【解決手段】台車1と車体2間に設けた空気ばね3と、空気ばねに供給する圧力気体を貯留する元空気ダメ4と、空気ばねと元空気ダメとの間に接続され車高値を保持又は変更する高さ調整弁5と、車高値を検出する車高値センサ51と、高さ調整弁を制御する制御装置6とを備えた鉄道車両の高さ調整装置10である。車体に振動センサ7を備え、制御装置は、振動センサの信号に基づいて車体が上昇中と判断した場合には、空気ばねが短縮するときにのみ、その空気ばねを制御する高さ調整弁に排気の制御指令を出し、振動センサの信号に基づいて車体が下降中と判断した場合には、空気ばねが伸長するときにのみ、その空気ばねを制御する高さ調整弁に給気の制御指令を出す。
台車と車体間の左右それぞれに設けた空気ばねと、前記空気ばねに供給する圧力気体を貯留する元空気ダメと、前記空気ばねと前記元空気ダメとの間に接続され前記台車に対する前記車体の高さである車高値を保持又は変更する左右の高さ調整弁と、前記車高値を検出する左右の車高値センサと、軌道の曲線情報及び前記車高値センサからの車高値データに基づいて前記高さ調整弁を制御する制御装置とを備えた鉄道車両の高さ調整装置であって、
前記車体には、前記制御装置に接続された振動センサを備え、前記制御装置は、前記振動センサの信号に基づいて前記車体が上昇中と判断した場合には、前記空気ばねが短縮するときにのみ、その空気ばねを制御する高さ調整弁に排気の制御指令を出し、前記振動センサの信号に基づいて前記車体が下降中と判断した場合には、前記空気ばねが伸長するときにのみ、その空気ばねを制御する高さ調整弁に給気の制御指令を出すことを特徴とする鉄道車両の高さ調整装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道車両では、車体と台車間の左右それぞれに設けた空気ばねの高さを所定の高さに保持し、又は変更するための高さ調整装置が取り付けられており、従来より、この高さ調整装置に車高指令を付与し、台車に対して車体を所定の高さに保持したり、傾斜させる制御が実施されている。そのため、鉄道車両が、例えば、曲線区間を走行する際には、車体を内軌側に傾斜させることによって過大な遠心力を抑制して、高速走行を維持しつつ乗員及び乗客に対する乗り心地の悪化を防止することができる。
【0003】
しかし、近年の鉄道車両の軽量化等に伴い、レールの繋ぎ目や偏摩耗など軌道状態の悪い区間を走行する場合には、車体の上下振動(1Hz付近)及びロール振動(0.5Hz付近)等が大きくなり、乗り心地が低下する問題があった。
【0004】
この問題を解決するため、例えば、特許文献1には、
図9に示すように、車体101と台車102間の左右それぞれに設けた空気ばね103を用いて鉄道車両の車体傾斜制御を行う装置において、それぞれの空気ばね103と、これら空気ばね103に供給する気体を溜める元圧だめ104とを接続する配管105の途中に、非傾斜制御時、空気ばね103の高さを中立位置に保つ高さ調整弁106と、この高さ調整弁106と直列に設けられ、車体傾斜制御時に閉じて高さ調整弁106を無効にする切換え弁107と、空気ばね103からの排気を制御する排気制御電磁弁108と、空気ばね103への給気を制御する給気制御電磁弁109と、この給気制御電磁弁109と並列に流量比例制御弁110とを設けると共に、曲線情報および空気ばね103の変位情報から空気ばね103を目標高さに制御するための制御信号を算出し、前記の各弁を制御する制御器111を備えたことを特徴とする鉄道車両の車体傾斜制御装置100(高さ調整装置の相当)が開示されている。
【0005】
また、上記制御器111は、取り込まれた前記情報中に曲線情報が存在する時には、切換え弁107を閉じて高さ調整弁106を無効化した後に制御信号を算出して、排気制御電磁弁108および給気制御電磁弁109を制御して車体傾斜制御を行う一方、流量比例制御弁110を制御して軌道外乱や縦曲線に起因する振動を吸収することを特徴とする。
【0006】
なお、高さ調整弁106は、回転レバーの弁本体に対する回転角度によって空気ばね103に給排気を行い、空気ばね103の高さを中立位置に保つ機能を備えている。この高さ調整弁106は、車体傾斜を妨げる働きをするため、車体傾斜制御中は高さ調整弁106と直列に設けた切換え弁107を閉じることで高さ調整弁106を無効にする。また、空気ばね103の変位情報は、車体101の上下動と連動して回転する回転レバーの回転角度を読み取ることで空気ばね103の高さを計測し、電気信号に変換する高さセンサ112から得ている。
【0007】
