【解決手段】回折格子分光器を用いた光スペクトル測定装置であって、波長λaについての測定対象次数回折光と不要次数回折光との回折効率の比率に基づいて、波長λaが不要次数回折光である波長λbの測定値に現われる不要次数光スペクトルを推定し、推定された前記不要次数光スペクトルを用いて波長λbの測定値を補正する不要次数カット演算部を備えた。
【背景技術】
【0002】
光スペクトル測定装置は、入力光に対して、各波長に対応した光パワーを分光により測定して分析を行なう測定器であり、光ファイバ伝送システムの評価や光通信用デバイスの特性評価を目的とした測定等に広く使用されている。
【0003】
図10は、従来の光スペクトル測定装置500の測定原理を示す図である。測定対象の入力光は、光バンドパスフィルタ521で、狭い波長スロットに分割され、フォトダイオード540で電気信号に変換される。そして、増幅器550で増幅され、A/D変換器560でデジタル信号に変換される。
【0004】
光バンドパスフィルタ521の中心波長を掃引させることで得られる信号をプロットしていくことで光スペクトラムが得られ、表示装置570に測定結果として表示される。この光バンドパスフィルタ521は,回折格子を波長分散素子として使用したメカニカルな装置でモノクロメータと呼ばれる。光バンドパスフィルタ521では、回転ステージ上に配された回折格子の角度を、モータを備えた位置制御部526で変更することにより中心波長を掃引させる。
【0005】
回折格子分光器520の出力波長は、[数1]で与えられる。
【数1】
ここで、mは回折次数、dは回折格子522の溝間隔、θaは回折格子522の入射光と出射光との挟み角、θは回折格子522の法線と、入射光と出射光の中心とのなす角度である。(
図11参照)。
【0006】
[数1]から分かるように、波長λの光が回折格子522に入射すると、回折次数mの値によっていろいろな角度に回折する。ここで、mは整数であるから、回折角は離散的な値となる。
【0007】
このため、広い波長範囲(λa〜λb)が回折格子522に入射すると、
図12に示すように、隣り合う次数のスペクトルが一部重なり合う現象が起こる。例えば、1次回折光の800nmを取り出せる回折角度θ
800は、400nmの2次回折光を取り出す回折角度θ
400と同一であるため、その角度でスペクトルが重なり合うことになる。
【0008】
したがって、1次回折光の800nmを取り出したい場合は、400nmの光を遮蔽する必要がある。このために、従来の光スペクトル測定装置500は、不要次数をカットする光学フィルタ530を備えている。光学フィルタ530は、波長帯域毎に複数種類用意されており、適宜切り換えられて用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の光スペクトル測定装置500は、光学フィルタ530を用いているため、光学フィルタ530の特性に測定精度が左右される。例えば、光学フィルタ530の遮蔽能力には限界があり、遮蔽したい波長帯域において完全な遮蔽ができるわけではない。
【0011】
例えば、1000nm以上の波長を取り出すために、400nm〜900nmを遮蔽する光学フィルタ530を用いる際に、光学フィルタ530の遮蔽能力が99.9%であるとすると、0.1%の不要な回折次数の光が漏れ込んでしまい、測定結果の精度に悪影響を与えることになる。
【0012】
そこで、本発明は、光学フィルタの特性が測定精度に影響を与えない光スペクトル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の光スペクトル測定装置は、回折格子分光器を用いた光スペクトル測定装置であって、波長λaについての測定対象次数回折光と不要次数回折光との回折効率の比率に基づいて、波長λaが不要次数回折光である波長λbの測定値に現われる不要次数光スペクトルを推定し、推定された前記不要次数光スペクトルを用いて波長λbの測定値を補正する不要次数カット演算部を備えたことを特徴とする。
ここで、前記不要次数カット演算部は、さらに、波長λbと波長λaとの分解能帯域幅の比率に基づいて前記不要次数光スペクトルを推定することができる。
