(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-90717(P2018-90717A)
(43)【公開日】2018年6月14日
(54)【発明の名称】潤滑油
(51)【国際特許分類】
C10M 125/02 20060101AFI20180518BHJP
C10M 155/02 20060101ALI20180518BHJP
C10M 159/04 20060101ALI20180518BHJP
C10M 133/20 20060101ALI20180518BHJP
C10M 127/02 20060101ALI20180518BHJP
C10M 125/14 20060101ALI20180518BHJP
C10M 173/00 20060101ALI20180518BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20180518BHJP
C10N 20/06 20060101ALN20180518BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20180518BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20180518BHJP
C10N 40/14 20060101ALN20180518BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20180518BHJP
【FI】
C10M125/02
C10M155/02
C10M159/04
C10M133/20
C10M127/02
C10M125/14
C10M173/00
C10N20:00 Z
C10N20:06 Z
C10N30:06
C10N40:00 Z
C10N40:14
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-235902(P2016-235902)
(22)【出願日】2016年12月5日
(71)【出願人】
【識別番号】594033813
【氏名又は名称】株式会社大成化研
(74)【代理人】
【識別番号】100127203
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】松原 賢政
(72)【発明者】
【氏名】山本 敬一
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA02C
4H104AA04C
4H104BA02C
4H104BB02C
4H104BE13C
4H104CJ02C
4H104DA02C
4H104EA08C
4H104EA22C
4H104EA22Z
4H104LA03
4H104PA14
4H104PA41
4H104PA50
4H104QA02
(57)【要約】
【課題】潤滑効果がさらに向上した炭素系材料などを含む潤滑油を得る。
【解決手段】本発明は、基油に少なくともカーボンナノチューブ、カーボンナノダイヤ、カーボンナノホーン、フラーレン、カーボンナノファイバー、およびカーボンブラックの中から選択される1以上の炭素系ナノ材料を有した流体と、シリコン、ソルベントナフサ、尿素、飽和炭化水素、または飽和炭化水素系化合物と、を混合してなる、潤滑油である。本潤滑油は、粒子を分散して含むことが可能な媒質である分散媒と、前記分散媒中に均一に分散する複数の前記炭素系ナノ材料とを含んでいるpH値が2.5〜8.0のものであり、前記炭素系ナノ材料表面の活性点の少なくとも一部にOH基、CO基およびCHO基のうちいずれか1つ以上が修飾されていることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に、少なくとも、
カーボンナノチューブ、カーボンナノダイヤ、カーボンナノホーン、フラーレン、カーボンナノファイバー、およびカーボンブラックの中から選択される1以上の炭素系ナノ材料を有した流体と、
シリコン、ソルベントナフサ、尿素、飽和炭化水素、または飽和炭化水素系化合物と、
を混合してなる潤滑油。
【請求項2】
前記炭素系ナノ材料を有した流体が、
粒子を分散して含むことが可能な媒質である分散媒と、
前記分散媒中に均一に分散する複数の前記炭素系ナノ材料と、
を含んでいる、pH値が2.5〜8.0のものであり、
前記炭素系ナノ材料表面の活性点の少なくとも一部にOH基、CO基およびCHO基のうちいずれか1つ以上が修飾されていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油。
【請求項3】
前記シリコンが、全体に対して0.001質量%以上80質量%以下含まれていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油。
【請求項4】
前記ソルベントナフサが、全体に対して0.001質量%以上80質量%以下含まれていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油。