ここで、曲線区間における外軌側の空気ばね103は、車体傾斜制御時に伸縮させる必要があり、外軌側の空気ばね103に給排気する空気の量は多い。これに対して、曲線区間における内軌側の空気ばね103は、車両の構造上動く範囲が小さく、給排気が必要な空気の量は少ない。さらに、空気ばね103は伸びると上下剛性が上昇するという特性を有しており、伸ばされた曲線区間外軌側の空気ばね103は、外乱による振動が発生しにくい。
【0008】
したがって、上記鉄道車両の車体傾斜制御装置100では、曲線区間において、内軌側の空気ばね103の制御は、連続的に流量制御ができる流量比例制御弁110のみを使用して行い、外軌側の空気ばね103の制御は、大流量を扱える電磁弁(108、109)を主に使用することによって、車体101の傾斜制御を行いつつ空気ばね振動も抑制でき、良好な乗り心地が期待できると考えたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の車体傾斜制御装置100では、曲線区間において、高さ調整弁106を無効にした上で、内軌側の空気ばね103の制御は、連続的に流量制御ができる流量比例制御弁110のみを使用して行い、外軌側の空気ばね103の制御は、大流量を扱える電磁弁(108、109)を主に使用して行う構造である。そのため、空気ばね103の高さを制御する上で、高さ調整弁106の他に、切換え弁107、排気制御電磁弁108、給気制御電磁弁109、流量比例制御弁110などが必要となり、装置の複雑化とそれに伴いコストの大幅な増加が問題となった。
【0011】
また、上記車体傾斜制御装置100では、制御器111が、軌道の曲線情報および空気ばね103の変位情報から空気ばね103を目標高さに制御するための制御信号を算出して各弁を制御し、車体の上下振動やロール振動等の振動情報を各弁の制御指令に直接反映するものではない。そのため、乗り心地に影響する車体の振動を効果的に低減しにくいという問題があった。
【0012】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、簡単な構造で、車高制御及び傾斜制御が可能であって、乗り心地に影響する車体の振動を効果的に低減できる鉄道車両の高さ調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄道車両の高さ調整装置は、以下の構成を備えている。
(1)台車と車体間の左右それぞれに設けた空気ばねと、前記空気ばねに供給する圧力気体を貯留する元空気ダメと、前記空気ばねと前記元空気ダメとの間に接続され前記台車に対する前記車体の高さである車高値を保持又は変更する左右の高さ調整弁と、前記車高値を検出する左右の車高値センサと、軌道の曲線情報及び前記車高値センサからの車高値データに基づいて前記高さ調整弁を制御する制御装置とを備えた鉄道車両の高さ調整装置であって、
前記車体には、前記制御装置に接続された振動センサを備え、前記制御装置は、前記振動センサの信号に基づいて前記車体が上昇中と判断した場合には、前記空気ばねが短縮するときにのみ、その空気ばねを制御する高さ調整弁に排気の制御指令を出し、前記振動センサの信号に基づいて前記車体が下降中と判断した場合には、前記空気ばねが伸長するときにのみ、その空気ばねを制御する高さ調整弁に給気の制御指令を出すことを特徴とする。
【0014】
本発明においては、車体には、制御装置に接続された振動センサを備え、制御装置は、振動センサの信号に基づいて車体が上昇中と判断した場合には、空気ばねが短縮するときにのみ、その空気ばねを制御する高さ調整弁に排気の制御指令を出し、振動センサの信号に基づいて車体が下降中と判断した場合には、空気ばねが伸長するときにのみ、その空気ばねを制御する高さ調整弁に給気の制御指令を出すので、軌道の曲線情報又は車高値センサからの車高値データに基づいて車高制御又は傾斜制御を行いつつ、カルノップ切替則を応用して、車体の振動を効果的に減少させることができる。その結果、車高制御又は傾斜制御と同時に、車体の振動を抑制できる制御を行い、車体の振動に伴う加速度のピークも下げることによって、乗り心地を向上させることができる。
【0015】
よって、本発明によれば、振動センサを車体に備えるという簡単な構造で、車高制御及び傾斜制御が可能であって、乗り心地に影響する車体の振動を効果的に低減できる鉄道車両の高さ調整装置を提供することができる。
【0016】
(2)(1)に記載された鉄道車両の高さ調整装置において、
前記振動センサとして、前記車体の上下方向振動センサと前記車体のロール方向振動センサの内、いずれか一方又はその両方を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明においては、振動センサとして、車体の上下方向振動センサと車体のロール方向振動センサの内、いずれか一方又はその両方を備えたので、車体の上下並進振動とロール振動の内、いずれか一方又はその両方について、効果的に減少させることができる。
