【解決手段】以下の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む、未分化幹細胞除去剤:(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物;(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞;及び(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物。
前記(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞が、グリピカン3発現細胞に特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞である、請求項1に記載の未分化幹細胞除去剤。
前記(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物が、グリピカン3タンパク質若しくはその部分ペプチド、又はそれらの塩である、請求項4に記載の未分化幹細胞除去剤。
前記(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物が、グリピカン3タンパク質又はその部分ペプチドをコードする、ポリヌクレオチドを含むベクターである、請求項4に記載の未分化幹細胞除去剤。
前記(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞が、グリピカン3タンパク質の部分ペプチドを細胞表面に提示する樹状細胞である、請求項4に記載の未分化幹細胞除去剤。
前記医薬組成物が、GPC3タンパク質又はその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むセンダイウイルスベクターを含む、請求項15〜17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪定義等≫
本明細書において、「未分化幹細胞」は、分化多能性を有する多能性幹細胞を包含する概念として用いられ、胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)、及びこれらの幹細胞から誘導された分化多能性を有する細胞、並びに各種体性幹細胞を含み得る。「未分化幹細胞」は、分化多能性を有する細胞であれば特に限定されず、上記例示したES細胞やiPS細胞と同等の性質を有する未知の細胞も包含する。
【0016】
細胞が未分化幹細胞であることは、未分化幹細胞に特異的な性質の有無や、未分化幹細胞に特異的な各種マーカーの発現等から判断することができる。例えば、未分化幹細胞に特異的な性質としては、自己複製能を有し、未分化幹細胞とは異なる性質を有する別種の細胞へと分化可能である性質が挙げられる。また、テラトーマ形成能やキメラマウス形成能等も未分化幹細胞に特異的な性質として挙げられる。
【0017】
未分化幹細胞に特異的な各種マーカー(以下、「未分化幹細胞マーカー」という。)とは、未分化幹細胞に特異的に発現する因子であり、例えば、Oct3/4、Nanog、Sox2、SSEA−1、SSEA−3、SSEA−4、TRA1−60、TRA1−81、Lin28、Fbx15、SSEA−5、GDF3、KLF4、CLDN6等を例示することができる。これら未分化幹細胞マーカーの少なくとも1つの発現が観察された場合には、当該細胞を未分化幹細胞と判断することができる。未分化幹細胞マーカーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。一実施形態として、Oct3/4を発現する細胞を未分化幹細胞と判断してもよい。なお、細胞における未分化幹細胞マーカーの発現は、RT−PCRやマイクロアレイ等の公知の方法を用いて確認することができる。
【0018】
未分化幹細胞は、哺乳類の未分化幹細胞であってもよく、げっ歯類の未分化幹細胞であってもよく、霊長類の未分化幹細胞であってもよく、ヒトの未分化幹細胞であってもよい。一例として、ヒト由来の未分化幹細胞を挙げることができ、より具体な例としては、ヒトiPS細胞及びヒトES細胞等を挙げることができる。
【0019】
本明細書において、「分化細胞」とは、上記「未分化幹細胞」の性質を有しない細胞のことを指す。分化細胞は、未分化幹細胞から誘導・分化された細胞であり得るが、分化多能性を有しない。分化細胞は、例えば、ES細胞から分化した細胞、iPS細胞から分化した細胞であってよい。分化細胞の例としては、心筋細胞、筋細胞、繊維芽細胞、神経細胞、リンパ球等の免疫細胞、血管細胞、網膜色素上皮細胞等の眼細胞、巨核球や赤血球等の血液細胞、その他各組織細胞、及びそれらの前駆細胞等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0020】
グリピカン3(Glypican 3:GPC3)タンパク質は、HSPGsファミリーに属するGPIアンカータンパク質であり、細胞分裂と細胞増殖を制御する機能を有すると考えられている。GPC3タンパク質は、CD26に結合してCD26のジペプチジルペプチダーゼ活性を阻害する。また、GPC3のノックアウトマウスは巨大化することが知られており、ヒトではGPC3の変異により巨人症を呈する。肝臓組織では胎児期においてGPC3を発現するが、出生後発現しなくなる。肝細胞癌を発症すると、肝癌細胞は、GPC3を再発現する。また、GPC3は、癌において、細胞増殖やアポトーシスに関与すると考えられている。本明細書において、「グリピカン3タンパク質」又は「GPC3タンパク質」とは、上記のような性質を有するタンパク質を指す。
【0021】
GPC3タンパク質のアミノ酸配列の例として、ヒトGPC3タンパク質のアミノ酸配列の例を配列番号2、4、6及び8に示す。これらのアミノ酸配列からなるGPC3タンパク質は、ヒトGPC3タンパク質のバリアントであり、いずれも上記のようなGPC3タンパク質の特徴を有する。ただし、GPC3タンパク質は、これらのアミノ酸配列を有するものに限定されず、これらの変異体及び種間相同体を包含する。
【0022】
前記ヒトGPC3タンパク質の変異体の例としては、例えば、配列番号2、4、6又は8に記載のアミノ酸配列と比較して、1〜50個、1〜30個、1〜20個、又は1〜10個程度の変異を有し、かつ上記したGPC3タンパク質の機能を保持するタンパク質等が挙げられる。なお、変異は、アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び付加のいずれであってもよく、これらの組合せであってもよい。あるいは、前記ヒトGPC3タンパク質の変異体の他の例としては、配列番号2、4、6又は8に記載のアミノ酸配列と、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上の配列同一性(相同性)を有するアミノ酸配列からなり、かつ上記したGPC3タンパク質の機能を保持するタンパク質等が挙げられる。なお、アミノ酸配列同士の配列同一性は、2つのアミノ酸配列を、対応するアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除くアミノ酸配列全体に対する一致したアミノ酸の割合として求められる。アミノ酸配列同士の配列同一性は、該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。
【0023】
なお、ヒトGPC3のアミノ酸配列としては、配列番号2、4、6又は8に記載されるアミノ酸配列のほか、GenBank等の配列データベースに、ヒトGPC3タンパク質のアミノ酸配列として登録されているアミノ酸配列も挙げることができる。そのようなアミノ酸配列からなるタンパク質もまた、ヒトGPC3タンパク質に包含される。また、そのようなヒトGPC3タンパク質の変異体もまた、ヒトGPC3タンパク質に包含される。
【0024】
また、前記ヒトGPC3タンパク質の種間相同体の例としては、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ウマ、サル等のヒト以外の哺乳動物が有するGPC3タンパク質が挙げられる。これらのGPC3タンパク質のアミノ酸配列としては、GenBank等の配列データベースに登録されているもの等を挙げることができる。そのようなアミノ酸配列からなるタンパク質もまた、GPCタンパク質に包含される。また、そのようなGPC3タンパク質の変異体もまた、GPC3タンパク質に包含される。
【0025】
本明細書において、「グリピカン3遺伝子」又は「GPC3遺伝子」とは、上記のようなGPC3タンパク質をコードする塩基配列を含む核酸を意味する。GPC3遺伝子の塩基配列の例として、上記の配列番号2、4、6及び8に記載のアミノ酸配列をそれぞれコードするポリヌクレオチドの塩基配列の例を、配列番号1、3、5、及び7(GenBank ID:NM_001164617;NM_001164618.1;NM_001164619.1;NM_004484.3)に示す。ただし、GPC3遺伝子の塩基配列は、これらの配列に限定されず、前記のようなGPC3タンパク質をコードする塩基配列であれば、どのような塩基配列であってもよい。
【0026】
本明細書において、「グリピカン3発現細胞」又は「GPC3発現細胞」とは、上記のようなGPC3遺伝子を有し、かつGPC3タンパク質を発現している細胞を意味する。GPC3発現細胞が有するGPC3遺伝子は、内因性のものであっても外因来のものであってもよいが、内因性のものであることが好ましい。
【0027】
≪未分化幹細胞除去剤≫
1実施形態において、本発明は、以下の(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む、未分化幹細胞除去剤を提供する:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;及び
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物。
【0028】
また、1実施形態において、本発明は、以下の(c)及び(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む、未分化幹細胞除去剤を提供する:
(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞;及び
(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物。
【0029】
上記のように、GPC3は、癌、特に肝臓癌で発現することが知られていたが、本発明者らは、未分化幹細胞においてもGPC3が発現していることを見出した。一方、未分化幹細胞から誘導された分化細胞は、GPC3を発現しない。そのため、未分化幹細胞から分化・誘導した細胞集団に対して、GPC3を標的とした処理を行うことにより、未分化幹細胞のみを選択的に除去することができる。また、生体内の細胞は、通常、分化細胞であり、GPC3を発現していない。そのため、未分化幹細胞が残存する細胞集団が生体内に移植された場合であっても、当該生体に対してGPC3を標的とした処理を行うことにより、生体内の未分化幹細胞を選択的に除去することができる。
【0030】
GPC3を標的とした処理を行うために、本実施形態の未分化幹細胞除去剤は、(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物;(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞;及び(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物、からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む。(a)〜(d)の成分は、単独で使用してもよく、これらを組合せて使用してもよい。また、本実施形態の未分化細胞除去剤は、(a)〜(d)の成分のいずれか、又はこれらの組合せと、他の成分とを含むものであってもよい。
以下、(a)〜(d)の各成分について、説明する。
【0031】
<(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞>
(a)成分は、グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞である。本明細書において、「グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る」とは、GPC3発現細胞の増殖を阻害するが、GPC3非発現細胞の増殖は阻害しない作用を意味する。また、「グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞」とは、そのような作用を有する細胞を意味する。
【0032】
