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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-91844(P2018-91844A)
(43)【公開日】2018年6月14日
(54)【発明の名称】α−シヌクレイン検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20180518BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20180518BHJP
【FI】
   G01N33/53 D
   C07K14/47ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2017-228820(P2017-228820)
(22)【出願日】2017年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2016-231861(P2016-231861)
(32)【優先日】2016年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】西田 教行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克也
(72)【発明者】
【氏名】新 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】布施 隆行
(72)【発明者】
【氏名】佐野 和憲
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA45
4H045EA50
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】α−シヌクレイノパチーと他の認知症等との鑑別及び鑑別の補助に有用なα−シヌクレインの検出方法、及びα−シヌクレイノパチーの診断を補助及び診断を補助する方法を提供すること。
【解決手段】(1)緩衝液中で、生体試料と正常α−シヌクレインとを混合し、反応混合液を得る工程;
(2)反応混合液をインキュベーションして、生体試料中の異常α−シヌクレインをシードとしたα−シヌクレインの凝集体を形成する工程;及び
(3)形成されたα−シヌクレインの凝集体を検出する工程、
を含む、生体試料中の異常α−シヌクレインを検出する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)緩衝液中で、生体試料と正常α−シヌクレインとを混合し、反応混合液を得る工程;
(2)反応混合液をインキュベーションして、生体試料中の異常α−シヌクレインをシードとしたα−シヌクレインの凝集体を形成する工程;及び
(3)形成されたα−シヌクレインの凝集体を検出する工程、
を含む、生体試料中の異常α−シヌクレインを検出する方法。
【請求項2】
(1)緩衝液中で、生体試料と正常α−シヌクレインとを混合し、反応混合液を得る工程;
(2)反応混合液をインキュベーションして、生体試料中の異常α−シヌクレインをシードとしたα−シヌクレインの凝集体を形成する工程;及び
(3)形成されたα−シヌクレインの凝集体を検出する工程、
を含む、α−シヌクレイノパチーの診断を補助する方法。
【請求項3】
正常α−シヌクレインが組換えα−シヌクレイン、又は精製α−シヌクレインである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
生体試料が脳組織サンプルである、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
生体試料が血液、血漿、血清、白血球又は脳脊髄液サンプルである、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
反応混合液中の正常α−シヌクレインの濃度が、120μg/mL〜150μg/mLである、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
緩衝液がpH7.2〜7.8の緩衝液である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
緩衝液がHEPES緩衝液である、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程(2)において、反応混合液を震盪することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
α−シヌクレインの凝集体の形成が、震盪期間及び無震盪期間のサイクルで行われる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
サイクルが、全体で3分間である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
α−シヌクレインの凝集体が、抗体を用いて検出される、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
抗体が抗α−シヌクレインポリクローナル抗体、抗α−シヌクレインモノクローナル抗体若しくは抗Ser129リン酸化α−シヌクレインモノクローナル抗体である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
(3)の工程が、形成されたα−シヌクレインの凝集体を定量することを含む、請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
(3)の工程が、ウェスタンブロット法を含む、請求項1〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
(3)の工程が、蛍光分光法を含む、請求項1〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
α−シヌクレインの凝集体を検出する段階がチオフラビンT(ThT)の使用を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
検出が、10分毎に行われる、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
α−シヌクレイノパチーと、他の認知障害を伴う疾患との鑑別を補助するための方法である、請求項2〜18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
α−シヌクレイノパチーが、レビー小体病、又は多系統萎縮症である、請求項2〜19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
レビー小体病が、レビー小体型認知症、パーキンソン病、若しくはびまん性新皮質型レビー小体型認知症である、請求項20記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−シヌクレインの検出方法、特に線維化したα−シヌクレインの凝集体を検出する方法、レビー小体病等のα−シヌクレイノパチーの診断を補助するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳における大量のミスフォールドタンパク質の蓄積は、大抵の神経変性疾患の決定的な特徴である。レビー小体型認知症(DLB)及びパーキンソン病(PD)等のレビー小体病(LBD)は、主に凝集したα−シヌクレイン(αSyn)で構成され、細胞質の線維状封入体であるレビー小体(LB)の存在を特徴とする。病原性のメカニズムは完全に解明されていないが、LBDはニューロンにおけるLB、即ち凝集したαSyn蓄積によって起こると考えられる。
【0003】
LB中のα−Syn凝集体の大部分は、セリン129(Ser129)でリン酸化されるが、正常な脳中のαSynは殆どリン酸化されない。Ser129におけるリン酸化はLBDの病理学的特徴であり、LB形成及びLBDの発症に極めて重要な可能性がある。報告では、Ser129のリン酸化により組換えαSyn(r−αSyn)の重合が促進された(Fujiwara et al.,2002(非特許文献1))。野生型(WT)r−αSynの過剰発現により、培養細胞内でLB様封入体の著しい蓄積が誘導されたが、Ser129をアラニンに置換した(S129A)リン酸化不能な変異体ではそうならなかった(Smith et al.,2005(非特許文献2))。Ser129リン酸化によってr−αSyn線維化が阻害され(Paleologou et al.,2008(非特許文献3))、S129Aの変異によりショウジョウバエモデルにおいて封入体形成が増加する(Chen and Feany,2005(非特許文献4))ことが、他のグループにより証明された。ショウジョウバエを用いた研究により、封入体数が、ドーパミン作動性ニューロンへの毒性と逆相関することも明らかになったが、このことにより封入体が神経毒性を予防することが示される(Chen and Feany,2005(非特許文献4))。しかし、WT αSyn及び変異体αSynを過剰発現するために組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を用いたラットモデルにおける研究により、非リン酸化αSynが、リン酸化型よりも、ドーパミン作動性ニューロンに対する重篤な毒性に関連すること(Azeredo da Silveira et al.,2009(非特許文献5);Gorbatyuk et al.,2008(非特許文献6))、両型間で神経毒性には有意差がないこと(McFarland et al.,2009(非特許文献7))が示された。従って、LBD発症におけるαSynのSer129リン酸化の重要性は殆ど理解されていないままである。
【0004】
Braak及び共同研究者による死後研究により、LBの病変は最初は延髄及び嗅球に生じ、次いで中脳及び大脳辺縁系領域に拡張し、その後PDにおいては新皮質領域に広がることが示された(Braak et al.,2003(非特許文献8))。更に、該病理学的段階は病変の進行及び臨床症状に密接に結びつくようである(Braak et al.,2005(非特許文献9))。脳におけるLBの広がりにより、病的なαSynがプリオンのように伝播する能力を保持することが示唆される。移植研究により、PD患者の線条体に移植された胎児中脳の正常なニューロンにLBが存在する証拠がもたらされたが、このことにより、病変が、宿主脳から、移植された健康な脳へと伝播し得ることが示される(Kordower et al.,2008(非特許文献10);Li et al.,2008(非特許文献11))。その上、運動異常を示すヒトαSynのA53T変異体トランスジェニック(Tg)マウス由来の病変脳ホモジネートの、WT(Luk et al.,2012b(非特許文献12))及びA53T Tgマウス(Luk et al.,2012b(非特許文献12);Mougenot et al.,2012(非特許文献13);Watts et al.,2013(非特許文献14))への接種により、内在性αSyn由来LB様凝集体及び細胞間の拡散がもたらされ、A53T Tgマウスが示す生存期間が減少した(Luk et al.,2012b(非特許文献12))。DLB患者由来の脳抽出物を接種したWTマウス(Masuda−Suzukake et al.,2013(非特許文献15))及び多系統萎縮症(MSA)患者由来の脳ホモジネートを接種したA53T Tgマウス(Watts et al.,2013(非特許文献14))においても、同様のプリオン様現象が誘導された。更に、人工的に形成された線維化r−αSynの導入により、初代ニューロン(Volpicelli−Daley et al.,2011(非特許文献16))及びWTマウス(Luk et al.,2012a(非特許文献17))において、病変αSynの細胞間伝達が誘発され、運動障害をもたらすドーパミンニューロン喪失が発症した。これらの報告により、αSynがプリオンのように挙動することが示唆された。
【0005】
本発明者らは以前、「シード依存的異常凝集タンパク高感度増幅法(real−time quaking−induced conversion(RT−QUIC))」と命名した、組織及び体液におけるプリオン検出のためのin vitro増幅技術を開発した。このアッセイにおいて、シードとしての異常型プリオンタンパク質と基質としての組換えプリオンタンパク質を混和後、撹拌による連続的な反応を行うことでアミロイド形成が誘発され、プリオンの伝播のメカニズムと考えられる核依存的な自己触媒反応を経時的に観察することが可能となった(Atarashi et al.,2011(非特許文献18))。
【0006】
最近、r−αSynのプリオン様構造変換を検出するためにRT−QUICアッセイを用いる方法が報告された(Fairfoul,G.et al.,2016(非特許文献19))が、当該方法では検出に少なくとも48時間程度を要し、より迅速な検出が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fujiwara,H.,Hasegawa,M.,Dohmae,N.,Kawashima,A.,Masliah,E.,Goldberg,M.S.,Shen,J.,Takio,K.,and Iwatsubo,T.(2002).alpha−Synuclein is phosphorylated in synucleinopathy lesions.Nature cell biology 4,160−164.
【非特許文献2】Smith,W.W.,Margolis,R.L.,Li,X.,Troncoso,J.C.,Lee,M.K.,Dawson,V.L.,Dawson,T.M.,Iwatsubo,T.and Ross,C.A.(2005).Alpha−synuclein phosphorylation enhances eosinophilic cytoplasmic inclusion formation in SH−SY5Y cells.The Journal of neuroscience:the official journal of the Society for Neuroscience 25,5544−5552.
【非特許文献3】Paleologou,K.E.,Schmid,A.W.,Rospigliosi,C.C.,Kim,H.Y.,Lamberto,GR.,Fredenburg,R.A.,Lansbury,P.T.,Jr.,Fernandez,C.O.,Eliezer,D.,Zweckstetter,M.,et al.(2008).Phosphorylation at Ser−129 but not the phosphomimics S129E/D inhibits the fibrillation of alpha−synuclein.The Journal of biological chemistry 283,16895−16905.
【非特許文献4】Chen,L.,and Feany,M.B.(2005).Alpha−synuclein phosphorylation controls neurotoxicity and inclusion formation in a Drosophila model of Parkinson disease.Nature neuroscience 8,657−663.
【非特許文献5】Azeredo da Silveira, S.,Schneider,B.L.,Cifuentes−Diaz,C.,Sage,D.,Abbas−Terki,T.,Iwatsubo,T.,Unser,M.,and Aebischer,P.(2009).Phosphorylation does not prompt,nor prevent, the formation of alpha−synuclein toxic species in a rat model of Parkinson’s disease. Human molecular genetics 18, 872−887.
【非特許文献6】Gorbatyuk.O.S.,Li,S.,Sullivan,L.F.,Chen,W.,Kondrikova,G.,Manfredsson,F.P.,Mandel,R.J.,and Muzyczka,N.(2008).The phosphorylation state of Ser−129 in human alpha−synuclein determines neurodegeneration in a rat model of Parkinson disease.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 105,763−768.
【非特許文献7】McFarland,N.R.,Fan,Z.,Xu,K.,Schwarzschild,M.A.,Feany,M.B.,Hyman,B.T.,and McLean,P.J.(2009).Alpha−synuclein S129 phosphorylation mutants do not alter nigrostriatal toxicity in a rat model of Parkinson disease.Journal of neuropathology and experimental neurology 68,515−524.
【非特許文献8】Braak,H.,Del Tredici,K.,Rub,U.,de Vos,R.A.,Jansen Steur,E.N.,and Braak,E.(2003).Staging of brain pathology related to sporadic Parkinson’s disease.Neurobiology of aging 24,197−211.
【非特許文献9】Braak,H.,Rub,U.,Jansen Steur,E.N.,Del Tredici,K.,and de Vos,R.A.(2005).Cognitive status correlates with neuropathologic stage in Parkinson disease.Neurology 64,1401−1410.
【非特許文献10】Kordower,J.H.,Chu,Y.,Hauser,R.A.,Freeman,T.B.,and Olanow, C.W.(2008).Lewy body−like pathology in long−term embryonic nigral transplants in Parkinson’s disease.Nature medicine 14,504−506.
【非特許文献11】Li,J.Y.,Englund,E.,Holton,J.L.,Soulet,D.,Hagell,P.,Lees,A.J.,Lashley,T.,Quinn,N.P.,Rehncrona,S.,Bjorklund,A.,et al.(2008).Lewy bodies in grafted neurons in subjects with Parkinson’s disease suggest host−to−graft disease propagation.Nature medicine 14,501−503.
【非特許文献12】Luk,K.C.,Kehm,V.M.,Zhang,B.,O’Brien,P.,Trojanowski,J.Q.,and Lee,V.M.(2012b).Intracerebral inoculation of pathological alpha−synuclein initiates a rapidly progressive neurodegenerative alpha−synucleinopathy in mice,The Journal of experimental medicine 209,975−986.
