【課題】飛散量及びアウトガス量が低減され、低温特性に優れるグリース、並びに該グリースを用いた転がり軸受、転がり軸受装置及び情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【解決手段】基油及び増ちょう剤を含み、前記基油は、鉱油及びポリ−α−オレフィンを含み、前記ポリ−α−オレフィンの質量が前記鉱油の質量よりも多く、前記ポリ−α−オレフィンが、前記鉱油よりも動粘度が高いポリ−α−オレフィンを含み、前記基油の40℃における動粘度が40〜90mm
転動体が配置されるボールポケットを有するリテーナをさらに有し、前記リテーナ上の前記ボールポケット以外の部分に前記グリースが保持されている、請求項7に記載の転がり軸受。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における動粘度は、JIS K2283に準拠して40℃で測定された値を意味する。
【0015】
[グリース]
本発明のグリースは、基油及び増ちょう剤を含む。
【0016】
(基油)
基油は、鉱油及びPAOを含む。
PAOは増ちょう剤や添加剤との親和性が低く、基油としてPAOのみを使用すると増ちょう剤や添加剤を均一に分散させにくく、それらの効果が充分に得られにくい。しかし、本発明のグリースでは鉱油をPAOと併用することで、基油と増ちょう剤や添加剤との親和性が良好になる。これにより基油中で形成される増ちょう剤のサイズのばらつきが抑えられ、またサイズも小型化できるとともに増ちょう剤の分散性が優れるため、トルク平滑性が優れる。そして添加剤の効果も充分に発揮される。
【0017】
<鉱油>
鉱油としては、基油として用いられる公知の鉱油を使用でき、例えば、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、水素化系鉱油、溶剤精製鉱油、高精製鉱油等が挙げられる。鉱油としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、動粘度の異なる複数の鉱油を混合し、目的の動粘度(平均動粘度)に調整したものを使用してもよい。
【0018】
鉱油としては、よりアウトガス量が少なく、耐熱性に優れるとともに、低温特性にも優れたグリースが得られる点から、API(American Petroleum Institute,米国石油協会)基油カテゴリーでグループIII(GrIII)に分類される精製鉱油が好ましい。前記精製鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得た潤滑油留分をさらに高度水素化精製したパラフィン系鉱油等が挙げられる。前記グループIIIに分類される精製鉱油は、引火点が240℃以上であるものが好ましく、250℃以上であるものがより好ましい。このような精製鉱油は精製度が高く、アウトガス量をより一層低減することができる。この理由として、アウトガスの原因になる低分子量の成分が低減されていることが推測される。また、低温時の基油粘度上昇に伴うトルク上昇を抑えることが出来る。
【0019】
鉱油の動粘度ν
1は、40〜80mm
2/sが好ましく、45〜60mm
2/sがより好ましい。鉱油の動粘度ν
1が前記下限値以上であれば、アウトガス量を低減しやすい。鉱油の動粘度ν
1が前記上限値以下であれば、転がり軸受の転動面のグリースを必要とする面にグリース又は基油が供給され易くなる。
なお、動粘度の異なる複数の鉱油の混合物を使用する場合には、その混合物の動粘度を鉱油の動粘度とする。
【0020】
<PAO>
本発明のグリースにおけるPAOは、鉱油よりも動粘度が高いPAO(以下、PAO(A)ともいう。)を含む。鉱油と、鉱油よりも動粘度の高いPAO(A)とが組み合わされることで、低温特性に優れたグリースとなる。
PAOの動粘度は、例えば、PAOを形成するα−オレフィンの重合度を調節することにより調節できる。
【0021】
PAO(A)の動粘度ν
Aは、45〜1800mm
2/sが好ましく、50〜650mm
2/sがより好ましい。PAO(A)の動粘度ν
Aが前記下限値以上であれば、アウトガス量を低減しやすい。PAO(A)の動粘度ν
Aが前記上限値以下であれば、先に説明した鉱油や後述するPAO(B)との混合を考えた際に転がり軸受の転動面のグリースを必要とする面にグリース又は基油が供給され易くなる。
なお、PAO(A)として動粘度の異なる複数のPAOの混合物を使用する場合には、その混合物の動粘度をPAO(A)の動粘度とする。
【0022】
PAO(A)の動粘度ν
Aに対する鉱油の動粘度ν
1の比ν
1/ν
Aは、1.0〜45が好ましく、10〜20がより好ましい。比ν
1/ν
Aが前記下限値以上であれば、アウトガス量を低減しやすい。比ν
1/ν
Aが前記上限値以下であれば、優れた低温特性を確保できる。
【0023】
PAO(A)を形成するα−オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、1−ドコセン等が挙げられる。PAO(A)を形成するα−オレフィンは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0024】
