特開2018-9084(P2018-9084A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-9084(P2018-9084A)
(43)【公開日】2018年1月18日
(54)【発明の名称】免疫賦活化組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 79/04 20060101AFI20171215BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20171215BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20171215BHJP
   A61K 31/661 20060101ALI20171215BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20171215BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20171215BHJP
【FI】
   C08G79/04
   A61P37/04
   A61K39/00 H
   A61K31/661
   B82Y5/00
   C08J3/12CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2016-138239(P2016-138239)
(22)【出願日】2016年7月13日
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100147706
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 佑弥
【テーマコード(参考)】
4C085
4C086
4F070
4J030
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BA01
4C085CC31
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB08
4F070AA47
4F070AC84
4F070AD06
4F070AE27
4F070AE30
4F070DB03
4F070DC15
4F070DC16
4J030CA01
4J030CB35
4J030CD03
4J030CD04
4J030CE02
4J030CE11
4J030CF02
4J030CG11
4J030CG29
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、免疫賦活化組成物の有効成分として利用可能な化学的安定性や安全性に優れた化合物やナノ粒子を提供することである。
【解決手段】本発明に係るに係る化合物は、ポリ(リン酸エチレン塩)部位および疎水性部位を含有する。疎水性部位は、ポリ(リン酸エチレン塩)部位よりも疎水性を示す部位である。また、本発明に係るナノ粒子は、ナノオーダーの寸法を有する粒子であって、コア粒子の表面にポリ(リン酸エチレン塩)が修飾されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)のポリ(リン酸エチレン塩)部位と、
前記ポリ(リン酸エチレン塩)部位よりも疎水性を示す疎水性部位と
を含有する、化合物。
【化1】
【請求項2】
下式(2)のポリ(リン酸エチレンエステル)部位と、
前記ポリ(リン酸エチレンエステル)部位よりも疎水性を示す疎水性部位と
を含有する、化合物。
【化2】
【請求項3】
コア粒子と、
前記コア粒子の表面を修飾する請求項1または2に記載の化合物と
を備え、
前記請求項1または2に記載の化合物は、前記疎水性部位を介して前記コア粒子の表面層に接合されている
ナノ粒子。
【請求項4】
前記コア粒子は、生体適合性高分子を主成分として形成されている
請求項3に記載のナノ粒子。
【請求項5】
請求項1もしくは2に記載の化合物または請求項3もしくは4に記載のナノ粒子を有効成分とする免疫賦活化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化合物、特にポリ(リン酸エチレン)誘導体に関する。また、本発明は、その化合物を表面修飾したナノ粒子にも関する。さらに、本発明は上述の化合物およびナノ粒子を有効成分とする免疫賦活化組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「細菌の抽出物を有効成分とする免疫賦活化組成物」が提案されている(例えば、特表2012−502026号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2012−502026号公報
【特許文献2】特開2000−069961号公報
【特許文献3】特開2007−054080号公報
【特許文献4】国際公開第2004/075906号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、細菌の抽出物は生体由来であるため、その化学的安定性や安全性が懸念されている。
【0005】
本発明の課題は、免疫賦活化組成物の有効成分として利用可能な化学的安定性や安全性に優れた化合物やナノ粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る化合物は、ポリ(リン酸エチレン塩)部位および疎水性部位を含有する。ポリ(リン酸エチレン塩)部位は、下式(1)に示されるとおりの化学構造式で示される。疎水性部位は、ポリ(リン酸エチレン塩)部位よりも疎水性を示す部位である。
【0007】
【化1】
【0008】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の化合物が免疫賦活化組成物の有効成分として利用することができると共に、化学的安定性に優れることが明らかとなった。また、この化合物は有機合成技術を用いて製造することができるため、生体由来成分に対する安全性の懸念は払拭される。したがって、この化合物は、化学的安定性や安全性に優れる免疫賦活化組成物の有効成分として利用することができる。
【0009】
本発明の他の局面に係る化合物は、ポリ(リン酸エチレンエステル)部位および疎水性部位を含有する。ポリ(リン酸エチレンエステル)部位は、下式(2)に示されるとおりの化学構造式で示される。疎水性部位は、ポリ(リン酸エチレンエステル)部位よりも疎水性を示す部位である。
【0010】
【化2】
【0011】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の化合物が免疫賦活化組成物の有効成分として利用することができると共に、化学的安定性に優れることが明らかとなった。また、この化合物は有機合成技術を用いて製造することができるため、生体由来成分に対する安全性の懸念は払拭される。したがって、この化合物は、化学的安定性や安全性に優れる免疫賦活化組成物の有効成分として利用することができる。
【0012】
本発明の他の局面に係るナノ粒子は、ナノオーダーの寸法を有する粒子であって、コア粒子および上述の化合物を備える。上述の化合物は、コア粒子の表面を修飾する。なお、ここで、上述の化合物は、疎水性部位を介してコア粒子の表面層に接合されている。また、コア粒子は、生体適合性高分子を主成分として形成されていることが好ましい。
【0013】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述のナノ粒子が免疫賦活化組成物の有効成分として利用することができると共に、化学的安定性に優れることが明らかとなった。また、このナノ粒子は有機合成技術を用いて製造することができるため、生体由来成分に対する安全性の懸念は払拭される。したがって、このナノ粒子は、化学的安定性や安全性に優れる免疫賦活化組成物の有効成分として利用することができる。
【0014】
本発明の他の局面に係る免疫賦活化組成物は、上述の化合物または上述のナノ粒子を有効成分とする免疫賦活化組成物である。このため、この免疫賦活化組成物は、化学的安定性や安全性に優れる。なお、ここにいう「組成物」には、医薬品,サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物、医薬品等の動物(ヒトを含む)の細胞に注射等で直接投与し得る物等が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子のイメージ図である。
図2】実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像である。
図3】実施例2および比較例1で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子およびPEG表面修飾ナノ粒子の粒径分布図である。
図4】実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子の粒子径および分散度の時間変化を示す図である。
図5】実施例2および比較例1で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子およびPEG表面修飾ナノ粒子の種々の濃度における溶血活性を示す図である。
図6】実施例2および比較例1で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子およびPEG表面修飾ナノ粒子の種々の濃度における細胞生存率を示す図である。
図7】実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞に接触させた際のRAW264.7細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図8】実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子をMC3T3−E1細胞に接触させた際のMC3T3−E1細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図9】リン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))をRAW264.7細胞に接触させた際のRAW264.7細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図10】リン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))をMC3T3−E1細胞に接触させた際のMC3T3−E1細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図11】比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像である。
図12】比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子の粒子径および分散度の時間変化を示す図である。
図13】比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞に接触させた際のRAW264.7細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図14】比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子をMC3T3−E1細胞に接触させた際のMC3T3−E1細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図15】「実施例1で得られたCH−PEP−Na」、「実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子」、「比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子」および「比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子」をRAW264.7細胞に接触させた際に産生されたTNF−α量を示す図である。
図16図15に示される各例のTNF−α量からコントロールのTNF−α量を減算した際の図である。
図17】実施例1で得られたコレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の平均分子量の測定方法を説明するための図である。
図18】実施例1で得られたコレステロール末端ポリ(リン酸エチレン)のナトリウム塩の平均分子量の測定方法を説明するための図である。
図19】臨界ミセル濃度の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.化合物
本発明の実施の形態に係る化合物は、主に、ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位および疎水性部位から成る。なお、この化合物は、ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位および疎水性部位のみから成っていてもよい。以下、これの部位について詳述した後、この化合物の合成方法について説明する。
【0017】
(1)ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位
ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位は、下式(1)に示されるポリ(リン酸エチレン塩)の構造を有していてもよいし、下式(2)に示されるポリ(リン酸エチレンエステル)の構造を有していてもよい。
【0018】
【化3】
【0019】
【化4】
【0020】
なお、上式(1)中、Mは、一価のカチオンであって、例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオンであることが好ましい。また、同式中、nは2以上200以下の範囲内であることが好ましく、20以上180以下の範囲内であることがより好ましく40以上140以下の範囲内であることがさらに好ましく、60以上120以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0021】
