【解決手段】Co、P、Sn、所定範囲で含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときにX+Y+Z≦1000を満足し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金からなる銅合金部材の製造方法であって、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって連続鋳造材を製造する連続鋳造工程S01と、前記連続鋳造材に対して、900℃以上1000℃以下の温度で30分以上600分以下保持する溶体化処理工程S02と、溶体化処理工程S02後の溶体化材に、冷間加工を行う冷間加工工程S03と、冷間加工工程S03後の冷間加工材に、時効熱処理を行う時効熱処理工程S04と、を備えている。
Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:X+Y+Z≦1000
を満足し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金からなる銅合金部材の製造方法であって、
連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって連続鋳造材を製造する連続鋳造工程と、
前記連続鋳造材に対して、900℃以上1000℃以下の温度で30分以上600分以下保持する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理工程後の溶体化材に、冷間加工を行う冷間加工工程と、
前記冷間加工工程後の冷間加工材に、時効熱処理を行う時効熱処理工程と、
を備えていることを特徴とする銅合金部材の製造方法。
Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:X+Y+Z≦1000
を満足し、さらに、Ni;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金からなる銅合金部材の製造方法であって、
連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって連続鋳造材を製造する連続鋳造工程と、
前記連続鋳造材に対して、900℃以上1000℃以下の温度で30分以上600分以下保持する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理工程後の溶体化材に、冷間加工を行う冷間加工工程と、
前記冷間加工工程後の冷間加工材に、時効熱処理を行う時効熱処理工程と、
を備えていることを特徴とする銅合金部材の製造方法。
Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:X+Y+Z≦1000
を満足し、さらに、Zn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金からなる銅合金部材の製造方法であって、
連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって連続鋳造材を製造する連続鋳造工程と、
前記連続鋳造材に対して、900℃以上1000℃以下の温度で30分以上600分以下保持する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理工程後の溶体化材に、冷間加工を行う冷間加工工程と、
前記冷間加工工程後の冷間加工材に、時効熱処理を行う時効熱処理工程と、
を備えていることを特徴とする銅合金部材の製造方法。
Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:X+Y+Z≦1000
を満足し、さらに、Ni;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含み、さらに、Zn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金からなる銅合金部材の製造方法であって、
連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって連続鋳造材を製造する連続鋳造工程と、
前記連続鋳造材に対して、900℃以上1000℃以下の温度で30分以上600分以下保持する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理工程後の溶体化材に、冷間加工を行う冷間加工工程と、
前記冷間加工工程後の冷間加工材に、時効熱処理を行う時効熱処理工程と、
を備えていることを特徴とする銅合金部材の製造方法。
前記銅合金は、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(2)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
上記(2)式を満足することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の銅合金部材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1、2に示すように、自動車配線用及び機器配線用の電線として、銅線を複数本撚り合わせてなる電線導体に、絶縁被膜を被覆したものが提供されている。また、配線等を効率的に行うために、これらの電線を複数本束ねたワイヤーハーネスが提供されている。
近年、環境保護の観点から、自動車から排出される二酸化炭素量を低減するために、自動車車体の軽量化が強く求められている。一方、自動車のエレクトロニクス化が進み、さらに、ハイブリッド車や電気自動車の開発も進んでおり、自動車に用いられる電気系統の部品数は加速的に増加している。これにより、これらの部品をつなぐワイヤーハーネスの使用量が、今後、さらに増加する見込みであり、このワイヤーハーネスの軽量化が求められている。