PAO(A)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上の混合物を使用してもよい。PAO(A)としては、動粘度ν
Aを鉱油の動粘度ν
1よりも高くした、炭素数8〜12のα−オレフィンの多量体の混合物を含むことが好ましく、炭素数8〜12のα−オレフィンの3〜5量体を含むことがより好ましい。これにより、アウトガス量及び飛散量をより低減でき、優れた低温特性を確保しやすくなるとともに高い耐久性を確保しやすくなる。
【0025】
本発明のグリースにおけるPAOは、PAO(A)に加えて、鉱油と動粘度が同じか又は低いPAO(以下、PAO(B)ともいう。)をさらに含むことが好ましい。
【0026】
PAO(B)の動粘度ν
Bは、20〜80mm
2/sが好ましく、30〜70mm
2/sがより好ましい。PAO(B)の動粘度ν
Bが前記下限値以上であれば、アウトガス量を低減しやすい。PAO(B)の動粘度ν
Bが前記上限値以下であれば、転がり軸受の転動面のグリースを必要とする面にグリース又は基油が供給され易くなる。
なお、PAO(B)として動粘度の異なる複数のPAOの混合物を使用する場合には、その混合物の動粘度をPAO(B)の動粘度とする。
【0027】
PAO(B)の動粘度ν
Bに対する鉱油の動粘度ν
1の比ν
1/ν
Bは、0.5〜1.0が好ましく、0.5〜0.7がより好ましい。比ν
1/ν
Bが前記下限値以上であれば、アウトガス量を低減しやすい。比ν
1/ν
Bが前記上限値以下であれば、転がり軸受の転動面のグリースを必要とする面にグリース又は気油が供給され易くなる。
【0028】
PAO(B)を形成するα−オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、PAO(A)を形成するα−オレフィンで挙げたものと同じものが挙げられる。PAO(B)を形成するα−オレフィンは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0029】
PAO(B)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上の混合物を使用してもよい。PAO(B)としては、動粘度ν
Bを鉱油の動粘度ν
1と同じか又は低くした、炭素数8〜12のα−オレフィンの多量体の混合物を含むことが好ましく、炭素数8〜12のα−オレフィンの3〜5量体を含むことがより好ましい。これにより、アウトガス量及び飛散量をより低減でき、優れた低温特性を確保しやすくなる。
【0030】
本発明では、アウトガス量及び飛散量をより低減でき、優れた低温特性を確保しやすい点から、PAOの動粘度ν
2は鉱油の動粘度ν
1よりも高いことが好ましい。なお、PAOの動粘度ν
2とは、PAO全体の動粘度である。PAOとしてPAO(A)のみを使用する場合、動粘度ν
2は動粘度ν
Aと同じである。PAOとしてPAO(A)及びPAO(B)を使用する場合、動粘度ν
2は動粘度ν
Aと動粘度ν
Bの質量平均値として概算することもできる。
【0031】
PAOの動粘度ν
2は、45〜200mm
2/sが好ましく、50〜120mm
2/sがより好ましい。PAOの動粘度ν
2が前記下限値以上であれば、アウトガス量を低減しやすい。PAO(B)の動粘度ν
2が前記上限値以下であれば、低温時のトルク上昇を抑えやすい。
【0032】
PAOの動粘度ν
2に対する鉱油の動粘度ν
1の比ν
1/ν
2は、0.5〜2.0が好ましく、0.5〜1.0がより好ましい。比ν
1/ν
2が前記下限値以上であれば、アウトガス量を低減しやすい。比ν
1/ν
2が前記上限値以下であれば、低温時のトルク上昇を抑えやすい。
【0033】
<他の油成分>
基油は、鉱油及びPAOに加えて、鉱油及びPAO以外の他の油成分を含んでもよい。他の油成分としては、例えば、エステル油等の合成油が挙げられる。他の油成分としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
基油の動粘度νは、40〜90mm
2/sであり、55〜90mm
2/sが好ましく、さらにより好ましくは65〜90mm
2/sである。基油の動粘度νが前記下限値以上であれば、アウトガス量を低減しやすい。基油の動粘度νが前記上限値以下であれば、転がり軸受の転動面等のグリースを必要とする部分にグリース又は基油が供給されやすい。また、低温特性に優れるため、低温での安定した動作が求められる用途(例えば−30℃の低温でも安定した動作が求められる車載用途)においても低トルクで動作が行える。
【0035】
(増ちょう剤)
増ちょう剤は、グリースを半固体状に保つ役割を果たす。
増ちょう剤としては、グリースに通常使用される公知の増ちょう剤を制限なく使用できる。増ちょう剤の具体例としては、例えば、ウレア化合物、リチウムセッケン等が挙げられる。なかでも、増ちょう剤としては、耐熱性に優れる点から、ウレア化合物であることが好ましく、1分子中に2個のウレア結合を有するジウレア化合物がより好ましい。
【0036】
