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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-94887(P2018-94887A)
(43)【公開日】2018年6月21日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫金型および空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20180525BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20180525BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20180525BHJP
【FI】
   B29C33/02
   B29C35/02
   B29L30:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-244692(P2016-244692)
(22)【出願日】2016年12月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】上埜 智徳
【テーマコード(参考)】
4F202
4F203
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AH20
4F202AM32
4F202AR12
4F202CA21
4F202CB01
4F202CU01
4F202CU02
4F203AA45
4F203AB03
4F203AG28
4F203AH20
4F203AM32
4F203AR12
4F203DA11
4F203DB01
4F203DC01
4F203DL10
4F203DL12
(57)【要約】
【課題】成形時のゴムの噛み込みによる空気入りタイヤの外観不良を抑制できるタイヤ加硫金型を提供する。
【解決手段】タイヤ加硫金型2は、グリーンタイヤGTの周方向に沿って複数に分割され、グリーンタイヤGTのトレッド部を所定形状に加硫成形するためのセクターモールド20と、グリーンタイヤGTの軸方向においてグリーンタイヤGTを挟んで両側に配置され、グリーンタイヤGTのサイド部を所定形状に加硫成形するための上モールド21および下モールド22とを備える。セクターモールド20は、上モールド21および下モールド22との嵌合部付近に逃げ溝20bを有する。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーンタイヤの周方向に沿って複数に分割され、前記グリーンタイヤのトレッド部を所定形状に加硫成形するためのセクターモールドと、
前記グリーンタイヤの軸方向において前記グリーンタイヤを挟んで両側に配置され、前記グリーンタイヤのサイド部を所定形状に加硫成形するための一対のサイドモールドと
を備え、
前記セクターモールドは、前記サイドモールドとの嵌合部の付近に凹部を有する、タイヤ加硫金型。
【請求項2】
前記凹部の深さは0.3mm以上かつ0.5mm以下である、請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項3】
前記凹部は、前記嵌合部から0.5mm以上かつ0.8mm以下の距離だけ離れて設けられている、請求項1または請求項2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項4】
前記セクターモールドには、前記グリーンタイヤの外周面にラグ溝を形成するための突出部が設けられており、
前記凹部は、前記突出部から0.5mm以上かつ0.8mm以下の距離だけ離れて設けられている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項5】
前記凹部は、前記グリーンタイヤの周方向および径方向の両方に交差する方向に複数延びた網目状の溝である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項6】
