(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-9320(P2018-9320A)
(43)【公開日】2018年1月18日
(54)【発明の名称】Uターン複合抵抗機構型グラウンドアンカー
(51)【国際特許分類】
E02D 5/80 20060101AFI20171215BHJP
【FI】
E02D5/80 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-137623(P2016-137623)
(22)【出願日】2016年7月12日
(11)【特許番号】特許第6077706号(P6077706)
(45)【特許公報発行日】2017年2月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000170772
【氏名又は名称】黒沢建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108327
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 亮平
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041GA01
2D041GB01
2D041GC01
(57)【要約】
【課題】錆の発生を考慮する必要をなくし、かつ、施工性を高め、低コストで引き抜き耐力の大きなUターン型グラウンドアンカーを構築する。
【解決手段】PC鋼より線の芯線及び側線が合成樹脂塗膜で保護されたPC鋼より線40を折り曲げてUターン状にした緊張材4のUターン部5に支圧具を設けずに地盤内のアンカー体31に直接埋設し、引張力がUターン部5からアンカー体31に直接伝達されるようにすると共にUターン部5より先に延びる先端スパイラル71を有するスパイラル筋7が緊張材4の定着長部3を包囲しており、また、スパイラル筋7の先端スパイラル71のスパイラル径をUターン部5のそれより小さなものとして削孔に挿入する際のガイドとし、グラウンドアンカーの設置を迅速に行なうことを可能にした。Uターン部5の支圧具を省略したので軽量化され、施工しやすく、低コストとなった。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC鋼より線をUターンさせた緊張材であり、このUターン部に支圧具を設けずに定着長部としてあり、この定着長部にはUターン部の先まで延びる先端スパイラルを有し、緊張材を包囲するスパイラル筋が設けてあって緊張材を拘束すると共にアンカー体のグラウトを補強するものであり、先端スパイラルのスパイラル径がUターン部のそれより小さくしてあるUターン複合抵抗機構型グラウンドアンカーユニット。
【請求項2】
請求項1において、Uターン状にした緊張材が少なくとも2本以上を配設したものであるUターン複合抵抗機構型グラウンドアンカーユニット。
【請求項3】
請求項1または2のUターン複合抵抗機構型グラウンドアンカーユニットが削孔内に挿入してあり、Uターン部が削孔底より先端スパイラルによって離れた位置に設置されており、Uターン部及びスパイラル筋がグラウトからなるアンカー体内に固定されているUターン複合抵抗機構型グラウンドアンカーユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張力を緊張材からアンカー体に伝達する耐荷体を省略したUターン型グラウンドアンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
グラウンドアンカーがアンカー力を得る機構として圧縮型、引張型、支圧型があり、それぞれ長所と欠点を有している。また、引張型と圧縮型のアンカー体を多段とした分散型グラウンドアンカーも実用化されている。
圧縮型として特許文献1(特公平5−30932号公報)に示されるように、緊張材を耐荷体に巻き掛けたUターン型グラウンドアンカーは、緊張材に作用する引張力を耐荷体を介してアンカー体に伝達し、更に、アンカー体から周囲の地盤に伝えており、引張力はアンカー体に圧縮力として作用している。
耐荷体は、鋼製または鋳鉄製であり緊張材を掛け回す半円形の湾曲体が形成されている。