GPC3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞においては、当該細胞がGPC3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る限り、その増殖阻害機構は特に限定されない。細胞増殖阻害の典型的な例としては、細胞死の誘導が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0033】
GPC3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞は、GPC3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る限り、細胞の種類は特に限定されない。GPC3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞の例としては、例えば、GPC3発現細胞に対して細胞傷害活性を示す免疫細胞等が挙げられる。そのような免疫細胞の好ましい例としては、GPC3発現細胞に特異的な細胞傷害活性を有する細胞傷害性T細胞(CTL)を挙げることができる。
【0034】
GPC3発現細胞に特異的な細胞傷害活性を有するCTL(以下、「GPC3特異的CTL」という。)は、T細胞受容体(TCR)を介してGPC3発現細胞を認識し、GPC3発現細胞に特異的な細胞傷害活性を示す。ここで、「GPC3に特異的な細胞傷害活性を示す」とは、GPC3発現細胞に対して細胞傷害活性を示すが、GPC3非発現細胞に対しては細胞傷害活性を示さないことを意味する。
【0035】
GPC3発現細胞において、GPC3遺伝子から転写・翻訳されて生じたGPC3タンパク質の一部は、ユビキチン化されてプロテアソームによるプロセシングを受けて断片化される。断片化されたGPC3タンパク質由来ペプチドは、小胞体に取り込まれてMHC Class Iとの複合体となり、細胞表面に移行して細胞表面上で提示される。GPC3発現細胞に特異的な細胞傷害活性を有するCTLは、自身のTCRを介して、前記細胞表面に提示されたGPC3タンパク質由来ペプチドと主要組織適合性複合体(Major histocompatibility complex:MHC) Class Iとの複合体に結合することができる。当該複合体に結合したCTLは、GPC3発現細胞に対してIFN−γやパーフォリン等の細胞傷害性サイトカインを放出し、GPC3発現細胞を傷害する。このようなCTLによる細胞傷害作用により、GPC3発現細胞の細胞死が導かれる。したがって、GPC3特異的CTLは、GPC3タンパク質由来ペプチドとMHC Class Iとの複合体に対する結合能を有するCTLであるということもできる。
【0036】
GPC3特異的CTLは、例えば、特許文献6又は7に記載されるような方法により得ることができる。具体的には、GPC3由来のCTL誘導性ペプチドの存在下で、樹状細胞とCD8陽性T細胞とを共培養することにより、GPC3特異的CTLを得ることができる。また、樹状細胞をあらかじめGPC由来のCTL誘導性ペプチドの存在下で培養した後、CD8陽性T細胞を加えて共培養するようにしてもよい。ここで、「GPC3由来のCTL誘導性ペプチド」とは、GPC3タンパク質の部分ペプチドを含み、かつCTL誘導活性を有するペプチドを意味する。また、「CTL誘導活性を有するペプチド」とは、MHC Class Iに結合して複合体を形成することができ、かつ当該複合体が樹状細胞の細胞表面に提示された場合に、当該樹状細胞と共培養されるCD8陽性T細胞をCTLに成熟させることができるペプチドを意味する。
【0037】
なお、MHCは、生物種毎に異なっており、ヒトのMHCはヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)と呼ばれる。MHCはClass IとClass IIとに分類されるが、抗原ペプチドと結合してCTL誘導に関与するのはMHC Class Iである。MHC Class Iにも複数のサブタイプが存在し、サブタイプ毎に結合できるペプチドが異なっている。例えば、特許文献6に記載されるGPC由来のCTL誘導性ペプチドは、HLA−A24(より具体的にはHLA−A
*24:02)に結合するペプチドであり、HLA−A24陽性のGPC3発現細胞に特異的な細胞傷害活性を有するCTLを誘導する。また、特許文献7に記載されるGPC3由来のCTL誘導性ペプチドは、HLA−A2(より具体的にはHLA−A
*02:01、HLA−A
*02:06、又はHLA−A
*02:07)に結合するペプチドであり、HLA−A2陽性のGPC3発現細胞に特異的な細胞傷害活性を有するCTLを誘導する。したがって、未分化幹細胞がHLA−A24陽性の細胞である場合には、例えば、特許文献6に記載のペプチドを用いて誘導されたGPC3特異的CTLを、(a)成分の細胞として使用することができる。また、未分化幹細胞がHLA−A2陽性の細胞である場合には、例えば、特許文献7に記載のペプチドを用いて誘導されたGPC3特異的CTLを、(a)成分の細胞として使用することができる。なお、本明細書において、「HLA−A2陽性のGPC3発現細胞に特異的な細胞傷害活性を有するCTL」及び「HLA−A24陽性のGPC3発現細胞に特異的な細胞傷害活性を有するCTL」は、それぞれ「HLA−A2拘束性のGPC3特異的CTL」及び「HLA−A24拘束性のGPC3特異的CTL」とも表記される。なお、特許文献6及び7に記載のGPC3由来のCTL誘導性ペプチドのアミノ酸配列を、それぞれ配列番号9〜20及び配列番号21〜23に示す。ただし、GPC3特異的CTLの誘導に使用されるGPC3由来のCTL誘導性ペプチドは、これらに限定されず、未分化幹細胞が有するMHC Class Iの種類毎に、適宜適切なペプチドを使用することができる。
【0038】
GPC3由来のCTL誘導性ペプチドは、GPC3タンパク質の断片ペプチドであり、通常8〜11のアミノ酸残基で構成される。しかしながら、12以上のアミノ酸長を有するペプチドであっても、樹状細胞の細胞内に取り込まれてプロテアソームによるプロセシングを受け、8〜11程度のアミノ酸長のペプチドとなって、MHC Class Iと複合体を形成し得る。そのため、GPC3特異的CTLの誘導に使用するCTL誘導性ペプチドは、8〜11のアミノ酸長を有するものに限られず、8〜100程度、8〜60程度、8〜50程度、又は8〜30程度のアミノ酸長を有する、GPC3タンパク質の断片ペプチドであることもできる。また、そのようなGPC3タンパク質の断片ペプチドに、変異を含むものであってもよい。そのような変異を含むペプチドとしては、GPC3タンパク質の断片ペプチドを構成するアミノ酸残基の総数に対して、例えば、10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下の数のアミノ酸残基が変異したアミノ酸配列を有するもの等を挙げることができる。なお、変異の種類は、アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び付加のいずれであってもよく、これらの組合せであってもよい。
【0039】
なお、GPC3特異的CTLの誘導に用いる樹状細胞及びCD8陽性T細胞は、末梢血単核球から公知の方法により調製することができる。樹状細胞及びCD8陽性T細胞の調製に使用する末梢血単核球は、除去対象の未分化幹細胞が有するMHC Class Iと同じMHC Class Iを有する対象から採取されたものであることが好ましい。
【0040】
また、(a)成分として使用可能なGPC3特異的CTLは、上記のようにGPC3由来のCTL誘導性ペプチドを用いて誘導されたものに限らず、GPC3由来のCTL誘導性ペプチドとMHC Class Iとの複合体への結合能を有するTCRをコードする遺伝子により形質転換されたCTLであってもよい。そのようなTCRをコードする遺伝子は、上記のように誘導されたGPC3特異的CTLから公知の方法を用いて得ることができ、形質転換も公知の方法を用いて行うことができる。
【0041】
また、GPC3特異的CTLは、GPC3タンパク質への結合能を有するキメラ抗原受容体(以下、「GPC3特異的キメラ抗原受容体」という。)を発現するように改変されたCTLであってもよい。そのようなCTLは、GPC3特異的キメラ抗原受容体をコードする遺伝子で、CTLを形質転換することにより得ることができる。GPC3特異的キメラ抗原受容体をコードする遺伝子は、GPC3タンパク質に対する結合能を有する単鎖抗体(scFv)をコードする塩基配列を用いて、公知の方法により作成することができる。作成方法の例としては、例えば、GPC3タンパク質への結合能を有するscFV、CD28等のT細胞共刺激分子の細胞内シグナル伝達ドメイン、及びCD3のζ鎖の細胞内シグナル伝達ドメインをコードする遺伝子を、前記の順に連結する方法等が挙げられる。
【0042】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤が(a)成分を含む場合、未分化幹細胞除去剤は、(a)成分のみを含むものであってもよく、後述する(b)〜(d)成分のいずれか1以上の成分を同時に含んでいてもよい。また、未分化幹細胞除去剤は、(a)〜(d)成分以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、CTLの培養に一般的に用いられる培地の成分等が挙げられる。CTLの培養に一般的に用いられる培地としては、例えば、AIM−V培地、RPMI1640、DMEM、及びX−VIVO5等を挙げることができる。また、CTLの培養の際に用い得る成分としては、Human AB Serum、ウシ等のヒト以外の動物血清、並びにIL−2、IL−7、及びIL−15などのサイトカイン等を例示することができる。
【0043】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤が(a)成分を含む場合、未分化幹細胞除去剤は、例えば、(a)成分である細胞の培養物;培地、生理食塩水、リン酸緩衝液等の適切な担体に(a)成分である細胞を懸濁した細胞懸濁物;(a)成分である細胞を遠心分離等により回収した細胞ペレット;(a)成分である細胞を凍結保存した凍結保存細胞等の形態とすることができる。
【0044】
<(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物>
(b)成分は、グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物である。「グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る」の意味は、上記(a)成分で述べたとおり、GPC3発現細胞の増殖を阻害するが、GPC3非発現細胞の増殖は阻害しない作用を意味する。「グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物」とは、そのような作用を有する化合物を意味する。
【0045】
GPC3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物においては、当該化合物がGPC3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る限り、その増殖阻害機構は特に限定されない。細胞増殖阻害の典型的な例としては、細胞死の誘導が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0046】
GPC3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物は、GPC3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る限り、化合物の種類は特に限定されない。GPC3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物の例としては、例えば、GPC3タンパク質への結合能を有する抗体、GPC3に対する低分子干渉二本鎖核酸、GPC3に対するアンチセンス核酸等が挙げられる。
【0047】
GPC3タンパク質への結合能を有する抗体(以下、「抗GPC3抗体」という。)は、これまでに、癌治療用途のものが幾つか報告されている(例えば、特許文献5)。これらの抗体は、GPC3を発現する癌細胞に対する増殖抑制効果を有することから、癌治療剤としての開発が進められている。抗GPC3抗体は、GPC3発現細胞である癌細胞に対する増殖抑制効果が確認されており、GPC3発現細胞である未分化幹細胞の増殖抑制にも有効である。したがって、抗GPC3抗体は、本実施形態の未分化幹細胞除去剤における(b)成分の好適な例として挙げられる。
【0048】
抗GPC3抗体は、癌治療用途で報告されている公知のものを使用してもよいが、公知の抗体作成方法により、新たに作成したものであってもよい。抗体作成方法としては、例えば、GPC3タンパク質により動物を免疫する方法やファージディスプレイ法等を挙げることができる。