ジウレア化合物としては、例えば、末端が脂肪族基である脂肪族ジウレア化合物、末端が脂環族基である脂環族ジウレア化合物、末端が芳香族基である芳香族ジウレア化合物等が挙げられる。ジウレア化合物の具体例としては、例えば、ジイソシアネート(フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等)とモノアミン(オクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、アニリン、p−トルイジン等)との反応で得られる化合物が挙げられる。
【0037】
リチウムセッケンとしては、例えば、ステアリン酸リチウム、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム等が挙げられる。
増ちょう剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
(他の成分)
本発明のグリースは、必要に応じて、基油及び増ちょう剤に加えて、基油及び増ちょう剤以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、グリースに通常使用される公知の成分が使用でき、例えば、極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、油性向上剤、金属不活性化剤等の添加剤が挙げられる。
【0039】
極圧剤としては、例えば、有機モリブデン化合物(モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオフォスフェート等)、有機脂肪酸化合物(オレイン酸、ナフテン酸、コハク酸等)、有機リン化合物(トリオクチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等)、リン酸エステル等が挙げられる。また、極圧剤としては、亜鉛ジチオカーバメート、アンチモンジチオカーバメート等を使用してもよい。
極圧剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等)、アミン系酸化防止剤(p,p’−ジオクチルジフェニルアミン等)等が挙げられる。酸化防止剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明のグリースが酸化防止剤を含む場合、フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤を組み合わせて使用することが好ましい。またこの場合、グリース中のアミン系酸化防止剤の含有量がフェノール系酸化防止剤の含有量よりも多いことがより好ましい。
【0041】
防錆剤としては、例えば、有機スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩(カルシウムスルフォネート、マグネシウムスルフォネート、バリウムスルフォネート等)、多価アルコール(ソルビタンモノオレエート等)の部分エステル等が挙げられる。
防錆剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
(各成分の割合)
本発明のグリースの総質量に対する基油の質量の割合は、75〜93質量%が好ましく、80〜90質量%がより好ましい。基油の割合が前記下限値以上であれば、転がり軸受の転動面等のグリースを必要とする面にグリース又は基油が供給されやすい。基油の割合が前記上限値以下であれば、グリースは半固形状であり、漏れにくく飛散しにくい。
【0043】
基油の総質量に対する鉱油の質量の割合は、10〜40質量%であり、20〜30質量%が好ましい。鉱油の割合が前記下限値以上であれば、優れた耐久性とトルク平滑性のバランスのとれたグリースが得られる。鉱油の割合が前記上限値以下であれば、アウトガス量及び飛散量が十分に低減されるとともに低温時のトルク上昇を抑えられたグリースが得られる。
【0044】
本発明では、PAOの質量が鉱油の質量よりも多くなっている。すなわち、PAOとしてPAO(A)のみを使用する場合はPAO(A)の質量が鉱油の質量よりも多く、PAOとしてPAO(A)及びPAO(B)を使用する場合はPAO(A)とPAO(B)の合計質量が鉱油の質量よりも多い。
【0045】
基油中の鉱油に対するPAOの質量比(PAO/鉱油)は、1.25〜9が好ましく、1.5〜4がより好ましい。前記質量比が前記下限値以上であれば、アウトガス量及び飛散量が十分に低減されたグリースが得られやすい。前記質量比が前記上限値以下であれば、優れた耐久性、トルク平滑性が得られやすい。
【0046】
基油の総質量に対するPAOの合計質量の割合は、50〜90質量%が好ましく、60〜80質量%がより好ましい。PAOの割合が前記下限値以上であれば、アウトガス量及び飛散量が十分に低減されるとともに低温時のトルク上昇を抑えられたグリースが得られやすい。PAOの割合が前記上限値以下であれば、優れた耐久性とトルク平滑性のバランスのとれたグリースが得られる。
【0047】
