(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-90428(P2018-90428A)
(43)【公開日】2018年6月14日
(54)【発明の名称】付加製造装置用セメント組成物、鋳型の製造方法、および意匠造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/32 20060101AFI20180518BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20180518BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20180518BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20180518BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20180518BHJP
C04B 14/06 20060101ALI20180518BHJP
B22C 9/02 20060101ALI20180518BHJP
B33Y 70/00 20150101ALI20180518BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20180518BHJP
【FI】
C04B7/32
C04B22/14 B
C04B22/10
C04B24/06 A
C04B22/08 A
C04B14/06 Z
B22C9/02 101Z
B33Y70/00
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-233143(P2016-233143)
(22)【出願日】2016年11月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】扇 嘉史
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋二
(72)【発明者】
【氏名】谷村 充
(72)【発明者】
【氏名】戸羽 篤也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 逸人
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB02
4G112MB06
4G112MB23
(57)【要約】
【課題】本発明は、強度発現性、とくに早期強度発現性が高く、ガス欠陥や黒鉛球状化不良による欠陥の発生が少なく、また白色度の高い付加製造装置用セメント組成物を提供する。
【解決手段】本発明の付加製造装置用セメント組成物は、カルシウムアルミネート100質量部に対し、石膏を0.5〜10質量部含み、好ましくは、さらに硬化促進剤を1〜10質量部含み、前記硬化促進剤は、好ましくは、炭酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ土類金属塩、およびケイ酸アルカリ金属塩から選ばれる1種以上である。また、本発明の鋳型の製造方法および意匠造形物の製造方法は、付加製造装置と、前記付加製造装置用セメント組成物を用いて鋳型および意匠造形物を作製する方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート100質量部に対し、石膏を0.5〜10質量部含む、付加製造装置用セメント組成物。
【請求項2】
前記石膏が、セメント中に含まれた状態の石膏である、請求項1に記載の付加製造装置用セメント組成物。
【請求項3】
カルシウムアルミネート100質量部に対し、さらに硬化促進剤を1〜10質量部含む、請求項1または2に記載の付加製造装置用セメント組成物。
【請求項4】
前記硬化促進剤が、炭酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ土類金属塩、およびケイ酸アルカリ金属塩から選ばれる1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の付加製造装置用セメント組成物。
【請求項5】
カルシウムアルミネート100質量部に対し、さらに鋳物用砂を100〜400質量部含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の付加製造装置用セメント組成物。
【請求項6】
