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  • 特開2018000091-凍結乾燥食品及びその製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-91(P2018-91A)
(43)【公開日】2018年1月11日
(54)【発明の名称】凍結乾燥食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/037 20060101AFI20171208BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20171208BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20171208BHJP
【FI】
   A23B4/04 501C
   A23L17/00 Z
   A23L13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-130686(P2016-130686)
(22)【出願日】2016年6月30日
(71)【出願人】
【識別番号】390000664
【氏名又は名称】日本ジフィー食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】保日部 真吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 欣則
(72)【発明者】
【氏名】金子 忠司
(72)【発明者】
【氏名】加賀見 映成
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AC10
4B042AD39
4B042AK06
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK14
4B042AK15
4B042AK20
(57)【要約】
【課題】良好な復元性を有しつつ、食感が向上した、魚介及び/又は畜肉を含有する凍結乾燥食品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、魚介及び/又は畜肉を含む凍結乾燥食品であって、前記凍結乾燥食品は、油脂を25〜55質量%、多孔質食品素材を15質量%以上、タンパク質系ゲル化剤3.5質量%以上含む凍結乾燥食品に関する。本発明の凍結乾燥食品は、油脂を水中に分散させた油脂のエマルジョンに多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤を浸漬して多孔質食品素材を膨潤させる後、魚介及び/又は畜肉と混合し、得られた油脂を10〜40質量%と、多孔質食品素材を10質量%以上と、タンパク質系ゲル化剤を2質量%以上含む食品組成物を調理し、凍結乾燥することで作製することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介及び/又は畜肉を含む食品を凍結乾燥した凍結乾燥食品であって、
前記凍結乾燥食品は、油脂を25〜55質量%、多孔質食品素材を15質量%以上、タンパク質系ゲル化剤3.5質量%以上含むことを特徴とする凍結乾燥食品。
【請求項2】
前記多孔質食品素材は、膨化デンプン及び/又は植物性タンパクである請求項1に記載の凍結乾燥食品。
【請求項3】
前記タンパク質系ゲル化剤は、ゼラチン、乳タンパク及び乾燥卵白からなる群から選ばれる一種以上である請求項1又は2に記載の凍結乾燥食品。
【請求項4】
魚介及び/又は畜肉を含む食品を凍結乾燥した凍結乾燥食品の製造方法であって、
油脂を水中に分散させて油脂のエマルジョンを得る工程と、
前記油脂のエマルジョンに多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤を浸漬して多孔質食品素材を膨潤させる工程と、
前記油脂のエマルジョンで膨潤した多孔質食品素材を魚介及び/又は畜肉と混合し、油脂を10〜40質量%と、多孔質食品素材を10質量%以上と、タンパク質系ゲル化剤を2質量%以上含む食品組成物を作製する工程と、
前記食品組成物を調理し、凍結乾燥して凍結乾燥食品を得る工程を含むことを特徴とする凍結乾燥食品の製造方法。
【請求項5】
前記油脂のエマルジョンは、さらに乳化剤及び/又は増粘剤を含む請求項4に記載の凍結乾燥食品の製造方法。
【請求項6】
前記油脂のエマルジョンを調味料と混合した後に、そこへ多孔質食品素材を浸漬する請求項4又は5に記載の凍結乾燥食品の製造方法。
【請求項7】
前記油脂のエマルジョンにおいて、乳化油脂の平均粒子径は50μm以下である請求項4〜6のいずれか1項に記載の凍結乾燥食品の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質食品素材の浸漬時間は5分以上である請求項4〜7のいずれか1項に記載の凍結乾燥食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介及び/又は畜肉を含む食品を凍結乾燥した凍結乾燥食品及びその製造方法に関し、詳細には、熱湯で復元する即席麺などの即席食品などに用いる凍結乾燥食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