また、上式(2)中、Rは、メチル基やエチル基等の飽和アルキル基であることが好ましい。また、同式中、nは2以上200以下の範囲内であることが好ましく、20以上180以下の範囲内であることがより好ましく40以上140以下の範囲内であることがさらに好ましく、60以上120以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0022】
(2)疎水性部位
疎水性部位は、ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位よりも疎水性を示す部位であって、疎水性官能基であってもよいし、疎水性共重合部位であってもよい。疎水性官能基としては、例えば、アルキル基やコレステロール基等が挙げられるが、これらの例示に限れられない。なお、この疎水性部位は、化合物のいずれの位置に存在していてもよいが、ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位の片末端に存在しているのが好ましい。また、疎水性部位の数は特に制限されないが、1つであることが好ましい。さらに、この化合物を後述する用途に用いる場合、この疎水性部位は、コレステロール構造等の生体適合性に優れる構造を有することが好ましい。
【0023】
(3)合成方法
ポリ(リン酸エチレンエステル)部位を有する化合物は、例えば、水酸基を有する疎水性化合物を開始剤として、塩化メチレン中で2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランを重合反応させることによって得られる。なお、この際、触媒としてのジアザビシクロウンデセンを添加するのが好ましい。
【0024】
また、ポリ(リン酸エチレン塩)部位を有する化合物は、例えば、上記ポリ(リン酸エチレンエステル)部位を有する化合物のエステル基をトリエチルアミン存在下で加水分解させることによって得られるポリ(リン酸エチレン)部位にカチオン交換樹脂に接触させることによって得られる。
【0025】
1.ナノ粒子
本発明の実施の形態に係るナノ粒子100は、数十nm(ナノメートル)から数百nmの直径を有する粒子であって、図1に示されるように、主に、コア粒子110およびポリ(リン酸エチレン誘導体)部位120から成る。なお、このナノ粒子の直径は、1nm以上500nm以下の範囲内であることが好ましく、10nm以上300nm以下の範囲内であることがより好ましく、50nm以上250nm以下の範囲内であることがさらに好ましく、50nm以上200nm以下の範囲内であることが特に好ましい。以下、これらの構成要素について詳述した後、このナノ粒子の調製方法について説明する。
【0026】
(1)コア粒子
コア粒子は、疎水性を示し、球状体であることが好ましい。また、このナノ粒子を後述する用途に用いる場合、コア粒子は、ポリ乳酸等の生体適合性に優れる高分子化合物から構成されていることが好ましい。なお、このコア粒子には、内部に疎水性化合物を内包させることができる。
【0027】
(2)ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位
ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位は、上述した化合物の疎水性部位がコア粒子に埋め込まれる(アンカ−リングされる)ことによって形成される。すなわち、本ナノ粒子のポリ(リン酸エチレン誘導体)部位は、上述の化合物のポリ(リン酸エチレン誘導体)部位である。このポリ(リン酸エチレン誘導体)部位は、親水性を示すため、親水性化合物を包接することができる。
【0028】
(3)調製方法
本発明の実施の形態に係るナノ粒子は、上述の化合物の水溶液を調製し、その水溶液を撹拌しながらその水溶液に、コア粒子を形成する高分子の溶液(溶媒は水に不溶なものを用いる)を徐々に滴下した後、その混合液を撹拌しながらその混合液に超音波処理を施すことによって得ることができる。
【0029】
3.用途
本願発明者ら鋭意検討した結果、上述の化合物およびナノ粒子は、免疫賦活化組成物(例えば、サイトカイン産生促進組成物、腫瘍壊死因子産生促進組成物、TNF−α産生促進組成物)の有効成分として利用することができることが判明した。なお、この免疫賦活化組成物は、医薬品,サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の形態を採り得る。以下に示す実施例においてその証明を行う。
【0030】
<実施例および比較例>
以下、実施例および比較例を示して本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【実施例1】
【0031】
−コレステロール末端ポリ(リン酸エチレン)ナトリウム塩の合成−
1.コレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の合成
先ず、50mL容量の三口活栓丸底フラスコに8.28g(60mmol)の2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランを加え、その三口活栓丸底フラスコ内を2時間減圧させて乾燥させた。次に、上述の三口活栓丸底フラスコの内部をアルゴンガス雰囲気にすると共に三口活栓丸底フラスコの底を冷却しながら開始剤としてのコレステロール0.273g(0.706mmol,減圧下で一晩乾燥させた後に6mLの塩化メチレンに溶解させたもの)および触媒としてのジアザビシクロウンデセン105.4μL(0.706mmol)を上述の三口活栓丸底フラスコに加え、そのまま3時間かけて2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランを重合させた。最後に、得られたポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)をトルエン、ジエチルエーテルの順で再沈殿させることによって精製した。その結果、コレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)を得た。なお、このときの化学反応式は以下の通りである。
【化5】
【0032】
2.コレステロール末端ポリ(リン酸エチレン)のナトリウム塩の合成
上述の通りにして得られたポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)2.5gを50mLの純水に溶解し、その水溶液に(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)ユニット1当量に対して2当量のトリエチルアミンを加えて攪拌混合した。そして、24時間後にその水溶液に20gのカチオン交換樹脂(ドイツのMerck社製のAmberlite IR−120)を加えて1時間攪拌した後、その水溶液をろ過してカチオン交換樹脂を取り除いた。次に、透析膜(MWCO1000)を用いてそのろ液を蒸留水で透析し、透析溶液を凍結乾燥して、ポリ(リン酸エチレン)を得た。
【0033】
上述の通りにして得られたポリ(リン酸エチレン)がpH7.0の0.1N水酸化ナトリウム溶液1mL当たり20mgの量含有されるように、同ポリ(リン酸エチレン)を同0.1N水酸化ナトリウム溶液に添加した。次に、そのポリ(リン酸エチレン)水酸化ナトリウム溶液を蒸留水で1日透析して、目的のコレステロール末端ポリ(リン酸エチレン)ナトリウム塩(以下「CH−PEP−Na」と略する。)を得た。なお、このときの化学反応式は以下の通りである。また、このCH−PEP−Naは、使用されるまでの間−30℃の環境下で保存された。
【化6】
【0034】
−物性測定および試験−
1.分子量測定
(1)コレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の分子量測定
重クロロホルムを溶媒として、コレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)のH−NMRスペクトルを測定した。図17には、そのH−NMRスペクトルを示した。次に、このH−NMRスペクトルから「側鎖のメトキシ基由来のピークの積分値(a)」と「末端のコレステロール由来のピークの積分値の平均((c+e+f)/3)」との比を取ってその繰り返し単位数nを求めた(n=a/((c+e+f)/3))。そして、以下の式を用いてコレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の分子量を求めた。
【0035】
(分子量)=(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランの分子量(138.02))×(繰り返し単位数n)+(コレステロールの分子量(386.368))
【0036】
なお、上述の通りに合成されたコレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランの繰り返し単位数は106であり、コレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の分子量は15.0×10であった。また、このコレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の分散度は1.45であった。
【0037】
(2)CH−PEP−Naの分子量測定
重水を溶媒として、CH−PEP−NaのH−NMRスペクトルを測定した。図18には、そのH−NMRスペクトルを示した。次に、「図17H−NMRスペクトル」および「図18H−NMRスペクトル」の主鎖のメチレンユニットの積分値を4.0とし、以下の式を用いて脱メチル化度を計算した。
【0038】
(脱メチル化度(%))=100−(図18の下向き矢印のピーク(残存メチル基由来)の積分値)/(図17のaのピークの積分値)×100
【0039】
得られた脱メチル化度および上述の繰り返し単位数を用いて脱メチル化された繰り返し単位数を計算した。そして、最後に脱メチル化されることで増加する分子量(CH(15)→Na(23))をコレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の分子量に加えてCH−PEP−Naの分子量を得た。なお、このCH−PEP−Naの分子量は15.8×10であった。また、このCH−PEP−Naの分散度は1.45であった。
【0040】
2.臨界ミセル濃度
(1)試薬の調製
(1−1)ピレン/アセトン溶液の調製
先ず、褐色の10mLサンプル管に1.22mg(6×10−3mmol)ピレンをはかり取り、そのピレンを10mLのアセトンに溶解させて6×10−4Mのピレン/アセトン溶液を調製した。そして、このピレン/アセトン溶液を1000倍に希釈して6×10−7Mのピレン/アセトン溶液を調製し、その6×10−7Mのピレン/アセトン溶液を褐色のサンプル管に移した。
【0041】
(1−2)Tris−HCl緩衝液(pH=7.4)の調製
先ず、0.121g(1mmol)のトリスヒドロキシメチルアミノメタンをはかり取り、そのトリスヒドロキシメチルアミノメタンを200mLのビーカーに移して約80mLの純水に溶解させた。次に、そのトリスヒドロキシメチルアミノメタン水溶液のpHをpHメーターで測定しながら、トリスヒドロキシメチルアミノメタン水溶液に1Mの塩酸水溶液を徐々に加えてそのpHを7.4に調整した。最後に、pH調整済みのトリスヒドロキシメチルアミノメタン水溶液を100mLのメスフラスコに移して、純水でメスアップした。
【0042】
(1−3)CH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液の調製
5×10−1g/dLのCH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液を3mL調製した。そして、このCH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液を希釈して1×10−6g/dLから5×10−1g/dLまでの濃度の異なるCH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液を調製した。
【0043】
(2)試験手順および結果
先ず、6×10−7Mピレン/アセトン溶液をシリンジで褐色バイアル瓶に1mLずつ加えた。次に、このバイアル瓶をデシケーターに入れ、デシケーター内をダイヤフラムポンプで減圧状態にして同溶液中のアセトンを完全に蒸発させた。次いで、CH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液を1mLずつバイアル瓶に加えた後、Vacuum Oven ADP200(ヤマト科学株式会社製)を用いてそのCH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液を60℃で2時間インキュベートした。続いて、バイアル瓶にアルミホイルをかぶせてCH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液を室温で一晩インキュベートした。そして、Fluorescence Spectrophotometer F−2500(株式会社日立製作所製)を用いてCH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液の蛍光スペクトルを測定した。その際の使用セルおよび測定条件は以下の通りであった。
【0044】
使用セル:石英セル(4面透過)10×10×45mm
測定条件 励起波長:334nm
蛍光開始:350nm 蛍光終了:500nm
スリット励起:10nm 蛍光:2.5nm
【0045】
上記の測定条件でピレンの蛍光スペクトルを測定した後、373nmおよび393nmの蛍光強度をそれぞれI、Iとし、その比I/Iを濃度(常用対数で表記)に対してプロットする(図19参照)。そして、このプロットを繋ぐ線の変曲点の濃度を臨界ミセル濃度(cmc)とした(ピレンは周辺環境が親水性から疎水性に変化するとIが大きくなる性質を有するため、ポリマー濃度を変化させていくと臨界ミセル濃度以上ではピレンがミセル内部に取り込まれることでIが大きくなり、結果的に比I/Iが大きくなる。)。このCH−PEP−Naの臨界ミセル濃度は4.07×10−2g/dLであった。
【0046】
3.サイトカイン(TNF−α)の定量試験