PAOの合計質量に対するPAO(A)の質量の割合は、20〜100質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。PAO(A)の割合が前記下限値以上であれば、アウトガス量及び飛散量が十分に低減されたグリースが得られやすい。PAO(A)の割合が前記上限値以下であれば、優れた耐久性及びトルク平滑性が得られ易い。
【0048】
基油の総質量に対する鉱油とPAOの合計質量の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。鉱油とPAOの合計質量の割合が前記下限値以上であれば、特に0℃以下の低温で低トルクなグリースが得られやすい。前記の鉱油とPAOの合計質量の割合の上限値は100質量%である。
【0049】
本発明のグリースの総質量に対する増ちょう剤の質量の割合は、7〜20質量%が好ましく、10〜15質量%がより好ましい。これにより混和ちょう度を200〜250、より好ましくは215〜235に調整する。このような混和ちょう度範囲とすることによりグリースから基油の染み出し量を制限し、動作中の飛散を抑制するとともに高粘度の基油を使用した際にも低トルクが得られやすい。また、増ちょう剤の割合が前記下限値以上であれば、グリースは半固体状であり、漏れにくく飛散しにくい。増ちょう剤の割合が前記上限値以下であれば、転がり軸受の転動面等のグリースを必要とする面にグリース又は基油が供給されやすい。
【0050】
本発明のグリースの総質量に対する極圧剤の質量の割合は、0.2〜4質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましい。
本発明のグリースの総質量に対する酸化防止剤の質量の割合は、0.05〜4質量%が好ましく、0.2〜2質量%がより好ましい。
本発明のグリースの総質量に対する防錆剤の質量の割合は、0.2〜4質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましい。
【0051】
(用途)
本発明のグリースの用途としては、情報記録再生装置、電子機器製造装置における転がり軸受に用いられるグリースとして特に有用である。電子機器製造装置としては、例えば、半導体製造装置、液晶製造装置、プリント基板製造装置等が挙げられる。また、本発明のグリースは、リニヤガイド、ボールネジに封入されるグリースとして使用することもできる。
【0052】
[情報記録再生装置]
本発明の転がり軸受、転がり軸受装置及び情報記録再生装置は、本発明のグリースを用いる以外は公知の態様を採用できる。以下、本発明の転がり軸受、転がり軸受装置及び情報記録再生装置の一例を示して説明する。
本実施形態の情報記録再生装置1は、ディスク(磁気記録媒体)Dに対して垂直記録方式で書き込みを行う装置であって、
図1に示すように、ディスクDと、スイングアーム2と、光導波路3と、レーザ光源4と、ヘッドジンバルアッセンブリ(HGA)5と、転がり軸受装置6と、アクチュエータ7と、スピンドルモータ(回転駆動部)8と、制御部9と、ハウジング10と、を備えている。
【0053】
ハウジング10は、情報記録再生装置1における各構成部分を収容するものである。
ハウジング10は、平面視四角形状の底部10aと、底部10aの周縁から立設する周壁部(不図示)と、周壁部の上部に着脱可能に固定され、開口部を塞ぐ蓋体(不図示)と、を備える。ハウジング10では、底部10a上における周壁部の内側に、各構成品が収容されるようになっている。
図1では、便宜上、周壁部及び蓋体を省略している。
ハウジング10の材質は、特に限定されず、例えば、アルミニウム等の金属材料が挙げられる。
【0054】
ハウジング10の底部10aの略中心にスピンドルモータ8が取り付けられている。また、ディスクDの中心に形成された中心孔がスピンドルモータ8に嵌め込まれることで、3枚のディスクDが着脱自在に装着されている。スピンドルモータ8により、回転軸線L1を軸にディスクDを一定方向に回転させることができるようになっている。
【0055】
ハウジング10の底部10aの一つの隅角部に、ディスクDの外側に位置するようにアクチュエータ7が取り付けられている。アクチュエータ7には、ディスクDに向かって延びるスイングアーム2が連結されている。スイングアーム2の基端側の部分には転がり軸受装置6が設けられている。アクチュエータ7による駆動によって、スイングアーム2が転がり軸受装置6の回転軸線L2を軸に水平面内で回動するようになっている。
【0056】
スイングアーム2は、アクチュエータ7に連結される基部2aと、基部2aからディスクDに向かって延設されたアーム部2bとを備える。スイングアーム2は、例えば、基部2aとアーム部2bを削り出し加工等により一体形成することで得られる。
基部2aは、略直方体形状であり、転がり軸受装置6を囲うように転がり軸受装置6に回動可能に支持されている。
【0057】
アーム部2bは平板状であり、かつ基端部から先端部に向かって先細るテーパ形状になっている。アーム部2bは、基部2aにおけるアクチュエータ7が取り付けられた後面2cと反対側の前面(隅角部と反対側の面)2dから、基部2aの上面の面方向(水平面内方向)に延出するように設けられている。