【0049】
また、抗GPC3抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。抗GPC3抗体が由来する生物は、特に限定されず、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サルなどの哺乳類抗体、ニワトリなどの鳥類抗体等を使用することができる。また、GPC3タンパク質への結合能を維持する限り、抗体断片や改変抗体であってもよい。そのような抗体断片の例としては、例えば、scFv、Fab、F(ab')2、Fv等を挙げることができる。また、改変抗体の例としては、例えば、キメラ抗体を挙げることができる。キメラ抗体の具体例としては、ヒト抗体の可変領域に異種抗体の可変領域を移植した抗体(すなわち、ヒト抗体定常領域と異種抗体可変領域とを含む抗体)、ヒト抗体の相補性決定領域(Complementarity determining region:CDR)に異種抗体のCDRを移植したヒト化抗体(すなわち、ヒト抗体のCDRが異種抗体のCDRに置換された抗体)等を例示することができる。また、抗GPC3抗体は、2つ以上の抗原エピトープに結合し得る多重特異性抗体であってもよい。なお、抗GPC3抗体は、いずれのクラス(IgA、IgD、IgE、IgG、IgM等)の抗体であってもよい。
【0050】
また、抗GPC3抗体は、細胞毒性を有する薬剤等を結合したものであってもよい。そのような薬剤として、例えば、抗癌剤として使用されている薬剤等を挙げることできる。より具体的には、イホスファミド、シクロホスファミドなどのアルキル化剤;エノシタビン、カペシタビン、ゲムシタンなどの代謝拮抗剤;ドキタセル、パクリタキセルなどの植物アルカロイド;アクチノマイシンD、イダルビシンなどの抗癌性抗生物質;オキサリプラチン、シスプラチンなどのプラチナ製剤等を例示することができる。前記のような薬剤結合抗GPC3抗体を用いた場合、抗GPC3抗体がGPC3発現細胞に結合することにより、薬剤をGPC3発現細胞に効率的に作用させることができる。
【0051】
GPC3に対する低分子干渉二本鎖核酸は、GPC3遺伝子のセンス鎖の一部に相補的な塩基配列と、当該塩基配列に相補的な塩基配列とを含み、GPC3発現を阻害する機能を有する二本鎖核酸である。GPC3に対する低分子二本鎖核酸は、細胞内に取り込まれると、RNA誘導サイレンシング複合体(RNA induced silencing complex:RISC)に取り込まれて1本鎖となる。前記RISCに取り込まれた1本鎖核酸は、GPC3のmRNAへとRISCを導くガイドとして機能する。前記1本鎖核酸によりGPC3のmRNAに結合したRISCは、RISCを構成するアルゴノート(Argonaute)と呼ばれるタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性により、GPC3のmRNAを切断する。その結果、GPC3の発現が阻害される。
【0052】
GPC3に対する低分子干渉二本鎖核酸は、低分子干渉RNA(siRNA;二本鎖リボ核酸(dsRNA)又は低分子ヘアピンRNA(shRNA))、及び低分子干渉DNA/RNA(siD/R−NA;DNA及びRNAの二本鎖キメラ(dsD/R−NA)又はDNA及びRNAの低分子ヘアピンキメラ(shD/R−NA))のいずれであってもよい。
【0053】
siRNAによるGPC3のノックダウンにより、GPC3発現細胞の増殖抑制起こることは、肝癌細胞等において報告されている(例えば、Sun CK et al., Neoplasia. 2011 Aug;13(8):735-47.)。したがって、GPC3発現を阻害する機能を有する低分子干渉二本鎖核酸は、GPC3発現細胞である未分化幹細胞の増殖抑制にも有効である。
【0054】
GPC3に対する低分子干渉二本鎖核酸において、二本鎖部分は、GPC3遺伝子のセンス鎖の部分塩基配列(標的配列)と当該標的配列に相補的な塩基配列とから構成される。標的配列の選択は、siRNAの標的配列の選択に一般的に用いられる方法(例えば、Tuschl et al. Genes Cev 1999, 13(24):3191-7)により行うことができ、GPC3発現阻害能が発現される限り、標的配列は特に制限されない。標的配列の例としては、例えば、本明細書の実施例において使用されたsiRNAの標的配列(配列番号28:5’−GGAGGCUCUGGUGAUGGAAUGAUAA−3’)を挙げることができるが、これに限定されるものではない。なお、低分子干渉二本鎖核酸がRNAである場合、標的配列に含まれるチミジン残基は、低分子干渉二本鎖核酸においてウラシル残基に置き換えられる。
【0055】
低分子干渉二本鎖核酸において、標的配列は通常19〜25塩基対、好ましくは21〜23塩基対であるが、GPC3発現阻害能を有する限り、長さは特に限定されない。また、低分子干渉二本鎖核酸は、3’末端に、2〜5塩基程度のオーバーハング配列を有することができる。オーバーハング配列は、通常、ウラシル残基又はチミジン残基により構成されるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
GPC3に対するアンチセンス核酸は、GPC3遺伝子のセンス鎖の少なくとも一部に相補的な配列を有する一本鎖核酸であり、GPC3遺伝子から転写されたmRNAに結合することができる。GPC3に対するアンチセンス核酸が、GPC3のmRNAに結合することにより、GPC3タンパク質の翻訳が阻害され、mRNAの分解が促進される。その結果、GPC3の発現が阻害される。
【0057】
GPC3に対するアンチセンス核酸も、GPC3に対する低分子干渉二本鎖核酸と同様に、GPC3発現阻害能を有するため、GPC3発現細胞である未分化幹細胞の増殖抑制に有効である。
【0058】
GPC3に対するアンチセンス核酸は、GPC3遺伝子のセンス鎖の一部又は全部に相補的な塩基配列を有するが、当該相補的な塩基配列は、12残基以上であることが好ましく、通常、12〜50残基程度とすることができる。また、当該相補的な塩基配列は、GPC3遺伝子のセンス鎖の少なくとも一部に相補的な塩基配列であれば特に限定されない。また、GPC3のmRNAに対する結合能を有する限り、完全に相補的な塩基配列である必要はなく、1〜数個のミスマッチ残基を含み得る。また、アンチセンス核酸は、RNAであってもDNAであってもよいが、RNAであることが好ましい。
【0059】
上記の低分子干渉二本鎖核酸及びアンチセンス核酸は、天然核酸のみならず、塩基部分、リン酸基及び/又は糖部分が修飾された修飾核酸であってもよい。
【0060】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤が、(b)成分を含む場合、(b)成分は上記のような成分のうちの1種であってもよく、2種以上の組合せであってもよい。また、未分化幹細胞除去剤は、(b)成分のみを含むものであってもよく、前記(a)成分、後述する(c)成分及び(d)成分のいずれか1以上の成分を同時に含んでいてもよい。また、未分化幹細胞除去剤は、(a)〜(d)成分以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、特に限定されないが、例えば、薬学的に許容される担体、トランスフェクション促進剤、緩衝剤、賦形剤、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、キレート剤等が挙げられる。
【0061】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤が(b)成分を含む場合、未分化幹細胞除去剤の剤型は特に限定されず、液状物、粉末状物、顆粒状物、ゲル状物、固形物等の種々の形態であり得る。また、(b)成分である化合物をミセル内に封入したエマルション形態や、リポソーム内に封入したリポソーム形態であってもよい。
【0062】
<(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞>
(c)成分は、グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞である。本明細書において、「グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る」とは、生体内において、GPC3発現細胞に対する免疫応答を誘導するが、GPC3非発現細胞に対する免疫応答は誘導しない作用を意味する。「グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞」とは、そのような作用を有する細胞である。
【0063】
GPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞においては、当該細胞が、生体内において、GPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る限り、その免疫応答誘導機構は特に限定されない。また、誘導される免疫応答の種類も、特に限定されず、細胞性免疫であってもよく、液性免疫であってもよい。
【0064】
GPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞は、GPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る限り、細胞の種類は特に限定されない。GPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞の例としては、例えば、GPC3発現細胞に対する免疫応答を促進する免疫細胞等が挙げられる。そのような免疫細胞の好ましい例としては、GPC3タンパク質の部分ペプチドを細胞表面に提示する樹状細胞等を挙げることができる。
【0065】
「GPC3タンパク質の部分ペプチドを細胞表面に提示する樹状細胞」は、GPC3特異的CTLを誘導することができる。ここで、「GPC3タンパク質の部分ペプチドを細胞表面に提示する樹状細胞」とは、細胞表面に存在するMHC Class Iに、GPC3タンパク質の部分ペプチドが結合した樹状細胞であって、かつGPC3特異的CTLの誘導能を有する樹状細胞を意味する。ここで、樹状細胞が「GPC3特異的CTLの誘導能を有する」とは、当該樹状細胞とCD8陽性T細胞とを共培養した場合に、CD8陽性T細胞をGPC3特異的CTLに成熟させることができることを意味する。したがって、GPC3タンパク質の部分ペプチドを細胞表面に提示する樹状細胞(以下、「GPC3ペプチド提示樹状細胞」という。)を生体に投与した場合、生体内でGPC特異的CTLが誘導される。すなわち、GPC3発現細胞に対する特異的免疫応答が誘導される。
【0066】
GPC3提示樹状細胞は、例えば、特許文献6又は7に記載されるような方法により得ることができる。具体的には、GPC3由来のCTL誘導性ペプチドの存在下で、樹状細胞を培養することにより、GPC3ペプチド提示樹状細胞を得ることができる。なお、CTL誘導性ペプチドについては、上記成分(a)の項で述べたものを用いることができる。
【0067】
なお、GPC3ペプチド提示樹状細胞の作成に用いる樹状細胞は、末梢血単核球から公知の方法により調製することができる。樹状細胞の調製に使用する末梢血単核球は、本実施形態の未分化幹細胞除去剤を生体に投与する場合、当該投与予定の対象が有するMHC Class Iと同じMHC Class Iを有する対象から採取されたものであることが好ましい。より好ましくは、樹状細胞の調製に使用する末梢血単核球は、未分化幹細胞除去剤の投与対象から採取された末梢血単核球である。
【0068】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤が(c)成分を含む場合、未分化幹細胞除去剤は、(c)成分のみを含むものであってもよく、前記(a)成分、(b)成分、及び後述する(d)成分のいずれか1以上の成分を同時に含んでいてもよい。また、未分化幹細胞除去剤は、(a)〜(d)成分以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、樹状細胞の培養に一般的に用いられる培地の成分等が挙げられる。樹状細胞の培養に一般的に用いられる培地としては、例えば、AIM−V培地、RPMI1640、DMEM、及びX−VIVO5等を挙げることができる。また、樹状細胞の培養の際に用い得る成分としては、Human AB Serum、ウシ等のヒト以外の動物血清、IL−4、IL−6、IL−1β、GM−CSF、SCF、及びTNF−αなどのサイトカイン、並びにPGE2などのプロスタグラジン等を例示することができる。
【0069】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤が(c)成分を含む場合、未分化幹細胞除去剤は、例えば、(c)成分である細胞の培養物;培地、生理食塩水、リン酸緩衝液等の適切な担体に(c)成分である細胞を懸濁した細胞懸濁物;(c)成分である細胞を遠心分離等により回収した細胞ペレット;(c)成分である細胞を凍結保存した凍結保存細胞等の形態とすることができる。
