【解決手段】ラバーチェーファー13の上からブチル層31及びスキージー層30を積層し、ブチル層31の幅方向端部をラバーチェーファー13とスキージー層30とで挟む工程を有する空気入りタイヤの製造方法であって、前記工程の前に、ブチル層31及びスキージー層30の幅方向端部に、ブチル層31及びスキージー層30の表面34、35に対して20°以上35°以下となる傾斜を付け、前記工程において、ラバーチェーファー13とブチル層31との重なり幅L1を5mm以上20mm以下とする。
ラバーチェーファーの上からブチル層及びスキージー層を積層し、前記ブチル層の幅方向端部を前記ラバーチェーファーと前記スキージー層とで挟む工程を有する空気入りタイヤの製造方法において、
前記工程の前に、前記ブチル層及び前記スキージー層の幅方向端部に、前記ブチル層及び前記スキージー層の表面に対して20°以上35°以下となる傾斜を付け、
前記工程において、前記ラバーチェーファーと前記ブチル層との重なり幅を5mm以上20mm以下とする、空気入りタイヤの製造方法。
前記工程において、前記ブチル層の幅方向端部から前記スキージー層の幅方向端部までの距離を5mm以上20mm以下とする、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの一番内側にはインナーライナーが設けられている。インナーライナーは、エアーの透過を防ぐブチル層と、ブチル層とカーカスプライを接着させるためのスキージー層とからなる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
空気入りタイヤの製造においては、
図5に示すように、まず成型ドラム上にラバーチェーファー113が貼り付けられ、ラバーチェーファー113の上からブチル層131及びスキージー層130が積層される。このとき
図5に示すように、ブチル層131の幅方向端部がラバーチェーファー113とスキージー層130により挟まれる。すると、ブチル層の幅方向端部が段差140を形成するため、ブチル層131の幅方向端部近傍にエアーが残ってしまう。
【0004】
ところで特許文献2にはインナーライナーのタイヤ周方向の端部を傾斜させることが記載されている。また特許文献3にはインナーライナーとサイドシートとの境界を傾斜させることが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態について図面に基づき説明する。なお、本実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。また図面は、説明の都合上、長さや形状等が誇張されて描かれたり、模式的に描かれたりする場合がある。しかしこのような図面はあくまでも一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0011】
まず、本実施形態により製造される空気入りタイヤの構造について説明する。
図1に示すように、本実施形態により製造される空気入りタイヤは、束ねられた鋼線にゴムが被覆されたビードコアと、ビードコアのタイヤ径方向外側に設けられたゴム製のビードフィラーとからなるビード10を、タイヤ幅方向両側に有する。カーカスプライ11が、タイヤ幅方向両側でビード10を包むと共に、これらのビード間で空気入りタイヤの骨格を形成している。カーカスプライ11のタイヤ径方向外側にはスチールコードがゴムに被覆された1枚又は複数枚のベルト12からなるベルト層が設けられている。さらにそのタイヤ径方向外側には接地面を有するトレッドゴム14が設けられている。またベルト12の幅方向両側において、カーカスプライ11とベルト12との間にベルト下パッド15が設けられている。またカーカスプライ11のタイヤ幅方向両側にはサイドウォールゴム16が設けられている。またカーカスの内側にはインナーライナー17が設けられている。インナーライナー17は、タイヤ内側のブチル層31と、カーカスプライ11側のスキージー層30とからなる。ブチル層31はエアーの透過を防ぐための層で、スキージー層30はブチル層31とカーカスプライ11とを接着させるための層である。
【0012】
