【解決手段】本発明の一実施形態に係る飲料は、リナロールと、シス−3−ヘキセノールと、3−スルファニル−4−メチルペンタン−1−オール(3S4MP)と、を含有し、次の条件(a)、(b)及び(c)を満たす、飲料である:(a)リナロール含有量が15.0ppb以上、190.0ppb以下;、(b)3S4MP含有量が0.020ppb以上、0.450ppb以下;及び(c)次の式で算出されるパラメータZの値が5.0以上:Z=シス−3−ヘキセノール含有量(ppb)+3S4MP含有量(ppb)×20。
リナロールと、シス−3−ヘキセノールと、3−スルファニル−4−メチルペンタン−1−オール(3S4MP)とを含有する原料を使用して、前記飲料を製造する、請求項3に記載の飲料の製造方法。
前記原料に含まれる前記生ホップ以外のホップ原料の量と、前記原料に含まれる生ホップの量との合計に対する、前記原料に含まれる前記生ホップの量の割合が、50重量%以下である、請求項5に記載の飲料の製造方法。
リナロールと、シス−3−ヘキセノールと、3−スルファニル−4−メチルペンタン−1−オール(3S4MP)とを含有する飲料が次の条件(a)、(b)及び(c)を満たすように、リナロール含有量、シス−3−ヘキセノール含有量及び3S4MP含有量を調整することにより、前記飲料に生ホップ感を付与する、方法:
(a)リナロール含有量が15.0ppb以上、190.0ppb以下;、
(b)3S4MP含有量が0.020ppb以上、0.450ppb以下;及び
(c)次の式で算出されるパラメータZの値が5.0以上:Z=シス−3−ヘキセノール含有量(ppb)+3S4MP含有量(ppb)×20。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0014】
本実施形態に係る飲料(以下、「本飲料」という。)は、リナロールと、シス−3−ヘキセノール(cis−3−hexenol)と、3−スルファニル−4−メチルペンタン−1−オール(3S4MP)と、を含有し、次の条件(a)、(b)及び(c)を満たす、飲料である:(a)リナロール含有量が15.0ppb以上、190.0ppb以下;、(b)3S4MP含有量が0.020ppb以上、0.450ppb以下;及び(c)次の式で算出されるパラメータZの値が5.0以上:Z=シス−3−ヘキセノール含有量(ppb)+3S4MP含有量(ppb)×20。
【0015】
すなわち、本発明の発明者は、生ホップを使用することなく、又は生ホップの使用量を低減しつつ、生ホップの使用に特有の香味(生ホップ感)を有する飲料を実現する技術的手段について鋭意検討を重ねた結果、リナロール含有量、シス−3−ヘキセノール含有量、及び3S4MP含有量を、上記条件(a)、(b)及び(c)を満たすよう調整することにより、生ホップ感を実現できることを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
ここで、生ホップは、収穫後に乾燥させることなく使用するホップである。なお、生ホップの水分含有量は、20重量%以上である。生ホップの水分含有量は、30重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよく、50重量%以上であってもよい。一方、収穫後に乾燥させたホップの水分含有量は20重量%未満であり、10重量%以下であってもよい。
【0017】
そして、本実施形態において、生ホップ感とは、生ホップを使用することなく製造された飲料にはない、生ホップを使用して製造された飲料に特有の香味である。具体的に、生ホップ感は、例えば、官能検査において、ピュアで軽いグリーンな香味と評価される。これに対し、生ホップを使用することなくホップペレットを使用して製造された飲料は、例えば、当該ホップペレットの使用に特有の香味(ペレット感)を有し、及び/又は硫化物臭を伴うため、ピュアでグリーンな香味を有するとは評価されない。
【0018】