【0070】
<(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物>
(d)成分は、グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物である。本明細書において、「グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る」の意味は、上記(c)成分で述べたとおり、生体内において、GPC3発現細胞に対する免疫応答を誘導するが、GPC3非発現細胞に対する免疫応答は誘導しない作用を意味する。「グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物」とは、そのような作用を有する化合物である。
【0071】
GPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物においては、当該化合物が、生体内において、GPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る限り、その免疫応答誘導機構は特に限定されない。また、誘導される免疫応答の種類も、特に限定されず、細胞性免疫であってもよく、液性免疫であってもよい。
【0072】
GPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物は、GPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る限り、化合物の種類は特に限定されない。GPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物の例としては、例えば、GPC3タンパク質又はその部分ペプチド、前記タンパク質又はペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター等が挙げられる。
【0073】
GPC3タンパク質又はその部分ペプチドは、生体に投与された場合、生体内で様々な免疫応答を誘導する。例えば、抗GPC3抗体の産生や、GPC3ペプチド提示樹状細胞の生成、GPC3特異的CTLの誘導等が生じる。このような免疫応答によって生じた抗GP3抗体やGPC3特異的CTLは、GPC3発現細胞に対する細胞増殖阻害作用を有する。また、GPC3ペプチド提示樹状細胞は、GPC3特異的CTLを誘導する作用を有する。
【0074】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤において、(d)成分として使用されるGPC3タンパク質は、特に限定されないが、当該未分化幹細胞除去剤の投与対象と同種の対象のGPC3タンパク質であることが好ましい。この場合、予期せぬ免疫応答の発生を避け、生体内のGPC3発現細胞に対する免疫応答を効率的に惹起することができる。例えば、ヒトに投与予定の未分化幹細胞除去剤であれば、ヒトGPC3タンパク質又はその部分ペプチドを用いることが好ましい。
【0075】
また、GPC3発現細胞に対する免疫応答を誘導し得る限り、GPC3タンパク質は野生型のものである必要はなく、変異を有するものであってもよい。例えば、野生型のGPC3タンパク質のアミノ酸配列と比較して、1〜50個、1〜30個、1〜20個、又は1〜10個程度の変異を有し、かつGPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得るタンパク質もまた、本実施形態の未分化幹細胞除去剤に使用可能である。なお、変異は、アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び付加のいずれであってもよく、これらの組合せであってもよい。あるいは、野生型のGPC3タンパク質のアミノ酸配列と、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上の配列同一性(相同性)を有するアミノ酸配列からなり、かつGPC3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得るタンパク質もまた、本実施形態の未分化幹細胞除去剤に使用可能である。
【0076】
(d)成分としてGPC3タンパク質の部分ペプチドを使用する場合、GPC3発現細胞に対する免疫応答を誘導し得る限り、その長さは特に限定されない。CTL誘導性ペプチドは、一般的に8〜12アミノ酸長であるので、GPC3特異的CTLの誘導のためには、8アミノ酸以上であることが好ましい。例えば、GPC3タンパク質の部分ペプチドは、8アミノ酸長以上、15アミノ酸長以上、20アミノ酸長以上、30アミノ酸長以上、又は50アミノ酸長以上等であることができる。
【0077】
GPC3タンパク質の部分ペプチドは、GPC3発現細胞に対する免疫応答を誘導し得る限り、その配列は特に限定されない。一例として、HLA−A24陽性の対象に投与する場合には、特許文献6に記載のペプチド(配列番号9〜20)を使用してもよく、HLA−A2陽性の対象に投与する場合には、特許文献7に記載のペプチド(配列番号21〜23)を使用してもよい。また、GPC3タンパク質の部分ペプチドは、配列番号9〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか2以上のアミノ酸配列を含むものであってもよい。ただし、GPC3タンパク質の部分ペプチドの配列は、これらに限定されるものではない。
【0078】
また、GPC3タンパク質又はその部分ペプチドは、薬学的に許容される塩の形態であってもよい。好ましい塩の例としては、アルカリ金属との塩、アルカリ土類金属との塩、有機塩基との塩、アミンとの塩、有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸など)との塩、及び無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸など)との塩が挙げられるが、これらに限定されない。なお、本明細書において、「薬学的に許容される塩」とは、その化合物の医薬的有効性が保持される塩をいう。
【0079】
上記のようなGPC3タンパク質又はその部分ペプチドは、これらをコードするポリヌクレオチドの形態、又は前記ポリヌクレオチドを含むベクターの形態で、本実施形態の未分化幹細胞除去剤に含まれていてもよい。ベクターは、GPC3タンパク質又はその部分ペプチドを発現し得る発現ベクターであることが好ましい。ここで、「GPC3タンパク質又はその部分ペプチドを発現し得る発現ベクター」とは、当該ベクターが細胞内に導入された場合に、GPC3タンパク質又はその部分ペプチドが細胞内で発現されるベクターを意味する。
【0080】
GPC3タンパク質又はその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、「GPC3」ポリヌクレオチド)を含むベクター(以下、「GPC3ベクター」という。)は、GPC3ポリヌクレオチドの他に、GPC3ポリヌクレオチドの発現を制御するプロモーター等の制御配列を含んでいてもよい。プロモーターとしては、例えば、SRαプロモーター、SV40初期プロモーター、レトロウイルスのLTR、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、HSV−TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーター、EF1αプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター等が挙げられる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。一例としては、CAGプロモーター(サイトメガロウイルスエンハンサーとニワトリβ−アクチンプロモーターとβ−グロビン遺伝子のポリAシグナル部位を含む)を挙げることができる。
【0081】
また、GPC3ベクターは、プロモーターの他に、エンハンサー、ポリA付加シグナル、マーカー遺伝子、複製開始点、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子などの配列を有していてもよい。
【0082】
GPC3ベクターにおいて、ベクターの種類は特に限定さない。GPC3ベクターに使用可能なベクターの例としては、例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクター、エピソーマルベクター、人工染色体ベクター等を挙げることができる。
【0083】
ウイルスベクターとしては、例えば、センダイウイルスベクター、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)ベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ポリオウイルスベクター、シルビスウイルスベクター、ラブドウイルスベクター、パラミクソウイルスベクター、オルソミクソウイルスベクター等が挙げられる。
【0084】
一例として、GPC3ベクターは、センダイウイルスベクターにGPC3ポリヌクレオチドが挿入されたものであることができる。センダイウイルスは、パラミクソウイルス科、パラミクソウイルス属に属するパラインフルエンザウイルス1型に分類されるウイルスであり、(−)鎖RNAゲノムを有する。センダイウイルスは、発現ベクターとして利用されており、ウイルス再構成方法が開発されている(国際公開第97/16338号、国際公開第97/16339号)。
【0085】
GPC3ベクターとしてセンダイベクターを用いる場合、センダイベクターは、伝搬力に関わるM、F、HN遺伝子の全ての遺伝子が含まれた複合体を使用してもよい。また、これらの伝搬力に関わる遺伝子を欠失又は機能的に不活化したものを用いてもよい。さらに、複合体は、例えば、エンベロープ表面に特定の細胞に接着し得るような接着因子、リガンド、受容体等を含むものであってもよい。また、例えば、免疫原性に関与する遺伝子を不活性化したものであってもよく、RNAの転写効率や複製効率を高めるために、一部の遺伝子を改変したものであってもよい。
【0086】
GPC3ベクターの構築において、GPC3ポリヌクレオチドは、センダイウイルスベクターに含まれるRNAの適当な部位挿入することができる。例えば、R1配列とR2配列との間に、6の倍数の塩基数を有する配列としてGPC3ポリヌクレオチドを挿入することができる。GPC3ポリヌクレオチドの発現量は、遺伝子挿入の位置、及び遺伝子の前後のRNA塩基配列により調製することができる。例えば、センダイウイルスRNAにおいては、挿入位置がNP遺伝子に近いほど、挿入遺伝子の発現量が多くなることが知られている。
【0087】
センダイウイルスベクターは、適切な宿主細胞を用いて、再構成することができる。再構成の方法は、例えば、国際公開第97/16338号や国際公開第97/16339号に記載の方法を使用することができる。例えば、サル腎由来のCV1細胞やLLCMK2細胞、ハムスター腎由来のBHK細胞等の培養細胞を使って、センダイウイルスの複合体を再構成することができる。なお、再構成した複合体を、発育鶏卵を使って増幅することにより、大量の複合体を得ることができる。鶏卵を使ったベクターの製造は、公知の方法で行うことができる(中西ら編,(1993),「神経科学研究の先端技術プロトコールIII,分子神経細胞生理学」,厚生社,大阪,pp.153-172)。具体的には、例えば、受精卵を培養器に入れ9〜12日間37〜38℃で培養し、胚を成長させる。センダイウイルスベクターを漿尿膜腔へ接種し、数日間卵を培養してウイルスベクターを増殖させる。培養期間等の条件は、使用する組換えセンダイウイルスにより変わり得る。その後、ウイルスを含んだ漿尿液を回収する。また、漿尿液からのセンダイウイルスの分離・精製は常法に従って行うことができる(田代眞人,「ウイルス実験プロトコール」,永井、石浜監修,メジカルビュー社,pp.68-73,(1995))。
【0088】
GPC3ポリヌクレオチドを含むセンダイウイルスベクターは、生ワクチンとして使うことができる。本明細書において、生ワクチンとは、当該センダイウイルスベクターが、投与された個体の中で増殖し、当該個体にGPC3発現細胞に対する特異的免疫を獲得させる作用を有するものをいう。このような生ワクチンを接種する対象に制限はなく、ヒト、トリ、ブタ、ウマ、ウシ等のあらゆる動物が含まれる。また、前述の伝播力が欠損したセンダイウイルスベクターを用いれば、生ワクチンであってもベクターが伝播しないワクチンを製造することができる。センダイウイルスベクターを用いた本実施形態の未分化幹細胞除去剤は、一例として、経鼻ワクチンとして使用することができる。
【0089】