カルシウムアルミネート100質量部に対し、さらに高純度珪石、石灰石骨材、および人工砂から選ばれる1種以上の白色砂を100〜400質量部含む、請求項1〜4のいずれかに記載の付加製造装置用セメント組成物。
【請求項7】
付加製造装置と、請求項1〜5のいずれか1項に記載の付加製造装置用セメント組成物を用いて鋳型を作製する、鋳型の製造方法。
【請求項8】
付加製造装置と、請求項6に記載の付加製造装置用セメント組成物を用いて意匠造形物を作製する、意匠造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加製造装置(3Dプリンタ)を用いて造形物を作製するための付加製造装置用セメント組成物と、該組成物を用いた鋳型の製造方法および意匠造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造は、溶融した金属を鋳型に注入して鋳物を作製する伝統的な金属加工法である。この鋳造に用いる自硬性鋳型は、使用する粘結材(結合材)に応じて有機系と無機系があり、このうち無機系は、主に水ガラス系とセメント系がある。ただし、セメント系自硬性鋳型は、鋳込み温度によっては、含まれる石膏が熱分解してガスが発生し、鋳物に欠陥が生じ、美観や機能が損なわれる。また、この鋳型の作製は、模型や木型の作製が前工程として必須であるが、この前工程には時間とコストがかかる。
そこで、鋳物の美観等が損なわれず、該前工程が不要な鋳型の製造手段が望まれている。
【0003】
ところで、最近、付加製造装置が、迅速かつ精密な造形手段として注目されている。この付加製造装置のうち、例えば、粉末積層成形装置は、粉末を平面の上に敷き詰め、該粉末に水性バインダを噴射して粉末を固化し、該固化物を垂直方向に順次積層して造形する装置である。この装置の特徴は、3次元CAD等で作成した立体造形のデータを多数の水平面に分割し、これらの水平面の形状を順次積層して、成形体を作製する点にある。
そこで、前記付加製造装置を用いて鋳型を作製できれば、上述の前工程は不要になり、作業時間とコストを削減できると期待される。
【0004】
例えば、特許文献1は、結合材噴射法(粉末積層成形法)に適した粉末材料を提案している。該材料は、珪砂、オリビン砂、人工砂等の耐火砂に速硬性セメントを粘結材として所定の量配合して混練したもので、これに水性バインダを加えて固化・積層して成形体を作製する。
結合材噴射法で作製した成形体は、製造直後の運搬時の破損を防止して、製造量や良品を確保するために、早期強度発現性が高く、かつ鋳物の製造時においても強度が高いことが求められる。
また、特許文献2に記載の造形用材料は、骨材と当該骨材を結着させるバインダーの粉状前駆体とが混合された、粉末固着積層法における造形用材料であって、前記骨材は70重量%以上であり、前記粉状前駆体はセメント等である。
【0005】
しかし、セメントは石膏を比較的多く含むため、セメントを多く含む前記造形用材料を鋳型に用いると、高温下で硫黄酸化物等のガスが発生しブローホール等の欠陥が生じ易く、また黒鉛の球状化阻害による欠陥が生じる場合がある。
このように、セメント系材料を付加製造装置用の鋳型作製用材料として使用すると、硫黄酸化物等のガスや、黒鉛球状化不良による鋳造欠陥が発生するリスクが高く、また早期強度発現性は充分ではない。
【0006】
また、以前より石膏を造形用材料として用いて、結合材噴射法により意匠造形物や部品等が製造されている。しかし、石膏を造形用材料に用いると、造形物は白色であるため、着色が容易で審美性に優れるものの、早期強度発現性が低いため、デパウダーに耐える強度を得るには、造形後、1時間程度静置する必要があった。一方、特許文献1と特許文献2に記載の材料は有色であるため、任意の着色は困難である。そこで、鋳型用材料と同様に早期強度発現性と製品(造形物)の強度が高く、さらに材料自体が白色の意匠造形物用の材料が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−51010号公報
【特許文献2】特開2010−110802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、従来の造形用材料の前記問題を解決したもので、強度発現性、とくに早期強度発現性が高く、ガス欠陥や黒鉛球状化不良による欠陥の発生が少なく、また白色度の高い付加製造装置用セメント組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、カルシウムアルミネートと特定量の石膏を少なくとも含む付加製造装置用セメント組成物は、前記問題を解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記の構成を有する付加製造装置用セメント組成物等である。