本飲料は、上述のとおり、リナロール、シス−3−ヘキセノール、及び3S4MPを含有し、且つ上記条件(a)、(b)及び(c)を満たすことにより、生ホップを使用することなく製造され、又はその製造に使用される生ホップの量が従来に比べて低減されているにもかかわらず、生ホップ感を有する。
【0019】
条件(a)について、本飲料のリナロール含有量は、15.0ppb以上、190.0ppb以下の範囲内であれば特に限られないが、例えば、15.0ppb以上、150ppb以下であることが好ましく、15.0ppb以上、140ppb以下であることがより好ましく、15.0ppb以上、100ppb以下であることがより一層好ましく、15.0ppb以上、90ppb以下であることが特に好ましい。また、上記リナロール含有量の各範囲における下限値は15.0ppbに限られず、例えば、当該各範囲は、20.0ppb以上であってもよい。
【0020】
条件(b)について、本飲料の3S4MP含有量は、0.020ppb以上、0.450ppb以下の範囲内であれば特に限られないが、例えば、0.020ppb以上、0.400ppb以下であることが好ましく、0.020ppb以上、0.350ppb以下であることがより好ましく、0.020ppb以上、0.300ppb以下であることがより一層好ましく、0.020ppb以上、0.250ppb以下であることが特に好ましい。また、上記3S4MP含有量の各範囲における下限値は0.020ppbに限られず、当該各範囲は、例えば、0.025ppb以上であってもよく、0.030ppb以上であってもよく、0.035ppb以上であってもよく、0.040ppb以上であってもよく、0.045ppb以上であってもよい。
【0021】
条件(c)について、本飲料のパラメータZは、上述のとおり、「シス−3−ヘキセノール含有量(ppb)」と、「3S4MP含有量(ppb)に20を乗じて得られる値」との和として算出される。そして、本飲料のパラメータZは、5.0以上であれば特に限られないが、6.0以上であることが好ましく、7.0以上であることがより好ましく、8.0以上であることがより一層好ましく、9.0以上であることが特に好ましい。なお、パラメータZの上限値は特に限られないが、当該パラメータZは、例えば、200以下であることとしてもよく、100以下であることとしてもよく、50以下であることとしてもよい。
【0022】
本飲料が満たす条件(a)、(b)及び(c)は、上記リナロール含有量範囲の一つと、上記3S4MP含有量範囲の一つと、上記パラメータZの値の一つとを任意に組み合わせて規定される。
【0023】
この点、本飲料は、特に次の条件(a)、(b)及び(c)を満たすことが好ましい:(a)リナロール含有量が15.0ppb以上、90.0ppb以下;、(b)3S4MP含有量が0.020ppb以上、0.450ppb以下;及び(c)次の式で算出されるパラメータZの値が9.0以上:Z=シス−3−ヘキセノール含有量(ppb)+3S4MP含有量(ppb)×20。
【0024】
本飲料は、シス−3−ヘキセノール含有量が、30.0ppb以下であることとしてもよい。この場合、本飲料のシス−3−ヘキセノール含有量は、25.0ppb以下であることとしてもよく、20.0ppb以下であることとしてもよく、15.0ppb以下であることとしてもよく、10.0ppb以下であることとしてもよい。
【0025】
シス−3−ヘキセノール含有量の下限値は特に限られないが、当該シス−3−ヘキセノール含有量は、例えば、1.0ppb以上であることとしてもよく、1.5ppb以上であることとしてもよく、2.0ppb以上であることとしてもよく、2.5ppb以上であることとしてもよい。シス−3−ヘキセノール含有量は、上記上限値の一つと、上記下限値の一つとを任意に組み合わせて規定される。
【0026】
ここで、本発明の発明者は、後述の参考例に記載のとおり、生ホップを使用して製造された飲料のシス−3−ヘキセノール含有量は、生ホップを使用することなく製造された飲料のそれより顕著に大きいことを見出した。この点、本飲料は、後述のとおり、そのシス−3−ヘキセノール含有量が、生ホップを使用して製造された従来の飲料のそれより小さいにもかかわらず、生ホップ感を有する。
