【実施例】
【0095】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析。デンドリマー−Cy5コンジュゲート(D−Cy5)の純度を、Empowerソフトウェアと連結した、Watersインライン脱気器、バイナリーポンプ、光ダイオードアレイ(PDA)検出器、マルチ蛍光λ検出器およびオートサンプラー(4℃に維持)を備えたWaters HPLC機器(Waters Corporation、Milford、Massachusetts)を使用して分析した。HPLCクロマトグラムを、Waters 2998 PDA検出器を使用して、デンドリマーについて210nmでの吸光度およびCy5について650nmでの吸光度、ならびにWaters 2475蛍光検出器を使用して、645nmでの励起および662nmでの発光を有する蛍光に関して、同時にモニタリングした。水/アセトニトリル(0.1% w/w TFA)を新たに調製し、濾過し、脱気し、移動相として使用した。TSK−Gelガードカラムに接続されたTSK−Gel ODS−80
Ts(250×4.6mm、25cmの長さ、5μmの粒子サイズ)を使用した。勾配流を、1ml/分の流量で、90:10(H
2O/ACN)の初期条件で使用し、次いで、アセトニトリル濃度を30分間で10:90(H
2O/ACN)に漸進的に増加させ、60分間で元の初期条件90:10(H
2O/ACN)に戻した。
【0096】
動的光散乱およびゼータ電位分析。G4−OHおよびD−Cy5コンジュゲートの粒子サイズおよびζ電位を、50mW He−Neレーザー(633nm)を備えたZetasizer Nano ZS(Malvern Instrument Ltd.Worchester、U.K)を使用する動的光散乱(DLS)によって決定した。サイズ分類のために、試料を、脱イオン水(18.2Ω)中に溶解させて、50μg/mLの最終濃度にした。この溶液を、酢酸セルロースメンブレン(0.45ミクロン、PALL Life Science)を通して濾過し、DLS測定を、173°の散乱角で25℃で実施した。ゼータ電位を、Smolokowskyモデルを使用して計算し、測定を3連で実施した。
【0097】
動物および虚血再灌流(I/R)傷害。動物が関与する全ての手順は、眼科および視覚研究における動物の使用のためのARVO声明(ARVO Statement for
the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)に従った。Johns HopkinsのWilmer動物施設に収容した各々体重約25グラムのBALB/cアルビノマウスを、輸送およびI/R研究に使用した。全ての手術を、ケタミン(100mg/Kg)およびキシラジン(10mg/kg)腹腔麻酔下で実施した。6匹のマウスを、各時点において各群において使用した。I/R傷害を、別の場所に記載した手順に従うことによって、左眼において実施した。簡潔に述べると、前房に、生理食塩水を注入するラインに取り付けた30ゲージ(gauze)の針を用いてカニューレ挿入した。生理食塩水システムを、カスタムメードの生理食塩水レザバ上に取り付け、特定の高さに上昇させた(90mm Hgに調整した)。IOPを、90分間かけて90mm Hgに上昇させ、I/R傷害および脈絡膜循環の遮断を、手術用顕微鏡による眼底試験を介して、後眼部の脱色によって証明した。虚血後、針を、即時の血液再灌流のために即座に引き出した。右眼は、I/R傷害を有さず、対照として機能した。
【0098】
デンドリマー注射および動物の屠殺。I/R傷害の6日後、BALB/cマウスに、硝子体内または静脈内のいずれかでデンドリマーを注射した。硝子体内注射のために、20μgのD−Cy5を含有する2μLを、硝子体腔中に、圧縮注射器(Harvard apparatus、Holliston、MA、USA)で補助されたガラス針を使用して注射した。静脈内注射のために、100μLの無菌PBS中に溶解させた600μgのD−Cy5を、大腿領域中に小さい切開を作製した後に、大腿静脈中に30g針を介して注射した。遊離Cy5およびPBSを注射した動物は、この研究のための陽性対照または陰性対照として機能した。デンドリマー注射後の適切な時点(24時間、72時間および21日)において、動物を、ケタミン/キシラジンを使用して麻酔し、致死用量のナトリウムペントバルビタールを使用して安楽死させた。それらの眼を、即座に摘出し、免疫組織化学分析のために処理した。
