。タイヤ赤道位置TEを基準とした分割面10の位置ずれは、例えば2mm以上であるが、本発明は、かかる位置ずれを有するものに限られない。
【0026】
分割面10はタイヤ赤道位置TEよりも下方に設定されていてもよい。その場合、下型12よりも上型11の方が厚い形状となり、タイヤTが上型11に密着しやすい傾向となる。そのため、例えば、上述のようにブラダー2の膨張が型開き率50%以下の段階でブラダー2によりタイヤTが保持される条件設定にすることで、その実効性が高められる。なお、上型11からタイヤTを引き離す場合の抵抗は比較的に大きいため、移動機構などの負荷を考慮すると、本実施形態のように下型12の方を厚くすることが好ましい。
【0027】
既述のように、モールド1を型開き状態にする工程の後で、そのモールド1から加硫後のタイヤTが取り出される。
図4のように、モールド1からタイヤTを取り出すまでに、更に言えばモールド1が全開時となるまでには、ブラダー2を収縮させることになる。タイヤTを取り出した後は
図1に示す状態となり、別の未加硫タイヤをセットできる。
【0028】
本発明に係るタイヤの加硫方法は、2ピースモールドを用いてタイヤの加硫を行うに際し、モールドを型開き状態にする工程を上記の如く実施する点を除けば、通常のタイヤの加硫方法と同様であり、従来公知の工程や装置などは何れも本発明に適用できる。
【0029】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 モールド
2 ブラダー
10 分割面
11 上型
12 下型
T タイヤ