【非特許文献13】Mougenot,A.L.,Nicot,S.,Bencsik,A.,Morignat,E.,Verchere,J.,Lakhdar,L.,Legastelois,S.,and Baron,T.(2012).Prion−like acceleration of a synucleinopathy in a transgenic mouse model.Neurobiology of aging 33,2225−2228.
【非特許文献14】Watts,J.C.,Giles,K.,Oehler,A.,Middleton,L.,Dexter,D.T.,Gentleman,S.M.,DeArmond,S.J.,and Prusiner,S.B.(2013).Transmission of multiple system atrophy prions to transgenic mice.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 110,19555−19560.
【非特許文献15】Masuda−Suzukake,M.,Nonaka,T.,Hosokawa,M.,Oikawa,T.,Arai,T.,Akiyama,H.,Mann,D.M.,and Hasegawa,M.(2013).Prion−like spreading of pathological alpha−synuclein in brain.Brain:a journal of neurology 136,1128−1138.
【非特許文献16】Volpicelli−Daley,L.A.,Luk,K.C.,Patel,T.P.,Tanik,S.A.,Riddle,D.M.,Steiber,A.,Meaney,D.F.,Trojanowski,J.Q.and Lee,V.M.(2011).Exogenous alpha−synuclein fibrils induce Lewy body pathology leading to synaptic dysfunction and neuron death.Neuron 72,57−71.
【非特許文献17】Luk,K.C.,Kehm,V.,Carroll,J.,Zhang,B.,O’Brien,P.,Trojanowski,J.Q.,and Lee,V.M.(2012a).Pathological alpha−synuclein transmission initiates Parkinson−like neurodegeneration in nontransgenic mice,Science(New York,NY)338,949−953.
【非特許文献18】Atarashi,R.,Satoh,K.,Sano,K.,Fuse,T.,Yamaguchi,N.,Ishibashi,D.,Matsubara,T.,Nakagaki,T.,Yamanaka,H.,Shirabe,S.,et. al.(2011).Ultrasensitive human prion detection in cerebrospinal fluid by real−time quaking−induced conversion.Nature medicine 17,175−178.
【非特許文献19】Fairfoul,G.et al.,(2016).Alpha−synuclein RT−QuIC in the CSF of patients with alpha−synucleinopathies. Annals of Clinical and Translational Neurology doi: 10.1002/acn3.338.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アルツハイマー病の場合、症状の発症前でも、髄液の検査や、陽電子放射断層撮影(PET)によってアミロイドが検出できる可能性がある。アルツハイマー病ではアミロイド凝集が早期に起こるためにPET検査の有用性が知られている。これに対して、レビー小体型認知症等のα−シヌクレイノパチーは、現在、症状等から他の疾患と鑑別する方法は開発が進んでいるが、症状発症前に迅速に鑑別することは困難である。本発明は、早期に、且つ迅速に、レビー小体病等のα−シヌクレイノパチーを診断することを可能にする、被験体からのα−シヌクレイン、特に重合もしくは、線維化した異常凝集するα−シヌクレインを検出する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、RT−QUICアッセイを用いて、r−αSynのプリオン様構造変換が、DLB患者由来の脳組織によって誘導されるか否かを調べるために研究を行った。更に、本発明者らは、基質αSynのSer129リン酸化が、凝集体の形成に関与するか検証した。そして、特定条件下の溶液中で被験体の生体試料とr−αSynとを混合し、線維形成された基質r−αSynを検出することがレビー小体病等のα−シヌクレイノパチーの診断に有用であることを見出した。αSynの線維形成は、レビー小体病に罹患した被験体の生体試料を用いた場合のみ特異的に検出され、これらの鑑別に有用であることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1] (1)緩衝液中で、生体試料と正常α−シヌクレインとを混合し、反応混合液を得る工程;
(2)反応混合液をインキュベーションして、生体試料中の異常α−シヌクレインをシードとしたα−シヌクレインの凝集体を形成する工程;及び
(3)形成されたα−シヌクレインの凝集体を検出する工程、
を含む、生体試料中の異常α−シヌクレインを検出する方法。
[2] (1)緩衝液中で、生体試料と正常α−シヌクレインとを混合し、反応混合液を得る工程;
(2)反応混合液をインキュベーションして、生体試料中の異常α−シヌクレインをシードとしたα−シヌクレインの凝集体を形成する工程;及び
(3)形成されたα−シヌクレインの凝集体を検出する工程、
を含む、α−シヌクレイノパチーの診断を補助する方法。
[3] 正常α−シヌクレインが組換えα−シヌクレイン、又は精製α−シヌクレインである、[1]又は[2]の方法。
[4] 生体試料が脳組織サンプルである、[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5] 生体試料が血液、血漿、血清、白血球又は脳脊髄液サンプルである、[1]〜[3]のいずれかの方法。
[6] 反応混合液中の正常α−シヌクレインの濃度が、120μg/mL〜150μg/mLである、[1]〜[5]のいずれかの方法。
[7] 緩衝液がpH7.2〜7.8の緩衝液である、[1]〜[6]のいずれかの方法。
[8] 緩衝液がHEPES緩衝液である、[1]〜[7]のいずれかの方法。
[9] 工程(2)において、反応混合液を震盪することを特徴とする、[1]〜[8]のいずれかの方法。
[10] α−シヌクレインの凝集体の形成が、震盪期間及び無震盪期間のサイクルで行われる、[9]の方法。
[11] サイクルが、全体で3分間である、[10]の方法。
[12] α−シヌクレインの凝集体が、抗体を用いて検出される、[1]〜[11]のいずれかの方法。
[13] 抗体が抗α−シヌクレインポリクローナル抗体、抗α−シヌクレインモノクローナル抗体若しくは抗Ser129リン酸化α−シヌクレインモノクローナル抗体である、[12]の方法。
[14] (3)の工程が、形成されたα−シヌクレインの凝集体を定量することを含む、[1]〜[13]のいずれかの方法。
[15] (3)の工程が、ウェスタンブロット法を含む、[1]〜[14]のいずれかの方法。
[16] (3)の工程が、蛍光分光法を含む、[1]〜[15]のいずれかの方法。
[17] α−シヌクレインの凝集体を検出する工程がチオフラビンT(ThT)の使用を含む、[16]の方法。
[18] 検出が、10分毎に行われる、[16]又は[17]の方法。
[19] α−シヌクレイノパチーと、他の認知障害を伴う疾患との鑑別を補助するための方法である、[2]〜[18]のいずれかの方法。
[20] α−シヌクレイノパチーが、レビー小体病、又は多系統萎縮症である、[2]〜[19]のいずれかの方法。
[21] レビー小体病が、レビー小体型認知症、パーキンソン病、若しくはびまん性新皮質型レビー小体型認知症である、[20]の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被験体の生体試料から、異常α−シヌクレインを高感度且つ迅速に検出することができる。本発明によれば、症状発症前に異常α−シヌクレインを患者から検出することが可能となり、従って、より早期に被験体がα−シヌクレイノパチーに罹患しているか否かの診断が可能になる。一般に認知症はそのタイプによって治療方針が異なるが、本発明を用いて早期にα−シヌクレイノパチーを鑑別することにより、より適切な治療を早期から受けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、組換えα−シヌクレインの精製及び構造解析を示す図である。(A,B)精製したHisタグ付ヒト組換えαSyn(His−r−αSyn)、DAPase処理後のHis−r−αSyn(His−r−αSyn+DAPase)、及びHis−r−αSynとDAPaseを除去した後の生成物(r−αSyn)を、(A)CBB染色SDS−PAGE及び(B)抗α−Synポリクローナル抗体D119(上パネル)及び抗His抗体(下パネル)によるウェスタンブロット解析により検証した。(A)CBB染色SDS−PAGE解析により、DAPase処理後のHis−r−αSynのサイズは、18kDaから17kDaにシフトすることが示され、His−r−αSynとDAPaseの除去後に、タンパク質の単一の最多量バンドが観察された。(B)抗α−Synポリクローナル抗体D119を用いたイムノブロット法により、やはり同様のHis−r−αSynの分子サイズシフトが観察された。精製r−αSynは、抗Hisタグ抗体を用いたイムノブロット法により検出されないことが確認された。各パネルの左側に分子量マーカーをキロダルトン(kDa)で示す。(C)r−αSynの円二色性(CD)スペクトル。CDスペクトルにより、変性タンパク質の特徴的な、119nmでの最少平均残基楕円率が示された。(D)r−αSynのフーリエ変換赤外分光(FTIR)スペクトル。FTIRスペクトルにより、変性構造に帰属する、1650cm−1における顕著なバンドが示された。
図2図2は、組織化学的解析及びウェスタンブロット解析による、ヒト脳由来α−シヌクレインの特性解析の図である。(A)DN−DLB患者2名(症例#1及び#2)、Li−DLB患者、及び非DLB症例(乳がん患者)由来黒質及び前頭葉の皮質中における、ヘマトキシリン及びエオジン染色並びにリン酸化αSynに対する抗体を用いた免疫組織化学的染色。矢印及び矢頭は、それぞれLB及びpSer129−αSynを示す。スケールバーは50μm。(B−D)DN−DLB(症例#1及び#2)、Li−DLB、統合失調症、アルツハイマー病(AD)(症例#1及び#2)、弧発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD)1型(sCJD MM1)(症例#1及び#2)、sCJD2型(sCJD MM2)、及びゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS)の患者由来脳ホモジネート(BH)試料を、(B)抗α−Synポリクローナル抗体D119、(C)抗pSer129−αSynモノクローナル抗体、及び(D)抗Ser87リン酸化α−Synポリクローナル抗体でイムノブロットした。(C)に提示するpSer129−αSynについてのイムノブロット解析においては、試料を30秒の短時間露光(上パネル)及び2分の長時間露光(下パネル)で検出した。各パネルの左側に分子量マーカーをキロダルトン(kDa)で示す。矢印は濃縮ゲルの上端を示す。
図3図3は、RT−QUIC反応におけるr−αSynの線維形成を示す図である。(A)ヒトr−αSynを、表示した希釈のDN−DLB(症例#1及び#2)、Li−DLB、統合失調症(Sc)、AD(症例#1及び#2)、sCJD MM1(症例#1及び#2)、sCJD MM2、及びGSS患者のBHとともに用いるか、又はシード無し(No−seeded;患者由来のBH無し)で、RT−QUICを行った。曲線は6レプリケートウェルすべての平均ThT蛍光動態を表す。図9も参照。(B)96時間反応後に個別の試料において得られた最大蛍光強度の値及び遅滞期の値を、それぞれ上及び下のグラフにプロットする。遅滞期は、蛍光強度が>120任意単位に到達するのに必要な時間と定義した。水平のバーは平均±標準偏差を示す。最大蛍光強度についてのデータは一元配置分散分析、続いてテューキー−クレーマー検定で解析した。遅滞期についてのデータ解析は、ログランク検定及びテューキー−クレーマー検定により行った。**、P<0.01(シード無しと比較);、P<0.05(シード無しと比較)。(C)TEMにより試料を検証した。バーは100nm。(D)試料をFTIR解析に供した。(C)及び(D)のDN−DLB#1、DN−DLB#2、Sc、及びAD#2の試料は、5×10−6希釈のBHでシーディングした。
図4図4は、4つの更なるDN−DLB脳のウェスタンブロット解析及びRT−QUIC解析を示す図である。(A)DN−DLB患者由来のBH試料(症例#3、#4、#5及び#6)を、抗α−Synポリクローナル抗体D119(左パネル)及び抗pSer129−αSynモノクローナル抗体(右パネル)でイムノブロットした。各パネルの左側に分子量マーカーをキロダルトン(kDa)で示す。矢印は濃縮ゲルの上端を示す。(B)ヒトr−αSynを、表示した希釈のDN−DLB由来BHとともに用いてRT−QUICを行った。曲線は6レプリケートウェルすべての平均のThT蛍光動態を表す。図10も参照。(C)96時間反応後に個別の試料において得られた最大蛍光強度の値及び遅滞期の値を、それぞれ上及び下のグラフにプロットする。遅滞期は、蛍光強度が>120任意単位に到達するのに必要な時間と定義した。水平のバーは平均±標準偏差を示す。最大蛍光強度についてのデータは一元配置分散分析、続いてテューキー−クレーマー検定で分析した。遅滞期についてのデータ解析は、ログランク検定及びテューキー−クレーマー検定により行った。**、P<0.01(シード無しと比較);、P<0.05(シード無しと比較)。
