【解決手段】一対の脚部が内周面にそれぞれ結合した筒部材の第1部が、軸線と直交する方向へ圧縮され、第1部同士が近づけられる。脚部に生じる引張応力を緩和できるので、耐久性を確保できる。一方、第1部以外の筒部材の第2部同士が離されるので、すぐり穴が径方向に伸ばされる。軸部材と筒部材との相対変位に対してストッパ部が早く潰れてばねが硬くならないようにできるので、ストッパ部による動ばね特性を発現させ易くできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1実施の形態における防振ブッシュ10の正面図であり、
図2は
図1のII−II線における防振ブッシュ10の断面図である。
図1及び
図2に示すように防振ブッシュ10は、円筒状に形成される軸部材11と、軸部材11と離隔して軸部材11の径方向の外側に配置される円筒状の筒部材20と、軸部材11と筒部材20とを連結するゴム状弾性体からなる防振基体30とを備えている。
【0013】
本実施の形態における防振ブッシュ10は、トルクロッド(図示せず)の一部を構成する部材である。トルクロッドは、エンジン等の振動発生体側に取り付けられる第1ブッシュと、車体側に取り付けられる第2ブッシュと、それら第1ブッシュ及び第2ブッシュを連結するロッド部材とを備えている。第1ブッシュまたは第2ブッシュのいずれかに防振ブッシュ10が用いられる。
【0014】
軸部材11は、軸線Oに沿って貫通する穴部12が形成された金属製の部材である。穴部12には、軸部材11を相手部材(図示せず)に固定するためのボルト(図示せず)が挿通される。筒部材20は、軸部材11よりも直径が大きい円筒状の金属製の部材である。筒部材20はロッド部材(図示せず)に圧入され固定される。
【0015】
防振基体30は、軸部材11の外周面13と筒部材20の内周面とを連結するゴム状弾性体である。防振基体30は、軸線O方向に貫通する一対のすぐり穴31,32により形成される一対の脚部34と、脚部34同士を連結し軸部材11の外周面13を覆う膜部33と、すぐり穴31,32により膜部33に対してそれぞれ離隔される第1ストッパ部35及び第2ストッパ部36とを備えている。
【0016】
すぐり穴31,32は、軸線Oと直交する第1方向(
図1矢印X方向)及び第1方向と直交する第2方向(
図1矢印Y方向)における防振基体30の剛性を調整するための穴である。すぐり穴31,32は、軸部材11を挟んで第1方向の2か所に形成される。軸部材11を挟んだ2か所にすぐり穴31,32が形成されることにより、軸部材11と筒部材20の第1部21とを連結する脚部34が形成される。
【0017】
筒部材20は、脚部34が結合する一対の第1部21と、第1部21の周方向に隣接する第2部22,23とを備えている。第2部22,23は筒部材20のうちの第1部21以外の部分であり、第2部22,23にすぐり穴31,32がそれぞれ形成される。第2部22の周方向の中央に第1ストッパ部35が形成され、第2部23の周方向の中央に第2ストッパ部36が形成される。第1ストッパ部35及び第2ストッパ部36は、第1方向において軸部材11を挟んで対向する位置に配置されている。すぐり穴31はすぐり穴32に比べて周方向の長さが大きく設定されているので、第2部22は、周方向の長さが、第2部23の周方向の長さよりも大きい。
【0018】
すぐり穴31,32が形成された防振ブッシュ10の第1方向の特性は、第1ストッパ部35及び第2ストッパ部36に膜部33が当たるまでの荷重に対する剛性が低く、第1ストッパ部35及び第2ストッパ部36が潰れた後の荷重に対する剛性が高い非線形特性を示す。
【0019】
図3から
図5を参照して、防振ブッシュ10の製造方法について説明する。
図3は加硫成形体40の正面図である。
図4は変形工程前の状態における絞り金型50の正面図であり、
図5は変形工程後の状態における絞り金型50の正面図である。防振ブッシュ10は、成形工程において加硫成形体40を成形した後、変形工程において加硫成形体40に絞り加工を施すことにより製造される。
【0020】
図3に示す加硫成形体40を製造する成形工程は、加硫金型(図示せず)の下型に軸部材11及び筒部材20をセットした後、上型を型閉めする。これにより、ゴム状弾性体を加硫成形するためのキャビティが形成される。次に、注入孔からゴム状弾性体を注入してキャビティにゴム状弾性体を充填する。加硫金型を加圧・加熱した状態で所定時間保持することで、ゴム状弾性体(防振基体30)が加硫成形され、加硫成形体40が得られる。