プラスミドベクターとしては、例えば、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo等の、動物細胞発現用プラスミドベクターが挙げられる。
【0090】
エピソーマルベクターは、染色体外で自律複製可能なベクターである。エピソーマルベクターを用いる具体的手段は、公知である(Yu et al., Science, 324, 797-801 (2009))。エピソーマルベクターとしては、例えば、EBV、SV40等に由来する自律複製に必要な配列をベクター要素として含むベクターが挙げられる。自律複製に必要なベクター要素としては、具体例として、複製開始点と、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。例えば、EBVにおいては、複製開始点oriPとEBNA−1遺伝子が挙げられ、SV40においては、複製開始点oriとSV40LT遺伝子が挙げられる。
【0091】
人工染色体ベクターとしては、例えば、YAC(Yeast artificial chromosome)ベクター、BAC(Bacterial artificial chromosome)ベクター、PAC(P1−derived artificial chromosome)ベクター等が挙げられる。
【0092】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤が(d)成分を含む場合、(d)成分は上記のような成分のうちの1種であってもよく、2種以上の組合せであってもよい。また、未分化幹細胞除去剤は、(d)成分のみを含むものであってもよく、前記(a)成分、(b)成分、及び(c)成分のいずれか1以上の成分を同時に含んでいてもよい。また、(a)〜(d)成分以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、特に限定されないが、例えば、薬学的に許容される担体、トランスフェクション促進剤、緩衝剤、賦形剤、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、キレート剤等が挙げられる。
【0093】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤が(d)成分を含む場合、未分化幹細胞除去剤の剤型は特に限定されず、液状物、粉末状物、顆粒状物、ゲル状物、固形物等の種々の形態であり得る。また、(d)成分である化合物をミセル内に封入したエマルション形態や、リポソーム内に封入したリポソーム形態であってもよい。
【0094】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤において、上記(a)〜(d)成分の含有量は特に限定されない。例えば、(a)〜(d)成分の含有量として、0.01〜900μg/mg、0.1〜500μg/mg、0.5〜300μg/mg、1〜200μg/mg等を例示することができる。
【0095】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤は、後述する未分化幹細胞除去方法、分化細胞製造方法、未分化幹細胞の増殖に起因する疾患を治療又は予防するための医薬組成物、及び未分化幹細胞の増殖に起因する疾患を治療又は予防する方法等に使用することができる。
【0096】
本実施形態の未分化幹細胞除去剤が、除去の対象とする未分化幹細胞は、特に限定されないが、iPS細胞又はES細胞であることが好ましく、iPS細胞であることがより好ましい。
【0097】
また、他の態様において、本発明は、未分化幹細胞除去剤の製造のための、以下の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分の使用、を提供する:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物。
(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞;及び
(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物。
【0098】
<<キット>>
1実施形態において、本発明は、上記実施形態の未分化幹細胞除去剤を備えるキットを提供する。
【0099】
本実施形態のキットは、上記実施形態の未分化幹細胞除去剤のほか、未分化幹細胞から分化細胞を誘導するための試薬類、培地類、細胞培養器具、使用説明書等をさらに備えるものであってもよい。分化細胞を誘導するための試薬類は、誘導しようとする分化細胞に応じて、定義選択することができる。一例として、心筋細胞を誘導するための試薬類としては、例えば、デメチラーゼ、5−アザシチジン、DMSOなどの染色体DNA脱メチル化剤;PDGF、線維芽細胞増殖因子8(FGF−8)、エンドセリン1(ET1)、ミドカイン(Midkine)、骨形成因子4(BMP−4)、G−CSFなどのサイトカイン;ゼラチン、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチンなどの接着分子;レチノイン酸などのビタミン;Nkx2.5/Csx、GATA4、MEF−2A、MEF−2B、MEF−2C、MEF−2D、dHAND、eHAND、TEF−1、TEF−3、TEF−5、MesP1などの転写因子;心筋細胞由来の細胞外基質;ノギン、コーディン、フェチュイン、フォリスタチン、スクレロスチン、ダン、サーベラス、グレムリン、、ダンテなどのBMPアンタゴニスト等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、培地類としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培養液(DMEM)、MEM培養液(α−MEM、MEM[Hank’s Bss]等)、RPMI培養液(RPMI 1640等)、F12培養液、StemPre34、mTeSRI等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、細胞培養器具等としては、細胞培養プレート等を挙げることができるが、これに限定されない。
【0100】
本実施形態のキットは、後述の未分化幹細胞除去方法に好適に用いることができ、当該未分化幹細胞除去方法を説明する指示書等をさらに備えることができる。未分化幹細胞除去方法に使用する試薬類をキット化することにより、より簡便かつ短時間に未分化幹細胞除去方法を実施することができる。
【0101】
≪未分化幹細胞除去方法≫
1実施形態において、本発明は、未分化幹細胞及び分化細胞を含む細胞混合物を、未分化幹細胞除去剤の存在下で培養することを含む、未分化幹細胞除去方法を提供する。
【0102】
本実施形態の未分化幹細胞除去方法に使用する未分化幹細胞除去剤は、上記実施形態の未分化幹細胞除去剤のうち、以下の(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む未分化幹細胞除去剤である:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;及び
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物。
したがって、本実施形態の未分化幹細胞除去方法は、未分化幹細胞及び分化細胞を含む細胞混合物を、上記(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1つの成分の存在下で培養することを含む方法であるともいえる。前記(a)及び(b)の成分は、上記≪未分化幹細胞除去剤≫で記載したものと同様である。
【0103】
本明細書において、「細胞混合物」とは、2個以上の細胞を含む細胞集団を意味する。「細胞混合物」は、2個以上の細胞のほか、培地の成分等を含み得る。「未分化幹細胞及び分化細胞を含む細胞混合物」は、1個以上の未分化幹細胞と1個以上の分化細胞とを含み、任意に培地の成分等を含み得る。未分化幹細胞及び分化細胞を含む細胞混合物の形態は、特に限定されず、集合状態、分散状態、培養容器に接着した状態、細胞外マトリクス等の接着因子へ接着した状態、シート状、塊状、コロニー、胚様体、細胞塊、組織、器官等であり得る。
【0104】
未分化幹細胞に、分化・誘導処理を行うと、未分化幹細胞から分化細胞が誘導される。しかしながら、in vitroでは、全ての未分化幹細胞を分化細胞に誘導することは難しい。そのため、通常、未分化幹細胞が残存し、未分化幹細胞と分化細胞との細胞混合物が形成される。本実施形態の方法によれば、このような未分化幹細胞と分化細胞との細胞混合物から、未分化幹細胞のみを選択的に除去することができる。なお、本実施形態の方法において、未分化幹細胞及び分化細胞を含む細胞混合物は、未分化幹細胞と分化細胞とを混合したものであってもよい。
【0105】
本実施形態の方法において、未分化幹細胞は、特に限定されないが、iPS細胞又はES細胞であることが好ましく、iPS細胞であることがより好ましい。
【0106】
本実施形態の方法において、分化細胞は、特に限定されないが、混在する未分化幹細胞と同種の未分化幹細胞から分化・誘導されたものであることが好ましい。未分化幹細胞から分化細胞への分化・誘導方法は、これまでに幾つか報告されており、これら公知の方法を用いて分化細胞を誘導することができる。
【0107】
未分化幹細胞ではGPC3を発現しているが、分化が進行した細胞ではGPC3を発現しなくなる。本実施形態の方法では、この点に着目し、GPC3発現細胞を標的とした細胞処理を行うことにより、未分化幹細胞の選択的除去を行う。したがって、本実施形態の方法において、分化細胞は、GPC3を発現していない細胞である。ここで、「GPC3を発現していない」とは、未分化幹細胞におけるGPC3発現量と比較して、GPC3の発現量が1/5以下、好ましくは1/10以下、より好ましくは1/20以下、さらに好ましくは1/30以下であることをいう。GPC3の発現量は、フローサイトメトリー、定量的PCR、マイクロアレイ、ノーザンハイブリダイゼーション、抗GPC3抗体を用いた免疫組織化学的染色、ウエスタンブロッティング等の公知の方法により確認することができる。
【0108】
本実施形態の方法において、GPC3を発現していない細胞である限り、分化細胞の種類は特に限定されない。例えば、心筋細胞、筋細胞、繊維芽細胞、神経細胞、リンパ球等の免疫細胞、血管細胞、網膜色素上皮細胞等の眼細胞、巨核球や赤血球等の血液細胞、その他各組織細胞、及びそれらの前駆細胞等であってよい。好適な分化細胞の例としては、例えば、心筋細胞が挙げられる。
【0109】
多能性を有する幹細胞から心筋細胞を調製する場合、心筋細胞への分化が進行するにつれて、未分化中胚葉、心臓中胚葉(又は予定心筋細胞)を経て心筋細胞に分化すると考えられている。ここで、未分化中胚葉とは、未分化中胚葉に特異的なBrachyuryタンパク質の発現が認められる段階をいう。一方、心臓中胚葉(又は予定心筋細胞)とは、Brachyury等の未分化中胚葉に特異的なタンパク質の発現が認められ、かつ同一細胞においてNkx2.5やアクチニン等の心筋細胞特異的タンパク質の発現を認めない細胞であって、培養液に対して新たに物質が加えられることを必要とせず、専ら心筋細胞へ分化する能力を有する細胞を意味する。そして、心筋細胞とは、自律拍動を行っている細胞のことを意味する。心筋細胞は、トロポニン、Nkx2.5、GATA4、アクチニン等のマーカーを発現する。本明細書において、「心筋細胞」という用語は、心筋細胞及びGPC3を発現していない心臓中胚葉(又は予定心筋細胞)を包含する概念として用いられる。
【0110】
未分化幹細胞から心筋細胞への分化・誘導は、例えば、国際公開第01/048151号、国際公開第2005/033298号、国際公開第2008/150030等に記載の方法を用いて行うことができる。例えば、未分化幹細胞を培養する培地に、心筋細胞への分化を惹起する物質を添加することにより、心筋細胞への分化・誘導を行ってもよい。そのような物質としては、例えば、デメチラーゼ、5−アザシチジン、DMSOなどの染色体DNA脱メチル化剤;PDGF、線維芽細胞増殖因子8(FGF−8)、エンドセリン1(ET1)、ミドカイン(Midkine)、骨形成因子4(BMP−4)、G−CSFなどのサイトカイン;ゼラチン、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチンなどの接着分子;レチノイン酸などのビタミン;Nkx2.5/Csx、GATA4、MEF−2A、MEF−2B、MEF−2C、MEF−2D、dHAND、eHAND、TEF−1、TEF−3、TEF−5、MesP1などの転写因子;心筋細胞由来の細胞外基質;ノギン、コーディン、フェチュイン、フォリスタチン、スクレロスチン、ダン、サーベラス、グレムリン、ダンテなどのBMPアンタゴニスト等を挙げることができる。
【0111】
