【解決手段】TiAl合金体の水素化脱水素化方法は、TiAl合金体を、β相への相変態が開始する温度以上で、融点より低い温度である、設定温度の環境下で水素化処理する水素化処理ステップと、前記水素化処理を行ったTiAl合金体を、脱水素化処理する脱水素化処理ステップとを有し、前記脱水素化処理を行ったTiAl合金体を粉砕する、TiAl合金粉末の製造方法。
前記水素化処理ステップは、水素の分圧が大気圧以上となる環境下で水素化処理を行う、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のTiAl合金体の水素化脱水素化方法。
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のTiAl合金体の水素化脱水素化方法で前記脱水素化処理を行ったTiAl合金体を粉砕して、TiAl合金粉末を製造する、TiAl合金粉末の製造方法。
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のTiAl合金体の水素化脱水素化方法で前記水素化処理を行ったTiAl合金体を粉砕し、粉砕したTiAl合金体を脱水素化処理して、TiAl合金粉末を製造するTiAl合金粉末の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ガスアトマイズ法では、粒径が小さい粉末を安定して得ることが難しく、かつ、高コストとなる傾向がある。一方、水素化脱水素化法は、低コストであることに加え、粒径が小さい粉末を安定して得ることができる。しかし、TiAl合金は、金属間化合物を形成しているため、水素化物を形成しにくい。従って、チタンと同様な条件で水素化脱水素化処理を行っても、TiAl合金体の強度を低下させることが困難であり、TiAl合金の粉末を適切に製造することはできない。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、TiAl合金の粉末を適切に製造するTiAl合金体の水素化脱水素化方法及びTiAl合金粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るTiAl合金体の水素化脱水素化方法は、TiAl合金体を、β相への相変態が開始する温度以上である設定温度の環境下で水素化処理する水素化処理ステップと、前記水素化処理を行ったTiAl合金体を、脱水素化処理する脱水素化処理ステップと、を有する。このTiAl合金体の水素化脱水素化方法は、β相への相変態が開始する温度以上とすることで、TiAl合金体内にβ相を生成させて、TiAl合金体内の水素の固溶量を増加させている。この水素化脱水素化方法は、このようにTiAl合金体に水素を固溶させることで、TiAl合金体の強度を適切に低下させて、TiAl合金の粉末を適切に製造することを可能としている。
【0008】
前記TiAl合金体の水素化脱水素化方法において、前記設定温度は、前記TiAl合金体がβ相へ完全に相変態する温度以上であることが好ましい。これにより、この水素化脱水素化方法は、TiAl合金体内の水素固溶量をより増加させて、TiAl合金体の強度をより適切に低下させることができる。従って、この水素化脱水素化方法を用いると、TiAl合金の粉末をより適切に製造することができる。
【0009】
前記TiAl合金体の水素化脱水素化方法において、前記設定温度は、前記TiAl合金体の融点より低い温度であることが好ましい。この水素化脱水素化方法は、TiAl合金体を融点より低い温度とすることで、水素雰囲気下でL相のみの高温状態となることを抑制して、水素化処理をより安全に行うことが可能となる。
【0010】
前記TiAl合金体の水素化脱水素化方法において、設定温度は、1100℃以上1600℃未満であることが好ましい。この水素化脱水素化方法は、設定温度をこの温度範囲内とすることで、TiAl合金体内にβ相を適切に生成させ、かつ、TiAl合金体が溶融しない状態とする。従って、この水素化脱水素化方法は、TiAl合金の粉末をより適切に製造することができる。
【0011】
