【解決手段】 レーザ光Lをパルス発振させて樹脂フィルム2に間欠的に照射し、該樹脂フィルム2を切断するレーザ加工装置1であって、上記レーザ光Lを予め定められた間隔で複数射出するマルチレーザ射出部3と、上記マルチレーザ射出部3から複数射出されたレーザ光Lを予め定められたビーム形状に各々集束させて、上記樹脂フィルム2上に導く光学系4と、同一平面内で直交する2方向に対して、何れか一方の方向に上記樹脂フィルムを予め定められた移動速度で移動させる搬送装置5と、上記樹脂フィルム2を切断するためのラインを該樹脂フィルム2に設定し、各々集束させた上記ビーム形状のレーザ光Lを上記ラインに合致させて順次照射するように、上記ビーム形状のレーザ光Lの照射位置と上記移動速度とを制御する制御部6と、を備える。
前記光学系は、複数個のマイクロレンズを等間隔に直線状に配置し、前記複数射出されたレーザ光を前記ビーム形状に各々集束させるマイクロレンズアレイであることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明によるレーザ加工装置の一例を示す構成図である。
図2は、
図1に示す樹脂フィルムの側面図であり、
図3は、
図1に示す樹脂フィルムの平面図である。
図1に示すレーザ加工装置1は、例えば、有機EL表示パネル用の樹脂フィルム2を切断するものであって、構成例として、マルチレーザ射出部3と、マルチビーム光学系4と、搬送装置5と、制御部6とを備える。なお、マルチレーザ射出部3、マルチビーム光学系4、搬送装置5、及び制御部6は、それぞれ、本発明による、マルチレーザ射出部、光学系、搬送装置及び制御部の一例である。また、有機EL表示パネル用の樹脂フィルム2は、レーザ加工装置1で切断される樹脂フィルムの一例である。
【0011】
ここで、
図2に示す樹脂フィルム2は、PET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルム21、ポリイミドのフィルム22の順番に積層されることにより形成されている。樹脂フィルム2の膜厚は、一例として、PETのフィルム21が50μmであり、ポリイミドのフィルム22が10μmであり、合わせて60μmである。また、
図3に示す樹脂フィルム2のサイズは、一例として、液晶表示パネル用として切り出す前のガラス基板のサイズG4.5と同じであって、730×920mmである。なお、樹脂フィルム2のサイズは、G4.5に限られず、G6(1500×1850mm)等、用途に応じて、適宜変更してよい。
【0012】
また、
図3において、樹脂フィルム2に示す破線23は、樹脂フィルム2を切断するためのラインである。但し、ラインは、一例として樹脂フィルム2に実際に付されているのではなく、レーザ加工装置1が樹脂フィルム2を切断するために設定するラインであって、本実施形態では、説明の便宜上、ラインを仮想的に樹脂フィルム2に付している。本実施形態において、ラインは、樹脂フィルム2をブロック(矩形)状に切断するために区画されており、説明をわかりやすくするため、xy座標で(0,0)〜(12,12)で、4つの座標点で囲まれた領域が切り出されることを表している。
【0013】
そして、本実施形態では、例えば、長手方向のラインとして、xy座標で(1,0)〜(1,12)のラインを第1ライン、(2,0)〜(2,12)のラインを第2ライン、(3,0)〜(3,12)のラインを第3ライン、(4,0)〜(4,12)のラインを第4ラインとする。また、本実施形態では、例えば、横手方向のラインとして、xy座標で(0,1)〜(5,1)のラインを第5ライン、(0,2)〜(5,2)のラインを第6ライン、・・・(0,10)〜(5,10)を第14ライン、(0,11)〜(5,11)を第15ラインとする。ここで、レーザ加工装置1は、
図3に示す樹脂フィルム2について、例えば、第1〜第15ラインを切断することでスマートフォン等の電子機器の表示パネル用フィルムとして60枚分を加工処理する。詳細は、
図8のフローチャート等を用いて説明する。
【0014】