本実施形態の方法は、未分化幹細胞及び分化細胞を含む細胞混合物を、未分化幹細胞除去剤の存在下で培養する工程を含む。なお、本明細書において、「培養」とは、生体(個体)外において、細胞を維持又は増殖させることを意味し、いわゆるin vitroで細胞を扱うことを含む。そして、前記培養環境を細胞に提供するために使用されるのが「培地」である。
【0112】
本実施形態の方法において、細胞混合物の培養に使用する培地は、特に限定されず、従来細胞培養用培地として用いられている一般的な培地を用いることができる。培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培養液(DMEM)、MEM培養液(α−MEM、MEM[Hank’s Bss]等)、RPMI培養液(RPMI 1640等)、F12培養液、StemPre34、mTeSRI等を挙げることができる。
【0113】
本実施形態の方法における培養工程は、上記のような細胞培養用培地に未分化幹細胞除去剤を添加し、未分化幹細胞及び分化細胞を含む細胞混合物を培養することにより、実施することができる。あるいは、未分化幹細胞及び分化細胞を含む細胞混合物を培養している培地中に、未分化幹細胞除去剤を添加するようにしてもよい。
【0114】
未分化幹細胞除去剤の培地への添加量は、特に限定されないが、培地に添加したときの最終濃度として、例えば、0.01〜1000μg/mL、0.05〜500μg/mL、0.1〜300μg/mL等を例示することができる。また、未分化幹細胞除去剤が、(a)成分を含む場合には、培地に添加したときの(a)成分の細胞の細胞密度の例として、1×10〜1×10
8cells/mL、1×10
2〜1×10
7cells/mL、1×10
3〜1×10
6cells/mL、1×10
4〜1×10
6cells/mL等を挙げることができる。
【0115】
未分化幹細胞除去剤の存在下での細胞混合物の培養は、細胞培養に一般的に用いられる温度で行えばよい。例えば、培養温度として、20〜40℃、好ましくは25〜38℃、より好ましくは30〜37℃を例示することができる。
【0116】
未分化幹細胞除去剤の存在下での細胞混合物の培養時間は、特に限定されないが、好ましくは、24時間以上、より好ましくは48時間以上である。必要に応じて、細胞は継代培養されてもよい。継代の前後で、培地の組成は、未分化幹細胞除去剤を含む限りにおいて、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0117】
未分化幹細胞除去剤の存在下での細胞混合物の培養における細胞密度は、特に限定されないが、1×10〜1×10
7cells/mLが好ましく、1×10
3〜1×10
6cells/mLがより好ましく、1×10
4〜1×10
6cells/mLがさらに好ましい。
【0118】
本実施形態の方法により、未分化幹細胞を除去した細胞混合物は、未分化幹細胞の割合が低減され、専ら分化細胞により構成される。そのため、本実施形態の未分化幹細胞除去方法によれば、未分化幹細胞を実質的に含まないか、未分化幹細胞の割合が低減された細胞混合物を得ることができる。したがって、本実施形態の方法で得られた細胞混合物は、生体へと移植される移植用細胞として好適に使用することができる。
【0119】
また、他の態様において、本発明は、未分化幹細胞を除去するための、以下の(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1つの成分の使用、を提供する:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;及び
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物。
【0120】
≪移植用細胞製造方法≫
1実施形態において、本発明は、以下の(i)及び(ii)の工程を含む、移植用細胞の製造方法、を提供する:
(i)未分化幹細胞から所望の分化細胞を誘導する工程;及び
(ii)前記工程(i)により得られた細胞混合物を、未分化幹細胞除去剤の存在下で培養する工程。
【0121】
本実施形態の移植用細胞製造方法に使用する未分化幹細胞除去剤は、上記実施形態の未分化幹細胞除去剤のうち、以下の(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む未分化幹細胞除去剤である:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;及び
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物。
したがって、本実施形態の移植用細胞製造方法における工程(ii)は、前記工程(i)により得られた細胞混合物を、前記(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1つの成分の存在下で培養する工程であるともいえる。前記(a)及び(b)の成分は、上記≪未分化幹細胞除去剤≫で記載したものと同様である。
【0122】
本実施形態の方法における工程(i)は、未分化幹細胞から所望の分化細胞を誘導する工程である。工程(i)における未分化幹細胞は、特に限定されないが、iPS細胞又はES細胞であることが好ましく、iPS細胞であることがより好ましい。
【0123】
工程(i)において、未分化幹細胞から誘導する分化細胞の種類は、特に限定されず、所望の分化細胞に誘導すればよい。未分化幹細胞から分化細胞への誘導方法は、目的とする分化細胞に応じて、公知の方法を適宜選択して用いることができる。未分化幹細胞から誘導する分化細胞の例としては、例えば、心筋細胞、筋細胞、繊維芽細胞、神経細胞、リンパ球等の免疫細胞、血管細胞、網膜色素上皮細胞等の眼細胞、巨核球や赤血球等の血液細胞、その他各組織細胞、及びそれらの前駆細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。好適な分化細胞の例としては、例えば、心筋細胞が挙げられる。未分化幹細胞から心筋細胞への誘導は、上記≪未分化幹細胞除去方法≫で例示したような方法により行うことができる。
【0124】
一般的に、in vitroでは、全ての未分化幹細胞を分化細胞に誘導することは難しいため、工程(i)で得られる細胞混合物は、通常、未分化幹細胞が残存し、未分化幹細胞と分化細胞との細胞混合物となっている。また、前記細胞混合物は、任意に培地の成分等を含み得る。前記細胞混合物の形態は、特に限定されず、集合状態、分散状態、培養容器に接着した状態、細胞外マトリクス等の接着因子へ接着した状態、シート状、塊状、コロニー、胚様体、細胞塊、組織、器官等であり得る。
【0125】
本実施形態の製造方法における工程(ii)は、前記工程(i)により得られた細胞混合物を、未分化幹細胞除去剤の存在下で培養する工程である。本工程(ii)における培養は、上記≪未分化幹細胞除去方法≫で例示したような方法により行うことができる。
【0126】
本実施形態の製造方法は、上記工程(i)及び(ii)に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、分化細胞を精製する工程、分化細胞を回収する工程等が挙げられる。本実施形態の製造方法がこれらの工程を含む場合、これらの工程は、上記工程(ii)の後に行われる。
【0127】
分化細胞の精製工程や回収工程は、分化細胞の種類に応じて、適宜適切な方法を選択することができる。例えば、分化細胞が心筋細胞である場合には、国際公開第2006/022377号、国際公開第2007/088874号、国際公開2016/010165号に記載の方法等を、精製工程に適用してもよい。また、回収工程としては、遠心分離法等を適用してもよい。
【0128】
本実施形態の製造方法において得られる移植用細胞は、例えば、分化細胞/(未分化幹細胞+分化細胞)×100で表される分化細胞率は、50%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよい。なお、死細胞は上記細胞数に含めないものとする。
【0129】
本実施形態の製造方法により製造された移植用細胞は、未分化幹細胞が選択的に除去されているため、未分化幹細胞の割合が低減されており、専ら分化細胞により構成される。そのため、本実施形態の製造方法によれば、未分化幹細胞を実質的に含まないか、未分化幹細胞の割合が低減された移植用細胞を得ることができる。そのため、生体に移植した場合でも、奇形腫形成等のリスクが低減される。
【0130】
また、他の態様において、本発明は、移植用細胞を製造するための、以下の(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1つの成分の使用、を提供する:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;及び
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物。
【0131】
さらに、他の態様において、本発明は、以下の(i)及び(ii)の工程を含む、移植用細胞の製造方法によって製造された移植用細胞、を提供する:
(i)未分化幹細胞から所望の分化細胞を誘導する工程;及び
(ii)前記工程(i)により得られた細胞混合物を、未分化幹細胞除去剤の存在下で培養する工程。
【0132】
≪医薬組成物≫
1実施形態において、本発明は、未分化幹細胞から誘導された分化細胞を移植された対象において、前記未分化幹細胞の増殖に起因する疾患を治療又は予防するための医薬組成物であって、未分化幹細胞除去剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0133】
本実施形態の医薬組成物が含む未分化幹細胞除去剤は、上記実施形態の未分化幹細胞除去剤のうち、以下の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む未分化幹細胞除去剤である:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物;
(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞;及び
(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物。
したがって、本実施形態の医薬組成物は、前記(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を有効成分として含む、医薬組成物であるともいえる。前記(a)〜(d)の成分は、上記≪未分化幹細胞除去剤≫で記載したものと同様である。
【0134】
本実施形態の医薬組成物は、上記(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を治療的有効量含む。治療的有効量である限り、(a)〜(d)成分の含有量は特に制限されないが、例えば、0.01〜900μg/mg、0.1〜500μg/mg、0.5〜300μg/mg、1〜200μg/mg等を例示することができる。
【0135】
本実施形態の医薬組成物は、上記(a)〜(d)からなる群より選択される成分の1つを単独で含んでもよく、2以上を組合せて含んでいてもよい。また、本実施形態の医薬組成物は、上記(a)〜(d)成分以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、特に限定されないが、上記≪未分化幹細胞除去剤≫で記載したもの等を挙げることができる。
【0136】
また、本実施形態の医薬組成物は、他の成分として、上記≪未分化幹細胞除去剤≫で記載したもののほかに、アジュバント等の免疫賦活剤を含んでいてもよい。アジュバントの例としては、例えば、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ミョウバン、コレラ毒素、サルモネラ毒素、IFA(不完全フロイントアジュバント)、CFA(完全フロイントアジュバント)ISCOMATRIX、GM−CSF、CpG、O/Wエマルジョン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、本実施形態の医薬組成物は、(a)〜(d)成分以外の、薬理活性を有する薬剤を含んでいてもよい。他の薬剤の例としては、例えば、抗炎症剤、鎮痛剤、解熱剤、未分化幹細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る他の化合物等が挙げられる。
【0137】
本実施形態の医薬組成物の剤型は、特に限定されず、液剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、散剤、懸濁剤、乳剤、エマルション製剤、リポソーム製剤等の種々の剤型とすることができる。(a)成分又は(c)成分を含む場合、本実施形態の医薬組成物は、細胞懸濁物、細胞ペレット、凍結保存細胞等の形態とすることもできる。
【0138】