【0099】
免疫組織化学および共焦点顕微鏡法。眼を摘出し、PBS中2%のパラホルムアルデヒド(PFA)中で固定した。眼の前房を除去し、眼杯を、以前に確立されたプロトコール(Luttyら、IOVS、1993年)を使用して凍結保存した。眼を、イソペンタン中のドライアイスを丁寧に使用して、1:2の比の、最適な切削温度化合物(OCT)(Sakura Finetek USA Inc.、Torrance、CA)を有する20%スクロース中で凍結させた。クリオブロックを、切片化するまで−80℃で貯蔵する。8μm切片を、クリオスタットを使用して凍結ブロックから切削した。切片を、ミクログリア細胞マーカーであるウサギ抗イオン化カルシウム結合アダプター1分子(Iba−1)(Wako chemicals、USA)中でインキュベートし、ヤギ抗ウサギ−Cy3二次抗体を適用した。切片を、Zeiss 510共焦点顕微鏡上で分析した。励起波長および発光波長ならびにレーザー設定は、硝子体内およびIV注射した動物中の全ての組織を分析するために、同一であった。切片のZスタックを取り、折り畳んで、切片全体の奥行を通じて画像を得た。
【0100】
デンドリマーコンジュゲートのコンジュゲーション。デンドリマートリアムシノロンアセトニドコンジュゲート(D−TA)およびCy5−D−TAの合成を、
図11〜13に示す。Cy5へのデンドリマーのコンジュゲーションを、以前に報告された方法を使用して実施した(Biomaterials. 2012年;33巻:979〜88頁)。これは、合成の収束的方法であり、代表的クロマトグラムが
図16A〜16Bに示される。
【0101】
重要臓器におけるD−Cy5の生体内分布分析。約25gr BWの重さの12匹のBALB−Cマウスを、この研究に使用した。4匹の動物を、各時点において屠殺した:24時間、72時間および21日。各マウスに、100μLの無菌PBS中の600μgのD−Cy5を、大腿静脈を介して注射した。それぞれの時点において、動物を安楽死させ、重要臓器(心臓、肺、脾臓、腎臓、肝臓および眼)を即座に回収し、臓器湿重量を記録した。臓器を、ドライアイス上で瞬間凍結させ、分析まで−80℃で貯蔵した。分析の際に、組織を解凍し、およそ100〜150mgの組織を測定し、ステンレス鋼ビーズおよび組織ホモジナイザー(Tissuelyzer LT、QIAGEN、Hilden、Germany)を使用して、低DNA結合性チューブ(Eppendorf AG、Hamburg、Germany)中で1mlのMeOHと共にホモジナイズして、髄質様組織懸濁物を得た。この懸濁物を、30分間超音波処理し、100mgの組織を含有する適切な体積を、異なる低DNA結合性バイアル中に配置し、メタノールで1mlに希釈して、同じ量の組織および同じ体積が、各試料について分析されるようにした。これらの試料を、10,000rpmで4℃で10分間遠心分離して上清を得、これを蛍光分光法(FLS)に供した。
【0102】
CNVラットモデル。各々約300グラムの雄性SDラットを、この研究のために選択した。脂質3(S)−ヒドロペルオキシ−9Z,11E−オクタデカジエン酸(HpODE)(Cayman Chemicals、Michigan、USA.)を、500μg/33μLの濃度で冷ホウ酸緩衝液中に溶解させた。2μLの脂質を、1日目に網膜下注射して、網膜中に小疱を形成させた。3日目までに、この脂質小疱は消失し、網膜変性が始まった。脂質注射の7日後に、脈絡膜からの血管新生(CNV)が形成し始め、網膜および脈絡膜における炎症ならびに網膜における血管新生(RNV)が生じる。このモデルは、脈絡膜および網膜の両方に対する損傷を引き起こし、ドライおよびウェットの両方のAMD形態の特徴を有する(
図20)。
【0103】
統計分析。データを、スチューデントt検定を使用して再現性について分析して、2つの群間の有意性を決定した。0.05またはそれ未満のp値を、有意とみなした。
【0104】
(実施例1)
