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特開2018-91261ゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤及びシリンダヘッドガスケット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-91261(P2018-91261A)
(43)【公開日】2018年6月14日
(54)【発明の名称】ゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤及びシリンダヘッドガスケット
(51)【国際特許分類】
   F02F 11/00 20060101AFI20180518BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20180518BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20180518BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20180518BHJP
   F16J 15/08 20060101ALI20180518BHJP
   B32B 15/06 20060101ALI20180518BHJP
【FI】
   F02F11/00 B
   C09D7/12
   C09D175/04
   C09K3/10 Z
   C09K3/10 Q
   C09K3/10 M
   F16J15/08 Q
   F02F11/00 N
   B32B15/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-236475(P2016-236475)
(22)【出願日】2016年12月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100131255
【弁理士】
【氏名又は名称】阪田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100125324
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 健
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智和
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】森 英明
(72)【発明者】
【氏名】中島 蓉
【テーマコード(参考)】
3J040
4F100
4H017
4J038
【Fターム(参考)】
3J040EA15
3J040EA17
3J040FA01
3J040FA06
3J040FA07
3J040FA20
3J040HA06
3J040HA17
4F100AB01A
4F100AB04
4F100AK17B
4F100AK18C
4F100AK27B
4F100AK29B
4F100AK33
4F100AK51C
4F100AN00B
4F100AN01B
4F100BA03
4F100CA19C
4F100CB00
4F100CC00C
4F100EJ68
4F100GB51
4F100JJ03
4F100JK09
4F100YY00C
4H017AA03
4H017AA04
4H017AA23
4H017AA24
4H017AA29
4H017AB03
4H017AB07
4H017AB12
4H017AC15
4H017AC16
4H017AD01
4H017AE05
4J038DG001
4J038DG261
4J038DG301
4J038GA11
4J038KA20
4J038MA02
4J038NA09
4J038NA14
4J038PB07
4J038PC07
(57)【要約】
【解決課題】高面圧且つ高温条件下での耐摩耗性に優れ、且つ、高面圧且つ高温条件下で使用した後に、ゴム層がシリンダブロック又はシリンダヘッドのシール面に固着し難くすることができる被膜を形成することができるゴム被覆シリンダヘッドガスケット用のコーティング剤、及びそれを用いて得られるシリンダヘッドガスケットを提供すること。
【解決手段】ゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤であって、潤滑剤と、ウレタン樹脂と、を含有し、該潤滑剤が、平均1次粒子径が1μm以下の未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子であり、固形分中の該未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子の含有量が30〜80体積%であること、を特徴とするゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム被覆シリンダヘッドガスケット用のコーティング剤であって、
潤滑剤と、ウレタン樹脂と、を含有し、
該潤滑剤が、平均1次粒子径が1μm以下の未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子であり、
固形分中の該未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子の含有量が30〜80体積%であること、
を特徴とするゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤。
【請求項2】
固形分中の前記未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子の含有量が33〜78体積%であることを特徴とする請求項1記載のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤。
【請求項3】
硬化剤を含有し、且つ、該硬化剤がポリイソシアネートであることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤。
【請求項4】
前記ポリイソシアネートが、ブロック型ポリイソシアネートであることを特徴とする請求項3記載のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤。
【請求項5】
前記ゴム被覆シリンダヘッドガスケットのゴムが、ニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム又はアクリルゴムであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤。
【請求項6】