【0027】
本飲料は、アルコール飲料であることとしてもよい。アルコール飲料は、アルコール含有量が1体積%以上(アルコール分1度以上)の飲料である。アルコール飲料のアルコール含有量は、1体積%以上であれば特に限られないが、例えば、1体積%以上、20体積%以下であってもよい。
【0028】
本飲料は、ノンアルコール飲料であることとしてもよい。ノンアルコール飲料は、アルコール含有量が1体積%未満の飲料である。ノンアルコール飲料のアルコール含有量は、1体積%未満であれば特に限られないが、例えば、0.5体積%未満であってもよく、0.05体積%未満であってもよく、0.005体積%未満であってもよい。
【0029】
本飲料は、発泡性飲料であってもよい。発泡性飲料は、泡立ち特性及び泡持ち特性を含む泡特性を有する飲料である。すなわち、発泡性飲料は、例えば、炭酸ガスを含有する飲料であって、グラス等の容器に注いだ際に液面上部に泡の層が形成される泡立ち特性と、その形成された泡が一定時間以上保たれる泡持ち特性とを有する飲料であることが好ましい。
【0030】
発泡性飲料の炭酸ガス圧は、1.0kg/cm
2以上であることとしてもよく、2.0kg/cm
2以上であることとしてもよい。発泡性飲料の炭酸ガス圧の上限値は、特に限られないが、当該炭酸ガス圧は、3.0kg/cm
2以下であることとしてもよい。
【0031】
また、発泡性飲料のNIBEM値は、50秒以上であることとしてもよい。NIBEM値は、発泡性飲料を所定の容器に注いだ際に形成された泡の高さが所定量減少するまでの時間(秒)として評価される。具体的に、発泡性飲料のNIBEM値は、文献「改訂 BCOJビール分析法 2013年増補改訂(編集:ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)、発行所:公益財団法人日本醸造協会)」の「8.29 泡−NIBEM−Tを用いた泡持ち測定法−」に記載の方法により測定される。
【0032】
本飲料は、発泡性アルコール飲料であることとしてもよい。発泡性アルコール飲料は、ビール、発泡酒、又は、発泡酒とスピリッツ等のアルコール成分とを含有する発泡性飲料からなる群より選択される発泡性アルコール飲料であってもよい。また、本飲料は、発泡性ノンアルコール飲料であることとしてもよい。
【0033】
本飲料は、ビールテイスト飲料であることとしてもよい。本実施形態において、ビールテイスト飲料は、ビール様の香味を有する発泡性飲料である。ビールテイスト飲料は、例えば、ビール、発泡酒、又は、発泡酒とアルコール成分(例えば、スピリッツ)とを含有する発泡性アルコール飲料であることとしてもよいが、アルコール含有量、麦芽の使用の有無、及びその製造時のアルコール発酵の有無に関わらず、ビール様の香味を有する発泡性飲料であれば特に限られない。すなわち、ビールテイスト飲料は、発泡性アルコール飲料であってもよいし、発泡性ノンアルコール飲料であってもよい。
【0034】
本実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)の一側面は、次の条件(a)、(b)及び(c)を満たす飲料を製造する、飲料の製造方法である:(a)リナロール含有量が15.0ppb以上、190.0ppb以下;、(b)3S4MP含有量が0.020ppb以上、0.450ppb以下;及び(c)次の式で算出されるパラメータZの値が5.0以上:Z=シス−3−ヘキセノール含有量(ppb)+3S4MP含有量(ppb)×20。
【0035】
また、本方法の他の側面は、リナロールと、シス−3−ヘキセノールと、3S4MPとを含有する飲料が次の条件(a)、(b)及び(c)を満たすように、リナロール含有量、シス−3−ヘキセノール含有量及び3S4MP含有量を調整することにより、当該飲料に生ホップ感を付与する、方法である:(a)リナロール含有量が15.0ppb以上、190.0ppb以下;、(b)3S4MP含有量が0.020ppb以上、0.450ppb以下;及び(c)次の式で算出されるパラメータZの値が5.0以上:Z=シス−3−ヘキセノール含有量(ppb)+3S4MP含有量(ppb)×20。
