【解決手段】ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカ20〜150質量部と、下記一般式(1)で表される構成単位を有するとともに、ニトリル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基及びヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有しかつ反応性シリル基を有さない重合体からなる微粒子1〜100質量部と、を含有するゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤである。式(1)中、R
前記ジエン系ゴムが、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、シリル基及びカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するスチレンブタジエンゴムを含む、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係るゴム組成物は、(A)ジエン系ゴムに、(B)シリカと、(C)上記一般式(1)で表される構成単位を有しかつ特定の官能基を有する重合体からなる微粒子と、を配合してなるものである。かかる本実施形態によれば、マトリックス相をなすジエン系ゴム中にシリカ及び上記特定の微粒子が高分散化されるものと考えられ、そのため、タイヤに用いたときの低燃費性とウェットグリップ性能をバランスよく改善することができる。
【0013】
(A)ジエン系ゴム
ゴム成分としてのジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、NR、BR及びSBRからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
上記で列挙した各ジエン系ゴムの具体例には、その分子末端又は分子鎖中において、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、シリル基、及びカルボキシル基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基が導入されることで、当該官能基により変性された変性ジエン系ゴムも含まれる。変性ジエン系ゴムとしては、変性SBRを用いることが好ましい。そのため、一実施形態に係るジエン系ゴムは、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、シリル基及びカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するスチレンブタジエンゴムを含むことである。このような官能基を持つ変性SBRを用いることにより、シリカの粒子表面のシラノール基や、上記微粒子のエステル基との間で相互作用(水素結合などの分子間力や親和性を含む概念である。)が得られると考えられる。そのため、ジエン系ゴム中にシリカ及び上記微粒子を高分散化させることができ、タイヤ用途に用いたときの低燃費性とウェットグリップ性能と耐引裂特性のバランスに優れる。ジエン系ゴムは、変性SBR単独でもよく、変性SBRと未変性のジエン系ゴムとのブレンドでもよい。一実施形態において、ジエン系ゴム100質量部中、変性SBRを30質量部以上含んでもよく、50質量部以上含んでもよい。また、ジエン系ゴム100質量部は、変性SBR50〜90質量部と、未変性ジエン系ゴム(例えば、BR及び/又はNR)50〜10質量部含むものでもよく、また、変性SBR60〜90質量部と、未変性ジエン系ゴム40〜10質量部含むものでもよい。
【0015】
これらの官能基において、アミノ基は、1級アミノ基(−NH
2)だけでなく、2級アミノ基もしくは3級アミノ基でもよい。なお、2級又は3級アミノ基の場合、置換基である炭化水素基の炭素数は合計で15以下であることが好ましく、より好ましくは10以下である。シリル基は、−SiH
3で表される狭義のシリル基だけでなく、ケイ素原子に結合した水素原子の少なくとも1つがヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、アルキレン基、エーテル基などの置換基で置換された置換シリル基でもよい。例えば、シリル基としては、−SiR
5R
6R
7(ここで、R
5、R
6、R
7は、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、−(R
8−O)
p−R
9、又は、−O−(R
10−O)
q−R
11でもよい。アルキル基としては炭素数1〜5のものが好ましく、アルコキシル基としては炭素数1〜4のものが好ましい。−(R
8−O)
p−R
9及び−O−(R
10−O)
q−R
11で表されるアルキルポリエーテル基において、R
8は炭素数1〜4のアルキレン基、R
9は炭素数1〜16のアルキル基、pは1〜20、R
10は炭素数1〜4のアルキレン基、R
11は炭素数1〜16のアルキル基、qは1〜20であることが好ましい。)が挙げられる。好ましくは、シリル基としては、アルキルシリル基又はアルコキシシリル基であり、更に好ましくはアルコキシシリル基である。アルコキシシリル基としては、例えばトリアルコキシシリル基、アルキルジアルコキシシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基が挙げられ、好ましくはトリエトキシシリル基又はトリメトキシシリル基などのトリアルコキシシリル基である。
【0016】
一実施形態として、変性SBRの官能基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、及びシリル基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくは、アミノ基及び/又はアルコキシシリル基である。
【0017】