【0021】
加硫成形体40は、軸線Oに垂直な断面において、筒部材20が、軸線O(中心)を通る長軸41と短軸42とを有する楕円形状に形成されている。すぐり穴31,32は、筒部材20の長軸41に沿いつつ、軸部材11を挟んで短軸42の方向に配置される。加硫成形体40は、脚部34の径方向における軸43が、長軸41に対して角度θ(θ<45°)だけ傾いている。軸43は、筒部材20の第1部21の周方向における中点と軸線Oとを結ぶ線分である。なお、短軸42は第1方向(矢印X方向)に延び、長軸41は第2方向(矢印Y方向)に延びている。
【0022】
図4に示すように絞り金型50は、加硫成形体40の筒部材20に絞り加工を施すための装置であり、周方向に分割されたダイス片51,52,53と、ダイス片51,52,53を外周側から保持して案内する環状のホルダ(図示せず)とを備えている。ダイス片51,52,53は外周面にテーパ面(図示せず)が形成され、ホルダは、ダイス片51,52,53のテーパ面に対応するテーパ面が内周に形成されている。
【0023】
絞り加工は、プレス装置(図示せず)の台上に設置されたホルダにダイス片51,52,53を保持させ、加硫成形体40をダイス片51,52,53の内側にセットした後、プレス装置の加圧力により、ダイス片51,52,53をホルダ(図示せず)に対して相対移動させる。これによりダイス片51,52,53は、外周面のテーパ面がホルダの内周面のテーパ面によって案内され、加硫成形体40の軸線Oへ向けて互いに接近するように移動する。その結果、加硫成形体40の筒部材20に絞り加工が施される。
【0024】
ダイス片51,52,53は、それぞれ係合部(図示せず)が形成され、その係合部に係合するガイド部(図示せず)がホルダに形成されている。係合部とガイド部とが係合して、ダイス片51,52,53は軸線Oへ向けて直線的に移動する。なお、ダイス片51,52,53とホルダとに形成されるテーパ面の角度は、ダイス片51,52,53がそれぞれ同じ速度で軸線Oへ向けて移動する角度に設定されている。
【0025】
本実施の形態では、絞り金型50は8個のダイス片51,52,53を備えている。ダイス片51,51、ダイス片52,52、ダイス片53,53はそれぞれ内周面を対向させ、それらが放射状に配置されている。ダイス片51,52,53は、内周面が、絞り加工後の筒部材20(即ち、
図1に示す防振ブッシュ10における筒部材20)の外周面に対応する曲率の円弧状に形成されている。
【0026】
変形工程では、成形工程において成形された加硫成形体40が、
図4に示すようにダイス片51,52,53の内周面側に配置される。ダイス片51,52,53は、加硫成形体40の軸線Oから等距離に位置し放射状をなすように、周方向に等しい間隔で配置される。次いで、プレス装置(図示せず)の加圧力により、ダイス片51,52,53を加硫成形体40へ向けて変位させる。
【0027】
図5に示すようにダイス片51は、その内周面を筒部材20の第1部21及び第2部22の端部に当接させ、長軸41(
図3参照)が短くなるように筒部材20の第1部21及び第2部22の端部を縮径する。筒部材20は、第1部21同士が近づいて長軸41が短くなると、塑性変形して第2部22,23が周方向へ伸びる。その結果、軸線Oを挟んで第2部22,23同士が離れ、短軸42(
図3参照)が長くなる。ダイス片53は、その内周面を筒部材20の伸びた第2部22,23に当接させ、短軸42の長さを規制する。ダイス片52は、その内周面を筒部材20の第1部21及び第2部22,23に当接させ、長軸41及び短軸42の長さを規制する。
【0028】
この変形工程により、
図4に示す楕円形状の筒部材20が周方向に塑性変形し、長軸41(
図3参照)を縮径しつつ短軸42が拡径する。その結果、脚部34が結合した筒部材20の第1部21が、長軸41の方向(矢印Y方向)へ圧縮され、第1部21同士が近づけられる。防振ブッシュ10は脚部34が径方向に予圧縮されるので、脚部34に経時的に生じる径方向の引張応力を緩和できる。その結果、防振基体30の耐久性を確保できる。
【0029】
一方、筒部材20の短軸42(