【請求項5】
前記尿素が、全体に対して0.001質量%以上80質量%以下含まれていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油。
【請求項6】
前記飽和炭化水素が、全体に対して0.001質量%以上80質量%以下含まれていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油。
【請求項7】
前記飽和炭化水素が、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、イソオクタン、ノルマルデカン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルブタン、イソブタン、および、プロパンの中から選択される1以上のものであることを特徴とする請求項1または6に記載の潤滑油。
【請求項8】
前記飽和炭化水素系化合物が、全体に対して0.001質量%以上80質量%以下含まれていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油。
【請求項9】
前記飽和炭化水素系化合物が、エチルシクロヘキサンおよびメチルシクロヘキサンの中から選択される1以上のものであることを特徴とする請求項1または8に記載の潤滑油。
【請求項10】
前記炭素系ナノ材料が、金属、金属酸化物、金属炭化物、金属硫化物、金属窒化物、ホウ酸塩金属、または合金を充填した炭素系ナノ材料であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の潤滑油。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブの直径が0.01nm〜500nmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の潤滑油。
【請求項12】
前記分散媒が、水、または、水と有機溶媒との混合物であることを特徴とする請求項2に記載の潤滑油。
【請求項13】
前記有機溶媒が、アルコール、スチレン、酢酸エチル、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、および、アセトンの中から選択される1以上の液体であることを特徴とする請求項12記載の潤滑油。
【請求項14】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、t−ブタノール、t−ペンタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、および、プロピレングリコールモノエチルエーテルの中から選択される1以上の液体であることを特徴とする請求項13記載の潤滑油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、下記特許文献1において、潤滑性が従前と同等以上に向上した潤滑油の発明を開示し、公知とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5843403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年では、電気自動車などを始めとして、様々な機械類における摩擦によるエネルギーロスを削減し、さらなるエネルギー利用の効率化が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、潤滑効果がさらに向上した潤滑油の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の潤滑油は、基油に少なくともカーボンナノチューブ(以下、CNTと呼ぶことがある)、カーボンナノダイヤ(球状ナノ炭素粒子の一つ)、カーボンナノホーン、フラーレン、カーボンナノファイバー、およびカーボンブラックの中から選択される1以上の炭素系ナノ材料(以下、単に、炭素系ナノ材料と呼ぶことがある。)を有した流体と、シリコン、ソルベントナフサ、尿素、飽和炭化水素、または飽和炭化水素系化合物と、を混合してなるものである。また、前記炭素系ナノ材料を有した流体は、粒子を分散して含むことが可能な媒質である分散媒と、前記分散媒中に均一に分散する複数の前記炭素系ナノ材料とを含んでいるpH値が2.5〜8.0(好ましくは、6.0〜8.0)のものであるとともに、前記炭素系ナノ材料表面の活性点の少なくとも一部にOH基、CO基およびCHO基のうちいずれか1つ以上が修飾されていることが好ましい。
【0007】
(2) 上記(1)の潤滑油においては、前記シリコンが、全体に対して0.001質量%以上80質量%以下含まれていることが好ましい。
【0008】
(3) 上記(1)の潤滑油においては、前記ソルベントナフサが、全体に対して0.001質量%以上80質量%以下含まれていることが好ましい。
【0009】