前記ゴムが、ニトリルブタジエンゴム又はフッ素ゴムであることを特徴とする請求項5記載のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤。
【請求項7】
少なくとも、金属板と、該金属板を覆うゴム層と、該ゴム層の表面に形成されている請求項1〜6いずれか1項記載のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物と、を有することを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルブタジエンゴム又はフッ素ゴムからなるゴム層が表面に被覆されているシリンダヘッドガスケットのゴム層をコーティングするためのコーティング剤及びゴム層が該コーティング剤の硬化物でコーティングされているシリンダヘッドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム被覆金属製ガスケットのゴム弾性体の表面には、固着防止、耐摩耗性向上等の目的で、コーティング膜が設けられていた。しかしながら、これらのコーティング膜を形成しても、エンジンガスケットの高面圧且つ高温度条件下で、さらに、エンジンの振動が繰り返し加わると、ガスケット表面のゴム被膜が摩耗し、ガスや冷却水、オイルなどの流体洩れを発生させることがある。
【0003】
そこで、耐摩耗性を向上させるために、様々なコーティング剤が提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−252442号公報
【特許文献2】特開平5−341494号公報
【特許文献3】特開2008−260809号公報
【特許文献4】特開2008−189892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4のコーティング剤により得られる被膜は、フランジ部の部材との接触による繰り返し摺動に対する耐摩耗性が低かった。特に、高面圧且つ高温度条件下でのフランジ部の部材との接触による摺動に対する耐摩耗性が低かった。
【0006】
特に、ゴム被覆シリンダヘッドガスケットでは、被覆されているゴム層が、ニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム又はアクリルゴムであると、耐油性に優れるという利点があるが、従来のコーティング剤では、高面圧且つ高温度条件下でのガスケット同士又はガスケットとフランジの接触による耐摩耗性が十分でないために、ゴム層が摩耗し易いという問題があった。
【0007】
また、従来のコーティング剤を用いて、ゴム、特に、ニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム又はアクリルゴムがコーティングされているゴム被覆シリンダヘッドガスケットには、高面圧且つ高温度条件下で使用した後に、ゴム層がシリンダブロック又はシリンダヘッドのシール面に強く固着してしまい、シリンダヘッドガスケットの交換を含むエンジンのメンテナンス時に、作業効率に支障をきたすことがある。
【0008】
従って、本発明の目的は、高面圧且つ高温度条件下での耐摩耗性に優れ、且つ、高面圧且つ高温度条件下で使用した後に、ゴム層がシリンダブロック又はシリンダヘッドのシール面に固着し難くすることができる被膜を形成することができるゴム被覆シリンダヘッドガスケット用のコーティング剤、及びそれを用いて得られるシリンダヘッドガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、ゴム被覆シリンダヘッドガスケット用のコーティング剤であって、
潤滑剤と、ウレタン樹脂と、を含有し、
該潤滑剤が、平均1次粒子径が1μm以下の未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子であり、
固形分中の該未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子の含有量が30〜80体積%であること、
を特徴とするゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤を提供するものである。
【0010】
また、本発明(2)は、固形分中の前記未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子の含有量が33〜78体積%であることを特徴とする(1)のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤を提供するものである。
【0011】
また、本発明(3)は、硬化剤を含有し、且つ、該硬化剤がポリイソシアネートであることを特徴とする(1)又は(2)いずれかのゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤を提供するものである。
【0012】
また、本発明(4)は、前記ポリイソシアネートが、ブロック型ポリイソシアネートであることを特徴とする(3)のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤を提供するものである。
【0013】
また、本発明(5)は、前記ゴム被覆シリンダヘッドガスケットのゴムが、ニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム又はアクリルゴムであることを特徴とする(1)〜(4)いずれかのゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤を提供するものである。
【0014】
また、本発明(6)は、前記ゴムが、ニトリルブタジエンゴム又はフッ素ゴムであることを特徴とする(5)のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤を提供するものである。
【0015】
また、本発明(7)は、少なくとも、金属板と、該金属板を覆うゴム層と、該ゴム層の表面に形成されている(1)〜(5)いずれかのゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物と、を有することを特徴とするシリンダヘッドガスケットを提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高面圧且つ高温条件下での耐摩耗性に優れ、且つ、高面圧且つ高温条件下で使用した後に、ゴム層がシリンダブロック又はシリンダヘッドのシール面に固着し難くすることができる被膜を形成することができるゴム被覆シリンダヘッドガスケット用のコーティング剤、及びそれを用いて得られるシリンダヘッドガスケットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、ゴム被覆シリンダヘッドガスケット用のコーティング剤であって、