先ず、1.20×10cell/mLになるように調整したマウス由来RAW264.7細胞懸濁液を1mLずつ24wellプレートに播種し、細胞培養環境下で24時間培養した。次に、終濃度が50μg/mLとなるようにCH−PEP−Naをリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))に分散させた。次いで、この分散液を100μLずつ、RAW264.7細胞懸濁液が入ったwellプレートに添加して、細胞培養環境下でCH−PEP−NaをRAW264.7細胞に接触させた。そして、wellプレート中の培地をエッペンチューブに回収し、Affymetrix eBioscience社製のMouse TNF alpha ELISA Ready−SET−O(登録商標)を用いて培地中のTNF−αを定量した。その結果、115.7pgのTNF−αが検出された。
【実施例2】
【0047】
−PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製−
先ず、CH−PEP−Na濃度が10mg/mLとなるように、実施例1で調製したCH−PEP−Naを超純水に溶かしてCH−PEP−Na水溶液を調製し、そのCH−PEP−Na水溶液40mLを110mLサンプル管に加えた。次に、1mg/mLのポリ乳酸/クロロホルム溶液1mLをバイアル瓶に加えた。なお、ポリ乳酸の数平均分子量(Mn)は1.95×10であり、分散度(Mw/Mn)は1.34であった。次いで、先の110mLサンプル管に撹拌子を入れ、同サンプル管を氷浴しながらマグネティックスターラーで同サンプル管の内容物を450rpmで撹拌した。続いて、パスツールピペットでバイアル瓶から1mg/mLのポリ乳酸/クロロホルム溶液を吸い取り、その吸い取った1mg/mLのポリ乳酸/クロロホルム溶液を一滴ずつ110mLサンプル管に滴下した。さらに続いて、この110mLサンプル管の内容物を450rpmで撹拌しながら同内容物に対して30分間超音波処理を施した。なお、超音波処理は、デューティ比40、出力制御1.5〜2の条件下で実施された。そして、110mLサンプル管の内容物を30分間減圧乾燥処理して同内容物からクロロホルムを完全に留去させた後、その内容物をフィルター(孔径0.8μm)でろ過した。そのろ液を遠沈管に入れて45000rpm、4℃で1.5時間超遠心分離処理した後、遠沈管中の上澄みを捨て、残った粒子に純水を加えて粒子を再分散させた。この遠心処理−再分散の処理を3回繰り返して、目的のPEP−Na表面修飾ナノ粒子を得た。なお、得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子のイメージを図1に示す。図1において、符号100は「PEP−Na表面修飾ナノ粒子」を示し、符号110は「ポリ乳酸コア粒子」を示し、符号120は「ポリ(リン酸エチレン)ナトリウム塩部位」を示している。また、得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像が図2に示されている(なお、この撮像を可能とするために、PEP−Na表面修飾ナノ粒子にはオキサノールVI(染色剤)が含まれている。オキサノールVIは、PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製時においてポリ乳酸/クロロホルム溶液に添加される。)。
【0048】
−物性測定および試験−
1.粒子径測定
(1)透過型電子顕微鏡を利用したPEP−Na表面修飾ナノ粒子の粒子径測定
先ず、0.1μg/mLのPEP−Na表面修飾ナノ粒子の水性分散液を調製した。次に、この水性分散液10μmをブチラール支持膜(STEM Cu150グリッド(ピッチ:150μm),応研商事株式会社製)に滴下して5分間静置した後、そのブチラール支持膜をピンセットで静かに持ち上げ、ブチラール支持膜上の残液をキムワイプに吸収させた。そして、水性分散液滴下からキムワイプ(登録商標)での拭き取りまでの操作を3回繰り返した。その後、ブチラール支持膜をデシケーターに格納して減圧下で一晩乾燥させた。そして、乾燥後のブチラール支持膜を透過型電子顕微鏡(TEM,日本電子株式会社製のSemAfore5.21)で観察した。なお、透過型電子顕微鏡による観察は、HT Voltage:100kVの条件下で行った。そして、その透過型電子顕微像中の各粒子の粒子径(直径)を計測し、それらの粒子径の平均値をとったところ88.2nmであった。
【0049】
(2)動的光散乱法を利用したナノ粒子の粒子径測定
蒸留水または緩衝水溶液を分散媒として用いて0.5mg/mLのPEP−Na表面修飾ナノ粒子の水性分散液を調製した。そして、Zetasizer Nano−ZS(Malvern社製)を用いてその水性分散液中のPEP−Na表面修飾ナノ粒子の粒子径(直径)および分散度(PDI)を測定した。その結果、平均粒子径は98.64nmであり、分散度は0.14であった。参考までに述べておくと、分散度は0から1の範囲内の数値であり、分散度が0である場合は粒子径の分布が全くなく、分散度が0.1以下の値を示す場合は単分散と言え、分散度が0.1から0.3の間の値を示す場合は狭い粒子径分布を有すると言え、分散度が0.5より大きい値を示す場合は多分散であると言える。したがって、PEP−Na表面修飾ナノ粒子の粒子径は単分散であると言える。図3にはこのPEP−Na表面修飾ナノ粒子の粒径分布が実線で示されている。
【0050】
また、PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製後から7日間、1日おきに平均粒子径および分散度を測定した。その結果を図4に示す。図4に示されるように、PEP−Na表面修飾ナノ粒子の平均粒子径および分散度は共にほぼ一定であった。したがって、このPEP−Na表面修飾ナノ粒子は極めて高い安定性を示すことが明らかとなった。
【0051】
2.ζ電位測定
蒸留水または緩衝水溶液を分散媒として用いて0.5mg/mLのPEP−Na表面修飾ナノ粒子の水性分散液を調製した。そして、Zetasizer Nano−ZS(Malvern社製)を用いてその水性分散液中のPEP−Na表面修飾ナノ粒子のζ電位を測定した。その結果、このPEP−Na表面修飾ナノ粒子のζ電位は−59.5mVであった。
【0052】
3.生体適合試験
(1)溶血試験
(1−1)試薬の調製
(i)ハンクス緩衝溶液の調製
先ず、8.00gの塩化ナトリウム、0.40gの塩化カリウム、1.00gのD−グルコース、0.1208gのリン酸水素二ナトリウム12水和物および0.06gのリン酸二水素カリウムを1Lの蒸留水に溶解させた。そして、この水溶液のpHを固体の炭酸水素ナトリウムで調整することによってハンクス緩衝溶液(HBSS)を調製した。
【0053】
(ii)Triton(登録商標)X−100/HBSS溶液の調製
5重量%になるようにTriton(登録商標)X−100をハンクス緩衝溶液で希釈して、Triton(登録商標)X−100/HBSS溶液を調製した。
【0054】
(iii)PEP−Na表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液の調製
終濃度がそれぞれ1.0×10−1mg/mL、1.0×10−2mg/mL、1.0×10−3mg/mLおよび1.0×10−4mg/mLになるようにPEP−Na表面修飾ナノ粒子をハンクス緩衝溶液で希釈して、最終的に濃度が異なる4種類のPEP−Na表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液を用意した。
【0055】
(1−2)試験手順および結果
先ず、予め3mLの3.8重量%クエン酸三ナトリウム水溶液が入ったシリンジでヒトから採血を行って、採血した血液を50mL容量の遠沈管に同管の内壁を伝わせながら加えた。次に、その遠沈管を遠心分離機(ベックマンコールター株式会社製のAllegra(登録商標)21R Centrifuge)にセットして1200rpm、4℃で15分間遠心分離処理を行った後、遠沈管内に生じた上澄みを取り除き、沈殿物をハンクス緩衝溶液で1.5倍に希釈した。次いで、その遠沈管を遠心分離機にセットして2800rpm、4℃で10分間遠心分離処理を行った。そして、上澄みに色の変化がなくなるまで、希釈−遠心分離処理の操作を繰り返し行った後、沈殿物にハンクス緩衝溶液を加えて血球懸濁液の全量を30mLにした。続いて、この血液懸濁液の一部を取り、これをハンクス緩衝溶液で10倍に希釈した。さらに続けて、200μLのPEP−Na表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液が入ったエッペンチューブに、ハンクス緩衝溶液で10倍に希釈した血液懸濁液800mLを加えて混合した。また、コントロールとして200μLのTriton(登録商標)X−100/HBSS溶液および200μLのハンクス緩衝溶液が入ったエッペンチュ−ブに先の血球懸濁液800μLを加えて混合した。そして、これら3種類の試料を37℃で3時間インキュベートした後、2000rpm、室温で10分間遠心分離処理した。処理液の上澄みを96wellプレートに200μLずつ移し、マイクロプレートリーダー(BIO−RAD社製Model680 MICROPLATE READER)で各試料の吸光度(吸光波長(λ)405nm)を測定した。
【0056】
溶血率すなわち溶血活性は、Triton(登録商標)X−100/HBSS溶液入りの血球懸濁液の吸光度を100とし、「Triton(登録商標)X−100/HBSS溶液入りの血球懸濁液」の吸光度に対する「PEP−Na表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液入りの血球懸濁液」および「ハンクス緩衝溶液入りの血球懸濁液」の比率として求めた。その結果を図5に示す。なお、本結果は、図5中、各ナノ粒子濃度の左側の棒に表わされている。図5に示されるようにPEP−Na表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液入りの血球懸濁液の溶血活性は極めて低くなっており、赤血球をほとんど破壊しないことが明らかとなった。
【0057】
(2)細胞毒性試験
(2−1)試薬の調製
(i)リン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))の調製
0.96gのDulbecco’s PBS(フナコシ株式会社製)を110mLの超純水に溶解させた後、その水溶液をオートクレーブで121℃、15分間滅菌してリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))を得た。
【0058】
(ii)10%FBS/MEM−αの調製
450mLのMEM−α(life technologies社製Minimum Essential Medium α)に5mLのAntibiotic−Antimycotic(life technologies社製)と50mLのFBS(biowest社製biowest Fetal Bovine serum)を無菌的に加えて、10%FBS/MEM−αを得た。
【0059】
(iii)PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液の調製
1.1mg/mL(終濃度1.0×10−1mg/mL)になるようにDulbecco’s Phosphate Buffered Saline 10x(SIGMA−ALDRICH社製)でPEP−Na表面修飾ナノ粒子を希釈した後、その希釈液をフィルター(孔径0.2μm)に通すことで滅菌処理した。そして、終濃度がそれぞれ1.0×10−2mg/mL、1.0×10−3mg/mL、1.0×10−4mg/mL、1.0×10−5mg/mLおよび1.0×10−6mg/mLになるようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))でそのろ液を希釈して、最終的に濃度が異なる6種類のPEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液を用意した。
【0060】
(2−2)試験手順および結果
先ず、10×10cell/mLになるように調製したマウス由来MC3T3−E1細胞懸濁液を100μLずつ96wellプレートに播種し、細胞培養環境下で24時間培養した。次に、PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液をそれぞれ10μLずつ、MC3T3−E1細胞懸濁液が入った96wellプレートに添加して、細胞培養環境下でPEP−Na表面修飾ナノ粒子をMC3T3−E1細胞に24時間接触させた。次いで、PEP−Na表面修飾ナノ粒子と接触させたMC3T3−E1細胞に10μLのWST−8溶液を添加して、細胞培養環境下で4時間反応させた。そして、マイクロプレートリーダー(BIO−RAD社製Model680 MICROPLATE READER)で各試料の吸光度(吸光波長(λ)450nm)を測定した。また、MC3T3−E1細胞懸濁液にリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))を加えてコントロール液を調製し、そのコントロール液の吸光度(吸光波長(λ)450nm)を測定した。
【0061】
コントロール液の吸光度を100とし、「コントロール液の吸光度」に対する「各試料液の吸光度」の比率を求め、それを細胞生存率とした。その結果を図6に示す。なお、本結果は、図6中、各ナノ粒子濃度の左側の棒に表わされている。図6に示されるようにPEP−Na表面修飾ナノ粒子は、いずれの濃度においてもMC3T3−E1細胞に対してほとんど毒性を示さないことが明らかとなった。
【0062】
4.細胞取り込み試験
(1)試薬の調製
(1−1)蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製
1mg/mLのポリ乳酸/クロロホルム溶液1mLに対して50μLのQD溶液を加えた以外は、実施例2の「−PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製−」の欄に記載した調製方法と同一の調製方法で蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子を調製した。
【0063】
(1−2)蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液の調製
1.1mg/mL(終濃度1.0×10−1mg/mL)になるようにDulbecco’s Phosphate Buffered Saline 10x(SIGMA−ALDRICH社製)で蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子を希釈した後、その希釈液をフィルター(孔径0.2μm)に通すことで滅菌処理した。そして、終濃度が1.0×10−2mg/mLになるようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))でそのろ液を希釈して蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液を得た。
