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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-91417(P2018-91417A)
(43)【公開日】2018年6月14日
(54)【発明の名称】ガスケット用素材
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/12 20060101AFI20180518BHJP
【FI】
   F16J15/12 E
   F16J15/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-235673(P2016-235673)
(22)【出願日】2016年12月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100131255
【弁理士】
【氏名又は名称】阪田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100125324
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 健
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智和
(72)【発明者】
【氏名】立木 純
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】渡部 真一
(72)【発明者】
【氏名】大村 一郎
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040EA27
3J040EA43
3J040EA48
3J040FA02
3J040FA06
3J040HA17
(57)【要約】
【課題】ゴム層の付着性に優れるとともに、不凍液に対する耐性を備え、環境負荷を低減してなるガスケット用素材を提供する。
【解決手段】車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片側主表面上または両側主表面上に、フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物およびアルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを含む無機酸化物を含有する金属表面処理層、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含む接着剤層並びにニトリルゴム層をこの順番で順次有することを特徴とするガスケット用素材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片側主表面上または両側主表面上に、
フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物およびアルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを含む金属処理層、
エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含む接着剤層並びに
ニトリルゴム層をこの順番で順次有する
ことを特徴とするガスケット用素材。
【請求項2】
前記接着剤層が、固形分換算したときに、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を、エポキシ樹脂の体積/フェノール樹脂の体積で表される比で、25/75〜75/25の比で含む請求項1に記載のガスケット用素材。
【請求項3】
前記金属表面処理層が、固形分換算したときに、前記フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物および無機酸化物を、前記フルオロ錯体を含む酸成分とチタンとの反応生成物の体積/前記無機酸化物の体積で表される比で、30/70〜90/10の比で含む請求項1または請求項2に記載のガスケット用素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケット用素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンに装着されるガスケット用素材、特にヘッドガスケット用素材として、ステンレス鋼板にゴム層を積層したゴムコーティングステンレス鋼板が一般的である。また、ゴム層をより強固に保持するために、ステンレス鋼板の片面または両面にクロム化合物、リン酸、シリカからなるクロメート皮膜を形成し、クロメート皮膜の上にゴム層を積層したガスケット材も広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、クロメート処理を施したガスケット用素材は、6価クロムがクロメート処理液に含まれる等、環境面で好ましくないことから、クロメート処理を施したガスケット用素材に匹敵する耐熱性や密着性を有し、特に不凍液に対する耐久性を兼ね備え、環境負荷の小さなガスケット用素材が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−227622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、本発明は、ゴム層の