【0018】
(3)(2)に記載された鉄道車両の高さ調整装置において、
前記制御装置は、前記上下方向振動センサの信号に基づく上下制御指令と、前記ロール方向振動センサの信号に基づくロール制御指令とを比較し、いずれか大きい方に基づいて前記高さ調整弁に給排気の制御指令を出すことを特徴とする。
【0019】
本発明においては、制御装置は、上下方向振動センサの信号に基づく上下制御指令と、ロール方向振動センサの信号に基づくロール制御指令とを比較し、いずれか大きい方に基づいて高さ調整弁に給排気の制御指令を出すので、車体の上下並進振動とロール振動との間で、より大きな振動を効果的に減少させることができる。
【0020】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された鉄道車両の高さ調整装置において、
前記高さ調整弁には、前記台車と連結された回動レバー部を備え、前記回動レバー部の弁本体に対する回動角度に基づいて前記車高値を検出する車高値センサを備えたことを特徴とする。
【0021】
本発明においては、高さ調整弁には、台車と連結された回動レバー部を備え、前記回動レバー部の弁本体に対する回動角度に基づいて車高値を検出する車高値センサを備えたので、高さ調整弁に車高値センサを一体化させることによって、装置の構造をより一層簡素化させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡単な構造で、車高制御及び傾斜制御が可能であって、乗り心地に影響する車体の振動を効果的に低減できる鉄道車両の高さ調整装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。はじめに、本実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置の全体構成を説明し、曲線区間における傾斜動作の指令方法を説明した上で、本実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置による振動抑制に関する制御指令の算出方法を説明する。また、車体の振動低減効果についても説明する。
【0025】
<本高さ調整装置の全体構成>
まず、本実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置の全体構成について、
図1を用いて説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置の全体構成図を示す。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係る鉄道車両20の高さ調整装置10には、台車1と車体2間の左右それぞれに設けた空気ばね3、3と、空気ばね3、3に供給する圧力気体を貯留する元空気ダメ4と、空気ばね3、3と元空気ダメ4との間に接続され台車1に対する車体2の高さである車高値を保持又は変更する左右の自動高さ調整機能付きの高さ調整弁5、5と、車高値を検出する左右の車高値センサ51、51と、軌道8の曲線情報及び車高値センサ51、51からの車高値データに基づいて高さ調整弁5、5を制御する制御装置6とを備えている。
【0027】
また、高さ調整弁5、5は、台車1と連結ロッド部511、511を介して回動可能に連結された回動レバー部512、512を有し、回動レバー部512、512の弁本体に対する回動角度に基づいて車高値を検出する車高値センサ51、51(レゾルバ)を備えている。鉄道車両20が、曲線区間を走行するときには、レゾルバとしての車高値センサ51、51を機能させて車体傾斜を行うため、高さ調整弁5、5の給排気が止まる中立位置を、外軌82側は高く、内軌81側は低くなるように制御する。この制御は、連結ロッド部511、511の長さを見かけ上伸縮させることで行う。
【0028】
また、車体2には、制御装置6の演算部62に接続された振動センサ7(71、72)を備えている。振動センサ7(71、72)としては、台車1毎に車体2の上下方向の振動を検出する上下方向振動センサ71を1つ備え、車体2毎に車体2のロール方向の振動を検出するロール方向振動センサ72を1つ備えている(
図1、
図4を参照)。なお、振動センサ7として、上下方向振動センサ71とロール方向振動センサ72の内、そのいずれか一方を備えてもよい。
【0029】
また、制御装置6の演算部62は、振動センサ7(71、72)の信号に基づいて車体2が上昇中と判断した場合には、空気ばね3が短縮するときにのみ、その空気ばね3を制御する高さ調整弁5に排気の制御指令を出し、また、振動センサ7(71、72)の信号に基づいて車体2が下降中と判断した場合には、空気ばね3が伸長するときにのみ、その空気ばね3を制御する高さ調整弁5に給気の制御指令を出すように構成されている。
