【解決手段】芯繰出ユニット40の前方領域52aが軸筒10内において撓み変形あるいは傾動する前においては、押圧部32と被押圧部53とが互いに当接しており、芯繰出ユニット40の前方領域が軸筒10内において撓み変形あるいは傾動する際には、押圧部32が被押圧部53を軸筒10に対して軸方向後方に相対移動させるようになっているシャープペンシル100において、口金52が、金属メッキにフッ素樹脂を含んだ潤滑メッキ層を表面に有したことを特徴とするシャープペンシル100。
【背景技術】
【0002】
従来より、シャープペンシルを用いて筆記を行う際に筆記芯に高い筆圧が加えられると、口金の先端から露出された筆記芯が容易に折損してしまう、という問題があった。筆記芯の折損は、筆圧が一定であれば、シャープペンシルの軸筒の軸方向と紙面とのなす角度が小さくなるほど(軸筒を寝かせるほど)、あるいは、口金の先端から露出される筆記芯の長さが長くなるほど、顕著である。
【0003】
このような問題に対し、特許文献1(特開2015−123689)には、筆記芯に高い筆圧が加えられた際に、筆圧の軸方向の成分と筆圧の当該軸方向に垂直な成分とをそれぞれ異なる機構により吸収して筆記芯の折損を低減させる、というシャープペンシルが記載されている。
【0004】
具体的には、特許文献1のシャープペンシルは、口金が弾性体(スプリング)を介して軸筒に支持されており、当該口金は、軸筒の軸線方向後方に向かって次第に小径となるカム斜面を有している。また、軸筒には、カム斜面を軸筒の軸線方向前方に押圧する押圧部が形成されている。このような構成により、軸筒の軸線方向と直交する方向における筆圧の成分(軸筒径外方向の力)に起因して、口金のカム斜面が押圧部によって軸筒の軸線方向前方に押圧されて、軸筒の先端から口金が前方にスライドする(飛び出す)。これにより、口金の先端から露出される筆記芯の長さが減少されるようになっている。
更に、特許文献1のシャープペンシルは、筆記芯を繰り出す芯繰出ユニットが、弾性体(スプリング)によって軸線方向前方(軸線方向における口金の前端方向)に付勢された状態で、軸筒の軸線方向に相対移動可能な状態で当該軸筒に支持されている。そして、筆記芯を含む芯繰出ユニットが軸筒の軸線方向後方に相対移動することによって、筆圧の軸線方向の成分が吸収される。この結果、口金の先端から露出される筆記芯の長さが一層減少されて、筆記芯の折損が低減されるようになっている。
【0005】
特許文献1に記載されているシャープペンシルでは、筆記芯に高い筆圧が加えられた際に、軸筒に対して口金が前方にスライドできる最大の長さ(ストローク)に亘って当該口金が一気にスライドする(飛び出す)ようになっている。
【0006】
これに対して、本件発明者は、筆記芯に高い筆圧が加えられた際に、軸筒に対して口金が当該軸筒の径方向にスライドし、且つ、口金に対して筆記芯が後方にスライドする構成を開発し、国際出願PCT/JP2016/068863として出願した。このようなシャープペンシルにおいては、筆記芯の折損を効果的に回避することができるが、完成度を更に高めるため、より良い筆記感を提供することが求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本件発明者は、鋭意検討を重ねた結果、多くの他の部材に対して摺動することとなる口金の摺動性を向上させることが筆記感の向上に効果的であることを知見した。
【0009】
本発明は、以上のような知見に基づいており、その目的は、筆記芯に高い筆圧が加えられた際に当該筆記芯の折損を確実に回避することができると共に、筆記感が一層滑らかなシャープペンシルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
「1.軸筒と、