(4) 上記(1)の潤滑油においては、前記尿素が、全体に対して0.001質量%以上80質量%以下含まれていることが好ましい。
【0010】
(5) 上記(1)の潤滑油においては、前記飽和炭化水素が、全体に対して0.001質量%以上80質量%以下含まれていることが好ましい。
【0011】
(6) 上記(1)または(5)の潤滑油においては、前記飽和炭化水素が、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、イソオクタン、ノルマルデカン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルブタン、イソブタン、および、プロパンの中から選択される1以上のものであることが好ましい。
【0012】
(7) 上記(1)の潤滑油においては、前記飽和炭化水素系化合物が、全体に対して0.001質量%以上80質量%以下含まれていることが好ましい。
【0013】
(8) 上記(1)または(7)の潤滑油においては、前記飽和炭化水素系化合物が、エチルシクロヘキサンおよびメチルシクロヘキサンの中から選択される1以上のものであることが好ましい。
【0014】
(9) 上記(1)〜(8)の潤滑油においては、前記炭素系ナノ材料が、金属、金属酸化物、金属炭化物、金属硫化物、金属窒化物、ホウ酸塩金属、または合金を充填したものであってもよい。
【0015】
(10) 上記(1)〜(9)の潤滑油においては、前記炭素系ナノ材料の直径が0.01nm〜500nmであることが望ましく、さらに好ましくは0.01nm〜50nmである。なお、前記炭素系ナノ材料の直径が0.01nm〜50nmの範囲に含まれる場合には、電気的特性がよいだけでなく、使用する量も少量ですむ。
【0016】
(11) 上記(2)の潤滑油においては、前記分散媒が、水、または、水と有機溶媒との混合物であってもよい。
【0017】
(12) 上記(11)の潤滑油においては、前記有機溶媒が、アルコール、スチレン、酢酸エチル、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、および、アセトンの中から選択される1以上の液体であってもよい。
【0018】
(13) 上記(12)の潤滑油においては、前記分散媒が、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、t−ブタノール、t−ペンタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルの中から選択される1以上の液体であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来よりも潤滑効果が向上した潤滑油を安価に提供できる。また、本発明の流体中の炭素系ナノ材料においては、分散安定性が優れており、長期間分散できるという効果を奏する。また、本発明の潤滑油に含まれる炭素系ナノ材料がCNTの場合、このCNTは円筒形であるため、転がることが可能であることから、エンジンオイルなどの潤滑剤に含まれる場合、すべりの摩擦抵抗よりも摩擦抵抗が低い転がり摩擦が起きていると考えられる。特に、本発明の潤滑油に含まれるCNTは、表面粗さが低いために表面に凹凸が少ない。また、本発明の潤滑油に含まれるCNTのヤング率は比較的高いことから、窪みの程度が低い。これらの事項から、本発明の潤滑油に含まれるCNTは、転がり摩擦が従来のCNTに比べて低いと言える。また、本発明の潤滑油に含まれるシリコンまたは飽和炭化水素は、本潤滑油の潤滑性をさらに増加させる。したがって、このような潤滑油は、安価でありながら、従来よりも高い潤滑効果および潤滑性持続効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
続いて、本発明の一実施形態に係る潤滑油について、詳細に説明する。本実施形態の潤滑油は、基油に、少なくともカーボンナノチューブ、カーボンナノダイヤ、カーボンナノホーン、フラーレン、カーボンナノファイバー、およびカーボンブラックの中から選択される1以上の炭素系ナノ材料を有した流体と、シリコン、ソルベントナフサ、尿素、飽和炭化水素、および飽和炭化水素系化合物の中から選択される1以上のものと、を混合してなるものである。
【0021】
本実施形態における基油は、自動車(四輪車、二輪車、トラクター等の農機、パワーショベル等の建機等の種々の車両を包含する。以下同じ。)用、船用、工業用の潤滑油として用いられる鉱物油である。具体例を挙げると、自動車用潤滑油としては、エンジンオイル、ギヤオイル、および自動車用グリースが挙げられる。ギヤオイルとしては、例えば、パワーステアリングフルード、トランスミッションオイル、オートマチックトランスミッションオイル、およびディファレンシャルオイルが挙げられる。自動車用グリースとしては、例えば、ホイールベアリンググリース、ウォーターポンプグリース、およびシャシーグリースが挙げられる。船用潤滑油としては、船用エンジン油、シリンダー油が挙げられる。また、工業用潤滑油としては、特に限定されないが、冷凍機油、エアコンプレッサ油、真空ポンプ油、チェンソーオイル油、摺動面油、工業用ギヤ油、グリース等に用いられるものが挙げられる。
