【解決手段】接地面Eを形成するキャップゴム50と、キャップゴム50のタイヤ径方向RD内側に設けられるベースゴム51と、を有する。キャップゴム50には、タイヤ周方向CDに延びる主溝5aと、主溝5aにより区画されるリブRbと、が形成されている。主溝5aは、リブRbを形成する溝壁面30と、溝底面31と、溝壁面30と溝底面31とをつなぐ溝曲面32と、を有する。キャップゴム50の内部であって溝曲面32の上端P1よりも下方で且つ溝曲面32の下端P2よりも溝外側となる第1領域Ar1に、キャップゴム50よりもゴム硬度の低い低硬度ゴム52が配置されている。低硬度ゴム52は、側面視で溝曲面32の全体と重なると共に、平面視で溝曲面32の全体と重なる。
前記第1領域に配置される低硬度ゴムは、前記溝曲面の法線方向に沿って前記溝曲面からの距離が1.7mmである範囲内に配置されている、請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのトレッドパターンは、キャップゴムに形成される溝によって形成される。トレッドにおけるタイヤ周方向に延びる主溝は、リブ又はブロックを区画する。リブは、タイヤ周方向に連続して延びる陸部であり、ブロックは、主溝及び横溝で区画され、タイヤ周方向に複数配置される。リブは、ブロックよりも剛性が高いため、接地性が悪いと考えられる。
【0003】
図6Bは、リブの接地形状を示す模式図である。
図6Bに示すように、リブRbは、接地したとき、すなわち圧力が加わったときに、タイヤ周方向CDの両側にある接地端の形状がいびつになる。具体的には、リブRbの端(図中では点線丸で示す)が膨らみ、リブの中央が凹んでしまう。制動性能を向上させるためには、接地端の形状が、タイヤ周方向に直交する直線状になることが好ましい。制動時の圧力を適切に受けることができるからである。
【0004】
リブRbの接地端形状がいびつになる原因は、溝の断面形状にあると考えられる。
図6Aに示すように、一般的に、リブRbを形成する主溝5aの溝壁面30と溝底面31とが交差する部位は、曲面32に形成されている。直線同士が交差する構成にすれば、交差点を起点として、ゴムが割れてしまうため、ゴム割れを防止するために、曲面が採用されている。ところが、曲面32を採用すると、溝壁面30の土台が強固になり、溝壁面30の下部がしっかりと支えられた状態になり、溝壁面30の上部が動きやすくなる。その結果、
図6Aにて点線で示すように、溝壁面30の上部が溝内側へ膨らむ。当然、材料はゴムであるので、膨らみが戻る方向へ反力が発生し、リブの端の圧力が高くなり、リブの端がタイヤ周方向に逃げて、接地端がいびつになると考えられる。
【0005】
上記とは直接の関係がないが、先行技術として、特許文献1、2には、溝のクラックを抑制する空気入りタイヤが記載されている。しかし、特許文献1,2には、接地端の形状に関する記載がない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態の空気入りタイヤについて、図面を参照して説明する。
【0013】
図1に示すように、空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、各々のビード部1からタイヤ径方向RD外側に延びるサイドウォール部2と、両サイドウォール部2のタイヤ径方向RD外側端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aと、硬質ゴムからなるビードフィラー1bとが配設されている。
【0014】
また、このタイヤTは、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至るトロイド状のカーカス層4を備える。カーカス層4は、一対のビード部同士1の間に設けられ、少なくとも一枚のカーカスプライにより構成され、その端部がビードコア1aを介して巻き上げられた状態で係止されている。カーカスプライは、タイヤ赤道CLに対して略直角に延びるコードをトッピングゴムで被覆して形成されている。カーカス層4の内側には、空気圧を保持するためのインナーライナーゴム4aが配置されている。
【0015】
さらに、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外側には、サイドウォールゴム6が設けられている。また、ビード部1におけるカーカス層4の外側には、リム装着時にリム(図示しない)と接するリムストリップゴム7が設けられている。本実施形態では、カーカス層4のトッピングゴム及びリムストリップゴム7が導電性ゴムで形成されており、サイドウォールゴム6は非導電性ゴムで形成されている。