【0036】
本方法においては、リナロールと、シス−3−ヘキセノールと、3S4MPとを含有する原料を使用して、飲料を製造することとしてもよい。すなわち、この場合、本方法においては、最終的に製造される飲料が上記条件(a)、(b)及び(c)を満たすような量で、リナロール、シス−3−ヘキセノール、及び3S4MPを含有する原料を使用する。
【0037】
原料は、リナロール、シス−3−ヘキセノール、及び3S4MPを含有し、飲料の製造に使用されるものであれば特に限られないが、例えば、当該原料は、生ホップ以外のホップ原料を含むこととしてもよい。
【0038】
この場合、本方法で製造される飲料(すなわち、本飲料)は、ホップ由来成分を含む。ホップ由来成分は、ホップに由来する成分であれば特に限られないが、例えば、ホップ由来の苦味成分及び/又は香味成分である。
【0039】
生ホップ以外のホップ原料は、リナロール、シス−3−ヘキセノール、及び3S4MPからなる群より選択される1以上を含有する、生ホップではないホップ原料であれば特に限られないが、例えば、ホップエキス、ホップパウダー、ホップペレット、プレスホップ、イソ化ホップ、ローホップ、テトラホップ及びヘキサホップからなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0040】
ホップエキスは、ホップの毬花に含まれる成分(例えば、α酸)を溶媒抽出することによって得られる。ホップパウダーは、乾燥させたホップの球果を粉砕して得られる。ホップペレットは、ホップパウダーをペレット状に圧縮成形して得られる。プレスホップは、乾燥させたホップの球果を圧縮して得られる。イソ化ホップは、ホップにアルカリ処理や加熱処理等のイソ化処理を施してα酸をイソ化することで得られる。ローホップ、テトラホップ及びヘキサホップ等の還元イソα酸製品は、イソα酸を化学修飾することによって得られる。
【0041】
原料は、生ホップ以外のホップ原料を2品種以上含むこととしてもよい。すなわち、この場合、最終的に製造される飲料が上記条件(a)、(b)及び(c)を満たすような量及び組み合わせで、生ホップではない、2以上の品種のホップ原料を使用する。
【0042】
また、生ホップ以外のホップ原料を含む原料を使用する場合、当該原料に含まれる当該生ホップ以外のホップ原料の量と、当該原料に含まれる生ホップの量との合計に対する、当該原料に含まれる当該生ホップの量の割合が、50重量%以下であることとしてもよい。
【0043】
この場合、生ホップの量の割合は、50重量%以下(0重量%以上、50重量%以下)であれば特に限られないが、例えば、40重量%以下であることとしてもよく、30重量%以下であることとしてもよく、20重量%以下であることとしてもよく、10重量%以下であることとしてもよい。
【0044】
すなわち、原料は、上記いずれかの閾値以下の割合で生ホップを含むこととしてもよいし、又は生ホップを含まないこととしてもよい。なお、原料が生ホップを含まない場合(すなわち、本方法において、生ホップを使用することなく飲料を製造する場合)、上記生ホップの量の割合は、0重量%である。
【0045】
本方法においては、生ホップ以外のホップ原料に加えて、又は生ホップ以外のホップ原料に代えて、リナロール、シス−3−ヘキセノール、及び3S4MPからなる群より選択される1以上を含有する他の原料を使用することとしてもよい。
【0046】
すなわち、例えば、添加剤(例えば、香料)として入手可能な、リナロール、シス−3−ヘキセノール及び3S4MPからなる群より選択される1以上を外的に添加することとしてもよい。
【0047】
また、リナロール、シス−3−ヘキセノール及び3S4MPからなる群より選択される1以上を外的に添加することなく、生ホップ以外のホップ原料(例えば、2品種以上のホップ原料)を使用して、飲料を製造することとしてもよい。