また、この例のスイングアーム2では、3枚のアーム部2bが、基部2aの高さ方向(垂直方向)に、各アーム部2bの間にディスクDが挟まれるように設けられている。つまり、アーム部2bとディスクDとが互いに高さ方向に交互に位置するように配置されており、アクチュエータ7の駆動によってアーム部2bがディスク面(ディスクDの表面)D1に平行な方向に移動するようになっている。
【0058】
スイングアーム2におけるアーム部2bの先端にはヘッドジンバルアッセンブリ5が設けられている。スイングアーム2の基部2aの側面部にはレーザ光源4が設けられている。スイングアーム2の基部2a及びアーム部2bには、レーザ光源4とヘッドジンバルアッセンブリ5とを結ぶ光導波路3が設けられている。これにより、レーザ光源4から光導波路3を介してヘッドジンバルアッセンブリ5に光を供給できるようになっている。
【0059】
ヘッドジンバルアッセンブリ5は、サスペンション5aと、サスペンション5aの先端に取り付けられたスライダ5bとを備えている。
スライダ5bは近接場光発生素子を有している。レーザ光源4から光がスライダ5bに導かれた際に該近接場光発生素子から近接場光が発生される。該近接場光を利用することで、ディスクDに各種情報を記録したり、再生させたりすることができる。
近接場光発生素子は、例えば、光学的微小開口や、ナノメートルサイズに形成された突起部等により構成される。
【0060】
ヘッドジンバルアッセンブリ5は、アクチュエータ7の駆動によって、スイングアーム2のアーム部2bとともにディスク面D1に平行な方向に移動する。なお、スイングアーム2及びヘッドジンバルアッセンブリ5は、ディスクDの回転停止時にはアクチュエータ7の駆動によってディスクD上から退避するようになっている。
【0061】
制御部9は、レーザ光源4と接続されている。制御部9においては、情報に応じて変調した電流により、ヘッドジンバルアッセンブリ5のスライダ5bに供給する光の光束を制御できるようになっている。
【0062】
(転がり軸受装置)
転がり軸受装置6は、
図2及び
図3に示すように、シャフト20と、シャフト20の外側にシャフト20と同軸上に設置されたスリーブ21と、シャフト20とスリーブ21の間に設置された2つの転がり軸受22と、を備える。
【0063】
シャフト20は、円柱形状の棒状部材であり、ハウジング10の底部10aから立設されている。シャフト20の中心軸が、スイングアーム2が回動する際の回転軸線L2となる。
シャフト20におけるハウジング10の底部10a側の部分には、本体部20aよりも拡径したフランジ部20bと、本体部20aよりも縮径した縮径部20cとが、基端に向かって順に設けられている。縮径部20cの外周面には雄ねじ20dが形成されている。ハウジング10の底部10aに設けられた穴10bにシャフト20の縮径部20cを挿入し、穴10bの内周面に形成された雌ねじ10cと縮径部20cの雄ねじ20dとを螺合することで、シャフト20がハウジング10の底部10aに立設される。このとき、フランジ部20bの下面がハウジング10の底部10aに接することで、シャフト20の高さ方向の位置決めがなされる。
【0064】
スリーブ21は、円筒形状に形成された部材である。スリーブ21の内径は、フランジ部20bの外径と略同径とされている。
スリーブ21は、シャフト20を径方向外側から囲むように、かつその内周面がシャフト20の外周面に対して所定間隔で離間するように設置されている。シャフト20の中心軸とスリーブ21の中心軸は一致するようになっている。
また、スリーブ21は、スイングアーム2の基部2aに形成された取付孔2e内に直接圧入されるか、波型に形成された金属リング等の弾性体を介して圧入されるか、又は接着嵌合されることで、スイングアーム2と一体的に組み合わされている。
【0065】
スリーブ21の内周面における高さ方向の中央部には、周方向に全周にわたって内側に突出するスペーサ部21aが形成されている。シャフト20とスリーブ21の間においては、スペーサ部21aの上下にそれぞれ2つの転がり軸受22が設置され、それら2つの転がり軸受22の間隔が所定距離に保持されるようになっている。
【0066】
[転がり軸受]
転がり軸受装置6に備えられている2つ転がり軸受22は、同じものである。
転がり軸受22は、
図3〜6に示すように、内輪30と、外輪31と、リテーナ32と、複数の転動体33と、2つのシールド板34と、を備える。
【0067】
内輪30は、円筒状の部材である。
内輪30の内径は、シャフト20の挿入が可能な寸法とされる。本実施形態では、内輪30の内径は、シャフト20の外径よりも若干大きくなっている。内輪30の内側にシャフト20が挿し込まれ、接着剤等で内輪30がシャフト20に固定される。
なお、内輪30の内径は、シャフト20に設置できる範囲であれば、シャフト20の外径と同一か、若干小さくなっていてもよい。この場合は、内輪30にシャフト20が圧入固定される。
【0068】
転がり軸受22では、内輪30にシャフト20に対して軸方向に相対的に予圧が付与された状態で内輪30をシャフト20に固定する、いわゆる内輪予圧を採用できる。これにより、転がり軸受22を高剛性化でき、転がり軸受装置6の共振周波数(共振点)を高くできる。そのため、より高速回転に対応可能な転がり軸受装置6となる。