即席麺、即席スープなどの即席食品の具材として、魚介や畜肉の凍結乾燥品がよく用いられている。即席食品として用いられる凍結乾燥食品は、通常、お湯による復元性(湯戻り)が良好であることが求められている。例えば、特許文献1には、肉等をソルビトール液などの糖液で処理した後真空凍結乾燥して即席食品を製造することで、得られた即席食品の復元性を高めることが提案されている。また、特許文献2には、加熱凝固性β―1,3−グルカン、トレハロースやソルビトールなどの糖類及びでん粉処理物を含む魚畜肉製品を凍結乾燥して乾燥魚畜肉製品を製造することで、得られた乾燥魚畜肉製品の復元性を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭51−101145号公報
【特許文献2】特開平6−319488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、畜肉などを用いた凍結乾燥食品の場合、硬さや弾力性等の食感を高めるために油脂を添加することが行われている。しかし、油脂を添加すると、復元性が悪くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、良好な復元性を有しつつ、硬さや弾力性等の食感が向上した、魚介及び/又は畜肉を含有する凍結乾燥食品及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、魚介及び/又は畜肉を含む凍結乾燥食品であって、前記凍結乾燥食品は、油脂を25〜55質量%、多孔質食品素材を15質量%以上、タンパク質系ゲル化剤3.5質量%以上含むことを特徴とする凍結乾燥食品に関する。
【0007】
前記多孔質食品素材は、膨化デンプン及び/又は植物性タンパクであることが好ましい。前記タンパク質系ゲル化剤は、ゼラチン、乳タンパク及び乾燥卵白からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましい。
【0008】
本発明は、また、魚介及び/又は畜肉を含む凍結乾燥食品の製造方法であって、油脂を水中に分散させて油脂のエマルジョンを得る工程と、前記油脂のエマルジョンに多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤を浸漬して多孔質食品素材を膨潤させる工程と、前記油脂のエマルジョンで膨潤した多孔質食品素材を魚介及び/又は畜肉と混合し、油脂を10〜40質量%と、多孔質食品素材を10質量%以上と、タンパク質系ゲル化剤を2質量%以上含む食品組成物を作製する工程と、前記食品組成物を調理し、凍結乾燥して凍結乾燥食品を得る工程を含むことを特徴とする凍結乾燥食品の製造方法に関する。
【0009】
前記油脂のエマルジョンは、さらに乳化剤及び/又は増粘剤を含むことが好ましい。前記油脂のエマルジョンを調味料と混合した後に、そこへ多孔質食品素材を浸漬することが好ましい。前記油脂のエマルジョンにおいて、乳化油脂の平均粒子径は50μm以下であることが好ましい。前記多孔質食品素材の浸漬時間は5分以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、魚介及び/又は畜肉と、油脂を含む凍結乾燥食品に、所定量の油脂、多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤を含ませることで、良好な復元性を有しつつ、硬さや弾力性等の食感が向上した、魚介及び/又は畜肉を含有する凍結乾燥食品を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、油脂をエマルジョン化し、油脂のエマルジョンに多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤を浸漬して多孔質食品素材を膨潤させた後、魚介及び/又は畜肉と混合した食品組成物を用いることで、良好な復元性を有しつつ、硬さや弾力性等の食感が向上した、魚介及び/又は畜肉を含有する凍結乾燥食品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、凍結乾燥食品の復元性の測定方法を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、魚介及び/又は畜肉を含む凍結乾燥食品に油脂を含ませた場合、復元性を良好に保ちつつ、硬さや弾力性等の食感を向上させることを鋭意検討した。その結果、魚介及び/又は畜肉を含む凍結乾燥食品に油脂とともに、所定量の多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤を含ませることで、良好な復元性を有しつつ、硬さや弾力性等の食感が向上した、魚介及び/又は畜肉を含有する凍結乾燥食品が得られることを見出し、本発明に至った。また、本発明は、油脂のエマルジョンに多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤を浸漬して多孔質食品素材を膨潤させた後、魚介及び/又は畜肉と混合した食品組成物を用いることで、魚介及び/又は畜肉を含む凍結乾燥食品に所定量の油脂、多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤を含ませて復元性及び食感を両立し得ることを見出した。また、油脂をエマルジョン化することで、多孔質材料の空隙内に油脂を高度に進入させて付着させることで、製造工程中に油脂の漏出を抑えながら油脂の低比重により浮遊性を高めることができた。さらに、凍結乾燥させたエマルジョンは液滴の界面外側に親水基が出ており、水の浸透性が高く、復元性を阻害しにくい。