前記TiAl合金体の水素化脱水素化方法において、前記水素化処理ステップは、水素の分圧が大気圧以上となる環境下で水素化処理を行うことが好ましい。この水素化脱水素化方法は、これにより、TiAl合金体内の水素固溶量を増加させて、TiAl合金体の強度をより適切に低下させることができる。従って、この水素化脱水素化方法を用いると、TiAl合金の粉末をより適切に製造することができる。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るTiAl合金粉末の製造方法は、前記TiAl合金体の水素化脱水素化方法で前記脱水素化処理を行ったTiAl合金体を粉砕して、TiAl合金粉末を製造する。このTiAl合金粉末の製造方法は、水素化脱水素化方法によってTiAl合金体の強度を低下させているため、TiAl合金の粉末をより適切に製造することができる。
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るTiAl合金粉末の製造方法は、前記TiAl合金体の水素化脱水素化方法で前記水素化処理を行ったTiAl合金体を粉砕し、粉砕したTiAl合金体を脱水素化処理して、TiAl合金粉末を製造する。このTiAl合金粉末の製造方法は、水素化処理によってTiAl合金体の強度を低下させているため、TiAl合金の粉末をより適切に製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、TiAl合金の粉末を適切に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0017】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係るTiAl合金粉末製造システムの模式的なブロック図である。本実施形態に係るTiAl合金粉末製造システム1は、TiAl合金体を用いてTiAl合金粉末を製造するシステムである。
図1に示すように、TiAl合金粉末製造システム1は、水素化処理装置10と、脱水素化処理装置12と、粉砕装置14と、を有する。
【0018】
水素化処理装置10は、TiAl合金体A1に水素化処理を施す装置である。TiAl合金体A1は、TiAl合金の塊(インゴット)である。TiAl合金体A1は、TiAl合金(TiAl系金属間化合物)を主成分とする合金体である。本実施形態におけるTiAl合金とは、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)とが結合した合金(TiAl、Ti
3Al、Al
3Ti等)であり、さらに混合物質が固溶していてもよい。ここでの混合物質は、Ti及びAl以外の金属などの物質であり、例えば、Nb(ニオブ)、Cr(クロム)、V(バナジウム)、Mn(マンガン)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Si(シリコン)及びC(カーボン)のうち少なくともいずれか一種を含有するものである。本実施形態において、TiAl合金体A1は、Tiが19.8重量%以上79.992重量%以下であり、Alが19.8重量%以上79.992重量%であり、混合物質が0重量%以上29.997重量%以下である。ただし、TiAl合金体A1は、Alを30重量%以上55重量%以下含むことが好ましい。この範囲でAlを含むことにより、後述するβ相を適切に生成することができる。ただし、TiAl合金体A1の成分比は、これに限られず任意であり、また、不可避的不純物を含んでもよい。
【0019】
図2は、本実施形態に係る水素化処理装置の模式図である。
図2に示すように、水素化処理装置10は、水素化処理室20と、加熱部22と、水素供給部24と、を有する。水素化処理室20は、TiAl合金体A1に水素化処理を行うための容器又は部屋であり、外部から隔離可能となっている。加熱部22は、水素化処理室20内を所定の温度に加熱する装置である。水素供給部24は、水素化処理室20内の気体(空気等)を排出し、水素化処理室20内に水素を供給する装置である。
【0020】