【0030】
また、台車1に懸架された車軸11には、速度センサ12が装着されている。速度センサ12は、制御装置6の地点検知部61に接続されていて、速度センサ12の速度信号が地点検知部61に伝達される。地点検知部61には、軌道8に設置された地上子13からの位置信号が伝達される。地点検知部61は、速度信号と位置信号を演算部62に伝達する。演算部62は、速度信号等から現在の走行位置を算出し、路線データ部63に記憶された曲線区間の曲率やカント量等の路線データを基に、適切な傾斜タイミングを判断して制御指令(傾斜指令)を出し、高さ調整弁5、5及びブースト装置53を駆動させる。
【0031】
<曲線区間における傾斜動作の指令方法>
次に、本実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置による、曲線区間における傾斜動作の指令方法を、
図2、
図3を用いて説明する。
図2に、
図1に示す鉄道車両の曲線区間通過時の概略断面図を示す。
図3に、
図1に示す鉄道車両の曲線区間における傾斜動作のタイミング模式図を示す。
図3(a)は曲線区間の経路を表す模式図を示し、
図3(b)は実カーブ形状の曲率の大きさを表す模式図を示し、
図3(c)は傾斜指令のタイミング図を示し、
図3(d)は傾斜角度の大きさを表す模式図を示す。
【0032】
図2に示すように、鉄道車両20が曲線区間を通過するときには、遠心力による乗り心地の低下を抑制すべく、内軌81側の空気ばね3を短縮させ、外軌82側の空気ばね3を伸長させて、車体2を台車1に対して内軌81側へ傾斜させる。そして、
図3に示すように、曲線区間における傾斜動作のタイミングを、曲線区間の曲率やカント量等の路線データを基に、以下のように設定する。
【0033】
すなわち、
図3(a)に示すように、鉄道車両20が走行する曲線区間の経路には、入口側緩和曲線始点R1と、入口側緩和曲線終点R2と、出口側緩和曲線始点R3と、出口側緩和曲線終点R4とが、順に形成されている。また、
図3(b)に示すように、曲線区間における実カーブ形状の曲率Kは、入口側緩和曲線始点R1と入口側緩和曲線終点R2との間で“0”から徐々に増加し、入口側緩和曲線終点R2と出口側緩和曲線始点R3との間で略一定の値を維持し、出口側緩和曲線始点R3と出口側緩和曲線終点R4との間で徐々に減少して“0”になるように形成されている。そして、
図3(c)に示すように、制御上の遅れ時間を考慮して、入口側緩和曲線始点R1より僅かに手前の地点Aで傾斜指令Jを出し、出口側緩和曲線始点R3より僅かに手前の地点Bで傾斜指令Jを停止する。その結果、
図3(d)に示すように、車体2の傾斜角Lは、実カーブ形状の曲率Kの変化に略近似できるようになっている。
【0034】
<振動抑制に関する制御指令の算出方法>
次に、本実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置による振動抑制に関する制御指令の算出方法を、
図4〜
図6を用いて説明する。
図4に、
図1に示す高さ調整装置のセンサ出力説明用の模式的断面図を示す。
図5に、
図1に示す高さ調整装置の指令算出ブロック図を示す。
図6に、
図1に示す高さ調整装置の制御出力選択ブロック図を示す。
【0035】
図4に示すように、本高さ調整装置10には、台車1と車体2間の左右それぞれに設けた空気ばね3、3を、車両の前後で各1つ備えている。ここでは、図右側の空気ばね3の内、車両前側の空気ばね3を1位の空気ばね3と云い、車両後側の空気ばね3を3位の空気ばね3と云う。また、図左側の空気ばね3の内、車両前側の空気ばね3を2位の空気ばね3と云い、車両後側の空気ばね3を4位の空気ばね3と云う。ここでは、1位、3位の空気ばね3の高さを、同一の高さに制御するため、1位、3位の空気ばね3に対応する高さ調整弁5には、同一の制御指令を出す。また、2位、4位の空気ばね3の高さを、同一の高さに制御するため、2位、4位の空気ばね3に対応する高さ調整弁5には、同一の制御指令を出す。
【0036】
また、台車1毎に車体2の上下方向の振動を検出する上下方向振動センサ71を1つ備え、車体2毎に車体2のロール方向の振動を検出するロール方向振動センサ72を1つ備えている。
図4において、センサ出力の増加方向を矢印+(プラス)で表している。例えば、上下方向振動センサ71の信号は、その増加方向を上方への矢印+で示している。また、ロール方向振動センサ72の信号は、その増加方向を反時計方向への矢印+で示している。
【0037】
また、