ここで、ワイヤーハーネスを軽量化する手段として、電線及び銅線の細径化が図られている。また、電線導体及び銅線の細径化によって、ワイヤーハーネスの軽量化とともに小型化も図られることになり、配線スペースを有効活用できるといったメリットもある。
【0003】
また、電車等に使用される鉄道用のトロリ線においては、上述のようにパンタグラフ等の集電装置と摺接され、給電される構成とされていることから、一定の強度、耐摩耗性、導電率、耐熱性等を確保する必要がある。
近年、電車の走行速度の高速化が図られているが、新幹線等の高速鉄道においては、電車の走行速度が、トロリ線等の架線に発生した波の伝播速度よりも速くなると、パンタグラフ等の集電装置とトロリ線との接触が不安定となって、安定して給電を行うことができなくなるおそれがある。
ここで、トロリ線の架線張力を高くすることによって、トロリ線における波の伝播速度を高速化することが可能となるため、従来よりもさらに高強度のトロリ線が求められている。
【0004】
上述のような要求特性を満足する高い強度と高い導電率とを備えた銅合金からなる銅合金線として、例えば特許文献1−3に示すように、Co、P及びSnを含有する銅合金線が提案されている。これらの銅合金線は、Co及びPの化合物を銅の母相中に析出させることによって、導電率を確保したまま、強度の向上を図ることが可能となる。
【0005】
ところで、上述のCo、P及びSnを含有する銅合金線を製造する場合には、ビレットと呼ばれる断面積の大きな鋳塊を製出し、このビレットを再加熱して熱間押出し、その後、さらに伸線加工等を行う方法が実施されている。しかしながら、断面積の大きな鋳塊を製出した後に熱間押出を行って銅合金を製造する場合、鋳塊のサイズによって得られる銅合金の長さが制限されることになり、長尺の銅合金線を得ることができなかった。また、生産効率が悪いといった問題があった。
【0006】
そこで、例えばベルトホイール式の連続鋳造機等を用いた連続鋳造圧延法によって銅合金線を製造する方法が提案されている。この場合、鋳造と圧延とを連続で実施するために、生産効率が高く、長尺の銅合金線を得ることが可能となる。
また、上方連続鋳造機、横型連続鋳造機及びホットトップ連続鋳造機により連続鋳造線材を製造し、この連続鋳造線材を再加熱せずに直接冷間加工することによって銅合金線を製造する方法も提案されている。
【0007】
ここで、本発明者らが検討した結果、連続鋳造圧延法で製造された銅合金線は、熱間押出工程を含む製造方法によって製造された銅合金線に比べて、Co,Pの偏析が大きいことが判明した。そこで、特許文献4には、CoとPの比率を規定することにより、Co、Pの偏析を抑制し、引張強度及び導電性を向上させる技術が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献4においては、Co及びPの比率を規定することで、Co、Pの偏析を抑制しているが、使用用途等によっては、主成分であるCo及びPの含有量の自由度を確保することが要求されることがある。
このため、Co及びPの比率を限定することなく、連続鋳造圧延法又は連続鋳造法を適用して、強度及び導電率に優れた銅合金部材を生産効率良く製造することが求められている。
【0010】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、Co,P及びSnを含有する銅合金からなり、強度及び導電率に優れた銅合金部材を生産効率良く製造することが可能な銅合金部材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、本発明の銅合金部材の製造方法は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、(1)式:X+Y+Z≦1000を満足し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金からなる銅合金部材の製造方法であって、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって連続鋳造材を製造する連続鋳造工程と、前記連続鋳造材に対して、900℃以上1000℃以下の温度で30分以上600分以下保持する溶体化処理工程と、前記溶体化処理工程後の溶体化材に、冷間加工を行う冷間加工工程と、前記冷間加工工程後の冷間加工材に、時効熱処理を行う時効熱処理工程と、を備えていることを特徴としている。
【0012】
また、本発明の銅合金部材の製造方法は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、(1)式:X+Y+Z≦1000を満足し、さらに、Ni;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金からなる銅合金部材の製造方法であって、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって連続鋳造材を製造する連続鋳造工程と、前記連続鋳造材に対して、900℃以上1000℃以下の温度で30分以上600分以下保持する溶体化処理工程と、前記溶体化処理工程後の溶体化材に、冷間加工を行う冷間加工工程と、前記冷間加工工程後の冷間加工材に、時効熱処理を行う時効熱処理工程と、を備えていることを特徴としている。
【0013】