【0010】
[1]カルシウムアルミネート100質量部に対し、石膏を0.5〜10質量部含む、付加製造装置用セメント組成物。
[2]前記石膏が、セメント中に含まれた状態の石膏である、前記[1]に記載の付加製造装置用セメント組成物。
[3]カルシウムアルミネート100質量部に対し、さらに硬化促進剤を1〜10質量部含む、前記[1]または[2]に記載の付加製造装置用セメント組成物。
[4]前記硬化促進剤が、炭酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ土類金属塩、およびケイ酸アルカリ金属塩から選ばれる1種以上である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の付加製造装置用セメント組成物。
[5]カルシウムアルミネート100質量部に対し、さらに鋳物用砂を100〜400質量部含む、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の付加製造装置用セメント組成物。
[6]カルシウムアルミネート100質量部に対し、さらに高純度珪石、石灰石骨材、および人工砂から選ばれる1種以上の白色砂を100〜400質量部含む、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の付加製造装置用セメント組成物。
[7]付加製造装置と、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の付加製造装置用セメント組成物を用いて鋳型を作製する、鋳型の製造方法。
[8]付加製造装置と、前記[6]に記載の付加製造装置用セメント組成物を用いて意匠造形物を作製する、意匠造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の付加製造装置用セメント組成物は、強度発現性、とくに早期強度発現性が高く、ガス欠陥や黒鉛球状化不良による欠陥の発生が少ない。また、本発明の意匠造形物用の付加製造装置用セメント組成物は白色度が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、前記したとおり、カルシウムアルミネート100質量部に対し、石膏を0.5〜10質量部含む付加製造装置用セメント組成物等であり、該付加製造装置用セメント組成物は、主として、鋳型作製用材料と意匠造形物用材料としての用途がある。
以下、本発明について、付加製造装置用セメント組成物中の含有成分毎に分けて、詳細に説明する。
【0013】
1.カルシウムアルミネート
本発明で用いるカルシウムアルミネートは、CaO/Al
2O
3のモル比が1.5〜3.0、好ましくは1.7〜2.4である。該モル比が1.5以上で付加製造装置用セメント組成物の早期強度発現性が高く、3.0以下ではセメント組成物の耐熱性が高い。前記モル比を有するカルシウムアルミネートは、例えば、12CaO・7Al
2O
3、3CaO・Al
2O
3、11CaO・7Al
2O
3・CaF
2、Na
2O・8CaO・3Al
2O
3、および非晶質カルシウムアルミネート等から選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、早期強度発現性に優れるため、非晶質カルシウムアルミネートが好ましい。
ここで、前記カルシウムアルミネートは、CaOとAl
2O
3を主成分とするもので、さらに、Na、K、SまたはFeから選ばれる1種以上を含むことができる。非晶質カルシウムアルミネートは、原料を溶融した後、急冷して得られるから、実質的に結晶構造を有せず、通常、そのガラス化率は80%以上である。なお、該ガラス化率は、好ましくは90%以上である。ガラス化率が高いほど、早期強度発現性は高い。
また、カルシウムアルミネートのブレーン比表面積は、速硬性を確保するために、好ましくは3000cm
2/g以上、より好ましくは3800cm
2/g以上であり、また粉塵の発生を抑制するために、好ましくは6000cm
2/g以下である。
【0014】
2.石膏
本発明の付加製造装置用セメント組成物は、カルシウムアルミネート100質量部に対し、石膏を0.5〜10質量部含む。石膏の含有割合が該範囲にあれば、硫黄酸化物等のガスおよび黒鉛球状化不良による鋳造欠陥の発生を抑制でき、かつ早期強度発現性が高い。なお、石膏の前記含有割合は、カルシウムアルミネート100質量部に対し、好ましくは1〜8質量部、より好ましくは1〜7質量部である。