水素化処理装置10を用いて水素化処理を行う場合、TiAl合金体A1を水素化処理室20の内部に収納する。そして、水素供給部24により、水素化処理室20内から空気を排出して、水素化処理室20内に水素を供給する。これにより、水素供給部24は、水素化処理室20内を水素雰囲気下にする。水素供給部24は、水素化処理室20内の水素分圧が大気圧と同じになるように、水素を供給する。なお、水素供給部24は、水素化処理室20内の水素分圧が大気圧以上となるように水素を供給することが好ましく、水素分圧が大気圧より高くなるように水素を供給してもよい。例えば、水素供給部24は、水素分圧を1bar以上10bar以下とすることが好ましい。ただし、水素化処理室20内の水素分圧は任意である。
【0021】
加熱部22は、水素化処理室20内を所定の設定温度まで加熱し、所定の設定時間の間、設定温度のまま維持する。これにより、水素化処理装置10は、TiAl合金体A1を、設定温度の環境下で水素化処理して、TiAl合金体A1に水素が固溶した水素固溶TiAl合金体A2を生成する。この設定温度は、β相変態開始温度T1以上の温度であり、融点温度T2より低い温度である。β相変態開始温度T1とは、TiAl合金体A1において、β相への相変態(β相への相の変化)が開始する温度である。融点温度T2は、TiAl合金体A1の融点であり、β相変態開始温度T1より高い温度である。また、設定温度は、β相変態完了温度T3以上であることが好ましい。β相変態完了温度T3は、TiAl合金体A1がβ相に完全に相変態する温度であり、β相変態開始温度T1より高く融点温度T2より低い。ただし、設定温度は、β相変態開始温度T1以上の温度であればよく、融点温度T2より低い温度でなくてもよい。
【0022】
以下、状態図を用いて、β相変態開始温度T1、β相変態完了温度T3、及び融点温度T2を説明する。
図3Aは、TiAl合金の状態図の一例を示す模式図である。
図3Aは、TiAl合金体A1の状態図の一例であり、横軸がAlの濃度、すなわち含有量(原子%)であり、縦軸がTiAl合金体A1の温度である。
【0023】
図3Aに示すように、TiAl合金体A1は、Alの含有量とTiAl合金体A1の温度とによって、金属相が変化する。
図3Aの領域R1は、TiAl合金体A1が、α相(Ti単体の最密立方晶)を構成する領域である。領域R2は、領域R1に対しAlの含有量を増加させた位置に対応する領域である。TiAl合金体A1は、領域R2では、α相とα
2相(Ti
3Alの最密立方晶)とを構成する。領域R3は、領域R2に対しAlの含有量を増加させた位置に対応する領域である。TiAl合金体A1は、領域R3では、α
2相を構成する。領域R4は、領域R3に対しAlの含有量を増加させた位置に対応する領域である。TiAl合金体A1は、領域R4では、α
2相とγ相(TiAlの面心立方晶)とを構成する。
【0024】
領域R5は、領域R1から領域R4に対しTiAl合金体A1の温度を高くした位置に対応する領域である。TiAl合金体A1は、領域R5では、α相とβ相(Tiの体心立方晶)とを構成する。領域R6は、領域R5に対しTiAl合金体A1の温度を高くした位置に対応する領域である。TiAl合金体A1は、領域R6では、β相を構成する。領域R7は、領域R6に対しTiAl合金体A1の温度を高くした位置に対応する領域である。TiAl合金体A1は、領域R7では、β相とL相(液相)とを構成する。領域R8は、領域R7に対しTiAl合金体A1の温度を高くした位置に対応する領域である。TiAl合金体A1は、領域R8では、L相を構成する。なお、いずれの領域においても、各相には、混合物質が固溶している。
【0025】
ここで、領域R5の温度が低い側の境界線、すなわち、領域R1から領域R4と、領域R5との境界線を、線L1とする。線L1は、それを超える温度になるとβ相への相変態を開始する境界を示しているということができる。すなわち、線L1は、Al濃度毎のβ相変態開始温度T1を示している。また、領域R5の温度が高い側の境界線、すなわち領域R5と領域R6との境界線を、線L2とする。線L2は、それを超える温度になると、TiAl合金体A1からα相が消滅して、β相へ完全に相変態する(β相のみとなる)境界を示しているということができる。すなわち、線L2は、Al濃度毎のβ相変態完了温度T3を示している。
【0026】