さらに、本発明の銅合金部材の製造方法は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、(1)式:X+Y+Z≦1000を満足し、さらに、Zn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金からなる銅合金部材の製造方法であって、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって連続鋳造材を製造する連続鋳造工程と、前記連続鋳造材に対して、900℃以上1000℃以下の温度で30分以上600分以下保持する溶体化処理工程と、前記溶体化処理工程後の溶体化材に、冷間加工を行う冷間加工工程と、前記冷間加工工程後の冷間加工材に、時効熱処理を行う時効熱処理工程と、を備えていることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の銅合金部材の製造方法は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、(1)式:X+Y+Z≦1000を満足し、さらに、Ni;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含み、さらに、Zn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金からなる銅合金部材の製造方法であって、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって連続鋳造材を製造する連続鋳造工程と、前記連続鋳造材に対して、900℃以上1000℃以下の温度で30分以上600分以下保持する溶体化処理工程と、前記溶体化処理工程後の溶体化材に、冷間加工を行う冷間加工工程と、前記冷間加工工程後の冷間加工材に、時効熱処理を行う時効熱処理工程と、を備えていることを特徴としている。
【0015】
上述した本発明の銅合金部材の製造方法によれば、連続鋳造圧延法、又は、連続鋳造法によって連続鋳造材を製造する連続鋳造工程と、前記連続鋳造材に対して、900℃以上1000℃以下の温度で30分以上600分以下保持する溶体化処理工程と、を備えているので、この溶体化処理工程によって、連続鋳造材におけるCo,Pの偏析の偏析を十分に解消することができ、その後の時効熱処理によって析出物を微細、且つ、均一に分散させることができ、強度及び導電率を向上させることができる。また、B、Cr、Zrの含有量が(1)式を満足しているので、鋳造性の低下や鋳造割れの発生も抑制することができる。
また、連続鋳造工程によって連続鋳造材を製造しているので、長尺の銅合金部材を効率良く製造することができる。
【0016】
さらに、本発明の銅合金部材の製造方法において、前記銅合金がNi;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含んでいる場合には、導電率を大きく低下させることなく、Co及びPを含有する析出物の微細化を図ることができ、さらに強度を向上させることができる。
【0017】
また、本発明の銅合金部材の製造方法において、前記銅合金がZn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含んでいる場合には、鋳造性を大きく低下させることなく、銅合金中のSを固定することができ、Sが銅の母相中に固溶することを抑制できる。
【0018】
ここで、本発明の銅合金部材の製造方法においては、前記銅合金は、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、(2)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)を満足することが好ましい。
この場合、上述の(2)式を満足しているので、溶体化処理工程において高温に加熱保持した場合でも、これらの元素の作用により、結晶粒径が粗大化されることが抑制され、加工性及び高温伸びを向上させることが可能となる。
【0019】
また、本発明の銅合金部材の製造方法において、前記銅合金がB,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有する場合には、さらに、
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
上記(3)式及び(4)式を満足することが好ましい。
【0020】
この場合、上述の(3)式を満足しているので、溶体化処理工程において高温に加熱保持した場合でも、結晶粒径の粗大をさらに抑制することができる。また、上述の(4)式を満足しているので、鋳造性の低下をさらに抑制することができる。
【0021】
さらに、本発明の銅合金部材の製造方法において、前記銅合金がBを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有している場合には、前記銅合金にB,Cr,ZrのうちBのみを意図的に添加した場合であっても、Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内として、上述の(1)式及び(2)式、さらに(3)式及び(4)式を満足させることで、鋳造性を低下させることなく、高温に加熱保持した際の結晶粒の粗大化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、Co,P及びSnを含有する銅合金からなり、強度及び導電率に優れた銅合金部材を生産効率良く製造することが可能な銅合金部材の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
【0025】
本発明の実施形態である銅合金部材は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:X+Y+Z≦1000
を満たし、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金で構成されたものとされている。
【0026】
また、本発明の実施形態である銅合金部材は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:X+Y+Z≦1000