【0064】
(2)試験手順および結果
先ず、「20×10cell/mLになるように調整したマウス由来RAW264.7細胞懸濁液」および「2×10cell/mLになるように調製したマウス由来MC3T3−E1細胞懸濁液」をそれぞれ1mLずつプラスチックディッシュに播種し、細胞培養環境下で24時間培養した。次に、蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液をそれぞれ100μLずつ、RAW264.7細胞懸濁液およびMC3T3−E1細胞懸濁液が入ったプラスチックディッシュに添加して、細胞培養環境下で蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞およびMC3T3−E1細胞それぞれに24時間接触させた。次いで、培地を廃棄した後に各細胞が剥がれないように緩やかにピペッティングしながら各細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))で洗浄した。そして、この操作を計3回行った。最後に、新しい血清培地1mLを各細胞に添加して共焦点レーザー顕微鏡で各細胞を観察した。その結果を図7および図8に示す。なお、図7がRAW264.7細胞に対する結果であり、図8がMC3T3−E1細胞に対する結果である。なお、左側の像が共焦点レーザー顕微鏡像であり、中央の像が微分干渉顕微鏡像であり、右側の像が共焦点レーザー顕微鏡像と微分干渉顕微鏡像との合成像である。また、微分干渉顕微鏡像および合成像の白色部分が蛍光発光箇所すなわち蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子の存在箇所である。これらの像より、PEP−Na表面修飾ナノ粒子はRAW264.7細胞およびMC3T3−E1細胞に効率的に取り込まれることが明らかとなった。
【0065】
なお、参考までに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))のみをRAW264.7細胞およびMC3T3−E1細胞に接触させたときのRAW264.7細胞およびMC3T3−E1細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像を図9および図10に示した。なお、図9がRAW264.7細胞に対する結果であり、図10がMC3T3−E1細胞に対する結果である。
【0066】
5.サイトカインの定量試験
実施例1の「(3)サイトカイン(TNF−α)の定量試験」の欄に記載した試験方法と同一の試験方法でPEP−Na表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞に接触させると共に、同欄に記載した定量方法と同一の定量方法でTNF−αを定量した。その結果、169.2pgのTNF−αが検出された。
【0067】
(比較例1)
−PEG表面修飾ナノ粒子の調製−
CH−PEP−Naをコレステロール末端ポリエチレングリコール(重量平均分子量(Mw):6.0×10,分散度(Mw/Mn):1.07,臨界ミセル濃度:5.53×10−4g/dL,ポリエチレングリコール部位の繰り返し単位数:約106)に代えた以外は、実施例2の「−PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製−」の欄に記載した調製方法と同一の調製方法でPEG表面修飾ナノ粒子を調製した。得られたPEG表面修飾ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像が図11に示されている(なお、この撮像を可能とするために、PEG表面修飾ナノ粒子にはオキサノールVI(染色剤)が含まれている。オキサノールVIは、PEG表面修飾ナノ粒子の調製時においてポリ乳酸/クロロホルム溶液に添加される。)。
【0068】
−物性測定および試験−
1.粒子径測定
(1)透過型電子顕微鏡を利用したPEG表面修飾ナノ粒子の粒子径測定
実施例1に記載した測定方法と同一の測定方法でPEG表面修飾ナノ粒子の平均粒子径(直径)を測定したところ、その平均粒子径は94.0nmであった。
【0069】
(2)動的光散乱法を利用したナノ粒子の粒子径測定
実施例1に記載した測定方法と同一の測定方法でPEG表面修飾ナノ粒子の平均粒子径(直径)を測定したところ、その平均粒子径は105.9nmであった。また、分散度(PDI)は0.17であった。したがって、PEG表面修飾ナノ粒子の粒子径は単分散であると言える。図3にはこのPEG表面修飾ナノ粒子の粒径分布が破線で示されている。
【0070】
また、PEG表面修飾ナノ粒子の調製後から7日間、1日おきに平均粒子径および分散度を求めた。その結果を図12に示す。図12に示されるように、PEG表面修飾ナノ粒子の平均粒子径は日が経つに伴って減少し、分散度は日が経つに伴って上昇した。したがって、このPEG表面修飾ナノ粒子は安定性に優れるとは言い難いことが明らかとなった。
【0071】
2.ζ電位測定
実施例1に記載した測定方法と同一の測定方法でPEG表面修飾ナノ粒子のζ電位を測定したところ、そのζ電位は−26.9mVであった。
【0072】
3.生体適合試験
(1)溶血試験
PEP−Na表面修飾ナノ粒子をPEG表面修飾ナノ粒子に代えた以外は、実施例2に記載した試験手順と同一の試験手順で試験を行った。その結果を図5に示す。なお、本結果は、図5中、各ナノ粒子濃度の右側の棒に表わされている。図5に示されるようにPEG表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液入りの血球懸濁液の溶血活性は極めて低くなっており、赤血球をほとんど破壊しないことが明らかとなった。
【0073】
(2)細胞毒性試験
PEP−Na表面修飾ナノ粒子をPEG表面修飾ナノ粒子に代えた以外は、実施例2に記載した試験手順と同一の試験手順で試験を行った。その結果を図6に示す。なお、本結果は、図6中、各ナノ粒子濃度の右側の棒に表わされている。図6に示されるようにPEG表面修飾ナノ粒子は、いずれの濃度においてもMC3T3−E1細胞に対してほとんど毒性を示さないことが明らかとなった。
【0074】
4.サイトカインの定量試験
実施例1の「(3)サイトカイン(TNF−α)の定量試験」の欄に記載した試験方法と同一の試験方法でPEG表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞に接触させると共に、同欄に記載した定量方法と同一の定量方法でTNF−αを定量した。その結果、96.7pgのTNF−αが検出された。
【0075】
(比較例2)
−PMB表面修飾ナノ粒子の調製−
CH−PEP−Naを、以下の化学式(3)に示されるポリ(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−co−メタクリル酸ブチル)(以下「PMB」と称する)に代えた以外は、実施例2の「−PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製−」の欄に記載した調製方法と同一の調製方法でPMB表面修飾ナノ粒子を調製した。なお、このPMB表面修飾ナノ粒子に貧食されないことが明らかとなっている。
【化7】
【0076】
−物性測定および試験−
1.細胞取り込み試験
(1)試薬の調製
(1−1)蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子の調製
1mg/mLのポリ乳酸/クロロホルム溶液1mLに対して50μLのQD溶液を加えた以外は、上述と同一の調製方法で蛍光粒子含有PMB面修飾ナノ粒子を調製した。
【0077】
(1−2)蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子/PBS分散液の調製
1.1mg/mL(終濃度1.0×10−1mg/mL)になるようにDulbecco’s Phosphate Buffered Saline 10x(SIGMA−ALDRICH社製)で蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子を希釈した後、その希釈液をフィルター(孔径0.2μm)に通すことで滅菌処理した。そして、終濃度が1.0×10−2mg/mLになるようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))でそのろ液を希釈して蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子/PBS分散液を得た。
【0078】
(2)試験手順および結果
蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液を蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子/PBS分散液に代えた以外は、実際例2の「4.細胞取り込み試験」の「(2)試験手順および結果」の欄に記載される試験手順と同一の手順で試験を行った。その結果を図13および図14に示す。なお、図13がRAW264.7細胞に対する結果であり、図14がMC3T3−E1細胞に対する結果である。なお、左側の像が共焦点レーザー顕微鏡像であり、中央の像が微分干渉顕微鏡像であり、右側の像が共焦点レーザー顕微鏡像と微分干渉顕微鏡像との合成像である。また、微分干渉顕微鏡像および合成像の白色部分が蛍光発光箇所すなわち蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子の存在箇所である。これらの像より、PMB表面修飾ナノ粒子は、僅かな量しかRAW264.7細胞およびMC3T3−E1細胞に取り込まれないことが明らかとなった。
【0079】
2.サイトカインの定量試験
実施例1の「(3)サイトカイン(TNF−α)の定量試験」の欄に記載した試験方法と同一の試験方法でPMB表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞に接触させると共に、同欄に記載した定量方法と同一の定量方法でTNF−αを定量した。その結果、94.9pgのTNF−αが検出された。
【0080】
<実施例および比較例に対する考察>
実施例2のPEP−Na表面修飾ナノ粒子のζ電位と比較例1のPEG面修飾ナノ粒子のζ電位とを比較すると、PEP−Na表面修飾ナノ粒子はPEG面修飾ナノ粒子よりもマイナス電荷を帯びていることがわかる。このため、PEP−Na表面修飾ナノ粒子にはCH−PEP−Naが有効に表面修飾されていることが裏付けられる。
【0081】
また、図15には、「コントロールとしてのリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))」、「実施例1で得られたCH−PEP−Na」、「実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子」、「比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子」および「比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子」をRAW264.7細胞に接触させた際に産生されたTNF−α量が示されている。この「実施例1で得られたCH−PEP−Na」および「実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子」をRAW264.7細胞に接触させると、「比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子」および「比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子」をRAW264.7細胞に接触させた場合に比べて多量のTNF−αを産生することが明らかとなった。したがって、「実施例1で得られたCH−PEP−Na」および「実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子」には、「比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子」および「比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子」よりも優れた免疫賦活化機能が認められた。また、「実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子」は、「実施例1で得られたCH−PEP−Na」よりも著しくその機能に秀でていることが明らかとなった。すなわち、「実施例1で得られたCH−PEP−Na」をナノ粒子化にすることによって免疫賦活化機能が向上することが確認された。なお、その効果をよりわかりやすくするために、図16では、各試料に対応するTNF−α量からコントロールのTNF−α量を差し引いた値が棒グラフ化されている。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る化合物およびナノ粒子は、免疫賦活化剤(より具体的にはサイトカイン産生促進組成物、腫瘍壊死因子産生促進組成物、TNF−α産生促進組成物)の有効成分として利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
100 PEP−Na表面修飾ナノ粒子(ナノ粒子)
110 ポリ乳酸コア粒子(コア粒子)
120 ポリ(リン酸エチレン)ナトリウム塩部位(化合物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【手続補正書】
【提出日】2016年7月29日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)のポリ(リン酸エチレン塩)部位と、前記ポリ(リン酸エチレン塩)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第1化合物
下式(2)のポリ(リン酸エチレンエステル)部位と、前記ポリ(リン酸エチレンエステル)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第2化合物
または