また、不要次数回折光の波長λbを遮断する光学フィルタをさらに備え、前記不要次数カット演算部は、さらに、前記光学フィルタの遮断特性に基づいて、前記不要次数光スペクトルを推定してもよい。
また、前記不要次数カット演算部は、前記回折効率の比率をあらかじめ記録していることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光学フィルタの特性が測定精度に影響を与えない光スペクトル装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の光スペクトル測定装置の第1実施例を示すブロック図である。本図に示すように、光スペクトル測定装置100は、回折格子分光器120、フォトダイオード140、増幅器150、A/D変換器160、表示装置170、不要次数カット演算部180を備えている。
【0017】
回折格子分光器120は、回折格子を波長分散素子として使用したモノクロメータで構成された光バンドパスフィルタ121と、回転ステージ上に配された回折格子の角度を、モータを用いて変更することにより中心波長を掃引させる位置制御部126を備えている。
【0018】
第1実施例の光スペクトル測定装置100は、不要次数カット用の光学フィルタを備えておらず、その代わりに不要次数カット演算部180を備えている。不要次数カット演算部180は、不要次数によって現われる光スペクトルを推定し、測定結果から減算することで不要次数成分のカットを行なう。このため、光学フィルタの特性が測定精度に影響を与えることはない。不要次数カット演算部180は、推定用テーブル181を備えており、不要次数カット演算の際に参照する。
【0019】
ここで、本発明の不要次数カットの原理について説明する。ここでは、800nmから1800nmの測定波長帯域を、1次回折光を使用して測定する光スペクトル測定装置を例にする。不要次数回折光をカットする光学フィルタは用いていないものとする。この装置に、850nmの単色光と、1300nmの単色光を同時入力すると、測定結果には、
図2に示すように、850nmと1300nmのピークに加え、850nmの2倍である1700nmにピークが現われる。
【0020】
1700nmのピークは850nmの2次回折光であるため、不要次数によって測定されたスペクトルである。ここで、[数2]に示すように、1700nmのピークの高さP
1700は、850nmのピークの高さP
850に対して、係数Kを掛け合わした値と表すことができる。
【数2】
ただし、η
850nm1stは、850nmにおける1次回折光の回折効率であり、η
850nm2ndは、850nmにおける2次回折光の回折効率である。回折効率は、使用する回折格子等の部品固有の値であり、あらかじめ取得することができる。すなわち、Kが既知であれば、850nmのピークの高さP
850に基づいて、2次回折光のピークの高さを推定することができるため、1700nmの不要次数によるスペクトルをカットすることができる。
【0021】
ここでは、説明のため、850nmの単色光と1300nmの単色光を例にしたが、各波長において1次回折光の回折効率と2次回折光の回折効率が得られ、係数Kが定まることになる。すなわち、[数3]に示すように係数Kは、波長の関数K(λ)として考えることができる。ただし、η
λ1stは、波長λにおける1次回折光の回折効率であり、η
λ2ndは、波長λにおける2次回折光の回折効率である。
【数3】
このことから、波長λの1次回折光スペクトルの高さがP(λ)のとき、不要次数として波長2λに現われる波長λの2次回折光スペクトルPcal(2λ)は[数4]と表すことができる。
【数4】
したがって、波長2λの測定スペクトルをP(2λ)とすると、不要次数成分をカットした1次回折光のスペクトルP0(2λ)は[数5]と表すことができる
【数5】
ところで、1次回折光と2次回折光の回折効率は、一般に
図3に示すような特性となる。すなわち、2次回折光の回折効率が高いのは、400nm〜900nmの範囲であり、800nm〜1800nmの範囲に不要次数スペクトルとして現われることになる。
【0022】
