特開2018-84428(P2018-84428A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-84428(P2018-84428A)
(43)【公開日】2018年5月31日
(54)【発明の名称】タイヤ接地状態測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20180427BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20180427BHJP
【FI】
   G01M17/02 B
   B60C19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-225980(P2016-225980)
(22)【出願日】2016年11月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】諫山 直生
(57)【要約】
【課題】湿潤路面におけるタイヤの接地状態を精度よく測定する方法を提供する。
【解決手段】
実路面相当の凹凸を有する接地面を一方の面に設けた透明板とタイヤとの間に、蛍光液を介在させて、接地面にタイヤを接地させる工程と、透明板の接地面とは反対側から、接地面とタイヤとの間に介在する蛍光液に対して励起光を照射し、蛍光液から放出された蛍光の輝度分布を測定する工程とを有し、蛍光液が、励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差が100nm以上である親水性蛍光色素を含有することを特徴とする、タイヤ接地状態測定方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実路面相当の凹凸を有する接地面を一方の面に設けた透明板とタイヤとの間に、蛍光液を介在させて、前記接地面にタイヤを接地させる工程と、
透明板の接地面とは反対側から、接地面とタイヤとの間に介在する蛍光液に対して励起光を照射し、蛍光液から放出された蛍光の輝度分布を測定する工程とを有し、
前記蛍光液が、励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差が100nm以上である親水性蛍光色素を含有することを特徴とする、タイヤ接地状態測定方法。
【請求項2】
前記親水性蛍光色素がピラニンであることを特徴とする、請求項1に記載のタイヤ接地状態測定方法。
【請求項3】
測定された蛍光の輝度分布を蛍光液の膜厚分布に変換する工程をさらに有する、請求項1又は2に記載のタイヤ接地状態測定方法。
【請求項4】
得られた膜厚分布を基準に、任意の膜厚を閾値とし、2値化を行う工程をさらに有する、請求項3に記載のタイヤ接地状態測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤路面におけるタイヤの接地状態を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの接地状態を測定する方法としては、平板上にタイヤを接地させ、その時の接地形状を撮影する方法が用いられ、具体的には、白色の液体から成る液体層を表面に設けた透明板にタイヤを接地させて、タイヤの接地形状を撮影する方法(特許文献1)や、光励起蛍光法、光干渉法、全反射法などが知られている。
【0003】
また、平板上にタイヤを押しつけたときのタイヤ特性と実際の路面でのタイヤ特性とは解離しているため、特許文献2では、表面に実路面相当の凹凸を設けた接地面にタイヤを接地させて、タイヤの接地形状を撮影する方法が提案されている。しかし、湿潤路面におけるタイヤの接地状態を測定する方法に、光干渉法や全反射法を適用することは困難であった。
【0004】
そこで、湿潤路面におけるタイヤの接地状態を測定する方法として、非特許文献1では、光励起蛍光法を採用し、蛍光剤として、波長525〜550nmの励起光を照射すると、波長580nm程度の蛍光を放出するローダミンBを使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−154858号公報
【特許文献2】特開2003−240681号公報
【特許文献3】特開2001−141434号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】江口正夫氏著「光誘起蛍光法を用いたゴム平板−凹凸面間接接触部の解析 −可視化と輝度ヒストグラム解析−」、トライボロジスト第58巻第10号(2013)763〜772頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1で使用されるローダミンBの励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差は、30〜55nm程度しかないため、励起スペクトルと蛍光スペクトルとを十分に分離することが難しく、測定精度に改善の余地があった。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、湿潤路面におけるタイヤの接地状態をより精度よく測定する方法を提供することを目的とする。
【0009】