【0022】
本実施形態における流体は、分散媒、並びに、カーボンナノチューブ、カーボンナノダイヤ、カーボンナノホーン、フラーレン、カーボンナノファイバー、およびカーボンブラックの中から選択される1以上の炭素系ナノ材料を有したpH2.5〜pH8.0のものであることが好ましく、該流体中の炭素系ナノ材料の割合は、0.01質量%〜10質量%程度に調整されていることが好ましい。分散剤については、必要に応じて使用してよい。
【0023】
本実施形態の流体における分散媒としては、炭素系ナノ材料と反応せずに、分散剤を用いた場合でも該分散剤とともに安定した溶媒である。具体的には、水、または、水と水溶性有機溶媒のいずれか一種以上とからなる混合溶媒でも良い。
【0024】
上記水溶性有機溶媒としては、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ベンジルアルコールなど)、多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコールなど)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなど)、アミン類(エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミンなど)、アミド類(ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど)、複素環類(2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、スルホン類(スルホランなど)、低級ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、その他、テトラヒドロフラン、尿素、アセトニトリルなどを使用することができる。
【0025】
本実施形態の流体に必要に応じて使用する分散剤としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸アルカリ金属塩等の水溶性樹脂、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース類が好ましく、さらにカルボキシメチルセルロースが好ましい。これらの水溶性樹脂および/またはセルロース類を採用した場合には、他の分散剤を併用することも可能である。ここで、分散媒に含有される分散剤の濃度は、含有される分散質である炭素系ナノ材料の量によっても異なるが、炭素系ナノ材料が溶媒に充分になじむ程度の濃度であることが必要である。
【0026】
なお、上記の水溶性樹脂および/またはセルロース類を併用可能なその他分散剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の分散性向上作用を有する公知の分散剤を使用できる。
【0027】
アニオン性界面活性剤としては、芳香族スルホン酸系界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等)、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤などである。コール酸、オレイン酸なども好適に使用でき、アニオン性官能基を有する糖類であるアルギン酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等はそのまま好適に使用でき、シクロデキストリンなどはアニオン性官能基で修飾することによって使用することが可能である。エステル基を有するポリマー、オリゴマーは、エステル部分を加水分解してアニオン性官能基に変換して使用することも可能である。
【0028】
カチオン性界面活性剤としては、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩等のカチオン性界面活性剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド等のカチオン性基を有する化合物である。
【0029】
ノニオン性界面活性剤としては、エーテル系(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等)およびエステル系(ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンジステアレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等)、ソルビトールおよびグリセリン等の多価アルコール脂肪酸のアルキルエーテルおよびアルキルエステル、アミノアルコール脂肪酸アミド等を使用できる。
【0030】