なお、転がり軸受22では、外輪31にシャフト20に対して軸方向に相対的に予圧が付与された状態で外輪31をスリーブ21に固定する、いわゆる外輪予圧を採用してもよい。
【0069】
内輪30の外周面における軸方向の中間部には、転動体33の転動をガイドする凹条の内輪転動面30aが内輪30の全周にわたって形成されている。内輪転動面30aは、内輪30の中心軸を通る平面で切断したときの断面形状が円弧状になっている。
内輪30の材質としては、例えばステンレス等の金属材料が挙げられる。内輪30は、例えば鍛造や機械加工等により製造できる。
【0070】
外輪31は、内輪30よりも直径が大きい、内輪30と同様の円筒状の部材である。
外輪31はスリーブ21の内側に固定されることで、内輪30の外側に、内輪30から離間した状態で設置される。内輪30と外輪31とは、それらの中心軸がともにシャフト20の中心軸と一致するように同軸上に設置される。
【0071】
外輪31の内周面における軸方向の中間部には、内輪30の内輪転動面30aと対向するように、転動体33の転動をガイドする凹条の外輪転動面31aが外輪31の全周にわたって形成されている。外輪転動面31aは、外輪31の中心軸を通る平面で切断したときの断面形状が円弧状になっている。
外輪31の材質としては、例えばステンレス等の金属材料が挙げられる。内輪30は、例えば鍛造や機械加工等により製造できる。
【0072】
リテーナ32は、
図6に示すように、円環状の本体部32aと、本体部32aの上部から形成され、先端に向かって互いの距離が接近するように円弧状に立ち上がる七対の爪部32b,32cとを備える。七対の爪部32b,32cは、リテーナ32の周方向に等間隔に設けられている。それぞれの対になった爪部32bと爪部32cの内側には転動体33を転動可能に保持する正面視略円状のボールポケットBが形成されている。
なお、爪部の対の数、すなわちボールポケットBの数は、7個には限定されず、6個以下であってもよく、8個以上であってもよい。
【0073】
リテーナ32の内径は内輪30の外径よりも大きく、またリテーナ32の外径は外輪31の内径よりも小さくなっている。内輪30と外輪31の間にリテーナ32が設置された状態で、各々のボールポケットBに転動体33がそれぞれ転動可能に保持される。このように、内輪30及び外輪31とリテーナ32とが互いに干渉しない状態で、内輪30の内輪転動面30aと外輪31の外輪転動面31aとの間に転動体33が配置される。
リテーナ32は、各々のボールポケットBにそれぞれ転動体33を転動可能に保持した状態で中心軸L2回りを回転できるようになっている。
リテーナ32の材質としては、特に限定されず、例えば、ポリアミド樹脂等の樹脂が挙げられる。
【0074】
リテーナ32の上部における一対の爪部32b,32cと、その隣の一対の爪部32b,32cの間には、ボールポケットBに比べて深さが浅いグリースポケットGが形成されている。すなわち、リテーナ32には、複数対の爪部32b,32cによって周方向にボールポケットBとグリースポケットGが交互に形成されている。
【0075】
図3及び
図5に示すように、グリースポケットGに本発明のグリース100が配置され、ボールポケットBに転動体33が配置される。このように、本発明では、リテーナ上のボールポケット以外の部分にグリースが保持されていることが好ましい。この状態でリテーナ32とともに転動体33が回動する際には、グリースポケットGから内輪30及び外輪31と転動体33との間にグリース100が染み出し、グリース100による潤滑効果が得られる。
グリースポケットGを利用して転がり軸受22にグリース100を使用することで、グリース100の使用量を少なくすることができる。これにより、グリース量が過度となって転がり軸受22のトルクが増大することが抑制されやすくなり、またディスクDへの読み書きのために要求される充分なクリーン度が得られやすくなる。
【0076】
この例の転動体33は、球状である。転動体33は、内輪30の内輪転動面30aと外輪31の外輪転動面31aとの間において、リテーナ32のボールポケットB内に配置され、内輪転動面30aと外輪転動面31aに沿って転動するようになっている。各々の転動体33は、リテーナ32によって周方向に均等に配列される。
転動体33の数は、この例では7個であるが、リテーナ32におけるボールポケットBの数に応じて決定すればよく、6個以下であってもよく、8個以上であってもよい。
転動体33の材質としては、例えば、軸受鋼等の金属材料が挙げられる。
【0077】
シールド板34は、内輪30と外輪31との間に形成された円環状の空間の上下を塞ぐ環状の板部材である。シールド板34は、内輪30と外輪31との間におけるリテーナ32及び複数の転動体33の上下に設置される。それぞれのシールド板34は、その外周縁部が外輪31に形成された係合用の環状溝部40内に入り込んだ状態で外輪31に固定されている。
【0078】
(作用機構)