【0016】
トレッド部3におけるカーカス層4の外側には、カーカス層4を補強するためのベルト4bと、ベルト補強材4cと、トレッドゴム5とが内側から外側に向けて順に設けられている。ベルト4bは、複数枚のベルトプライにより構成されている。ベルト補強材4bは、タイヤ周方向に延びるコードをトッピングゴムで被覆して構成されている。ベルト補強材4bは、必要に応じて省略しても構わない。
【0017】
図1及び
図2に示すように、トレッドゴム5は、非導電性ゴムで形成され且つ接地面Eを構成するキャップゴム50と、キャップゴム50のタイヤ径方向内側に設けられるベースゴム51と、を有する。キャップゴム50の表面には、タイヤ周方向に沿って延びる複数本の主溝5aが形成されている。
【0018】
上記において接地面Eは、正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地する面であり、そのタイヤ幅方向WDの最外位置が接地端となる。なお、正規荷重及び正規内圧とは、JISD4202(自動車タイヤの諸元)等に規定されている最大荷重(乗用車用タイヤの場合は設計常用荷重)及びこれに見合った空気圧とし、正規リムとは、原則としてJISD4202等に定められている標準リムとする。
【0019】
本実施形態では、トレッドゴム5の両側端部にサイドウォールゴム6を載せてなるサイドウォールオントレッド(SWOT;side wall on tread)構造を採用しているが、この構造に限られるものではなく、トレッドゴムの両側端部をサイドウォールゴムのタイヤ径方向RD外側端に載せてなるトレッドオンサイド(TOS;tread on side)構造を採用することも可能である。
【0020】
ここで、導電性ゴムは、体積抵抗率が10
8Ω・cm未満を示すゴムが例示され、例えば原料ゴムに補強剤としてカーボンブラックを高比率で配合することにより作製される。カーボンブラック以外にも、カーボンファイバーや、グラファイト等のカーボン系、及び金属粉、金属酸化物、金属フレーク、金属繊維等の金属系の公知の導電性付与材を配合することでも得られる。
【0021】
また、非導電性ゴムは、体積抵抗率が10
8Ω・cm以上を示すゴムが例示され、原料ゴムに補強剤としてシリカを高比率で配合したものが例示される。該シリカは、例えば原料ゴム成分100重量部に対して30〜100重量部で配合される。シリカとしては、湿式シリカを好ましく用いるが、補強材として汎用されているものは制限なく使用できる。非導電性ゴムは、沈降シリカや無水ケイ酸などのシリカ類以外にも、焼成クレーやハードクレー、炭酸カルシウムなどを配合して作製してもよい。
【0022】
上記の原料ゴムとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上混合して使用される。かかる原料ゴムには、加硫剤や加硫促進剤、可塑剤、老化防止剤等も適宜に配合される。
【0023】
導電性ゴムは、耐久性を高めて通電性能を向上する観点から、窒素吸着非表面積:N
2SA(m
2/g)×カーボンブラックの配合量(質量%)が1900以上、好ましくは2000以上であって、且つ、ジブチルフタレート吸油量:DBP(ml/100g)×カーボンブラックの配合量(質量%)が1500以上、好ましくは1700以上を満たす配合であることが望ましい。N
2SAはASTM D3037−89に、DBPはASTM D2414−90に準拠して求められる。
【0024】
本実施形態では、
図2に示すように、キャップゴム50には、主溝5aによって区画されたリブRbが形成されている。同図に示すように、主溝5aは、リブRbを形成する溝壁面30と、溝底面31と、溝底面31と溝壁面30とをつなぐ溝曲面32と、を有する。溝壁面30は全部又はその一部が平坦面であり、溝底面31は平坦面である。溝曲面32は、1又は複数の曲面の組み合わせである。溝曲面32の平均曲率半径は1.5〜2.0mmであるが、これに限定されない。平均曲率半径は、溝曲面32を構成する曲面の曲率半径の平均値である。
【0025】
図2に示すように、キャップゴム50の内部であって、溝曲面32の周辺には、キャップゴム50よりもゴム硬度の低い低硬度ゴム52が配置されている。ここでいうゴム硬度は、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)に準じて測定した硬度を意味する。低硬度ゴム52は、キャップゴム50の内部であって溝曲面32の上端P1よりも下方で且つ溝曲面32の下端P2よりも溝外側となる第1領域Ar1に配置されている。第1領域Ar1は、