このため、関数K(λ)のλは、実質的に、2次回折光の回折効率が高いおよそ400nm〜900nmの範囲を得ておけばよい。そして、得られた関数K(λ)と測定された400nm〜900nmのスペクトルを用いて800nm〜1800nmに現われる2次回折光のスペクトルを推定して、不要次数成分として測定値から減算すればよい。
【0023】
次に、第1実施例の光スペクトル測定装置100の動作について
図4のフローチャートを参照して説明する。光スペクトル測定装置100の動作は、事前フェーズと測定フェーズとに分けることができる。事前フェーズは、2次回折光のスペクトルを推定する際に用いる関数K(λ)を作成して記録するフェーズであり、製造時等に1回行なえばよい。ただし、メンテナンス時等に再度行なって更新してもよい。測定フェーズは、実際の光スペクトル測定を行なうフェーズであり、ユーザにより繰り返し行なわれる。
【0024】
まず、事前フェーズとして、推定用テーブル181を作成する(S101)。本処理では、実測等に基づいて関数K(λ)を求めて、推定用テーブル181として記録する。関数K(λ)は、個体毎に異なるため、個体毎に事前フェーズを行なうことが好ましい。
【0025】
関数K(λ)は、[数3]により求めることができる。このため、2次回折光の回折効率の高い波長帯域を対象にして、波長λの単光色を順次変化させながら、1次回折光の光パワーと2次回折光の光パワーとを測定し、その比をK(λ)とすればよい。
【0026】
例えば、
図5(a)に示すように、2次回折光の回折効率の高い波長として400nmの単光色を入射した場合は、400nmの1次回折光の光パワーと800nmの2次回折光の光パワーとの比を算出することで、K(400nm)を求めることができる。単光色の波長間隔を細かくするほど、精度の高い関数K(λ)を求めることができる。測定ポイント間のデータは補間計算により求めることができる。
【0027】
測定フェーズでは、光バンドパスフィルタ121の中心波長を掃引することで測定対象の入射光の測定を行なう(S102)。この時点の測定結果には不要次数成分が含まれている。
【0028】
次に、他波長の2次回折光の影響を受ける帯域(
図5の例では、900〜1800nm)について、不要次数光スペクトルの推定を行なう(S103)。不要次数光スペクトルの推定は、[数4]にしたがって、他波長の2次回折光の影響を受けない帯域(
図5の例では、400〜900nm)の測定光スペクトルに、それぞれの波長の係数Kを乗じればよい。
【0029】
そして、他波長の2次回折光の影響を受ける帯域について、[数5]にしたがって、波長λごとに、測定光スペクトルから推定された不要次数光スペクトルを引くことで、測定光スペクトルを補正する(S104)。
【0030】
最後に、補正後の測定光スペクトルを測定結果として表示装置170等に出力する(S105)。出力される測定結果は、光学フィルタを用いることなく、不要次数成分をカットした精度の高い値である。
【0031】
次に、本発明の第2実施例について説明する。第1実施例の光スペクトル測定装置100により、不要次数成分をカットした精度の高い測定結果を得ることができる。この精度は、不要次数によって現われる光スペクトルの推定精度を高めることで、一層高まることになる。
【0032】
そこで、第2実施例では、光スペクトル測定装置100で測定される光パワーの値が、光パワー密度と呼ばれる分解能帯域幅当たりの光パワーであることを考慮し、[数4]に示した不要次数成分として波長2λに現われる波長λの2次回折光スペクトルPcal(2λ)を、[数6]に示す式により求めるものとする。
【数6】
ここで、PBは、分解能帯域幅であり、[数7]で与えられる。ただし、εは回折格子分光器120内の出力スリット幅であり、fは回折格子分光器120内のフォーカシングミラーの焦点距離、βは回折格子の法線と回折角とのなす角度である(
図6参照)。
【数7】
分解能帯域幅PBは、回折格子分光器120固有の値であり、あらかじめ取得することができる。このため、事前フェーズにおいて、関数K(λ)とともに求めて、推定用テーブル181として記録する。
【0033】
次に、本発明の第3実施例について説明する。