コア粒子と、前記疎水性部位を介して前記コア粒子の表面層に接合されている前記第1化合物もしくは前記第2化合物とを備えるナノ粒子
を有効成分とする免疫賦活化組成物。
【化1】
【化2】
【請求項2】
下式(1)のポリ(リン酸エチレン塩)部位と、前記ポリ(リン酸エチレン塩)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第1化合物、
下式(2)のポリ(リン酸エチレンエステル)部位と、前記ポリ(リン酸エチレンエステル)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第2化合物
または
コア粒子と、前記疎水性部位を介して前記コア粒子の表面層に接合されている前記第1化合物もしくは前記第2化合物とを備えるナノ粒子
を有効成分とするサイトカイン産生促進組成物。
【化3】
【化4】
【請求項3】
下式(1)のポリ(リン酸エチレン塩)部位と、前記ポリ(リン酸エチレン塩)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第1化合物、
下式(2)のポリ(リン酸エチレンエステル)部位と、前記ポリ(リン酸エチレンエステル)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第2化合物
または
コア粒子と、前記疎水性部位を介して前記コア粒子の表面層に接合されている前記第1化合物もしくは前記第2化合物とを備えるナノ粒子
を有効成分とする腫瘍壊死因子産生促進組成物。
【化5】
【化6】
【請求項4】
下式(1)のポリ(リン酸エチレン塩)部位と、前記ポリ(リン酸エチレン塩)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第1化合物、
下式(2)のポリ(リン酸エチレンエステル)部位と、前記ポリ(リン酸エチレンエステル)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第2化合物
または
コア粒子と、前記疎水性部位を介して前記コア粒子の表面層に接合されている前記第1化合物もしくは前記第2化合物とを備えるナノ粒子
を有効成分とするTNF−α産生促進組成物。
【化7】
【化8】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫賦活化組成物関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「細菌の抽出物を有効成分とする免疫賦活化組成物」が提案されている(例えば、特表2012−502026号公報等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2012−502026号公報
【特許文献2】特開2000−069961号公報
【特許文献3】特開2007−054080号公報
【特許文献4】国際公開第2004/075906号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、細菌の抽出物は生体由来であるため、その化学的安定性や安全性が懸念されている。
【0005】
本発明の課題は化学的安定性や安全性に優れた化合物やナノ粒子を有効成分とする免疫賦活化組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る免疫賦活化組成物は、「下式(1)のポリ(リン酸エチレン塩)部位と、前記ポリ(リン酸エチレン塩)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第1化合物」、「下式(2)のポリ(リン酸エチレンエステル)部位と、前記ポリ(リン酸エチレンエステル)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第2化合物」、または、「コア粒子と、前記疎水性部位を介して前記コア粒子の表面層に接合されている前記第1化合物もしくは前記第2化合物とを備えるナノ粒子を有効成分とする。なお、ナノ粒子は、ナノオーダーの寸法を有する粒子である。コア粒子は、生体適合性高分子を主成分として形成されていることが好ましい。なお、ここにいう「組成物」には、医薬品,サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物、医薬品等の動物(ヒトを含む)の細胞に注射等で直接投与し得る物等が含まれる。
【0007】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の第1化合物、第2化合物またはナノ粒子が免疫賦活化組成物の有効成分として利用することができると共に、化学的安定性に優れることが明らかとなった。また、第1化合物、第2化合物またはナノ粒子は有機合成技術を用いて製造することができるため、生体由来成分に対する安全性の懸念は払拭される。したがって、この第1化合物、第2化合物またはナノ粒子は、化学的安定性や安全性に優れる免疫賦活化組成物の有効成分として利用することができる。
【化1】
【化2】
【0008】
本発明の他の局面に係るサイトカイン産生促進組成物は、「上式(1)のポリ(リン酸エチレン塩)部位と、前記ポリ(リン酸エチレン塩)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第1化合物」、「上式(2)のポリ(リン酸エチレンエステル)部位と、前記ポリ(リン酸エチレンエステル)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第2化合物」、または、「コア粒子と、前記疎水性部位を介して前記コア粒子の表面層に接合されている前記第1化合物もしくは前記第2化合物とを備えるナノ粒子」を有効成分とする。なお、ナノ粒子は、ナノオーダーの寸法を有する粒子である。コア粒子は、生体適合性高分子を主成分として形成されていることが好ましい。なお、ここにいう「組成物」には、医薬品,サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物、医薬品等の動物(ヒトを含む)の細胞に注射等で直接投与し得る物等が含まれる。
【0009】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の第1化合物、第2化合物またはナノ粒子がサイトカイン産生促進組成物の有効成分として利用することができると共に、化学的安定性に優れることが明らかとなった。また、第1化合物、第2化合物またはナノ粒子は有機合成技術を用いて製造することができるため、生体由来成分に対する安全性の懸念は払拭される。したがって、この第1化合物、第2化合物またはナノ粒子は、化学的安定性や安全性に優れるサイトカイン産生促進組成物の有効成分として利用することができる。
【0010】
本発明の他の局面に係る腫瘍壊死因子産生促進組成物は、「上式(1)のポリ(リン酸エチレン塩)部位と、前記ポリ(リン酸エチレン塩)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第1化合物」、「上式(2)のポリ(リン酸エチレンエステル)部位と、前記ポリ(リン酸エチレンエステル)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第2化合物」、または、「コア粒子と、前記疎水性部位を介して前記コア粒子の表面層に接合されている前記第1化合物もしくは前記第2化合物とを備えるナノ粒子」を有効成分とする。なお、ナノ粒子は、ナノオーダーの寸法を有する粒子である。コア粒子は、生体適合性高分子を主成分として形成されていることが好ましい。なお、ここにいう「組成物」には、医薬品,サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物、医薬品等の動物(ヒトを含む)の細胞に注射等で直接投与し得る物等が含まれる。
【0011】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の第1化合物、第2化合物またはナノ粒子が腫瘍壊死因子産生促進組成物の有効成分として利用することができると共に、化学的安定性に優れることが明らかとなった。また、第1化合物、第2化合物またはナノ粒子は有機合成技術を用いて製造することができるため、生体由来成分に対する安全性の懸念は払拭される。したがって、この第1化合物、第2化合物またはナノ粒子は、化学的安定性や安全性に優れる腫瘍壊死因子産生促進組成物の有効成分として利用することができる。
【0012】
本発明の他の局面に係るTNF−α産生促進組成物は、「上式(1)のポリ(リン酸エチレン塩)部位と、前記ポリ(リン酸エチレン塩)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第1化合物」、「上式(2)のポリ(リン酸エチレンエステル)部位と、前記ポリ(リン酸エチレンエステル)部位よりも疎水性を示す疎水性部位とを含有する第2化合物」、または、「コア粒子と、前記疎水性部位を介して前記コア粒子の表面層に接合されている前記第1化合物もしくは前記第2化合物とを備えるナノ粒子」を有効成分とする。なお、ナノ粒子は、ナノオーダーの寸法を有する粒子である。コア粒子は、生体適合性高分子を主成分として形成されていることが好ましい。なお、ここにいう「組成物」には、医薬品,サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物、医薬品等の動物(ヒトを含む)の細胞に注射等で直接投与し得る物等が含まれる。
【0013】
本願発明者らの鋭意検討の結果、上述の第1化合物、第2化合物またはナノ粒子がTNF−α産生促進組成物の有効成分として利用することができると共に、化学的安定性に優れることが明らかとなった。また、第1化合物、第2化合物またはナノ粒子は有機合成技術を用いて製造することができるため、生体由来成分に対する安全性の懸念は払拭される。したがって、この第1化合物、第2化合物またはナノ粒子は、化学的安定性や安全性に優れるTNF−α産生促進組成物の有効成分として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子のイメージ図である。
図2】実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像である。
図3】実施例2および比較例1で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子およびPEG表面修飾ナノ粒子の粒径分布図である。
図4】実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子の粒子径および分散度の時間変化を示す図である。
図5】実施例2および比較例1で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子およびPEG表面修飾ナノ粒子の種々の濃度における溶血活性を示す図である。
図6】実施例2および比較例1で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子およびPEG表面修飾ナノ粒子の種々の濃度における細胞生存率を示す図である。
図7】実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞に接触させた際のRAW264.7細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図8】実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子をMC3T3−E1細胞に接触させた際のMC3T3−E1細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図9】リン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))をRAW264.7細胞に接触させた際のRAW264.7細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図10】リン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))をMC3T3−E1細胞に接触させた際のMC3T3−E1細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図11】比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像である。
図12】比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子の粒子径および分散度の時間変化を示す図である。
図13】比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞に接触させた際のRAW264.7細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図14】比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子をMC3T3−E1細胞に接触させた際のMC3T3−E1細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像である。
図15】「実施例1で得られたCH−PEP−Na」、「実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子」、「比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子」および「比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子」をRAW264.7細胞に接触させた際に産生されたTNF−α量を示す図である。
図16図15に示される各例のTNF−α量からコントロールのTNF−α量を減算した際の図である。
図17】実施例1で得られたコレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の平均分子量の測定方法を説明するための図である。
図18】実施例1で得られたコレステロール末端ポリ(リン酸エチレン)のナトリウム塩の平均分子量の測定方法を説明するための図である。
図19】臨界ミセル濃度の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.化合物