【0048】
本方法においては、リナロール、シス−3−ヘキセノール及び3S4MPを含有する原料を使用して、飲料を製造する。具体的には、リナロール、シス−3−ヘキセノール及び3S4MPを含有する原料と水とを混合して原料液を調製し、当該原料液を使用して飲料を製造する。
【0049】
原料液は、例えば、リナロール、シス−3−ヘキセノール及び3S4MPからなる群より選択される1以上を含む植物原料を使用して調製される。この場合、本方法で製造される飲料は、リナロール、シス−3−ヘキセノール及び3S4MPに加えて、さらに植物原料由来成分を含む。
【0050】
植物原料は、飲料の製造に使用される、植物由来の原料であれば特に限られないが、例えば、次の(i)、(ii)及び(iii)からなる群より選択される1以上を含むことが好ましい:(i)穀類(例えば、麦類、米類及びトウモロコシからなる群より選択される1以上)、豆類及びイモ類からなる群より選択される1以上;、(ii)当該群より選択される1以上を発芽させたもの;、及び(iii)当該(i)及び/又は当該(ii)に由来する成分。
【0051】
上記(i)及び/又は(ii)の植物原料を使用して製造された飲料は、当該(i)及び/又は(ii)の植物原料に由来する成分を含む。上記(iii)の植物原料を使用して製造された飲料は、当該(iii)の成分を含む。
【0052】
麦類は、大麦、小麦、燕麦及びライ麦からなる群より選択される1以上であることが好ましい。麦類を発芽させたものは、麦芽と呼ばれる。麦芽は、大麦、小麦、燕麦及びライ麦からなる群より選択される1以上の麦芽であることが好ましい。
【0053】
上記(iii)の成分は、上記(i)及び/又は(ii)の植物原料に由来する成分であれば特に限られないが、例えば、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、糖類、脂質、ビタミン及びミネラルからなる群より選択される1以上である。
【0054】
原料液が、植物原料を使用して調製される場合、当該原料液は、当該植物原料と水とを混合して調製される。この場合、原料液は、まず植物原料と水とを混合し、次いで、糖化を行って調製されることとしてもよい。
【0055】
糖化は、植物原料と水とを混合して調製された混合液を、多糖類分解酵素及び/又はタ
ンパク質分解酵素で処理することにより行う。多糖類分解酵素及び/又はタンパク質分解
酵素は、植物原料(例えば、麦芽)に含まれる酵素であってもよいし、及び/又は、植物
原料とは別に外的に添加される酵素であってもよい。糖化は、多糖類分解酵素及び/又は
タンパク質分解酵素が働く温度(例えば、30℃以上、80℃以下)で行う。
【0056】
原料が、ホップ原料(生ホップ、及び/又は、生ホップ以外のホップ原料)を含む場合、原料液は、当該ホップ原料と水とを含む混合液を煮沸して調製されることとしてもよい。原料液がホップ原料を含む植物原料を使用して調製される場合、当該原料液は、まず当該植物原料と水とを混合して糖化を行い、その後、当該ホップ原料を添加して煮沸することにより調製されることとしてもよい。
【0057】
本方法においては、原料液に酵母を添加してアルコール発酵を行うこととしてもよい。この場合、原料液は、上記植物原料の使用の有無にかかわらず、酵母が資化できる炭素源及び窒素源を含む。炭素源は、炭素原子を含む化合物であって酵母が資化できるものであれば特に限られないが、例えば、酵母が資化できる糖類である。糖類は、例えば、グルコース、フルクトース、シュクロース(ショ糖)、マルトース(麦芽糖)及びマルトトリオースからなる群より選択される1種以上を含む。
【0058】
窒素源は、窒素原子を含む化合物であって酵母が資化できるものであれば特に限られないが、例えば、アミノ酸及び/又はペプチドである。この場合、原料液は、アミノ酸及び/又はペプチドとして、タンパク質酵素分解物を含むこととしてもよい。タンパク質酵素分解物は、タンパク質をタンパク質分解酵素により分解することにより得られ、アミノ酸及び/又はペプチドを含む。