D−Cy5コンジュゲートの特徴付け。エチレンジアミン−コアポリ−(アミドアミン)[PAMAM]のヒドロキシル終端した世代4(G4−OH)を、本発明者らが以前に報告した通りに(Molecular Pharmaceutics. 2013年;10巻:4560〜71頁;Biomaterials. 2012年;33巻:979〜88頁)、近IR蛍光色素Cy5を用いて標識した。簡潔に述べると、G4−OHを、FMOC保護/脱保護化学を使用して6−アミノカプロン酸によって部分的に官能化して、それらの表面上に約5〜6個のNH
2基を有する二官能性デンドリマーを得た。反応性アミン基を有する得られた二官能性デンドリマーを、N−ヒドロキシスクシンイミドモノエステルCy5色素と反応させて、D−Cy5コンジュゲートを得た。得られたコンジュゲートを、透析およびGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を使用して精製し、
1H NMRを使用して特徴付けた(
図11〜13)。
【0105】
二官能性デンドリマーのHPLCクロマトグラムは、G4−OHデンドリマーの溶出時間(溶出時間14.42分)とは異なる、カラムからの14.84分の溶出時間を示した(
図16A〜16B)。これは、新たな化合物の形成を示し、溶出時間における軽微なシフトのみが存在することを示し、これは、G4−OHデンドリマーの構造的特性が顕著には変化していないことを示している。これは、G4−OHデンドリマーの適切なサイズおよびゼータ電位(それぞれ、4.36±0.18nmおよび+4.59±0.11mV)が観察されたDLS結果とも一致する。また、二官能性デンドリマーのサイズおよびゼータ電位値は、それぞれ4.87±0.20nmおよび6.63±0.24mVであり、これは、デンドリマーのサイズおよび表面特性において有意な変化がないことを示す。Cy5ピーク(20.39分)とは異なる、647nm(Cy5についてのUV λmax)および645nm(Cy5の蛍光発光)における、16.69分の同時の新たなピークの出現は、デンドリマーへの色素の首尾よいコンジュゲーションを確認する。
【0106】
(実施例2)
虚血−再灌流:ミクログリア/マクロファージ集団、形態学および網膜の構造的変化における差異。正常な網膜中のIba−1
+常在性ミクログリア/マクロファージは、数がより少なく、特徴的樹状突起を有する分枝型形態学を有した。ミクログリア細胞の不均一集団は、脈絡膜および内顆粒層(INL)において大部分が見出され、そのうち非常に僅かが、外網状層(OPL)において観察された(
図2A〜D;2I〜L)。これらの網膜は、硝子体内注射後に正常な積層を有した(
図2)。I/R傷害は、構造的に損傷した網膜、ならびに樹状から円形または紡錘状の形態学への変化に基づいた、網膜および脈絡膜におけるミクログリアの顕著な活性化をもたらした。IRの6日後に、網膜ミクログリア/マクロファージは活性化され、数が増加し、全ての網膜層に分布した:内網状層(IPL)、INL、外顆粒層(ONL)および網膜下空間(
図3A〜D)。興味深いことに、本発明者らは、脈絡膜ミクログリア/マクロファージの数の減少を見出した。IR傷害は、網膜内層の崩壊ならびに脈絡膜およびRPE層からの網膜剥離を引き起こし、網膜におけるヒダを生じた。本発明者らは、正常な網膜と比較した場合に、IR傷害された網膜において、特に顆粒層(nuclear layer)の網膜厚さ値の菲薄化もまた観察し、これは、神経細胞および神経節細胞の死を示唆する(
図3)。
【0107】
(実施例3)
硝子体内および静脈内投与の際のD−Cy5の網膜生体内分布:硝子体内投与。D−Cy5の硝子体内投与は、正常網膜とI/R網膜との間で示差的な生体内分布を示した。D−Cy5の硝子体内注射の24時間後の正常網膜では、網膜および脈絡膜においてごく最小の蛍光が存在した(
図2A〜D)。24時間後にはD−Cy5からの蛍光シグナルは存在せず、これは、デンドリマーが網膜から完全に除去されたことを示唆している。対照的に、遊離Cy5は、注射の24時間後に網膜内層中に残存した(
図2D〜F)。これは、D−Cy5がインタクトな網膜から迅速に除去されることを示唆している。I/R傷害された網膜では、本発明者らは、注射の24時間後に、網膜切片においてD−Cy5からの有意な蛍光シグナルを観察した(