両性界面活性剤としてはアルキルベタイン系界面活性剤(ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、プロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン)、スルホベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤を使用することができる。
【0031】
本実施形態の潤滑油は、潤滑性能を向上させる観点から、摺動材として上記炭素系ナノ材料を含んでいる。この炭素系ナノ材料は、後述する基油に分散可能である限り、その製法等について特に限定されないが、表面の少なくとも一部が極性基で修飾されている炭素系ナノ材料が好ましい。表面の少なくとも一部が極性基で修飾されている炭素系ナノ材料によれば、基油への分散性を向上させることができる。これにより、潤滑性能を安定して発揮させることができる。
【0032】
上記極性基としては、水酸基、カルボニル基およびカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。この場合、炭素系ナノ材料の基油への分散性をより向上させることができるため、潤滑性能をより安定して発揮させることができる。
【0033】
また、炭素系ナノ材料としては、直径が0.01nm〜500nm(好ましくは0.01nm〜50nm)であり、炭素系ナノ材料がCNTの場合は多層グラファイト層を備えたものであって、分散液の用途に応じて選択することができる。またCNTを始めとする各炭素系ナノ材料の製造方法に関しても特に制限されるものではなく、公知の方法で製造できる。例えば、CNTの場合、炭素含有ガスを触媒と接触させる熱分解法、炭素棒間にてアーク放電を発生させてなるアーク放電法、カーボンターゲットにレーザーを照射するレーザー蒸発法、金属微粒子の存在下で炭素源のガスを高温で反応させるCVD法、一酸化炭素を高圧下で分解するHiPco法等のいずれでも良い。また、金属、金属酸化物、金属炭化物、金属硫化物、金属窒化物、ホウ酸塩金属、または合金を充填されてなる炭素系ナノ材料であっても良い。また、上記多層グラファイト層に、窒素、ホウ素、リン、または硫黄原子がドープされていてもよい。なお、炭素系ナノ材料がCNTの場合、CNT濃度が低すぎると分散されたCNTを得る効率が悪く、CNT濃度が高すぎるとCNTの分散が困難になる。また、本実施形態における流体中の炭素系ナノ材料の表面の活性点(欠陥)の少なくとも一部には、OH基、CO基およびCHO基のうちいずれか1つ以上が修飾されている。これにより、水素結合を利用することができるので、該炭素系ナノ材料の分散媒中への分散性を高めることができる。特に、水を分散媒として利用した場合、顕著である。
【0034】
本実施形態の潤滑油は、潤滑性能を向上させる観点から、摺動材としてシリコン、ソルベントナフサ、または尿素、を含んでいてもよい。本実施形態の潤滑油中にシリコンが含まれる場合、このシリコンの含有割合は、0.001質量%以上80質量%程度に調整されている。本実施形態の潤滑油中にソルベントナフサが含まれる場合、このソルベントナフサの含有割合は、0.001質量%以上80質量%程度に調整されている。本実施形態の潤滑油中に尿素が含まれる場合、この尿素の含有割合は、0.001質量%以上80質量%程度に調整されている。
【0035】
本実施形態の潤滑油は、潤滑性能を向上させる観点から、摺動材として飽和炭化水素または/および飽和炭化水素系化合物を含んでいてもよい。ここで、飽和炭化水素において好ましいのは、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、イソオクタン、ノルマルデカン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルブタン、イソブタン、および、プロパンの中から選択される1以上のものである。本実施形態の潤滑油中に飽和炭化水素が含まれる場合、この飽和炭化水素の含有割合は、0.001質量%以上80質量%程度に調整されている。また、飽和炭化水素系化合物において好ましいのは、エチルシクロヘキサンおよびメチルシクロヘキサンの中から選択される1以上のものである。本実施形態の潤滑油中に飽和炭化水素系化合物が含まれる場合、この飽和炭化水素系化合物の含有割合は、0.001質量%以上80質量%程度に調整されている。
【0036】
(他の成分)
本実施形態の潤滑油には、必要に応じて他の成分を添加してもよい。他の成分としては、例えば有機モリブデン化合物(モリブデンジチオカーバメイト、モリブデンジチオホスフェイト、モリブデンアミン錯体等)、二硫化モリブデンなどのモリブデン化合物;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂からなる樹脂粉末;アルキル芳香族アミン、アルキルフェノール等の無灰系酸化防止剤;アルカリ土類金属を含有する中性または過塩基性のスルフォネート;コハク酸イミド(ホウ素化物を含む)、コハク酸エステル等の無灰系分散剤;ジアルキルジチオリン酸亜鉛、硫化油脂、硫化オレフィン、ポリサルファイド、リン酸エステル、亜リン酸エステルおよびそれらのアミン塩等の耐摩耗剤;流動点降下剤;防錆剤;消泡剤などが挙げられる。なかでも、潤滑性能を向上させる観点からモリブデン化合物が好ましく、有機モリブデン化合物がより好ましい。これらの成分は、1種単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの成分を配合する場合、その配合量は、例えば0.05質量%以上5質量%以下程度である。
