特開2018-88862(P2018-88862A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2018088862-風味の良好な鶏ガラスープ 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-88862(P2018-88862A)
(43)【公開日】2018年6月14日
(54)【発明の名称】風味の良好な鶏ガラスープ
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/00 20160101AFI20180518BHJP
【FI】
   A23L23/00
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2016-234623(P2016-234623)
(22)【出願日】2016年12月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土平 洋彰
(72)【発明者】
【氏名】向山 信
【テーマコード(参考)】
4B036
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LF01
4B036LH38
4B036LH44
4B036LK01
4B036LP07
(57)【要約】
【課題】鶏ガラスープに醤油を添加すると、旨みの増強や臭みの低減などの効果が期待できる一方で、醤油由来の色がついたり、醤油感と呼ばれる醤油独特の香りが付与されてしまうために、スープとしての使用用途が限定されてしまうなどの問題を解決する。
【解決手段】膜透過済み醤油を含有する抽出液にて抽出した鶏ガラスープに醤油を添加したもので感じられる強い醤油の風味、酸味、塩味及び色の濃化を抑えるだけでなく、鶏ガラ本来の旨味とコクを引き立てつつ、まろやかな醤油感を残したスープである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜透過醤油を含有する抽出液で抽出処理を行うことを特徴とする、鶏ガラスープの製造方法。
【請求項2】
抽出液が、水と膜透過醤油を99.5:0.5〜80:20の割合で含む物である、請求項1記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味の良好な鶏ガラスープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鶏を解体して食肉を得た後に残る鶏ガラは、スープ等の原料としてしばしば用いられ、中華、洋食、和食など様々な料理における調味ベースとして用いられている。鶏ガラスープの風味向上のための工夫は従来様々なされており、たとえば鶏ガラを焼成またはローストしてからスープを抽出する方法、鶏ガラまたと鶏肉をグルタミン酸ナトリウムを加えた水溶液で常圧加熱抽出する方法などが知られている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−265147
【特許文献2】特開2007−20562
【特許文献3】特開2012−139186
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鶏ガラスープは抽出後、醤油等の各種調味料とあわせて調味を行った上で提供されるのが通常である。鶏ガラスープに醤油を添加すると、旨みの増強や臭みの低減などの効果が期待できる一方で、醤油由来の色がついたり、醤油感と呼ばれる醤油独特の香りが付与されてしまうために、スープとしての使用用途が限定されてしまうなどの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、膜透過済み醤油を含有する抽出液にて抽出した鶏ガラスープが、醤油の色や香りを適度に抑えつつも、旨味やコクを増強させるというすぐれた効果を有することを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0006】
本発明の鶏ガラスープは、膜透過醤油を添加し抽出することにより、鶏ガラスープに醤油を添加したもので感じられる強い醤油の風味、酸味、塩味及び色の濃化を抑えるだけでなく、鶏ガラ本来の旨味とコクを引き立てつつ、まろやかな醤油感を残したスープである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、対照(抽出後の鶏白湯スープに通常醤油を添加したもの)、比較例(抽出液に通常醤油を添加し、鶏白湯スープを抽出したもの)、実施例(抽出液に膜透過醤油を添加し、鶏白湯スープを抽出したもの)について官能試験を行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の鶏ガラスープは、鶏ガラを、上記の方法によって得られた膜透過醤油の存在下で煮込むことによって抽出することができる。