前記凹部は、前記グリーンタイヤの周方向に環状に延びた溝である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項7】
トレッド部とサイド部との間に位置する凸状の金型嵌合痕と、
前記金型嵌合痕の付近かつ外側に設けられた凸状の成形痕と
を備える、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫金型および空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの加硫成形では、成形部位に応じた2種類の金型が一般に使用される。一つはタイヤのトレッド部を成形する金型であり、セクターモールドと呼ばれている。もう一つは、タイヤのショルダー部からサイドウォール部を成形する金型であり、サイドモールドと呼ばれている。セクターモールドはタイヤの周方向に複数分割されて配置され、サイドモールドはタイヤを側部から挟み込むように配置される。これらの2種類の金型によって閉じられた状態でグリーンタイヤ(生タイヤ)は加硫成形され、製品である空気入りタイヤが製造される。
【0003】
例えば、特許文献1には、このようなセクターモールドとサイドモールドとによって成形される空気入りタイヤが開示されている。特許文献1の空気入りタイヤでは、成形の際の金型によるゴムの噛み込みを防止し、タイヤの外観不良を防止するために、サイドモールド側においてタイヤのラグ溝底に凸状が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−66206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された空気入りタイヤの成形では、サイドモールド側においてタイヤのラグ溝底に凸状を設けることが記載されているが、金型の嵌合部へのゴム流れを効果的に抑制する位置や形状について詳細に検討されていない。従って、特許文献1に開示されたタイヤ加硫金型には、未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明は、成形時のゴムの噛み込みによって生じる空気入りタイヤの外観不良を抑制できるタイヤ加硫金型と、そのような外観不良が抑制された空気入りタイヤとを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のタイヤ加硫金型は、
グリーンタイヤの周方向に沿って複数に分割され、前記グリーンタイヤのトレッド部を所定形状に加硫成形するためのセクターモールドと、
前記グリーンタイヤの軸方向において前記グリーンタイヤを挟んで両側に配置され、前記グリーンタイヤのサイド部を所定形状に加硫成形するための一対のサイドモールドと
を備え、
前記セクターモールドは、前記サイドモールドとの嵌合部の付近に凹部を有する。
【0008】
この構成によれば、金型を閉じるとき、セクターモールドに設けられた凹部にタイヤのゴムを逃がすことができるため、金型の嵌合部へのゴムの流れを抑制できる。従って、金型によるゴムの噛み込みを抑制でき、空気入りタイヤの外観不良の発生を抑制できる。特に、サイドモールドではなくセクターモールドに凹部が設けられていることで、ゴムの噛み込みを一層抑制できる。詳細には、通常、金型が閉じられるとき、サイドモールドが固定された状態でセクターモールドがタイヤ径方向の内側へ移動する。そのため、サイドモールドとタイヤの位置関係は固定されており、タイヤのゴムは閉じられるセクターモールドに向かって流れる。従って、セクターモールドに凹部を設け、凹部にゴムを逃がすことで嵌合部におけるゴムの噛み込みを抑制できる。
【0009】
前記凹部の深さは0.3mm以上かつ0.5mm以下であってもよい。
【0010】
この構成によれば、凹部の深さを規定することで、ゴムの噛み込みを一層抑制できるとともに金型の離型性を確保できる。詳細には、凹部の深さが0.3mm以上であることで、ゴムの噛み込みを抑制するために必要な量のゴムを凹部内に逃がすことができる。また、凹部の深さが0.5mm以下であることで、ゴムが凹部内に深く進入することを防止できる。そのため、金型を開いた際に金型からゴムが離れ難くなることを防止でき、即ち金型の離型性を確保できる。