潤滑剤と、ウレタン樹脂と、を含有し、
該潤滑剤が、平均1次粒子径が1μm以下の未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子であり、
固形分中の該未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子の含有量が30〜80体積%であること、
を特徴とするゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤である。
【0018】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、コーティング対象であるゴム被覆シリンダヘッドガスケットのゴム層の表面に塗布され、加熱されて硬化することにより、ゴム層の表面に硬化物の被膜を形成させるためのコーティング剤である。
【0019】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤が用いられるゴム被覆シリンダヘッドガスケットは、少なくとも、金属基材と、金属基材を被覆するゴム材からなるゴム層と、からなる。ゴム材からなるゴム層は、接着層を介して、金属基材に接着されていてもよい。ゴム層を形成するゴム材としては、ゴム被覆シリンダヘッドガスケットに用いられているものであれば、特に制限されないが、ニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、官能基変性ニトリルブタジエンゴム等のニトリルブタジエン系のゴム、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体である2元系フッ素ゴム、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン−4フッ化エチレン共重合体である3元系フッ素ゴム等のフッ素ゴム、アクリルゴムが好ましく、ニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴムが特に好ましい。
【0020】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、潤滑剤としては、未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子のみを含有する。つまり、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、潤滑剤として、グラファイト、二硫化モリブデン等の未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂以外の固体潤滑剤を含有せず、且つ、ポリエチレン、ポリプロピレン等の炭化水素系ワックス、シリコーン系ワックス等の液体潤滑剤を含有しない。
【0021】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤において、潤滑剤として用いられるポリテトラフルオロエチレン樹脂は、未焼成のポリテトラフルオロエチレン樹脂である。本発明に係る未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂の分子量は、好ましくは10万〜1000万、特に好ましくは100万〜1000万である。本発明に係る未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子の平均1次粒子径は、1μm以下、好ましくは0.15〜0.4μmである。未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子の平均1次粒子径が上記範囲にあることにより、コーティング剤により形成される被膜の高面圧且つ高温条件下での耐摩耗性が高くなる。本発明に係る未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子は、乳化重合により製造されたものである。
【0022】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の調製に用いられる未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子は、溶媒に分散された粒状の樹脂である。
【0023】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物中に、未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子を保持するための保持材として、少なくともウレタン樹脂を含有し、必要に応じて、ウレタン樹脂と共に硬化剤を含有する。
【0024】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤に係るウレタン樹脂としては、特に制限されず、例えば、芳香族系ウレタン樹脂、エステル系ウレタン樹脂、エーテル系ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0025】
芳香族系ウレタン樹脂は、繰り返し単位として、芳香族基を有するウレタン樹脂である。芳香族基としては、置換又は無置換の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基が挙げられる。エーテル系ウレタン樹脂は、繰り返し単位として、エーテル結合を有するウレタン樹脂である。エステル系ウレタン樹脂は、繰り返し単位として、エステル結合を有するウレタン樹脂である。
【0026】
ウレタン樹脂の分子量は、好ましくは1000〜1000000である。また、ウレタン樹脂の抗張力は、好ましくは10N/mm以上、特に好ましくは15〜100N/mmである。ウレタン樹脂の抗張力が上記範囲にあることにより、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物の高面圧且つ高温条件下での耐摩耗性が高くなる。また、ウレタン樹脂の弾性率は、好ましくは1〜3000MPa、特に好ましくは10〜2000MPaである。ウレタン樹脂の弾性率又はウレタン樹脂の抗張力が上記範囲にあることにより、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物の高面圧且つ高温条件下での耐摩耗性が高くなる。
【0027】
ウレタン樹脂は、酸変性されていないウレタン樹脂であっても、酸変性されているウレタン樹脂であってもよい。酸変性する方法としては、例えば、大気雰囲気中で加熱して酸化処理する方法、酸を用いて処理する方法、ウレタン樹脂の重合に用いるポリオール等に水酸基、カルボキシル基等の酸基を有するものを用いる方法が挙げられる。