図1に戻り、搬送装置5は、同一平面内で直交する2方向に対して、何れか一方の方向に樹脂フィルム2を予め定められた移動速度で移動させるものである。具体的には、搬送装置5は、ステージ7上に樹脂フィルム2を載置し、制御部6の指示により、
図1に示すx方向又はy方向にステージ7を移動させる。したがって、ステージ7の移動速度がそのまま樹脂フィルム2の移動速度となる。また、搬送装置5は、さらに、樹脂フィルム2の全体の向きを変えるために回転駆動機構も備え、制御部6の指示によりステージ7を例えば90度回転させる。
【0015】
本実施形態では、樹脂フィルム2の切断を開始する場合、搬送装置5は、一例として、
図3に示す第1ラインから切断を開始するために、ステージ7を移動させて第1ラインの(1,0)の座標位置を最初の照射位置になるように樹脂フィルム2を搬送して位置決めする(以下、「照射開始の位置」という)。この場合、第1ラインが走査方向(矢印A方向)と平行となるように位置決めされている。なお、搬送装置5は、1回の走査で樹脂フィルム2の切断する場合には、矢印Aで示す走査方向を往路としてステージ7を移動させ、2回の走査で樹脂フィルム2の切断する場合には、矢印Bで示す走査方向を復路としてステージ7を移動させる。
【0016】
また、搬送装置5の上方にはマルチビーム光学系4が配設され、マルチビーム光学系4の上方にはマルチレーザ射出部3が配設されている。但し、マルチレーザ射出部3は、例えば反射ミラー等を用いてレーザの光路を変更する構成にすれば、必ずしも、マルチビーム光学系4の上方に配設されなくてもよい。
【0017】
マルチレーザ射出部3は、レーザ光Lをパルス発振させ、予め定められた間隔で複数射出するものである。具体的には、マルチレーザ射出部3は、例えば複数の同一のレーザ発振器を備え、各々のレーザ発振器からは、紫外線のレーザ光Lを各々の射出口から射出する。これらの射出口は直線状に等間隔に並んでいる。この場合、マルチレーザ射出部3は、例えば、波長が355nm(第三高調波)のYAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザを各々射出する。本実施形態では、説明の便宜上、マルチレーザ射出部3は、7つの射出口から各々レーザ光Lを出力することができる構成になっている。なお、使用するレーザは、YAGレーザに限定されず、例えば、波長が308nmのエキシマレーザ等、他の波長のパルスレーザを採用してもよい。但し、レーザ照射に起因する熱蓄積等の影響を避けるために連続発振(CW:Continuous Wave)の方式を採用しないことが好ましい。したがって、本実施形態では、パルスレーザの方式を採用している。
【0018】
マルチビーム光学系4は、マルチレーザ射出部3から複数射出されたレーザ光Lを予め定められたビーム形状に各々集束させて、樹脂フィルム2上に導くものである。本実施形態では、マルチビーム光学系4は、例えば、マイクロレンズアレイで構成されている。
【0019】
図4は、本発明によるレーザ加工装置で使用するマルチビーム光学系の一構成例を示す平面図である。
図5は、
図4に示すマルチビーム光学系のO−O線断面図である。ここで、マルチビーム光学系4は、マルチレーザ射出部3が複数射出するレーザ光Lの射出口の配列ピッチに応じて、マイクロレンズを等間隔に直線状に配置し、複数射出されたレーザ光Lをビーム形状に各々集束させるマイクロレンズアレイを備える。
【0020】
一例として、マルチレーザ射出部3が7つの射出口を有する構成の場合には、マルチビーム光学系4は、これに合わせて7個のマイクロレンズ4a〜4gが設けられている。そして、マルチビーム光学系4は、マルチレーザ射出部3から複数射出されたレーザ光Lを7個のマイクロレンズ4a〜4gで予め定められたビーム形状に各々集束させて、樹脂フィルム2上に導く。この場合、樹脂フィルム2のライン上に照射されるレーザ光Lのビーム間隔は、一例として5mmである。
【0021】