図3参照)が拡径することにより、第1部21以外の筒部材20の第2部22,23同士が離されるので、すぐり穴31,32が径方向(矢印X方向)に伸ばされる。よって、軸部材11と筒部材20との第1方向(矢印X方向)の相対変位に対して、第1ストッパ部35及び第2ストッパ部36が膜部33に接触してから第1ストッパ部35及び第2ストッパ部36が潰れてばねが硬くなるまでの脚部34のたわみ量を大きくできる。その結果、第1ストッパ部35及び第2ストッパ部36が動ばね特性を発揮できる期間を確保できるので、第1ストッパ部35及び第2ストッパ部36による低動ばね特性を発現させ易くできる。脚部34が結合する筒部材20の第1部21が縮径され、すぐり穴31,32が形成される第2部22,23は拡径されるので、耐久性を確保しつつ第1ストッパ部35及び第2ストッパ部36による動ばね特性を発現させ易くできる。
【0030】
変形工程において加硫成形体40の筒部材20が最も大きく縮径する長軸41(
図3参照)と脚部34の軸43との角度θが45°より小さいので、脚部34のうち径方向に圧縮される領域の体積を、径方向に引っ張られる領域(第2部23に近い部分)の体積より大きくできる。径方向の圧縮応力が生じる脚部34の体積を確保できるので、脚部34の耐久性を確保できる。
【0031】
図6は防振ブッシュ10の荷重−たわみ曲線である。
図6は、横軸に第1方向(
図1の矢印X方向)のたわみ量をとり、縦軸に荷重をとる。実線は防振ブッシュ10の荷重−たわみ曲線であり、破線は加硫成形体40の荷重−たわみ曲線である。
図6の第1象限に脚部34及び第1ストッパ部35による特性が図示され、
図6の第3象限に脚部34及び第2ストッパ部36による特性が図示されている。
【0032】
防振ブッシュ10は、加硫成形体40に比べて、すぐり穴31,32が第1方向(矢印X方向)に大きいので、荷重が急激に増大するまでの脚部34のたわみ量を大きくできる。よって、その分だけ、第1ストッパ部35及び第2ストッパ部36による動ばね特性を発現させ易くできる。また、すぐり穴31,32を第1方向(矢印X方向)に大きくできるので、ばね特性のチューニングを容易にできる。
【0033】
次に
図7から
図11を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では円筒状の筒部材20を有する防振ブッシュ10について説明した。これに対し第2実施の形態では、角筒状の筒部材70を有する防振ブッシュ60について説明する。
図7は第2実施の形態における防振ブッシュ60の正面図であり、
図8は
図7のVIII−VIII線における防振ブッシュ60の断面図である。
【0034】
図7及び
図8に示すように防振ブッシュ60は、円筒状に形成される軸部材61と、軸部材61と離隔して軸部材61の径方向の外側に配置される角筒状の筒部材70と、軸部材61と筒部材70とを連結するゴム状弾性体からなる防振基体80とを備えている。
【0035】
本実施の形態における防振ブッシュ60は、トルクロッド(図示せず)の一部を構成する部材である。トルクロッドは、エンジン等の振動発生体側に取り付けられる第1ブッシュと、車体側に取り付けられる第2ブッシュと、それら第1ブッシュ及び第2ブッシュを連結するロッド部材とを備えている。第1ブッシュまたは第2ブッシュのいずれかに防振ブッシュ60が用いられる。
【0036】
軸部材61は、軸線Oに沿って貫通する穴部62が形成された金属製の部材である。穴部62には、軸部材61を相手部材(図示せず)に固定するためのボルト(図示せず)が挿通される。軸部材61は、軸部材61の外周面から径方向の外側へ向かって突出する補強部64が設けられている。補強部64は、ゴム状弾性体よりもヤング率の大きい部材であり、本実施の形態では金属製のブロックである。補強部64は、溶接により軸部材61に接合されている。
【0037】
筒部材70は、軸部材61を囲み軸部材61と離間して配置される角筒状の金属製の部材である。筒部材70はロッド部材(図示せず)に圧入され固定される。筒部材70は、軸部材61を第2方向(
図7矢印Y方向)に挟んで平行に配置される平板状の一対の第1部71と、第1部71に対して直交する平板状の一対の第2部72,73と、を備えている。第2部72は、軸部材61を第1方向(
図7矢印X方向)に挟んで平行に配置されている。第1部71は、周方向の長さが、第2部72の周方向の長さよりも長く設定されている。