図5図5は、インキュベーションにより誘導したr−αSyn不溶性凝集体のシーディング活性を示す図である。WT又はS129Aのr−αSyn(14μg)を、140Uのカゼインキナーゼ2(CK2)又は35μlの反応緩衝液(20mM Tris−HCl,pH7.5,50mM KCl及び10mM MgCl)中200μM ATPの存在下(+)又は非存在下(−)、37℃でインキュベーションした。(A)0(左パネル)、72(中央パネル)又は264時間(右パネル)のインキュベーション後、試料を、抗α−Synポリクローナル抗体D119及び抗pSer129−αSynモノクローナル抗体でイムノブロットした。各パネルの左側に分子量マーカーをキロダルトン(kDa)で示す。矢印は濃縮ゲルの上端を示す。(B)0、72、168及び264時間のインキュベーション後、ATPの非存在下(WTCK2)又は存在下(WTCK2+ATP)でCK2と混合したWT r−αSyn並びにCK2及びATPと混合したS129r−αSyn(S129ACK2+ATP)のThT蛍光レベルを測定した。データを平均±標準偏差で表す(n=4)。(C)CK2及びATPと0時間(WT−0h及びS129A−0h)又は264時間(WT−264h及びS129A−264h)インキュベーションしたWT又はS129A r−αSynをFTIR解析に供した。(D)TEMにより試料を検証した。バーは200nm。(E)RT−QUICにより、WT−0h、WT−264h、S129A−0h、及びS129A−264hの試料のシーディング活性を、2×10−2及び2×10−4の希釈で評価した。曲線は3又は4レプリケートウェルの平均ThT蛍光動態を表す。
図6図6は、RT−QUICにより生成したr−αSynオリゴマーのシーディング活性を示す図である。(A)125UのCK2のみ(WTCK2及びS129ACK2)又は125UのCK2と200μM ATPの両方(WTCK2+ATP及びS129ACK2+ATP)の存在下で、RT−QUICにより、シード無しで、WT又はS129A r−αSyn(12.5μg)の線維形成を誘導した。曲線はトリプリケートウェルの平均ThT蛍光動態を表す。(B)RT−QUIC試料(WTCK2、WTCK2+ATP、S129ACK2、及びS129ACK2+ATP)を、抗α−Synポリクローナル抗体D119及び抗pSer129−αSynモノクローナル抗体でイムノブロットした。各パネルの左側に分子量マーカーをキロダルトン(kDa)で示す。矢印は濃縮ゲルの上端を示す。(C)RT−QUIC試料(WTCK2、WTCK2+ATP、S129ACK2、及びS129ACK2+ATP)をFTIR解析に供した。(D)TEMにより試料を検証した。バーは50nm。(E)引き続くRT−QUICによる試験により、RT−QUIC試料(WTCK2、WTCK2+ATP、S129ACK2、及びS129ACK2+ATP)のシーディング活性を、2×10−4〜2×10−8の希釈で評価した。曲線はレプリケートのウェルの平均ThT蛍光動態を表す(n=3〜6)。(F)72時間反応後の個別の試料において得られた最大蛍光強度の値及び遅滞期の値を、それぞれ右及び左のグラフにプロットした。遅滞期は、蛍光強度が>120任意単位に到達するのに必要な時間と定義した。水平のバーは平均±標準偏差を示す。最大蛍光強度についてのデータは一元配置分散分析、続いてテューキー−クレーマー検定で解析した。遅滞期についてのデータ解析は、ログランク検定及びテューキー−クレーマー検定により行った。**、P<0.01(2×10−4希釈のWT−モックと比較);、P<0.05(2×10−4希釈のWT−モックと比較);##、P<0.01(同じ希釈のWTCK2+ATPと比較)。
図7図7は、Phos−tag SDS−PAGE後のイムノブロット法による、DLB脳におけるSer129リン酸化α−シヌクレイン濃度の見積もりを示す図である。(A)ドットブロット解析のための基準としてSer129リン酸化r−αSyn(pSer129−r−αSyn)を生成するため、カゼインキナーゼ2(CK2)及びATPの存在下でのインキュベーションにより、r−αSynをリン酸化した。pSer129−r−αSyn濃度の測定を、Zn2+−Phos−tag SDS−PAGEと引き続くウェスタンブロット法により行った。抗αSyn抗体D119を用いたイムノブロット法により、試料(全r−αSynのうちの1μg)が、CK2量に依存した態様で、異なる3状態(a、b、c)に分かれることが明らかになった(左パネル)。抗pSer129モノクローナル抗体は(a)型及び(b)型を特異的に認識することに留意するべきであり、このことにより、タンパク質(b)はモノ(Ser129)−リン酸化r−αSynであり、タンパク質(a)はSer129及び別のアミノ酸でジリン酸化されていることが示される(右パネル)。500UのCK2で処理した試料中のpSer129−r−αSyn濃度を、(a)及び(b)のバンドの比から、全r−αSynのうち460ng/μgと算出した(左パネル)。phos−tag SDS−PAGEは分子量には依存しないが、分子量マーカーをタンパク質の移動の判断基準として用いた。各パネルの左側に分子量マーカーをキロダルトン(kDa)で示す。(B)所定の量のr−αSyn及びpSer129−r−αSynを、それぞれ、BH中のαSyn(左上パネル)量及びpSer129−r−αSyn(左下パネル)量の定量的解析用の基準として用いた。基準のr−αSynについての記号は以下の通りである(左上パネル):a1、0ng;a2、125ng;a3、250ng;a4、500ng;a5、1000ng;a6、2000ng。BH試料についての記号は以下の通りである(左上パネル):b1、DN−DLBの症例1(0.2% wt/vol);b2、DN−DLBの症例2(0.2% wt/vol);b3、Li−DLB(2% wt/vol);b4、統合失調症(2% wt/vol);b5、CJD1型の症例1(2% wt/vol); b6、CJD1型の症例2(2% wt/vol);c5、CJD2型(2% wt/vol);c6、GSS(2% wt/vol);d5、ADの症例1(2% wt/vol);d6、ADの症例2(2% wt/vol)。基準のpSer129−r−αSynについての記号は以下の通りである(左下パネル):a1、0ng;a2、50ng;a3、100ng;a4、200ng;a5、400ng。BH試料についての記号は以下の通りである(左下パネル):b1〜3、DN−DLBの症例1(0.1% wt/vol);c1〜3、DN−DLBの症例2(0.2% wt/vol);d1〜3、Li−DLB(20% wt/vol);b4、統合失調症(20% wt/vol);b5、CJD1型の症例1(20% wt/vol); b6、CJD1型の症例2(20% wt/vol);c5、CJD2型(20% wt/vol);c6、GSS(20% wt/vol);d5、ADの症例1(20% wt/vol);d6、ADの症例2(20% wt/vol)。20μlの試料を、ニトロセルロース膜(GE Healthcare Life Sciences)にアプライした。ドット強度と基準との間の直線回帰を、r−αSyn(r=0.9018)については右上図に、及びpSer129−r−αSyn(r=0.9781)について右下図に示す。DN−DLBの2症例及びLi−DLBの1症例由来のBHにおいて、αSynの蓄積が抗αSyn抗体D119により検出されたが、非DLB症例においては何も検出されなかった(上パネル)。pSer129−αSynに対する抗体との免疫反応性は、DN−DLBの2症例及びLi−DLBの1症例由来BHにおいてのみ観察された(下パネル)。DN−DLB症例#1及び#2におけるpSer129−αSynのレベルは、それぞれ、13.5±0.4mg/g脳及び3.7±0.2mg/g脳、そしてLi−DLBのレベルは0.06±0.02mg/g脳と見積もられた。全αSynに対するpSer129−αSynの比率は次の通りであった:DN−DLBの症例1(57.9±1.5%)、DN−DLBの症例2(22.6±1.2%)、及びLi−DLB(6.1±1.7%)。
図8図8は、組換えヒトプリオンタンパク質含有反応緩衝液又は基質タンパク質無しの反応緩衝液中のRT−QUIC反応を示す図である。(A)組換えヒトプリオンタンパク質(rPrP)を含有する反応緩衝液中で、5×10−6希釈のDN−DLB症例#1を用いて、若しくはシード無しで、又は基質タンパク質を含有しない反応緩衝液中で、5×10−6希釈のDN−DLB症例#1を用いてRT−QUICを行った。反応緩衝液成分の最終濃度は、50mM HEPES(pH7.5)及び10μMチオフラビンT(ThT)であった。rPrPの濃度は150μg/mlであった。曲線は、6レプリケートウェルすべての平均のThT蛍光動態を表す。(B)96時間の反応後に個別の試料において得られた最大蛍光強度の値及び遅滞期の値を、それぞれ左及び右のグラフにプロットする。遅滞期は、>120任意単位の蛍光強度に到達するのに必要な時間と定義した。水平方向のバーは平均±標準偏差を示す。シード有りと無しの間で、rPrP線維形成における最大蛍光強度又は遅滞期に有意差は無かった。基質を含有しない反応では、ThT蛍光は増大しなかった。
図9図9は、DN−DLB(症例#1及び#2)、Li−DLB、統合失調症、AD、CJD、及びGSS由来のシードによるr−αSyn線維形成の動態を示す図である。反応はすべて6レプリケートで行った。曲線は、同一のBHでシーディングした個別の反応由来のThT蛍光動態を表す。
図10図10は、DN−DLB(症例#3、#4、#5及び#6)由来のBHでのシーディングによるr−αSyn線維形成の動態を示す図である。反応はすべて6レプリケートで行った。曲線は、同一のBHでシーディングした個別の反応由来のThT蛍光動態を表す。
図11図11は、α−シヌクレインの線維形成を模式的に示す図である。
図12図12は、DLB患者由来の脳脊髄液(CSF)における実験方法の比較を示す図である。
図13図13は、プリオン病とDLBとの、鑑別診断補助検査を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、α−シヌクレイノパチー(α−synucleinopathy)とは、脳組織中の特定の細胞内に、シナプス蛋白質の1種であるα−シヌクレインが凝集した、好酸性の細胞封入体が観察されることを特徴とする脳の疾患を指す。正常機能を有するα−シヌクレインは、神経細胞において、ゴルジ体の機能や小胞輸送の機能に関与し、脳では軸索末端に局在し、タンパク質分解酵素で容易に可溶化されることが知られている。
本発明におけるα−シヌクレイノパチーとしては、レビー小体病及び多系統萎縮症が挙げられる。レビー小体病には、パーキンソン病及びレビー小体型認知症が含まれる。レビー小体病では、この細胞封入体はレビー小体(Lewy Body)と呼ばれる。レビー小体は、パーキンソン病では脳幹に属する中脳の黒質及び青斑核の神経細胞中にみられるが、レビー小体病では大脳辺縁系や大脳皮質の神経細胞中にも多数みられる。多系統萎縮症では、細胞封入体はグリア細胞内封入体(Glial Cytoplasmic Inclusion)と呼ばれ、線条体の他、黒質、小脳皮質、橋核、オリーブ核、大脳皮質運動野等のオリゴデンドログリア細胞中、神経細胞質中に見られる。
【0014】
本発明において、パーキンソン病とは、安静時振戦,筋固縮,無動,姿勢反射障害の4症候を呈する錐体外路系の進行性変性疾患である。中脳黒質から線条体へ投射されるドーパミン作動性ニューロンの変性によって、錐体外路系の機能不全が生じる。
日本人の患者数は、10万人あたり約50〜100人、(65歳以上は人口10万人あたり約200人)程度である。
【0015】
本発明において、レビー小体型認知症とは,主として初老期ないし老年期に発症し、進行性の認知機能障害に加えて、パーキンソニズム(パーキンソン病の上記4症候のうちの、一般に2つ以上を示している状態を“パーキンソニズム”という)と特有の精神症状を示す変性疾患を指す。典型的には60歳超で発症し、日本における患者数は50万人ほどと考えられ、アルツハイマー病に次いで2番目に多い認知症であることが知られている。レビー小体型認知症では、神経伝達物質の濃度、及び線条体から新皮質までのニューロン経路が異常となる。レビー小体型認知症の必須症状としては、社会、日常生活機能に障害をもたらす認知機能障害が挙げられ、認知機能障害としては記憶障害、注意障害や視空間障害、実行機能障害等が挙げられる。レビー小体型認知症の中核症状としては、認知機能の動揺、幻視、パーキンソン症候群が挙げられる。レビー小体型認知症には病理学的亜型が存在し、レビー小体の分布により、びまん性皮質型DLB(DN−DLB)及び大脳辺縁系型DLB(Li−DLB)等に分けられる。
【0016】
また、レビー小体型認知症は、アルツハイマー病と比較して、初期の段階から幻視、妄想、うつ等の精神症状、パーキンソン病様の運動症状のような特徴が見られる。また、アルツハイマー病の治療薬でもあるドネペジルはレビー小体型痴呆症にも少量で有効であることがあることが知られている。
【0017】
アルツハイマー病の場合、症状の発症前でも、髄液の検査や、陽電子放射断層撮影(PET)によってアミロイドが検出できる可能性がある。これに対して、レビー小体型認知症では、症状発症前に迅速に鑑別することは困難であった。
【0018】
本発明は、α−シヌクレイノパチーの診断に有効な生体試料中の異常α−シヌクレインを迅速に検出する方法、具体的には、(1)緩衝液中で、生体試料と正常α−シヌクレインとを混合し、反応混合液を得る工程;
(2)反応混合液をインキュベーションして、生体試料中の重合及び線維化α−シヌクレインをシードとしたα−シヌクレインの凝集体を形成する工程;及び
(3)形成されたα−シヌクレインの凝集体を検出する工程、
を含む、生体試料中の重合及び線維化α−シヌクレインを検出する方法を提供する。
【0019】