付着性に優れるとともに、不凍液に対する耐性を備え、環境負荷を低減してなるガスケット用素材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討した結果、車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片側主表面上または両側主表面上に、フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物およびアルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを含む無機酸化物を含有する金属表面処理層、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含む接着剤層並びにニトリルゴム層をこの順番で順次有するガスケット用素材により、本発明の目的を達成し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片側主表面上または両側主表面上に、
フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物およびアルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを含む無機酸化物を含有する金属表面処理層、
エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含む接着剤層並びに
ニトリルゴム層をこの順番で順次有する
ことを特徴とするガスケット用素材、
(2)前記接着剤層が、固形分換算したときに、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を、エポキシ樹脂の体積/フェノール樹脂の体積で表される比で、25/75〜75/25の比で含む上記(1)に記載のガスケット用素材、
(3)前記金属表面処理層が、固形分換算したときに、前記フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物および無機酸化物を、前記フルオロ錯体を含む酸成分とチタンとの反応生成物の体積/前記無機酸化物の体積で表される比で、30/70〜90/10の比で含む上記(1)または(2)に記載のガスケット用素材を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゴム層の付着性に優れるとともに、不凍液に対する耐性を備え、環境負荷を低減してなるガスケット用素材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るガスケット用素材は、車両のエンジンに装着されるガスケット用素材であって、鋼板の片側主表面上または両側主表面上に、フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属およびアルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを含む無機酸化物を含有する金属表面処理層、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含む接着剤層並びにニトリルゴム層をこの順番で順次有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明に係るガスケット用素材において、基材となる鋼板としては特に制限されないが、ステンレス鋼板、鉄鋼板、アルミニウム鋼板等を挙げることができ、ステンレス鋼板としては、フェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス等を挙げることができる。
【0011】
本発明に係るガスケット用素材において、ステンレス鋼板の厚みも特に制限されず、通常、厚さ0.05〜1mm程度のものから適宜選択される。
【0012】
本発明に係るガスケット用素材は、鋼板の片側主表面上または両側主表面上に、フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物およびアルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを含む無機酸化物を含有する金属表面処理層を有している。
【0013】
本発明に係るガスケット用素材において、酸成分であるフルオロ錯体としては、フルオロチタン酸、フルオロジルコン酸、フルオロシリコン酸、フルオロアルミン酸、フルオロリン酸、フルオロコバルト酸、フルオロ硫酸、フルオロホウ酸等から選ばれる一種以上を挙げることができ、フルオロチタン酸またはフルオロジルコン酸が好ましい。
酸成分としてフルオロ錯体を含むことにより、反応効率を安定して向上させることができ、具体的には、酸成分と金属成分との反応性生物の生成速度を容易に向上させることができる。
【0014】
フルオロ錯体とともに使用される酸成分としては、リン酸、正リン酸、縮合リン酸、無水リン酸、酢酸、蟻酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、有機酸等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