前方領域が前記軸筒内において撓み変形可能あるいは傾動可能であるように後方領域が前記軸筒内に支持された、筆記芯を繰り出すための芯繰出ユニットと、
前記芯繰出ユニットの前方領域の外周面に設けられた張出部と、
前記軸筒の前記張出部よりも軸方向後方の内周面に設けられた突出部と、
前記張出部と前記突出部との間に圧縮状態で配置された伸縮可能な弾性体と、
を備え、
前記芯繰出ユニットの先端領域に配置され、当該芯繰出ユニットに対して前記軸筒の軸方向に相対移動可能な口金を更に備え、
前記芯繰出ユニットは、前記口金によって前端部が取り囲まれた芯繰出ユニット本体と、前記口金を当該芯繰出ユニット本体に抜け止め状態で保持するための保持部材と、を有しており、
前記芯繰出ユニットは、前記保持部材に被押圧部を有しており、
前記軸筒は、前方領域に押圧部を有しており、
前記押圧部と前記被押圧部との少なくとも一方は、軸方向後方に向かって次第に大径となるテーパ面であり、
前記口金は、
前記軸筒の前端から軸方向前方に突出し、前記芯繰出ユニットから繰り出される前記筆記芯を取り囲む、筒状の前方領域と、
前記前方領域の、前記軸筒の軸方向後方に設けられ、当該軸筒の径方向外方に広がる肩部と、
を有し、
前記軸筒は、前記肩部よりも前記軸筒の軸方向前方に当該軸筒の径方向内方に張り出した内鍔を有し、
前記肩部と前記内鍔とが接触し、
前記芯繰出ユニットの前方領域が前記軸筒内において撓み変形あるいは傾動する前においては、前記押圧部と前記被押圧部とが互いに当接しており、前記芯繰出ユニットの前方領域が前記軸筒内において撓み変形あるいは傾動する際には、前記押圧部が前記被押圧部を当該軸筒に対して軸方向後方に相対移動させるようになっている
シャープペンシルにおいて、
前記口金が、金属メッキにフッ素樹脂を含んだ潤滑メッキ層を表面に有したことを特徴とするシャープペンシル。
2.スズコバルトメッキ層が、前記潤滑メッキ層の一部を露出させて、前記口金の表面に設けられたことを特徴とする1項に記載のシャープペンシル。」である。
【0011】
本発明によれば、筆記芯に高い筆圧が加えられた際に、筆圧の軸方向に垂直な成分によって、芯繰出ユニットの前方領域が軸筒内において撓み変形可能あるいは傾動される。これにより、筆記芯を含む芯繰出ユニットが弾性体の付勢力に対抗して軸筒に対して軸方向後方に相対移動されるため、口金の先端から露出される筆記芯の長さが減少される。更に、筆圧の軸方向の成分によって、筆記芯を含む芯繰出ユニットが弾性体の付勢力に対抗して軸筒に対して軸方向後方に更に相対移動され、口金の先端から露出される筆記芯の長さが一層減少される。これらのことにより、筆記芯に高い筆圧が加えられた際に当該筆記芯の折損が回避される。また、この時、口金が軸筒に対して軸方向前方に相対移動される(飛び出す)のではなく、筆記芯を含む芯繰出ユニットが口金に対して軸方向後方に相対移動されることによって、当該口金から露出される筆記芯の長さが減少される。このことにより、筆記感が滑らかなシャープペンシルを提供することができる。
【0012】
本発明では、口金に対して、金属メッキにフッ素樹脂を含んだ潤滑メッキ層を表面に設けることから、当該口金が接する各部材や紙面との擦れにより摩擦力を低減させることができ、結果、口金あるいは口金と接する部材が滑らかに作動して、筆記感が一層滑らかなシャープペンシルを提供することができる。
また、口金の先端部に、前記潤滑メッキ層を設けることにより、口金の先端部における筆記芯の摩擦抵抗を軽減させ、結果、口金の先端部との擦れにより筆記芯の側面が削れてしまうことを防止することができる。
【0013】
更に、スズコバルトメッキ層を、潤滑メッキ層の一部を露出させて、口金の表面に設けることにより、金属メッキにフッ素樹脂を含んだ潤滑メッキ層による黒ずみを軽減し、金属特有の光沢感を維持することができ、また潤滑メッキ層の一部が露出することから、摺動性も維持させることができる。