図7は、本発明の光スペクトル測定装置の第3実施例を示すブロック図である。第1実施例と同じブロックは同じ符号を付している。本図に示すように、光スペクトル測定装置101は、回折格子分光器120、不要次数カット用光学フィルタ130、フォトダイオード140、増幅器150、A/D変換器160、表示装置170、不要次数カット演算部180を備えている。すなわち、第3実施例では、不要次数カット演算部180とともに不要次数カット用光学フィルタ130を用いている。
【0034】
第3実施例では、[数4]に示した不要次数として波長2λに現われる波長λの2次回折光スペクトルPcal(2λ)を、[数8]に示す式により求めるものとする。
【数8】
ここで、ODは、
図8に例示するような不要次数カット用光学フィルタ130の遮蔽特性である。不要次数カット用光学フィルタ130で遮蔽され、十分低減された不要次数回折光に対して、不要次数カット演算部180による不要次数カット演算を行なうため、より正確な光スペクトルを測定結果として得ることができる。このとき、不要次数カット用光学フィルタ130の遮蔽特性を考慮して不要次数カット演算を行なうため、光学フィルタの特性が測定精度与える影響を取り除くことができる。
【0035】
遮蔽特性は、不要次数カット用光学フィルタ130固有の値であり、あらかじめ波長毎に取得できる。このため、事前フェーズにおいて、関数K(λ)とともに求めて、推定用テーブル181として記録する。なお、[数8]において、分解能帯域幅PBは省いてもよい。
【0036】
ところで、本発明の不要次数カットの原理として、800nmから1800nmの測定波長帯域を、1次回折光を使用して測定する光スペクトル測定装置を例に用いて説明したが、光スペクトル測定装置の中には、測定波長に合わせて回折次数を変えることで、広い波長帯域で高効率の測定を可能としているものがある。
【0037】
ここでは、
図9に示すように、1次回折光と2次回折光との回折効率に応じて、400nmから550nmの帯域は2次回折光を使用し、550mmから1200nmの帯域は1次回折光を使用する光スペクトル測定装置を例に、本発明の第4実施例を説明する。
【0038】
第4実施例では、例えば、400nmの2次回折光と、800nmの1次回折光とが回折格子の同じ回転角度で得られるため、不要次数カット用光学フィルタが必須となる。すなわち、400nmの2次回折光を測定する際に、800nmを遮蔽する光学フィルタが必要となり、800nmの1次回折光を測定する際に、400nmを遮蔽する光学フィルタが必要となる。このため、
図7に示した第3実施例と同様の構成とすることができる。
【0039】
仮に光学フィルタがない場合、例えば、800nmの単色光が入力されると、800nmの1次回折光と、400nmの2次回折光として測定され、それぞれのピーク高さは等しくなる。
【0040】
同様に、400nmの単色光が入力されると、800nmの1次回折光と、400nmの2次回折光として測定され、それぞれのピーク高さは等しくなる。
【0041】
このことから、光学フィルタがない場合、2次回折光で測定される波長λと、1次回折光で測定される波長2λとは、係数K=1で互いの測定に不要次数光スペクトルとして現われることになる。
【0042】
第4実施例では、実装上、不要次数カット用光学フィルタ130が必須となることから、不要次数カット用光学フィルタ130の遮蔽特性をODとすると、2次回折光で測定される波長λに現われる1次回折光で測定される波長2λの不要回折光は、[数9]で表すことができ、波長λの測定値の補正は、[数10]で行なうことができる。ここで、K=1のため、Kは不要となる。
【数9】
【数10】
また、1次回折光で測定される波長2λに現われる2次回折光で測定される波長λの不要回折光は、[数11]で表すことができ、波長2λの測定結果の補正は、[数12]で行なうことができる。
【数11】
【数12】
ここで、不要次数成分カットを行なう波長範囲は、2次回折光で測定される波長λの範囲と、対応する2λの範囲とすることができる。例えば、
図9の例では、λを400nmから550nmの範囲とし、2λを800nmから1100nmの範囲とすればよい。