【0059】
アルコール発酵開始時の発酵液における酵母の密度は特に限られないが、例えば、1×10
6個/mL〜3×10
9個/mLであることが好ましい。酵母は、アルコール発酵を行う酵母であれば特に限られず、例えば、ビール酵母、ワイン酵母、焼酎酵母及び清酒酵母からなる群より選択される1以上であることが好ましい。
【0060】
アルコール発酵の条件は、発酵液中において酵母によるアルコール発酵が行われる条件であれば特に限られないが、例えば、当該発酵液を0℃以上、40℃以下の範囲内の温度で、1日以上、14日以下の時間維持することにより行う。
【0061】
アルコール発酵を行う場合、当該アルコール発酵後の発酵液に所定の処理(例えば、ろ過処理及び/又は加熱処理)を施して、最終的に飲料を得る。アルコール発酵を行うことにより、発泡性アルコール飲料が好ましく製造される。アルコール発酵を行って発泡性ノンアルコール飲料を製造する場合、例えば、当該アルコール発酵後の発酵液に、アルコール含有量を低減する処理を施して、当該ノンアルコール飲料を得る。
【0062】
本方法においては、アルコール発酵を行うことなく飲料を製造することとしてもよい。この場合、アルコール発酵を行うことなく、原料液を使用して飲料を得る。具体的に、例えば、原料液に、他の成分の添加、ろ過処理及び加熱処理からなる群より選択される1以上を施して、飲料を得る。原料液に添加される他の成分は、例えば、糖類、食物繊維、酸味料、色素、香料、甘味料及び苦味料からなる群より選択される1以上である。
【0063】
アルコール発酵を行うことなくアルコール飲料を製造する場合、例えば、原料液に、アルコール(例えば、エタノール)を添加する。アルコール発酵を行うことなく発泡性飲料を製造する場合、例えば、炭酸水の使用、及び/又は炭酸ガスの使用により原料液に発泡性を付与して発泡性飲料を得る。
【0064】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0065】
予め製造されたビール(麦芽、ホップペレット、ホップエキス、米、コーン及びスターチを含む原料を使用して、生ホップを使用することなく、通常のビールの製造方法により製造されたビール)に、リナロール、シス−3−ヘキセノール及び3S4MPからなる群より選択される1以上を添加することにより、生ホップを使用することなく、リナロール含有量、シス−3−ヘキセノール含有量及び3S4MP含有量の組み合わせが異なる14種類の発泡性アルコール飲料を製造した。
【0066】
すなわち、まず、リナロール、シス−3−ヘキセノール及び3S4MPからなる群より選択される1以上を添加する前のビールのリナロール含有量、シス−3−ヘキセノール含有量、及び3S4MP含有量を、後述の方法により測定した。
【0067】
次いで、添加後のリナロール含有量、シス−3−ヘキセノール含有量及び3S4MP含有量がそれぞれ所定の値となるよう、上記ビールに、リナロール、シス−3−ヘキセノール及び3S4MPからなる群より選択される1以上を添加した。なお、リナロール、シス−3−ヘキセノール及び3S4MPからなる群より選択される1以上を添加する前のビールは、リナロール含有量が10.0ppb未満、シス−3−ヘキセノール含有量が2.0ppb未満、3S4MP含有量が0.000ppb未満であった。
【0068】
そして、上述のようにして得られた発泡性アルコール飲料の官能検査を行った。すなわち、各飲料について、3人の熟練したパネラーが、生ホップ感を評価し、スコアを付与した。スコアは、0点から10点までの10段階で付与された。
【0069】
なお、リナロール含有量及びシス−3−ヘキセノール含有量は、SPME−GC−MS法により測定した。具体的に、20mLのヘッドスペースバイアルに8mLのサンプル及び40μLの内部標準液(5mg/Lの酢酸ベンジル)を添加し、密栓した。密栓したバイアルを50℃で15分間振盪した後、SPME用ファイバー(Polydimethylsiloxane/Divynylbenzene 65μm:スペルコ社製)をバイアル中のヘッドスペースに露出させた。50℃で30分間揮発性成分をファイバーに吸着させた後、注入口で3分間脱着させGC/MSにより分析した。GC/MS分析の測定条件は以下のとおりであった。