【0028】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤に係る硬化剤は、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤がコーティング対象に塗布され、加熱されたときに、硬化する硬化剤であり、硬化することにより、その硬化物が、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤中の潤滑剤を保持する保持材となる。
【0029】
硬化剤としては、ポリイソシアネート、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、メラミン化合物等が挙げられ、これらのうち、ポリイソシアネートが、高面圧且つ高温条件下での耐摩耗性が高くなる点で好ましい。ポリイソシアネートとしては、ブロック型ポリイソシアネートが挙げられる。そして、硬化剤としては、ブロック型ポリイソシアネートが好ましい。
【0030】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の固形分中、平均1次粒子径が1μm以下、好ましくは0.15〜0.4μmの未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子の含有量は、30〜80体積%、好ましくは33〜78体積%である。固形分中の未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子の含有量が、上記範囲にあることにより、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物の高面圧且つ高温条件下での耐摩耗性が高くなり、高面圧且つ高温条件下で使用した後に、ゴム層がシリンダブロック又はシリンダヘッドのシール面に固着し難くなる。
【0031】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の固形分中のウレタン樹脂の含有量は、好ましくは20〜70体積%、特に好ましくは22〜67体積%である。固形分中のウレタン樹脂の含有量が、上記範囲にあることにより、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物の高面圧且つ高温条件下での耐摩耗性が高くなる。
【0032】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の固形分中の硬化剤の含有割合は、好ましくは0〜36体積%、特に好ましくは0〜30体積%である。固形分中の硬化剤の含有割合が、上記範囲にあることにより、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物の高面圧且つ高温度条件下での耐摩耗性が高くなる。
【0033】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の固形分中のウレタン樹脂及び硬化剤の合計の含有量は、好ましくは20〜70体積%、特に好ましくは22〜67体積%、より好ましくは33〜67体積%である。固形分中のウレタン樹脂及び硬化剤の合計の含有量が、上記範囲にあることにより、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物の高面圧且つ高温条件下での耐摩耗性が高くなる。
【0034】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の固形分中のウレタン樹脂の含有量に対する硬化剤の含有量の比(硬化剤/ウレタン樹脂)は、好ましくは0〜1、特に好ましくは0〜0.5である。固形分中のウレタン樹脂の含有量に対する硬化剤の含有量の比が、上記範囲にあることにより、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物の高面圧且つ高温条件下での耐摩耗性が高くなる。
【0035】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、上記の未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子、ウレタン樹脂及び硬化剤の他に、界面活性剤、顔料等を含有してもよい。ただし、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子以外の潤滑剤を含まない。また、ウレタン樹脂及び硬化剤以外の保持材としては、シリコーン樹脂、NBR等が挙げられる。また、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、シール機能を発現させているゴム層を守るために、表面からのエネルギーに対してコーティング層自体を徐々に摩滅させ、コーティング層自体でエネルギーを散逸させてゴム層を保護する効果がある。このため、シランカップリング材等のゴム層との接着を向上する添加剤を含んでしまうと、表面からのエネルギーをコーティング層とゴム層の界面を通じて伝達してしまい、効果が低減する。また、フィラー等の補強用の充填材を含んでしまうと、コーティング層自体の強度が高くなり、コーティング層自体が摩滅し難くなるため、表面からのエネルギーをゴム層に伝達してしまい、効果が低減する。このため、本発明のコーティング層はシランカップリング剤等のカップリング剤や、フィラー等の補強用の充填材を含有しない。
【0036】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、上記の固形分、すなわち、上記の未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子及びウレタン樹脂、あるいは、上記の未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子及びウレタン樹脂と、それらに加え、硬化剤と、必要に応じて用いられる上記の未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子、ウレタン樹脂及び硬化剤の以外の成分が、溶媒に分散されている分散液である。溶媒は、水でも、有機溶媒でもよい。有機溶媒としては、芳香族炭化水素類、エステル類、ケトン類等が挙げられ、更に具体的には、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、イソホロン、エチルセルソルブ、メチルセルソルブ等が挙げられる。