【0003】
グラウンドアンカーを地中に設置する際には、鋳鉄製の耐荷体と緊張材を削孔中に挿入するものであり、比較的重量のあるアンカー体を地上で組み立てて挿入するので施工に時間を要し、また、耐荷体の部材を必要とするのでコストがかかっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−30932号公報
【特許文献2】特許第2912881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のUターン型グラウンドアンカーは、緊張材のPC鋼より線が引張方向に対して断面が小さいので耐荷体を介さずに直接アンカー体に埋設すると応力がUターン部に集中してアンカー体が破壊されと考えられており、引張力を分散してアンカー体に伝達するための耐荷体や支圧板などの支圧部材を用いて引張力をアンカー体に伝達していた。
アンカー体はセメントグラウト等を固化させた固化体であるため、錆の問題は生じないが、支圧部材及びPC鋼より線は鋼鉄製のため、アンカー体に何らかの原因でひび割れが生じてアンカー体内に地中水が浸透すると錆が発生するという問題がある。錆が発生するとグラウンドアンカーの機能を低下させ、寿命を短くすることがある。
本発明は、Uターン型グラウンドアンカーの施工時の取り扱いを容易にし、部品点数を少なくすることによって低コストでグラウンドアンカーを構築できるようにすると共にアンカー体にひび割れが生じた場合であっても錆が発生しにくいものとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
PC鋼より線をUターンさせた緊張材のUターン部に支圧具を設けずに定着長部とし、この定着長部にはUターン部の先まで延びる先端スパイラルを有し、緊張材を包囲するスパイラル筋が設けてあって緊張材を拘束すると共にアンカー体のグラウトを補強しており、先端スパイラルのスパイラル径が、Uターン部のそれより小さくしてあるUターン型グラウンドアンカーユニットであり、また、このUターン型グラウンドアンカーユニットを削孔内に設置してUターン部をアンカー体内に設置したUターン複合抵抗機構型グラウンドアンカーである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のUターン型グラウンドアンカーユニットを用いたUターン型グラウンドアンカーは、Uターン部の支圧具を省略したことにより支圧具の錆の問題が解消されており、かつ、Uターン部の緊張材を包囲するスパイラル筋が設けてあり、グラウトからなるアンカー体の割裂ひび割れの発生を防止することができるため、Uターン部の内側面が支圧板と同様に機能することからUターン部は安定した支圧抵抗機構となって圧縮型アンカーとして機能し、それより上側の緊張材は、包囲されているスパイラル筋の拘束によってグラウトと緊張材との付着力が大幅にアップされて安定した摩擦抵抗機構が得られ、アンカー体は引張型となり、アンカー体全体としては、圧縮型と引張型が複合化されたアンカー体として引張力を有効に地盤に伝達することができることから、アンカー体を小型化でき、コストの低減及び工期の短縮を図ることができる。
更に、支圧具を省略したのでグラウンドアンカーユニットが軽量化されており、施工時の取り扱いが容易となり施工効率を高めることができ、工期の短縮およびコストの削減となる。
緊張材の外周にスパイラル筋が被せてあることによって引張力が回転方向の力に変換されるのでアンカー体との摩擦抵抗が増大することによって従来のPC鋼より線の付着力を超える引き抜き力を得ることができるので、アンカー体の長さを短縮することが可能となり、コストを削減することができる。
また、定着長部に設けられたスパイラル筋がUターン部の先まで延びる先端スパイラルを有すると共に、先端スパイラルのスパイラル径がUターン部のそれより小さくしてあることによって、アンカーユニットを削孔に挿入するときのガイドとなって挿入作業を円滑に実施できると共に、先端スパイラルが削孔の底部に到達して停止すると、Uターン部は余長部の上部のスライムなどが無い位置に確実に停止させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のグラウンドアンカーの設置状態の正面図。