金属表面処理層中に含まれるフルオロ錯体を含む酸成分の含有割合は、固形分換算で、5〜50質量%であることが好ましく、7〜40質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、金属表面処理層中におけるフルオロ錯体を含む酸成分の含有割合は、原料基準での固形分換算量(金属表面処理層を形成するために使用される処理液中に含まれる固形分換算量)から算出される値を意味する。このため、上記金属表面処理層中に含有される酸成分量は、酸成分単独で存在する場合やチタン等と反応生成物を形成している場合等における含有量の総量を意味する。
【0015】
本発明に係るガスケット用素材において、フルオロ錯体を含む酸成分と反応生成物を形成するクロム以外の金属としては、鉄 、亜鉛 、ニッケル、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、マグネシウム、マンガン、カルシウム、タングステン、セリウム、バナジウム、モリブデン、リチウム、コバルトから選ばれる金属であってもよいし、水酸化物またはフッ化物などの金属化合物(ただし、アルミナ、ジルコニア、チタニアを除く)であってもよく、これ等金属および金属化合物から選ばれる一種以上の混合物であってもよい。
【0016】
金属表面処理層中におけるクロム以外の金属の含有割合は、固形分換算で、1〜30質量%が好ましく、3〜25質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましい。
なお、本出願書類において、金属表面処理層中におけるクロム以外の金属の含有割合は、原料基準での固形分換算量(金属表面処理層を形成するために使用される処理液中に含まれる固形分換算量)を意味する。このため、上記金属表面処理層中に含有されるクロム以外の金属量は、クロム以外の金属単独で存在する場合やフルオロ錯体等と反応生成物を形成している場合等における含有量の総量を意味する。
【0017】
本発明に係るガスケット用素材において、上記金属表面処理層中におけるフルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物の体積は、固形分換算で、上記フルオロ錯体を含む酸成分とチタンとの反応生成物の含有量および後述するアルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを含む無機酸化物の合計含有量を100体積%とした場合に、30〜90体積%であることが好ましく、35〜85体積%であることがより好ましく、40〜80体積%であることがさらに好ましい。
本発明に係るガスケット用素材において、フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物の金属表面処理層中における含有割合(体積%)が上記範囲内にあることにより、耐不凍液性に優れた金属表面処理層を成すことができる。
【0018】
なお、上記金属表面処理層中におけるフルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物の体積は、反応生成物の形成に用いた酸成分およびクロム以外の金属が全て反応生成物を形成したと仮定して、上記反応生成物の形成に用いた酸成分量およびクロム以外の金属量から算出される値を意味する。
【0019】
本発明に係るガスケット用素材において、フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物は、上記フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属とを反応処理して得られるものを意味し、上記フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との加熱処理物が好ましく、上記フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との100〜250℃加熱処理物がより好ましい。
【0020】
本発明に係るガスケット用素材において、金属表面処理層がフルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物を含有することにより、耐熱性、耐不凍液性を向上させ、接着剤層との密着性に優れた金属表面処理層を成すことができる。
【0021】
本発明に係るガスケット用素材において、金属表面処理層は、上記フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物とともに、アルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを含む無機酸化物を含有する。
【0022】
本発明に係るガスケット用素材において、アルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを含む無機酸化物とは、アルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを必須成分として含む無機酸化物であれば特に制限されず、アルミナ、ジルコニアおよびチタニアから選ばれる一種以上を含むものを挙げることができ、アルミナのみからなるものが好ましい。
【0023】
金属表面処理層中における無機酸化物の含有割合は、固形分換算で、10〜70体積%であることが好ましく、15〜65体積%であることがより好ましく、20〜60体積%であることがさらに好ましい。
【0024】
なお、上記金属表面処理層中における無機酸化物の体積は、金属表面処理層の形成に用いた全構成成分の体積に占める無機酸化物の体積の割合を意味する。