なお、特許文献3には、ゴムに代表される弾性体シール製品とシール製品のシール面によってシールされる被接触物との接触状態を測定する方法が開示されているが、タイヤの接地状態を測定することを想定したものではなく、また光誘起蛍光法を用いたものでもない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るタイヤ接地状態測定方法は、実路面相当の凹凸を有する接地面を一方の面に設けた透明板とタイヤとの間に、蛍光液を介在させて、接地面にタイヤを接地させる工程と、透明板の接地面とは反対側から、接地面とタイヤとの間に介在する蛍光液に対して励起光を照射し、蛍光液から放出された蛍光の輝度分布を測定する工程とを有し、蛍光液が、励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差が100nm以上である親水性蛍光色素を含有する方法とする。
【0011】
上記親水性蛍光色素はピラニンであることが好ましい。
【0012】
上記タイヤ接地状態測定方法は、測定された蛍光の輝度分布を蛍光液の膜厚分布に変換する工程をさらに有するものとすることができる。
【0013】
上記タイヤ接地状態測定方法は、得られた膜厚分布を基準に、任意の膜厚を閾値とし、2値化を行う工程をさらに有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の測定方法によれば、湿潤路面におけるタイヤの接地状態を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係るタイヤ接地状態測定方法を行う装置の構成を示す簡略図。
図2】蛍光色素としてローダミンBを用いた場合の励起スペクトルと蛍光スペクトルとの関係を簡略化して示す図。
図3】蛍光色素としてピラニンを用いた場合の励起スペクトルと蛍光スペクトルとの関係を簡略化して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る一実施形態のタイヤ接地状態測定方法について、図1〜3に基づいて説明する。
【0017】
本実施形態のタイヤ接地状態測定方法は、実路面相当の凹凸を有する接地面を一方の面に設けた透明板とタイヤとの間に、蛍光液を介在させて、接地面にタイヤを接地させる工程と、透明板の接地面とは反対側から、接地面とタイヤとの間に介在する蛍光液に対して励起光を照射し、蛍光液から放出された蛍光の輝度分布を測定する工程とを有し、蛍光液が、励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差が100nm以上である親水性蛍光色素を含有するものとする。
【0018】
図1は、本実施形態のタイヤ接地状態測定方法を行う装置の構成を示す簡略図である。図1に示すように、透明板設置台9の上には、実路面相当の凹凸を有する接地面を一方の面に備えた透明板1を設置し、透明板1の接地面にタイヤ10を接地させている。接地面とタイヤ10との間には、蛍光液2を介在させている。透明板設置台9の下部には、光源3と、光源3から照射される光から特定の波長の光のみを透過し分離するフィルタ7と、特定の波長の光のみを反射するダイクロイックミラー5と、蛍光液2から放出された蛍光を反射するミラー6と、放出された蛍光から特定の波長の光のみを透過させて分離するフィルタ8と、フィルタ8を透過した蛍光を測定する撮影手段4が配されている。
【0019】
本実施形態のタイヤ接地状態測定方法は、例えば、親水性蛍光色素としてピラニンを使用し、上記の装置を用いて次のように実施することができる。すなわち、光源3として紫外線LED(ピーク波長365nm)を用いて励起光を照射し、フィルタ7(400nmローパスフィルタ)によって、波長が400nm以下の励起光を分離する。分離した励起光をダイクロイックミラー5に反射させて、透明板1の接地面とは反対側から、タイヤ10と接地面との間に介在する蛍光液2に対して励起光を照射することにより、蛍光液2に含まれるピラニンを基底状態から励起状態へと遷移させる。その後、励起状態のピラニンは基底状態へと戻り、その際蛍光が放出される。放出された蛍光は、ダイクロイックミラー5を透過した後、ミラー6によって反射し、フィルタ8(480nmハイパスフィルタ)によって、波長が480nm以上の蛍光が分離される。分離された蛍光を撮影手段4で撮影することにより、輝度分布(蛍光強度画像)を得ることができる。
【0020】
本実施形態のタイヤ接地状態測定方法は、上記測定方法により得られた輝度分布を、蛍光液の膜厚分布に変換する工程をさらに有するものであってもよい。タイヤ10と接地面との間の蛍光液2の膜厚が薄い場合、輝度は膜厚に比例するため、数値化した輝度を膜厚に換算することで、得られた輝度分布を膜厚分布に変換することが可能である。また、この工程の前段階として輝度と膜厚の校正を行ってもよい。例えば、寸法既知のガラス板を使用して膜厚と輝度の校正曲線を得て、それを適用することで輝度を膜厚に換算することができる。これにより、輝度と膜厚が比例関係にない場合でも適用可能である。
【0021】
また、本実施形態のタイヤ接地状態測定方法は、得られた膜厚分布を基準に、任意の膜厚を閾値とし、2値化を行う工程をさらに有するものであってもよい。具体的には、ある特定の膜厚を閾値に設定することで、膜厚が閾値以下である領域をタイヤ10と接地面とが接触している領域とし、例えば、実際にタイヤ10と接地面が接触している面積を算出することができる。
【0022】