【
図2】本発明のグラウンドアンカーの定着部の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のUターン型グラウンドアンカーの緊張材4は、PC鋼より線40がポリエチレン製の被覆42で被覆されたもの、所謂アンボンドPC鋼より線を使用する。グラウンドアンカーの自由長部2(L
1)においては、ポリエチレン被覆42によってPC鋼より線40にグラウトは付着することがなく、自由に変形することができる。定着長部3(L
2)においては、ポリエチレン被覆42は除去されており、PC鋼より線40にグラウトが付着して一体化されており、PC鋼より線40に作用する引張力はグラウトを介して地盤に伝達されるようにしてある。本発明においては、このPC鋼より線40の芯線及び側線がそれぞれ全周に単独に合成樹脂塗膜が形成された防錆機能の高いものであって、地中水がPC鋼より線40の素線の間に浸入した場合であっても錆が生ずることがないものである。
このPC鋼より線40は、例えば、特公平7−103643号公報に示された素線を撚り合わせてブルーイングしたPC鋼より線の撚りを部分的に一時的にほぐし、各素線にエポキシ樹脂静電粉体塗装法によってエポキシ樹脂塗膜を形成したものであり、本発明のUターン型グラウンドアンカーの緊張材として好ましいものである。但し、これに限ることは無く、亜鉛メッキ防請処理したPC鋼より線を使用することも可能であり、また、裸線に適切な防錆処理を施したものであればよい。
【0010】
図1は、本発明のグラウンドアンカーユニット1を地中に設置した状態の全体図であり、
図2はグラウンドアンカーの先端部の定着長部の拡大図である。グラウンドアンカーは、アンカー頭部定着具10、自由長部2(L
1)定着長部3(L
2)及び削孔余長部L
3からなるものであり、アンカー長はL
0である。
緊張材4は、自由長部L
1においては、アンボンドPC鋼より線のポリエチレン被覆42を残したままとしてあり、定着長部L
2においては、ポリエチレン被覆42が除去されてPC鋼より線40が露出した状態としてある。
このポリエチレン被覆を除去したPC鋼より線40をベンダーで180度折り曲げてUターン部5を形成し、PC鋼より線を所定の間隔で平行にし、PC鋼より線をガイドする溝61が形成された円形のスペーサー6によって緊張材4の間隔を保持し、結束バンド62で固定してその状態を維持するものとしてある。図に示した例は、Uターン部5を形成したPC鋼より線2本を90°ずらして配置したものを緊張材4としたものであるが、グラウンドアンカーに要求される引抜耐力に応じて所要のPC鋼より線の直径及び本数を決定することができる。
【0011】
Uターン部5は耐荷体を設けずに定着長部3(L
2)の先端に配置されており、このUターン部5には所用の長さまでスパイラル筋7を被せてグラウトと一体化されてアンカー体31が形成される。Uターン部5が支圧抵抗機構として引張力をアンカー体31に伝達させるものである。平行に延びるPC鋼より線40の間隔が20〜40mmと小さく、Uターン部5の曲率半径が20〜30mmと小さいので素線の撚りが緩んで素線間に隙間が生じており、この隙間にグラウトが入り込みPC鋼より線と一体化するので、引張方向に対するUターン部5の断面が大きくなって引張力がアンカー体31に効率よく伝達される。
【0012】
図2の定着長部3の拡大図に示すように、定着長部3(L
2)はスパイラル筋7によって包囲されている。スパイラル筋7は、直径4〜8mmの鉄筋をスパイラルに加工したものであり、スパイラル径はUターンさせた緊張材4を包囲する大きさとしてある。
【0013】
削孔の先端部にはグラウトとPC鋼より線の付着を阻害するスライムや泥土、ごみが残留しているため、グラウトの強度が十分でなく、PC鋼より線40との十分な付着力が得られないので、従来の技術では余長部として緊張鋼材、耐荷体及び定着長部が余長部に位置しないようにグラウンドアンカーの先端にスペーサーとなるパイロットキャップを取付けてグラウンドアンカーの先端が削孔底から一定間隔離れるようにし、Uターン部がスライム等が存在している余長部L