図5に示すように、本高さ調整装置10における制御指令の算出は、以下の手順(S1〜S5)に従って行う。まず、手順S1において、上下方向振動センサ71及びロール方向振動センサ72からの各信号を、制御装置6の演算部62に入力する(
図1を参照)。演算部62は、各信号から、例えば上下加速度及びロール角速度を算出する。
【0038】
次に、手順S2において、車高値センサ51(レゾルバ)からの各車高値データを、制御装置6の演算部62に入力する。演算部62は、各車高値データから1位、3位の空気ばね3の平均高さ(1、3位平均車高値)と、2位、4位の空気ばね3の平均高さ(2、4位平均車高値)とを算出する。
【0039】
次に、手順S3において、車体ロール振動を抑制するため、高さ調整弁5の作動アンプに出す給排気の制御指令を算出する。すなわち、手順S1で算出したロール角速度と、手順S2で算出した1、3位平均車高値及び2、4位平均車高値とを、下限周波数と上限周波数の遮断周波数を設定したバンドパスフィルタ(BPF)で処理し、BPF処理したロール角速度を微分してロール角加速度を算出した後、1、3位ロール制御指令と2、4位ロール制御指令とを給排気の制御指令(高さ指令)として出力する。
【0040】
本高さ調整装置10による制御では、給排気のみ制御可能であり、車体2と台車1間の上下力を発生することができないため、カルノップ切替則を応用し、アンロード(発生力≒0)としたい場合のみ給排気を実施する。具体的には、車体2が1、3位側から2、4位側へ回転すると、ロール角加速度は「+」となる。台車1からの振動を絶縁するためには、1、3位の空気ばね3が短縮したとき(2、4位の空気ばね3が伸長したとき)に高さ調整弁5をアンロードとする。
【0041】
すなわち、制御装置6は、ロール角加速度が増加方向に変化するとき(「+」のとき)、1、3位の空気ばね3が伸長する場合には指令無しで、当該空気ばね3が短縮する場合にのみ排気指令を出す。また、制御装置6は、ロール角加速度が減少方向に変化するとき(「−」のとき)、1、3位の空気ばね3が短縮する場合には指令無しで、当該空気ばね3が伸長する場合にのみ給気指令を出す。
【0042】
次に、手順S4において、車体上下振動を抑制するため、高さ調整弁5の作動アンプに出す給排気の制御指令を算出する。手順S1で算出した上下加速度と、手順S2で算出した1、3位平均車高値及び2、4位平均車高値とを、下限周波数と上限周波数の遮断周波数を設定したバンドパスフィルタ(BPF)で処理した後、1、3位上下制御指令と2、4位上下制御指令とを給排気の制御指令(高さ指令)として出力する。
【0043】
なお、車体2が上昇すると、上下加速度は「+」となる(
図4を参照)。台車1からの振動を絶縁するためには、制御装置6は、上下加速度が増加方向に変化するとき(「+」のとき)、空気ばね3が伸長する場合には指令無しで、当該空気ばね3が短縮する場合にのみ排気指令を出す。また、制御装置6は、上下加速度が減少方向に変化するとき(「−」のとき)、空気ばね3が短縮する場合には指令無しで、当該空気ばね3が伸長する場合にのみ給気指令を出す。つまり、制御装置6は、振動センサ7(71、72)の信号に基づいて車体2が上昇中と判断した場合には、空気ばね3が短縮するときにのみ、その空気ばね3を制御する高さ調整弁5に排気の制御指令を出し、振動センサ7の信号に基づいて車体2が下降中と判断した場合には、空気ばね3が伸長するときにのみ、その空気ばね3を制御する高さ調整弁5に給気の制御指令を出す。
【0044】
次に、手順S5において、手順S3にて算出したロール制御の制御指令(高さ指令)と、手順S4にて算出した上下制御の制御指令(高さ指令)に対して、振動抑制を効果的に行うために、出力信号の組合せをパラメータにて決定する。すなわち、
図6に示すように、ロール制御高さ指令と上下制御高さ指令の選択をパラメータで切り替える。また、選択した制御出力に対して、上限値を設定する。
【0045】
そして、軌道8の曲線情報から算出される傾斜指令が、スタンバイ上昇あるいは傾斜状態(標準高さ以外)となった場合に、アンチローリング制御高さ指令(制御指令)として、1、3位高さ指令と2、4位高さ指令を出力する。傾斜指令が標準高さの場合には、アンチローリング制御高さ指令は“0”となる。
【0046】
<車体の振動低減効果>
次に、本高さ調整装置10による車体の振動低減効果を、車体のロール角速度の例で、
図7、
図8を用いて説明する。
図7に、実車走行試験において従来と本実施形態による車体のロール角速度の走行位置分布図を示す。
図7(a)は従来構造の高さ調整装置による車体のロール角速度を示し、
図7(b)は本実施形態の高さ調整装置によるロール角速度を示す。
図8は、ロール角速度PSD(パワースペクトル密度)の周波数分布図を示す。
【0047】