【0038】
筒部材70は、90°に屈曲する曲面部が4隅に設けられている。第1部71及び第2部72,73は曲面部を介して、周方向に滑らかに連絡する。補強部64は、第1部71の周方向(矢印X方向)に沿って延びている。
【0039】
防振基体80は、軸部材61の外周面63及び補強部64と筒部材70の内周面とを連結するゴム状弾性体である。防振基体80は、軸線O方向に貫通する一対のすぐり穴81,82により形成される一対の脚部84と、脚部84同士を連結し筒部材70の内周面を覆う膜部83と、すぐり穴81,82により膜部83に対してそれぞれ離隔される第1ストッパ部85及び第2ストッパ部86とを備えている。
【0040】
すぐり穴81,82は、軸線Oと直交する第1方向(矢印X方向)及び第1方向と直交する第2方向(矢印Y方向)における防振基体80の剛性を調整するための穴である。すぐり穴81,82は、軸部材61を挟んで第1方向の2か所に形成される。軸部材61を挟んだ2か所にすぐり穴81,82が形成されることにより、軸部材61と筒部材70の第1部71とを連結する一対の脚部84が形成される。脚部84は、軸部材61及び補強部64と筒部材70の第1部71とを結合する。すぐり穴81,82は、第2部72,73にそれぞれ形成される。
【0041】
第1ストッパ部85は、軸部材61の外周面63に形成され、第2部72の周方向の中央に向かって軸部材61から突出する。第1ストッパ部85は、すぐり穴81によって膜部83と離間する。第2ストッパ部86は、補強部64の先端に形成され、第2部73の周方向の中央に向かって補強部64から突出する。第2ストッパ部86は、すぐり穴82によって膜部83と離間する。第1ストッパ部85及び第2ストッパ部86は、第1方向(矢印X方向)において軸部材61を挟んで相反する位置に配置されている。
【0042】
すぐり穴81,82が形成された防振ブッシュ60の第1方向の特性は、第1ストッパ部85及び第2ストッパ部86に膜部83が当たるまでの荷重に対する剛性が低く、第1ストッパ部85及び第2ストッパ部86が潰れた後の荷重に対する剛性が高い非線形特性を示す。
【0043】
図9から
図11を参照して、防振ブッシュ60の製造方法について説明する。
図9は加硫成形体90の正面図である。
図10は変形工程前の状態における絞り金型100の正面図であり、
図11は変形工程後の状態における絞り金型100の正面図である。防振ブッシュ60は、成形工程において加硫成形体90を成形した後、変形工程において加硫成形体90に絞り加工を施すことにより製造される。
【0044】
図9に示す加硫成形体90を製造する成形工程は、加硫金型(図示せず)の下型に補強部64を一体化した軸部材61及び筒部材70をセットした後、上型を型閉めする。これにより、ゴム状弾性体を加硫成形するためのキャビティが形成される。次に、注入孔からゴム状弾性体を注入してキャビティにゴム状弾性体を充填する。加硫金型を加圧・加熱した状態で所定時間保持することで、ゴム状弾性体(防振基体80)が加硫成形され、加硫成形体90が得られる。
【0045】
図10に示すように絞り金型100は、加硫成形体90の筒部材70に絞り加工を施すための装置であり、周方向に分割されたダイス片101,102,103と、ダイス片101,102,103を外周側から保持して案内する環状のホルダ(図示せず)とを備えている。ダイス片101,102,103は外周面にテーパ面(図示せず)が形成され、ホルダは、ダイス片101,102,103のテーパ面に対応するテーパ面が内周に形成されている。
【0046】
絞り加工は、プレス装置(図示せず)の台上に設置されたホルダにダイス片101,102,103を保持させ、加硫成形体90をダイス片101,102,103の内側にセットした後、プレス装置の加圧力により、ダイス片101,102,103をホルダ(図示せず)に対して相対移動させる。これによりダイス片101,102,103は、外周面のテーパ面がホルダの内周面のテーパ面によって案内され、加硫成形体90の中心へ向けて互いに接近するように移動する。その結果、加硫成形体90の筒部材70に絞り加工が施される。
【0047】