3に位置しないようにしている。そのため、本発明では、先端スパイラル71の径はUターン部5が通り抜け不可能な大きさとしてありUターン部5が削孔底より所定の距離(L
3)隔てた位置に設置される。
【0014】
図示はしていないが、スパイラル筋7は、緊張材4の削孔への挿入時に位置がずれたり脱落したりしないように結束バンドなどの適宜の固定手段によって緊張材4に固定してあり、グラウトの充填固化後はアンカー体31と一体化されるものである。
【0015】
グラウンドアンカーの施工は、地盤にボーリング装置でアンカー長(L
0)に余長部(L
3)の長さを加えた深さの削孔を形成し、この削孔にアンカーユニット1を挿入する。スパイラル筋7の先端スパイラル71の直径が小さなものとしてあるので、削孔に挿入するときのガイドとなって挿入作業を容易にすると共に、先端スパイラル71が削孔の底部に到達して停止すると、Uターン部5は余長部(L
3)より上のスライムなどが無い位置に確実に停止した状態にすることが可能となる。
グラウトを注入して削孔内にアンカー体31を形成し、Uターン部5及びスパイラル筋7をアンカー体内に埋設する。グラウトが硬化し、Uターン部5がアンカー体31に固定された後に緊張材4を緊張してアンカーヘッドなどの定着具10に緊張定着する。
【0016】
実験例及び比較例
本発明のアンカーの引張耐力を以下の条件で施工し、アンカー体による緊張材4の拘束力を測定して従来技術による比較例と比較した。
比較例及び実施例ともにφ15.2mmの素線の全周を塗膜で保護してあるSCストランド(商品名)を用い、φ90mmの削孔を鉛直に形成し、自由長部と定着長部の境界部にはチューブのゴム製のパッカーを装着して設置し、自由長部2(L
2)にはグラウトが充填されないようにして摩擦抵抗が生じないようにした。
試験に用いたグラウンドアンカーの諸元を表1に示す。見掛けの周長とは、PC鋼より線の直径を15.2mmとし、2本のPC鋼より線の周囲の長さである。
比較例は2本のSCストランドからなる引張型のグラウンドアンカーであり、実施例は1本のSCストランドをUターンさせたものである。
【0018】
グラウトを充填してグラウンドアンカーを設置した後、4週間後に実施例と比較例各々について引き抜き試験を実施したところ、以下の結果が得られた。
図5及び
図6は比較例と実施例の引抜試験の荷重−変位量のグラフであり、▲は試験体のグラウンドアンカーの計測値を示し、●はアンカーヘッドの変位の開始時点から緊張材4に引張力が作用したものとして計算した値を示している。
【0019】
図5に示す比較例の引抜試験の結果からは、引抜荷重280kNまでは荷重とアンカーヘッドにおける緊張材の変位量は比例関係にあり直線的であるが、280kNを超えたところでアンカー体による緊張材の拘束が失われており、緊張材がアンカー体から抜け始めたものと推定される。
一方、
図6に示す本発明の実施例の試験結果では、緊張材4のPC鋼より線の降伏引張荷重444kNまで直線的な変位を示している。それ以上の引抜荷重は緊張材4が破断して計測機器を破損するおそれがあるので引抜試験を中止した。
以上の結果から、本発明のグラウンドアンカーは、表1に示すように、自由長、アンカー体長、及びアンカー体のグラウトモルタルの圧縮強度を同一条件とした従来の引張型アンカーの少なくとも1.57倍の引張荷重に耐えることができたものといえる。
【符号の説明】
【0020】
1 アンカーユニット
10 定着具
2 自由長部
3 定着長部
31 アンカー体
4 緊張材
40 PC鋼より線
42 ポリエチレン被覆
5 Uターン部
6 スペーサー
61 溝
62 結束バンド
7 スパイラル筋
71 先端スパイラル
【手続補正書】
【提出日】2016年12月6日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
PC鋼より線をUターンさせた緊張材であり、この緊張材のUターン部に支圧具を設けずに定着長部としてあり、この定着長部にはUターン部の先まで延びる先端スパイラルを有し、緊張材を包囲するスパイラル筋が設けてあって緊張材を拘束すると共にアンカー体のグラウトを補強するものであり、先端スパイラルのスパイラル径がUターン部のスパイラル径より小さなものとしてあるUターン複合抵抗機構型グラウンドアンカーユニット。