図2において斜線で示す領域である。低硬度ゴム52は、側面視で溝曲面32の全体と重なり、溝曲面32の全体を側方から覆う。また、低硬度ゴム52は、平面視で溝曲面32の全体と重なり、溝曲面32の全体を下方から覆う。
【0026】
図3Aは、接地時の溝の変形を模式的に示す断面図である。
図3Aでは、接地していないときの形状が実線で描かれており、接地したときの形状が破線で描いている。低硬度ゴム52は、溝曲面32の全体を側方及び下方から覆うので、溝曲面32による溝壁面30の支えが弱くなる。そうすれば、
図3Aに示すように、キャップゴム50よりも先に低硬度ゴム52が圧縮され、圧力が熱エネルギーとして消費される。低硬度ゴム52が優先的に圧縮されるので、反力RFが溝壁面30の下方で主に発現する。その結果、溝曲面32の上部に出てくる反力が低減するので、接地形状が良くなる。
図3Bが接地形状であり、
図6Bに示すようにリブRbの端の膨らみが低減されている。
【0027】
図2に示すように、第1領域Ar1に配置される低硬度ゴム52は、溝曲面32の法線方向に沿って溝曲面32からの距離R1が1.7mmである範囲内に配置されていることが好ましい。この範囲に低硬度ゴム52があれば、低硬度ゴム52が優先的に圧縮させる作用が発現しやすい。
【0028】
さらに、低硬度ゴム52は、第1領域Ar1から上方へ向かい接地面Eまで延びていることが好ましい。勿論、
図4Aに示すように、低硬度ゴム52が接地面Eまで延びなくてもよい。第1領域Ar1にある低硬度ゴム52の厚みD2は、接地面Eに露出する低硬度ゴム52の厚みD1に比べて大きい。厚みD1は0.1〜1.0mm、厚みD2は0.4〜1.5mmが好ましい。本実施形態では、キャップゴム50が非導電性ゴムであり、低硬度ゴム52が導電性ゴムであるので、導電性ゴムのボリュームを抑えて転がり抵抗の悪化を抑制することと、低硬度ゴム52が圧縮されることにより接地端形状が改善されること、を両立する観点である。勿論、この数値範囲外でも効果はある。
【0029】
図2に示すように、第1領域Ar1に配置される低硬度ゴム52は、三日月状である。
図5A及び
図5Bに示すように、低硬度ゴム52は、台形の片側のような形状でもよい。また、低硬度ゴム52は、リブRbの中心RCLと、主溝5aの中心GCLとの間に配置されていることが好ましい。この範囲を外れると、接地端形状を改善する効果が発現しないか、別の部位に対して悪影響を与える可能性があるからである。
【0030】
図1に示すように、主溝5aは、溝底面31から突出するタイヤウェアインディケータTWIを有する。タイヤウェアインディケータTWIは、タイヤの交換時期を示す突起であり、溝底面31から1.6mmの高さを有する。
図2に示すように、タイヤウェアインディケータTWIよりも上にある低硬度ゴム52の厚みが相対的に小さく、タイヤウェアインディケータTWIよりも下方であって第1領域Ar1にある低硬度ゴム52の厚みが相対的に大きいことが好ましい。タイヤウェアインディケータTWIよりも上方は、接地面として露出するため、この領域の導電性ゴムの露出を抑えて、転がり抵抗及びウェット性能の悪化を抑制するためである。
【0031】
また、
図2に示すように、低硬度ゴム52は、導電性ゴムで形成され、接地面Eからキャップゴム50の底面に至る。この構成であれば、低硬度ゴム52が、接地面Eからベースゴム51までの導電経路としても機能することになる。勿論、導電経路が不要であれば、
図4A及び
図4Bに示すように、低硬度ゴム52がキャップゴム50の底面に延びなくてもよい。また、低硬度ゴム52を導電性ゴムで形成しなくてもよく、非導電性ゴムでもよい。接地端形状の適正化という観点であれば、キャップゴム50についても非導電性ゴムでなくてもよく、導電性ゴムにすることも可能である。
【実施例】
【0032】
本開示の構成と効果を具体的に示すために、下記実施例について下記の評価を行った。
【0033】
(1)制動性能
日本産セダン車(2000cc)の車両に各タイヤを装着させて、時速100キロメートルで路面を走行させた状態からABSを作動させた際の制動距離を測定し、その測定値の逆数を算出した。比較例1の結果を100とする指数で評価し、指数が大きいほど、制動性能が優れていることを示す。
【0034】
比較例1