【0025】
金属表面処理層中のアルミナ、ジルコニア、チタニアを含む無機酸化物の含有割合が上記範囲内にあることにより、ゴム層の付着性に優れるとともに、不凍液に対する耐性を備えたガスケット用素材を提供することができる。
【0026】
本発明のガスケット用素材において、金属表面処理層は、固形分換算したときに、フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物および無機酸化物を、「フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物の体積/無機酸化物の体積」で表される比で、30/70〜90/10の比で含むことが好ましく、35/65〜85/15の比で含むことがより好ましく、40/60〜80/20の比で含むことがさらに好ましい。
【0027】
なお、上記金属表面処理層中における上記反応生成物および無機酸化物の体積比は、金属表面処理層の形成に用いた無機酸化物の体積に占めるフルオロ錯体を含む酸成分およびクロム以外の金属の合計体積の割合を意味する。
【0028】
本発明のガスケット用素材において、金属表面処理層は、フルオロ錯体を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物およびアルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを含む無機酸化物を、合計で95〜100体積%含むものであることが好ましく、98〜100体積%含むものであることがより好ましく、99〜100体積%含むものであることがさらに好ましい。
【0029】
本発明のガスケット用素材において、金属表面処理層の目付量は、50〜1000mg/mであることが好ましく、100〜800mg/mであることがより好ましく、150〜600mg/mであることがさらに好ましい。
金属表面処理層の目付量が上記範囲内にあることにより、ゴム層の付着性に優れるとともに、不凍液に対する耐性を備えたガスケット用素材を容易に提供することができる。
【0030】
本発明に係るガスケット用素材は、鋼板の片側主表面上または両側主表面上に、上記金属表面処理層、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含む接着剤層並びにニトリルゴム層をこの順番で順次有するものである。
【0031】
本発明に係るガスケット用素材において、接着剤層を構成するエポキシ樹脂としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0032】
本発明に係るガスケット用素材において、接着剤層を構成するフェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂のいずれのフェノール樹脂であってもよい。
ノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂としては、従来公知のものを挙げることができ、これ等のフェノール樹脂から選ばれる一種以上のフェノール樹脂を適宜選択することができる。
【0033】
本発明に係るガスケット用素材において、上記接着剤層は、固形分換算したときに、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を、エポキシ樹脂の体積/フェノール樹脂の体積で表される比で、15/85〜85/15の比で含むことが好ましく、20/80〜80/20の比で含むことがより好ましく、25/75〜75/25の比で含むことがさらに好ましい。
【0034】
本発明に係るガスケット用素材において、接着剤層を構成するエポキシ樹脂およびフェノール樹脂の総量は、60〜100体積%であることが好ましく、70〜100体積%であることがより好ましく、 80〜100体積%であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明に係るガスケット用素材において、上記接着剤層が、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を上記体積比で含むものであることにより、不凍液に対する耐性(耐水性)を容易に発揮し得るとともに、金属表面処理層やニトリルゴム層との接着性(密着性)を容易に向上させることができる。
【0036】
本発明のガスケット用素材において、接着剤層の厚みは、1〜10μmであることが好ましく、2〜9μmであることがより好ましく、3〜8μmであることがさらに好ましい。
接着剤層の厚みが上記範囲内にあることにより、金属表面処理層やニトリルゴム層との接着性に優れるとともに、不凍液に対する耐性を備えたガスケット用素材を容易に提供することができる。
【0037】
本発明に係るガスケット用素材において、接着剤層が、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含むものであることにより、不凍液に対する耐性(耐水性)を容易に発揮し得るとともに、金属表面処理層やニトリルゴム層との付着性(密着性)を容易に向上させることができる。
【0038】
本発明に係るガスケット用素材は、鋼板の片側主表面上または両側主表面上に、上記金属表面処理層、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含む接着剤層並びにニトリルゴム層をこの順番で順次有するものである。