本発明で用いる石膏は、無水石膏、半水石膏、および二水石膏から選ばれる1種以上である。これらの中でも、好ましくは、早期強度発現性がより高いため、無水石膏が好ましい。また、該無水石膏は、天然無水石膏のほか、廃石膏ボード等の廃材を加熱して製造した再生無水石膏が使用できる。
【0015】
また、本発明の付加製造装置用セメント組成物を、鋳型作製用材料として用いる場合、石膏はセメント中に含まれた状態の石膏でもよい。セメント中の石膏は、一般に、二水石膏と半水石膏の混合物(混合石膏)の形態で存在する。半水石膏は、セメントの粉砕により発生する熱により、二水石膏から脱水して生じるため、半水石膏と二水石膏の含有比率は粉砕条件の影響を受け変動する。
カルシウムアルミネートとセメントを混合して、カルシウムアルミネート100質量部に対して石膏を0.5〜10質量部含むようにするためには、カルシウムアルミネート100質量部に対し、セメントを概ね25質量部以下混合すればよい。石膏単独のほかに、セメントクリンカー粉末が共存していれば、材齢1日以後の中・長期の強度発現性がより向上する。かかるセメントは、速硬セメント、超速硬セメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント、高炉セメント、およびフライアッシュセメントから選ばれる1種以上が挙げられる。
また、特に長期の強度発現性が必要な場合、セメント中の珪酸カルシウムの含有率は、好ましくは45質量%以上である。また、JIS R 5210に準拠して測定した凝結(始発)が3時間30分以内、好ましくは1時間以内のセメントであれば、鋳型および意匠造形物の製造時から3時間後の早期強度発現性も高い。該特性を満たす観点から、セメントは、好ましくは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、速硬性セメント、および超速硬セメントである。なお、速硬性セメントや超速硬セメントの市販品は、例えば、スーパージェットセメント(登録商標、小野田ケミコ社製)、ジェットセメント(登録商標、住友大阪セメント社製)、およびデンカスーパーセメント(デンカ社製)が挙げられる。
なお、本発明の付加製造装置用セメント組成物を、意匠造形物用材料として用いる場合、セメント中に含まれた状態の石膏よりも、石膏自体(単独)を用いることが好ましい。ただし、ホワイトセメントなどの白色のセメントを用いる場合、該セメント中に含まれた状態の石膏でもよい。
【0016】
また、石膏のブレーン比表面積は、早期強度発現性を確保するために、好ましくは3000cm
2/g以上、より好ましくは4000cm
2/g以上である。
前記カルシウムアルミネートおよび石膏のブレーン比表面積の、少なくともいずれか一方が高ければ、充分な早期強度発現性が得られる。したがって、早期強度発現性を高める観点から、カルシウムアルミネートおよび石膏のブレーン比表面積の和は、好ましくは8000cm
2/g以上である。なお、製品の製造原価を抑制する観点では、粉砕がより容易なことから、カルシウムアルミネートよりも石膏のブレーン比表面積を高くする方が好ましい。
【0017】
3.硬化促進剤
本発明の付加製造装置用セメント組成物は、さらに任意成分として硬化促進剤を、カルシウムアルミネート100質量部に対し、1〜10質量部含んでもよい。硬化促進剤が該範囲にあれば、早期強度発現性はさらに向上する。なお、前記硬化促進剤の含有割合は、カルシウムアルミネート100質量部に対し、より好ましくは2〜8質量部、さらに好ましくは3〜6質量部である。
本発明で用いる硬化促進剤は、炭酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ金属塩、乳酸アルカリ土類金属塩、およびケイ酸アルカリ金属塩から選ばれる1種以上である。そして、
(i)前記炭酸アルカリ金属塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸リチウムから選ばれる1種以上が挙げられる。
(ii)前記乳酸アルカリ金属塩は、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、および乳酸リチウムから選ばれる1種以上が挙げられる。
(iii)前記乳酸アルカリ土類金属塩は、乳酸カルシウム、および乳酸マグネシウムから選ばれる1種以上が挙げられる。