制御部6は、樹脂フィルム2を切断するためのラインをその樹脂フィルム2に設定し、各々集束させたビーム形状のレーザ光Lをラインに合致させて順次照射するように、ビーム形状のレーザ光Lの照射位置と移動速度とを制御する。制御部6は、マルチレーザ射出部3や搬送装置5と通信ケーブルを介して接続され、制御用のコマンドの指示等を行える。
【0022】
図6は、本発明によるレーザ加工装置の制御部の構成例を示すブロック図である。制御部6は、プロセッサとメモリとを備える。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)であって、マルチレーザ射出部3や搬送装置5に対して統括的な制御処理を実行する。メモリには、例えば、外部からの入力手段を介して作業者からのユーザ入力のデータが記憶される。このユーザ入力には、例えば、樹脂フィルム2のサイズ、膜厚、切断により加工される1ブロックのサイズ等のパラメータが含まれる。
【0023】
また、制御部6は、ユーザ入力のパラメータに基づいて、上述したように樹脂フィルム2に仮想的に座標を設定し、その内でラインの座標を演算により求める。これにより、制御部6は、樹脂フィルム2を切断するためのラインを設定する。さらに、制御部6は、ユーザ入力のパラメータに基づいて、レーザパワー、焦点サイズ(スポット径等)、樹脂フィルム2の移動速度、走査回数、走査順序を含む制御パラメータを設定する。但し、作業者がユーザ入力したデータを設定するようにしてもよい。
【0024】
次に、このように構成されたレーザ加工装置1の動作の一例について説明する。
先ず、
図1に示すレーザ加工装置1の制御部6は、一例として、樹脂フィルム2のサイズ(730×920mm)、膜厚(66μm)、切断により加工される1ブロックのサイズ(77×146mm)等のパラメータをメモリから読み出す。そして、制御部6は、上記の制御パラメータを設定する。この場合、制御部6は、一例として、各々のレーザパワー(約1W(ワット))、スポット径(20μm)、樹脂フィルム2の移動速度(100mm/sec)、各ラインの走査回数(2回)、走査順序(
図6、7参照)を含む制御パラメータを設定する。
【0025】
詳細には、本実施形態では、パルスレーザの繰り返し周波数を80kHzとし、1回の照射当たりのレーザパワーを12μJとし、1秒当たりのレーザパワーを、80kHz×12μJ=0.96W(約1W)としている。
【0026】
図6は、樹脂フィルムを切断するためのラインにレーザ光を合致させて切断する順序の一例を示す説明図である。
図7は、樹脂フィルムを切断するためのラインにレーザ光を合致させて切断する順序の他の例を示す説明図である。本実施形態では、樹脂フィルム2を移動させて切断するため、レーザ加工装置1は、先ず、長手方向の第1〜第4ラインの順番で樹脂フィルム2を切断する(
図6参照)。続いて、レーザ加工装置1は、ステージ7を90度回転させた後、横手方向の第5〜第15ラインの順番で樹脂フィルム2を切断する(
図7参照)。
【0027】
なお、
図6、7では、各ラインにつき、1回の走査で切断される場合について例示している。但し、膜厚によっては、レーザパワー等の制御パラメータとの関係で同一のラインを1回走査しただけでは、切断できない場合も起こり得る。そのため、レーザ加工装置1では、必要に応じて同一のラインについてN回(例えば、N=2)走査することにより、樹脂フィルム2を切断する手段を導入している。したがって、2回の走査の場合には、レーザ加工装置1は、樹脂フィルム2の同一のラインを往復させることで切断するようにしている。
【0028】
ここで、
図1に示すレーザ加工装置1のマルチレーザ射出部3がレーザ照射可能なレディ状態になっており、マルチレーザ射出部3に設けられている各々の射出口のシャッタ(図示省略)が開かれると、レーザ照射が開始される。制御部6は、例えば、作業者からの切断開始の指示入力を受け付けると、レーザ加工装置1は、