【0011】
前記凹部は、前記嵌合部から0.5mm以上かつ0.8mm以下の距離だけ離れて設けられていてもよい。
【0012】
この構成によれば、凹部と嵌合部との距離を規定することで、金型の耐久性の低下を防止できるとともにゴムの噛み込みを一層抑制できる。詳細には、凹部が嵌合部から0.5mm以上離れていることで、嵌合部近傍のセクターモールドの肉厚を十分に確保できる。そのため、セクターモールドの耐久性の低下を防止できる。セクターモールドは、成形のたびに嵌合部においてサイドモールドと当接して衝撃を受けるため、セクターモールドの嵌合部近傍の耐久性の低下を防止できることは非常に有効である。また、凹部が嵌合部から0.8mm以内に設けられていることで、嵌合部へのゴムの流れをより確実に抑制できる。仮に、凹部を嵌合部から極端に遠くに設けると、嵌合部へ向かうゴムの流れに対して凹部が関与せず、嵌合部におけるゴムの噛み込みを抑制できる効果が得られない。
【0013】
前記セクターモールドには、前記グリーンタイヤの外周面にラグ溝を形成するための突出部が設けられており、
前記凹部は、前記突出部から0.5mm以上かつ0.8mm以下の距離だけ離れて設けられていてもよい。
【0014】
この構成によれば、凹部と突出部との距離を規定することで、製造されるタイヤの耐久性の低下を防止できるとともに金型に凹部を配置する面積を十分に確保できる。詳細には、凹部が突出部から0.5mm以上離れていることで、製造されるタイヤのラグ溝付近に稜線が形成されることを防止できる。仮に、凹部を突出部の極端に近くに設けた場合、タイヤにおいてラグ溝付近に稜線が形成される。その場合、ラグ溝と稜線が凹凸関係にあるため、タイヤの摩耗速度が速くなる。従って、これを防止することで、タイヤの耐摩耗性の低下を防止でき、即ち耐久性の低下を防止できる。また、仮に、凹部を突出部から極端に遠くに設けると、即ち嵌合部に極端に近づけて設けると、嵌合部と突出部との間の凹部を設ける面積が減少する。従って、凹部が突出部から0.8mm以内に設けられていることで、金型に凹部を配置する面積を十分に確保できる。
【0015】
前記凹部は、前記グリーンタイヤの周方向および径方向の両方に交差する方向に複数延びた網目状の溝であってもよい。また、前記凹部は、前記グリーンタイヤの周方向に環状に延びた溝であってもよい。
【0016】
この構成によれば、嵌合部へのゴムの流れ方向(タイヤの径方向)に対して交差する方向に延びるように凹部が設けられている。そのため、ゴムが嵌合部に向かって流れるとき、凹部を跨ぐため、ゴムを凹部に確実に逃がすことができる。従って、嵌合部へのゴムの流れを抑制でき、ゴムの噛み込みを抑制できる。特に、凹部が網目状に設けられている場合、様々な方向にゴムを逃がすことができ、より確実にゴムの噛み込みを抑制できる。また特に、凹部がタイヤの周方向に設けられている場合、旋盤加工等によって凹部を形成できるため、凹部の加工が容易である。
【0017】
本発明の空気入りタイヤは、
トレッド部とサイド部との間に位置する凸状の金型嵌合痕と、
前記金型嵌合痕の付近かつ外側に設けられた凸状の成形痕と
を備える。
【0018】
この構成によれば、上記の凹部を有する金型を使用して空気入りタイヤを製造しているため、ゴムの噛み込みが抑制され、空気入りタイヤの外観不良の発生が抑制される。従って、タイヤの外観上の美観が保たれる。ここで、金型嵌合痕の付近かつ外側とは、金型嵌合痕から例えば0.8mm以内での範囲であって、タイヤの径方向外側を示す。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、タイヤ加硫金型において成形時のゴムの噛み込みを抑制でき、空気入りタイヤにおいて外観上の美観を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るタイヤ加硫金型を装着した加硫成形機の部分断面図。
図2A図1のタイヤ加硫金型の嵌合部の拡大図。
図2B図2Aの凹部の正面図。
図3図1のタイヤ加硫金型の型締め動作を示す部分断面図。
図4図1のタイヤ加硫金型によって製造された空気入りタイヤの断面斜視図。