上記の官能基は、スチレンブタジエンゴムの少なくとも一方の末端に導入されてもよく、あるいはまた分子鎖中に導入されてもよい。すなわち、SBRの分子鎖の少なくとも一方の末端に上記官能基が導入された末端変性SBRでもよく、SBRの主鎖に上記官能基が導入された主鎖変性SBRでもよく、主鎖及び末端に上記官能基が導入された主鎖末端変性SBRでもよい。このような官能基を有する変性SBR自体は公知であり、その製造方法等は限定されるものではない。例えば、アニオン重合で合成されたスチレンブタジエンゴムを変性剤で変性することで、上記官能基を導入してもよい。
【0018】
(B)シリカ
シリカとしては、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカのBET比表面積(JIS K6430に記載のBET法に準じて測定)は、特に限定されず、例えば90〜250m
2/gでもよく、150〜220m
2/gでもよい。
【0019】
シリカの配合量は、特に限定されず、用途に応じて適宜に設定することができ、上記ジエン系ゴム100質量部に対して20〜150質量部でもよく、20〜100質量部でもよく、30〜100質量部でもよく、40〜90質量部でもよい。
【0020】
(C)微粒子
微粒子としては、下記一般式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位(繰り返し単位とも称される。)として有する(メタ)アクリレート系重合体からなるものが用いられる。
【0021】
【化2】
式(1)中、R
1は、水素原子又はメチル基であり、同一分子中に存在するR
1は同一でも異なってもよい。R
2は、炭素数4〜18のアルキル基であり、同一分子中に存在するR
2は同一でも異なってもよい。R
2のアルキル基は直鎖でも分岐していてもよい。R
2は、炭素数6〜16のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数8〜15のアルキル基である。
【0022】
該(メタ)アクリレート系重合体は、1種又は2種以上のアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合してなるものである。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートのうちの一方又は両方を意味する。また、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸のうちの一方又は両方を意味する。
【0023】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−ヘプチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸n−ノニル、アクリル酸n−デシル、アクリル酸n−ウンデシル、アクリル酸n−ドデシル、アクリル酸n−トリデシル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ペンチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−ヘプチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸n−ノニル、メタクリル酸n−デシル、メタクリル酸n−ウンデシル、及びメタクリル酸n−ドデシル等の(メタ)アクリル酸n−アルキル; アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソペンチル、アクリル酸イソヘキシル、アクリル酸イソヘプチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸イソウンデシル、アクリル酸イソドデシル、アクリル酸イソトリデシル、アクリル酸イソテトラデシル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソペンチル、メタクリル酸イソヘキシル、メタクリル酸イソヘプチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸イソノニル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸イソウンデシル、メタクリル酸イソドデシル、メタクリル酸イソトリデシル、及びメタクリル酸イソテトラデシル等の(メタ)アクリル酸イソアルキル; アクリル酸2−メチルブチル、アクリル酸2−エチルペンチル、アクリル酸2−メチルヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−エチルヘプチル、メタクリル酸2−メチルペンチル、メタクリル酸2−メチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、及びメタクリル酸2−エチルヘプチルなどが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
ここで、イソアルキルとは、アルキル鎖端から2番目の炭素原子にメチル側鎖を有するアルキル基をいう。例えば、イソデシルとは、鎖端から2番目の炭素原子にメチル側鎖を持つ炭素数10のアルキル基をいい、8−メチルノニル基だけでなく、2,4,6−トリメチルヘプチル基も含まれる概念である。
【0025】
一実施形態として、(メタ)アクリレート系重合体は、式(1)で表される構成単位として下記一般式(2)で表される構成単位を有する重合体であることが好ましい。
【0026】
【化3】
式(2)中、R
3は、水素原子又はメチル基であり(好ましくはメチル基)、同一分子中のR
3は同一でも異なってもよい。Zは、炭素数1〜15のアルキレン基(即ち、アルカンジイル基)であり、同一分子中のZは同一でも異なってもよい。Zは直鎖でも分岐していてもよい。
【0027】
式(2)の構成単位は、式(1)中のR
2が下記一般式(2A)で表される場合である。式(2A)中のZは、式(2)のZと同じである。
【0028】
【化4】
このような構成単位を生じる(メタ)アクリレートとしては、上記の(メタ)アクリル酸イソアルキルが挙げられる。かかるイソアルキル基を有する(メタ)アクリレート(より好ましくは、メタクリレート)を用いることにより、本実施形態による効果を高めることができる。式(2)及び(2A)中のZは、炭素数5〜12のアルキレン基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6〜10のアルキレン基である。