を満足し、さらに、Ni;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金で構成されたものであってもよい。
【0027】
さらに、本発明の実施形態である銅合金部材は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:X+Y+Z≦1000
を満足し、さらに、Zn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金で構成されたものであってもよい。
【0028】
また、本発明の実施形態である銅合金部材は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:X+Y+Z≦1000
を満足し、さらに、Ni;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含み、さらに、Zn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金で構成されたものであってもよい。
【0029】
また、本実施形態では、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、以下の(2)式を満足している。
(2)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
【0030】
さらに、本実施形態では、B,Cr,Zrの含有量は、以下の(3)式及び(4)式を満足している。
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
【0031】
また、本実施形態では、B,Cr,ZrのうちBを単独添加した場合には、Bの含有量が5massppm以上1000massppm以下の範囲内に設定されている。
【0032】
以下に、各元素の含有量を上述の範囲内に設定した理由について説明する。
【0033】
(Co)
Coは、Pとともに、銅の母相中に分散する析出物を形成する元素である。
ここで、Coの含有量が0.05mass%未満の場合には、析出物の個数が不足し、強度を充分に向上させることができないおそれがある。一方、Coの含有量が0.70mass%を超える場合には、強度の向上に寄与しない元素が多く存在し、導電率の低下等を招くおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Coの含有量を0.05mass%以上0.70mass%以下の範囲内に設定している。
なお、析出物の個数を確実に確保するためには、Coの含有量の下限を0.12mass%以上とすることが好ましく、0.25mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、導電率の低下を確実に抑制するためには、Coの含有量の上限を0.40mass%以下とすることが好ましく、0.36mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
(P)
Pは、Coとともに、銅の母相中に分散する析出物を形成する元素である。Pの含有量が0.02mass%未満の場合には、析出物の個数が不足し、強度を充分に向上させることができないおそれがある。一方、Pの含有量が0.20mass%を超える場合には、導電率の低下等を招くおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Pの含有量を0.02mass%以上0.20mass%以下の範囲内に設定している。
なお、析出物の個数を確実に確保するためには、Pの含有量の下限を0.04mass%以上とすることが好ましく、0.08mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、導電率の低下を確実に抑制するためには、Pの含有量の上限を0.16mass%以下とすることが好ましく、0.14mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0035】
(Sn)
Snは、銅の母相中に固溶することによって強度を向上させる作用を有する元素である。また、CoとPとを主成分とする析出物の析出を促進させる効果や、耐熱性、耐食性を向上させる作用も有する。
ここで、Snの含有量が0.005mass%未満の場合には、上述した作用効果を奏功せしめることができないおそれがある。一方、Snの含有量が0.70mass%を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Snの含有量を0.005mass%以上0.70mass%以下の範囲内に設定している。
なお、上述した作用効果を確実に奏功せしめるためには、Snの含有量の下限を0.01mass%以上とすることが好ましく、0.02mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、導電率の低下を確実に抑制するためには、Snの含有量の上限を0.50mass%以下とすることが好ましく、0.10mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0036】
(B,Cr,Zr)
これらB,Cr,Zrは、高温で保持した際の結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する元素であることから、これらの元素を添加することで、溶体化処理時における結晶粒の粗大化を抑制でき、加工性及び高温伸びを向上させることができる。ここで、本実施形態では、これらB,Cr,Zrの含有量について、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、以下の(1)式及び(2)式で規定している。
【0037】
B,Cr,Zrの含有量が、(1)式:X+Y+Z≦1000を満足することにより、鋳造性や加工性(伸線性)を確保することができる。