本発明において、α−シヌクレインは、α−シヌクレイノパチーに関連して、正常α−シヌクレイン及び異常α−シヌクレインに分類される。正常α−シヌクレインは、重合核(本明細書中、シードとも称する)の存在下、異常α−シヌクレインとなり、凝集体を形成することが可能である。正常α−シヌクレイン自体は凝集体形成においてシーディング活性を有しない、α−シヌクレインの単量体を指す(図11)。
【0020】
異常α−シヌクレインは、レビー小体で検出される凝集α−シヌクレインであり、α−シヌクレインの凝集体形成においてシーディング活性を有する。正常α−シヌクレインとは異なるβシート様の立体構造をとり、凝集して安定なオリゴマー(重合)様の顆粒状形態となり、一態様では、さらに高分子量の線維化となる(図11)。本明細書中、重合及び線維化α−シヌクレインのことを「異常α−シヌクレイン」と呼ぶ場合がある。
【0021】
本発明の方法において、α−シヌクレインの凝集体は、生体試料中に存在する異常α−シヌクレインがシードとなり、基質となる正常α−シヌクレインが構造変換し、重合することによって形成される。1つの態様において、凝集体は高分子の線維状構造体を形成する。1つの態様において、凝集体は不溶性である。本明細書中、α−シヌクレインの凝集体のことを単に「凝集体」と称することがある。
【0022】
本発明で用いる正常α−シヌクレインには、各種のタンパク質データベースにおいてα−シヌクレインとアノテーションされているタンパク質が含まれる。具体的には、配列番号2で表されるヒトα−シヌクレインアミノ酸配列(Genbank Accession No.EAX06035.1)を含むタンパク質及びそのスプライシングバリアント(例えば、配列番号3(Genbank Accession No.AAA98493.1)及び4(Genbank Accession No.AAA98487.1))が挙げられるが、シードの存在下、凝集して構造変換することが可能な限り、これらの構成アミノ酸残基が変異したものであってもよいし、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、アミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。本発明におけるα−シヌクレインのアミノ酸配列は、好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列である。
【0023】
本発明における正常α−シヌクレインは、シードの存在下、凝集して構造変換するものである限り、構成アミノ酸が修飾を受けたものであってもよい。修飾は、天然に存在するものでも、人工的なものであってもよい。修飾としては、グリコシル化、ユビキチン化、チロシンニトロ化、ビオチン化等が挙げられる。
【0024】
正常α−シヌクレインは、細菌組織、又は哺乳動物組織から単離及び精製されたものでも、化学的に合成されたものでもよい。正常α−シヌクレインは、自体公知の方法に従って、それをコードする核酸を含有する形質転換体を培養し、得られる培養物からα−シヌクレインを単離精製することによって遺伝子工学的に製造される組換えα−シヌクレインであってもよい。安定的に供給され得るという点から、組換えα−シヌクレインを用いることが好ましい。
【0025】
本発明に用いられる正常α−シヌクレインは単離又は精製されていることが好ましい。「単離又は精製」とは、天然にある状態から目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離又は精製されたα−シヌクレインの純度(全タンパク質重量に対する、α−シヌクレインを特異的に認識する抗体の重量の割合)は、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上(例えば実質的に100%)である。
【0026】
正常α−シヌクレインとして組換えα−シヌクレインを用いる場合、組換えα−シヌクレインは、例えば以下の方法で作製することができる。α−シヌクレインアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、ヒトα−シヌクレインの場合には、配列番号1で表されるヌクレオチド配列(Genbank Accession No.EAX06035.1のCDS)を含むポリヌクレオチド)を適切な発現ベクターに組み込み、これを適切な宿主に挿入して形質転換し、この形質転換細胞の破砕物から目的とする組換えα−シヌクレインを得ることができる。上記宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、枯草菌、酵母、植物又は動物細胞などを用いることができる。
【0027】
遺伝子工学的に製造される場合は、合成後の精製を容易にするために、α−シヌクレインポリペプチドにタグ配列を付加してもよい。タグとしては、Flagタグ、ヒスチジンタグ、c−Mycタグ、HAタグ、AU1タグ、GSTタグ、MBPタグ、蛍光タンパク質タグ(例えばGFP、YFP、RFP、CFP、BFP等)、イムノグロブリンFcタグ等を例示することが出来る。タグ配列が付加される位置は、好ましくは、α−シヌクレインポリペプチドのN末端又はC末端である。また、これらのタグ配列を有するα−シヌクレインポリペプチドは、本発明の方法にそのまま用いられてもよいし、その前に、当該タグが除去されてもよい。
【0028】
本発明の方法において用いることのできる生体試料としては、血液、脳組織、脳脊髄液等のサンプルが挙げられるが、α−シヌクレイノパチーに伴うα−シヌクレインの線維形成のためのシーディング活性を検出できる限り、特に限定されない。脳組織(例えば、前頭葉領域の脳組織、黒質の脳組織)は、適切な緩衝液中で破砕するなどし、ホモジネートの状態にして本発明の方法に供されることが好ましい。「血液」としては、いかなる組織由来の血液も想定することができるが、採取の容易から、通常は末梢血が用いられる。血液の採取方法としては、自体公知の方法が適用できる。また採取した血液はそのまま本工程に用いてもよいが、自体公知の方法、例えば遠心分離、濾過などを利用して細胞成分(赤血球、白血球、血小板など)と分離した液体成分(血漿)として本工程に用いることが好ましい。また血液を凝固させて血小板や凝固因子を分離した液体成分(血清)として本工程に用いることも好ましい。白血球を生体試料として用いることもまた好ましい。脳脊髄液は、脳組織を満たし、循環しており、脳の状態を反映していると考えられる。脳脊髄液は腰椎穿刺法、後頭下穿刺法、脳室穿刺法等の方法により採取され、本発明の方法に供されることが好ましい。
【0029】
生体試料は、被験体から採取される。「被験体」は、「α−シヌクレイノパチーに罹患していることが疑われる被験体」である。本明細書中、「α−シヌクレイノパチーに罹患していることが疑われる被験体」とは、α−シヌクレイノパチーに罹患していることが疑われる症状を示している被験体であって、他の認知障害を伴う疾患(伝染性海綿状脳症(TSE又はプリオン病)(ヒトでのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)及びその亜種(孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD)等)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(GSS))、統合失調症及びアルツハイマー病等;本明細書中、「α−シヌクレイノパチー以外の認知症等」と称する場合がある)との鑑別が求められる哺乳動物、好ましくはヒトを指す。
【0030】
更なる局面において、「被験体」は、「α−シヌクレイノパチーに罹患している被験体」であり得る。具体的には、α−シヌクレイノパチーであることを定義づける臨床所見を認めた被験体であって、該被験体からの生体試料は、本発明においてポジティブコントロールとして用いることができる。
【0031】
別の態様においては、「被験体」は、「α−シヌクレイノパチーに罹患していない被験体」であり得る。具体的には、α−シヌクレイノパチーであることを定義づける臨床所見を認めない被験体であって、該被験体からの生体試料は、本発明においてネガティブコントロールとして用いることができる。当該被験体としては、健常者の他、α−シヌクレイノパチー以外の認知症等に罹患している被験体が挙げられる。
【0032】
本発明において、「哺乳動物」としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類が好ましく、特にヒトが好ましい。
【0033】
生体試料と正常α−シヌクレインとの混合に使用される容器としては、例えば、フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート(6、12、24、48又は96穴マルチウェルプレート)、シャーレ、チューブ、トレイが挙げられる。
【0034】
生体試料と混合する正常α−シヌクレインは、通常生体試料に存在するであろうシードとなる異常α−シヌクレインに対して過剰量で用いられ、濃度としては、限定されないが、例えば、1μg/ml〜10mg/ml、好ましくは10μg/ml〜1mg/ml、より好ましくは10μg/ml〜500μg/ml、さらにより好ましくは80μg/ml〜250μg/ml、より一層好ましくは100μg/ml〜200μg/ml、最も好ましくは120μg/ml〜150μg/mlである。
【0035】
生体試料の濃度は、例えば、生体試料を適切な緩衝液で希釈することにより、希釈系列を作製し、それぞれに本発明の方法を実施して、異常α−シヌクレインを適切に検出、又は定量できる。
【0036】
生体試料として脳脊髄液を用いる場合、反応混合液中の脳脊髄液の濃度は、(脳脊髄液の原液に換算して)例えば、全反応混合液中の1%(v/v)〜30(v/v)%、5%(v/v)〜20(v/v)%、7(v/v)%〜25(v/v)%、10(v/v)%〜15(v/v)%である。
【0037】
生体試料と正常α−シヌクレインとの混合に用いられる緩衝液は、一定範囲のpHを維持できるものであれば特に限定されず、各種緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液等)であってよい。緩衝液は、HEPPSO(N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−ヒドロキシプロパンスルホン酸))、POPSO(ピペラジン−1,4−ビス−(2−ヒドロキシ−プロパン−スルホン酸)無水物)、HEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−エタンスルホン酸)、HEPPS(EPPS)(4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−プロパンスルホン酸)、TES(N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]−2−アミノエタンスルホン酸)及びその組合せによるものであってもよい。好ましくは、HEPESが用いられる。
【0038】
上記における緩衝液中のpHとしては、通常6.5〜8.5、好ましくは7.0〜8.0、より好ましくは7.2〜7.8、更により好ましくは7.3〜7.7、一層好ましくは7.4〜7.6、最も好ましくは7.5である。pHが6.5未満であるか、又は8.5を超えると、生体内に存在するα−シヌクレインの周囲の環境のpHから乖離する可能性がある。
【0039】
本発明の方法において、生体試料と正常α−シヌクレインとの混合は上記反応混合液中にジルコニウム/シリカ ビーズ等のビーズを加えて実施しても、また加えずに実施してもよい。好ましくはビーズを加えずに混合する。
【0040】
本発明の方法において、反応混合液には塩を含めてもよい。かかる塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アルミニウム、塩化リチウム、塩化ストロンチウム、塩化コバルト、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化銅、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、乳酸カルシウム等が挙げられる。
【0041】
上記塩の混合液中の濃度としては、例えば、1μM〜1M、100μM〜800mM、1mM〜600mM、10mM〜500mM、100mM〜500mM、200mM〜400mM、250mM〜350mMが挙げられる。
【0042】
凝集体を形成する工程(2)は、上記反応混合液をインキュベーションすることによって行われる。インキュベーションの温度としては、例えば32℃〜50℃、好ましくは35〜45℃、より好ましくは38℃〜42℃、最も好ましくは40℃である。32℃未満では、凝集体形成において正常α−シヌクレイン分子の立体構造変化を抑制してしまう可能性があり、50℃を超えると凝集体形成に非依存的な正常α−シヌクレイン分子の立体構造変化を誘発してしまう可能性がある。
【0043】
インキュベーションの時間は、検出される程度に凝集体が形成されれば特に限定されないが、例えば5時間以上、10時間以上、12時間以上、14時間以上、16時間以上、20時間以上、24時間以上、48時間以上である。また、長時間インキュベーションしても形成される凝集体の量が一定となり、また、迅速な測定という目的に鑑みれば、通常、インキュベーションは96時間以下、72時間以下、48時間以下で行われる。
【0044】
凝集体の形成を促進する工程(2)においては、上記反応混合液を震盪してもよい。震盪は、例えば、市販の震盪培養器等を用い、例えば、200rpm〜1,000rpm、300rpm〜800rpm、400rpm〜500rpm、500rpm〜800rpm、800rpm〜1,200rpm、好ましくは420rpm〜480rpm、最も好ましくは432rpmで行う。
【0045】
工程(2)には、一定の震盪期間及び一定の無震盪期間が繰り返されるサイクルが含まれ得る。例えば、工程(2)では60秒間の震盪期間及び60秒間の無震盪期間のサイクルが含まれる。別の例では、工程(2)には30秒間の震盪期間及び30秒間の無震盪期間のサイクルが含まれる。45秒間の震盪期間及び45秒間の無震盪期間又は70秒間の震盪期間及び70秒間の無震盪期間など、期間は変えられてもよい。他の態様において、震盪期間及び無震盪期間のサイクルは、例えば、サイクル全体で長さが1分間、2分間、好ましくは3分間である。工程(2)にはサイクル全体の長さによって震盪期間及び無震盪期間を変えてもよい。