図5図2Bの変形例を示す凸部の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0022】
図1は、加硫成形機1に本実施形態に係るタイヤ加硫金型2を装着した状態を示す。加硫成形機1の上プレート3及び上プラテン4と、下プラテン5との間に、コンテナ6を介してタイヤ加硫金型2が取り付けられている。
【0023】
上プレート3は昇降シリンダ7の下端部に固定されている。昇降シリンダ7の中心には昇降ロッド8が配置されている。昇降ロッド8の下端部には上プラテン4が固定されている。昇降シリンダ7と昇降ロッド8は図示しない駆動装置によって昇降される。上プレート3と上プラテン4とは独立して昇降可能に構成されている。上プラテン4には流路4aが形成されている。流路4a内を熱交換媒体(例えば、オイル)が流動することにより温度調整できる。
【0024】
下プラテン5には、上プラテン4と同様に熱交換媒体が流動する流路5aが形成されている。そして、熱交換媒体の温度を調整することにより、上プラテン4及び下プラテン5を介してタイヤ加硫金型2を所望の加硫温度にすることができる。下プラテン5の中心にはブラダユニット9が配置されている。
【0025】
ブラダユニット9は、昇降可能な支軸10に固定した上クランプ11及び下クランプ12にブラダ13を取り付けたものである。上クランプ11、下クランプ12及びブラダ13によって囲まれた空間内には、図示しない給排気装置によって空気が供給及び排出される。ブラダ13は、空気が供給されて外周側に膨らみ、グリーンタイヤGTを内側から支持する。ここで、グリーンタイヤGTは、加硫成形前の生タイヤのことを示す。
【0026】
コンテナ6は、セグメント14、ジャケットリング15、上コンテナプレート16、及び下コンテナプレート17で構成されている。
【0027】
セグメント14は、後述するタイヤ加硫金型2の各セクターモールド20にそれぞれねじ止めされている。本実施形態では、セグメント14は、9個で構成されており、即ちセクターモールド20も9個で構成されている。各セグメント14の内面はセクターモールド20の外面に沿っており、外面は下方に向かうに従って徐々に外径側に膨らむ傾斜面(外周側円錐面)で構成されている。各セグメント14は上スライド18によって径方向に往復移動可能に支持されている。
【0028】
ジャケットリング15は中空円筒状である。ジャケットリング15の上端面は上プレート3に固定されており、ジャケットリング15は昇降シリンダ7の昇降動作に従って昇降する。ジャケットリング15の内面は、下端側に向かうに従って徐々に外径側に傾斜する内周側円錐面で構成されている。ジャケットリング15の内周側円錐面と各セグメント14の外周側円錐面とは、その円錐面に沿ってスライドし、(例えば、ほぞと蟻溝のような構成により)互いに離れないようになっている。これにより、ジャケットリング15が降下すれば、その内周側円錐面で各セグメント14の外周側円錐面を押圧し、外径側に広がった状態のセグメント14を、内径側で環状に連なった状態へと移動させることができる。
【0029】
上コンテナプレート16には、外周側下面に上スライド18が固定され、内周側下面に後述する上モールド21が固定されている。上コンテナプレート16自体は上プラテン4の下面に固定されている。これにより、昇降ロッド8が昇降すれば、上プラテン4及び上コンテナプレート16と共に、上モールド21及びセグメント14(セグメント14に固定されたセクターモールド20を含む)が昇降することになる。
【0030】
下コンテナプレート17には、外周側上面に下スライド19が固定され、内周側上面には後述する下モールド22が固定されている。下スライド19には、型締め時にセグメント14が載置され、径方向にスライド可能に支持する。下コンテナプレート17自体は下プラテン5の上面に固定されている。
【0031】
タイヤ加硫金型2は、セクターモールド20、上モールド(サイドモールド)21、及び下モールド(サイドモールド)22で構成されている。
【0032】
セクターモールド20は、タイヤのトレッド部を所定形状に加硫成形するための金型である。セクターモールド20はアルミ合金からなり、タイヤ周方向に複数に分割され(ここでは、9分割)、内径側に移動した状態で環状に連なる。