(iv)前記ケイ酸アルカリ金属塩は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、およびケイ酸リチウムから選ばれる1種以上が挙げられる。
前記硬化促進剤は、前もって付加製造装置用セメント組成物に含めるほか、付加製造装置から供給される水に溶解して用いることもできる。
【0018】
4.砂
本発明の付加製造装置用セメント組成物を、鋳型作製用材料として用いる場合、カルシウムアルミネート100質量部に対し、さらに鋳物用砂を100〜400質量部含んでもよい。該鋳物用砂は、好ましくは、珪砂、オリビン砂、および人工砂から選ばれる1種以上である。珪砂、オリビン砂、および人工砂は、耐火性が高いため、これら珪砂等の含有割合が前記範囲にあれば、鋳型の耐火性と早期強度発現性が確保できる。なお、該含有割合は、カルシウムアルミネート100質量部に対し、より好ましくは150〜300質量部、さらに好ましくは180〜250質量部である。
また、本発明の付加製造装置用セメント組成物を、意匠造形物用材料として用いる場合、カルシウムアルミネート100質量部に対し、さらに白色砂を100〜400質量部含んでもよい。該白色砂は、高純度珪砂、石灰石砂、および人工砂から選ばれる1種以上が挙げられる。高純度珪砂、石灰石砂、および人工砂は、白色度が高いため、意匠造形物の着色が容易で、意匠造形物の美観が向上する。なお、該含有割合は、カルシウムアルミネート100質量部に対し、より好ましくは150〜300質量部、さらに好ましくは180〜250質量部である。
【0019】
5.その他の粉末
本発明の付加製造装置用セメント組成物は、前記のセメントに含まれる石膏以外の鉱物(例えば、ケイ酸カルシウム、アーウィン、鉄アルミン酸カルシウム等)を、カルシウムアルミネート100質量部に対し25質量部以下含んでもよい。セメントに含まれる石膏以外の鉱物の含有割合が前記範囲内であれば、材齢1日以後の中・長期の強度発現性が向上するとともに、早期強度発現性も高い。
なお、本発明の付加製造装置用セメント組成物は、さらに、早期強度発現性を損なわない範囲で造形性の調整等のため、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、珪石微粉末、および石灰石微粉末等の鉱物質微粉末を、任意の成分として含んでもよい。
【0020】
6.鋳型の製造方法および意匠造形物の製造方法
本発明の鋳型の製造方法および意匠造形物の製造方法は、付加製造装置と本発明の付加製造装置用セメント組成物を用いて、鋳型および意匠造形物を造形する方法である。本発明の付加製造装置用セメント組成物は、前記の材料を市販の混合機または手作業で混合して調製した後、粉末積層型付加製造装置により鋳型等の造形物を製造する。該付加製造装置は特に限定されず、市販品が使用できる。
また、本発明の鋳型および意匠造形物の製造方法において、水/付加製造装置用セメント組成物の質量比は、鋳物および意匠造形物の製造時の寸法精度と強度の観点から、好ましくは0.01〜0.1、より好ましくは0.02〜0.09、さらに好ましくは0.03〜0.08である。
【0021】
本発明の鋳型の製造方法および意匠造形物の製造方法において、鋳型および意匠造形物の養生方法は、気中養生単独、気中養生した後に続けて水中養生する方法、または、表面含浸剤養生等がある。前記3種類の養生温度は、特に制限されないが、養生のし易さから、好ましくは10〜50℃である。
気中養生時間は、十分な強度発現と生産効率の観点から、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは1〜4時間、さらに好ましくは2〜4時間であり、水中養生時間は、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上、さらに好ましくは20時間以上である。
【0022】
前記表面含浸剤養生は、成形体をケイ酸アルカリ水溶液中に浸漬して、成形体の強度を増進させる養生である。
前記ケイ酸アルカリ水溶液中のケイ酸アルカリは、好ましくはケイ酸ナトリウムおよび/またはケイ酸カリウムである。そして、前記ケイ酸アルカリ水溶液中のケイ酸アルカリの含有率は、好ましくは10〜40質量%である。該含有率が10質量%未満ではケイ酸アルカリの浸透量が不充分で強度増進効果は小さく、40質量%を超えるとケイ酸アルカリ水溶液の粘性が高くなり浸透性が低下するおそれがある。なお、該含有率は、より好ましくは20〜35質量%である。