また、領域R6の温度が高い側の境界線、すなわち領域R6と領域R7との境界線を、線L3とする。線L3は、それを超える温度になるとL相への相変態を開始する境界を示しているということができる。すなわち、線L3は、Al濃度毎のL相への相変態を開始する温度を示している。なお、水素化処理装置10は、設定温度を、このL相への相変態を開始する温度、すなわちβ相とL相とが共存を開始する温度以上としてもよく、さらにこの温度以上であって融点温度T2より低い温度としてもよい。また、領域R7の温度が高い側の境界線、すなわち領域R7と領域R8との境界線を、線L4とする。線L4は、それを超える温度になると、TiAl合金体A1からβ相が消滅して、L相に完全に相変態する(L相のみとなる)境界を示しているということができる。すなわち、線L4は、Al濃度毎の融点温度T2を示している。
【0027】
線L1、L2、L4に示すように、β相変態開始温度T1、β相変態完了温度T3及び融点温度T2は、Alの含有量によって変化する。また、
図3Aは、TiAl合金の状態図の一例を示すものであり、TiAl合金の状態図は、混合物質の種類や含有比に応じて変化する。
図3Bは、TiAl合金の状態図の一例を示す模式図である。
図3Bは、混合物質としてV(バナジウム)を含むTiAl合金の状態図の一例である。
図3Bは、横軸がVの濃度(原子%)であり、縦軸がTiAl合金体A1の温度である。
図3BのTiAl合金体A1は、Alが42%(原子%)含まれている。
図3Bに示すように、Vが含まれたTiAl合金体A1は、α相とγ相とが含まれる領域R9と、β相とγ相とが含まれる領域R10と、を含む。
図3A及び
図3Bに示すように、TiAl合金は、相変態が起こる温度及びAl含有量(線L1から線L4の形状に相当)が、混合物質の種類や含有比に応じて変化する。すなわち、β相変態開始温度T1、β相変態完了温度T3及び融点温度T2は、Al濃度に加え、混合物質の種類や含有比によっても変化する。ただし、TiAl合金体A1の成分比がいずれの場合であっても、β相変態開始温度T1は、TiAl合金体A1のβ相への相変態が開始する温度であり、β相変態完了温度T3は、TiAl合金体A1のβ相への相変態が終了する(完全にβ相へ相変態する)温度であり、融点温度T2は、TiAl合金体A1の融点である。
【0028】
TiAl合金体A1は、金属間化合物を形成しているため、水素と化学反応しにくく、水素化物を形成し難い。一方、TiAl合金体A1は、β相変態開始温度T1以上になると、β相の形成を開始する。β相は、原子間空隙が広く、水素トラップサイトも多いため、水素を固溶し易い。従って、TiAl合金体A1は、β相に相変態すると、水素の固溶量を増加させることができる。そのため、水素化処理装置10は、設定温度、すなわちβ相変態開始温度T1以上の環境下で、TiAl合金体A1に水素化処理を行っている。水素化処理装置10は、β相変態開始温度T1以上とすることで、TiAl合金体A1にβ相を生成させる。そして、水素化処理装置10は、水素雰囲気下でTiAl合金体A1のβ相に水素を固溶させて、すなわちTiAl合金体A1内部に水素を取り込ませて、水素固溶TiAl合金体A2を生成する。水素固溶TiAl合金体A2は、水素を固溶することで、TiAl合金体A1よりも強度が低下する。水素固溶TiAl合金体A2は、水素以外の成分が、TiAl合金体A1と同じである。
【0029】
水素固溶TiAl合金体A2は、その後、常温まで自然冷却又は強制冷却される。水素固溶TiAl合金体A2は、冷却されることで、β相がα相などに相変態するが、相変態に伴う固溶水素の放出、再配置などにより、脆化(強度低下)の要因となる。
【0030】
なお、設定温度は、1100℃以上1600℃以下であることが好ましい。この温度範囲であれば、TiAl合金体A1内にβ相を適切に生成させ、かつ、TiAl合金体A1が溶融しない。また、設定温度は、1300℃以上1600℃以下であることがより好ましい。この温度範囲であれば、TiAl合金体A1を完全にβ相に相変態させつつ、TiAl合金体A1が溶融しない。また、水素化処理を行う設定時間、すなわちTiAl合金体A1を設定温度下で水素雰囲気内に保持する時間は、任意であるが、0.1時間以上24時間以下であることが好ましい。
【0031】
次に、
図1に示す脱水素化処理装置12について説明する。脱水素化処理装置12は、水素固溶TiAl合金体A2に脱水素化処理を行い、脱水素TiAl合金体A3を生成する。脱水素TiAl合金体A3は、水素固溶TiAl合金体A2から水素が除去されたものであり、TiAl合金体A1と同じ成分の合金体である。ただし、脱水素TiAl合金体A3は、水素化処理を経ているので、強度はTiAl合金体A1より低いままとなっている。