【0013】
前記凍結乾燥食品は、魚介及び/又は畜肉を含む食品(以下において、単に「魚介畜肉食品」とも記す。)を凍結乾燥したものである(以下において、単に「魚介畜肉凍結乾燥食品」とも記す。)
【0014】
魚介としては、特に限定されないが、例えば、魚類、貝類、甲殻類、軟体動物などが挙げられる。魚類としては、特に限定されず、例えば、タラ、マグロ、さんま、あじ、いわし、かつお、さけ、ハモ、鯛、ヒラメ、かれい、ホキ、シログチ、イトヨリ、さめ、えいなどが挙げられる。貝類としては、特に限定されず、例えば、ほたて、あわび、ハマグリ、アサリなどが挙げられる。甲殻類としては、特に限定されず、例えば、エビ、カニ、ロブスターなどが挙げられる。軟体動物としては、特に限定されず、例えば、いか、たこなどが挙げられる。
【0015】
畜肉としては、特に限定されず、例えば、鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉などが挙げられる。
【0016】
上述した魚介や畜肉は、一種で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
前記魚介畜肉食品としては、特に限定されないが、例えば、魚介練り製品や畜肉加工品などが挙げられる。魚介練り製品としては、魚のすり身を主原料とするものであればよく、特に限定さされない。例えば、ちくわ、かまぼこ、魚介ソーセージ、はんぺん、つみれ、鳴門巻、さつま揚げなどが挙げられる。畜肉加工品としては、畜肉を加工した食品であればよく、特に限定されない。例えば、ハム、ソーセージ、ベーコン、焼豚などが挙げられる。
【0018】
前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、特に限定されないが、食感及び保型性の観点から、魚介及び/又は畜肉を5質量%以上含むことが好ましく、6質量%以上含むことがより好ましく、7質量%以上含むことがさらに好ましい。また、前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、特に限定されないが、復元性の観点から、魚介及び/又は畜肉を30質量%以下含むことが好ましい。
【0019】
前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、油脂を25〜55質量%含む。油脂の含有量が25質量%未満であると、硬さや弾力性等の食感が悪く、油脂の含有量が55質量%を超えると、復元性が悪い。食感及び復元性を良好にする観点から、前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、油脂を25〜50質量%含むことが好ましく、より好ましくは25〜45質量%含む。また、油脂の含有量が低すぎると、ジューシーさも満足するものが得られにくく、油脂の含有量が高すぎると、ドリップ保持性が低下する。
【0020】
前記油脂としては、特に限定されず、例えば、動物性の油脂や植物性の油脂などを用いることができる。動物性の油脂としては、特に限定されず、例えば、牛脂、ラード、鶏脂等が挙げられる。植物性の油脂としては、特に限定されず、例えば、サラダ油、パーム油、米油等が挙げられる。酸化安定性及び風味の観点からラード、パーム油等が好ましい。前記油脂は、一種単独で用いても良く、二種以上を組合わせて用いても良い。
【0021】
前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、多孔質食品素材を15質量%以上含む。多孔質食品素材の含有量が15質量%未満であると、硬さや弾力性等の食感が悪くなる。食感を良好にする観点から、前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、多孔質食品素材を25質量%以上含むことが好ましい。一方、浮遊性を高める観点から、前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、多孔質食品素材を50質量%以下含むことが好ましく、48質量%以下含むことがより好ましい。
【0022】
前記多孔質食品素材とは、表面及び内部に空隙を有する粒子状のものであればよい。例えば、膨化デンプン、植物性タンパクなどを用いることができる。膨化デンプンとしては、特に限定されないが、例えば、エクストルーダーや加熱加圧乾燥機によって膨化乾燥されたデンプンを用いることができる。植物性タンパクとしては、特に限定されず、例えば、大豆タンパク、小麦タンパク等を用いることができる。前記多孔質食品素材は、一種単独で用いても良く、二種以上を組合わせて用いても良い。