情報記録再生装置1では、転がり軸受22におけるリテーナ32のグリースポケットGに本発明のグリース100を配置する。アクチュエータ7の駆動によってスイングアーム2が回動する際には、グリースポケットGに配置したグリース100が内輪30及び外輪31とリテーナ32の側面を通り、内輪30及び外輪31と転動体33の間に供給され、グリース100による潤滑効果が発揮される。
なお、この潤滑効果が得られている内輪30及び外輪31と転動体33の間に供給されるグリースの状態としては、グリースポケットGに配置されたグリースと同様な状態のグリース(増ちょう剤、基油、添加剤の混合物)の他に、このグリースポケットGに配置されたグリースから染み出した添加剤を含む基油の状態、そして、これに増ちょう剤が若干混ざった(グリースポケットGに配置されたグリースよりも増ちょう剤量が少ない)状態が考えられ、グリースポケットGに配置されたグリースと同様な状態のグリースが供給された状態となることは少ないと考えられる。
【0079】
情報記録再生装置1においては、本発明のグリースを用いているため、飛散量及びアウトガス量が充分に低減される。そのため、アウトガスがヘッドジンバルアッセンブリとディスクDの隙間等に溜まりにくく、安定して読み書きが行える。このような効果が得られる要因としては、以下のように考えられる。
従来では、一般に、作動中にグリースの温度が上昇してアウトガス量が増加することを抑制する目的で、基油の動粘度は低く設定される。転動体は供給されたグリース又はそこから染み出した基油を押し退けるようにして進むが、このときにグリースのミスト状の飛散やアウトガスの発生が最も生じやすい。供給されたグリースには転動体の通過直後に転動体の進行方向に平行な轍が形成され、そして情報記録再生装置1で使用される軸受装置では転動体の往復運動の両端部にバンプが形成されるが、基油の動粘度が低かったりグリースのちょう度が高いと流動性が高いため、次の転動体が通過するまでに轍やバンプが消失し、転動体の通過部分が再びグリースや基油で満たされた状態となり易い。これにより、動作中に転動体が常にグリースや基油を押し退けるように進むことで、グリースや基油の飛散やアウトガスの発生が起きやすくなると考えられる。
【0080】
これに対して、本発明では、基油の動粘度を40〜90mm
2/sと比較的高い範囲とする。また混和ちょう度を200〜250に調整する。これにより、転動体の通過により形成された轍やバンプが、次の転動体が通過する際にある程度保たれた状態となる。そのため、動作中のグリースや基油における転動体によって押し退けられる量が少なくなるため、グリースや基油の飛散やアウトガスの発生が起きにくくなると考えられる。
以上のようなメカニズムから本発明のグリースは、転がり軸受の製造段階で内輪、外輪、転動体に塗布されないようにリテーナ上にのみ塗布(保持)されたグリースが、転がり軸受の動作時に転動面に徐々に行き渡り潤滑効果を発揮するタイプの転がり軸受に使用されるグリースとして特に効果を発揮するものである。従って、グリースがリテーナ上のボールポケット以外の部分に保持されていればよく、グリースの塗布位置はグリースポケットに限るものではない。
【0081】
また、動粘度が高い鉱油が多くなるほど低温特性が劣る傾向にある。しかし、本発明のグリースでは、PAOの質量が鉱油の質量よりも多く、鉱油よりも動粘度が高いPAO(A)を鉱油と組み合わせているため、基油の動粘度が高くても低温特性に優れている。
【0082】
(他の実施形態)
なお、本発明の転がり軸受、転がり軸受装置及び情報記録再生装置は、本発明のグリースを用いたものであればよく、前記したものには限定されない。
例えば、転がり軸受22、転がり軸受装置6を備える情報記録再生装置1は近接場光を利用するものであったが、本発明のグリースを用いた転がり軸受及び転がり軸受装置を備える一般的なHDDや光ディスクD装置等であってもよい。
【0083】
また、転がり軸受装置は、スリーブを備えないものであってもよい。具体的には、例えば、シャフトの外側において軸方向に離間して配置される2つの転がり軸受の間に、互いの転がり軸受の間隔を所定距離に保持する環状のスペーサリングを備え、スリーブを備えない転がり軸受装置としてもよい。この場合は、スイングアームの基部に形成された取付孔に転がり軸受の外輪が直接圧入又は接着嵌合される態様とすることができる。
また、転がり軸受における転動体は、円筒状のころであってもよい。
【実施例】
【0084】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[動粘度]
鉱油、PAO及び基油の動粘度は、キヤノン−フェンスケ粘度計を用い、JIS K2283に準拠して40℃で測定した。
【0085】
[混和ちょう度]
グリースの混和ちょう度は、JIS K 2220に規定される方法により測定した。まず、25℃に保ったグリースを規定の混和器で60回混和した。その直後のグリースで混和器の壺を満たし、混和器の淵をヘラですりきり、グリースを平らに均した。その上に規定の円錐形条のコーンを載せ、その自重によりコーンが5秒後に沈んだ距離に10を乗じた値として混和ちょう度を算出した。
【0086】
[原料]
実施例で使用した原料を以下に示す。
(鉱油)