本発明の実施の形態に係る化合物は、主に、ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位および疎水性部位から成る。なお、この化合物は、ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位および疎水性部位のみから成っていてもよい。以下、これの部位について詳述した後、この化合物の合成方法について説明する。
【0016】
(1)ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位
ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位は、下式(1)に示されるポリ(リン酸エチレン塩)の構造を有していてもよいし、下式(2)に示されるポリ(リン酸エチレンエステル)の構造を有していてもよい。
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
【0019】
なお、上式(1)中、Mは、一価のカチオンであって、例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオンであることが好ましい。また、同式中、nは2以上200以下の範囲内であることが好ましく、20以上180以下の範囲内であることがより好ましく40以上140以下の範囲内であることがさらに好ましく、60以上120以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0020】
また、上式(2)中、Rは、メチル基やエチル基等の飽和アルキル基であることが好ましい。また、同式中、nは2以上200以下の範囲内であることが好ましく、20以上180以下の範囲内であることがより好ましく40以上140以下の範囲内であることがさらに好ましく、60以上120以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0021】
(2)疎水性部位
疎水性部位は、ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位よりも疎水性を示す部位であって、疎水性官能基であってもよいし、疎水性共重合部位であってもよい。疎水性官能基としては、例えば、アルキル基やコレステロール基等が挙げられるが、これらの例示に限れられない。なお、この疎水性部位は、化合物のいずれの位置に存在していてもよいが、ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位の片末端に存在しているのが好ましい。また、疎水性部位の数は特に制限されないが、1つであることが好ましい。さらに、この化合物を後述する用途に用いる場合、この疎水性部位は、コレステロール構造等の生体適合性に優れる構造を有することが好ましい。
【0022】
(3)合成方法
ポリ(リン酸エチレンエステル)部位を有する化合物は、例えば、水酸基を有する疎水性化合物を開始剤として、塩化メチレン中で2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランを重合反応させることによって得られる。なお、この際、触媒としてのジアザビシクロウンデセンを添加するのが好ましい。
【0023】
また、ポリ(リン酸エチレン塩)部位を有する化合物は、例えば、上記ポリ(リン酸エチレンエステル)部位を有する化合物のエステル基をトリエチルアミン存在下で加水分解させることによって得られるポリ(リン酸エチレン)部位にカチオン交換樹脂に接触させることによって得られる。
【0024】
1.ナノ粒子
本発明の実施の形態に係るナノ粒子100は、数十nm(ナノメートル)から数百nmの直径を有する粒子であって、図1に示されるように、主に、コア粒子110およびポリ(リン酸エチレン誘導体)部位120から成る。なお、このナノ粒子の直径は、1nm以上500nm以下の範囲内であることが好ましく、10nm以上300nm以下の範囲内であることがより好ましく、50nm以上250nm以下の範囲内であることがさらに好ましく、50nm以上200nm以下の範囲内であることが特に好ましい。以下、これらの構成要素について詳述した後、このナノ粒子の調製方法について説明する。
【0025】
(1)コア粒子
コア粒子は、疎水性を示し、球状体であることが好ましい。また、このナノ粒子を後述する用途に用いる場合、コア粒子は、ポリ乳酸等の生体適合性に優れる高分子化合物から構成されていることが好ましい。なお、このコア粒子には、内部に疎水性化合物を内包させることができる。
【0026】
(2)ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位
ポリ(リン酸エチレン誘導体)部位は、上述した化合物の疎水性部位がコア粒子に埋め込まれる(アンカ−リングされる)ことによって形成される。すなわち、本ナノ粒子のポリ(リン酸エチレン誘導体)部位は、上述の化合物のポリ(リン酸エチレン誘導体)部位である。このポリ(リン酸エチレン誘導体)部位は、親水性を示すため、親水性化合物を包接することができる。
【0027】
(3)調製方法
本発明の実施の形態に係るナノ粒子は、上述の化合物の水溶液を調製し、その水溶液を撹拌しながらその水溶液に、コア粒子を形成する高分子の溶液(溶媒は水に不溶なものを用いる)を徐々に滴下した後、その混合液を撹拌しながらその混合液に超音波処理を施すことによって得ることができる。
【0028】
3.用途
本願発明者ら鋭意検討した結果、上述の化合物およびナノ粒子は、免疫賦活化組成物(例えば、サイトカイン産生促進組成物、腫瘍壊死因子産生促進組成物、TNF−α産生促進組成物)の有効成分として利用することができることが判明した。なお、この免疫賦活化組成物は、医薬品,サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の形態を採り得る。以下に示す実施例においてその証明を行う。
【0029】
<実施例および比較例>
以下、実施例および比較例を示して本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【実施例1】
【0030】
−コレステロール末端ポリ(リン酸エチレン)ナトリウム塩の合成−
1.コレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の合成
先ず、50mL容量の三口活栓丸底フラスコに8.28g(60mmol)の2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランを加え、その三口活栓丸底フラスコ内を2時間減圧させて乾燥させた。次に、上述の三口活栓丸底フラスコの内部をアルゴンガス雰囲気にすると共に三口活栓丸底フラスコの底を冷却しながら開始剤としてのコレステロール0.273g(0.706mmol,減圧下で一晩乾燥させた後に6mLの塩化メチレンに溶解させたもの)および触媒としてのジアザビシクロウンデセン105.4μL(0.706mmol)を上述の三口活栓丸底フラスコに加え、そのまま3時間かけて2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランを重合させた。最後に、得られたポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)をトルエン、ジエチルエーテルの順で再沈殿させることによって精製した。その結果、コレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)を得た。なお、このときの化学反応式は以下の通りである。
【化5】
【0031】
2.コレステロール末端ポリ(リン酸エチレン)のナトリウム塩の合成
上述の通りにして得られたポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)2.5gを50mLの純水に溶解し、その水溶液に(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)ユニット1当量に対して2当量のトリエチルアミンを加えて攪拌混合した。そして、24時間後にその水溶液に20gのカチオン交換樹脂(ドイツのMerck社製のAmberlite IR−120)を加えて1時間攪拌した後、その水溶液をろ過してカチオン交換樹脂を取り除いた。次に、透析膜(MWCO1000)を用いてそのろ液を蒸留水で透析し、透析溶液を凍結乾燥して、ポリ(リン酸エチレン)を得た。
【0032】
上述の通りにして得られたポリ(リン酸エチレン)がpH7.0の0.1N水酸化ナトリウム溶液1mL当たり20mgの量含有されるように、同ポリ(リン酸エチレン)を同0.1N水酸化ナトリウム溶液に添加した。次に、そのポリ(リン酸エチレン)水酸化ナトリウム溶液を蒸留水で1日透析して、目的のコレステロール末端ポリ(リン酸エチレン)ナトリウム塩(以下「CH−PEP−Na」と略する。)を得た。なお、このときの化学反応式は以下の通りである。また、このCH−PEP−Naは、使用されるまでの間−30℃の環境下で保存された。
【化6】
【0033】
−物性測定および試験−
1.分子量測定
(1)コレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の分子量測定
重クロロホルムを溶媒として、コレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)のH−NMRスペクトルを測定した。図17には、そのH−NMRスペクトルを示した。次に、このH−NMRスペクトルから「側鎖のメトキシ基由来のピークの積分値(a)」と「末端のコレステロール由来のピークの積分値の平均((c+e+f)/3)」との比を取ってその繰り返し単位数nを求めた(n=a/((c+e+f)/3))。そして、以下の式を用いてコレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の分子量を求めた。
【0034】
(分子量)=(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランの分子量(138.02))×(繰り返し単位数n)+(コレステロールの分子量(386.368))
【0035】
なお、上述の通りに合成されたコレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランの繰り返し単位数は106であり、コレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の分子量は15.0×10であった。また、このコレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の分散度は1.45であった。
【0036】
(2)CH−PEP−Naの分子量測定
重水を溶媒として、CH−PEP−NaのH−NMRスペクトルを測定した。図18には、そのH−NMRスペクトルを示した。次に、「図17H−NMRスペクトル」および「図18H−NMRスペクトル」の主鎖のメチレンユニットの積分値を4.0とし、以下の式を用いて脱メチル化度を計算した。
【0037】
(脱メチル化度(%))=100−(図18の下向き矢印のピーク(残存メチル基由来)の積分値)/(図17のaのピークの積分値)×100
【0038】
得られた脱メチル化度および上述の繰り返し単位数を用いて脱メチル化された繰り返し単位数を計算した。そして、最後に脱メチル化されることで増加する分子量(CH(15)→Na(23))をコレステロール末端ポリ(2−メトキシ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホラン)の分子量に加えてCH−PEP−Naの分子量を得た。なお、このCH−PEP−Naの分子量は15.8×10であった。また、このCH−PEP−Naの分散度は1.45であった。
【0039】
2.臨界ミセル濃度
(1)試薬の調製
(1−1)ピレン/アセトン溶液の調製
先ず、褐色の10mLサンプル管に1.22mg(6×10−3mmol)ピレンをはかり取り、そのピレンを10mLのアセトンに溶解させて6×10−4Mのピレン/アセトン溶液を調製した。そして、このピレン/アセトン溶液を1000倍に希釈して6×10−7Mのピレン/アセトン溶液を調製し、その6×10−7Mのピレン/アセトン溶液を褐色のサンプル管に移した。
【0040】
(1−2)Tris−HCl緩衝液(pH=7.4)の調製
先ず、0.121g(1mmol)のトリスヒドロキシメチルアミノメタンをはかり取り、そのトリスヒドロキシメチルアミノメタンを200mLのビーカーに移して約80mLの純水に溶解させた。次に、そのトリスヒドロキシメチルアミノメタン水溶液のpHをpHメーターで測定しながら、トリスヒドロキシメチルアミノメタン水溶液に1Mの塩酸水溶液を徐々に加えてそのpHを7.4に調整した。最後に、pH調整済みのトリスヒドロキシメチルアミノメタン水溶液を100mLのメスフラスコに移して、純水でメスアップした。
【0041】
(1−3)CH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液の調製
5×10−1g/dLのCH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液を3mL調製した。そして、このCH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液を希釈して1×10−6g/dLから5×10−1g/dLまでの濃度の異なるCH−PEP−Na/Tri
s−HCl緩衝溶液を調製した。
【0042】
(2)試験手順および結果
先ず、6×10−7Mピレン/アセトン溶液をシリンジで褐色バイアル瓶に1mLずつ加えた。次に、このバイアル瓶をデシケーターに入れ、デシケーター内をダイヤフラムポンプで減圧状態にして同溶液中のアセトンを完全に蒸発させた。次いで、CH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液を1mLずつバイアル瓶に加えた後、Vacuum Oven ADP200(ヤマト科学株式会社製)を用いてそのCH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液を60℃で2時間インキュベートした。続いて、バイアル瓶にアルミホイルをかぶせてCH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液を室温で一晩インキュベートした。そして、Fluorescence Spectrophotometer F−2500(株式会社日立製作所製)を用いてCH−PEP−Na/Tris−HCl緩衝溶液の蛍光スペクトルを測定した。その際の使用セルおよび測定条件は以下の通りであった。