【0023】
前記多孔質食品素材は、特に限定されないが、油脂を含浸しやすい観点から、平均孔径は20〜200μmであることが好ましく、より好ましくは30〜100μmである。多孔質食品素材の平均孔径は、顕微鏡観察とその画像解析に基づいて測定する。また、前記多孔質食品素材は、特に限定されないが、比容積が0.1〜0.8g/mLであることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.6g/mLである。多孔質食品素材の比容積は、200mLの枡に被検物を満杯に入れ、その重量(g)を測定し、200で割り返すことに基づいて測定する。
【0024】
前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、タンパク質系ゲル化剤を3.5質量%以上含む。タンパク質系ゲル化剤の含有量が3.5質量%未満であると、硬さや弾力性等の食感が悪くなる。食感を良好にする観点から、前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、タンパク質系ゲル化剤を3.6質量%以上含むことが好ましく、3.7質量%以上含むことがより好ましい。一方、保型性を高める観点から、前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、タンパク質系ゲル化剤を10.5質量%以下含むことが好ましく、10質量%以下含むことがより好ましい。
【0025】
前記タンパク質系ゲル化剤としては、特に限定されないが、例えば、ゼラチン、乳タンパク、乾燥卵白などが挙げられる。食感を向上する観点から乾燥卵白が好ましい。前記タンパク質系ゲル化剤は、一種単独で用いても良く、二種以上を組合わせて用いても良い。
【0026】
前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、特に限定されないが、保型性を高める観点から、増粘剤を含むことが好ましい。前記魚介畜肉凍結乾燥食品において、増粘剤の含有量は0.06質量%以上であることが好ましく、0.08質量%以上であることがより好ましい。
【0027】
前記増粘剤としては、特に限定されず、例えば、λカラギーナン、タマリンドガム、アラビアガム、キサンタンガム、グアガム、ペクチン、ローカストビーンガム、ネイティブジェランガム、アルギン酸等を用いることができる。前記増粘剤は、一種単独で用いても良く、二種以上を組合わせて用いてもよい。
【0028】
前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、さらに、乳化剤を含んでもよい。油脂を乳化しやすくなる。前記乳化剤としては、特に限定されず、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等を用いることができる。これらの乳化剤は、一種単独で用いても良く、二種以上を組合わせて用いても良い。前記乳化剤のHLB(親水性親油性バランスとも称される。)も特に限定されず、3〜18であってもよく、5〜16であってもよい。
【0029】
前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、さらに、調味料や添加剤を含んでもよい。調味料としては、特に限定されないが、例えば、醤油、食塩、畜肉エキス、こしょう等が挙げられる。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、ビタミンE等の酸化防止剤やカラメル等の着色剤等が挙げられる。
【0030】
前記魚介畜肉凍結乾燥食品は、特に限定されないが、油脂のエマルジョンに多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤を浸漬して多孔質食品素材を膨潤させた後、魚介及び/又は畜肉と混合した食品組成物を調理し、凍結乾燥することで作製することができる。
【0031】
(油脂のエマルジョンの作製)
前記油脂を水中に分散させてエマルジョンを作製する。具体的には、60〜95℃に加熱した水中に、融点以上で溶解した液状の油脂を添加し、ミキサーで混合して乳化させてエマルジョンを作製することが好ましい。油脂を乳化させやすい観点から、水中に乳化剤を添加した後70〜90℃に加熱することがより好ましい。また、保型性を高める観点から、水中に増粘剤を添加した後40〜90℃に加熱することがより好ましい。油脂の乳化しやすさ及び保型性の観点から、水中に乳化剤及び増粘剤を添加し、70〜90℃に加熱することがさらに好ましい。
【0032】
前記油脂のエマルジョンにおいて、乳化油脂の平均粒子径は多孔質食品素材の平均孔径より小さいことが好ましい。より好ましくは、乳化油脂の平均粒子径は50μm以下であり、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下である。本発明において、乳化油脂の平均粒子径は、顕微鏡観察とその画像解析に基づいて測定する。