【0037】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤中の固形分濃度は、使用目的により適宜選択されるが、通常、5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%である。
【0038】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の調製方法は、特に制限されず、例えば、溶媒に、上記の成分を添加し、撹拌して、溶媒中に固形分を分散させることにより調製される。
【0039】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、コーティング対象の表面に塗布され、乾燥後、加熱されることにより、硬化し、コーティング対象の表面に、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物の被膜が形成される。つまり、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、コーティング対象の表面に硬化物の被膜を形成させる表面コーティング剤として用いられる。
【0040】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤により硬化物の被膜が形成されるコーティング対象は、シリンダヘッドガスケットの金属基材を被覆しているゴム層である。ゴム層を形成するゴム材としては、ゴム被覆シリンダヘッドガスケットに用いられているものであれば、特に制限されないが、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルブタジエンゴム(H−NBR)、官能基変性ニトリルブタジエンゴム等のニトリルブタジエン系ゴム、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体である2元系フッ素ゴム、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン−4フッ化エチレン共重合体である3元系フッ素ゴム等のフッ素ゴム、アクリルゴムが好ましく、ニトリルブタジエン系ゴム、フッ素ゴムが特に好ましい。
【0041】
ゴム層の硬度は、通常、10〜200N/mmである。硬度は、例えば、超微小押し込み硬さ試験機ENT−2100(エオリニクス社製)を用いて、バーコビッチ圧子を用いて測定されるマルテンス硬さである。
【0042】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤のコーティング対象の表面への塗布方法としては、例えば、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤を、コーティング対象の表面に、スプレー、ロールコータ、フローコータ、インクジェット等により塗布する方法が挙げられる。
【0043】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤は、コーティング対象の表面に塗布された後、乾燥されて、溶媒が除去された後、100〜300℃で加熱されることにより、コーティング対象の表面に、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物の被膜が形成される。なお、硬化のための加熱温度は、ウレタン樹脂、硬化剤の種類により、適宜選択される。
【0044】
コーティング対象の表面に形成される本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物の被膜の厚さは、適宜選択されるが、通常、1〜6μm、好ましくは1.5〜5μmである。
【0045】
本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤によれば、ゴム被覆シリンダヘッドガスケットのゴム層に、高面圧且つ高温条件下での耐摩耗性に優れ、高面圧且つ高温条件下で使用された後に、ゴム層がシリンダブロック又はシリンダヘッドのシール面に固着し難くすることができる被膜(コーティング層)を形成することができる。
【0046】
本発明のシリンダヘッドガスケットは、少なくとも、金属板と、該金属板を覆うゴム層と、該ゴム層の表面に形成されている本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物と、を有することを特徴とするシリンダヘッドガスケットである。
【0047】
本発明のシリンダヘッドガスケットに係る金属板は、シリンダヘッドガスケットの形状に成形された、SUS製の金属板である。
【0048】
本発明のシリンダヘッドガスケットに係る金属板の表面には、金属処理層が設けられていてもよい。また、本発明のシリンダヘッドガスケットにおいて、ゴム層は、金属板の表面に、直接設けられていてもよいし、あるいは、接着層を介して、金属板の表面に接着されていてもよい。つまり、本発明のシリンダヘッドガスケットの構成としては、例えば、(i)金属板の表面に、ゴム層→コーティング剤の硬化物の順に積層されているもの、(ii)金属板の表面に、接着層→ゴム層→コーティング剤の硬化物の順に積層されているもの、(iii)金属板の表面に、金属処理層→ゴム層→コーティング剤の硬化物の順に積層されているもの、(iv)金属板の表面に、金属処理層→接着層→ゴム層→コーティング剤の硬化物の順に積層されているもの等が挙げられる。
【0049】
本発明のシリンダヘッドガスケットに係る金属処理層は、金属板の表面に形成される。金属処理層としては、リン酸亜鉛被膜、リン酸鉄被膜、塗布型クロメート被膜、バナジウム化合物、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物、モリブデン化合物、タングステン化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物及びセリウム化合物のうちのいずれか1種以上を含有する被膜等が挙げられる。また、金属処理層としては、少なくとも1個以上のキレート環とアルコキシ基を有する有機金属化合物を含有する金属処理層形成剤を用いて形成される金属処理層、更に、金属酸化物又はシリカを含有する金属処理層形成剤を用いて形成される金属処理層、好ましくは、アミノ基含有アルコキシシランとビニル基含有アルコキシシランとを含有する金属処理層形成剤を用いて形成される金属処理層が挙げられる。
【0050】
本発明のシリンダヘッドガスケットに係る接着層は、金属板の表面に、又は金属処理層が形成される場合は、金属処理層の表面に、形成される。接着層は、接着されるゴムの種類に応じた加硫接着剤を用いて形成される。加硫接着剤としては、シラン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の加硫接着剤が用いられる。