【0046】
上記震盪期間/無震盪期間のサイクルを繰り返す時間は、検出される程度に凝集体が形成されれば特に限定されないが、その合計が、例えば10時間以上、12時間以上、14時間以上、16時間以上、20時間以上、24時間以上、48時間以上である。また、長時間実施しても形成される凝集体の量が一定となり、また、迅速な測定という目的に鑑みれば、通常、サイクルは96時間以下、72時間以下、48時間以下繰り返される。
【0047】
本発明の方法において形成された凝集体は高分子であり、検出のために凝集体を含む反応混合液をそのまま用いてもよいが、高分子画分を部分的に精製して用いてもよい。検出される凝集体の分子量は、例えば、200kDa以上、好ましくは250kDa以上、より好ましくは280kDa以上である。部分的な精製は、例えば、各種クロマトグラフィー又は限外濾過等により行うことができる。
【0048】
本発明における検出方法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA法)、イムノクロマト法、ラテックス凝集法、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、ルミネッセンス免疫測定法、表面プラズモン共鳴測定法(SPR法)ウェスタンブロット法、電子顕微鏡法、蛍光顕微鏡法、蛍光分光法などを利用することができる。これらの中でも、ウェスタンブロット法、蛍光分光法が操作の容易性及び迅速性の観点からして好適である。
【0049】
検出が抗体を用いて行われる場合、抗体は、α−シヌクレインの凝集体に特異的に結合する能力があればよく、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよい。当該抗体としては、キメラ抗体、単鎖抗体又は抗体分子のF(ab’)2、Fab’、或いはFab画分などの結合性フラグメントも含む。これらの抗体としては、免疫原としてα−シヌクレインを用いて自体公知の方法により調製した抗体を用いることができるし、市販の抗体を用いることもできる。
【0050】
市販の抗α−シヌクレイン抗体としては、抗α−シヌクレイン(α−Syn)ポリクローナル抗体D119(Bioworld Technology,Inc.)、129番目のセリンがリン酸化されたα−シヌクレインに対する抗pSer129−αSynモノクローナル抗体、及び抗Ser87リン酸化α−Synポリクローナル抗体等が挙げられるが、抗α−Synポリクローナル抗体D119、抗pSer129−αSyn(抗Ser129リン酸化α−シヌクレイン)モノクローナル抗体が好ましい。
【0051】
前記抗体は、直接的又は間接的に標識物質により標識されていてもよい。標識物質としては、蛍光物質(例、FITC、ローダミン)、放射性物質(例、14C、H、125I)、酵素(例、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ)、着色粒子(例、金属コロイド粒子、着色ラテックス)、ビオチン等が挙げられる。
【0052】
このような抗体であれば、本工程において1種のみの抗体を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0053】
上記「α−シヌクレインを特異的に認識する抗体」は、水溶液の状態で用いることが可能である。その場合、α−シヌクレインの凝集体は固相に結合させてもよい。かかる「固相」としては、プレート(例、マイクロウェルプレート)、チューブ、ビーズ(例、プラスチックビーズ、磁気ビーズ)、クロマトグラフィー用担体(例、Sepharose(商標))、メンブレン(例、ニトロセルロースメンブレン、PVDF膜)、ゲル(例、ポリアクリルアミドゲル)、金属膜(例、金膜)などが挙げられる。なかでも、プレート、ビーズ、メンブレン及び金属膜が好ましく用いられ、取り扱いの簡便性からメンブレンが最も好ましく用いられる。更に、非特異的吸着や非特異的反応を抑制するために、緩衝溶液を固相と接触させ、抗体によってコートされなかった固相表面部分を前記BSAや牛ミルクタンパク等でブロッキングすることが一般に行われる。
【0054】
検出における「α−シヌクレインを特異的に認識する抗体」と、「α−シヌクレインの凝集体」との接触は、反応容器中において、α−シヌクレインの凝集体と、α−シヌクレインを特異的に認識する抗体とを混合することでこれらが相互作用できる方法であれば、態様、順序、具体的方法などは特に限定されない。接触は、上記抗体を水溶液の状態で用いる場合、例えば凝集体が固相化されたメンブレンが浸漬された反応液中に抗体を添加することでなされる。
【0055】
なお、かかる接触を保つ時間は、前記α−シヌクレインを特異的に認識する抗体と、α−シヌクレインの凝集体とが結合して複合体を形成するのに十分な時間であれば特に限定されないが、通常、数秒〜十数時間であり、速やかにα−シヌクレイノパチーであるか否かを判定する観点から、好ましくは1分〜2時間であり、最も好ましくは2分〜30分である。また、接触を行なう温度条件としては、通常4℃〜50℃であり、4℃〜37℃が好ましく、15℃〜30℃程度の室温が最も好ましい。さらに、反応を行なうpH条件は、5.0〜9.0が好ましく、特に6.0〜8.0の中性域が好ましい。
【0056】
検出方法としてウェスタンブロット法を選択した場合は、例えば形成されたα−シヌクレインの凝集体を、SDS充填緩衝液と混合して煮沸し、変性させ、試料液を調製する。当該試料液をSDSポリアクリルアミド電気泳動により分離し、ニトロセルロースメンブレン又はポリビニリデンジフルオリド(PVDF)メンブレン等のメンブレンに転写し、固相化する。当該メンブレンを適切な反応液(例、5%スキムミルク含有TBST)中に浸漬し、ブロッキングを行った後、適切な反応液(例、TBST)中で一次抗体(抗α−シヌクレイン抗体)と反応させる。かかる反応に要する時間は、迅速な測定が必要である観点から、好ましくは1分〜2時間であり、より好ましくは2分〜30分である。次にメンブレンを洗浄し、適切な反応液(例、TBST)中で二次抗体(例、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体)と反応させる。かかる反応に要する時間は、迅速な測定が必要である観点から、好ましくは1分〜2時間であり、より好ましくは2分〜30分である。再びメンブレンを洗浄し、ハイブリバッグ等の適切な容器中にメンブレンを検出緩衝液と共に含有させて、適切な検出システムにより検出する。
【0057】
検出方法として分光光度計を選択した場合は、生体試料と正常α−シヌクレインとを混合した反応混合液にアミロイド線維と結合して蛍光を発するようになる蛍光色素を添加し、凝集体を形成する上記の反応を行う。形成された線維状の凝集体に蛍光色素が結合し、蛍光を発するので、反応混合液に適切な波長の励起光を照射し、蛍光を分光光度計等で検出する。
【0058】
アミロイド線維と結合して蛍光を発するようになる蛍光色素としては、チオフラビンT(ThT)、1−Bromo−2,5−bis(3−carboxy−4−hydroxystyryl)benzene、1−Fluoro−2,5−bis(3−carboxy−4−hydroxystyryl)benzene、ProteoStat(登録商標)アミロイド検出試薬等が挙げられる。
【0059】
一態様において、(3)の工程は、異常α−シヌクレインをシードとして形成されたα−シヌクレインの凝集体を定量することを含む。例えば、検出方法としてウェスタンブロット法を選択した場合は、検出した(スメア)バンドの濃さをイメージアナライザー等で測定して凝集体の量を定量することができる。検出方法として分光光度計を選択した場合は、凝集体に結合した蛍光色素による蛍光強度を測定することにより、凝集体の量を定量することができる。
【0060】
一態様においては、工程(3)の検出は凝集体の形成が進行している間に行われ、その後に更に凝集体を形成する工程が継続する。一態様においては、工程(3)の検出は凝集体の形成が進行している間に断続的に複数回行われる。例えば、工程(3)の検出は工程(2)の震盪期間/無震盪期間の1サイクルの直後に行われる。ただし、検出は各サイクル毎に実施される必要はなく例えば16分に1回、好ましくは10分に1回の頻度、例えば5サイクル毎、好ましくは3サイクル毎で行われる。
【0061】
本発明の方法は、(2)の後に以下の工程を続けて含んでもよい。
(3)緩衝液中で、形成されたα−シヌクレインの凝集体の一部と正常α−シヌクレインとを混合し、更なる反応混合液を得る工程;
(4)更なる反応混合液をインキュベーションして、異常α−シヌクレインをシードとしたα−シヌクレインの凝集体を形成する工程;及び
(5)所望により(3)〜(4)を繰り返す工程。
【0062】
工程(1)〜(2)により形成された凝集体は、その一部と、正常α−シヌクレインとを混合して更なる混合溶液を得、インキュベーションすることにより、更に凝集体を形成することができる。生体試料中の異常α−シヌクレインの量が少なく、工程(1)〜(2)によって生体試料から直接形成されるα−シヌクレインの凝集体の量が少ない場合でも、工程(3)〜(4)又は工程(3)〜(5)を含むことにより、形成されるα−シヌクレインの凝集体の量を増幅することができる。その結果として、生体試料中の異常α−シヌクレイン検出感度を高めることができる。
【0063】
本発明は、また、本発明の異常α−シヌクレインの検出方法を用いて、α−シヌクレイノパチーを診断補助するための方法を提供する。
【0064】
本発明の診断の補助方法によれば、判定は、例えば以下のように行われる。健常者又はα−シヌクレイノパチー以外の認知症等の患者(ネガティブコントロール)、及びα−シヌクレイノパチーの患者(ポジティブコントロール)から生体試料(例、脳脊髄液)を採取し、被験体から採取した生体試料によって形成されたα−シヌクレインの凝集体の有無をポジティブコントロール及びネガティブコントロールについて確認する。
【0065】
そして、確認結果より、被験体由来の生体試料を用いた場合に凝集体が検出された場合には、該被験体はα−シヌクレイノパチーに罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、凝集体が検出できない場合には、該被験体はα−シヌクレイノパチーに罹患している可能性が相対的に低いと判定することができる。また、本発明の方法を用いて、α−シヌクレイノパチーとα−シヌクレイノパチー以外の認知症等とを鑑別する場合、凝集体が検出される場合には、該被験体は、α−シヌクレイノパチーに罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、凝集体が検出されない場合には、該被験体はα−シヌクレイノパチーではない可能性が高いと判定することができる。
【0066】
別の態様においては、例えば、健常者又はα−シヌクレイノパチー以外の認知症等の患者(ネガティブコントロール)、及びα−シヌクレイノパチーの患者(ポジティブコントロール)から生体試料(例、脳脊髄液)を採取し、被験体から採取した生体試料によって形成されたα−シヌクレインの凝集体の量をポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較する。
【0067】
そして、α−シヌクレインの凝集体の量の比較結果より、被験体由来の生体試料から形成された凝集体の量が相対的に多い場合には、該被験体はα−シヌクレイノパチーに罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、凝集体の量が相対的に少ない場合には、該被験体はα−シヌクレイノパチーに罹患している可能性が相対的に低いと判定することができる。また、本発明の方法を用いて、α−シヌクレイノパチーとα−シヌクレイノパチー以外の認知症等とを鑑別する場合、凝集体の量が相対的に多い場合には、該被験体はα−シヌクレイノパチーに罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、凝集体の量が相対的に少ない場合には、該被験体はα−シヌクレイノパチーではない可能性が高いと判定することができる。
【0068】
或いは、反応混合液におけるα−シヌクレインの凝集体の量のカットオフ値をあらかじめ設定しておき、測定されたα−シヌクレインの凝集体の量とこのカットオフ値とを比較することによって行うこともできる。例えば凝集体の量が前記カットオフ値以上である場合には、該被験体はα−シヌクレイノパチーに罹患している可能性が高いと判定することができる。逆に、凝集体の量がカットオフ値を下回る場合には、該被験体がα−シヌクレイノパチーに罹患している可能性は低いと判定することができる。また、本発明の方法を用いて、α−シヌクレイノパチーとα−シヌクレイノパチー以外の認知症等とを鑑別する場合、凝集体の量が前記カットオフ値以上である場合には、該被験体は、α−シヌクレイノパチーに罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、凝集体の量がカットオフ値を下回る場合には、該被験体はα−シヌクレイノパチーではない可能性が高いと判定することができる。
【0069】
また別の態様においては、例えば、健常者又はα−シヌクレイノパチー以外の認知症等の患者(ネガティブコントロール)、及びα−シヌクレイノパチーの患者(ポジティブコントロール)から生体試料(例、脳脊髄液)を採取し、被験体から採取した生体試料を用いて形成されるα−シヌクレインの凝集体の量を連続的に(例、リアルタイムで)測定し、反応開始からα−シヌクレインの凝集体が(一定レベルで)検出されるまでの時間を、ポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較する。
【0070】