【0032】
図4は、本実施形態に係る脱水素化処理装置の模式図である。
図4に示すように、脱水素化処理装置12は、脱水素化処理室30と、加熱部32と、排気部34と、を有する。脱水素化処理室30は、水素固溶TiAl合金体A2に脱水素化処理を行うための容器又は部屋であり、外部から隔離可能となっている。加熱部32は、脱水素化処理室30を所定の温度に加熱する装置である。排気部34は、脱水素化処理室30内の気体(空気等)を排出して真空とする装置である。
【0033】
脱水素化処理装置12は、水素固溶TiAl合金体A2が収納された脱水素化処理室30を、例えば400℃以上700℃以下の温度環境下の真空状態として、その状態を0.1時間以上24時間以下の間保持する。これにより、脱水素化処理装置12は、水素固溶TiAl合金体A2を脱水素化処理して、水素固溶TiAl合金体A2内部に固溶していた水素を放出させる。これにより、脱水素TiAl合金体A3が生成される。
【0034】
このように、水素化処理装置10は、TiAl合金体A1に水素化処理を行って水素固溶TiAl合金体A2を生成し、脱水素化処理装置12は、水素固溶TiAl合金体A2に脱水素化処理を行って脱水素TiAl合金体A3を生成する。すなわち、水素化処理装置10及び脱水素化処理装置12は、TiAl合金体A1に水素化脱水素化処理を行う。
【0035】
図1に示す粉砕装置14は、例えばミルなどであるが、水素固溶TiAl合金体A2または脱水素TiAl合金体A3を粉砕可能であれば、任意の粉砕装置であってよい。粉砕装置14は、脱水素TiAl合金体A3を固体のまま粉砕して、TiAl合金粉末A4を製造する。脱水素TiAl合金体A3は、水素化処理によって強度が低下している。従って、粉砕装置14は、脱水素TiAl合金体A3を容易に粉砕することが可能となり、粒径が小さい粉末を容易に得ることができる。なお、粉砕装置14は、脱水素化処理前の水素固溶TiAl合金体A2を固体のまま粉砕して、TiAl合金粉末A4’を製造してもよい。水素固溶TiAl合金体A2は、水素化処理が行われているが、脱水素化処理は行われていないTiAl合金体である。TiAl合金粉末A4’は、脱水素化処理が行われていないTiAl合金体の粉末である。水素固溶TiAl合金体A2も、水素化処理によって強度が低下しているため、粉砕装置14は、水素固溶TiAl合金体A2を容易に粉砕可能である。この場合、TiAl合金粉末製造システム1は、TiAl合金粉末A4’を脱水素化処理装置12によって脱水素化処理して、TiAl合金粉末A4を製造する。なお、TiAl合金粉末A4は、成分がTiAl合金体A1と同じである。また、TiAl合金粉末A4は、粉砕により製造されるので、粒子それぞれが凹凸状となっている。
【0036】
次に、TiAl合金粉末A4の製造方法をフローチャートに基づき説明する。
図5は、TiAl合金粉末の製造方法を説明するフローチャートである。
図5に示すように、TiAl合金粉末製造システム1は、水素化処理装置10により、TiAl合金体A1を設定温度で水素化処理して(ステップS10;水素化処理ステップ)、水素固溶TiAl合金体A2を生成する。設定温度は、β相変態開始温度T1以上である。従って、水素化処理装置10は、TiAl合金体A1への水素固溶量を増加させて、水素が固溶した水素固溶TiAl合金体A2を適切に生成できる。
【0037】
水素化処理を行った後、TiAl合金粉末製造システム1は、脱水素化処理装置12により、水素化処理されたTiAl合金体、すなわち水素固溶TiAl合金体A2を、脱水素化処理して(ステップS12;脱水素化処理ステップ)、脱水素TiAl合金体A3を生成する。具体的には、脱水素化処理装置12は、冷却された水素固溶TiAl合金体A2を所定温度の真空環境下において、水素固溶TiAl合金体A2内部に固溶していた水素を放出させて、脱水素TiAl合金体A3を生成する。
【0038】
脱水素化処理を行った後、TiAl合金粉末製造システム1は、粉砕装置14により脱水素化処理を行った後のTiAl合金体、すなわち脱水素TiAl合金体A3を粉砕して、TiAl合金粉末A4を生成する(ステップS14)。これにより、TiAl合金粉末A4の製造フローは終了する。