図8に示すフローチャートの処理を開始し、樹脂フィルム2の切断を実行する。但し、本実施形態では、ステージ7と樹脂フィルム2の間にガラス基板(図示省略)を設けて、このガラス基板に樹脂フィルム2の片面を吸着させておく手段を採用している。これにより、本実施形態では、樹脂フィルム2の各ラインが切断されても、樹脂フィルム2の各ブロックが離散しないようにしている。なお、本実施形態では、上記手段に限られず、各ブロックが離散しない他の手段を採用してもよい。
【0029】
図8は、本発明によるレーザ加工方法の一例を示すフローチャートである。
ステップS101では、レーザ光Lを予め定められた間隔で複数射出する処理を実行する。具体的には、制御部6は、マルチレーザ射出部3のシャッタを開ける指示を出し、レーザ光Lを射出させてマルチレーザ射出部3を制御する。
【0030】
ステップS102では、予め定められたビーム形状に各々集束させて、樹脂フィルム2上に導く処理を実行する。具体的には、マルチビーム光学系4は、マルチレーザ射出部3から射出された各々のレーザ光Lを、一例としてスポット径20μmのレーザビームに集束させる。
【0031】
ステップS103では、マルチレーザ照射により、樹脂フィルム2の当該切断対象の第nラインを切断する処理を実行する。具体的には、制御部6は、ライン番号n(例えばn=1から15までの自然数)として、第nラインのうちでn=1を設定し、先ず、第1ラインについて、
図3に示すxy座標で(1,0)〜(1,12)の方向に時系列に切断するため、第1ラインに合致させて、各々集束させたビーム形状のレーザ光Lを順次照射するように、樹脂フィルム2へのレーザ光Lの照射位置及び移動速度を制御する。
【0032】
詳細には、制御部6は、搬送装置5に指示を出すことにより、搬送装置5は、先ず、
図3に示すxy座標で(1,0)の位置から(1,12)の方向にレーザ光Lが照射するようにして、樹脂フィルム2を移動させる。これにより、第1ラインはレーザアブレーションにより削られる。制御部6は、第1ラインの1回目の走査について完了を検知すると、ステップS104の処理に移行する。なお、完了を検知する仕方等の搬送装置5の種々の制御については、公知技術を適宜採用すればよいので説明を省略する。
【0033】
ステップS104では、ライン毎に、走査回数に達したか否かを判定する。制御部6は、例えば走査回数が2回の場合には、第1ラインが走査回数に達していないため(ステップS104:No)、再度ステップS103に戻る。そして、制御部6は、搬送装置5に指示を出し、復路として
図1に示すB方向に樹脂フィルム2を移動させてマルチレーザ照射により第1ラインを切断する処理を実行する。そして、制御部6は、第1ラインの2回目の走査について完了を検知すると、ステップS104の処理に移行する。この場合、第1ラインが走査回数に達しているため(ステップS104:Yes)、ステップS105の処理に移行する。
【0034】
ステップS105では、全てのラインを切断したか否かを判定する。全てのラインを切断した場合には(ステップS105:Yes)、制御部6は、このフローチャートの処理を終了する。一方、全てのラインを切断していない場合には(ステップS105:No)、制御部6は、ステップS106の処理に移行する。
【0035】
ステップS106では、レーザ光Lの照射位置を次のラインに移動させる処理を実行する。この場合、制御部6は、ライン番号をインクリメント(n=n+1)して、次に切断する第nラインを決定する。つまり、制御部6は、第1ラインを切断した場合には、次に切断するラインとして第2ラインを決定し、搬送装置5に第2ラインがマルチビーム光学系4のマイクロレンズ4a〜4gと対向させるようにステージ7の移動の指示を出す。これにより、搬送装置5は、第2ラインの(2,0)の座標位置を照射開始の位置に移動させる。つまり、搬送装置5は、
図3においてレーザ照射開示時の第1ラインの(1,0)の座標位置に第2ラインの(2,0)の座標位置が来るようにステージ7を移動させる。そして、制御部6は、ステップS103の処理に戻り、第2ラインに向けて、各々集束させたビーム形状のレーザ光Lを切断する箇所に順次照射するように、樹脂フィルム2へのレーザ光Lの照射位置及び移動速度を制御する。