X−1:精製鉱油(API基油カテゴリーでグループIIIに分類されるもの。動粘度:47mm
2/s(40℃)、引火点240℃以上であるもの)。
X−2:精製鉱油(API基油カテゴリーでグループIIに分類されるもの。動粘度:52mm
2/s(40℃))。
【0087】
(PAO)
A−1:炭素数8〜12のα−オレフィンの多量体の混合物、動粘度:615mm
2/s(40℃)。
B−1:1−デセンの多量体、動粘度:48mm
2/s(40℃)。
B−2:炭素数8〜12のα−オレフィンの多量体の混合物、動粘度:30mm
2/s(40℃)。
B−3:1−デセンの多量体、動粘度:52mm
2/s(40℃)。
【0088】
[エアロゾル量の測定]
グリースの飛散量及びアウトガス量の評価として、以下のエアロゾル量を測定した。
図3〜6に例示した転がり軸受装置6のグリースポケットGには総量でグリース(2.1〜2.7mg)を配置した。この転がり軸受装置6を治具の密閉容器部に収納した。この状態で転がり軸受装置6は揺動操作が可能となっている。密閉容器部の転がり軸受装置6の回転軸線方向2か所には孔が設けられ、一方の孔からから転がり軸受装置6にエアーを送り込み、他方の孔にパーティクルカウンターを配置した状態で、転がり軸受装置6に対して50Hzで10度の揺動動作を10分行い、エアロゾル量を測定した。
【0089】
[低温トルク試験]
JIS K 2220(Low Temparature Torque Test、ベアリング:6204)に準拠して0℃と−30℃において低温トルク試験を行い、起動トルク(初期トルク)と、起動後にトルクが安定した後の回転トルクとをそれぞれ測定した。
【0090】
[基油流動点]
基油が入った試験管を46度まで予備加熱した後に冷却を行い、予想される流動点から10℃高い温度から計測を開始した。2.5℃下げるごとに試験管を冷却槽から取り出し、横に倒して測定した。基油が5秒間動かない場合に一つ前の測定温度、つまり流動性がなくなった温度から2.5℃高い温度を基油流動点(℃)として測定した。
【0091】
[耐摩耗試験]
耐摩耗試験として以下の高速四球試験とファフナー式の試験を行った。
具体的には、高速四球試験はASTM D2266に準拠するものであり、3個の鋼球を互いに接する状態で固定し、その上にグリースを塗布した。3個の鋼球の中央にさらに回転用鋼球を荷重392Nで加圧した。この状態で雰囲気温度を75℃とし、回転用鋼球を1200rpmで1時間回転させた。その後、3個の固定された鋼球の摩耗痕の径を夫々縦、及び横方向に測定した6つの径を平均し、0.01mmの桁で丸めて算出した。
ファフスナー試験(フレッチング試験)はASTM D4170に準拠するものである。2対のスラスト軸受を用意し、予め各々4枚の軌道盤の重量を測定した。軌道盤及び転動体をグリースで満たした2対のスラスト軸受に2450Nの予圧を掛け、室温下にて30Hz、12度の揺動動作を22時間実施した。試験後に、グリースをふき取った4枚の軌道盤の重量を測定し、重量損失を得た。この重量損失を平均し、0.1mgの桁で丸めて算出し結果を得た。
【0092】
[実施例1]
鉱油(X−1)と、PAO(A−1)と、PAO(B−1)とを、鉱油とPAOの質量比が3:7となるように混合し、基油(動粘度ν=72mm
2/s(40℃))とした。PAO(A−1)とPAO(B−1)は、PAOの動粘度ν
2が86mm
2/s(40℃)となるように混合した。
次いで、前記基油と、増ちょう剤として脂環族ジウレア化合物を用いてグリース化し、酸化防止剤及び防錆剤、極圧剤を添加混合した。各成分の割合は、グリースの総質量(100質量%)に対して、基油が86.0質量%、増ちょう剤が12.5質量%、酸化防止剤が0.5質量%、防錆剤が1.0質量%、極圧剤1.0質量%であった。
【0093】
[実施例2]
鉱油とPAOの質量比を3:7に固定したまま、表1に示すように基油の組成を変更し、鉱油の動粘度ν
1、PAOの動粘度ν
2及び基油の動粘度νを調節した以外は、実施例1と同様にしてグリースを調製した。
【0094】
[比較例1〜3]
鉱油とPAOの質量比を1:1とし、PAO(A−1)を使用せず、表1に示すように基油の組成を変更し、鉱油の動粘度ν
1、PAOの動粘度ν
2及び基油の動粘度νを調節した。また、極圧剤を添加しない以外は、実施例1と同様にしてグリースを調製した。
【0095】
各例の評価結果を表1に示す。表1におけるエアロゾル量は、比較例1におけるエアロゾル量を「100」としたときの相対値で記載した。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示すように、PAOの質量が鉱油の質量よりも多く、PAO(A)が含まれ、基油の動粘度が40〜90mm
2/sの範囲内である実施例1、2では、エアロゾル量が少なく、グリースの飛散量及びアウトガス量が低減されていた。また、実施例1、2では、低温トルクが低く、基油流動点も低く、低温特性にも優れていた。また、実施例1、2のグリースは耐摩耗試験においてもグリースとして充分な効果を発揮した。
一方、PAO(A)を用いていない比較例1〜3では、エアロゾル量が多く、グリースの飛散量及びアウトガス量の低減が不十分であった。