【0009】
膜透過醤油とは、常法によって製造した醤油を、MF(精密ろ過)膜、UF(限外ろ過)膜、イオン交換膜、RO(逆浸透)膜等の孔径0.1nm〜10μmの膜で処理した醤油をいう。膜透過処理に供する原料醤油としては、濃口醤油、うすくち醤油、たまり醤油、再仕込醤油など任意のものを用いることができるが、濃口醤油であることが好ましい。
【0010】
スープ抽出時には、鶏ガラ1kgに対して抽出液1L〜5Lを加え、3〜18時間程度加熱すればよい。抽出液は、水と上記膜透過醤油を、99.5:0.5〜80:20の比率で混合すればよく、とくに99:1〜95:5の比率であることが好ましい。また、加熱抽出時には、同時に加圧してもよい。
【0011】
抽出液には、上記膜透過醤油のほかに、ねぎ、玉ねぎ、生姜、にんにく、セロリ、にんじん、ハーブ等の野菜類、りんご等の果実類、食塩、みりん、酒等の調味料、黒胡椒や唐辛子などの香辛料、砂糖や液糖などの糖類などを加えてもよい。
【0012】
なお、とくにスープを強火で長時間加熱することによって得られる、白湯(ぱいたん)と呼ばれる乳化したスープにおいて、本願発明の効果はとくに著しく得られるものである。
【0013】
得られたスープは、ろ過などによって鶏ガラを除去した後、そのまま提供しても良く、減圧濃縮等によって濃縮して提供し、喫食時に使用者が適宜希釈して用いても良い。使用時には、スープの使用用途に応じて調味料や具材等を添加して食用に供することができる。
【実施例】
【0014】
(実施例1)鶏白湯スープの作製
下記3種類の鶏白湯スープを作製した。
(1)対照例(抽出後の鶏白湯スープに通常醤油を添加)
対照例は、抽出後の鶏白湯スープに通常醤油を添加し、常法によって調味された鶏白湯スープである。具体的には、鶏ガラ2.5kgに対して水7.0Lを加え、中火で8時間加熱後、強火で2時間加熱した。加熱後、通常の濃口醤油を120mL添加し、塩分濃度0.75%(w/w)、窒素濃度0.10%(w/v)となるよう調整した。
【0015】
(2)比較例(抽出時に通常醤油を添加し、鶏白湯スープを抽出)
比較例は、抽出時に通常醤油を添加し、加熱抽出することによって得た鶏白湯スープである。具体的には、水と通常濃口醤油を98:2の割合で混合した抽出液を製造した。その後、鶏がら2.5kgに対して当該抽出液7.0Lを添加し、中火で8時間加熱後、強火で2時間加熱した。加熱後、塩分濃度0.75%(w/w)、窒素濃度0.10%(w/v)となるよう調整した。
(3)実施例(抽出時に本願醤油を添加し、鶏白湯スープを抽出)
実施例は、抽出時に膜透過醤油を添加し、加熱抽出することによって得た鶏白湯スープである。
具体的には(2)と同様であるが、抽出液製造時に通常濃口醤油に代わって膜透過醤油を用いた。膜透過醤油は、通常濃口醤油を、RO(逆浸透)膜を透過させることによって製造した。得られた膜透過醤油の特性は下記のようなものであった。
食塩濃度16.5〜17.5(w/v)%、全窒素濃度1.40〜1.60(w/v%)、色度No.47〜56。
【0016】
(実施例2)官能評価
上記の鶏白湯スープについて、下記10項目に関する官能評価を実施した。官能評価は、対照例における評点を3として、1(最も弱い)〜5(最も強い)の評点をつけることにより行った。なお、色については1(色が最も薄い)〜5(色が最も濃い)、嗜好性については1(最も好ましくない)〜5(最も好ましい)として評価した。評価は、訓練されたパネラー5名によって実施した。
【0017】
それぞれの評価結果を下記表*および図1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
上記表1および図1に示すように、通常醤油を添加した比較例と比べて、膜透過醤油を用いた実施例の鶏白湯スープは、醤油由来の色がつきにくい、醤油感の増加が抑えられるなど、醤油由来の影響が抑えられ、多様な用途に使用できるスープであった。
また、比較例のスープと比べ、鶏ガラ感や旨味、コク、味ののび等が増す一方で、塩味や酸味は抑えられ、よりマイルドで深みのある味わいとなっていた。全体の嗜好性も、対照や比較例と比べて最も好ましいと評価された。
このように、膜透過を行った醤油を抽出液に配合した鶏ガラスープは、きわめて良好な官能評価結果を示すことが明らかになった。
なお上記実施例の鶏ガラスープを減圧濃縮法によって濃縮し、再希釈して食用に供した際にも、その効果は全く失われることがなかった。
図1