【0037】
また、本発明における流体に配合が可能な他の成分としては、各種の水溶性樹脂、水分散性樹脂、タンパク質等の生体内の高分子等、炭素系ナノ材料の用途に応じて必要な成分を配合することが可能である。
【0038】
(CNTを有した流体の製造方法、および、潤滑油の製造方法)
次に、本実施形態に係る炭素系材料の一例として、CNTを有した流体の製造方法、および、本実施形態に係る潤滑油の製造方法について説明する。本実施形態に係るCNTを有した流体の製造工程を示す。本実施形態のCNTを有した流体の製造工程においては、CNTを原料とし、最終製品として、CNTの分散安定性が優れているものを得ることができる。以下、詳細に説明する。
【0039】
まず、CNT粉末と硫酸とを少量ずつ所定の割合で混合撹拌し、混合液を生成する(工程S1)。続いて、この混合液に所定の割合で硝酸を混合し撹拌する(工程S2)。その後、十分に煮沸するまで該混合液を加熱(工程S3)した後、加熱を止め、冷却する(工程S4)。続いて、該混合液をpH12〜13のアルカリ水溶液で希釈してpH値を調整(工程S5)した後、さらに大気中において冷却する(工程S6)。該混合液を十分に冷却した後、該混合液をろ過して、ろ過水を取り出す(工程S7)。そして、該混合液を水で希釈する(工程S8)。ここで、工程S7および工程S8については、さらに1回以上繰り返しても良い。続いて、遠心分離機を用いて該混合液をろ過(工程S9)した後、さらに超音波洗浄機を用いてろ過を行う(工程S10)。ここで、工程S9および工程S10については、それぞれさらに1回以上繰り返してもいいし、工程S9または工程S10のいずれか一方のみをさらに1回以上繰り返してもよい。続いて、水で希釈して、所定の濃度に調整することで、本実施形態に係るCNTを有した流体は完成する。その後、基油に該流体を添加した後に撹拌し、該基油と、該流体と、所定量のシリコンまたは/および所定量の飽和炭化水素とを混合することによって、本実施形態に係る潤滑油を得る。なお、一変形例として、本実施形態に係るCNTを有した流体については、必要に応じて、上述した分散媒または/および分散剤を加えて、該流体をさらに調整しても良い。なお、一変形例として、CNT表面への官能基の形成は、水中においてCNT表面をプラズマ処理することによって得ても良い。また、上記製造方法では、CNTの調整を行ったが、市販品のCNTを調整せずに、そのまま用いてもよい。
【0040】
なお、CNT以外の炭素系ナノ材料についても、市販品をそのまま潤滑油に混合してもよいし、例えば、上述のCNTを有した流体の製造方法のように調整を行って、各炭素系ナノ材料表面に官能基の形成を行ってもよい。
【0041】
本実施形態によれば、カーボンナノチューブなどの炭素系ナノ材料を従来よりも十分に分散して包含し、従来よりも高い潤滑効果を奏する潤滑油を安価に提供できる。また、本発明の流体中のカーボンナノチューブなどの炭素系ナノ材料においては、分散安定性が優れており、長期間分散できるという効果を奏する。また、本発明の潤滑油に含まれる炭素系ナノ材料がCNTの場合、CNTは円筒形であるため、転がることが可能であることから、エンジンオイルなどの潤滑剤に含まれる場合、すべりの摩擦抵抗よりも摩擦抵抗が低い転がり摩擦が起きていると考えられる。特に、本発明の潤滑油に含まれる炭素系ナノ材料がCNTの場合、このCNTは、表面粗さが低いために表面に凹凸が少ない。また、本発明の潤滑油に含まれるCNTのヤング率は90.0×10
10(Pa)と比較的高いことから、窪みの程度が低い。これらの事項から、本発明の潤滑油に含まれるCNTは、転がり摩擦が従来のCNTに比べて低いと言える。また、本発明の潤滑油に含まれるシリコン、ソルベントナフサ、尿素、飽和炭化水素、または飽和炭化水素系化合物は、本潤滑油の潤滑性をさらに増加させる。したがって、このような潤滑油は、安価でありながら、従来よりも高い潤滑効果および潤滑性持続効果を奏する。
【0042】
なお、本発明の潤滑油は、上述した用途の他にも、電気的な接点(金属)部分に関する表面改質、研磨剤、レンズ仕上げ剤、金型仕上げ剤、染色用途、メッキ用途、塗料への添加、生体認識を始めとした医療分野など、様々な用途に使用することができる。また、本発明の潤滑油は、自動車用または電気自動車用など機械用の潤滑油として使用すれば、初動時の潤滑性がよくなるだけでなく、潤滑性の持続効果が従来よりも向上するので、自動車などの機械において、エネルギーの有効活用に繋がる。