【0039】
本発明に係るガスケット用素材において、ニトリルゴム層は、ニトリルゴムにより構成されるものであって、ニトリルゴムとしては、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)として従来公知のものから適宜選択することができる。
【0040】
本発明に係るガスケット用素材において、ニトリルゴム層の厚みは、10〜40μmであることが好ましく、15〜35μmであることがより好ましく、20〜30μmであることがさらに好ましい。
ニトリルゴム層の厚みが上記範囲内にあることにより、上記接着剤層との接着性に優れるとともに、シール性および不凍液に対する耐性を備えたガスケット用素材を容易に提供することができる。
【0041】
本発明に係るガスケット用素材は、ニトリルゴム層を有するものであることにより、上記接着剤層との接着性に優れ、シール性および不凍液に対する優れた耐性を容易に発揮することができる。
【0042】
本発明に係るガスケット用素材を製造する方法としては、例えば、鋼板の片側主表面上または両側主表面上に、フルオロ錯体の形成原料を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物と、アルミナ、ジルコニアもしくはチタニアとを含む無機酸化物を含有する金属表面処理液を塗布して金属表面処理層を形成した後、係る金属表面処理層上にエポキシ樹脂およびフェノール樹脂を含む接着剤含有液を塗布して接着剤層を形成し、さらに係る接着剤層上にニトリルゴム含有液を塗布してニトリルゴム層を形成する方法を挙げることができる。
【0043】
基材となる鋼板の詳細については、上述したとおりである。
また、フルオロ錯体の形成原料を含む酸成分とクロム以外の金属との反応生成物およびアルミナ、ジルコニア、もしくはチタニアを含む無機酸化物の詳細についても、上述したとおりである。
金属表面処理液は、固形分換算で、フルオロ錯体の形成原料を含む酸成分とクロム以外の金属およびアルミナ、ジルコニアもしくはチタニアとを含む無機酸化物を各々所望量含むものが使用される。
【0044】
金属表面処理液は、フルオロ錯体の形成原料を含む酸成分、クロム以外の金属およびアルミナ、ジルコニアもしくはチタニアを含む無機酸化物を各々所望量適当な溶剤に分散、溶解させることで調製することができる。
上記溶剤としては、安価で、取り扱い性に優れることから水が好適である。金属表面処理液に固形分濃度に特に制限はなく、塗布に適した濃度に調整される。溶剤量が多過ぎると加熱乾燥に長時間を要し、溶剤量が少な過ぎると塗布性が低下するため、例えば溶剤に水を用いた場合は水分量を金属表面処理液全量の10〜98質量%とすることが好ましい。
【0045】
金属表面処理液の塗布方法に特に制限はなく、ロールコーター等による塗布や、スプレー塗布、刷毛塗り、ディッピング法による塗布等の公知の方法が適宜選択することができる。
また、塗布量および塗布回数に特に制限はなく、所望の厚みを有する金属表面処理層が形成されるように所定量を塗布すればよい。
金属表面処理液を塗布した後、適宜加熱処理することが好ましく、加熱処理は、100℃〜250℃で行うことが好ましく、加熱時間は、0.5〜10分間であることが好ましい。
上記加熱処理により、金属成分と酸成分との反応が好適に進行して反応生成物を容易に形成するとともに、係る反応生成物と無機酸化物との複合物からな金属処理膜を容易に形成することができる。
【0046】
接着剤含有液中に含まれるエポキシ樹脂およびフェノール樹脂の詳細は、上述したとおりであり、目的とする接着剤層を形成し得るものから適宜選択すればよい。
【0047】
接着剤含有液は、固形分換算で、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を各々所望量含むものが使用される。
接着剤含有液は、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を各々所望量有機溶剤に分散、溶解することにより調製することができ、有機溶剤としては、乾燥処理により容易に揮発するものから適宜選択することができる。接着剤含有液は、硬化剤を含むもであってもよい。
接着剤含有液の塗布方法に特に制限はなく、ロールコーター等による塗布や、スプレー塗布、刷毛塗り、ディッピング法による塗布等の公知の方法から適宜選択することができる。
また、塗布量および塗布回数に特に制限はなく、所望の厚みを有する接着剤層が形成されるように所定量を塗布すればよい。
接着剤含有液を塗布した後、適宜加熱処理することが好ましく、加熱処理は、100℃〜250℃で行うことが好ましく、加熱時間は、1〜10分間であることが好ましい。
【0048】
ニトリルゴム含有液中に含まれるニトリルゴムとしては、目的とするニトリルゴム層を形成し得るものを適宜選択すればよい。
【0049】
ニトリルゴム含有液は、ニトリルゴムを各々所望量有機溶剤に分散、溶解することにより調製することができ、有機溶剤としては、乾燥処理により容易に揮発するものから適宜選択することができる。ニトリルゴム含有液は、加硫剤を含むもであってもよい。
ニトリルゴム含有液の塗布方法に特に制限はなく、ロールコーターやスキマコーター等による塗布等の公知の方法から適宜選択することができる。
また、塗布量および塗布回数に特に制限はなく、所望の厚みを有する接着剤層が形成されるように所定量を塗布すればよい。