【0029】
該(メタ)アクリレート系重合体は、ニトリル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基及びヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するものである。ここで、これらの官能基は、後述する反応性シリル基の一部として含まれるものは除かれる。これらの特定の官能基を持つポリマー微粒子を配合することにより、微粒子同士及び微粒子とシリカとの間での相互作用(水素結合などの分子間力や親和性を含む概念である。)により、微粒子とシリカの分散性を向上することができ、タイヤ用途に用いたときの低燃費性とウェットグリップ性能のバランスを向上することができる。
【0030】
ここで、アミノ基としては、1級アミノ基(−NH
2)だけでなく、2級アミノ基もしくは3級アミノ基でもよい。なお、2級又は3級アミノ基の場合、置換基である炭化水素基の炭素数は合計で15以下であることが好ましく、より好ましくは10以下である。エポキシ基としては、例えばグリシジル基が挙げられる。
【0031】
これらの官能基を(メタ)アクリレート系重合体に導入する方法は特に限定されないが、例えば、該官能基を持つビニルモノマー(以下、官能基含有ビニルモノマーという)を上記のアルキル(メタ)アクリレートと共重合してもよい。官能基含有ビニルモノマーとしては、ニトリル基を持つものとして、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、アミノ基を持つものとして、例えばアクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、アクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル、アクリル酸2−アミノエチル、メタクリル酸2−アミノエチル、メタクリル酸ブチルアミノエチルなどが挙げられ、カルボキシル基を持つものとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられ、エポキシ基を持つものとして、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリル酸[(3,4−エポキシシクロヘキサン)−1−イル]メチル、メタクリル酸[(3,4−エポキシシクロヘキサン)−1−イル]メチルなどが挙げられ、ヒドロキシル基を持つものとして、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチルなどが挙げられる。これらの官能基含有ビニルモノマーは、いずれか1種を用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0032】
このような官能基含有ビニルモノマーを用いた共重合体は、式(1)で表される構成単位(好ましくは式(2)で表される構成単位)とともに、下記一般式(3)で表される構成単位を有する。
【0033】
【化5】
式(3)中、R
4は、水素原子又はメチル基であり(好ましくはメチル基)、同一分子中のR
4は同一でも異なってもよい。Q
1は、ニトリル基(−CN)を含む基、アミノ基を含む基、カルボキシル基(−COOH)を含む基、エポキシ基を含む基、又はヒドロキシル基(−OH)を含む基であり、同一分子中のQ
1は同一でも異なってもよい。一実施形態において、Q
1は、ニトリル基、又は、−COOQ
2でもよく、ここで、Q
2は、水素原子、グリシジル基、エポキシシクロヘキシル基、−Q
3−NQ
4Q
5、又は−Q
6−OHでもよい。Q
3は、炭素数1〜5(好ましくは2〜4)のアルキレン基、Q
4及びQ
5は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜5(好ましくは1〜3)のアルキル基である。Q
6は、炭素数1〜5(好ましくは2〜4)のアルキレン基である。
【0034】
微粒子を構成する(メタ)アクリレート系重合体は、上記のアルキル(メタ)アクリレートと官能基含有ビニルモノマーとの共重合体でもよいが、アルキル(メタ)アクリレート及び官能基含有ビニルモノマーを、多官能ビニルモノマーの存在によって架橋してなる架橋構造の重合体でもよい。すなわち、好ましい実施形態において、(メタ)アクリレート系重合体は、式(1)で表される構成単位と式(3)で表される構成単位とともに、多官能ビニルモノマーに由来する構成単位を含み、該多官能ビニルモノマーに由来する構成単位を架橋点とする架橋構造を有する。
【0035】
多官能ビニルモノマーとしては、フリーラジカル重合によって重合可能な少なくとも2個のビニル基を有する化合物が挙げられ、例えば、ジオールまたはトリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなど)のジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート; メチレンビス−アクリルアミドなどのアルキレンジ(メタ)アクリルアミド; ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンなどの少なくとも2個のビニル基を持つビニル芳香族化合物などが挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
微粒子を構成する(メタ)アクリレート系重合体は、式(1)で表される構成単位を主成分とすることが好ましい。特に限定するものではないが、(メタ)アクリレート系重合体を構成する全構成単位(全繰り返し単位)に対する式(1)の構成単位のモル比は50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは60モル%以上であり、また90モル%以下であることが好ましく、より好ましくは85モル%以下である。(メタ)アクリレート系重合体を構成する全構成単位に対する式(3)の構成単位のモル比は、5モル%以上であることが好ましく、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは14モル%以上であり、また、40モル%以下であることが好ましく、より好ましくは30モル%以下である。多官能ビニルモノマーに基づく構成単位のモル比は、0.5〜20モル%でもよく、1〜10モル%でもよく、1〜5モル%でもよい。なお、該(メタ)アクリレート系重合体は、その効果を損なわない範囲で上記以外のビニル系化合物に基づく構成単位を含んでもよい。