【0014】
尚、好ましくは、前記芯繰出ユニットの前記被押圧部が前記テーパ面であり、当該テーパ面は、前記軸筒の軸方向に対して20°〜60°の間のいずれかの角度を有しており、前記弾性体は、コイルバネであり、当該コイルバネによる付勢力に対抗して前記被押圧部を前記軸筒に対して軸方向後方に相対移動させるために必要な荷重は、0.5N〜8Nの間のいずれかの値である。
【0015】
この場合、筆記芯に高い筆圧が加えられた際に、筆記芯を含む芯繰出ユニットが軸筒に対して軸方向後方に確実に相対移動され得るため、筆記芯の折損が回避される。一方、筆記芯に適正な筆圧が加えられている際に、筆記芯を含む芯繰出ユニットが軸筒に対して軸方向後方に実質的に相対移動されないため、書き味を損ねることがない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、筆記芯に高い筆圧が加えられた際に当該筆記芯の折損を回避することができると共に、筆記感が滑らかなシャープペンシルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の第1の実施の形態のシャープペンシル100の概略縦断面図であり、
図2は、筆記芯70に筆圧が加えられていない場合の、
図1のシャープペンシル100の前方領域の概略縦断面図であり、
図3は、筆記芯70に筆圧が加えられている場合の、
図1のシャープペンシル100の前方領域の概略縦断面図である。
【0019】
本実施の形態のシャープペンシル100は、
図1乃至
図3に示すように、軸筒10と、軸筒10内に支持され、前方領域が当該軸筒10内において傾動可能な、筆記芯70を繰り出すための芯繰出ユニット40と、を備えている。本実施の形態の軸筒10は、透明なポリカーボネート製であり、後軸20と、後方領域が後軸20の前方領域に固定(螺着)された前軸30と、により構成されている。
【0020】
本実施の形態の芯繰出ユニット40は、軸筒10の内部で当該軸筒10の軸方向に延在するポリプロピレン製の芯パイプ41と、芯パイプ41の前端部にコネクタ49を介して固定された黄銅製のチャック43と、チャック43の前方領域に外嵌された黄銅製の締めリング42と、チャック43を取り囲む外筒45と、外筒45に対して芯パイプ41を軸方向後方に付勢するリターンスプリング44と、を有している。
【0021】
具体的には、
図2及び
図3に示すように、外筒45は、前方領域の内周面においてチャック43を支持すると共に後方領域の外周面に張り出したフランジ45c(張出部)を有する後筒45aと、後筒45aの前端領域に螺着されチャック43の前端部を超えて軸方向前方に延在する前筒45bと、を有している。また、後筒45aは、前端部に、内鍔45dを有しており、この内鍔45dとコネクタ49との間にリターンスプリング44が圧縮状態で配置されており、外筒45に対して芯パイプ41を軸方向後方に付勢している。この状態で、チャック43は、締めリング42によって締められて筆記芯70を後退しないように挟持している。
【0022】
また、軸筒10(後軸20)は、外筒45のフランジ45cよりも軸方向後方の内周面に突出部21を有しており、この突出部21とフランジ45cとの間に、伸縮可能なコイルバネ60が圧縮状態で配置されている。このような構成により、筆記芯70を含む芯繰出ユニット40は、コイルバネ60の付勢力に対抗して軸筒10に対して軸方向後方への相対移動が可能となっている。
【0023】
また、前軸30の後方領域の内径は、フランジ部45cの外径よりも大きくなっており、前軸30の内周面とフランジ部45cの外周面との間に隙間が形成されている。このことにより、軸筒10に対する芯繰出ユニット40の傾動が許容されている。
【0024】