【0039】
なお、TiAl合金粉末製造システム1は、水素化処理を行った後のTiAl合金体を、脱水素化処理の前に粉砕し、粉砕したTiAl合金体を脱水素化処理してもよい。この場合、TiAl合金粉末製造システム1は、ステップS10で水素固溶TiAl合金体A2を生成した後、粉砕装置14により、水素固溶TiAl合金体A2を粉砕して、TiAl合金粉末A4’を生成する。その後、TiAl合金粉末製造システム1は、脱水素化処理装置12により、TiAl合金粉末A4’を脱水素化処理して、TiAl合金粉末A4を生成する。TiAl合金体は、水素化処理により強度が低下する。従って、以上説明したように、粉砕処理を行うのは、水素化処理を行った後であればよく、脱水素化処理の前でも後でもよい。
【0040】
以上説明したように、本実施形態に係るTiAl合金体の水素化脱水素化方法は、水素化処理ステップと、脱水素化処理ステップとを有する。水素化処理ステップは、TiAl合金体A1を、設定温度の環境下で水素化処理する。設定温度は、TiAl合金体A1のβ相への相変態が開始する温度(β相変態開始温度T1)以上である。脱水素化処理ステップは、水素化処理を行ったTiAl合金体A1(水素固溶TiAl合金体A2)を、脱水素化処理する。
【0041】
この水素化脱水素化方法は、TiAl合金体A1をβ相変態開始温度T1以上に加熱することで、TiAl合金体A1内にβ相を生成させて、TiAl合金体A1内への水素固溶量を増加させている。この水素化脱水素化方法は、このようにTiAl合金体A1に水素を固溶させることで、TiAl合金体A1の強度を適切に低下させる。そして、この水素化脱水素化方法は、脱水素化処理ステップを実行することにより、強度が低い状態に維持したまま、TiAl合金体A1に固溶した水素を除去することができる。この水素化脱水素化方法を用いると、TiAl合金体A1の強度を適切に低下させることができるため、粒径が小さいTiAl合金粉末A4を容易に製造することができる。また、水素化処理と脱水素化処理は、例えばガスアトマイズ法に比べて低コストで実行することができる。従って、この水素化脱水素化方法を用いると、TiAl合金の粉末を適切に製造することができる。
【0042】
また、設定温度は、TiAl合金体A1がβ相へ完全に相変態する温度(β相変態完了温度T3)以上であることが好ましい。この水素化脱水素化方法は、TiAl合金体A1をβ相変態完了温度T3以上に加熱することで、TiAl合金体A1の全ての相をβ相とすることができる。これにより、水素化脱水素化方法は、TiAl合金体A1内の水素固溶量を増加させて、TiAl合金体A1の強度をより適切に低下させることができる。従って、この水素化脱水素化方法を用いると、TiAl合金の粉末をより適切に製造することができる。
【0043】
また、設定温度は、TiAl合金体A1の融点(融点温度T2)より低い温度であることが好ましい。この水素化脱水素化方法は、TiAl合金体A1をβ相変態開始温度T1以上であって融点温度T2より低い温度とすることで、水素雰囲気下でL相のみの高温状態となることを抑制して、水素化処理をより安全に行うことが可能となる。
【0044】
また、設定温度は、1100℃以上1600℃以下であることが好ましい。この水素化脱水素化方法は、設定温度をこの温度範囲内とすることで、TiAl合金体A1内にβ相を適切に生成させ、かつ、TiAl合金体A1が溶融しない状態とする。従って、この水素化脱水素化方法は、TiAl合金の粉末をより適切に製造することができる。
【0045】
また、水素化処理ステップは、水素の分圧が大気圧以上となる環境下で水素化処理を行うことが好ましい。これにより、水素化脱水素化方法は、TiAl合金体A1内の水素固溶量を増加させて、TiAl合金体A1の強度をより適切に低下させることができる。従って、この水素化脱水素化方法を用いると、TiAl合金の粉末をより適切に製造することができる。
【0046】