上記蛍光液2は、励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差が100nm以上である親水性蛍光色素を含有する水溶液である。親水性蛍光色素としては、励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差が100nm以上であれば特に限定されず、例えば、ピラニンや、Dyomics社製のDY−481XL−Carboxylic Acid、DY−521XL−Carboxylic Acid、ATTO−TEC社製のATTO 490LS carboxyなどを使用することができ、安全性やコストの観点からピラニンを好適に用いることができる。また、励起スペクトル及び/又は蛍光スペクトルのピーク波長が複数ある親水性蛍光色素の場合は、励起スペクトル及び/又は蛍光スペクトルについて、フィルタなどを使用することにより、励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差が100nm以上となるようにピーク波長を選択して使用してもよい。
【0023】
ピラニンは、親水性のpH感受性蛍光色素であり、pHが中性〜酸性では、励起スペクトルのピーク波長が365nm付近と400nm付近に表れ、pHがアルカリ性では、励起スペクトルのピーク波長が450nm付近に表れる。また、蛍光スペクトルのピーク波長は、pHに関わらず主に510nm付近であり、400nm以下の蛍光スペクトルはほとんど検出されない。従って、親水性蛍光色素としてピラニンを用いる場合には、励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差が100nm以上とする観点から、蛍光液2のpHは中性〜酸性であることが好ましく、pHが5〜8であることがより好ましい。また、本実施形態においては400nm以下の波長のみを透過するフィルタ7を励起光に対して用いたことにより、ピラニンの励起スペクトルのピーク波長は主に365nmであり、励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差は最大145nmとなる。
【0024】
図2に示すように、非特許文献1で使用されているローダミンBを用いた場合の励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差は40nm程度しかなく、励起スペクトルと蛍光スペクトルとの波長域が一部重複しているため、励起スペクトルと蛍光スペクトルとを分離することが困難である。これに対して、図3に示すように、本実施形態においては、蛍光液として励起スペクトルと蛍光スペクトルとのピーク波長の差が100nm以上である蛍光色素を使用することにより、励起スペクトルと蛍光スペクトルとの波長域の重複がほとんど生じず、励起スペクトルと蛍光スペクトルとを十分に分離することができるため、測定精度を改善することが可能となる。
【0025】
蛍光液中の親水性蛍光色素の濃度は、特に限定されないが、ピラニンを使用する場合には、100〜10000mg/Lであることが好ましい。
【0026】
上記実路面相当の凹凸を有する接地面を備えた透明板の作製方法は、特に限定されず、例えば、実際の路面に対応するアスファルトをシリコーンゴムで型取り、この型に透明樹脂を流し込み、真空脱気状態で硬化させることにより作製することができる。透明樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂を挙げることができる。
【0027】
上記光源3としては、使用する親水性蛍光色素の励起スペクトルに合わせて、適宜選択して使用することができ、特に限定されないが、使用する親水性蛍光色素の励起スペクトルのピーク波長付近にピーク波長を有する光源であることが好ましく、単一波長であることがより好ましい。使用する親水性蛍光色素がピラニンである場合は、照射される光のピーク波長が350〜400nmであることが好ましい。また、照射する励起光の強度は、特に限定されないが、例えば、上述した輝度と膜厚の校正を行う際に、目的に沿った膜厚と輝度の校正曲線が得られる強度を検討してもよい。
【0028】
ダイクロイックミラー5や、フィルタ7,8は、特に限定されず、使用する親水性蛍光色素の励起スペクトルと蛍光スペクトルに合わせて、適宜選択して使用することができる。フィルタ7,8としては、例えば、蛍光検出を行う際にノイズを除去する波長選択型の蛍光フィルタや、規定波長よりも短波長側の光をカットして長波長側の光を透過させるハイパスフィルタ(ロングパスフィルタ)、規定波長よりも長波長側の光をカットして短波長側の光を透過させるローパスフィルタ(ショートパスフィルタ)、一定の波長域の光のみ透過させ、それ以外の短波長側及び長波長側の光をカットするバンドパスフィルタなどが挙げられる。
【0029】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のタイヤ接地状態測定方法は、乗用車、ライトトラック・バス等の各種タイヤの接地状態の測定に用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
1・・・透明板
2・・・蛍光液
3・・・光源
4・・・撮影手段
5・・・ダイクロイックミラー
6・・・ミラー
7・・・フィルタ
8・・・フィルタ
9・・・透明板設置台
10・・タイヤ

図1
図2
図3