【0033】
(多孔質食品素材への油脂のエマルジョンの含浸)
次に、前記油脂のエマルジョンに多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤を浸漬して多孔質食品素材を膨潤させることで、多孔質食品素材へ油脂のエマルジョンを含浸させる。多孔質食品素材の空隙への油脂のエマルジョンの含浸性を高め、油脂が含浸した多孔質食品素材の弾力性を良好にする観点から、多孔質食品素材の浸漬時間は5分以上であることが好ましい。多孔質食品素材の浸漬時間は5分以上であると、ドリップ保持性も良好になる。前記浸漬は、特に限定されないが、タンパク質系ゲル化剤が浸漬工程中に凝固してしまわないようにする観点から、20〜50℃で行うことが好ましく、より好ましくは30〜40℃で行う。
【0034】
風味を高める観点から、前記油脂のエマルジョンに調味料や酸化防止剤を添加して混合した後に、多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤を浸漬することが好ましい。また、多孔質食品素材及びタンパク質系ゲル化剤は着色剤等と混合された後に、油脂のエマルジョンに浸漬されてもよい。
【0035】
次に、前記油脂のエマルジョンで膨潤した多孔質食品素材を魚介及び/又は畜肉と混合して食品組成物を作製する。前記食品組成物は、油脂を10〜40質量%と、多孔質食品素材を10質量%以上と、タンパク質系ゲル化剤を2質量%以上含む。該食品組成物を調理し、凍結乾燥することで、油脂を25〜55質量%含み、多孔質食品素材を15質量%以上、タンパク質系ゲル化剤3.5質量%以上含む凍結乾燥食品を得る。
【0036】
前記食品組成物は、食感及び復元性を良好にする観点から、油脂を10〜35質量%含むことが好ましく、より好ましくは10〜30質量%含む。また、油脂の含有量が低すぎると、ジューシーさも満足するものが得られにくく、油脂の含有量が高すぎると、ドリップ保持性が低下する。
【0037】
前記食品組成物は、硬さや弾力性等の食感を良好にする観点から、多孔質食品素材を15質量%以上含むことが好ましい。一方、浮遊性を高める観点から、多孔質食品素材を35質量%以下含むことが好ましく、30質量%以下含むことがより好ましい。
【0038】
前記食品組成物は、食感を良好にする観点から、タンパク質系ゲル化剤を2.5質量%以上含むことが好ましい。一方、保型性を高める観点から、タンパク質系ゲル化剤を5.5質量%以下含むことが好ましく、5.0質量%以下含むことがより好ましい。
【0039】
前記食品組成物は、特に限定されないが、保型性を高める観点から、増粘剤を含むことが好ましい。保型性を高める観点から、増粘剤の含有量は0.03質量%以上であることが好ましく、0.04質量%以上であることがより好ましい。
【0040】
前記食品組成物は、さらに、乳化剤を含んでもよい。浮遊性を高める観点から、乳化剤の含有量は1.8質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
前記食品組成物は、特に限定されないが、食感及び保型性の観点から、魚介及び/又は畜肉を10質量%以上含むことが好ましく、15質量%以上含むことがより好ましい。また、前記食品組成物は、特に限定されないが、コストの観点から、魚介及び/又は畜肉を40質量%以下含むことが好ましい。
【0042】
次に、前記食品組成物を成型した後、調理し、凍結乾燥する。特に限定されないが、前記食品組成物を成型した後、庫内温度が−20〜−30℃程度の冷凍庫で凍結し、凍結した状態で所定のサイズにカットし、その後、スチーム等で加熱することで調理し、真空凍結乾燥機で、凍結乾燥して、凍結乾燥食品を作製してもよい。凍結乾燥時の真空度は200Pa以下にすることができる。
【実施例】
【0043】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。以下において、配合割合を「%」で示している場合、「%」は「質量%」を意味する。
【0044】
(実施例1)
水と、乳化剤としてのDKエステルF−110(第一工業製薬株式会社製、ショ糖脂肪酸エステル、HLB11)と、増粘剤としてのエコーガムT(CPケルコ社)を混合して80℃までに加熱して溶解し、そこへ約40℃で加熱溶解した油脂としての純正ラード(岐阜製油協業組合)を添加し、ハンドミキサーで少しずつ混合して乳化し、乳化油脂の平均粒子径が30μmのエマルジョンを得た。乳化が終了した後、温度を30〜40℃に調整し、そこへポークエキス、醤油、精製食塩、黒胡椒及びビタミンE(酸化防止剤)を添加して混合した。次に、多孔質食品素材としてのニューフジニック51(不二製油株式会社、大豆タンパク、平均孔径50μm、比容積0.5g/mL)と、ゲル化剤としての乾燥卵白No.10(全農・キューピー・エッグステーション)と、カラメルの混合物を添加して約5分間多孔質食品素材を膨潤させた。そこへ、4.5mmΦに挽いた豚肉を添加し、約2分間混合した。各原材料の配合割合は、下記表1に示したとおりにした。得られた食品組成物を約30mmの厚みになるように成型し、庫内温度が−25℃の冷凍庫で12時間以上凍結後、10mm×10mm×10mmのサイズに切断した。その後、85℃のスチームで15分間処理し、真空度80Pa、最高品温65℃の条件で、15時間真空凍結乾燥した。