そして、比較結果より、凝集体が形成されるまで時間が相対的に短い場合には、該被験体は異常α−シヌクレインの量が相対的に多量と判定することができる。逆に、凝集体が形成されるまでの時間が相対的に長い場合には、該被験体は異常α−シヌクレインの量が相対的に少量と判定することができる。また、本発明の方法を用いて、α−シヌクレイノパチーとα−シヌクレイノパチー以外の認知症等とを鑑別する場合、ネガティブコントロールが陰性である時、凝集体が形成されるまでの時間が相対的に長い、短いに関係なく、該被験体は、α−シヌクレイノパチーに罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。
【0071】
或いは、さらに別の態様では、反応混合液におけるα−シヌクレインの凝集体が形成されるまでの時間についてカットオフ値をあらかじめ設定しておき、測定されたα−シヌクレインの凝集体が形成されるまでの時間とこのカットオフ値とを比較することによって行うこともできる。例えば、凝集体が形成されるまでの時間が前記カットオフ値よりも短い場合には、該被験体はα−シヌクレイノパチーに罹患している可能性が高いと判定することができる。逆に、凝集体が形成されるまでの時間が前記カットオフ値と同じか、より長い場合には、該被験体がα−シヌクレイノパチーに罹患している可能性は低いと判定することができる。また、本発明の方法を用いて、α−シヌクレイノパチーとα−シヌクレイノパチー以外の認知症等とを鑑別する場合、凝集体が形成されるまでの時間が前記カットオフ値よりも短い場合には、該被験体は、α−シヌクレイノパチーに罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、凝集体が形成されるまでの時間がカットオフ値と同じか、より長い場合には、該被験体はα−シヌクレイノパチーではない可能性が高いと判定することができる。
【0072】
「カットオフ値」は、その値を基準として疾患や状態の判定をした場合に、高い診断感度(有病正診率)及び高い診断特異度(無病正診率)の両方を満足できる値である。例えば、α−シヌクレイノパチーの患者で高い陽性率を示し、かつ、健常人又はα−シヌクレイノパチー以外の認知症等の患者で高い陰性率を示す、α−シヌクレインの凝集体の量又はα−シヌクレインの凝集体形成までの時間をカットオフ値として設定することが出来る。カットオフ値は、個々の被験体における検出や定量の結果に基づく診断の感度と特異度の関係を表した受信者操作特性曲線(ROC曲線)を作成することで求めることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0074】
材料及び方法
患者
DLBの脳組織を、臨床診断を組織病理学的に確認した患者7名からの剖検で得た。ブラーク病期分類によると、これらの被験者のうち、6名はびまん性皮質型DLB(DN−DLB)に罹っていると分類され、残り1症例は大脳辺縁系型DLB(Li−DNB)であった。プリオン病の脳組織は、3名の孤発性CJD(sCJD)患者及び1名の、PRNPのコドン102におけるProからLeuへの変異に関連する、GSS患者からの剖検で得た。sCJDのサブタイプは、PRNP遺伝子のコドン129における遺伝子型及び異常プリオンタンパク質(PrPSc)の生理学的特性に従って診断した。彼らは1型、コドン129MM(MM1)の2症例、2型、コドン129MM(MM2)の1症例を含んでいた。ADの脳組織は、神経原線維変化及び老人斑の存在という神経病理学的診断を受けていた患者2名からの剖検で得た。脳標本は、LBDの共存を殆ど又は全く伴わない純粋型のADであった。脳における組織病理学的変化が無い、統合失調症及び乳癌の患者由来の脳組織を、非変性的症例として用いた。本研究に加わることについての、書面のインフォームドコンセントを患者の家族から受け取った。研究プロトコールは長崎大学病院の倫理委員会により承認され(ID:10042823)、大学病院医療情報ネットワークに登録された(ID:UMIN000003301)。
【0075】
組換えヒトα−シヌクレインの発現及び精製
Hisタグ付き野生型ヒトαSynのN末端残基1〜140をコードするDNA配列を、ヒトcDNA(Toyobo)から、フォワードプライマー(5’−ggaattccatatgaaacatcatcatcatcatcaccagatggatgtattcatgaaagg−3’(配列番号5))及びリバースプライマー(5’−ctagctagctagttaggcttcaggttcgtagtctt−3’(配列番号6))により増幅した。S129A変異体は、フォワードプライマー(5’−ggaattccatatgaaacatcatcatcatcatcaccagatggatgtattcatgaaagg−3’(配列番号7))及びリバースプライマー(5’−ctagctagctagttaggcttcaggttcgtagtcttgatacccttcctcagcaggc−3’(配列番号8))により増幅した。N末端Hisタグを消化するジペプチジルペプチダーゼIのための終止点を、発現コンストラクトにグルタミンコドンを挿入することにより、タンパク質配列に導入した。増幅したPCR断片を、pET11aベクター(Novagen)のNdeI及びNheI部位に挿入し、配列決定解析により確認した。プラスミドを、B21 DE3 E.coliコンピテントセル(BioDynamics Laboratory)に形質転換後、MagicMedia E.coli Expression Medium(Invitrogen)を用いて、組換えタンパク質を発現させた。細胞ペレットを、リゾチーム(Wako)及びベンゾナーゼヌクレアーゼ(Novagen)の存在下、CelLytic B(Sigma−Aldrich)に懸濁した。溶解物を3000rpmで15分間遠心分離し、上清をNi−NTA Superflow resin(Qiagen)と室温で30分間インキュベーションした。タンパク質を300mM NaCl,50mM Tris−HCl(pH8.0),250mMイミダゾールを含有する緩衝液で溶出させ、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に対して透析した。図1A及び1Bに示す通り、N末端Hisタグ付ヒトα−シヌクレインからのタグの除去を、TAGZyme system(Qiagen)を用いて行った。精製His−r−Synは、N末端側エキソペプチダーゼのDAPase(Qiagen)のためのグルタミンの終止点を、Hisタグ配列とαSynの最初のアミノ酸との間に含有する。グルタミンシクロトランスフェラーゼのQcyclase(Qiagen)存在下、DAPaseによりタグを切断し、生成物をNi−NTA resin(Qiagen)にアプライして未切断のHisタグ付タンパク質を除去した。Qcyclase存在下、グルタミン残基は、DAPase分解に対する終止点として作用するピログルタミン酸に変換される。ピログルタミルアミノペプチダーゼのpGAPase(Qiagen)の作用により、ピログルタミン酸を除去することによってヒトαSynを得た。DAPase、Qcyclase、及びpGAPaseは、そのC末端にHisタグを有するので、Ni−NTA resin用いて除去した。最終タンパク質を10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に対して透析し、2.0μmシリンジフィルターで濾過した。タンパク質試料の純度を、SDS−PAGE及びイムノブロット法により、98%と見積もった。円二色性(CD)及びフーリエ変換赤外分光(FTIR)による解析によって、r−αSynの変性構造が示された(図1C及び1D)。精製後、タンパク質の等分割量を、使用するまで−80℃で保存した。
【0076】
RT−QUIC実験
我々は、黒色の96ウェル蛍光用プレート(Nunc)中に、最終全体積100μlの反応混合物を調製した。混入を防ぐため、我々は、物質をすべて生物学的安全キャビネットの内側で調製し、エアロゾル耐性チップを用いた。反応緩衝液成分の最終濃度は50mM HEPES(pH7.5)及び10μMチオフラビンT(ThT)であった。r−αSynの濃度は100μg/ml〜150μg/mlで、解凍したてのr−αSynのみを用いた。我々は、r−αSynのロット間で至適r−αSyn濃度(100μg/ml〜150μg/ml)に軽度のばらつきを認めたが、最終感度は概ね同一であった。マルチビーズショッカーを用い、タンパク質分解酵素阻害剤混合物(Roche)を添加した氷冷PBS中、10%で脳組織(前頭葉領域)をホモジェナイズした。2000×gで2分間遠心分離後、上清を採取し、使用するまで−80℃に凍結した。脳ホモジネートは、反応前にPBSで希釈した。96ウェルプレートを密封テープ(Nunc)で覆い、プレートリーダー(Infinite M200 fluorescence plate reader;TECAN)中で断続的に震盪(円形状の震盪を最大速度で40秒、20秒間震盪無し、次いで蛍光測定のため2分休止から成る)して40℃でインキュベーションした。励起光及び蛍光の波長をそれぞれ440nm及び485nmとした単色光分光器を用いて、プレート底部の蛍光強度を10分毎に読み取り、アミロイド形成の動態をモニターした。各希釈脳ホモジネート試料を6レプリケート測定した。不溶性凝集体及びr−αSynオリゴマーの各希釈試料を、それぞれ、3〜4レプリケート及び3〜6レプリケートアッセイした。我々は、120任意単位超の蛍光強度を有する反応を陽性反応とし、レプリケート反応の50%において陽性反応を示したシード用量(SD50)を、スピアマン−ケルバー方法を以前(Wilham et al.,2010)記載された通りに用いて算出した。
【0077】
ウェスタンブロット法
脳組織(前頭葉領域)を、Triton−デオキシコール酸(DOC)溶解緩衝液(50mM Tris−HCl,pH7.5(150mM NaCl,0.5%Triton X−100,0.5%デオキシコール酸ナトリウム,2mM EDTA,及びタンパク質分解酵素阻害剤を含有))により、4℃で30分間溶解させた。2000×gで2分間遠心分離後、上清を採取し、ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイキット(Pierce)を用いて全タンパク質濃度を測定した。試料を、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)充填緩衝液(62.5mM Tris−HCl,PH6.8(5% 2−メルカプトエタノール,2%SDS,5%ショ糖,及び0.005%ブロモフェノールブルー含有))と共に95℃で5分間煮沸し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)に供した。タンパク質を、15%メタノールを含有する転写緩衝液中、Immobilon−P membrane(Millipore)に300mAで2時間転写し;膜を、TBST(10mM Tris−HCl,pH7.8,100mM NaCl,0.1% Tween 20)中5%脱脂粉乳で4℃で2時間ブロッキングし、希釈した一次抗体と反応させた。免疫反応したバンドを、増強化学発光システム(GE healthcare Life Sciences)を用いて、HRP−結合二次抗体により可視化した。
【0078】
透過型電子顕微鏡法
カーボン支持膜グリッド(染色前にグロー放電した)上でネガティブ染色を行った。試料の5μl等分割量をグリッド上に吸着させ、残液を濾紙で吸収した。グリッドを、新たに濾過した染色液(2%酢酸ウラン)5μlで染色した。乾燥した時点で、透過型電子顕微鏡(JEM−1400PLUS;JEOL)で試料を観察した。
【0079】
CD
円二色性(CD)スペクトルを、石英セルを用い、JASCO J−820分光偏光計(JASCO)により、1mmの経路長で測定した。195nm〜250nmの波長範囲での4回のスキャンを平均することにより、CDスペクトルを得た。r−αSynは20mMリン酸ナトリウム(pH6.5)及び150mM NaClの緩衝液中に溶解させた。r−αSynの濃度は300μg/mlであった。
【0080】
FTIR
フーリエ変換赤外分光(FTIR)スペクトルは、液体窒素で冷却した水銀カドミウムテルル(MCT)検出器を備えたBruker Tensor 27 FTIR instrument(Bruker Optics)により測定した。試料の20μl等分割量を、BioATRcell II減衰全反射型反射ユニットに装填した。4cm−1分解能における、全128スキャンを、一定の窒素パージの下、各試料について収集し、水蒸気に関して補正し、緩衝液の背景スペクトルを差し引いた。
【0081】
組織病理学及び免疫組織化学的染色
脳組織を20%中性緩衝ホルマリン中で固定し、ミクロトームで、スライドグラス上に8μmのパラフィン切片を作製した。脱パラフィン及び再水和後、組織切片をヘマトキシリン及びエオジンでの染色、並びに抗Ser129リン酸化α−Syn抗体(1:3000希釈;Wako)を用いた免疫組織化学的染色に供した。免疫原性を増進するため、一次抗体とインキュベーションする前に、98℃で40分間加熱することにより切片を作製した。一次抗体の結合は、標識ストレプトアビジン−ビオチン法(DAKO)により検出した。ペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンを、3’3−ジアミノベンジジン(Wako)を発色原として可視化した。免疫染色した切片を、マイヤーのヘマトキシリンで軽く対比染色した。
【0082】
統計解析
最大蛍光強度についてのデータは一元配置分散分析、続いてテューキー−クレーマー検定で解析した。遅滞期についてのデータ解析は、ログランク検定及びテューキー−クレーマー検定に供した。統計学的有意を示すため、P<0.05又はP<0.01を用いた。
【0083】
補足的な実験手順
組換えα−シヌクレインのin vitroリン酸化
r−αSyn(3μg)を、20μlの反応緩衝液(20mM Tris−HCl,pH7.5,50mM KCl,及び10mM MgCl)中で、カゼインキナーゼ2(New England Biolabs)及び200μM ATP(Sigma)と37℃で5時間インキュベーションした。95℃で10分間煮沸することにより反応を停止した。
【0084】
Phos−tag SDS−PAGE及びウェスタンブロット法