接着剤含有液を塗布した後、適宜加熱処理することが好ましく、加熱処理は、150℃〜250℃で行うことが好ましく、加熱時間は、3〜15分間であることが好ましい。上記加熱処理により加硫化を促進することができる。
【0050】
上記方法により、ガスケット用素材を作製することができる。得られたガスケット用素材に対し、さらに適宜所望形状になるように切断、切削処理等の加工処理を施すことにより、ガスケットを得ることができる。
【0051】
本発明によれば、ゴム層の付着性に優れるとともに、不凍液に対する耐性を備え、環境負荷を低減してなるガスケット用素材を提供することができる。
【0052】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
厚さ0.2mm、幅300mm、長さ300mmのステンレス鋼板の片側主表面上に、金属チタン1.8質量%、フッ化水素酸(フッ酸)1.8質量%およびリン酸3.6質量%、アルミナ2.8質量%、溶媒として水90質量%を含む金属表面処理水分散液(固形分換算で、上記金属チタン、酸成分および無機酸化物を、(金属成分および酸成分の体積)/無機酸化物量の体積=80/20の比で含む水分散液)をロールコーターで塗布し、180℃で1分間加熱することにより、ステンレス鋼板上に目付量400g/mの金属表面処理層(固形分換算したときに、金属成分および酸成分の体積/アルミナの体積で表される比で、80/20の比で含むもの)を形成した表面処理鋼板を作製した。
次いで、得られた各表面処理鋼板の金属表面処理層上に、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂4質量%およびレゾール型フェノール樹脂6質量%、溶媒としてMEK(メチルエチルケトン)90質量%を含む接着剤含有液(固形分換算したときに、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を、エポキシ樹脂の体積/フェノール樹脂の体積=40/60の比で含むもの)をロールコーターで塗布し、170℃で1分間加熱することにより、焼付処理を行うことにより、ステンレス鋼板上に上記金属表面処理層および厚さ5μmの接着剤層を順次形成した接着剤層形成鋼板を作製した。
得られた各接着剤層形成鋼板の接着剤層上にニトリルゴム含有液(ニトリルゴム含有割合30質量%)をロールコーターで塗布し、240℃で10分間加熱することにより、ステンレス鋼板上に上記金属処理層、接着剤層および厚さ25μmのニトリルゴム層を順次形成したガスケット用素材を作製した。
得られたガスケット用素材を幅15mm、長さ75mmに2枚切り出し、耐圧容器内に充填したLLC(ホンダ純正スーパー長寿命冷却液・e−ロングライフクーラント(エチレングリコール含有割合50体積%))中に浸漬し、180℃で240時間加熱処理した後、2枚のガスケット用素材を取り出してニトリルゴム層同士を幅15mm、長さ20mmの範囲が重なり合うように瞬間接着剤(田岡化学工業(株)製シアノボンド)で接着し、一方の片方のガスケット用素材の端部を固定した状態で、他方のガスケット用素材の端部を把持して垂直方向に50mm/minの速度で引き上げたときに、両ガスケット用素材の接着部において両者が剥がれたときの荷重を上記重なり部分の面積(15mm×20mm=300mm)で割ることによりせん断強度を求めたところ、25MPaであった。
【0054】
(実施例2)
金属表面処理水分散液として、金属チタン1.0質量%、フッ化水素酸(フッ酸)1.0質量%およびリン酸2.0質量%、無機酸化物であるアルミナ6.0質量%、溶媒として水90質量%を含む金属表面処理水分散液(固形分換算で、上記金属チタン、酸成分および無機酸化物を、金属成分および酸成分の体積/無機酸化物量の体積=50/50の比で含む水分散液)を用いた以外は、実施例1と同様に処理してガスケット用素材(固形分換算したときに、金属成分および酸成分の体積/アルミナの体積で表される比で、50/50の比で含む金属表面処理層を有するもの)を作製した。
得られたガスケット用素材を用いて実施例1と同様にしてせん断強度を求めたところ、21MPaであった。
【0055】
(実施例3)
金属表面処理水分散液として、金属チタン0.8質量%、フッ化水素酸(フッ酸)0.8質量%およびリン酸1.5質量%、無機酸化物であるアルミナ7.0質量%、溶媒として水90質量%を含む金属表面処理水分散液(固形分換算で、上記金属チタン、酸成分および無機酸化物を、金属成分および酸成分の体積/無機酸化物量の体積=40/60の比で含む水分散液)を用いた以外は、実施例1と同様に処理してガスケット用素材(固形分換算したときに、金属成分および酸成分の体積/アルミナの体積で表される比で、40/60の比で含む金属表面処理層を有するもの)を作製した。
得られたガスケット用素材を用いて実施例1と同様にしてせん断強度を求めたところ、18MPaであった。
【0056】
(実施例4)
接着剤含有液として、エポキシ樹脂2.5質量%およびレゾール型フェノール樹脂7.5質量%、溶媒としてMEK90質量%を含む接着剤含有液(固形分換算したときに、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を、エポキシ樹脂の体積/フェノール樹脂の体積=25/75の比で含むもの)を用いた以外は、実施例2と同様に処理してガスケット用素材(固形分換算したときに、金属成分および酸成分の体積/アルミナの体積で表される比で、50/50の比で含む金属表面処理層を有するもの)を作製した。