図3A〜H)。デンドリマー(D−Cy5)は、網膜下空間、ONL、INL中、および網膜の内境界膜(ILM)近傍の、Iba−1+ミクログリア/マクロファージにおいて観察された。本発明者らは、硝子体中の、ならびに網膜内層および脈絡膜中の他の細胞中に局在した、デンドリマーもまた観察している。硝子体内注射の72時間後に、D−Cy5は、I/R眼中の他の細胞および硝子体から除去された(
図4A〜H)。D−Cy5は、Iba−1標識された細胞内で見出され、ILMの近傍、網膜内層中および網膜下空間中のミクログリア/マクロファージ中に保持された(
図4A〜H 矢印)。興味深いことに、注射の21日後には、D−Cy5は、光受容体層中、IPL中およびILM近傍のミクログリア細胞中に特異的に保持された(
図5)。しかし、遊離Cy5注射した動物のI/R眼および正常眼の両方の場合、Cy−5は、網膜内層中で見られ得、ILM近傍の血管中に濃縮されているようであるが(
図2I〜L 矢印)、注射の72時間後までに完全に除去された(データ示さず)。
【0108】
(実施例4)
静脈内投与。D−Cy5、遊離Cy5またはPBSを、1つの眼において、I/R傷害の6日後に、大腿静脈を介して静脈内注射した。注射後のそれぞれの時点(24時間、72時間および21日)において、これらの眼を、IHCを使用して、I/R傷害された網膜と正常網膜との間での、デンドリマーの網膜生体内分布における差異の定性的評価のために摘出した。硝子体内D−Cy5投与の24時間後のI/R眼では、D−Cy5は、循環から網膜中に進入し、網膜の至る所および網膜下空間中のミクログリア/マクロファージ内に見出された。しかし、遊離Cy5色素投与の24時間後の正常眼およびI/R眼の両方において、Cy−5は、網膜血管および脈絡毛細管板中に存在するようであった(
図6I〜L 矢印)。遊離Cy5は、後の時点において除去された。D−Cy5は脈絡膜マクロファージ中に存在したので(
図17)、デンドリマーは、正常な脈絡毛細管板を逃れ得るようである。興味深いことに、本発明者らは、非I/R網膜においてD−Cy5からのいかなる蛍光シグナルも見出さず、これは、インタクトな血液網膜関門がデンドリマーの進入を防止したことを示している。静脈内D−Cy5注射の72時間後、D−Cy5は、I/R中のミクログリア/マクロファージ中に選択的に局在および保持され、網膜下空間中に保持された(
図7A〜H 矢印)。活性化されたミクログリア細胞は、全ての網膜層中に散在および分布していたが、デンドリマーは、脈絡膜中のミクログリア細胞中に、および網膜下空間中にのみ保持されて見出された(
図7E〜H)。注射の21日後に、D−Cy5は、網膜および脈絡膜のミクログリア細胞中に少数が散在して保持された。21日目に、24時間および72時間の時点の網膜と比較して、D−Cy5を有するIba−1+ミクログリア細胞は比較的少なかった。D−Cy5を有するミクログリア細胞は、それらの分枝型形態学に戻っているように思われたが、なおもD−Cy5を保持した(
図8E〜H)。
【0109】
(実施例5)
D−Cy5の眼生体内分布:硝子体内 対 IV。D−Cy5のIV用量は、硝子体内用量よりも30倍高かった。興味深いことに、網膜における定性的取込みおよび保持パターンは、両方の様式の投与の後に類似した(
図10)。これは、健康な対照眼における比較的低い取り込みとその後の迅速なクリアランス、ならびに片割れのI/R眼におけるはるかに高い取り込みおよび次のI/R眼における持続性の保持を実証している。実際、2つの投与様式間で、定量的取込み/保持パターンにおける有意差は存在しなかった。IV
D−Cy5後に正常な眼においていくらかの脈絡膜存在があるが、これは、72時間以内にほとんどが除去されるようである(
図7I〜L)。IV投与後のI/R眼では、24時間後に観察されたD−Cy5取込みの約40%が、最大21日間保持される。硝子体内投与については、24時間からのD−Cy5レベルの約16%が、最大21日間保持される。
【0110】
(実施例6)
Iba−1+細胞およびD−Cy5の定量化。Imarisソフトウェアを使用して、鋸状縁から鋸状縁までの8mm凍結切片中のIba−1+細胞の数を計数した。各群からの4つの切片を計数した。非I/R眼よりもI/R眼において、有意により多くのIba−1+細胞が存在した(
図9A)。このソフトウェアは、単一の標識だけでなく、2つの標識が共局在した細胞も計数する。