tricine−SDS−PAGE法に基づいてPhos−tag SDS−PAGEを行った。ポリアクリルアミドの分離ゲルには1M Tris−HCl(pH8.45),0.1%SDS,13.3%グリセロール,100μM Phos−tag,及び400μM ZnClを含めた。陽極緩衝液成分の濃度は、200mM Tris−HCl(pH8.9)とした。陰極緩衝液成分の濃度は、100mM Tris,100mM Tricine,及び0.1%SDSとした。SDS充填緩衝液(5% 2−メルカプトエタノール,2%SDS,5%ショ糖,及び0.005%ブロモフェノールブルーを含有する62.5mM Tris−HCl,pH6.8)と共に、試料を95℃で5分間煮沸し、Phos−tag SDS−ポリアクリルアミド電気泳動法に供した。電気泳動後、ゲルを、Zn2+イオンをキレートするための10mM EDTAを含有する転写緩衝液で洗浄した。タンパク質を、15%メタノールを含有する転写緩衝液中、300mAで2時間、Immobilon−P membrane(Millipore)上に転写した。膜をTBST(10mM Tris−HCl,pH7.8,100mM NaCl,0.1% Tween20)中5%脱脂粉乳で、4℃で2時間ブロッキングし、希釈した一次抗体と反応させた。増強化学発光システム(Amersham)を用いて、免疫反応性のバンドを、HRP結合二次抗体で可視化した。ImageJ 1.41を用いて、バンドの強度を測定した。
【0085】
ドットブロット
BH及びr−αSynを、SDS充填緩衝液(5% 2−メルカプトエタノール及び2%SDSを含有する62.5mM Tris−HCl,pH6.8)と共に95℃で10分間煮沸した。bio−blot(Bio−Rad,Hercules,CA,USA)を用いて、試料を、穏やかな減圧促進条件下でニトロセルロース膜上にブロットした。TBST(10mM Tris−HCl,pH7.8,100mM NaCl,0.1% Tween20)で洗浄及びTBST中5%脱脂粉乳で2時間ブロッキング後、希釈した一次抗体で膜をプローブした。増強化学発光システム(Amersham)を用いて、免疫反応性のバンドを、HRP結合二次抗体で可視化した。ImageJ 1.41を用いて、ドットの強度を測定した。
【0086】
結果
Ser129がリン酸化されたα−シヌクレインはレビー小体型認知症由来の脳中に多量にある。
まず、我々は、DLB患者の脳中にLB及びSer129でリン酸化されたαSyn(pSer129−αSyn)が存在することを、それぞれヘマトキシリン・エオジン染色及び免疫組織化学的染色により確認した(図2A)。びまん性新皮質型DLB(DN−DLB)患者2名及び大脳辺縁系型DLB(Li−DLB)患者1名由来の剖検で得られた黒質及び前頭葉の皮質の切片において、LB及びpSer129−αSynの両方が観察された。pSer129−αSynは、LB中に存在するように見えた。皮質中では、DN−DLBにおける、pSer129−αSynを含有するLBは、Li−LDBにおけるそれよりも明らかに大きかった。対照的に、組織化学的解析により、非DLB症例の脳では、病理学的異常が明らかではなかった。Tannickal et al.(2007)による以前の報告と整合して、黒質中の、メラニン顆粒を含有する細胞は、通常、DN−DLB及びLi−DLB患者では恐らく神経変性のため喪失していたが、非DLBではそうではなかった。
【0087】
次に、我々は、抗αSyn抗体D119を用いたウェスタンブロット法により、DLB患者由来の脳ホモジネート(BH)中のαSynの生化学的特性を検証し、非DLB症例由来のそれらの結果と比較した(図2B)。全患者由来試料イムノブロット解析により、18kDaにおける天然のαSynのバンド、36kDaの二量体型、又は両方が示された。DN−DLBの2症例及びLi−DLBの1症例は、>250kDaの分子量範囲の、顕著に嵩張った多量体型αSynを含有していた。不溶性多量体はLi−DLBよりも、DN−DLBにおいてより豊富であったが、このことにより、αSyn多量体形成が、疾患進行に極めて重要であることが示された。このバンドは非DLB症例では観察されなかったが、GSSにおいて、比較的少量の重合体が観察された。すべての症例で、約50kDa〜250kDaの分子量範囲に、様々な大きさのバンドが示された。これらのバンドは、恐らくオリゴマーのαSyn及び/又はユビキチン化αSynに起因し、症例間で大きく異なってはいなかった。pSer129−αSynに対する抗体は、DN−DLBの2症例において、高分子量(>250kDa)の見かけ上のバンドを検出した(図2C)。同様の大きさのバンドが、Li−DLBの1症例で観察されたが、免疫反応性の強度はDN−DLBのよりもずっと弱かった。対照的に、非DLB症例では、pSer129−αSynに対する抗体への免疫反応性は示されなかった。これらの観察により、DLBの脳中、>250kDaの、(多くがSer129でリン酸化された)αSynの不溶性多量体の存在が示された。更に、我々はPhos−tag SDS−PAGEに続く定量的ドットブロットイムノアッセイにより、DLB症例の脳におけるpSer129−αSynのレベルを見積もった(図7)。DN−DLB症例#1及び#2におけるpSer129−αSynのレベルは、それぞれ13.5±0.4mg/g脳及び3.7±0.2mg/g脳であり、Li−DLBにおけるレベルは0.06±0.02mg/g脳であった。DN−DLBにおける全αSynに対するpSer129−αSynの割合は、Li−DLBにおけるそれよりも高かった:DN−DLB症例#1(57.9%±1.5%)、DN−DLB#2(22.6%±1.2%)、及びLi−DLB(6.1%±1.7%)。これらの結果により、pSer129−αSynが疾患の進行に関連することが示唆される。以前の研究により、LBD脳において、Ser87でリン酸化されたαSynのレベルも上昇することが示された(Paleologou et al.,2010)。しかし、Ser87リン酸化αSynに対する抗体では36kDaの二量体バンドが検出され、Ser87リン酸化型のレベルにおける、症例間での顕著な差はなかった(図2D)。
【0088】
RT−QUICによる、可溶型の組換えヒトα−シヌクレインのアミロイド線維への転換
我々は、次に、DLB患者由来のBHを反応液に添加した場合に、RT−QUICにおいてr−αSyn線維形成が誘導され得るかどうかを、ThT蛍光レベルをモニタリングすることによって検証した(図3A及び図3B)。5×10−5及び5×10−6希釈の、DN−DLBの2症例由来BHを添加した場合、早くて24時間、すべての反応液では96時間以内にThT蛍光陽性が示された。5×10−7希釈では、症例#1の6レプリケートウェルのうちの4、症例#2の6ウェルのうち3で、アッセイが陽性であった。5×10−8希釈では、症例#1についての6反応のうち2で陽性であったが、症例#2では蛍光の増大は観察されなかった。5×10−9希釈の反応では、症例#1ですべて陰性であった。Li−DLB症例については、5×10−5希釈での6反応のうち2で陽性反応が示されたが、より薄い希釈では反応が観察されなかった。我々はLi−DLBについての5×10−4希釈の効果も検証したが、蛍光の増大は観察されなかった(データ示さず)。陰性反応は、おそらく、反応においてr−αSyn線維形成を阻害する、BH中の多様な成分のレベルが高いことに起因すると思われた。対照的に、シード無しの対照及び統合失調症のBHの5×10−5及び5×10−6希釈による反応では、96時間超でレスポンスがもたらされなかった。最大蛍光強度は、シード無しの対照に比べて、DN−DLB症例#1の5×10−5及び5×10−6希釈、DN−DLB症例#2の5×10−5〜5×10−7の範囲の希釈、及びLi−DLBの5×10−5希釈での反応で有意に強かった(図3B)。遅滞期は、シード無しの対照に比べて、DN−DLBの2症例由来の5×10−5希釈での反応で有意に短かった(図3B)。DN−DLB症例#1及び#2のSD50/g脳の値は、それぞれ107.8及び107.3であった。我々はLi−DLBのシーディング用量を正確に算出できなかったが、その値は、5×10−4希釈で100%陽性が示されるとの仮定に基づいて、5.1(logSD50/g脳)未満と見積もられた。組換えヒトプリオンタンパク質を基質とする反応又はタンパク質無しの反応においては、DLBの特異的検出は認められなかった(図8)が、このことにより、DLB症例由来BHの、r−Synをシーディングする能力が証明されたが、他のタンパク質をシーディングする能力に関しては証明されなかった。他のタンパク質ミスフォールディング疾患及び変性の疾患の、RT−QUICに対する影響を更に評価するために、我々はアルツハイマー病(AD)、孤発性クロイツフェルト−ヤコブ病(sCJD)1型及び2型、並びにGSSの患者由来のBHをアッセイに適用した。AD、sCJD(1型及び2型)並びにGSSにおいては、5×10−5及び5×10−6希釈の反応すべてで、96時間以内に陰性のレスポンスがもたらされた(図3A及び3B)。これらの観察により、RT−QUICがDLB症例由来のBHの存在下のみで、r−αSyn線維の形成を誘導すること、及びDN−DLBのシーディング活性はLi−DLBのそれよりも高いことが示された。これらの知見により、r−αSynは、プリオン様の機構によりアミロイド線維に転換され得ることが示唆された。
【0089】
r−αSynの線維構造を特性解析するために、試料をネガティブ染色透過型電子顕微鏡法(TEM)により検証した。DN−DLB症例#1でシーディングしたr−αSyn線維の電子顕微鏡写真により、長く、細く、且つ分岐した線維束が明らかにされたが、シーディング無しの陰性対照反応においては、線維が観察されなかった(図3C)。フーリエ変換赤外分光(FTIR)により、DLBと非DLBの症例との間で、変性構造に帰属する、1650cm−1における最も顕著なバンドにほぼ差がないことが示された(図3D)。該結果により、DLB BHでシーディングされた反応においては、少量のr−αSyn線維のみが生成したことが示唆される。RT−QUICの確実性を更に確認するため、我々は、更に4名のDN−DLB患者由来のBH試料を解析した(図4B及び4C)。DN−DLB症例#1及び#2と同様に、すべての患者由来試料のイムノブロット解析により、>250kDaの不溶性αSyn多量体が示された。pSer129−αSynは、多量体の大きさでのみ検出された(図4A)。これらの症例の5×10−6及び5×10−7希釈を添加した場合、RT−QUIC反応ですべて陽性が示された。症例#5及び#6の5×10−8希釈での反応も、すべて陽性であった。症例#3及び#4については、5×10−8希釈での6反応のうちの5で、陽性レスポンスが示された。5×10−9希釈では、症例#4については6ウェルのうち4で、症例#5については全ウェルで、症例#6については6ウェルのうちの4でアッセイが陽性であり、症例#3のウェルはすべて陰性であった。5×10−10希釈では、症例#4、#5及び#6での反応はすべて陰性であった。最大蛍光強度は、シーディング無しの対照と比較して、症例#3、#4及び#6の5×10−5〜5×10−8の範囲、及び症例#5の5×10−6〜5×10−9の範囲の希釈での反応において有意に強かった(図4C)。遅滞期は、シーディング無しの対照と比較して、症例#3及び#4の5×10−6〜5×10−8及び症例#5及び#6の5×10−6〜5×10−9の範囲の希釈での反応において、有意に短かった(図4C)。SD50/g脳の値は、以下の通りであった:108.6(症例#3)109.3(症例#4)109.8(症例#5)及び109.5(症例#6)。従って、我々は、他のDN−DLB患者由来の脳のシーディング活性を検出できた。
【0090】
α−シヌクレインの不溶性凝集体は、シーディング活性を殆ど又は全く有しない
次に、我々は、Ser129でリン酸化されたr−αSyn(pSer129−r−αSyn)を用いて、Ser129リン酸化が、プリオン様機構によるαSyn線維形成に極めて重要なのかどうかを検証した。WT r−αSynは、カゼインキナーゼ2(CK2)及びATPの両方の存在下でのインキュベーションによってのみSer129でリン酸化されたが、S129A変異体は同一条件下でリン酸化されなかった(図5A)。DLB BHでの場合と同様に、不溶性pSer129−r−αSynは、72及び264時間のインキュベーション後の>250kDaの分子量範囲にのみ観察された。ATP非存在下(WTCK2)又は存在下(WTCK2+ATP)、CK2とインキュベーションしたWT r−αSynとCK2及びATPとインキュベーションしたS129A r−αSyn(S129ACK2+ATP)との間でThT蛍光レベルの増大に有意差はなかったが(図5B)、72時間インキュベーション後、pSer129−r−αSynの凝集体形成は、非リン酸化r−αSynのそれよりも効率的に誘導された(図5A)。これらの結果により、Ser129リン酸化によってr−Synの重合が促進されることが示唆された。以前の報告(Vlad et al.,2011)と整合して、72時間インキュベーション後の試料すべてにおいて、全長r−αSynよりも低分子量の、13kDaのバンドが観察されたが、このことにより、r−αSyn凝集体形成はr−αSynの切断及び/又は分解に仲介されることが示された。CK2及びATPと264時間インキュベーションしたWT(WT−264h)及び変異体r−αSyn(S129A−264h)のFTIRスペクトルにより、インキュベーション前(WT−0h及びS129A−0h)と比較して、わずかに低い波数へのシフトが示されたが、このことにより、βシート含有量の小幅な増加(1630〜1610cm−1)が示された(図5C)。インキュベーションの前後で、WTと変異体r−αSynとの間には、赤外線スペクトルに差が殆ど無かった(図5C)。TEM解析により、WT−264h及びS129A−264hが、専ら非晶質の凝集体から成ることが示された(図5D)。我々は、次に、RT−QUICにおいて、非晶質のr−αSyn凝集体の存在下で、r−αSynが新たにアミロイド線維に転換され得るかどうかを検証した。意外にも、WT−264h又はS129A−264hとの反応はすべて、2×10−2及び2×10−4希釈で、RT−QUICアッセイにおいて否定的な結果をもたらした(図5E)。従って、r−αSynの不溶性凝集体は、それらがSer129でリン酸化されていようがいまいがに関係なく、プリオン様のシーディング活性を有しなかった。