【0033】
図2Aは、図1の円Cで囲まれた部分の拡大図であり、即ちセクターモールド20と、上モールド21(または下モールド22)との嵌合部の拡大図である。なお、図1では円Cによって囲まれた部分は2箇所存在するが、それらの拡大図として得られる図は向きが異なるのみで形状は同一のものであるため、図2Aとして一つの図によって併せて示す。以降、嵌合部というときは、セクターモールド20と、上モールド21(または下モールド22)との嵌合部のことを示す。嵌合部は、凹形状を有し、開いた嘴のような形状を有している。この凹形状によって、金型を閉じた際に嵌合部でゴムが噛み込まれることを抑制できる。また、セクターモールド20には、製造されるタイヤの駆動性を向上させるためにタイヤ表面にラグ溝を形成するための突出部20aと、ゴムの噛み込みを抑制するための逃げ溝(凹部)20bとが設けられている。
【0034】
逃げ溝20bは、嵌合部から例えば0.5mm離れた位置に設けられ(W1=0.5mm)、かつ、突出部20aから例えば0.5mm離れた位置に設けられている(W2=0.5mm)。逃げ溝20bは複数設けられており、本実施形態では3つ設けられている。逃げ溝20bは、セクターモールド20の表面に対して例えば半径1.0mm程度のR部を有する。逃げ溝20b同士の間隔は例えば1.0mm程度である(W3=1.0mm)。図2Aの矢視A方向から見た図2Bに併せて示すように、本実施形態の逃げ溝20bはタイヤの周方向に延びており、その断面形状は、三角形状である。逃げ溝の深さは例えば0.4mm程度である(D=0.4mm)。なお、図2Bでは、逃げ溝20bの位置を明示するために、逃げ溝20bに対して斜線によって模式的にマーキングを施している。
【0035】
逃げ溝20bの位置および形状には、好ましい範囲が存在する。逃げ溝20bは、嵌合部から0.5〜0.8mm離れた位置に設けられていることが好ましく、即ち幅W1が、0.5≦W1≦0.8mmを満たすことが好ましい。また、逃げ溝20bは、突出部20aから0.5〜0.8mm離れた位置に設けられていることが好ましく、即ち幅W2が0.5≦W2≦0.8mmを満たすことが好ましい。また、逃げ溝20b同士の間隔は0.7〜1.3mmであることが好ましく、即ち幅W3が0.7≦W3≦1.3mmを満たすことが好ましい。また、逃げ溝20bの深さは、0.3〜0.5mmであることが好ましく、即ち深さDが、0.3≦D≦0.5mmであることが好ましい。また、逃げ溝20bの断面形状は、三角形状であることが好ましいが、例えば半円状または台形状など、様々であり得る。これらの逃げ溝20bの位置および形状の好ましい範囲の意義については後述する。
【0036】
図1に示すように、上モールド21および下モールド22は、タイヤのサイド部を所定形状に加硫成形するための金型である。
【0037】
上モールド21は環状に形成されており、内周部には上ビードリング23が固定されている。上モールド21は上コンテナプレート16に固定されており、昇降ロッド8の昇降動作に伴って昇降する。降下する際、上ビードリング23でグリーンタイヤGTのビード部を押さえることができるようになっている。これにより、上モールド21の下内面と、上ビードリング23の下面とで、タイヤのサイドウォール部とビード部とが形成される。
【0038】
下モールド22は、上モールド21と同様に環状に形成されており、内周部には下ビードリング24が固定されている。
【0039】
図3(a)〜図3(f)は、本実施形態のタイヤ加硫金型2の型締め動作を示す部分断面図である。本実施形態では、前述の構成からなるタイヤ加硫金型2を装着された加硫成形機1にグリーンタイヤGTをセットし、金型を閉じた後、型締めしてグリーンタイヤGTの加硫成形を行う。
【0040】
図3(a)に示す型開き状態では、グリーンタイヤGTをその軸心方向が上下に向かうようにして下モールド22上に載置する。このとき、下方側に位置するビード部を下ビードリング24に対して位置合わせする。
【0041】
図3(b)に示すように、続いて、ブラダ13内に空気を供給して膨張させ、その外面でグリーンタイヤGTの内側面を保持する。これにより、グリーンタイヤGTは、下ビードリング24とブラダ13によって支持され、下モールド22とは非接触状態となる。