一方、B,Cr,Zrの含有量が、(2)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)を満足することにより、高温で保持した際に結晶粒の粗大化を十分に抑制することが可能となる。
以上のことから、本実施形態においてB,Cr,Zrを添加する場合には、B,Cr,Zrの含有量は、上述の(1)式及び(2)式を満足することが好ましい。
なお、高温で保持した際に結晶粒の粗大化をさらに抑制するためには、B,Cr,Zrの含有量が、(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)を満足することがさらに好ましい。
また、鋳造性や加工性(伸線性)の低下をさらに抑制するためには、B,Cr,Zrの含有量が、(4)式:Y<400を満足することがさらに好ましい。
【0038】
(Bの単独添加の場合)
なお、本実施形態において、高温で保持した際の結晶粒の粗大化を抑制するために、Bを単独添加した場合には、Bの含有量を5massppm以上1000massppm以下の範囲内とすることが好ましい。
Bの含有量を5massppm以上とすることで、上述の結晶粒の粗大化を抑制する作用効果を奏することができる。一方、Bの含有量を1000massppm以下とすることで、鋳造性、加工性(伸線性)の低下を抑制することができる。
なお、上述した作用効果を確実に奏功せしめるためには、Bの含有量の下限を10massppmとすることが好ましく、15massppm以上とすることがさらに好ましい。一方、鋳造性、加工性(伸線性)の低下を確実に抑制するためには、Bの含有量の上限を200massppm以下とすることが好ましく、100massppm以下とすることがさらに好ましい。
【0039】
(Ni及びFe)
Ni及びFeは、Co及びPの化合物からなる析出物を微細化する作用効果を有する元素である。
ここで、Niの含有量が0.01mass%未満の場合あるいはFeの含有量が0.005mass%未満の場合には、上述した作用効果を確実に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Niの含有量が0.15mass%を超える場合あるいはFeの含有量が0.07mass%を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、Niを含有する場合には、Niの含有量を0.01mass%以上0.15mass%以下の範囲内に、Feを含有する場合には、Feの含有量を0.005mass%以上0.07mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0040】
(Zn,Mg,Ag)
Zn,Mg,Agといった元素は、Sと化合物を生成し、銅の母相中へのSの固溶を抑制する作用効果を有する元素である。
ここで、Zn,Mg,Agといった元素の含有量がそれぞれ上述の下限値未満の場合には、銅の母相中へのSの固溶を抑制する作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Zn,Mg,Agといった元素の含有量がそれぞれ上述の上限値を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、Zn,Mg,Agといった元素を含有する場合には、それぞれ上述の範囲内とすることが好ましい。
【0041】
次に、上述の銅合金からなる銅合金部材の製造方法について説明する。
図1に本発明の実施形態である銅合金部材の製造方法のフロー図を示す。
まず、上記の組成の銅合金からなる銅荒引線50を連続鋳造圧延法によって連続的に製出する(連続鋳造圧延工程S01)。この連続鋳造圧延工程S01においては、例えば
図2に示す連続鋳造圧延設備が用いられる。
【0042】
図2に示す連続鋳造圧延設備は、溶解炉Aと、保持炉Bと、鋳造樋Cと、ベルトホイール式連続鋳造機Dと、連続圧延装置Eと、コイラーFとを有している。
【0043】
溶解炉Aとして、本実施形態では、円筒形の炉本体を有するシャフト炉を用いている。
炉本体の下部には円周方向に複数のバーナ(図示なし)が上下方向に多段状に配備されている。そして、炉本体の上部から原料である電気銅が装入され、前記バーナの燃焼によって溶解され、銅溶湯が連続的に製出される。
【0044】
保持炉Bは、溶解炉Aでつくられた銅溶湯を、所定の温度で保持したままで一旦貯留し、一定量の銅溶湯を鋳造樋Cに送るためのものである。
【0045】
鋳造樋Cは、保持炉Bから送られた銅溶湯を、ベルトホイール式連続鋳造機Dの上方に配置されたタンディッシュ11にまで移送するものである。この鋳造樋Cは、例えばAr等の不活性ガス又は還元性ガスでシールされている。なお、この鋳造樋Cには、不活性ガスによって銅溶湯を攪拌して溶湯中の酸素等を除去する脱ガス手段(図示なし)が設けられている。
【0046】
タンディッシュ11は、ベルトホイール式連続鋳造機Dに銅溶湯を連続的に供給するために設けられた貯留槽である。このタンディッシュ11の銅溶湯の流れ方向終端側には、注湯ノズル12が配置されており、この注湯ノズル12を介してタンディッシュ11内の銅溶湯がベルトホイール式連続鋳造機Dへと供給される構成とされている。
【0047】
ここで、本実施形態では、鋳造樋C及びタンディッシュ11に合金元素添加手段(図示なし)が設けられており、銅溶湯中に、上述の元素(Co,P、Sn等)が添加される構成とされている。
【0048】
ベルトホイール式連続鋳造機Dは、外周面に溝が形成された鋳造輪13と、この鋳造輪13の外周面の一部に接触するように周回移動される無端ベルト14とを有している。このベルトホイール式連続鋳造機Dにおいては、前記溝と無端ベルト14との間に形成された空間に注湯ノズル12を介して銅溶湯が注入され、この銅溶湯を冷却・固化することで、棒状の銅合金鋳塊21を連続的に鋳造するものである。