図9Bは、繊細な突起ではなく細胞の細胞体のみが計数されるパラメーターを設定した後に、両方の標識を有する(矢頭)、ソフトウェアによって選択された細胞を実証している。非I/R網膜中には二重標識された細胞は存在しなかったので、本発明者らは、Iba−1+細胞の有意な数が、両方の様式のD−Cy5送達によって、全ての時点においてD−Cy5を有したことを決定した(
図9C〜D)。
【0111】
(実施例7)
重要臓器におけるD−Cy5の定量的生体内分布。重要臓器(肝臓、腎臓、脾臓、心臓、肺および血清)における定量的生体内分布、およびI/R傷害を有する動物中に静脈内注射されたD−Cy5の動態を、FLS(蛍光分光法)法を使用して評価した。分析のために、組織の重量を、ホモジナイズする前に測定し、D−Cy5を、Lesniakら(Molecular pharmaceutics 10巻(12号)、4560〜4571頁)によって以前に記載されたように、メタノールを使用して抽出した。D−Cyコンジュゲートは、37℃のヒト血漿およびin vivoにおいてインタクトで安定であり、また、適用されたメタノール抽出プロトコールは、96%の最良の回収を生じた。メタノール抽出物を、蛍光分光光度計を使用して、発光値についての蛍光測定に供した。各臓器中に蓄積したD−Cy5の量を、発光値(PBSを注射したそれぞれの臓器の発光値からバックグラウンドを差し引いた)を較正グラフ中に取り込むことによって計算し、次いで、これらの値を、全臓器湿重量を使用して、注射した用量(ID)/臓器の%へと逆算した。
【0112】
静脈内注射のとき、D−Cy5の百分率は、尿を介して循環から即座に除去された。本発明者らは、D−Cy5または遊離Cy5を注射した動物が、約5〜7分以内に深い青色の尿を排尿したことを観察した。注射の24時間後、D−Cy5の大部分は、血漿から除去されたが、重要臓器では様々な量で保持された(
図15)。24時間の時点で、FLS分析によれば、注射した用量の約0.18%が、なおも血液中に存在した。BALB/Cマウスについての総血液体積は、組織1g当たり10.35±0.16mlである。
【0113】
腎臓切片の共焦点顕微鏡法分析(
図18)により、24時間の時点において腎皮質の近位尿細管における高いD−Cy5シグナルが明らかになり(
図18A)、このシグナルは72時間の時点までに減少し(
図18B)、これは、生体内分布データと良好に一致している。24時間の時点での腎臓抽出物のHPLCは、遊離Cy5からの小さいピークを示したが、このピークの主要な部分は、D−Cy5であった(
図18D)。HPLC較正に基づいて、本発明者らは、コンジュゲートされたCy5の12%が、この時間までに放出されたと推定したが、これは、これらのコンジュゲートが、in−vivoでほぼインタクトであることを示唆している。D−Cy5を注射した動物由来の腎臓切片のヘマトキシリンおよびエオシン染色は、好中球または単球の浸潤も、構造的損傷も、毒性のいかなる徴候も示さなかった(
図18G〜I)。
【0114】
注射されたD−Cy5コンジュゲートは除去されたが、一部は腎臓中に蓄積された(
図18)。これは、上記のような蛍光測定、および放射標識に基づく以前の結果と良好に一致している(Drug Deliv Transl Res. 2013年6月1日;3巻(3号):260〜271頁)。D−Cy5の生体内分布および蓄積は、以下のとおりである:腎臓(29.98±2.5%)、肝臓(11.19±2.2)および脾臓(3.33±1.26)(
図15)。心臓および肺は、D−Cy5の最小の蓄積を有した(それぞれ、0.0049%および0.01%)。他方、遊離Cy5は、血液から迅速に除去されることが見出され、24時間で、腎臓における注射された用量の0.82±2.93%の、有意により低い蓄積を有した。さらに、本発明者らは、他の臓器においていかなる蛍光シグナルも検出できず、これは、遊離Cy5が迅速なクリアランスを有することを示している。注射の72時間後に、D−Cy5は、心臓、肺および脾臓から除去されたが、腎臓においては優勢かつ持続的に見出され(5.53±1.5%)、肝臓においては非常に僅かな程度まで見出された(0.73±0.026%)。遊離Cy5は、臓器のいずれにおいても検出不能であり、これは、遊離Cy5が身体から除去されたか、またはその量が検出限界(LOD)を下回ったかのいずれかであることを示している。注射の21日後、デンドリマーは、試験した全ての臓器から完全に除去された。