ダイス片101,102,103は、それぞれ係合部(図示せず)が形成され、その係合部に係合するガイド部(図示せず)がホルダに形成されている。係合部とガイド部とが係合して、ダイス片101,102,103は中心へ向けて直線的に移動する。なお、ダイス片101,102,103とホルダとに形成されるテーパ面の角度は、ダイス片101,102,103がそれぞれ同じ速度で中心へ向けて移動する角度に設定されている。
【0048】
本実施の形態では、絞り金型100は8個のダイス片101,102,103を備えている。ダイス片101,101、ダイス片103,103はそれぞれ内周面を対向させて配置されている。ダイス片102は、ダイス片101とダイス片103との間に配置される。ダイス片101,102,103は、内周面が、絞り加工後の筒部材70(即ち、
図7に示す防振ブッシュ60における筒部材70)の外周面に対応する曲率に形成されている。
【0049】
変形工程では、成形工程において成形された加硫成形体90が、
図10に示すようにダイス片101,102,103の内周面側に配置される。次いで、プレス装置(図示せず)の加圧力により、ダイス片101,102,103を加硫成形体90へ向けて変位させる。
【0050】
図11に示すようにダイス片101は、その内周面を筒部材70の第1部71に当接させ、第1部71,71の間隔が小さくなるように筒部材70を第2方向(矢印Y方向)へ縮径する。筒部材70は、第1部71同士が第2方向(矢印Y方向)に近づくと、曲面部が塑性変形して周方向へ伸び、軸線Oを挟んで第2部72,73同士が第1方向(矢印X方向)へ離れる。ダイス片103は、その内周面を筒部材70の伸びた第2部72,73に当接させ、第2部72,73の位置を規制する。ダイス片102は、その内周面を筒部材70の4隅の曲面部に当接させ、曲面部の位置を規制する。
【0051】
この変形工程により、
図9に示す矩形状の筒部材70が周方向に塑性変形し、第1部71,71の間隔が小さくなり、第2部72,73の間隔が大きくなる。その結果、脚部84が結合した筒部材70の第1部71が第2方向(矢印Y方向)へ圧縮される。防振ブッシュ60は脚部84が径方向に予圧縮されるので、脚部84に経時的に生じる径方向の引張応力を緩和できる。その結果、防振基体80の耐久性を確保できる。
【0052】
一方、筒部材70の第2部72,73の間隔が大きくなることにより、すぐり穴81,82が第1方向(矢印X方向)に伸ばされる。よって、軸部材61と筒部材70との第1方向(矢印X方向)の相対変位に対して、第1ストッパ部85及び第2ストッパ部86が膜部83に接触してから第1ストッパ部85及び第2ストッパ部86が潰れてばねが硬くなるまでの脚部84のたわみ量を大きくできる。その結果、第1ストッパ部85及び第2ストッパ部86が動ばね特性を発揮できる期間を確保できるので、第1ストッパ部85及び第2ストッパ部86による低動ばね特性を発現させ易くできる。よって、耐久性を確保しつつ第1ストッパ部85及び第2ストッパ部86による動ばね特性を発現させ易くできる。
【0053】
防振ブッシュ60は、軸線Oと直交する断面において、筒部材70は、第1部71に対して第2部72が直交するので、変形工程において、筒部材70の第1部71が軸線Oと直交する方向(矢印Y方向)へ圧縮されるときに、脚部84の広い範囲に圧縮応力を生じ難くできる。よって、脚部84に経時的に生じる引張応力を緩和できるので、耐久性をさらに向上できる。
【0054】
防振ブッシュ60は、軸部材61から第1部71の周方向に沿って補強部64が延び、第1部71の周方向の長さは、第2部72の周方向の長さよりも長く設定される。軸部材61及び補強部64と第1部71とを結合する一対の脚部84は、補強部64があるので変形工程において圧縮応力を生じさせ易くできる。さらに、補強部64があるので、軸部材61及び補強部64と第1部71とを結合する脚部84の体積を大きくできる。予圧縮される脚部84のゴムボリュームを大きくできるので、脚部84の耐久性を向上できる。
【0055】
次に
図12から
図14を参照して第3実施の形態について説明する。第1実施の形態では、円筒状の筒部材20を有する防振ブッシュ10について説明した。これに対し第3実施の形態では、楕円筒状の筒部材120を有する防振ブッシュ110について説明する。なお、第1実施の形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0056】