【0049】
このベルトホイール式連続鋳造機Dの下流側には、連続圧延装置Eが連結されている。
この連続圧延装置Eは、ベルトホイール式連続鋳造機Dから製出された銅合金鋳塊21を連続的に圧延して、所定の外径の銅荒引線50を製出するものである。
この連続圧延装置Eから製出された銅荒引線50は、洗浄冷却装置15及び探傷器16を介してコイラーFに巻き取られる。
【0050】
次に、得られた銅荒引線50に対して、溶体化処理を行う(溶体化処理工程S02)。この溶体化処理工程S02においては、大気雰囲気下で、保持温度を900℃以上1000℃以下の範囲内、保持時間を30分以上600分以下の範囲内の条件で加熱する。
なお、この溶体化処理工程S02後の溶体化材においては、導電率が45%以下とされている。
【0051】
ここで、溶体化処理工程S02における保持温度が900℃未満の場合、あるいは、保持時間が30分未満の場合には、Co及びPの固溶が不十分となり、その後の時効熱処理工程S04においてCoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を微細かつ均一に分散させることができず、強度を十分に向上させることができなくなるおそれがある。
一方、溶体化処理工程S02における保持温度が1000℃を超える場合、あるいは、保持時間が600分を超える場合には、結晶粒が過度に粗大化して脆化するとともに、表面近傍に表面変質層が厚く形成されるおそれがある。なお、表面変質層とは、Co及びPが母相に固溶しておらず、導電率が90%IACS以上になっている領域である。
【0052】
以上のことから、本実施形態では、溶体化処理工程S02における保持温度を900℃以上1000℃以下の範囲内、保持時間を30分以上600分以下の範囲内に規定している。
なお、Co及びPをさらに確実に固溶させるためには、溶体化処理工程S02における保持温度の下限を930℃以上とすることが好ましく、保持時間の下限を60分以上とすることが好ましい。一方、結晶粒の粗大化及び表面変質層が厚く形成されることをさらに抑制するためには、保持温度の上限を950℃以下とすることが好ましく、保持時間の上限を240分以下とすることが好ましい。
【0053】
次に、溶体化処理工程S02後の溶体化材に対して冷間加工を実施する(冷間加工工程S03)。この冷間加工工程S03においては、加工率を10%以上99%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、加工方法は、伸線、圧延等の各種手段を用いることができる。
【0054】
次に、冷間加工工程S03後の冷間加工材に対して時効熱処理を実施する(時効熱処理工程S04)。この時効熱処理工程S04によって、CoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を析出させる。
ここで、時効熱処理工程S04では、熱処理温度が200℃以上700℃以下、保持時間が1時間以上30時間以下の条件で実施される。
【0055】
上述の工程により、本実施形態である銅合金からなる銅合金部材が製造されることになる。
なお、必要に応じて、時効熱処理工程S04後にさらに冷間加工及び熱処理を実施してもよい。
【0056】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金部材の製造方法によれば、連続鋳造圧延法によって連続鋳造材を製造する連続鋳造圧延工程S01と、得られた連続鋳造材に対して、900℃以上1000℃以下の温度で30分以上600分以下保持する溶体化処理工程S02と、を備えているので、この溶体化処理工程S02によって、連続鋳造材におけるCo,Pの偏析を十分に解消することができ、その後の時効熱処理工程S04によってCoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を微細、且つ、均一に分散させることができ、強度及び導電率を向上させることができる。
また、連続鋳造圧延工程S01によって連続鋳造材を製造しているので、銅合金部材を効率良く製造することができる。
【0057】
また、本実施形態では、銅合金部材を構成する銅合金が、さらにB,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、(1)式:X+Y+Z≦1000を満足しているので、鋳造性の低下や鋳造割れ等の発生を抑制することが可能となる。
また、B,Cr,Zrの含有量が、(2)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)を満足しているので、これらの元素によって、高温に加熱保持した場合でも結晶粒径が粗大化されることが抑制され、伸線性及び高温伸びに優れている。さらに、十分な溶体化処理を行うことが可能となり、強度及び導電率を向上させることができる。
【0058】
さらに本実施形態では、銅合金部材を構成する銅合金において、さらにB,Cr,Zrの含有量が、(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)を満足しているので、高温に加熱保持した場合でも結晶粒径が粗大化されることをさらに抑制することができる。
また、(4)式:Y<400を満足しているので、鋳造性の低下をさらに抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態において、銅合金部材を構成する銅合金が、B、Cr,ZrのうちBを単独添加してCr及びZrを不可避不純物とした場合に、Bの含有量を5massppm以上としているので、Bの作用により、溶体化処理工程S02における結晶粒の粗大化を抑制することができる。また、Bの含有量を1000massppm以下としているので、鋳造性、加工性(伸線性)の低下を抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態において、銅合金部材を構成する銅合金がさらにNi;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種以上を含む場合には、Ni,Feによって、Co及びPの化合物を微細化することができ、さらなる強度の向上を図ることができる。