【0115】
腎臓中にD−Cy5の優勢な蓄積が存在したので、定性的顕微鏡分析を、共焦点顕微鏡法を使用して実施した。24時間の時点で、D−Cy5チャネルのシグナル強度は、腎皮質の近位尿細管において高かったが(
図17)、このシグナル強度は、72時間の腎臓では減少され、これは、生体内分布データと良好に一致している。腎臓抽出物もまた、HPLCを使用して分析して、蛍光発光がD−Cy5または遊離Cy5種由来であることを確認した。24時間の時点での腎臓抽出物のHPLCクロマトグラムは、遊離Cy5からの小さいピークを示したが、このピークの主要な部分は、D−Cy5であった。遊離Cy5の較正グラフに基づいて、コンジュゲートされたCy5の12%が放出されたが、これは、これらのコンジュゲートが、in−vivoで最大72時間まで幾分インタクトであることを示唆している。これらの腎臓切片に対するヘマトキシリンおよびエオシン分析(データ示さず)は、好中球または単球の浸潤も、構造的損傷も、毒性のいかなる徴候も示さず、これは、注射されたD−Cy5用量が、臓器に対するいかなる毒性効果も与えなかったことを示唆している。
【0116】
(実施例8)
後眼杯におけるデンドリマー取込み。デンドリマー取込みを、D−Cy5の組織単離および蛍光定量化を使用して、全身性(
図19、パネルA)および硝子体内(
図19、パネルB、30分の1の用量)の際の、傷害された眼および傷害されていない眼において評価した。興味深いことに、本発明者らの研究は、全身投与の最大21日後でさえ、傷害されたI/R眼におけるデンドリマーの有意により高い取り込みおよび保持を示している。驚くべきことに、24時間と21日との間に、傷害された眼におけるデンドリマーレベルには、50%の低下だけが存在するようである。対照的に、デンドリマーは、72時間以内に健康な眼から大部分が除去されるようである。デンドリマーが炎症細胞中に選択的に存在するという事実は、デンドリマーを用いた全身治療が、実行可能であり、何週間にもわたって持続可能であることを示唆している。対照的に、静脈内および硝子体内のいずれかで投与された小型の薬物は、短い期間で、眼から容易に除去される。
【0117】
(実施例9)
CNVモデルに対するN−アセチル−システイン(NAC)の効果。D−NAC(デンドリマー−NAC;NAC規準で10mg/kg)および6mgのD−Cy5の組み合わせを、脂質注射の3日後に、陰茎静脈を介して静脈内注射し、動物を、注射の7日後に屠殺した。D−Cy5およびPBSを注射した動物は、対照として機能した。それらの眼を、屠殺後即座に摘出し、固定し、網膜および脈絡膜をミクログリア/マクロファージ特異的抗体Iba−1で染色し、血管をGSAレクチンで染色し、核をDAPIで染色し、次いで、最初にZeiss Meta710共焦点顕微鏡を用いて、別々のフラットマウントとして見た。フラットマウント分析後、組織を別々に凍結保存し、OCT/20%スクロース中で凍結させた。D−NAC処置群および対照群の脈絡膜の共焦点画像を、Image−Jソフトウェアを使用して、CNV面積測定値について分析した。
【0118】
画像分析により、脂質注射が、CNVエリア(イソ−レクチン血管標識、青色)におけるミクログリア/マクロファージ(Iba−1緑色)の活性化、遊走および蓄積を生じる、脈絡膜における強い炎症応答を引き起こしたことが確認された(
図21)。これらの結果は、全身投与されたデンドリマーが、CNVエリア中のIba−1陽性細胞中に特異的に局在したことを示唆している(Cy5−赤色)。D−NAC+D−Cy5群は、D−Cy5注射群と比較した場合、CNV面積を低減させることにおいて治療効力を示した。D−NAC(20mg/kg)を、脂質投与の3日後、3日目および6日目に全身投与し、動物を10日目に屠殺した。D−NAC処置動物は、CNVにおける有意な予期しなかった低減を示した(約80%)(
図22)。
【0119】
デンドリマーは、炎症を引き起こす細胞にNACを特異的に送達でき、それによってそれらを減弱し、これが次にVEGF産生を減少させ、そうして血管新生を制御する。網膜フラットマウント画像は、D−Cy5が、炎症エリアにおいて網膜ミクログリアによって取り込まれることを示している(