【0045】
(実施例2〜15)
各原材料の配合割合を下記表1及び2に示したとおりにした以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0046】
(実施例16)
油脂として、純正ラードの代わりにパーム油(不二製油株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0047】
(実施例17)
油脂として、純正ラードの代わりにサラダ油(日清オイリオグループ株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0048】
(実施例18)
多孔質食品素材として、ニューフジニック51の代わりにフレッシュNT(昭和産業株式会社製、大豆タンパク、平均孔径50μm、比容積0.6g/mL)を用いた以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0049】
(実施例19)
多孔質食品素材として、ニューフジニック51の代わりにネオトラストW−300(株式会社Jオイルミルズ製、膨化デンプン、平均孔径50μm、比容積0.6g/mL)を用いた以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0050】
(実施例20)
グル化剤として、乾燥卵白No.10の代わりにゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0051】
(実施例21)
乳化剤として、DKエステルF−110の代わりにDKエステルF−50(第一工業製薬株式会社製、ショ糖脂肪酸エステル、HLB5)を用いた以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0052】
(実施例22)
乳化剤として、DKエステルF−110の代わりにDKエステルF−160(第一工業製薬株式会社製、ショ糖脂肪酸エステル、HLB16)を用いた以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0053】
(実施例23)
増粘剤として、エコーガムTの代わりにオルノーG2(グアガム、オルガノフードテック株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0054】
(実施例24)
増粘剤として、エコーガムTの代わりにソアローカストA120(ローカストビーンガム、三菱化学フーズ株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0055】
(実施例25)
多孔質食品素材の膨潤時間を5分から1分に変更した以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0056】
(実施例26)
多孔質食品素材の膨潤時間を5分から10分に変更した以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0057】
(実施例27)
乳化油脂の平均粒子径が10μmになるように油脂のエマルジョンを調製した以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0058】
(実施例28)
乳化油脂の平均粒子径が100μmになるように油脂のエマルジョンを調製した以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0059】
(比較例1〜7)
各原材料の配合割合を下記表5に示したとおりにした以外は、実施例1と同様にして、凍結乾燥食品を作製した。
【0060】
実施例1〜28及び比較例1〜7で得られた凍結乾燥食品の復元性、食感、浮遊性、保型性、ドリップ率及びジューシーさを下記のように測定評価し、その結果を下記表1〜5に示した。下記表1〜5には、実施例1〜28及び比較例1〜7で得られた凍結乾燥食品における各組成成分の配合割合(含有率)を示した。ここで、凍結乾燥食品における各組成成分の配合割合は、対応する食品組成物の水分が乾燥後に全部なくなっていると仮定し、算出したものである。また、実施例1〜28及び比較例1〜7において、多孔質食品素材の平均孔径及び比容積、並びに乳化油脂の平均粒子径は下記のように測定算出したものである。
【0061】
(復元性)
レオメーター(サン科学社製「CR−3000EX」)を用い、ブランジャーを1mm/秒の速さでステージとプランジャーの距離が0.5mmになるまで、試料に押しこみ、プランジャーにかかる荷重を経時的に測定した。試料としては熱湯で3分間復元した製品を用い、プランジャーと試料の接触面積は78.54mm2であった。図1に示す時間を横軸とし、荷重を縦軸とする波形において、T1/T2の値を算出し、T1/T2の値が0.4以上を復元性良好と判断した。
【0062】