【0061】
また、本実施形態において、銅合金部材を構成する銅合金がさらにZn;0.002mass%以上0.5mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種以上を含む場合には、例えば銅材料のリサイクル過程で混入するSを、Zn、Mg、Ag、Zrによって無害化することができ、中間温度脆性を防止し、銅合金部材の強度及び延性を向上させることができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態である銅合金部材の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、銅合金部材の製造方法の一例として、
図2に示すベルトホイール式連続鋳造機を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、ツインベルト式の連続鋳造圧延機等を用いてもよい。また、上方連続鋳造機、横型連続鋳造機及びホットトップ連続鋳造機により連続鋳造線材を製造してもよい。
【実施例】
【0063】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0064】
表に示す組成となるように各種原料を秤量し、ベルト・ホイール法(連続溶解鋳造法)によって、直径8mmの銅合金荒引線を作製した。
次に、得られた銅合金荒引線に対して、大気炉を用いて表に示す条件で溶体化処理を行った。
溶体化処理後の溶体化材に対して、加工率80%で冷間加工を行った。
この冷間加工材に対して、大気炉を用いて460℃で1時間保持の条件で時効熱処理を実施した。
【0065】
(平均結晶粒径)
上述のようにして得られた銅合金荒引線に対して、大気炉を用いて表1に示す条件で溶体化処理した後水冷した。得られた試験片に対してエメリー紙及びバフにて研磨を行い、エッチング液でエッチング後、光学顕微鏡で適切な倍率で観察し、JIS H0321に規定された面積法によって、平均結晶粒径を算出した。
【0066】
(高温脆性)
上述の銅合金荒引線に対して、大気炉を用いて表1に示す条件で溶体化処理した後水冷した。この材料からJIS G0567に規定する形状の試験片を採取し、460℃にて引張試験を行い、伸びを評価した。
【0067】
(強度)
時効熱処理後の銅合金部材から、JIS Z2241に規定する形状の試験片を採取し、常温で引張試験を行い、引張強度を評価した。
【0068】
(導電率)
時効熱処理後の銅合金部材を用いて、四端子法によって導電率を測定した。
【0069】
(伸線性)
上述の銅合金荒引線に対して、大気炉を用いて表1に示す条件で溶体化処理した後水冷し、その後冷間伸線を行い、直径2mmの銅合金線に加工した。直径2mmで伸線長さが100mとなるまで伸線加工した際に断線した回数を評価した。
【0070】
(鋳造性)
表に示す組成となるように各種原料を秤量し、これをアルミナ坩堝に3kg装入した。Arガス雰囲気で溶解し、溶落後、1150℃で10分間保持した。別途準備したモールドに静かに注湯し、湯面上に生じた膜をアルミナ坩堝内に残存させ、この重量を測定した。
【0071】
(鋳造割れ)
真空溶解炉にて1200℃にて溶解後、
図3に示すH字型金型に鋳造した。なお、このH字型金型は予め100℃に予熱しておいた。大気中で室温まで冷却後、H字中央部分の割れの有無を評価した。
【0072】
(表面変質層)
溶体化処理後の溶体化材から観察試料を採取し、エメリー紙及びバフにて研磨を行い、エッチング液でエッチング後、光学顕微鏡で適切な倍率で観察した。表面変質層は、Co及びPが固溶していないために導電率が90%IACS以上とされた領域である。なお、Co及びPを固溶した場合には、通常導電率が85%IACS以下となる。光学顕微鏡で観察した場合、
図4に示すように、明らかに組織が異なっている。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
【表8】
【0081】
溶体化処理工程における温度が850℃と本発明の範囲よりも低い比較例101,103,105,107,111においては、加工組織が残っており、強度が低くなった。
溶体化処理工程における温度が1050℃と本発明の範囲よりも高い比較例102,104,106,108,113においては、平均結晶粒径が大きく、伸線性にも劣っていた。また、表面変質層の厚みも厚くなった。
溶体化処理工程における保持時間が1000分と本発明の範囲よりも長い比較例112においては、平均結晶粒径が大きく、伸線性にも劣っていた。また、表面変質層の厚みも厚くなった。
【0082】
B、Cr、Zrの含有量が多く(1)式を満足しない比較例114、115においては、鋳造時に微細クラックや破断が発生し、安定して鋳造を行うことができなかった。
【0083】
これに対して、本発明例1−75においては、平均結晶粒径が小さく、伸線性、高温脆性、鋳造性に優れていた。また、強度、導電率も十分に確保されていた。
また、(2)式、(3)式及び(4)式を満足することにより、さらに平均結晶粒径が小さくなり、伸線性、高温脆性、鋳造性もさらに向上した。また、強度、導電率にも優れていた。
なお、Ni,Feの含有量が多い本発明例44、及び、Zn,Mg,Agの含有量が多い本発明例45においては、導電率が低くなった。このため、導電率を確保するためには、これらの元素の含有量を規制することが好ましい。
【0084】
以上のことから、本発明例によれば、強度及び導電率に優れた銅合金部材を安定して製造できることが確認された。