図12は第3実施の形態における防振ブッシュ110の正面図である。
図12に示すように防振ブッシュ110は、円筒状に形成される軸部材11と、軸部材11と離隔して軸部材11の径方向の外側に配置される楕円筒状の筒部材120と、軸部材11と筒部材120とを連結するゴム状弾性体からなる防振基体130とを備えている。本実施の形態における防振ブッシュ110は、第1実施の形態と同様に、トルクロッド(図示せず)の一部を構成する部材である。
【0057】
防振基体130は、軸部材11の外周面13と筒部材120の内周面とを連結するゴム状弾性体である。防振基体130は、軸線O方向に貫通する一対のすぐり穴131,132により形成される一対の脚部134と、脚部134同士を連結し軸部材11の外周面13を覆う膜部133と、すぐり穴131,132により膜部133に対してそれぞれ離隔される第1ストッパ部135及び第2ストッパ部136とを備えている。
【0058】
すぐり穴131,132は、軸線Oと直交する第1方向(
図12矢印X方向)及び第1方向と直交する第2方向(
図12矢印Y方向)における防振基体130の剛性を調整するための穴である。すぐり穴131,132は、軸部材11を挟んで第1方向の2か所に形成される。軸部材11を挟んだ2か所にすぐり穴131,132が形成されることにより、軸部材11と筒部材120の第1部121とを連結する脚部134が形成される。
【0059】
筒部材120は、脚部134が結合する一対の第1部121と、第1部121の周方向に隣接する第2部122,123とを備えている。第2部122,123は筒部材120のうちの第1部121以外の部分であり、第2部122,123にすぐり穴131,132がそれぞれ形成される。第2部122の周方向の中央に第1ストッパ部135が形成され、第2部123の周方向の中央に第2ストッパ部136が形成される。第1ストッパ部135及び第2ストッパ部136は、第1方向において軸部材11を挟んで対向する位置に配置されている。すぐり穴131はすぐり穴132に比べて周方向の長さが大きく設定されているので、第2部122は、周方向の長さが、第2部123の周方向の長さよりも大きい。
【0060】
図13及び
図14を参照して、防振ブッシュ110の製造方法について説明する。
図13は変形工程前の状態における絞り金型150の正面図であり、
図14は変形工程後の状態における絞り金型150の正面図である。防振ブッシュ110は、成形工程において加硫成形体140を成形した後、変形工程において加硫成形体140に絞り加工を施すことにより製造される。
【0061】
図13に示す加硫成形体140を製造する成形工程は、加硫金型(図示せず)の下型に軸部材11及び筒部材120をセットした後、上型を型閉めする。これにより、ゴム状弾性体を加硫成形するためのキャビティが形成される。次に、注入孔からゴム状弾性体を注入してキャビティにゴム状弾性体を充填する。加硫金型を加圧・加熱した状態で所定時間保持することで、ゴム状弾性体(防振基体130)が加硫成形され、加硫成形体140が得られる。
【0062】
加硫成形体140は、軸線Oに垂直な断面において、筒部材120が円形に形成されている。加硫成形体140は、脚部134の径方向における軸143のなす角θが、90°より大きく180°より小さい角度に設定されている。軸143は、筒部材120の第1部121の周方向における中点と軸線Oとを結ぶ線分である。
【0063】
絞り金型150は、加硫成形体140の筒部材120に絞り加工を施すための装置であり、周方向に分割されたダイス片151,152,153と、ダイス片151,152,153を外周側から保持して案内する環状のホルダ(図示せず)とを備えている。絞り加工は、プレス装置(図示せず)の台上に設置されたホルダにダイス片151,152,153を保持させ、加硫成形体140をダイス片151,152,153の内側にセットした後、プレス装置の加圧力により、ダイス片151,152,153をホルダ(図示せず)に対して相対移動させる。加硫成形体40の軸線Oへ向けて互いに接近するようにダイス片151,152,153を移動させ、加硫成形体140の筒部材120に絞り加工を施す。
【0064】
本実施の形態では、絞り金型150は8個のダイス片151,152,153を備えている。ダイス片151,151、ダイス片152,152、ダイス片153,153はそれぞれ内周面を対向させ、それらが放射状に配置されている。ダイス片151,152,153は、内周面が、絞り加工後の筒部材120(即ち、