前記表面含浸剤養生の養生時間は、好ましくは6〜48時間である。該時間が6時間未満では養生が十分でなく、48時間を超えても強度増進効果は飽和する傾向にある。なお、前記表面含浸剤養生の養生時間は、製造効率の観点から、より好ましくは12〜24時間である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用した材料
(1)非晶質カルシウムアルミネート(試製品)
該カルシウムアルミネートのブレーン比表面積(BL)は、3000cm
2/g、3800cm
2/g、および5000cm
2/gであり、CaO/Al
2O
3のモル比はいずれも2.2であり、ガラス化率はすべて95%以上である。また、該カルシウムアルミネートは、XRDピークは認められるが定量不可能な程度の少量の結晶性の12CaO・7Al
2O
3を含む。
(2)天然無水石膏
該天然無水石膏(タイ産)のブレーン比表面積(BL)は、4350cm
2/g、および7200cm
2/gである。
(3)硬化促進剤
(i)炭酸リチウム(LC、試薬1級、関東化学社製)
(ii)乳酸カルシウム(CL、試薬1級、関東化学社製)
(4)セメント
(i)スーパージェットセメント(SJC、超速硬セメント、登録商標、小野田ケミコ社製)
該スーパージェットセメント中のケイ酸カルシウムの含有率は47質量%、凝結(始発)は30分以内、ブレーン比表面積は4700cm
2/gである。スーパージェットセメントに含まれる石膏は天然無水石膏である。
(ii)早強ポルトランドセメント(HC、太平洋セメント社製)
該早強ポルトランドセメント中のケイ酸カルシウムの含有率は75質量%、凝結(始発)は1時間40分、ブレーン比表面積は4300cm
2/gである。早強ポルトランドセメントに含まれる混合石膏中の半水石膏/二水石膏の質量比は6:4である。
(iii)アルミナセメント(AC、試作品)
該アルミナセメントのブレーンは5100cm
2/gであり、その他の物性および化学組成はJISR2511(旧規格)の3種に相当する。なお、該アルミナセメントは石膏を含まない。
(5)砂
(i)天然鋳物砂:8号(東北珪砂社製)
(ii)人工鋳物砂:アルミナ系、商品名 エスパール♯180L(山川産業社製)
(6)水道水
【0024】
2.鋳型作製用材料、鋳型、およびモルタル供試体の作製
表1に掲載の配合に従い、前記カルシウムアルミネート、石膏、セメント、硬化促進剤、砂等を混合して鋳型作製用材料を作製した。
次に、該鋳型作製用材料と、付加製造装置として結合材噴射式粉末積層造形装置(商品名:ZPrinter310 Zコーポレーション社製)を用いて、結合材噴射法により、寸法が縦10mm、横16mm、および長さ80mmのモルタル供試体と、鋳型を作製した。
なお、前記装置による鋳型の製造方法は、鋳型作製用材料の所定の位置を選択して、ノズルから一定量の水を噴出し、鋳型作製用材料を固化する方法であり、水/付加製造装置用セメント組成物の質量比は0.05である。
【0025】
3.モルタル供試体の曲げ強度の測定
次に、前記モルタル供試体を3時間および24時間、気中養生した後、曲げ強度試験機(型番:MODEL-2257、アイコーエンジニアリング社製)を用いて3点曲げ試験を行い、前記モルタル供試体の曲げ強度を測定した。その結果を表1に示す。
表1に示すように、材齢3時間および24時間の曲げ強度は、比較例1〜3では、それぞれ0.24〜0.29MPa、および0.23〜0.50MPaと低いのに対し、実施例1〜11では、それぞれ0.31〜0.65MPa、および0.51〜0.78MPaと高く、実用上充分な早期強度発現性(材齢3時間で0.3MPa以上、材齢24時間で0.5MPa以上)を有する。
【0026】
4.鋳物の作製
さらに、溶湯温度が約1600℃の溶湯鋳鉄を、前記鋳型に流し込んで鋳物を作製した。
表1に示すように、いずれの実施例も鋳込み時において、ガスによる欠陥が発生せず、表面が平滑な鋳物を製造できた。これに対し、石膏量が10質量部を超え17質量部と多い比較例3や、セメント中に石膏を多く含む参考例(特許文献1および2に記載の発明に相当)は、強度が十分であるものの、鋳込み時にガスが発生して鋳造欠陥が生じた。
なお、実施例2で製造した材齢24時間の供試体を、電気炉で1200℃、3時間加熱したところ、曲げ強度は1.65MPaとなった。また、溶湯温度が約1600℃の溶湯鋳鉄を、前記鋳型に流し込んで鋳物を作製したところ、鋳込み時において、ガスによる欠陥が発生せず、表面が平滑な鋳物を製造できた。
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【表1】