【0043】
使用セル:石英セル(4面透過)10×10×45mm
測定条件 励起波長:334nm
蛍光開始:350nm 蛍光終了:500nm
スリット励起:10nm 蛍光:2.5nm
【0044】
上記の測定条件でピレンの蛍光スペクトルを測定した後、373nmおよび393nmの蛍光強度をそれぞれI、Iとし、その比I/Iを濃度(常用対数で表記)に対してプロットする(図19参照)。そして、このプロットを繋ぐ線の変曲点の濃度を臨界ミセル濃度(cmc)とした(ピレンは周辺環境が親水性から疎水性に変化するとIが大きくなる性質を有するため、ポリマー濃度を変化させていくと臨界ミセル濃度以上ではピレンがミセル内部に取り込まれることでIが大きくなり、結果的に比I/Iが大きくなる。)。このCH−PEP−Naの臨界ミセル濃度は4.07×10−2g/dLであった。
【0045】
3.サイトカイン(TNF−α)の定量試験
先ず、1.20×10cell/mLになるように調整したマウス由来RAW264.7細胞懸濁液を1mLずつ24wellプレートに播種し、細胞培養環境下で24時間培養した。次に、終濃度が50μg/mLとなるようにCH−PEP−Naをリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))に分散させた。次いで、この分散液を100μLずつ、RAW264.7細胞懸濁液が入ったwellプレートに添加して、細胞培養環境下でCH−PEP−NaをRAW264.7細胞に接触させた。そして、wellプレート中の培地をエッペンチューブに回収し、Affymetrix eBioscience社製のMouse TNF alpha ELISA Ready−SET−O(登録商標)を用いて培地中のTNF−αを定量した。その結果、115.7pgのTNF−αが検出された。
【実施例2】
【0046】
−PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製−
先ず、CH−PEP−Na濃度が10mg/mLとなるように、実施例1で調製したCH−PEP−Naを超純水に溶かしてCH−PEP−Na水溶液を調製し、そのCH−PEP−Na水溶液40mLを110mLサンプル管に加えた。次に、1mg/mLのポリ乳酸/クロロホルム溶液1mLをバイアル瓶に加えた。なお、ポリ乳酸の数平均分子量(Mn)は1.95×10であり、分散度(Mw/Mn)は1.34であった。次いで、先の110mLサンプル管に撹拌子を入れ、同サンプル管を氷浴しながらマグネティックスターラーで同サンプル管の内容物を450rpmで撹拌した。続いて、パスツールピペットでバイアル瓶から1mg/mLのポリ乳酸/クロロホルム溶液を吸い取り、その吸い取った1mg/mLのポリ乳酸/クロロホルム溶液を一滴ずつ110mLサンプル管に滴下した。さらに続いて、この110mLサンプル管の内容物を450rpmで撹拌しながら同内容物に対して30分間超音波処理を施した。なお、超音波処理は、デューティ比40、出力制御1.5〜2の条件下で実施された。そして、110mLサンプル管の内容物を30分間減圧乾燥処理して同内容物からクロロホルムを完全に留去させた後、その内容物をフィルター(孔径0.8μm)でろ過した。そのろ液を遠沈管に入れて45000rpm、4℃で1.5時間超遠心分離処理した後、遠沈管中の上澄みを捨て、残った粒子に純水を加えて粒子を再分散させた。この遠心処理−再分散の処理を3回繰り返して、目的のPEP−Na表面修飾ナノ粒子を得た。なお、得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子のイメージを図1に示す。図1において、符号100は「PEP−Na表面修飾ナノ粒子」を示し、符号110は「ポリ乳酸コア粒子」を示し、符号120は「ポリ(リン酸エチレン)ナトリウム塩部位」を示している。また、得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像が図2に示されている(なお、この撮像を可能とするために、PEP−Na表面修飾ナノ粒子にはオキサノールVI(染色剤)が含まれている。オキサノールVIは、PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製時においてポリ乳酸/クロロホルム溶液に添加される。)。
【0047】
−物性測定および試験−
1.粒子径測定
(1)透過型電子顕微鏡を利用したPEP−Na表面修飾ナノ粒子の粒子径測定
先ず、0.1μg/mLのPEP−Na表面修飾ナノ粒子の水性分散液を調製した。次に、この水性分散液10μmをブチラール支持膜(STEM Cu150グリッド(ピッチ:150μm),応研商事株式会社製)に滴下して5分間静置した後、そのブチラール支持膜をピンセットで静かに持ち上げ、ブチラール支持膜上の残液をキムワイプに吸収させた。そして、水性分散液滴下からキムワイプ(登録商標)での拭き取りまでの操作を3回繰り返した。その後、ブチラール支持膜をデシケーターに格納して減圧下で一晩乾燥させた。そして、乾燥後のブチラール支持膜を透過型電子顕微鏡(TEM,日本電子株式会社製のSemAfore5.21)で観察した。なお、透過型電子顕微鏡による観察は、HT Voltage:100kVの条件下で行った。そして、その透過型電子顕微像中の各粒子の粒子径(直径)を計測し、それらの粒子径の平均値をとったところ88.2nmであった。
【0048】
(2)動的光散乱法を利用したナノ粒子の粒子径測定
蒸留水または緩衝水溶液を分散媒として用いて0.5mg/mLのPEP−Na表面修飾ナノ粒子の水性分散液を調製した。そして、Zetasizer Nano−ZS(Malvern社製)を用いてその水性分散液中のPEP−Na表面修飾ナノ粒子の粒子径(直径)および分散度(PDI)を測定した。その結果、平均粒子径は98.64nmであり、分散度は0.14であった。参考までに述べておくと、分散度は0から1の範囲内の数値であり、分散度が0である場合は粒子径の分布が全くなく、分散度が0.1以下の値を示す場合は単分散と言え、分散度が0.1から0.3の間の値を示す場合は狭い粒子径分布を有すると言え、分散度が0.5より大きい値を示す場合は多分散であると言える。したがって、PEP−Na表面修飾ナノ粒子の粒子径は単分散であると言える。図3にはこのPEP−Na表面修飾ナノ粒子の粒径分布が実線で示されている。
【0049】
また、PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製後から7日間、1日おきに平均粒子径および分散度を測定した。その結果を図4に示す。図4に示されるように、PEP−Na表面修飾ナノ粒子の平均粒子径および分散度は共にほぼ一定であった。したがって、このPEP−Na表面修飾ナノ粒子は極めて高い安定性を示すことが明らかとなった。
【0050】
2.ζ電位測定
蒸留水または緩衝水溶液を分散媒として用いて0.5mg/mLのPEP−Na表面修飾ナノ粒子の水性分散液を調製した。そして、Zetasizer Nano−ZS(Malvern社製)を用いてその水性分散液中のPEP−Na表面修飾ナノ粒子のζ電位を測定した。その結果、このPEP−Na表面修飾ナノ粒子のζ電位は−59.5mVであった。
【0051】
3.生体適合試験
(1)溶血試験
(1−1)試薬の調製
(i)ハンクス緩衝溶液の調製
先ず、8.00gの塩化ナトリウム、0.40gの塩化カリウム、1.00gのD−グルコース、0.1208gのリン酸水素二ナトリウム12水和物および0.06gのリン酸二水素カリウムを1Lの蒸留水に溶解させた。そして、この水溶液のpHを固体の炭酸水素ナトリウムで調整することによってハンクス緩衝溶液(HBSS)を調製した。
【0052】
(ii)Triton(登録商標)X−100/HBSS溶液の調製
5重量%になるようにTriton(登録商標)X−100をハンクス緩衝溶液で希釈して、Triton(登録商標)X−100/HBSS溶液を調製した。
【0053】
(iii)PEP−Na表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液の調製
終濃度がそれぞれ1.0×10−1mg/mL、1.0×10−2mg/mL、1.0×10−3mg/mLおよび1.0×10−4mg/mLになるようにPEP−Na表面修飾ナノ粒子をハンクス緩衝溶液で希釈して、最終的に濃度が異なる4種類のPEP−Na表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液を用意した。
【0054】
(1−2)試験手順および結果
先ず、予め3mLの3.8重量%クエン酸三ナトリウム水溶液が入ったシリンジでヒトから採血を行って、採血した血液を50mL容量の遠沈管に同管の内壁を伝わせながら加えた。次に、その遠沈管を遠心分離機(ベックマンコールター株式会社製のAllegra(登録商標)21R Centrifuge)にセットして1200rpm、4℃で15分間遠心分離処理を行った後、遠沈管内に生じた上澄みを取り除き、沈殿物をハンクス緩衝溶液で1.5倍に希釈した。次いで、その遠沈管を遠心分離機にセットして2800rpm、4℃で10分間遠心分離処理を行った。そして、上澄みに色の変化がなくなるまで、希釈−遠心分離処理の操作を繰り返し行った後、沈殿物にハンクス緩衝溶液を加えて血球懸濁液の全量を30mLにした。続いて、この血液懸濁液の一部を取り、これをハンクス緩衝溶液で10倍に希釈した。さらに続けて、200μLのPEP−Na表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液が入ったエッペンチューブに、ハンクス緩衝溶液で10倍に希釈した血液懸濁液800mLを加えて混合した。また、コントロールとして200μLのTriton(登録商標)X−100/HBSS溶液および200μLのハンクス緩衝溶液が入ったエッペンチュ−ブに先の血球懸濁液800μLを加えて混合した。そして、これら3種類の試料を37℃で3時間インキュベートした後、2000rpm、室温で10分間遠心分離処理した。処理液の上澄みを96wellプレートに200μLずつ移し、マイクロプレートリーダー(BIO−RAD社製Model680 MICROPLATE READER)で各試料の吸光度(吸光波長(λ)405nm)を測定した。
【0055】
溶血率すなわち溶血活性は、Triton(登録商標)X−100/HBSS溶液入りの血球懸濁液の吸光度を100とし、「Triton(登録商標)X−100/HBSS溶液入りの血球懸濁液」の吸光度に対する「PEP−Na表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液入りの血球懸濁液」および「ハンクス緩衝溶液入りの血球懸濁液」の比率として求めた。その結果を図5に示す。なお、本結果は、図5中、各ナノ粒子濃度の左側の棒に表わされている。図5に示されるようにPEP−Na表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液入りの血球懸濁液の溶血活性は極めて低くなっており、赤血球をほとんど破壊しないことが明らかとなった。
【0056】
(2)細胞毒性試験
(2−1)試薬の調製
(i)リン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))の調製
0.96gのDulbecco’s PBS(フナコシ株式会社製)を110mLの超純水に溶解させた後、その水溶液をオートクレーブで121℃、15分間
滅菌してリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))を得た。
【0057】
(ii)10%FBS/MEM−αの調製
450mLのMEM−α(life technologies社製Minimum Essential Medium α)に5mLのAntibiotic−Antimycotic(life technologies社製)と50mLのFBS(biowest社製biowest Fetal Bovine serum)を無菌的に加えて、10%FBS/MEM−αを得た。
【0058】
(iii)PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液の調製
1.1mg/mL(終濃度1.0×10−1mg/mL)になるようにDulbecco’s Phosphate Buffered Saline 10x(SIGMA−ALDRICH社製)でPEP−Na表面修飾ナノ粒子を希釈した後、その希釈液をフィルター(孔径0.2μm)に通すことで滅菌処理した。そして、終濃度がそれぞれ1.0×10−2mg/mL、1.0×10−3mg/mL、1.0×10−4mg/mL、1.0×10−5mg/mLおよび1.0×10−6mg/mLになるようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))でそのろ液を希釈して、最終的に濃度が異なる6種類のPEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液を用意した。
【0059】
(2−2)試験手順および結果
先ず、10×10cell/mLになるように調製したマウス由来MC3T3−E1細胞懸濁液を100μLずつ96wellプレートに播種し、細胞培養環境下で24時間培養した。次に、PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液をそれぞれ10μLずつ、MC3T3−E1細胞懸濁液が入った96wellプレートに添加して、細胞培養環境下でPEP−Na表面修飾ナノ粒子をMC3T3−E1細胞に24時間接触させた。次いで、PEP−Na表面修飾ナノ粒子と接触させたMC3T3−E1細胞に10μLのWST−8溶液を添加して、細胞培養環境下で4時間反応させた。そして、マイクロプレートリーダー(BIO−RAD社製Model680 MICROPLATE READER)で各試料の吸光度(吸光波長(λ)450nm)を測定した。また、MC3T3−E1細胞懸濁液にリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))を加えてコントロール液を調製し、そのコントロール液の吸光度(吸光波長(λ)450nm)を測定した。
【0060】