また、本実施形態に係るTiAl合金粉末の製造方法は、上記の水素化脱水素化方法で脱水素化処理を行ったTiAl合金体(脱水素TiAl合金体A3)を粉砕して、TiAl合金粉末A4を製造する。このTiAl合金粉末の製造方法は、水素化脱水素化方法によってTiAl合金体A1の強度を低下させているため、粒径が小さいTiAl合金粉末A4を容易に製造することができ、かつ低コストでの製造が可能となる。従って、この製造方法を用いると、TiAl合金の粉末をより適切に製造することができる。
【0047】
また、本実施形態に係るTiAl合金粉末の製造方法は、上記の水素化脱水素化方法で水素化処理を行ったTiAl合金体(水素固溶TiAl合金体A2)を粉砕し、粉砕したTiAl合金体(TiAl合金粉末A4’)を脱水素化処理して、TiAl合金粉末A4を製造してもよい。このTiAl合金粉末の製造方法は、水素化脱水素化方法によってTiAl合金体A1の強度を低下させているため、粒径が小さいTiAl合金粉末A4を容易に製造することができ、かつ低コストでの製造が可能となる。従って、この製造方法を用いると、TiAl合金の粉末をより適切に製造することができる。
【0048】
(実施例)
次に、本実施形態の実施例について説明する。本実施例では、Nbを混合物質として含有するTiAl合金体を、設定温度を1400℃、すなわちβ相変態開始温度T1以上として、5時間の水素化処理を行った。そして、水素化処理した後のTiAl合金体を、800℃で3時間の脱水素化処理を行った。その後、脱水素化処理した後のTiAl合金体の圧縮破断強度を測定した。また、水素化処理前、水素化処理後、脱水素化処理後のそれぞれにおけるTiAl合金体の水素含有量を、不活性ガス溶融法を用いて測定した。
【0049】
また、比較例1として、同成分のTiAl合金体について、水素化処理を行わないまま、圧縮破断強度を測定した。そして、比較例2として、同成分のTiAl合金体について、700℃、すなわちβ相変態開始温度T1より低い温度で、5時間の水素化処理を行い、その後800℃で3時間の脱水素化処理を行った。比較例2では、その脱水素化処理後のTiAl合金体の圧縮破断強度を測定した。
【0050】
実施例において、水素化処理前のTiAl合金体は、含有水素量が8ppmであり、水素化処理後のTiAl合金体は、含有水素量が110ppmであり、脱水素化処理後のTiAl合金体は、含有水素量が8ppmであった。すなわち、本実施例のように水素化処理を行うと、水素が十分にTiAl合金体内に固溶し、脱水素化処理により、水素が十分に除去されることが分かる。
【0051】
図6は、実施例と比較例との圧縮破断強度の結果を示す表である。
図6に示すように、実施例で脱水素化処理を行った後のTiAl合金体は、2つのサンプルの圧縮破断強度が、それぞれ890MPa、967MPaであった。一方、比較例1で水素化処理を行わないTiAl合金体は、2つのサンプルの圧縮破断強度が、それぞれ1710MPa、1672MPaであった。また、比較例2で脱水素化処理を行った後のTiAl合金体は、2つのサンプルの圧縮破断強度が、それぞれ1488MPa、1506MPaであった。このように、β相変態開始温度T1以上で水素化処理を行うと、その後脱水素化処理を行った場合でも、圧縮破断強度が低下することが分かる。本実施例によると、このように圧縮強度が低下するため、TiAl合金粉末A4の破砕性が向上し、粒径が小さいTiAl合金粉末A4を容易に製造することが可能となることが分かる。
【0052】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
前記水素化処理ステップは、水素の分圧が大気圧以上となる環境下で水素化処理を行う、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のTiAl合金体の水素化脱水素化方法。
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のTiAl合金体の水素化脱水素化方法で前記脱水素化処理を行ったTiAl合金体を粉砕して、TiAl合金粉末を製造する、TiAl合金粉末の製造方法。
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のTiAl合金体の水素化脱水素化方法で前記水素化処理を行ったTiAl合金体を粉砕し、粉砕したTiAl合金体を脱水素化処理して、TiAl合金粉末を製造するTiAl合金粉末の製造方法。