図6Aに示すように、主溝5aによりリブRbが形成されており、主溝5aが、リブRbを形成する溝壁面30と、溝底面31と、溝壁面30及び溝底面31をつなぐ溝曲面32と、を有する一般的なキャップゴム50の構造を有するタイヤを作製した。
【0035】
実施例1
図2に示すように、第1領域に三日月状の低硬度ゴム52を配置した。低硬度ゴム52は、第1領域Ar1から上方に延びて接地面Eに至る。また、低硬度ゴム52は、下方に延びてキャップゴム50の底面に至る。それ以外は、比較例1と同じとした。
【0036】
【表1】
【0037】
表1より、実施例1は比較例1に対し、制動性能について優れていることが分かる。これは、接地端形状が良くなり、接地端が制動時に力を適切に受けやすくなったためと考えられる。
【0038】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤは、接地面Eを形成するキャップゴム50と、キャップゴム50のタイヤ径方向RD内側に設けられるベースゴム51と、を有し、キャップゴム50には、タイヤ周方向CDに延びる主溝5aと、主溝5aにより区画されるリブRbと、が形成されており、主溝5aは、リブRbを形成する溝壁面30と、溝底面31と、溝壁面30と溝底面31とをつなぐ溝曲面32と、を有し、キャップゴム50の内部であって溝曲面32の上端P1よりも下方で且つ溝曲面32の下端P2よりも溝外側となる第1領域Ar1に、キャップゴム50よりもゴム硬度の低い低硬度ゴム52が配置されており、低硬度ゴム52は、側面視で溝曲面32の全体と重なると共に、平面視で溝曲面32の全体と重なる。
【0039】
この構成であれば、低硬度ゴム52は、溝曲面32の全体を側方及び下方から覆うことになるので、溝曲面32による溝壁面30の支えが弱くなり、キャップゴム50よりも先に低硬度ゴム52が圧縮され、圧力が熱エネルギーとして消費される。その結果、溝壁面30の上部に出てくる反力が低減するので、接地形状が良くなる。接地形状が良くなると、制動性能が良くなる。
【0040】
本実施形態では、低硬度ゴム52は、第1領域Ar1から上方へ向かい接地面Eまで延びている。
【0041】
この構成によれば、キャップゴム50のうち溝壁面30を形成する部分が低硬度ゴム52で区画されるので、溝壁面30を形成する部分全体が下方に動き、低硬度ゴム52が優先的に圧縮される。その結果、溝壁面30の上部に出てくる反力がより低減するので、接地形状がさらに良くなる。
【0042】
本実施形態では、第1領域Ar1にある低硬度ゴム52の厚みD2は、接地面Eに露出する低硬度ゴム52の厚みD1に比べて大きい。
【0043】
この構成によれば、接地時に圧縮されやすい第1領域Ar1にある低硬度ゴム52の厚みD2が相対的に大きいので、接地形状を良くする効果を高めることができる。キャップゴム50が非導電性ゴムで且つ低硬度ゴム52が導電性ゴムの場合には、導電性ゴムのボリュームを抑えて、転がり抵抗の悪化を抑制できる。
【0044】
本実施形態では、第1領域に配置される低硬度ゴムは、前記溝曲面の法線方向に沿って前記溝曲面からの距離R1が1.7mmである範囲内に配置されている。
【0045】
この構成によれば、低硬度ゴムが優先的に圧縮される作用が発現しやすく、接地形状が良くなり易い。
【0046】
本実施形態では、キャップゴム50は、非導電性ゴムで形成されており、低硬度ゴム52は、導電性ゴムで形成され、接地面Eからキャップゴム50の底面に至る。
【0047】
この構成によれば、低硬度ゴム52を利用して導電経路を確保することが可能となる。
【0048】
本実施形態では、主溝5aは、溝底面31から突出するタイヤウェアインディケータTWIを有し、タイヤウェアインディケータTWIよりも上にある低硬度ゴム52の厚みD1が相対的に小さく、タイヤウェアインディケータTWIよりも下方であって第1領域Ar1にある低硬度ゴム52の厚みD2が相対的に大きい。
【0049】
この構成によれば、タイヤウェアインディケータTWIよりも上方は、接地面として露出する領域であり、この領域の導電性ゴムの露出を抑えて、転がり抵抗及びウェット性能の悪化を抑制可能となる。
【0050】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0051】
本実施形態では、リブRbとブロックの間にある主溝5aにおいて、リブRbを形成する溝壁面30側に低硬度ゴム52を設けているが、これに限定されない。例えば、リブ同士の間にある主溝5aにおいて、双方の溝壁面30側に低硬度ゴム52を設けてもよい。