【0091】
α−シヌクレインのオリゴマー様形態は、プリオン様伝播を惹起する
WT r−αSynを用いたRT−QUICにより、ATP存在下(WTCK2+ATP)でのCK2との反応において、その非存在下(WTCK2)においてよりも蛍光強度の迅速な増加及び高いレベルの蛍光強度がもたらされたが、2条件(S129ACK2及びS129ACK2+ATP)の間でS129A r−αSynのThT結合動態に差は無かった(図6A)。pSer129−αSynに対する抗体により、WTCK2+ATPにのみ、16kDaにおける支配的なバンド及び>250kDaの分子量範囲における薄いバンドが検出された(図6B)。これらの結果により、Ser129リン酸化によって、RT−QUICKにおいてr−αSynの線維形成が促進されることが示唆される。震盪なしで生成された不溶性凝集体とは異なり、図5Aに示す通り、反応のすべてで、16kDaにおいて単量体αSynの支配的なバンドが示された。更に、250kDa超の重合体は、WTCK2+ATP及びWTCK2に辛うじて検出された。r−αSynの凝集サイズにおける、図5Aとの差は、恐らく、線維の断片化を惹起し得る震盪に起因すると思われる。FTIR解析により、すべての反応間で、変性構造に帰属する1650cm−1における支配的なバンドには殆ど差が無いことが示された(図6C)。WTCK2+ATP及びS129ACK2+ATPのTEM解析により、r−αSynのオリゴマー様の顆粒状形態が明らかとなった(図6D)。これらのオリゴマー様分子種がシーディング活性を示すかどうかを検証するために、我々はRT−QUIC試料の2代目継代を行った(図6E及び6F)。2×10−4及び2×10−5希釈のWTCK2+ATP、WTCK2、及びS129ACK2+ATPにより、すべての反応で100%陽性が示された。2×10−6希釈では、WTCK2+ATPについては6ウェルのうち5で、WTCK2については6ウェルのうち2で、S129ACK2+ATPについては6ウェルのうち5で、アッセイが陽性であった。2×10−7希釈では、WTCK2+ATP及びWTCK2での反応ですべて陰性であったが、この濃度で、S129ACK2+ATPでの6反応のうちの3で陽性であった。5×10−8希釈では、これらの3試料でのすべてのウェルで陰性の結果が示された。リン酸化オリゴマー様分子種により104.9/μg r−αSyn(WTCK2+ATP)のSD50値がもたらされ、非リン酸化オリゴマー様分子種により、104.4/μg r−αSyn(WTCK2)及び105.4/μg r−αSyn(S129ACK2+ATP)のSD50値が示された。対照的に、我々は、WTCK2+ATPと同一成分を含有し、アッセイ直前に震盪せずに調製したモック試料(WT−mock)の2×10−4〜2×10−8の範囲の希釈での、あらゆる反応で蛍光の増加を観察しなかった。最大蛍光強度は、2×10−5希釈でのWTCK2+ATP及びWTCK2との反応及び2×10−4〜2×10−6の範囲の希釈のS129ACK2+ATPとの反応で、WT−mockと比較して有意に強かった(図6F)。遅滞期は、2×10−4〜2×10−6の範囲の希釈のWTCK2+ATP及びS129ACK2+ATPとの反応並びに2×10−4及び2×10−5の範囲の希釈のWTCK2との反応で、WT−mockと比較して有意に短かった(図6F)。我々の結果により、r−αSynのオリゴマー様分子種により、Ser129でのリン酸化有り又は無しで、シーディング活性が表されることが示された。
【0092】
更に、2×10−4及び2×10−5希釈でのS129ACK2+ATPとの反応の最大蛍光強度は、WTCK2+ATPのそれよりも有意に強かった(図6F)。その上、2×10−5希釈のS129ACK2+ATPとの反応の遅滞期は、WTCK2+ATPのそれよりも有意に短かった(図6F)。従って、S129ACK2+ATPを含有するRT−QUIC反応液は、WTCK2+ATP又はWTCK2を含有するものよりも高いシーディング能を有することが示された。これらの差についての正確な理由はまだ知られていないが、WT r−αSynとS129A r−αSynとの間の構造の微妙な差が関連する可能性が高い。
【0093】
考察
本研究の結果により、r−αSyn線維の形成が、DLB患者由来のBHの存在下でのみ、可溶性r−αSynを用いたRT−QUICにより誘導されることが初めて証明された(図3A及び3B)。DLB症例においてのみ検出される、250kDaよりも大きな、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)不溶性凝集体は、Ser129で特異的にリン酸化されており(図2C)、従って我々は、pSer129−αSynの不溶性凝集体が、プリオン様のシーディング活性を付与すると仮定した。しかし、意外にも、βシート構造の増加を伴ったr−αSynの不溶性凝集体は、リン酸化状態及び非リン酸化状態で共にシーディング活性を殆ど有しなかった(図5E)。その代わりに、r−αSynの前線維オリゴマーが、リン酸化有り又は無しで、共に、シーディング活性を発揮した(図6E及び6F)。我々の知見により、可溶性オリゴマーであるが、完全に線維性でないαSynが、in vitroのシーディング分子種であることが示唆される。以前の研究により、r−αSynのオリゴマー分子種が、初代ニューロン又はニューロン細胞株によって内在化され、内生αSynの凝集を誘導することが示されている(Danzer et al.,2007;Danzer et al.,2009)。更に、オリゴマー形態のαSynがニューロン細胞死及び神経変性の原因であることを示唆する証拠が相当にある(Brown,2010;Vekrellis.,2011)。死後研究においては、DLB患者の脳における可溶性αSynオリゴマーのレベルが、AD患者及び対照よりも有意に高かった一方、該3群間において、全αSynレベルに有意差は無かった(Paleologou et al.,2009)。これらの報告により、成熟線維又は非晶質凝集体よりも、むしろ前線維αSynオリゴマーが、LBDにおける、プリオン用挙動を伴う病原性分子種に相当するという示唆が支持される。単量体アミロイドβ(Aβ)を用いた同様のアプローチにより、タンパク質ミスフォールディング環状増幅(PMCA)アッセイによって、AD患者由来のCSF中に存在するAβオリゴマーに関連するシーディング活性が検出され得ることが示された(Salvadores at al.,2014)。DN−DLB由来脳組織は、症例#1及び#2において、それぞれ、103.4/μg全αSyn及び103.1/μg全αSynのSD50値を有しており、Li−LDBにおいては102.1/μg全αSynであった(図3A及び3B)。その一方、RT−QUICによって生成されたWT r−αSynオリゴマーの値は104.4μg/r−αSyn〜104.9μg/r−αSynであった(図6E及び6F)。RT−QUIC反応において、全てのr−αSynがオリゴマー形態で存在するかどうかは明らかではないが、もしそうなら、DN−DLB症例#1及び#2の脳において、それぞれ全αSynの3.2%〜10%及び1.6%〜5.0%が、Li−LDBの脳では0.2%〜0.5%がオリゴマーと見積もられる。不溶性LB凝集体の正確な役割は不明なままであるが、細胞保護的及び神経保護的な役割が、細胞株(Tanaka et al.,2004)及びショウジョウバエ(Chen and Feany, 2005)を用いた研究で報告されている。S129Aオリゴマーのシーディング活性は、リン酸化状態に関係なく、WTオリゴマーのそれよりも高く(図6F)、ウェスタンブロット解析において、WTオリゴマーを含有する反応液中に少量の不溶性凝集体が検出されたが、S129Aオリゴマーを含有する反応液中ではそうではなかった(図6B)。これらの結果により、不溶性凝集体によってαSynのプリオン様伝播からの防御がもたらされることが示唆される。Ser129リン酸化型と非リン酸化型との間でr−αSynオリゴマーのシーディング活性に顕著な差はなかったが、我々はr−αSynのリン酸化により、自己凝集が促進されることを見出した(図5A及び6A)。このことは、以前の報告(Fujiwara et al.,2002)と整合する。以前の研究により、pSer129−αSynレベルの上昇は、LBD患者の脳におけるLBの出現に先行すること(Lue et al.,2012)、及びLBDの病理で観察される酸化ストレス、ミトコンドリア機能不全(Perfeito at al.,2014)、及びプロテアソーム阻害(Chau et al.,2009)によって誘導されることが示された。更に、pSer129−αSynは、神経機能不全に対する防御効果を有することが報告されている(Gorbatyuk et al.,2008;Kuwahara et al.,2012)。これらの結果により、pSer129−αSynは、神経機能不全に対する防御機構に起因することが示唆される。pSer129−αSynは、その後前線維オリゴマー及び成熟線維への自己凝集の開始を促進すると思われる。
【0094】
RT−QUICにより、DLBの、AD病及びプリオン病等の他の変性疾患並びに非変性症例からの鑑別が可能となったが、このことにより、r−αSynは、他のミスフォールドタンパク質、即ち、アミロイドβ、タウ及びPrPScの、異種交差シーディングを誘導する能力による影響をほぼ受けないことが示唆される。in vitro及びin vivoで、αSynと他のミスフォールドタンパク質との間の交差シーディング相互作用の報告(Morales et al.,2013)があるが、RT−QUIC反応に対する影響は殆ど無いように思える。DLBの、他の変性疾患からの鑑別で、RT−QUICを用いた特異的検出を、鑑別的な診断に応用する可能性が生じる。DN−DLB患者由来の脳は、SD50値が107〜10/g脳であり、Li−DLB患者由来の脳はSD50値がおおよそ105.1/g脳であると見積もられた。従って、RT−QUICは、ウェスタンブロット法又はELISAを用いたpSer129−αSynについての試験と比較して、DLBに対して検出感度が高く、より正確な脳の生検又は剖検の診断がもたらされることが示唆された。ELISA又はビーズベースのフローサイトメトリーアッセイを用いたいくつかの研究により、DLB及び他のシヌクレイノパチーの患者のCSF及び血液中の全αSynレベルが調査されたが、結果は結論が出ないもので、且つ矛盾している(Kasuga et al.,2012)。その一方、DLB及びPDのCSF及び血液では、可溶性αSynオリゴマーレベルが、AD及び対照のそれらと比較して上昇することが、ELISAで示された(Hansson et al.,2014;Tokuda et al., 2010)。これらの報告により、オリゴマー型のαSynが、LBD診断のための重要かつ有望な標的であるという示唆が支持され、LBD患者のCSF及び血液由来オリゴマーのシーディングによるRT−QUICの、診断の潜在力が示唆される。従って、αSynオリゴマーに特異的な既存のELISAと共にRT−QUICを用いることが、LBDの鑑別診断に特に有利だと考えられる。RT−QUICが、種々のタイプのLBD間の鑑別に役立つかどうか、及びこのアッセイが体液又は他の組織と共に用い得るかどうかを決定するためには、更なる研究が必要である。
【0095】
本研究において、我々は、αSynのシーディング分子種の候補を、実験室で検出するために、RT−QUICを用いることの実行可能性を証明した。我々のデータにより、オリゴマー型のαSynが、プリオン様伝播を惹起し、LBDの発症に重要な役割を果たす病原性分子種であるという示唆に、更なる支持がもたらされる。我々は、この新たな方法が、臨床診断、薬剤候補のスクリーニング、及び我々の、LBDにおけるプリオン様タンパク質としてのαSynの役割の理解の進展のための、確固たるツールになると考えている。
【0096】
追加実験
脳脊髄液サンプルによるα−シヌクレイノパチーと他の認知症等との鑑別
剖検により、レビー小体型認知症(DLB)及び弧発性クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)であることが確認されている患者の脳脊髄液サンプルを採取し、それぞれに対してα−シヌクレイノパチーのためのRT−QUICを行った(図12)。尚、反応混合液には、300mM NaClを含めた。DLBについて5例(症例#1〜5)、CJDについて1例(症例CJD#1)の結果を、図12に示す。剖検例(確実例)におけるDLB患者のサンプルのみで特異的にシグナルを検出した。CJD患者のサンプル及びシード無しのコントロール(PBS)では、シグナルを検出しなかった。
【0097】
鑑別診断補助検査(プリオン病vs DLB)
プリオン病(CJD)とDLBの診断が難しい症例において、採取した髄液に対する、RT−QUIC検査を行ったところ、シヌクレイン/QUIC法で陽性を示した(図13;シード無しのコントロール(PBS)では、シグナルを検出せず、CJDのためのRT−QUIC検査(非特許文献18)では陰性であった)。本実験においては、反応混合液にNaClは含めなかった。その後の検査で、MIBG心筋シンチと脳血流シンチの結果からDLBと診断され、RT−QUIC法の結果と一致した。
【0098】
参考文献
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【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、被験体がα−シヌクレイノパチーに罹患しているか否かの診断を補助することができる。当該方法は、α−シヌクレイノパチーと他の認知症等との明確な鑑別を補助できる強力な方法となり得る。当該方法により、早期に鑑別することにより、α−シヌクレイノパチーの進行を抑制するための適切な治療法の選択が可能となる。
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【配列表】
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