図12に示す防振ブッシュ110における筒部材20)の外周面に対応する曲率の円弧状に形成されている。
【0065】
変形工程では、成形工程において成形された加硫成形体140が、
図13に示すようにダイス片151,152,153の内周面側に配置される。次いで、プレス装置(図示せず)の加圧力により、ダイス片151,152,153を加硫成形体140へ向けて変位させる。
【0066】
図14に示すようにダイス片151は、その内周面を筒部材120の第1部121及び第2部22の端部に当接させ、筒部材120の第1部121及び第2部122を縮径する。筒部材120は、第1部121同士が近づくと、塑性変形して第2部122,123が周方向へ伸びる。その結果、軸線Oを挟んで第2部122,123同士が離れる。ダイス片153は、その内周面を筒部材120の第2部122,123に当接させ、第2部122,123の塑性変形を規制する。ダイス片152は、その内周面を筒部材120の第1部121及び第2部122,123に当接させ、第1部121及び第2部122,123の塑性変形を規制する。
【0067】
この変形工程により、
図13に示す円形状の筒部材120が楕円形状に塑性変形する。その結果、脚部134が結合した筒部材120の第1部121が径方向の内側へ圧縮され、第1部121同士が近づけられる。防振ブッシュ110は脚部134が径方向に予圧縮されるので、脚部134に経時的に生じる径方向の引張応力を緩和できる。その結果、防振基体130の耐久性を確保できる。
【0068】
一方、筒部材120の第2部22,23が拡径されるので、すぐり穴131,132が径方向(矢印X方向)に伸ばされる。よって、軸部材11と筒部材120との第1方向(矢印X方向)の相対変位に対して、第1ストッパ部135及び第2ストッパ部136が膜部133に接触してから第1ストッパ部135及び第2ストッパ部136が潰れてばねが硬くなるまでの脚部134のたわみ量を大きくできる。その結果、第1ストッパ部135及び第2ストッパ部136が動ばね特性を発揮できる期間を確保できるので、第1ストッパ部135及び第2ストッパ部136による低動ばね特性を発現させ易くできる。
【0069】
脚部134が結合する筒部材120の第1部121が縮径され、すぐり穴131,132が形成される第2部122,123は拡径されるので、耐久性を確保しつつ第1ストッパ部135及び第2ストッパ部136による動ばね特性を発現させ易くできる。
【0070】
脚部134の軸143のなす角θが、90°より大きく180°より小さく設定されているので、変形工程において、脚部134のうち径方向に圧縮される領域の体積を、径方向に引っ張られる領域(第2部123に近い部分)の体積より大きくできる。径方向の圧縮応力が生じる脚部134の体積を確保できるので、脚部134の耐久性を確保できる。
【0071】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、軸部材11,61、筒部材20,70,120及びすぐり穴31,32,81,82,131,132の大きさや形状等は適宜設定できる。
【0072】
上記各実施の形態では、ダイス片51,52,53,101,102,103がそれぞれ同じ速度で筒部材20,70へ向けて移動する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。一部のダイス片を他のダイス片と異なる速度で移動させることは当然可能である。
【0073】
上記第1実施の形態および第3実施の形態では、第1ストッパ部35,135及び第2ストッパ部36,136が筒部材20,120に設けられる場合、第2実施の形態では、第1ストッパ部85及び第2ストッパ部86が軸部材61及び補強部64に設けられる場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではない。第1実施の形態および第3実施の形態において、第1ストッパ部35,135及び第2ストッパ部36,136を軸部材11に設けることは当然可能である。また、第2実施の形態において、第1ストッパ部85及び第2ストッパ部86を筒部材70に設けることは当然可能である。