【0037】
一実施形態において、(メタ)アクリレート系重合体が式(2)の構成単位を有する重合体である場合、当該重合体の全構成単位に対する式(2)の構成単位のモル比は25モル%以上であることが好ましく、より好ましくは35モル%以上であり、50モル%以上でもよく、また、90モル%以下であることが好ましく、80モル%以下でもよい。
【0038】
上記(メタ)アクリレート系重合体としては、反応性シリル基を持たないもの、すなわち、微粒子を構成する(メタ)アクリレート系重合体の分子末端又は分子鎖中に反応性シリル基を持たないものを用いる。本実施形態は、上述した官能基による微粒子同士や微粒子とシリカとの間での分子間相互作用を利用するものであり、反応性シリル基を持つ微粒子とゴム成分とのカップリング剤を介した結合により補強性を得ることを意図したものでない。そのため、本実施形態において、微粒子は反応性シリル基を持たない。ここで、反応性シリル基とは、式≡Si−Xで表される官能基(式中、Xはヒドロキシル基または加水分解可能な基である。)であり、1〜3個のヒドロキシル基又は加水分解可能な1価の基が4価のケイ素原子に結合した構造を有する基である。Xとしては、ヒドロキシル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子が挙げられる。
【0039】
上記(メタ)アクリレート系重合体からなる微粒子のガラス転移点(Tg)は−70〜0℃であることが、ウェットグリップ性能の改善効果を高める上で好ましい。ガラス転移点の設定は、(メタ)アクリレート系重合体を構成するモノマー組成等により行うことができる。微粒子のガラス転移点は、−50〜−10℃であることが好ましく、より好ましくは−40〜−20℃である。
【0040】
また、微粒子の平均粒径は10nm以上100nm未満であることが好ましい。上記特定の構成単位を含む(メタ)アクリレート系重合体を、このような微細な粒子としてジエン系ゴム中に添加することにより、低燃費性とウェットグリップ性能をバランスよく改善することができる。微粒子の平均粒径は、より好ましくは20〜90nmであり、更に好ましくは30〜80nmである。
【0041】
微粒子の製造方法は、特に限定されず、例えば、公知の乳化重合を利用して合成することができる。好ましい一例を挙げれば次の通りである。すなわち、アルキル(メタ)アクリレート及び官能基含有ビニルモノマーを、架橋剤としての多官能ビニルモノマーとともに、乳化剤を溶解した水等の水性媒体に分散させ、得られたエマルションに水溶性のラジカル重合開始剤(例えば、過硫酸カリウムなどの過酸化物)を添加してラジカル重合させることにより、水性媒体中に(メタ)アクリレート系重合体からなる微粒子が生成されるので、該水性媒体と分離することで微粒子が得られる。その他の微粒子の製造方法として、公知の懸濁重合や分散重合、沈殿重合、ミニエマルション重合、ソープフリー乳化重合(無乳化剤乳化重合)およびマイクロエマルション重合などの重合方法を利用することができる。
【0042】
微粒子の配合量は、特に限定されず、用途に応じて適宜に設定することができ、ジエン系ゴム100質量部に対して1〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜50質量部であり、更に好ましくは3〜30質量部であり、5〜20質量部でもよい。
【0043】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記の成分の他に、シランカップリング剤、シリカ以外の補強性充填剤、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0044】
シランカップリング剤の配合量は、特に限定されず、例えばシリカ質量の2〜20質量%でもよく、4〜15質量%でもよい。
【0045】
シリカ以外の補強性充填剤としては、例えばカーボンブラックが挙げられる。補強性充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば、シリカを含む合計量で、ジエン系ゴム100質量部に対して20〜150質量部でもよく、30〜100質量部でもよい。
【0046】
加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜10質量部でもよく、0.5〜5質量部でもよい。また、加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜7質量部でもよく、0.5〜5質量部でもよい。
【0047】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、例えば、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、シリカ及び上記微粒子とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0048】
このようにして得られたゴム組成物は、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。好ましくは、タイヤ用であり、乗用車用タイヤ、トラックやバスの重荷重用タイヤなど各種用途、各種サイズの空気入りタイヤが挙げられる。タイヤの適用部位としては、トレッド部、サイドウォール部などタイヤの各部位が挙げられる。空気入りタイヤは、常法に従い、該ゴム組成物を押出加工等によって所定の形状に成形し、他の部品と組み合わせてグリーンタイヤを作製した後、例えば140〜180℃でグリーンタイヤを加硫成形することにより、製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合として用いることが特に好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[平均粒径の測定方法]