本実施形態の医薬組成物は、未分化幹細胞から誘導された分化細胞を移植された対象において、前記未分化幹細胞の増殖に起因する疾患を治療又は予防するために使用される。一般に、in vitroでは、全ての未分化幹細胞を分化細胞に誘導することは難しいため、移植用細胞として調製された分化細胞中に、未分化幹細胞が残存してしまう場合がある。未分化幹細胞が残存したまま移植された場合、生体内で未分化幹細胞が増殖し、奇形腫等の疾患を生じる恐れがある。本実施形態の医薬組成物は、そのような疾患を治療又は予防するために、当該分化細胞を移植された対象に投与される。なお、未分化幹細胞の増殖に起因する疾患は、特に限定されないが、奇形腫や癌等を挙げることができる。
【0139】
本実施形態の医薬組成物の投与対象において、移植される分化細胞は、未分化幹細胞から誘導された分化細胞であれば、特に限定されない。好ましくはiPS細胞又はES細胞から分化されたものであり、より好ましくはiPS細胞から分化されたものである。一例として、分化細胞は、心筋細胞である。また、分化細胞は、上記≪移植用細胞製造方法≫で記載した方法により製造された移植用細胞であってもよい。
【0140】
本実施形態の医薬組成物の投与経路は、有効成分の種類、製剤の形態、移植された分化細胞の種類、分化細胞が移植された場所等に応じて、適宜選択することができる。例えば、経鼻的、経皮的、経気管支的投与や、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、腹腔内、骨内等への注射等を例示することができる。また、投与は、局所投与であっても全身投与であってもよい。
【0141】
例えば、本実施形態の医薬組成物が(d)成分を含み、(d)成分がGPC3タンパク質又はその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むセンダイウイルスベクターである場合、当該医薬組成物は、一例として、経鼻的に投与することができる。
【0142】
本実施形態の医薬組成物の投与量及び投与間隔は、移植した分化細胞の種類、量、及び移植した場所等、移植を受けた対象の年齢、性別、体重等、並びに投与方法等により、適宜選択することができる。投与量は、(a)〜(d)成分の治療的有効量であることができる。例えば、(a)〜(d)成分の治療的有効量として、1回の投与量で体重1kg当たり、0.001〜1000mg、0.01〜100mg、0.1〜30mg、0.1〜10mg、0.5〜5mg等を例示することができる。また、投与間隔は、数日〜数ヶ月に1度、例えば1週間に一度の投与を例示することができる。
【0143】
本実施形態の医薬組成物によれば、生体内に移植された細胞に未分化幹細胞が残存していた場合であっても、生体内で未分化幹細胞を選択的に除去することができる。そのため、生体で未分化幹細胞が増殖することに起因する疾患を治療又は予防することができる。
【0144】
他の態様において、本発明は、未分化幹細胞から誘導された分化細胞を移植された対象において、前記未分化幹細胞の増殖に起因する疾患を治療又は予防するため医薬組成物の製造における、以下の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分の使用、を提供する:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物;
(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞;及び
(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物。
【0145】
また、他の態様において、本発明は、未分化幹細胞から誘導された分化細胞を移植された対象において、前記未分化幹細胞の増殖に起因する疾患を治療又は予防するための、以下の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分の使用、を提供する:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物;
(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞;及び
(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物。
【0146】
さらに、他の態様において、本発明は、未分化幹細胞から誘導された分化細胞を移植された対象における、前記未分化幹細胞の増殖に起因する疾患の治療又は予防に使用するための、以下の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分、を提供する:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物;
(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞;及び
(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物。
【0147】
≪治療方法等≫
1実施態様において、本発明は、以下の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を、未分化幹細胞から誘導された分化細胞を移植された対象に投与することを含む、前記未分化幹細胞の増殖に起因する疾患を治療又は予防するための方法、を提供する:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物;
(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞;及び
(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物。
【0148】
上記(a)〜(d)成分は、上記実施形態の医薬組成物の形態で投与されてもよい。上記(a)〜(d)成分は、上記≪未分化幹細胞除去剤≫に記載したものと同様である。本実施形態の方法においては、(a)〜(d)からなる群より選択される成分の1つを単独で投与してもよく、2以上を組合せて投与してもよい。また、(a)〜(d)成分を、(a)〜(d)成分以外の他の成分と組み合わせて投与してもよい。他の成分は、特に限定されないが、上記≪未分化幹細胞除去剤≫及び≪医薬組成物≫で記載したもの等を挙げることができる。
【0149】
上記(a)〜(d)の成分は、未分化幹細胞から誘導された分化細胞を移植された対象に、治療的有効量投与される。有効量は、移植した分化細胞の種類、量、及び移植した場所等、移植を受けた対象の年齢、性別、体重等、並びに投与方法等により異なるが、成分(a)〜(d)の有効量として、例えば、1回の投与量で体重1kg当たり、0.001〜1000mg、0.01〜100mg、0.1〜30mg、0.1〜10mg、0.5〜5mg等を例示することができる。また、投与間隔は、数日〜数ヶ月に1度、例えば1週間に一度の投与を例示することができる。
【0150】
投与対象、及び対象疾患は、上記≪医薬組成物≫で記載したものと同様のものを対象とすることができる。また、投与方法は、上記≪医薬組成物≫で記載したものと同様に行うことができる。
【0151】
また、1実施態様において、本発明は、以下の(i)〜(iii)の工程を含む、移植用細胞の移植方法を提供する:
(i)未分化幹細胞から所望の分化細胞を誘導する工程;
(ii)前記工程(i)により得られた細胞混合物を、未分化幹細胞除去剤の存在下で培養し、移植用細胞を得る工程;及び
(iii)前記工程(iii)で得られた移植用細胞を、移植が必要な対象に移植する工程。
【0152】
本実施形態の移植方法における工程(i)及び(ii)は、上記≪移植用細胞の製造方法≫で記載した工程(i)及び(ii)と同様に行うことができる。また、本実施形態の移植方法の工程(ii)で使用する未分化幹細胞除去剤は、上記実施形態の未分化幹細胞除去剤のうち、以下の(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を含む未分化幹細胞除去剤である:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;及び
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物。
上記(a)及び(b)の成分は、上記≪未分化幹細胞除去剤≫に記載したものと同様である。
【0153】
本実施形態の移植方法における工程(iii)は、前記工程(ii)で得られた移植用細胞を、移植が必要な対象に移植する工程である。「移植が必要な対象」とは、当該対象の生体内において、前記工程(ii)で得られた移植用細胞と同種の細胞に欠陥、損傷等が生じており、前記移植用細胞を移植することにより、当該細胞の欠陥、損傷等に起因する症状の改善が見込める対象である。移植は、一般的な細胞移植の手法により行うことができる。
【0154】
本実施形態の移植方法は、上記工程(i)〜(iii)に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、分化細胞を精製する工程、分化細胞を回収する工程等が挙げられる。本実施形態の移植方法がこれらの工程を含む場合、これらの工程は、上記工程(ii)と工程(iii)との間に行われる。このような精製工程や回収工程は、前記≪移植用細胞製造方法≫に記載したように行うことができる。
【0155】
本実施形態の移植方法によれば、未分化幹細胞を実質的に含まないか、未分化幹細胞の割合が低減された移植用細胞を生体に移植することができるため、奇形腫形成等のリスクが低減される。
【0156】
また、本実施形態の移植方法は、工程(iii)の後に、さらに以下の工程(iv)を含んでいてもよい。
(iv)前記工程(iii)で移植用細胞を移植した対象に、以下の(a)〜(d)からなる群より選択される少なくとも1つの成分を投与する工程:
(a)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る細胞;
(b)グリピカン3発現細胞の増殖を特異的に阻害し得る化合物;
(c)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る細胞;及び
(d)グリピカン3発現細胞に対する特異的免疫応答を誘導し得る化合物。
【0157】
上記工程(iv)は、上記実施形態の治療又は予防するための方法と同様に行うことができる。工程(iv)を行うことにより、たとえ移植用細胞に未分化幹細胞が残存したまま移植された場合であっても、奇形腫等の当該未分化幹細胞の増殖に起因する疾患の発症を予防することができる。
【実施例】
【0158】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0159】
[方法等]
(細胞の培養)
iPS細胞株であるiPSC1〜3のうち、iPSC1及びiPSC2は、京都大学iPS細胞研究所から供与を受けた。またiPSC3は、健常人末梢血からセンダイウイルスベクターを用いて樹立した。心筋細胞であるHeart−1,2は、それぞれコスモ・バイオ社及びタカラバイオ社から購入した。
細胞の培養は、37℃、5%CO
2条件に設定されたインキュベーター内で行った。ヒトiPS細胞は、マトリゲル(BD Bioscience cat 354277)を用いて未分化維持培養を行った。培養液にはmTeSR1(STEMCELL Technologies Inc.cat 11875−119)を用いた。未分化維持培養液に関してはmTeSR1の他に、Essential 8(Life Technologies)やTeSR2(STEMCELL Technologies Inc.)など、フィーダーフリー用の培地として一般的に使用されているものであれば使用可能である。またマトリックスとして、マトリゲルの他に、Vitronectin(Life Technologies)やiMatrix−511(Takara no.892001)などがあり、その他のフィーダーフリー用のマトリックスとして一般的に使用されているものであれば使用可能である。
植え継ぎに際しては、StemPro Accutase(Life Technologies no.1110501)、37℃5分にてヒト胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞を分散処理した。細胞の分散処理に関してはStemPro Accutase以外にCTK solution(Repro CELL)やTrypLE Express/Select(Life Technologies)も使用可能である。
【0160】
(未分化幹細胞からの心筋細胞の誘導)
未分化幹細胞から心筋細胞への分化・誘導は、以下の手順により行った。
・心筋分化にあたり、iPSC1が50〜90%コンフルエントになったところで、RPMI培地(Invitrogen)にB27(インスリンなし、Invitrogen)及びCHIR99021(Selleckchem or Wako)6μMを添加したものに培地を交換した(Day 0)。