【0036】
以下、同様にして、第3〜第4ラインを切断する。第4ラインが切断され第5ラインを切断する場合には、搬送装置5は、ステージ7を90度回転させて、さらに第5ラインの照射位置に樹脂フィルム2を移動させる。つまり、搬送装置5は、例えば、第5ラインの(5,1)の座標位置を照射開始の位置に移動させる。以下、第1〜第4ラインを切断したのと同様にして、ステップS103〜S106をループする毎に、第5〜第15ラインを順番に切断する。
【0037】
なお、レーザ光Lの照射位置を次のラインに移動させる処理の実行中については、樹脂フィルム2にレーザ光Lを照射しないように、制御部6は、マルチレーザ射出部3のシャッタを閉じる指示を出し、マルチレーザ射出部3は、その指示を受信した後にシャッタを閉じる。これにより、ライン以外にレーザ光Lが照射されることを防ぐことができる。
【0038】
以上より、本実施形態では、一例として、100mm/secの移動速度にて、80kHzの繰り返し周波数で約1Wのマルチレーザを5mmのビーム間隔で順次照射しているが、このような、移動速度、レーザパワー、繰り返し周波数、ビーム間隔等を含む制御パラメータの組み合わせを最適化することで、マルチレーザの照射位置に間隔があっても、樹脂フィルム2をラインに従って連続的に切断することが可能となる。
図9は、本発明によるレーザ加工方法の一例を示す説明図である。
図9(a)〜(g)は、最初に切断される第1ラインのブロック座標(1,0)の切断箇所がどのようにして切断されていくかを定点観察した場合を例示している。但し、説明をわかりやすくするため、各ラインについて、レーザ加工装置1が1回の走査で樹脂フィルム2を切断することとする。そのため、樹脂フィルム2の膜厚は、一例として、PETのフィルム21を25μmとし、ポリイミドのフィルム22を5μmとする。また、マルチレーザ射出部3の7個の射出口からレーザ光L1〜L7が各々照射されることとする。なお、
図9では、説明の便宜上、レーザ光Lをレーザ光L1〜L7として、各々区別している。
【0039】
図9(a)において、樹脂フィルム2は、マルチビーム光学系4のマイクロレンズ4aからレーザ光L1の照射を受け、レーザアブレーションにより、一定の深さだけ削られる。ここで、一定の深さは、樹脂フィルム2の膜厚/マルチレーザ射出部3の射出口の数(又は、マイクロレンズの数)に相当することが好ましく、本実施形態でも採用している。
【0040】
次に、
図9(b)において、樹脂フィルム2は、マイクロレンズ4bからレーザ光L2の照射を受けて一定の深さだけ削られる。続いて、
図9(c)において、樹脂フィルム2は、マイクロレンズ4cからレーザ光L3の照射を受けて一定の深さだけ削られる。続いて、
図9(d)において、樹脂フィルム2は、マイクロレンズ4dからレーザ光L4の照射を受けて一定の深さだけ削られる。続いて、
図9(e)において、樹脂フィルム2は、マイクロレンズ4eからレーザ光L5の照射を受けて一定の深さだけ削られる。
【0041】
さらに、
図9(f)において、樹脂フィルム2は、マイクロレンズ4fからレーザ光L6の照射を受けて一定の深さだけ削られる。続いて、
図9(g)において、樹脂フィルム2は、マイクロレンズ4gからレーザ光L7の照射を受けて一定の深さだけ削られ、最終的に切断されることになる。
【0042】
ここで、本実施形態において、樹脂フィルム2の膜厚を、上述した60μmとすると、各ラインの走査回数は、各ラインを往復させてレーザ照射を実行したため、2回となった。つまり、1つのライン当たり2回走査することで、樹脂フィルム2を切断することができた。タクト時間は、292sec(4.9分)となり、1時間当たりのスループットは、12.2枚/hourであった。
【0043】