また、芯繰出ユニット40の先端領域には、黄銅製の口金52が取り付けられている。本実施の形態の口金52は、芯繰出ユニット40の先端領域に配置され、芯繰出ユニット40に対して軸筒10の軸方向に相対移動可能となっている。口金52は、
図2及び
図3に示すように、筆記芯70を案内する筒状の前方領域52aと、当該前方領域52aよりも大径のスリーブ状の後方領域52bと、によって構成されている。この後方領域52bは、前方の小径部52cと後方の拡径部52dとを有しており、小径部52cと拡径部52dとは肩部52eによって接続されている。
この口金52は、前筒45bと、当該前筒45bを内嵌固着した筒状の保持部材40bとによって抜け止め状態且つ軸筒10の軸方向にスライド可能な状態で、芯繰出ユニット本体40aの先端領域に取り付けられている。具体的には、
図2及び
図3に示すように、保持部材40bは、口金52の後方領域52bを取り囲む筒状の本体部40cと、本体部40cの後端領域に形成されたストッパ40dと、を有している。
本体部40cの内面には、内径が本体部40cの他の領域よりも小さい縮径部40eを有している。この縮径部40eよりも軸方向後方において、外筒45の外面には軸方向前方を向いた平坦面45eが形成されており、口金52の肩部52eと平坦面45eの間に、伸縮可能な圧縮状態のスプリング55が配置されている。
このような構成により、口金52は、保持部材40bの内部に本体部40cの軸方向にスライド可能に保持され、本体部40cからの不所望な抜け落ちが防止されている。また、本体部40cの前端は開口部となっており、この開口部から口金52の前方領域52aが前方へ突出している。
【0025】
保持部材40bは、前端部に被押圧部53を有している。本実施の形態の被押圧部53は、軸筒10の軸方向に対して40°の角度を有するテーパ面として構成されている。また、軸筒10(前軸30)は、前方領域に内周面に張り出した押圧部32を有している。 本実施の形態では、
図2に示すように、芯繰出ユニット40が傾動する前においては、押圧部32と被押圧部53とが互いに当接している。そして、
図3に示すように、芯繰出ユニット40が傾動する際に、押圧部32が被押圧部53を軸筒10に対して軸方向後方に相対移動させるようになっている。本実施の形態では、コイルバネ60のバネ定数は1600N/mであり、当該コイルバネ60による付勢力に対抗して被押圧部53(テーパ面)を軸筒10に対して軸方向後方に相対移動させるために必要な荷重は、5.0Nである。また、コイルバネ55のバネ定数は1000N/mであり、コイルバネ60の付勢力よりコイルバネ55の付勢力を小さく設定することで、
図2に示す外筒45が静止した状態から、
図3に示す外筒45が動き出す状態まで、口金52と軸筒10の内鍔33との当接状態が維持される。
【0026】
また、
図1に示すように、芯繰出ユニット40は、芯パイプ41の後端に取り付けられて芯パイプ41を外筒45に対して軸方向前方に押圧するためのノック部48を、更に有している。本実施の形態のノック部48は、軸方向前方に、芯パイプ41の後端領域に外嵌されるスリーブ部48aを有しており、軸方向後方に円柱状の消しゴム80を取外可能に保持するホルダ部48bを有している。スリーブ部48aの内部空間とホルダ部48bの内部空間とは、開口によって連通されている。このことにより、消しゴム80をホルダ部48bから取り外すことによって、当該開口から筆記芯70を芯パイプ41内に投入できるようになっている。また、ホルダ部48bには、消しゴム80の後方を覆うドーム状のノブ81が取外可能に外嵌されている。
【0027】
更に、本実施の形態では、後軸20の後端領域に頭冠23が固定されている。頭冠23の内周面には軸方向後方に面した段部23aが形成されている。また、ホルダ部48bの外周にフランジ部48cが形成されており、このフランジ部48cと段部23aとの間に、伸縮可能なスプリング48dが圧縮状態で配置されている。