(食感)
レオメーター(サン科学社製「CR−3000EX」)を用い、ブランジャーを1mm/秒の速さでステージとプランジャーの距離が0.5mmになるまで、試料に押しこみ、プランジャーにかかる荷重を経時的に測定し、サン科学社の材料試験オペレーションソフトウェアを用いてテクスチャープロファイルを作成し、要素「かたさ」×「弾力性」の値を算出し、該値が2.0E+05以上6.0E+05以下を食感良好と判断した。試料としては熱湯で3分間復元した製品を用い、プランジャーと試料の接触面積は78.54mm2であった。
【0063】
(浮遊性)
熱湯で3分復元した製品5個を25℃の水(深さ50mm)に浮かせて静置し、全ての製品が50mm沈降する時間を計測した。10分経過時に沈降していない場合は浮いている製品の数を計測した。10分経過時に浮いている製品の数が3以上を浮遊性良好と判断した。
【0064】
(保型性)
乾式造粒機(畑鉄工製)を一定の回転速度で運転して造粒を行った後、8m篩上に残るものを良品として、該良品の重量を測定し、下記の式で良品割合を算出した。該良品割合を保型性の指標として0.4以上を保形性良好と判断した。スクリーン目開きは12mmであり、造粒後の篩目開きは8mmであった。
良品割合=良品重量/原料投入重量
【0065】
(ドリップ率)
凍結乾燥前製品を80℃で、30分間スチーム処理した後、該処理物を5mmの篩上に置き、落ちた液量をドリップ量とし、下記式によりドリップ率が算出し、ドリップ率が5%以下をドリップ保持性良好と判断した。
ドリップ率(%)=(ドリップ量/スチーマー投入量)×100
【0066】
(ジューシーさ)
既存品(日本ジフィー食品社製、品名「肉ダイスN」)のジューシーさを5点として10点満点で官能評価した。3点以上をジューシーさ良好と判断した。
【0067】
(多孔質食品素材の平均孔径)
顕微鏡(キーエンス社製、型番「VHX−200」)にて多孔質食品素材表面を観察し、不定形な開口部の面積を測定し、開口部は円であると仮定すると、面積の値を円周率で割った値の平方根の2倍は円の直径となる(s=πr2より)。この直径の値を孔径とし、100個の平均値を平均孔径とした。
【0068】
(多孔質食品素材の比容積)
200mLの枡に被検物を満杯に入れ、その重量(g)を測定し、200で割り返すことで単位体積あたりの重量を計算し、これを比容積とした。
【0069】
(乳化油脂の平均粒子径)
乳化油脂をプレパラートにして、顕微鏡(キーエンス社製、型番「VHX−200」)にて観察し、油脂液滴の面積を測定し、面積の値を円周率で割った値の平方根の2倍は円の直径となる。この直径の値を孔径とし、100個の平均値を平均孔径とした。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
表1〜表4の結果から分かるように、油脂を25〜55質量%、多孔質食品素材を15質量%以上、タンパク質系ゲル化剤3.5質量%以上含む凍結乾燥魚介畜肉製品は、復元性が良好である上、食感にも優れていた。また、多孔質食品素材の含有量が50質量%以下の実施例1〜3及び5〜28の凍結乾燥魚介畜肉製品は、浮遊性も良好であった。また、増粘剤0.06質量%以上と、タンパク質系ゲル化剤を10.5質量%以下含む実施例1〜3、5、7〜11、13〜20、22〜28の凍結乾燥魚介畜肉製品は、保型性が高かった。また、実施例1〜28の凍結乾燥魚介畜肉製品は、ジューシーさも良好であった。
【0076】
実施例1、16及び17に対比から、ラード又はパーム油を用いた方が、サラダ油を用いた場合より、復元性に優れていることが分かった。また、実施例1、16及び17に対比から、ラードを用いた方が、サラダ油又はパーム油を用いた場合より、食感に優れていることが分かった。実施例1、18及び19に対比から、大豆タンパクを用いた方が、膨化デンプンを用いた場合より、食感に優れていることが分かった。実施例1と20に対比から、乾燥卵白を用いた方が、ゼラチンを用いた場合より、食感に優れていることが分かった。
【0077】
実施例1、25及び26の対比から、油脂のエマルジョンへの多孔質食品素材の浸漬時間が5分以上であると、ドリップ保持性が良好になることが分かった。また、実施例1、27及び28の対比から、油脂のエマルジョンにおいて、乳化油脂の平均粒子径が50μm以下であると、ドリップ保持性が良好になることが分かった。
【0078】
一方、油脂の含有量が25質量%未満の比較例1の凍結乾燥魚介畜肉製品は、食感が悪い上、ジューシー感も悪かった。また、油脂の含有量が55質量%を超える比較例2の凍結乾燥魚介畜肉製品は、復元性が悪い上、ドリップ保持性も悪かった。多孔質食品素材を含まない比較例3の凍結乾燥魚介畜肉製品は、食感が悪い上、保型性とドリップ保持性も悪かった。多孔質食品素材の含有量が15質量%未満の比較例4の凍結乾燥魚介畜肉製品は、食感が悪い上、保型性も悪かった。ゲル化剤を含まない比較例5の凍結乾燥魚介畜肉製品は、食感が悪い上、浮遊性及び保型性も悪かった。タンパク質系ゲル化剤の含有量が3.5質量%未満の比較例6の凍結乾燥魚介畜肉製品は、食感が悪かった。ゲル化剤として寒天を用いた比較例7の食感が悪い上、保型性も悪かった。
図1