微粒子の平均粒径は、動的光散乱法(DLS)により測定される粒度分布における積算値50%での粒径(50%径:D50)であり、大塚電子株式会社製のダイナミック光散乱光度計「DLS-8000」を用いた光子相関法(JIS Z8826準拠)により測定した(入射光と検出器との角度90°)。
【0051】
[Tgの測定方法]
微粒子のTgは、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて測定した(測定温度範囲:−150℃〜150℃)。
【0052】
[合成例1:微粒子1(比較例)]
15.0gのメタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル(即ち、メタクリル酸イソデシル)、0.394gのエチレングリコールジメタクリレート、1.91gのドデシル硫酸ナトリウム、122gの水および13.0gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.179gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析により、微粒子1を得た。微粒子の平均粒径は60nm、Tgは−37℃であった。
【0053】
微粒子1について、
13C−NMRにより、重合体の化学構造を分析したところ、メタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル由来の式(2)の構成単位とともに、エチレングリコールジメタクリレート由来の構成単位(以下、EGDM構成単位)を有し、各構成単位のモル比は、式(2)の構成単位が97モル%、EGDM構成単位が3モル%であった。
【0054】
[合成例2:微粒子2]
14.0gのメタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル、1.36gのメタクリロニトリル、0.504gのエチレングリコールジメタクリレート、2.44gのドデシル硫酸ナトリウム、135gの水を混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.229gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析により、微粒子2を得た。微粒子2の平均粒径は60nm、Tgは−25℃であった。微粒子2についての
13C−NMR分析の結果、メタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル由来の式(2)の構成単位が73モル%、メタクリロニトリル由来の式(3)の構成単位が24モル%、EGDM構成単位が3モル%であった。
【0055】
[合成例3:微粒子3]
9.50gのメタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル、4.80gのメタクリル酸n−ドデシル、0.805gのメタクリロニトリル、0.446gのエチレングリコールジメタクリレート、2.16gのドデシル硫酸ナトリウム、135gの水を混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.203gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析により、微粒子3を得た。微粒子3の平均粒径は62nm、Tgは−39℃であった。微粒子3についての
13C−NMR分析の結果、メタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル由来の式(2)の構成単位が56モル%、メタクリル酸n−ドデシル由来の式(1)の構成単位が25モル%、メタクリロニトリル由来の式(3)の構成単位が16モル%、EGDM構成単位が3モル%であった。
【0056】
[合成例4:微粒子4]
11.5gのメタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル、3.24gのメタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、0.438gのエチレングリコールジメタクリレート、2.12gのドデシル硫酸ナトリウム、135gの水を混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.199gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析により、微粒子4を得た。微粒子4の平均粒径は58nm、Tgは−25℃であった。微粒子4についての
13C−NMR分析の結果、メタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル由来の式(2)の構成単位が69モル%、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル由来の式(3)の構成単位が28モル%、EGDM構成単位が3モル%であった。
【0057】
[合成例5:微粒子5]
12.5gのメタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル、2.30gのグリシジルメタクリレート、0.438gのエチレングリコールジメタクリレート、2.12gのドデシル硫酸ナトリウム、135gの水を混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.199gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析により、微粒子5を得た。微粒子5の平均粒径は63nm、Tgは−24℃であった。微粒子5についての
13C−NMR分析の結果、メタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル由来の式(2)の構成単位が75モル%、メタクリル酸グリシジル由来の式(3)の構成単位が22モル%、EGDM構成単位が3モル%であった。