・分析機器:6890N GC、5973N MSD(Agilent Technologies)
・カラム:HP−1MS、30m(長さ)×0.25mm(内径)、1.0μm(膜厚)(Agilent Technologies)
・注入モード:スプリットレス注入
・流量:1mL/分(定流量)
・注入口温度:270℃
・オーブン温度:40℃(3分)→5℃/分→200℃(0分:達温)→10℃/分→320℃(3分)
・MS検出器:SIM m/z 82(シス‐3−ヘキセノール)、121及び136(リナロール)
【0070】
上述のSPME−GC−MS法においては、標準液を別途添加して作成した検量線を使用する標準添加法により測定することとしてもよい。また、夾雑物質の影響を受ける場合、及び/又は感度が不足する場合には、ファイバーの種類、吸着温度、吸着時間及びカラムの種類からなる群より選択される1以上の条件を適宜変更すること、及び/又は、GC/MS/MS又は2次元GC−MSを使用することが好ましい。
【0071】
3S4MP含有量は、ジクロロメタンで抽出後、市販の前処理用カートリッジ(MetaSep IC−Ag、ジーエルサイエンス社製)を使用して、チオールを特異的に精製し、GC/MS/MSで測定した。
【0072】
また、3S4MPは、例えば、特開2014−211433号公報の実施例1で使用された、2次元−GC−MSによるチオール化合物の定量法において、その測定条件を当該3S4MPに適した条件に適宜変更した方法によって測定することしてもよい。この場合、CV15%未満の併行精度、及び/又は定量値の半分未満の検出限界を有するように調整するように、例えば、サンプルの調製における溶媒抽出の条件、固相の種類(例えば、銀を固定した固相)、固相の洗浄条件、溶出液の種類を含む溶出条件、溶出試薬を除去するための洗浄方法、GCのカラム、オーブンの温度条件、注入に関する各種条件、GCの流用、及びMS検出器の条件からなる群より選択される1以上を変更することとしてもよい。また2次元-GC−MSに代えて、GC/MS/MSを用いることとしてもよい。
【0073】
図1には、14種類の飲料の各々について、リナロール含有量(ppb)、シス−3−ヘキセノール含有量(ppb)及び3S4MPの含有量(ppb)と、当該シス−3−ヘキセノール含有量「X」と当該3S4MP含有量「Y」とから算出されたパラメータ「Z」(「X+Y*20」)の値と、官能検査スコアとを示す。なお、
図1に示される官能検査スコアは、例1−1の飲料に「1.0」の点数を付与する場合を基準として、各飲料に付与された点数の合計をパネラーの人数で除して算出された平均点である。
【0074】
図1に示すように、例1−1、例1−8、例1−12、例1−13及び例1−14の飲料は、官能検査スコアが2.3以下であり、生ホップ感を有するものではなかった。この官能検査結果の原因としては、それぞれ例1−1は3S4MP含有量が小さすぎたこと、例1−8及び例1−14は3S4MP含有量が大きすぎたこと、例1−12はリナロール含有量が大きすぎたこと、例1−13はリナロール含有量が小さすぎたことが考えられた。なお、3S4MP含有量が大きすぎる場合、フルーツ感が強すぎ、また硫化物臭が増加することが確認された。また、リナロール含有量が大きすぎる場合、フローラル感が強すぎることが確認された。
【0075】
これに対し、例1−2〜例1−7、及び例1−9〜例1−11の飲料は、官能検査スコアが3.3以上であり、生ホップ感を有していた。特に、例1−5、例1−6、例1−7及び例1−9の飲料は、官能検査スコアが5.3以上であり、顕著な生ホップ感を有していた。
【実施例2】
【0076】