【0028】
次に、本発明の実施の形態のシャープペンシル100の作用について説明する。
【0029】
まず、紙面に対して筆記を行うに先立ち、必要に応じて、ノブ81と消しゴム80とがホルダ部48bから取り外され、スリーブ部48aとホルダ部48bとを連通する開口を介して筆記芯70が芯パイプ41内に投入される。そして、消しゴム80とノブ81とがホルダ部48bに取り付けられ、口金52の前端が下方に向けられた状態でノック部48(ノブ81)が軸方向前方に向かって押圧(ノック)される。これにより、芯パイプ41、コネクタ49、チャック43及び締めリング42がリターンスプリング44の付勢力に対抗して前進させられる。この前進の途中で、締めリング42のみが外筒45の前筒45bに形成された当接段部45eに当接する。これにより、チャック43から締めリング42が後方に外され、当該チャック43が開放されて筆記芯70が繰り出される。押圧(ノック)時には、ノック部48のフランジ部48cと頭冠23の段部23aとの間に配置されたスプリング48dの付勢力によって、適度な抵抗感がもたらされる。
【0030】
そして、ノック部48(ノブ81)の押圧状態が解除されると、芯パイプ41がチャック43と共にリターンスプリング44の付勢力によって後退させられる。これに伴って、締めリング42が再びチャック43の前方領域に外嵌され、チャック43が締められる。これにより、筆記芯70が後退しないように挟持され、筆記芯70が繰り出された状態が維持される。そして、この一連の押圧操作が適宜繰り返されることにより、口金52の先端から筆記芯70が所望の長さ露出される(繰り出される)(
図2参照)。そして、使用者によって前軸30が把持され、紙面に対して筆記芯70を当接させつつ軸筒10を所望に移動させることによって、筆記が行われる。
【0031】
筆記の際、軸筒10は、その軸方向が紙面に対して鋭角をなす(
図2及び
図3参照)ように把持されることが一般的である。このため、筆記芯70には、軸筒10の軸方向に垂直な成分と当該軸方向の成分とを含む筆圧が加えられる。本実施の形態のシャープペンシル100は、筆記時に筆記芯70に高い筆圧が加えられると、筆圧の軸方向に垂直な成分と軸方向の成分とをそれぞれ吸収して、口金52の先端から露出された筆記芯70の折損を回避する。
【0032】
具体的には、
図3に示すように、筆圧の軸方向に垂直な成分によって芯繰出ユニット40の前方領域が傾動し、前軸30の押圧部32によって前筒45bの被押圧部53が軸筒10の軸方向後方に押圧される。これにより、コイルバネ60の付勢力に対抗して、筆記芯70を含む芯繰出ユニット40が軸筒10に対して軸方向後方に相対移動される。一方、口金52は、コイルバネ55によって保持部材40bに対して軸方向前方に付勢されているため、軸筒10に対して軸方向後方には相対移動されない。これらのことにより、口金52の先端から露出される筆記芯70の長さが減少される。
【0033】
これと同時に、筆圧の軸方向の成分によって、筆記芯70が軸筒10に対して軸方向後方に押圧され得る。これにより、コイルバネ60の付勢力に対抗して、筆記芯70を含む芯繰出ユニット40が軸方向後方に更に相対移動される。すなわち、口金52の先端から露出される筆記芯70の長さが一層減少され得て、当該筆記芯70の折損が回避される。
【0034】
そして、筆記芯70に加えられている筆圧が弱められると、コイルバネ60の付勢力によって、筆記芯70を含む芯繰出ユニット40が軸筒10に対して軸方向前方に押し戻される。これにより、初期状態(
図2参照)が復元される。
【0035】