図23)。ミクログリア細胞が、脂質によって引き起こされる炎症に起因して活性化され(ドライAMDと類似)、脂質およびミクログリアが新たな血管の成長を誘導する(ウェットAMDと類似)ことも明らかである。本発明者らは、網膜中の炎症エリアに向かうミクログリア細胞の遊走もまた観察している(
図24)。
【0120】
(実施例10)
全身投与されたD−NACコンジュゲートは、早期に投与した場合、CNVを抑制する。D−NACを、NAC基準で20mg/kgで、3日目(脂質投与の2日後)ならびに5日目および7日目に投与した。D−NACは、等価な用量の遊離NAC、および未処置の対照と比較して、10日目に評価したとき、CNVの有意な抑制を引き起こした(PBSと比較して約78%の抑制、n=12の眼、p<0.001)。
図25に示されるように、CNVに対する全身性遊離NAC、D−NAC(NAC基準で20mg/kg)またはPBSの効果を、確立された脈絡膜フラットマウントプロトコールを使用して、盲検様式で評価した。D−NAC処置した動物は、PBSと比較した場合、CNV面積における有意な減少を示した。遊離NACは、有意ではないいくらかの減少を示した。CNV面積を、Image−Jソフトウェアにおいて形態計測分析を使用して評価した(黄色の描写)。
図25のパネルAは、小疱エリアにおけるより大きいCNVおよびマクロファージの増加した集団(緑色)を有するPBS脈絡膜を示し、
図25のパネルBは、CNVおよびマクロファージ蓄積が低減された、D−NACの効力を示す。脈管構造を、GSAレクチンで染色し(青色)、マクロファージをIBA−1で染色する(緑色)。値は、n=12およびP<0.001でマン・ホイットニーのt検定を使用して分析した。
【0121】
(実施例11)
全身性D−NACは、CNVエリアへのマクロファージ遊走を低減させ、脈絡膜炎症を減弱する。20mg/kg NACでの全身性D−NAC治療の際の、CNV領域におけるマクロファージ枯渇の程度を、IBA−1染色を使用して、10日目に評価した。総マクロファージ蓄積における有意な低減(約63%)が、D−NAC治療の際に見られた。Ambatiおよび共同研究者による以前の研究は、マクロファージ枯渇がCNV低減と相関することを示している。興味深いことに、Imaris71を使用する形態学的分析により、活性化されたマクロファージにおける80%の低減が存在したこと、およびこれらの活性化されたマクロファージの約90%が(PBS処置動物およびD−NAC処置動物の両方において)D−Cy5を含有したことが示唆され、これは選択性を示している(
図26)。
【0122】
(実施例12)
D−NAC脈絡膜炎症の効果を、炎症促進性(IL−1β、IL−6、MCP−1−単球化学誘引物質およびTNFα)サイトカインレベルおよび抗炎症性(IL−10)サイトカインレベルを測定することによって、盲検様式で評価した。10、23、72。全ての炎症促進性サイトカインにおいて、健康な対照において見られるレベルに戻った有意な低減が存在したが、遊離NACは有効ではなかった(
図27AおよびB)。興味深いことに、D−NACは、抗炎症性サイトカインIL−10を増強するようであった(
図27C)。これは、炎症促進性応答の選択的減弱が、D−NACによって達成できることを示唆している。
【0123】
(実施例13)
全身性デンドリマーは、網膜mi/maを標的化し、D−NACは、網膜炎症を減弱する。CNVエリアにおいて見られる生体内分布パターンと類似して、D−Cy5は、小疱エリア中の活性化されたmi/ma中に選択的に局在したが(
図28B)、同じ網膜の罹患していないエリア中には局在しなかった(
図28A)。D−NAC処置網膜では、小疱エリア中のmi/maの数における低減が存在し、これらは、より少ないD−Cy5取込みを有し、より分枝型であった。
【0124】
網膜炎症に対するD−NACの効果を、炎症促進性(IL−1β、IL−6、MCP−1およびTNFα)サイトカインレベルおよび抗炎症性(IL−10)サイトカインレベルを測定することによって、盲検様式で評価した。全ての炎症促進性サイトカインにおいて、健康な対照において見られるレベルに戻った有意な低減が存在したが、遊離NACは有効ではなかった(