コントロール液の吸光度を100とし、「コントロール液の吸光度」に対する「各試料液の吸光度」の比率を求め、それを細胞生存率とした。その結果を図6に示す。なお、本結果は、図6中、各ナノ粒子濃度の左側の棒に表わされている。図6に示されるようにPEP−Na表面修飾ナノ粒子は、いずれの濃度においてもMC3T3−E1細胞に対してほとんど毒性を示さないことが明らかとなった。
【0061】
4.細胞取り込み試験
(1)試薬の調製
(1−1)蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製
1mg/mLのポリ乳酸/クロロホルム溶液1mLに対して50μLのQD溶液を加えた以外は、実施例2の「−PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製−」の欄に記載した調製方法と同一の調製方法で蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子を調製した。
【0062】
(1−2)蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液の調製
1.1mg/mL(終濃度1.0×10−1mg/mL)になるようにDulbecco’s Phosphate Buffered Saline 10x(SIGMA−ALDRICH社製)で蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子を希釈した後、その希釈液をフィルター(孔径0.2μm)に通すことで滅菌処理した。そして、終濃度が1.0×10−2mg/mLになるようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))でそのろ液を希釈して蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液を得た。
【0063】
(2)試験手順および結果
先ず、「20×10cell/mLになるように調整したマウス由来RAW264.7細胞懸濁液」および「2×10cell/mLになるように調製したマウス由来MC3T3−E1細胞懸濁液」をそれぞれ1mLずつプラスチックディッシュに播種し、細胞培養環境下で24時間培養した。次に、蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液をそれぞれ100μLずつ、RAW264.7細胞懸濁液およびMC3T3−E1細胞懸濁液が入ったプラスチックディッシュに添加して、細胞培養環境下で蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞およびMC3T3−E1細胞それぞれに24時間接触させた。次いで、培地を廃棄した後に各細胞が剥がれないように緩やかにピペッティングしながら各細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))で洗浄した。そして、この操作を計3回行った。最後に、新しい血清培地1mLを各細胞に添加して共焦点レーザー顕微鏡で各細胞を観察した。その結果を図7および図8に示す。なお、図7がRAW264.7細胞に対する結果であり、図8がMC3T3−E1細胞に対する結果である。なお、左側の像が共焦点レーザー顕微鏡像であり、中央の像が微分干渉顕微鏡像であり、右側の像が共焦点レーザー顕微鏡像と微分干渉顕微鏡像との合成像である。また、微分干渉顕微鏡像および合成像の白色部分が蛍光発光箇所すなわち蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子の存在箇所である。これらの像より、PEP−Na表面修飾ナノ粒子はRAW264.7細胞およびMC3T3−E1細胞に効率的に取り込まれることが明らかとなった。
【0064】
なお、参考までに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))のみをRAW264.7細胞およびMC3T3−E1細胞に接触させたときのRAW264.7細胞およびMC3T3−E1細胞の共焦点レーザー顕微鏡像、微分干渉顕微鏡像およびそれらの合成像を図9および図10に示した。なお、図9がRAW264.7細胞に対する結果であり、図10がMC3T3−E1細胞に対する結果である。
【0065】
5.サイトカインの定量試験
実施例1の「(3)サイトカイン(TNF−α)の定量試験」の欄に記載した試験方法と同一の試験方法でPEP−Na表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞に接触させると共に、同欄に記載した定量方法と同一の定量方法でTNF−αを定量した。その結果、169.2pgのTNF−αが検出された。
【0066】
(比較例1)
−PEG表面修飾ナノ粒子の調製−
CH−PEP−Naをコレステロール末端ポリエチレングリコール(重量平均分子量(Mw):6.0×10,分散度(Mw/Mn):1.07,臨界ミセル濃度:5.53×10−4g/dL,ポリエチレングリコール部位の繰り返し単位数:約106)に代えた以外は、実施例2の「−PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製−」の欄に記載した調製方法と同一の調製方法でPEG表面修飾ナノ粒子を調製した。得られたPEG表面修飾ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像が図11に示されている(なお、この撮像を可能とするために、PEG表面修飾ナノ粒子にはオキサノールVI(染色剤)が含まれている。オキサノールVIは、PEG表面修飾ナノ粒子の調製時においてポリ乳酸/クロロホルム溶液に添加される。)。
【0067】
−物性測定および試験−
1.粒子径測定
(1)透過型電子顕微鏡を利用したPEG表面修飾ナノ粒子の粒子径測定
実施例1に記載した測定方法と同一の測定方法でPEG表面修飾ナノ粒子の平均粒子径(直径)を測定したところ、その平均粒子径は94.0nmであった。
【0068】
(2)動的光散乱法を利用したナノ粒子の粒子径測定
実施例1に記載した測定方法と同一の測定方法でPEG表面修飾ナノ粒子の平均粒子径(直径)を測定したところ、その平均粒子径は105.9nmであった。また、分散度(PDI)は0.17であった。したがって、PEG表面修飾ナノ粒子の粒子径は単分散であると言える。図3にはこのPEG表面修飾ナノ粒子の粒径分布が破線で示されている。
【0069】
また、PEG表面修飾ナノ粒子の調製後から7日間、1日おきに平均粒子径および分散度を求めた。その結果を図12に示す。図12に示されるように、PEG表面修飾ナノ粒子の平均粒子径は日が経つに伴って減少し、分散度は日が経つに伴って上昇した。したがって、このPEG表面修飾ナノ粒子は安定性に優れるとは言い難いことが明らかとなった。
【0070】
2.ζ電位測定
実施例1に記載した測定方法と同一の測定方法でPEG表面修飾ナノ粒子のζ電位を測定したところ、そのζ電位は−26.9mVであった。
【0071】
3.生体適合試験
(1)溶血試験
PEP−Na表面修飾ナノ粒子をPEG表面修飾ナノ粒子に代えた以外は、実施例2に記載した試験手順と同一の試験手順で試験を行った。その結果を図5に示す。なお、本結果は、図5中、各ナノ粒子濃度の右側の棒に表わされている。図5に示されるようにPEG表面修飾ナノ粒子/HBSS分散液入りの血球懸濁液の溶血活性は極めて低くなっており、赤血球をほとんど破壊しないことが明らかとなった。
【0072】
(2)細胞毒性試験
PEP−Na表面修飾ナノ粒子をPEG表面修飾ナノ粒子に代えた以外は、実施例2に記載した試験手順と同一の試験手順で試験を行った。その結果を図6に示す。なお、本結果は、図6中、各ナノ粒子濃度の右側の棒に表わされている。図6に示されるようにPEG表面修飾ナノ粒子は、いずれの濃度においてもMC3T3−E1細胞に対してほとんど毒性を示さないことが明らかとなった。
【0073】
4.サイトカインの定量試験
実施例1の「(3)サイトカイン(TNF−α)の定量試験」の欄に記載した試験方法と同一の試験方法でPEG表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞に接触させると共に、同欄に記載した定量方法と同一の定量方法でTNF−αを定量した。その結果、96.7pgのTNF−αが検出された。
【0074】
(比較例2)
−PMB表面修飾ナノ粒子の調製−
CH−PEP−Naを、以下の化学式(3)に示されるポリ(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−co−メタクリル酸ブチル)(以下「PMB」と称する)に代えた以外は、実施例2の「−PEP−Na表面修飾ナノ粒子の調製−」の欄に記載した調製方法と同一の調製方法でPMB表面修飾ナノ粒子を調製した。なお、このPMB表面修飾ナノ粒子に貧食されないことが明らかとなっている。
【化7】
【0075】
−物性測定および試験−
1.細胞取り込み試験
(1)試薬の調製
(1−1)蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子の調製
1mg/mLのポリ乳酸/クロロホルム溶液1mLに対して50μLのQD溶液を加えた以外は、上述と同一の調製方法で蛍光粒子含有PMB面修飾ナノ粒子を調製した。
【0076】
(1−2)蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子/PBS分散液の調製
1.1mg/mL(終濃度1.0×10−1mg/mL)になるようにDulbecco’s Phosphate Buffered Saline 10x(SIGMA−ALDRICH社製)で蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子を希釈した後、その希釈液をフィルター(孔径0.2μm)に通すことで滅菌処理した。そして、終濃度が1.0×10−2mg/mLになるようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))でそのろ液を希釈して蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子/PBS分散液を得た。
【0077】
(2)試験手順および結果
蛍光粒子含有PEP−Na表面修飾ナノ粒子/PBS分散液を蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子/PBS分散液に代えた以外は、実際例2の「4.細胞取り込み試験」の「(2)試験手順および結果」の欄に記載される試験手順と同一の手順で試験を行った。その結果を図13および図14に示す。なお、図13がRAW264.7細胞に対する結果であり、図14がMC3T3−E1細胞に対する結果である。なお、左側の像が共焦点レーザー顕微鏡像であり、中央の像が微分干渉顕微鏡像であり、右側の像が共焦点レーザー顕微鏡像と微分干渉顕微鏡像との合成像である。また、微分干渉顕微鏡像および合成像の白色部分が蛍光発光箇所すなわち蛍光粒子含有PMB表面修飾ナノ粒子の存在箇所である。これらの像より、PMB表面修飾ナノ粒子は、僅かな量しかRAW264.7細胞およびMC3T3−E1細胞に取り込まれないことが明らかとなった。
【0078】
2.サイトカインの定量試験
実施例1の「(3)サイトカイン(TNF−α)の定量試験」の欄に記載した試験方法と同一の試験方法でPMB表面修飾ナノ粒子をRAW264.7細胞に接触させると共に、同欄に記載した定量方法と同一の定量方法でTNF−αを定量した。その結果、94.9pgのTNF−αが検出された。
【0079】
<実施例および比較例に対する考察>
実施例2のPEP−Na表面修飾ナノ粒子のζ電位と比較例1のPEG面修飾ナノ粒子のζ電位とを比較すると、PEP−Na表面修飾ナノ粒子はPEG面修飾ナノ粒子よりもマイナス電荷を帯びていることがわかる。このため、PEP−Na表面修飾ナノ粒子にはCH−PEP−Naが有効に表面修飾されていることが裏付けられる。
【0080】
また、図15には、「コントロールとしてのリン酸緩衝生理食塩水(PBS(−))」、「実施例1で得られたCH−PEP−Na」、「実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子」、「比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子」および「比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子」をRAW264.7細胞に接触させた際に産生されたTNF−α量が示されている。この「実施例1で得られたCH−PEP−Na」および「実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子」をRAW264.7細胞に接触させると、「比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子」および「比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子」をRAW264.7細胞に接触させた場合に比べて多量のTNF−αを産生することが明らかとなった。したがって、「実施例1で得られたCH−PEP−Na」および「実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子」には、「比較例1で得られたPEG表面修飾ナノ粒子」および「比較例2で得られたPMB表面修飾ナノ粒子」よりも優れた免疫賦活化機能が認められた。また、「実施例2で得られたPEP−Na表面修飾ナノ粒子」は、「実施例1で得られたCH−PEP−Na」よりも著しくその機能に秀でていることが明らかとなった。すなわち、「実施例1で得られたCH−PEP−Na」をナノ粒子化にすることによって免疫賦活化機能が向上することが確認された。なお、その効果をよりわかりやすくするために、図16では、各試料に対応するTNF−α量からコントロールのTNF−α量を差し引いた値が棒グラフ化されている。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る化合物およびナノ粒子は、免疫賦活化剤(より具体的にはサイトカイン産生促進組成物、腫瘍壊死因子産生促進組成物、TNF−α産生促進組成物)の有効成分として利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
100 PEP−Na表面修飾ナノ粒子(ナノ粒子)
110 ポリ乳酸コア粒子(コア粒子)
120 ポリ(リン酸エチレン)ナトリウム塩部位(化合物)