以上のような本実施の形態によって、筆記芯70に高い筆圧が加えられた際に、筆圧の軸方向に垂直な成分によって、芯繰出ユニット40の前方領域が軸筒10内において傾動される。これにより、筆記芯70を含む芯繰出ユニット40がコイルバネ60の付勢力に対抗して軸筒10に対して軸方向後方に相対移動されるため、口金52の先端から露出される筆記芯70の長さが減少される。更に、筆圧の軸方向の成分によって、筆記芯70を含む芯繰出ユニット40がコイルバネ60の付勢力に対抗して軸筒10に対して軸方向後方に更に相対移動され、口金52の先端から露出される筆記芯70の長さが一層減少される。これらのことにより、筆記芯70に高い筆圧が加えられた際に当該筆記芯70の折損が回避される。また、この時、口金52が軸筒10に対して軸方向前方に相対移動される(飛び出す)のではなく、筆記芯70を含む芯繰出ユニット40が口金52に対して軸方向後方に相対移動されることによって、口金52から露出される筆記芯70の長さが減少される。このため、口金52の先端と紙面とが当接した際には、筆圧をわずかに弱めるだけでコイルバネ60の付勢力によって口金52から露出される筆記芯70の長さが速やかに増大されるため、口金52の先端部52fと紙面との引っ掛かりを速やかに解消することができる。
【0036】
また、本実施例の口金52は、金属メッキにフッ素樹脂を含んだ潤滑メッキ層を表面に設けることにより、口金52が接する、軸筒10の内鍔33、保持部材40b、前筒45b、あるいはスプリング55との摺動性がよくなり、
図3に示すように、筆圧の軸方向に垂直な成分によって芯繰出ユニット40の前方領域が傾動する際に滑らかに動き、筆記感が一層滑らかになる。
【0037】
更に、スズコバルトメッキ層を、潤滑メッキ層の一部を露出させて、口金52の表面に設けることにより、金属メッキにフッ素樹脂を含んだ潤滑メッキ層による黒ずみを軽減し、金属特有の光沢感を維持することができ、また潤滑メッキ層の一部が露出することから、摺動性も維持させることができる。
【0038】
次に、
図6を用いて口金のメッキ層について詳述する。
図6は口金の断面を模式的に示したもので、
図6Aはメッキ後の状態を示し、
図6Bはメッキ後に口金内面の穴さらいをした状態を示す図である。
本実施例におけるメッキ層90では、常木鍍金工業株式会社のフッ素樹脂含有メッキを用いた。
また、本実施例の口金52は、潤滑メッキ層91を約5μmで施し、次いでスズコバルトメッキ層92を約0.3μmで施した。潤滑メッキ層91の体積濃度は20〜24%である。
結果、メッキ層90は、スズコバルトメッキ層92が口金52の表面に広く存在し、潤滑メッキ層91が口金52の表面に点在している状態となる。
本実施例の口金52は、筆記芯が挿通する貫通孔52gを、0.5mmの筆記芯に合わせて0.58mmのキリであらかじめ成形した上で、
図6Aに示すように、表面にメッキ層90を設けてある。その後、同じく0.58mmのキリで穴さらいを行うことで
図6Bに示す口金52を完成した。尚、先端部52fは、先端に向かって漸次拡径する傾斜面としてある。
図6Bに示す通り、穴さらいを行った口金52の貫通孔52gは、表面にメッキ層90が残る。これは、キリによる切削痕が、あらかじめ口金52に貫通孔52gを形成した際の位置とずれることによるものである。また、穴さらいでは切削されない先端部にもメッキ層90が残る。したがって、口金52の貫通孔52gと筆記芯との摩擦が軽減され、滑らかな作動を行うことができる。また、先端部52fと筆記芯との摩擦も軽減され、口金52の先端部52fとの擦れにより筆記芯の側面が削れてしまうことを防止することができる。
本実施例の口金52は、潤滑メッキ層91による滑り性の効果を得ながら、スズコバルトメッキ層92による金属特有の光沢感を得ることができ、それによって軸筒10から露出した部分あるいは透明な軸筒10を透して見える部分のデザイン性を向上させることができる。