【0042】
図3(c)に示すように、続いて、昇降ロッド8及び昇降シリンダ7によって上モールド21及びセクターモールド20を降下させる。そして、上ビードリング23がグリーンタイヤGTの上方側に位置するビード部に当接する。
【0043】
図3(d)および図3(e)に示すように、続いて、ビード部を介してグリーンタイヤGTが押圧されて変形した後、上モールド21がグリーンタイヤGTに当接する。上モールド21が型締め完了位置まで降下すると、グリーンタイヤGTは上モールド21と下モールド22とによって挟持された状態となる。
【0044】
図3(f)に示すように、上モールド21が型締め完了位置まで降下した後も昇降シリンダ7による降下を続行し、上プレート3と共にジャケットリング15を下方側へと移動させる。これにより、ジャケットリング15の内周側円錐面がセグメント14の外周側円錐面を押圧する。そして、セグメント14に固定されたセクターモールド20が内径側へと移動する。
【0045】
図3(a)から図3(f)に示すようにして、型締めが完了した後、加硫成形が実行され、成形完了後にこれらの逆の動きによってタイヤ加硫金型2が開かれると、グリーンタイヤGTが製品である空気入りタイヤとなっている。
【0046】
図4は、前述のようにして製造された空気入りタイヤATを示している。空気入りタイヤATは、セクターモールド20と、上モールド21(または下モールド22)との嵌合部によって形成された環状かつ線状の金型嵌合痕30と、金型嵌合痕30の付近かつ外側に設けられた凸状の逃げ溝痕(成形痕)31とを備える。ここで、金型嵌合痕30の付近かつ外側とは、空気入りタイヤATの径方向外側において金型嵌合痕30から例えば0.8mm以内での範囲を示す。逃げ溝痕31は、空気入りタイヤATの径方向において金型嵌合痕30からラグ溝32の間に設けられている。なお、図4では図2Bの逃げ溝20bの数に対応して三筋の逃げ溝痕31が図示されており、逃げ溝痕31は逃げ溝20bの数だけ形成される。また、逃げ溝痕31は逃げ溝20bに対応する断面形状を有する。従って、例えば本実施形態の三角形断面の逃げ溝20bから形成された逃げ溝痕31は山形の断面形状を有する。このように、逃げ溝痕31は断面形状以外にも寸法および位置等について逃げ溝20bに対応して形成される。
【0047】
本実施形態によれば、タイヤ加硫金型2を閉じるとき、セクターモールド20に設けられた逃げ溝20bにタイヤのゴムを逃がすことができるため、タイヤ加硫金型2の嵌合部へのゴムの流れを抑制できる。従って、タイヤ加硫金型2によるゴムの噛み込みを抑制でき、空気入りタイヤの外観不良を防止できる。特に、上モールド21(または下モールド22)ではなくセクターモールド20に凹部20bが設けられていることで、ゴムの噛み込みを一層抑制できる。詳細には、上記のようにタイヤ加硫金型2が閉じられるとき、上モールド21(または下モールド22)が固定された状態でセクターモールド20がタイヤ径方向の内側へ移動する。そのため、上モールド21(または下モールド22)とタイヤの位置関係は固定されており、タイヤのゴムは閉じられるセクターモールド20に向かって流れる。従って、セクターモールド20に凹部20bを設け、凹部20bにゴムを逃がすことで嵌合部におけるゴムの噛み込みを抑制できる。
【0048】
また、逃げ溝20bの深さを規定することで、ゴムの噛み込みを防止できるとともにタイヤ加硫金型2の離型性を確保できる。詳細には、逃げ溝20bの深さが0.3mm以上であることで、ゴムの噛み込みを抑制するために必要な量のゴムを逃がすことができる。また、逃げ溝20bの深さが0.5mm以下であることで、ゴムが逃げ溝20b内に深く進入し、タイヤ加硫金型2を開いた際に金型からゴムが離れ難くなることを防止できる。
【0049】