図7に示すように、従来構造(振動低減制御無し)の高さ調整装置によるロール角速度の測定結果(
図7(a))と、本実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置10によるロール角速度の測定結果(
図7(b))とを、実車走行試験における走行位置で比較する。
図7(a)及び
図7(b)に示すロール角速度の測定結果は、縦軸にロール角速度の±方向の大きさを表わし、横軸に車両の走行位置を表す。
【0048】
図7(a)に示すように、従来構造(振動低減制御無し)の高さ調整装置によれば、レール継ぎ目に起因すると思われる範囲X1におけるロール角速度の最大振幅が、αであったが、
図7(b)に示すように、本実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置10によれば、同範囲X2におけるロール角速度の最大振幅は、β(≒α×0.8)であった。したがって、本実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置10によれば、ロール角速度の最大振幅において、略20%減の効果が認められる。この低減効果は、明らかに乗り心地に影響を与えるものと認められる。
【0049】
また、
図8に示すように、従来構造(振動低減制御無し)の高さ調整装置によるロール角速度PSDの測定結果と、本実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置10によるロール角速度PSDの測定結果とを、周波数で比較する。ロール角速度PSDの測定結果は、縦軸にロール角速度PSDの大きさを対数目盛(上方が大、下方が小)で表わし、横軸に振動の周波数[Hz]を対数目盛で表す。
図8の範囲X3でレール継ぎ目に起因すると思われる周波数0.5〜0.6[Hz]において、本実施形態に係る鉄道車両の高さ調整装置10によるロール角速度PSDの測定結果は、従来構造(振動低減制御無し)の高さ調整装置によるロール角速度PSDの測定結果と比較して、ロール角速度PSDが1/3〜1/5程度に低減されている。この低減効果は、明らかに乗り心地に影響を与えるものと認められる。
【0050】
<作用効果>
以上、詳細に説明した本実施形態に係る鉄道車両20の高さ調整装置10によれば、車体2には、制御装置6に接続された振動センサ7(71、72)を備え、制御装置6は、振動センサ7(71、72)の信号に基づいて車体2が上昇中と判断した場合には、空気ばね3が短縮するときにのみ、その空気ばね3を制御する高さ調整弁5に排気の制御指令を出し、振動センサ7(71、72)の信号に基づいて車体2が下降中と判断した場合には、空気ばね3が伸長するときにのみ、その空気ばね3を制御する高さ調整弁5に給気の制御指令を出すので、軌道8の曲線情報又は車高値センサ51、51からの車高値データに基づいて車高制御又は傾斜制御を行いつつ、カルノップ切替則を応用して、車体2の振動を効果的に減少させることができる。その結果、車高制御又は傾斜制御と同時に、車体2の振動制御を行い、車体2の振動に伴う加速度のピークも下げることによって、乗り心地を向上させることができる。
【0051】
よって、本実施形態によれば、振動センサ7(71、72)を車体2に備えるという簡単な構造で、車高制御及び傾斜制御が可能であって、乗り心地に影響する車体2の振動を効果的に低減できる鉄道車両20の高さ調整装置10を提供することができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、振動センサ7(71、72)として、車体2の上下方向振動センサ71と車体2のロール方向振動センサ72とを備えたので、車体2の上下並進振動とロール振動とをそれぞれ効果的に減少させることができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、制御装置6は、上下方向振動センサ71の信号に基づく上下制御指令と、ロール方向振動センサ72の信号に基づくロール制御指令とを比較し、いずれか大きい方に基づいて高さ調整弁5、5に給排気の制御指令を出すので、車体2の上下並進振動とロール振動との間で、より大きな振動を効果的に減少させることができる。
【0054】
<変形例>
以上、本実施形態の鉄道車両の高さ調整装置10を詳細に説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、本実施形態では、高さ調整弁5、5には、台車1と連結された回動レバー部512、512を有し、回動レバー部512、512の弁本体に対する回動角度に基づいて車高値を検出する車高値センサ51、51を備えたが、高さ調整弁5、5と、車高値センサ51、51とを別々に備えてもよい。