次に、比較例について説明する。比較例では、マルチレーザではなく、単一のレーザ照射で切断を実行した。この場合、レーザ加工装置1では、マルチレーザ射出部3のレーザのうち1つのみを射出させることで、比較することができる。他の条件は同じとする。すなわち、他の条件として、同じサイズ(730×920mm)、同じ膜厚(60μm)の樹脂フィルム2とし、パルスレーザの波長(355nm)、ビームのスポット径(20μm)、走査条件として、移動速度(100mm/sec)、レーザのパワー(1W)等である。
【0044】
その結果、比較例では、切断可能な走査回数が14回となった。つまり、比較例では1つのライン当たり14回走査することで樹脂フィルム2を切断することができた。タクト時間は、2044sec(34.1分)となり、1時間当たりのスループットは、1.8枚/hourであった。
【0045】
したがって、本実施形態で実行した場合、比較例よりもスループットで約6.8倍生産性が向上した。また、比較例において、仮にレーザパワーを例えば14Wにすれば、全てのラインを1回の走査で切断できるが、上述した通り、不具合が生じることになる。そのため、1Wのレーザパワーにすると、各ラインに対して14回の走査が必要になった。これに対し、本実施形態では、各ラインに対して2回の走査で済むので、この点からも優位性を保っている。
【0046】
以上より、本実施形態によれば、フレキシブルディスプレイ等の有機EL表示パネルに適用される樹脂フィルムを良好に切断することができるだけではなく、走査回数を低減することができ、生産性を向上させる顕著な効果が得られる。
【0047】
次に変形例について説明する。
図10は、本発明によるレーザ加工装置の変形例の一例を示す構成図である。なお、上記実施形態と、同じ構成要素については同じ符号を付して説明を省略し、相違点について主に詳述する。上記実施形態では、本発明の光学系として、マルチビーム光学系4を採用したが、本発明は、これに限定されない。
図10に示すレーザ加工装置10は、
図1に示すマルチビーム光学系4に代えて、マルチレーザ射出部3から複数射出されたレーザ光を各々伝送する複数の光ファイバ9と、各々の光ファイバ9の出力端部に伝送されてきたレーザ光を予め定められたビーム形状に集束させる光学レンズを含む光学装置8と、を備える。光ファイバ9及び光学装置8は、本発明による光学系の一例である。
なお、YAGレーザ等から光ファイバでレーザ光を伝送して集束させる技術は、公知技術であるので、光学装置8の詳細な説明は省略する。
図10に示すレーザ加工装置10においても、
図1に示すレーザ加工装置1と同様の効果を得ることができる。また、
図10では、光ファイバ9、光学装置8が各々3つ描かれているが、実際には、レーザ加工装置10は、光ファイバ9、光学装置8を各々7つ備えていることとする。
【0048】
上記実施形態では、マルチレーザ射出部3は、複数のレーザ発振器を備える構成にしたが、ハーフミラーと全反射ミラーとを組み合わせることにより、1つの発振器から射出された1つのレーザ光を複数のレーザ光に分光するようにして、各々光ファイバ9に導く構成にしてもよい。説明をわかりやすくするため、一例を挙げると、1つのレーザ光から3つのレーザ光に分光して生成させる場合には、第1のハーフミラー、第2のハーフミラー、全反射ミラーを直線状に予め定められた距離間隔で配置する。これにより、1つの発振器から射出された1つのレーザ光が、第1のハーフミラーに入射することにより、反射するレーザ光と透過するレーザ光とに分光される。そして、第1のハーフミラーを透過したレーザ光が、第2のハーフミラーに入射することにより、反射するレーザ光と透過するレーザ光とに分光される。さらに、第2のハーフミラーを透過したレーザ光が、全反射ミラーで反射される。以上の構成により、マルチレーザ射出部3は、1つの発振器から3つのマルチレーザを射出することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、レーザ光Lをマイクロレンズアレイで20μmのスポット径に集束させたが、レーザビームの形状は、これに限定されない。例えば、シリンドリカルレンズを配置し、複数射出されたレーザ光Lを、シリンドリカルレンズを介して走査方向に対してライン状に集束させるビーム形状にしてもよい。