また、逃げ溝20bと嵌合部との距離W1を規定することで、タイヤ加硫金型2の耐久性の低下を防止できるとともにゴムの噛み込みを防止できる。詳細には、逃げ溝20bが嵌合部から0.5mm以上離れていることで、嵌合部近傍のセクターモールド20の肉厚を十分に確保できる。そのため、セクターモールド20の耐久性の低下を防止できる。セクターモールド20は、成形のたびに嵌合部においてサイドモールド21,22と当接して衝撃を受けるため、セクターモールド20の嵌合部近傍の耐久性の低下を防止できることは非常に有効である。また、逃げ溝20bが嵌合部から0.8mm以内に設け設けられていることで、嵌合部へのゴムの流れをより確実に抑制できる。仮に、逃げ溝20bを嵌合部から極端に遠くに設けると、嵌合部へ向かうゴムの流れを抑制できず、嵌合部におけるゴムの噛み込みを防止できる効果が得られない。
【0050】
また、逃げ溝20bと突出部20aとの距離W2を規定することで、製造されるタイヤの耐久性の低下を防止できるとともに逃げ溝20bを配置する面積を十分に確保できる。詳細には、逃げ溝20bが突出部20aから0.5mm以上離れていることで、製造されるタイヤのラグ溝付近に稜線が形成されることを防止できる。仮に、逃げ溝20bを突出部20aの極端に近くに設けた場合、タイヤにおいてラグ溝付近に稜線が形成される。その場合、ラグ溝と稜線が凹凸関係にあるため、タイヤの摩耗速度が速くなる。従って、これを防止することで、タイヤの耐摩耗性の低下を防止でき、即ち耐久性の低下を防止できる。また、仮に、逃げ溝20bを突出部20aから極端に遠くに設けると、即ち嵌合部に極端に近づけて設けると、嵌合部と突出部20aとの間の逃げ溝20bを設ける面積が減少する。従って、逃げ溝20bが突出部20aから0.8mm以内に設けられていることで、逃げ溝20bを配置する面積を十分に確保できる。
【0051】
また、嵌合部へのゴムの流れ方向(タイヤの径方向)に対して交差する方向(タイヤの周方向)に延びるように逃げ溝20bが設けられている。そのため、ゴムが嵌合部に流れるとき、逃げ溝20bを跨ぐため、ゴムを逃げ溝20bに確実に逃がすことができる。従って、嵌合部へのゴムの流れを抑制でき、ゴムの噛み込みを抑制できる。特に、逃げ溝20bがタイヤの周方向に設けられている場合、逃げ溝20bの加工が容易である。
【0052】
以上のように、空気入りタイヤAT(図4参照)において、成形時のゴムの噛み込みが抑制されているため、空気入りタイヤATの外観不良の発生が抑制されている。従って、タイヤの外観上の美観が保たれる。
【0053】
図5は、上記実施形態の図2Bに対応する変形例を示している。本変形例の逃げ溝20bは、グリーンタイヤGTの周方向および径方向の両方に交差する方向に複数延びており、即ち網目状に設けられている。本変形例の逃げ溝20bは、周方向および径方向に対してそれぞれ45度の角度で交差するように延びているが、45度以外の角度で交差してもよい。
【0054】
本変形例によれば、逃げ溝20bが網目状(ローレット形状を含む)に設けられている場合、様々な方向にゴムを逃がすことができ、より確実にゴムの噛み込みを抑制できる。
【0055】
なお、逃げ溝20bの態様は、図2Bに示すタイヤの周方向に沿って延びる平行な筋状、および、図4に示すタイヤの周方向および径方向の両方に交差する網目状以外であってもよい。例えば、逃げ溝20bの態様は、タイヤの径方向に交差する平行な筋状であり得る。
【0056】
以上より、本発明の具体的な実施形態やその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の実施形態の内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…加硫成形機
2…タイヤ加硫金型
3…上プレート
4…上プラテン
5…下プラテン
6…コンテナ
7…昇降シリンダ
8…昇降ロッド
9…ブラダユニット
10…支軸
11…上クランプ
12…下クランプ
13…ブラダ
14…セグメント
15…ジャケットリング
16…上コンテナプレート
17…下コンテナプレート
18…上スライド
19…下スライド
20…セクターモールド
20a…突出部
20b…逃げ溝(凹部)
21…上モールド(サイドモールド)
22…下モールド(サイドモールド)
23…上ビードリング
24…下ビードリング
30…金型嵌合痕
31…逃げ溝痕(成形痕)
32…ラグ溝
GT…グリーンタイヤ
AT…空気入りタイヤ
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5