図30AおよびB)。興味深いことに、D−NACは、抗炎症性サイトカインIL−10を増強するようであった(
図30C)。これは、炎症促進性応答の選択的減弱が、D−NACによって達成できることを示唆している。
【0125】
(実施例14)
D−NACおよびD−TAを用いた全身組み合わせ治療は、CNV退縮を生じる。D−NAC(NAC規準で20mg/kg)およびD−TA(TA基準で10mg/kg)の組み合わせを、後の段階(11日目、13日目および15日目)で全身投与して、有意なCNVが既に生じている場合の効力を評価した:(1)21日目に、PBS対照と比較して、デンドリマー処置動物においてCNVにおける72%の低減が存在したが、これは、後期の処置が有効であることを示唆している;(2)10日目のCNV面積の程度と比較して、21日目に、デンドリマー処置動物において約45%の低減が存在したが、これは、CNV退縮の強い示唆を示している(
図31〜33)。これらのパイロット結果(n=3)は、有意なCNV抑制が、デンドリマーと共に送達された全身治療を用いて可能であり得ることを示唆している。全身組み合わせ治療は、IOPにおける何らかの増加も、組織学から評価された何らかの全身毒性ももたらさなかった。さらに、
図34に示されるように、本発明の組成物の硝子体内投与および全身投与の両方が、傷害された網膜において類似の網膜生体内分布および効果を有するが、これは、全身投与が、硝子体内注射に対する実行可能な代替法であることを意味している。
【0126】
本明細書で引用される刊行物、特許出願および特許を含む全ての引用文献は、あたかも各参考文献が個々にかつ具体的に参照によって組み込まれると示され、本明細書中にその全体が示されるのと同程度まで、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0127】
(特に以下の特許請求の範囲に関して)本発明を説明する文脈における用語「1つの(a)」および「1つの(an)」および「この(the)」ならびに類似の指示対象の使用は、本明細書に他のように示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形の両方を網羅すると解釈すべきである。用語「含む(comprising)」、「有する」、「含む(including)」および「含有する(containing)」は、特記しない限り、オープンエンドの用語(即ち、「〜を含むがこれらに限定されない」)と解釈すべきである。本明細書での値の範囲の列挙は、本明細書に他のように示されない限り、その範囲内に入る各別々の値を個々に参照する省略方法として機能することが意図されるにすぎず、各別々の値は、それが本明細書で個々に列挙されるかのように、本明細書中に取り込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に他のように示されない限り、または文脈と明らかに他のように矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施され得る。本明細書に提供される任意および全ての例または例示的語句(例えば、「例えば(such as)」)の使用は、本発明をより良く説明することを意図しているにすぎず、他のように特許請求されない限り、本発明の範囲に対する限定にはならない。本明細書中の語句は、任意の特許請求されていない要素を本発明の実施のために必須であるとして示していると解釈すべきではない。
【0128】
発明を実施するための本発明者らに公知の最良の形態を含む、本発明の好ましい実施形態が、本明細書に記載される。好ましい実施形態のバリエーションは、上述の説明を読めば、当業者に明らかになり得る。本発明者らは、当業者がかかるバリエーションを必要に応じて使用することを予期しており、本発明者らは、本発明が、本明細書に具体的に記載されるものとは異なって実施されることを意図している。したがって、本発明は、適用法によって許容されるような、本明細書に添付される特許請求の範囲に列挙される主題の全ての改変および等価物を含む。さらに、その全ての可能なバリエーションでの上記要素の任意の組み合わせは、本明細書に他のように示されない限り、または文脈と明らかに他のように矛盾しない限り、本発明によって包含される。