【0051】
本発明のシリンダヘッドガスケット係るゴム層を形成するゴム材は、ゴム被覆シリンダヘッドガスケットに用いられているものであれば、特に制限されないが、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルブタジエンゴム(H−NBR)、官能基変性ニトリルブタジエンゴム等のニトリルブタジエン系ゴム、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体である2元系フッ素ゴム、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン−4フッ化エチレン共重合体である3元系フッ素ゴム等のフッ素ゴム、アクリルゴムが好ましく、ニトリルブタジエン系ゴム、フッ素ゴムが特に好ましい。
【0052】
ゴム層を設ける方法としては、例えば、ゴム材に架橋系添加剤、充填材、その他の添加剤を所定量配合してゴムコンパウンドとし、これをトルエン等の有機溶剤に溶解、分散させて塗布液とし、金属板に塗布する方法が挙げられる。
【0053】
本発明のシリンダヘッドガスケットにおいて、ゴム層の厚みは、好ましくは15〜35μm、特に好ましくは17〜33μmである。ゴム被覆シリンダヘッドガスケットでは、シンンダブロックの加工時の面粗さを塞ぎ、流体を漏らさない必要があるので、ゴム層の厚みは、上記範囲が好ましい。また、本発明のシリンダヘッドガスケットにおいて、本発明のゴム被覆シリンダヘッドガスケット用コーティング剤の硬化物からなる被膜の厚みは、1〜6μm、好ましくは1.5〜5μmである。ゴム被覆シリンダヘッドガスケットでは、摩耗性を確保する必要があるので、コーティング剤の硬化物からなる被膜の厚みは、上記範囲となる。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
<ゴム金属積層体未架橋物の作製>
金属板として、厚さ0.2mmのステンレス鋼板(SUS301H)を用い、その表面をアルカリ脱脂剤で処理した後、リン酸塩系処理剤を用いて、金属板の両面に、リン酸鉄の防錆被膜(金属処理層)を形成させた。次いで、この防錆被膜の表面に、フェノール樹脂を主成分にニトリルゴム(NBR)コンパウンドで変性した接着層を形成した。
【0055】
次いで、上記の接着層の表面に、以下に示す組成のゴムコンパウンド液を所定の厚みに塗布し、60℃の熱風循環式オーブンで1分間乾燥し、ゴム金属積層体未架橋物を得た。
<ニトリルゴム(NBR)コンパウンド組成>
ニトリルゴム 100phr
亜鉛華 5phr
ステアリン酸 0.5phr
カーボン 80phr
クマロンインデン樹脂 3phr
老化防止剤 2phr
可塑剤 10phr
硫黄 1phr
加硫促進剤 2phr
【0056】
<コーティング剤の調製>
固形分中の含有量が表1に示す割合の各成分を、溶媒トルエン、酢酸ブチル、酢酸エチルに、添加して、固形分濃度が30質量%のコーティング剤を調製した。コーティング剤の調製に用いた固形分の各成分は、以下の通りである。
【0057】
(潤滑剤)
・未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子:平均粒径0.3μm、分子量100万〜1000万
(ウレタン樹脂)
・ウレタン樹脂A:抗張力68N/mm、ウレタン樹脂
・ウレタン樹脂B:酸変性されたウレタン樹脂
(硬化剤)
・ブロックイソシアネート:解離温度120℃以上、褐色液体
【0058】
<硬化物の被膜の形成>
上記のゴム金属積層体未架橋物の表面に、上記のコーティング剤を塗布し、240℃の熱風循環式オーブンで10分間加熱し、ゴム金属積層体の表面に硬化物被膜が形成されている表面被覆ゴム金属積層体を得た。なお、コーティング剤の硬化物被膜の厚さは2μmであり、ゴム金属積層体の表面硬度は20N/mmであった。
【0059】
<耐摩耗性の評価>
上記の表面被覆ゴム金属積層体について、以下の試験を行った。その結果を表1に示す。
表面被覆ゴム金属積層体を幅50mm、長さ50mmに切断して、試験片を作製した。次いで、レスカ社製ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機FPR−2100を用い、相手材として、径R5の摩耗ピンの先端に、R5のくぼみを設けた表面被覆ゴム金属積層体を接着剤で貼り付けたものを用いて、試験片にエンジンオイルを滴下した状態で、線速度1.05mm/秒、円往復回転半径R1、荷重1300g(150℃)の条件下で、円往復動試験を行った。コーティング剤の硬化物同士のエンジンオイル環境下での摩擦係数を測定した。なお、コーティング剤の硬化物同士の摩擦係数が低くなるほど、耐摩耗性が高くなる。
【0060】
<固着性の評価>
表面被覆ゴム金属積層体とアルミニウム板(厚さ0.2mm)をそれぞれ幅20mm、長さ50mmに切断して、先端20mm×20mmの箇所で貼り合わせた。貼り合わせる際、冷却水(LLC)を介在させて貼り合わせ、その後170℃ 、14時間、1.5MPaで圧着した。次いで、室温下で島津製作所社製オートグラフAG-50kNGで、引張せん断試験を実施し、せん断荷重を測定した。せん断荷重が低いほど、ゴム層が固着し難い。
【0061】
(実施例2〜4及び比較例1〜2)
コーティング剤の調製において、固形分中の含有量が表1に示す割合の各成分とすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0062】
(実施例5)
NBRゴムコンパウンドに代えて、以下に示すフッ素ゴムコンパウンドとすること以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
<フッ素ゴム(FKM)コンパウンド組成>
フッ素ゴム 100phr
カーボン 40phr
水酸化カルシウム 3phr
酸化マグネシウム 3phr
炭酸カルシウム 20phr
ビスフェノールAF 3phr
加硫促進剤 1phr
【0063】
(比較例3)
潤滑剤を未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子とすることに代えて、潤滑剤を二硫化モリブデンとすること以外は、実施例3と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0064】
(比較例4)
潤滑剤を未焼成ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子とすることに代えて、潤滑剤をグラファイトとすること以外は、実施例3と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0065】
【表1】