【0058】
[合成例6:微粒子6]
5.50gのメタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル、7.77gのメタクリル酸n−ドデシル、1.78gのグリシジルメタクリレート、0.413gのエチレングリコールジメタクリレート、2.00gのドデシル硫酸ナトリウム、135gの水を混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.188gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析により、微粒子6を得た。微粒子6の平均粒径は60nm、Tgは−39℃であった。微粒子6についての
13C−NMR分析の結果、メタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル由来の式(2)の構成単位が35モル%、メタクリル酸n−ドデシル由来の式(1)の構成単位が44モル%、グリシジルメタクリレート由来の式(3)の構成単位が18モル%、EGDM構成単位が3モル%であった。
【0059】
[合成例7:微粒子7]
14.0gのメタクリル酸2−エチルヘキシル、0.733gのメタクリロニトリル、0.500gのエチレングリコールジメタクリレート、2.42gのドデシル硫酸ナトリウム、135gの水を混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.227gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析により、微粒子7を得た。微粒子7の平均粒径は63nm、Tgは−2.0℃であった。微粒子7についての
13C−NMR分析の結果、メタクリル酸2−エチルヘキシル由来の式(2)の構成単位が84モル%、メタクリロニトリル由来の式(3)の構成単位が13モル%、EGDM構成単位が3モル%であった。
【0060】
[合成例8:微粒子8]
12.0gのメタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル、2.94gのメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、0.464gのエチレングリコールジメタクリレート、2.25gのドデシル硫酸ナトリウム、135gの水を混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、0.211gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持した。得られた溶液中へのメタノール添加による凝析により、微粒子8を得た。微粒子8の平均粒径は58nm、Tgは−20℃であった。微粒子8についての
13C−NMR分析の結果、メタクリル酸2,4,6−トリメチルヘプチル由来の式(2)の構成単位が68モル%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル由来の式(3)の構成単位が29モル%、EGDM構成単位が3モル%であった。
【0061】
[ゴム組成物の評価]
ラボミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ジエン系ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0062】
・変性SBR:JSR(株)製「HPR350」(アミノ基及びアルコキシシリル基末端変性SBR)
・BR:宇部興産(株)製「UBEPOL BR150B」
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック社製「Si69」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
・2次加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
・微粒子1〜8:上記合成例1〜8に記載の手法により得られた微粒子
・架橋ゴム粒子:LANXESS社製「Nanoprene BM350H」スチレンブタジエンゴムゲル(Tg:−35℃)。
【0063】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行って0℃及び60℃でのtanδを測定した。また、引裂強度を測定した。結果を表1に示す。測定方法は次の通りである。
【0064】
・0℃tanδ:UBM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、tanδが大きく、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0065】
・60℃tanδ:温度を60℃に変え、その他は0℃tanδと同様にしてtanδ測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど、発熱しにくく、タイヤでの転がり抵抗が小さくて転がり抵抗性能(即ち、低燃費性)に優れることを示す。
【0066】
・引裂強度:JIS K6252に準拠して試験片の引裂強度を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、耐引裂特性に優れることを示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、コントロールである比較例1に対し、微粒子1を配合した比較例2であると、転がり抵抗性能の悪化を抑えながら、また耐引裂特性を維持ないし向上しつつ、ウェットグリップ性能を顕著に改善することができた。実施例1〜7では、所定の官能基を有する微粒子2〜8を配合したことにより、比較例2に対して、更に転がり抵抗性能を改善することができ、耐引裂特性を維持ないし向上しつつ、低燃費性とウェットグリップ性能のバランスを向上することができた。一方、架橋ゴム粒子を配合した比較例3では、ウェットグリップ性能の向上効果が小さいだけでなく、転がり抵抗性能と耐引裂特性が悪化した。