・Day 1〜Day 2は、RPMI/B27インスリン(−)培地で培養を行った。
・次いで、Day 3〜Day 5は、RPMI/B27インスリン(−)培地に、さらにIWP2 5μMあるいはIWR−1(Sigma I0161)5μMを添加した培地で培養を行った。
・さらに、Day 6〜Day 7は、RPMI/B27インスリン(−)培地で培養を行った。
・そして、Day 8以降は、RPMI/B27インスリン(+)培地で培養を行った(Lian,X.,et al.,Nat Protocol,2013,8,162−175)。Day 8〜Day 11の段階で、拍動する心筋細胞を確認することができた。
iPSC1−CMは、iPSC1から分化・誘導された心筋細胞である。
【0161】
(定量的RT−PCR解析)
全RNA試料は、TRIZOL試薬(Life Technologies社製)を用い、製品添付の説明書に従って単離した。RNA試料の濃度及び純度は、ND−1000分光測光器(Thermo Fisher Scientific社製)で測定し、cDNAの調製は、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(東洋紡社製)を用いて行った。定量的PCR(QT−PCR)は、SYBR Premix Ex Taq(タカラバイオ社製)を用い7500リアルタイムPCRシステム(Life Technologies社製)により行った。mRNAの量は、GAPDHのmRNA量により標準化した。定量的PCRに用いたプライマーセットのヌクレオチド配列を表1に示す。
【0162】
【表1】
【0163】
(FACS解析)
分散処理した細胞をPBSで一回洗浄し、一次抗体GPC3抗体[B0025R、Biomosaics社製]存在下で、4℃で30分間インキュベートした。PBSで洗浄し、二次抗体(Alexa Fluor 488[Life Technologies社製]とコンジュゲートした抗マウスIgG抗体)と4℃で30分間インキュベートした。PBSで洗浄し、フローサイトメトリー(BD社製)にて測定を行った。
【0164】
(免疫組織化学染色法)
24黒ウェルプレート(porvair science社製)上に播種したiPS細胞若しくはiPS細胞由来心筋細胞、又はこれらを混合した細胞を、PBSで一回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(武藤化学社製)で4℃で15分間固定処理を行った。固定処理した細胞をPBS中0.5%トリトンX−100で10分間、室温で透過処理した。その後、2種類の一次抗体Oct3/4抗体[MAB1759、R&D Systems社製]とGPC3抗体[B0025R、Biomosaics社製]、又はOct3/4抗体[MAB1759、R&D Systems社製]と抗Troponin I抗体[ab52862、abcam社製]若しくは抗Troponin T抗体[13−11、Thermo Fisher社製]存在下で、細胞を4℃で一晩インキュベートした。PBS中10%FBSで洗浄し、各々の一次抗体に対応する二次抗体(Alexa Fluor 488又はAlexa Fluor 546[Life Technologies社製]とコンジュゲートした抗マウスIgG抗体、抗ウサギIgG抗体、又は抗ラットIgG抗体)と室温で90分間インキュベートし、6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI;Life Technologies社製)で細胞核を染色した後、蛍光顕微鏡(BZ−9000;キーエンス社製)を用いて蛍光観察を行った。
【0165】
[実験例1]GPC3の発現解析
図1(a)は、ES細胞株(ESC−1,2)、iPS細胞株(iPSC−1,2)、及び正常心臓(Heart)における、マイクロアレイによるGPC3発現解析結果である。NIH Stem cell databaseのデータを使用した。また、
図1(b)は、iPS細胞(iPSC1)、iPS細胞から誘導された心筋細胞(iPSC1−CM)、及び正常心臓の心筋細胞(Heart−1)における、RNAシークエンスによるGPC3の発現解析結果である。RNAシークエンス解析は以下の手順により行った。
iPSC1とiPSC1−CMからRNA抽出キット[RNeasy mini kit(QIAGEN社製)]を用いてRNAを抽出し、bioanalyzer(Agilent Technologies社製)により純度を確認後、TruSeq RNA Sample Prep Kit v2(illumina社製)を用いてライブラリーを作製し、HiSeq1500(illumina社製)を用いて解析を行った。RNAシークエンスより得られたリードカウントデータは正規化を行い、FPKM(fragments per kilobase of exon per million reads mapped)値を算出した。算出式を下記に示す。
【0166】
【数1】
【0167】
図1に示されるように、多能性幹細胞(ES細胞及びiPS細胞)においては、GPC3の発現が観察された。一方、正常心臓の心筋細胞及びiPS細胞から分化・誘導された心筋細胞では、GPC3の発現はほとんど観察されなかった。
【0168】
図2は、iPS細胞(iPSC1〜3)、iPSC1から分化・誘導された心筋細胞(iPSC1−CM)、及び正常心臓の心筋細胞(Heart−1,2)における、GPC3発現解析結果である。
図2(a)は、定量的PCRによる解析結果であり、
図2(b)はFACS解析の結果である。
【0169】
図2に示されるように、iPS細胞においては、GPC3の発現が観察された。一方、iPS細胞から分化・誘導された心筋細胞、及びの正常細胞の心筋細胞では、GPC3の発現はほとんど観察されなかった。
【0170】
図3は、iPS細胞(iPSC1)及びiPSC1から分化・誘導された心筋細胞(iPSC1−CM)における蛍光免疫染色でのGPC3染色観察像である。(a)はiPS細胞染色像であり、(b)はiPSC1由来心筋細胞染色像である。それぞれの細胞のマーカーとして、(a)ではOct3/4、(b)ではトロポニンIを用いた。
【0171】
図3に示されるように、iPS細胞においては、GPC3の発現が観察された。一方、iPS細胞から分化・誘導された心筋細胞では、GPC3の発現はほとんど観察されなかった。
【0172】
[実験例2]iPS細胞由来心筋細胞に対するGPC3特異的CTLの応答試験
(iPS細胞に対するGPC3特異的CTLの応答試験)
HLA−A2拘束性のGPC3特異的CTLは、以前にGPC3由来ペプチド(配列番号22:FVGEFFTDV)を用いて樹立したクローンを使用した(国際公開第2007/018199号)。
GPC3特異的CTLを、iPSC1、又はiPSC1から誘導した心筋細胞(iPSC1−CM)と共培養し、これらの細胞に対するGPC3特異的CTLの応答性を試験した。GPC3特異的CTLの応答性は、IFN−γ ELISPOTアッセイにより確認した。IFN−γの検出は、ELISPOT Human IFN−γ set(BD社)を用いて行った。まず、抗ヒトIFN−γ抗体をELISPOTプレート(BD Bioscience社)に18時間コーティング処理を行った。その後、10%FCS/RPMIにて2時間ブロッキングを行った。GPC3特異的CTL(100μL/well)とiPS細胞(100μL/well)を混合し、37℃で22時間培養した。GPC3特異的CTL/iPS細胞比は、5:1で実験を行なった。その後、プレートを滅菌水で洗浄し、ビオチン化抗ヒトIFN−γ抗体と2時間、さらにストレプトアビジン-HRPと1時間反応させ、基質溶液にてIFN−γ陽性のスポットを検出した。スポットのカウントは、MINE MiNERVA TECH社の自動解析ソフトを用いて行った。
【0173】
IFN−γ ELISPOTアッセイの結果を
図4に示す。
図4に示すように、GPC3特異的CTLは、iPSC1に対して高い応答性を示した。一方、iPSC1から誘導した心筋細胞であるiPSC1−CMに対しては、GPC3特異的CTLの応答性は顕著に低かった。
【0174】
(iPS細胞及び心筋細胞に対するGPC3特異的CTLの応答試験)
iPSC1、又はiPSC1から誘導した心筋細胞(iPSC1−CM)を、96ウェルプレートにて培養し、50〜60%コンフルエントになったところで、GPC3特異的CTLを3×10
5cells添加して、37℃で48時間培養した。PBSで洗浄し、カルセインAMを用いて生細胞を蛍光標識後、各ウェルの蛍光強度を検出した。その結果を
図5に示す。
図5(a)は、iPSC1での結果であり、
図5(b)は、iPSC1−CMでの結果である。棒グラフは、GPC3特異的CTLを添加しなかった場合(共培養なし)の蛍光強度を1としたときの、相対蛍光強度を示す。なお、図中、「不活化CTL」は、熱処理により不活化したGPC3特異的CTLであり、不活化CTLと共培養した結果をネガティブコントロールとして示した。
【0175】
図5に示すように、iPSC1をGPC3特異的CTLと共培養したときには、生細胞はほとんど観察されなかったが、一方、iPSC1から誘導した心筋細胞(iPSC1− CM)をGPC3特異的CTLと共培養したときには、GPC3特異的CTLを添加しなかった場合と同程度の生細胞が観察された。
【0176】
図4及び
図5の結果から、GPC3特異的CTLは、iPS細胞に対して応答性を示すが、iPS細胞から誘導された心筋細胞に対しては応答性をほとんど示さないことが確認された。
【0177】
[実験例3]GPC3ノックダウン細胞に対するGPC3特異的CTLの応答試験
(GPC3ノックダウン細胞の作成)
GPC3に対するsiRNAであるGPC3 siRNA(配列番号28:5’−GGAGGCUCUGGUGAUGGAAUGAUAA−3’)を合成し、iPS−G4に導入した。なお、ネガティブコントロールとして、negative siRNA[AllStars Negative Control siRNA(QIAGEN社製)]を使用した。GPC3 siRNAによるノックダウン効果を定量的PCR及びFACSにより確認した。定量的PCR及びFACSによるGPC3 siRNAのノックダウン効果の確認結果を
図6に示す。
図6(a)は定量的PCRによる確認結果であり。
図6(b)は、FACSによる確認結果である。
図6の結果より、GPC3 siRNA導入細胞では、GPC3のノックダウン効果が確認された。
【0178】
(GPC3ノックダウン細胞に対するGPC3特異的CTLの応答試験)
GPC3特異的CTLを、GPC3 siRNAを導入したiPSC1、又はnegative siRNAを導入したiPSC1と共培養し、これらの細胞に対するGPC3特異的CTLの応答性を試験した。GPC3特異的CTLの応答性は、IFN−γ ELISPOTアッセイにより確認した。IFN−γ ELISPOTアッセイは、実験例2と同様に行った。
【0179】
IFN−γ ELISPOTアッセイの結果を
図7に示す。
図7に示すように、GPC3特異的CTLは、negative siRNAを導入したiPSC1に対して高い応答性を示した。一方、GPC3 siRNAを導入したiPSC1に対しては、GPC3特異的CTLの応答性は顕著に低かった。
図7の結果から、GPC3特異的CTLのiPS細胞に対する応答性は、GPC3特異的であることが確認された。
【0180】
[実験例4]iPS細胞と心筋細胞との細胞混合物に対するGPC3特異的CTLの応答試験
iPSC1とiPSC1−CMとを1:20の割合で混合し、GPC3特異的CTLを3×10
6cells添加して、37℃で48時間、共培養を行った。なお、iPSC1は、FACS解析のために、cell trackerGreen CMFDA[C7025(Thermo Fisher社製)]で染色したものを用いた。共培養後、FACS解析を行った。
【0181】
FACS解析の結果を
図8に示す。
図8(a)がFACS解析の結果であり、
図8(bb)はFACS解析の結果を数値化したものである。
図8に示すように、GPC3特異的CTLと共培養した場合(共培養あり)には、GPC3特異的CTLと共培養しなかった場合(共培養なし)と比較して、iPSC1の割合は大きく低下した。
【0182】
次に、iPSC1とiPSC1−CMとの細胞混合物、及びGPC3特異的CTLを共培養した後の細胞を、免疫組織化学染色し、蛍光観察を行った。その結果を
図9に示す。
図9(a)は、GPC3特異的CTLと共培養した場合であり、
図9(b)は、GPC3特異的CTLと共培養しなかった場合である。
図9に示すように、GPC3特異的CTLと共培養しなかった場合には、Oct3/4を発現するiPS細胞が観察された。一方、GPC3特異的CTLと共培養した場合には、Oct3/4を発現するiPS細胞はほとんど観察されなかった。
【0183】
図8及び9の結果から、GPC3特異的CTLは、iPS細胞と心筋細胞との細胞混合物において、iPS細胞のみを選択的に除去できることが確認された。