Topaz品種、Lemon Drop品種、Nelson Sauvin品種、Hallertau Blanc品種、Galaxy品種、Hallertauer Tradition品種及びCitra品種からなる群より選択される1品種のホップペレットを使用して、リナロール含有量、シス−3−ヘキセノール含有量及び3S4MP含有量の組み合わせが異なる7種類の発泡性アルコール飲料を製造した(例2−C1〜例2−C7)。
【0077】
すなわち、まず大麦麦芽と水とを混合して得られた混合液の糖化を行った。次いで、糖化後の混合液にホップペレットを添加して煮沸を行った。煮沸後の混合液を冷却して、発酵前液(麦汁)を得た。
【0078】
その後、発酵前液にビール酵母を添加してアルコール発酵を行い、さらに、熟成を行った。熟成後の発酵液にろ過等の処理を施して、発泡性アルコール飲料(ビール)を得た。そして、上述の実施例1と同様にして、各飲料のリナロール含有量、シス−3−ヘキセノール含有量、及び3S4MP含有量を測定した。
【0079】
また、例2−1では、Topaz品種ホップペレットを使用して製造された飲料8体積部と、Nelson Sauvin品種ホップペレットを使用して製造された飲料1体積部とを混合して、発泡性アルコール飲料を得た。
【0080】
例2−2では、Topaz品種ホップペレットを使用して製造された飲料3体積部と、Hallertau Blanc品種ホップペレットを使用して製造された飲料1体積部とを混合して、発泡性アルコール飲料を得た。
【0081】
例2−3では、Nelson Sauvin品種ホップペレットを使用して製造された飲料1体積部と、Galaxy品種ホップペレットを使用して製造された飲料1体積部とを混合して、発泡性アルコール飲料を得た。
【0082】
そして、例2−1、例2−2及び例2−3で得られた発泡性アルコール飲料の官能検査を行った。すなわち、各飲料について、3人の熟練したパネラーが、生ホップ感を評価し、スコアを付与した。スコアは、0点から10点までの10段階で付与された。また、Topaz品種ホップペレットを使用して製造された飲料、及びLemon drop品種ホップペレットを使用して製造された飲料についても、同様に官能検査を行った。
【0083】
図2には、8種類の飲料の各々について、使用されたホップ品種と、リナロール含有量(ppb)、シス−3−ヘキセノール含有量(ppb)及び3S4MPの含有量(ppb)と、当該シス−3−ヘキセノール含有量「X」と当該3S4MP含有量「Y」とから算出されたパラメータ「Z」(「X+Y*20」)と、官能検査スコアとを示す。
【0084】
図2に示すように、例2−C1及び例2−C2の飲料は、官能検査スコアが1.0であり、生ホップ感を有するものではなかった。これに対し、例2−1、例2−2及び例2−3で得られた飲料は、官能検査スコアが3.7以上であり、生ホップ感を有していた。特に、例2−3の飲料は、官能検査スコアが5.7であり、顕著な生ホップ感を有していた。
【0085】
ホップ原料として信州早生品種の生ホップのみを使用し、上述の実施例2と同様にして製造した発泡性アルコール飲料(ビール)のシス−3−ヘキセノール含有量を測定したところ、43.3ppbであった。
【0086】
一方、ホップ原料として信州早生品種のホップペレットのみを使用し、上述の実施例2と同様にして製造した発泡性アルコール飲料(ビール)のシス−3−ヘキセノール含有量を測定したところ、4.3ppbであった。
【0087】
また、ホップ原料としてフラノビューティ品種の生ホップのみを使用し、上述の実施例2と同様にして製造した発泡性アルコール飲料(ビール)のシス−3−ヘキセノール含有量を測定したところ、31.1ppbであった。
【0088】
すなわち、生ホップを使用して製造された飲料のシス−3−ヘキセノール含有量は、ホップペレットを使用して製造された飲料のそれに比べて、顕著に大きかった。この点、
図1及び
図2に示されるように、上述の実施例1及び実施例2でホップペレットを使用して製造された飲料は、いずれも、そのシス−3−ヘキセノール含有量が、生ホップを使用して製造された飲料に比べて顕著に小さいにもかかわらず、生ホップ感を有する飲料であった。