得られたガスケット用素材を用いて実施例1と同様にしてせん断強度を求めたところ、19MPaであった。
【0057】
(実施例5)
接着剤含有液として、エポキシ樹脂7.5質量%およびレゾール型フェノール樹脂2.5質量%、溶媒としてMEK90質量%を含む接着剤含有液(固形分換算でエポキシ樹脂の体積/フェノール樹脂の体積=75/25であるもの)を用いた以外は、実施例2と同様に処理してガスケット用素材(固形分換算したときに、金属成分および酸成分の体積/アルミナの体積で表される比で、50/50の比で含む金属表面処理層を有するもの)を作製した。
得られたガスケット用素材を用いて実施例1と同様にしてせん断強度を求めたところ、19MPaであった。
【0058】
(比較例1)
接着剤含有液として、レゾール型フェノール樹脂10質量%、溶媒としてMEK90質量%を含む接着剤含有液(固形分換算したときに、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を、エポキシ樹脂の体積/フェノール樹脂の体積=0/100の比で含むもの)を用いた以外は、実施例2と同様に処理してガスケット用素材(固形分換算したときに、金属成分および酸成分の体積/アルミナの体積で表される比で、50/50の比で含む金属表面処理層を有するもの)を作製した。
得られたガスケット用素材を用いて実施例1と同様にしてせん断強度を求めたところ、5MPaであった。
【0059】
(比較例2)
接着剤含有液として、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂10質量%、溶媒としてMEK90質量%を含む接着剤含有液(固形分換算したときに、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂を、エポキシ樹脂の体積/フェノール樹脂の体積=100/0の比で含むもの)を用いた以外は、実施例2と同様に処理してガスケット用素材(固形分換算したときに、金属成分および酸成分の体積/アルミナの体積で表される比で、50/50の比で含む金属表面処理層を有するもの)を作製した。
得られたガスケット用素材を用いて実施例1と同様にしてせん断強度を求めたところ、5MPaであった。
【0060】
(比較例3)
金属表面処理水分散液として、金属チタン2.1質量%、フッ化水素酸(フッ酸)2.1質量%およびリン酸4.2質量%、無機酸化物であるアルミナ1.5質量%、溶媒として水90質量%を含む金属表面処理水分散液(固形分換算で、上記金属チタン、酸成分および無機酸化物を、金属成分および酸成分の体積/無機酸化物量の体積=90/10の比で含む水分散液)を用いた以外は、実施例1と同様に処理してガスケット用素材(固形分換算したときに、金属成分および酸成分の体積/アルミナの体積で表される比で、90/10の比で含む金属表面処理層を有するもの)を作製した。
得られたガスケット用素材を用いて実施例1と同様にしてせん断強度を求めたところ、4MPaであった。
【0061】
(比較例4)
金属表面処理水分散液として、金属チタン0.5質量%、フッ化水素酸(フッ酸)0.5質量%およびリン酸0.9質量%、無機酸化物であるアルミナ8.1質量%、溶媒として水90質量%を含む金属表面処理水分散液(固形分換算で、上記金属チタン、酸成分および無機酸化物を、金属成分および酸成分の体積/無機酸化物量の体積=25/75の比で含む水分散液)を用いた以外は、実施例1と同様に処理してガスケット用素材(固形分換算したときに、金属成分および酸成分の体積/アルミナの体積で表される比で、25/75の比で含む金属表面処理層を有するもの)を作製した。
得られたガスケット用素材を用いて実施例1と同様にしてせん断強度を求めたところ、5MPaであった。
【0062】
(比較例5)
金属表面処理水分散液として、金属チタン1.4質量%、フッ化水素酸(フッ酸)1.4質量%およびリン酸2.8質量%、シリカ4.4質量%、溶媒として水90質量%を含む金属表面処理水分散液(固形分換算で、上記金属チタン、酸成分および無機酸化物を、(金属成分および酸成分の体積)/無機酸化物量の体積=50/50の比で含む水分散液)を用いた以外は、実施例1と同様に処理してガスケット用素材(固形分換算したときに、金属成分および酸成分の体積/シリカの体積で表される比で、50/50の比で含む金属表面処理層を有するもの)を作製した。
得られたガスケット用素材を用いて実施例1と同様にしてせん断強度を求めたところ、7MPaであった。
【0063】
実施例1〜実施例5および比較例1〜比較例5の結果を表1および表2に記載する。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表1の結果から、実施例1〜実施例5で得られた本発明のガスケット用素材は、不凍液に対する耐性を備え、ゴム層の付着性に優れるとともに、クロム化合物を含まない環境負荷を低減し得るものであることが分かる。
【0067】
一方、表2の結果から、比較例1〜比較例5で得られたガスケット用素材は、接着剤層中にエポキシ樹脂およびフェノール樹脂のいずれかを含まないことから、不凍液に対する耐性に劣り、ゴム層の付着性に劣るものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、ゴム層の付着性に優れるとともに、不凍液に対する耐性を備え、環境負荷を低減してなるガスケット用素材を提供することができる。