ビード10の周りでは、ビード10をカーカスプライ11の外側から包むように、スチールチェーファー20が設けられている。スチールチェーファー20のタイヤ幅方向外側における端部にはスチールチェーファーパッド21が設けられている。また、スチールチェーファー20のタイヤ幅方向内側における端部の近傍にはフレアーテープ22が設けられ、フレアーテープ22の一部がスチールチェーファー20とカーカスプライ11との間に挟まれている。さらに、ビード10をスチールチェーファー20の外側から包むように、サイドウォールゴム16の下端からインナーライナー17の下端にかけて、ラバーチェーファー13が設けられている。ラバーチェーファー13とスチールチェーファーパッド21との間にはチェーファーパッド23が設けられている。
【0013】
次に、
図1に示す空気入りタイヤの大まかな製造方法について説明する。空気入りタイヤの製造工程は、大きく分けて、一次成型、二次成型及び加硫成型からなる。
図2に空気入りタイヤの大まかな製造方法を簡略化して示す。
【0014】
図2(a)に示すように、一次成型ではまず、インナーライナー17、カーカスプライ11、サイドウォールゴム16等からなるバンド体19が形成される。
【0015】
図3に示すように、まず、成型ドラムDの軸方向(ドラム軸方向)の両側に、ラバーチェーファー13及びサイドウォールゴム16が貼り付けられる。次に、ラバーチェーファー13の一部と重なるように、ドラム軸方向中央部に、インナーライナー17が貼り付けられる。ここで、インナーライナー17を構成するブチル層31とスキージー層30とが順番に成型ドラムDに貼り付けられても良いし、あらかじめブチル層31とスキージー層30とが一体化されてインナーライナー17が形成された後に、そのインナーライナー17が成型ドラムDに貼り付けられても良い。次に、ラバーチェーファー13とサイドウォールゴム16との境界を含む場所に、チェーファーパッド23が貼り付けられる。次に、インナーライナー17からチェーファーパッド23にかけての場所に、スチールチェーファー20及びスチールチェーファーパッド21が貼り付けられる。次に、スチールチェーファー20とインナーライナー17との境界を含む場所に、フレアーテープ22が貼り付けられる。次に、ドラム軸方向中央部に、カーカスプライ11が貼り付けられる。カーカスプライ11の一部には、インシュレーションテープ24が貼り付けられる。次に、二次成型においてベルト12の端部が配置される場所に、ベルト下パッド15が貼り付けられる。以上により、インナーライナー17、カーカスプライ11、サイドウォールゴム16等からなるバンド体19が完成する。
【0016】
バンド体19が形成された後、
図2(b)及び
図3に示すように、バンド体19の所定の2箇所にビード10がセットされる。次に、
図2(c)に示すように、前記バンド体19の2つのビード10の間の部分が外径方向へシェーピングされ、また、前記バンド体19の2つのビード10より外側の部分がそれぞれビード10を包むようにターンアップされる。
図2(c)における矢印Sはシェーピングの方向で、矢印Tはターンアップの方向である。前記バンド体19がシェーピング及びターンアップされたものがいわゆるグリーンケース25である。グリーンケース25が完成することにより一次成型が終了する。
【0017】
次に、グリーンケース25の外径部分にベルト12及びトレッドゴム14が貼り付けられる二次成型が行われる。二次成型の前に、あらかじめ、ベルト12及びトレッドゴム14が積層され、トレッド体26として完成している。二次成型では、
図2(d)に示すように、このトレッド体26が前記グリーンケース25の外径部分に貼り付けられる。グリーンケース25とトレッド体26が一体化したものが生タイヤ28である。生タイヤ28に対して、タイヤ構成部材間のエアーを抜くためのステッチングがなされて、二次成型が完了する。
【0018】
二次成型が完了した後、加硫成型が行われる。加硫成型では、生タイヤ28が金型に入れられ、所定時間所定温度で保持される。加硫成型が終わると空気入りタイヤが完成する。
【0019】
次に、インナーライナー17の構造及び上記の一次成型におけるインナーライナー17の貼り付けについて詳細に説明する。
【0020】
上記の通り、インナーライナー17はスキージー層30とブチル層31とからなる。
図4に示すように、スキージー層30及びブチル層31の幅方向端部(一次成型におけるドラム軸方向外側の端部であり、完成した空気入りタイヤにおいて内径側の端部となる部分)には傾斜が付いている。
図4では、好ましい形態として、スキージー層30の幅方向端部の傾斜面32は上(バンド体19の径方向外側)を向き、ブチル層31の幅方向端部の傾斜面33は下(バンド体19の径方向内側)を向いている。しかし、スキージー層30の幅方向端部の傾斜面32が上を向いている場合において、ブチル層31の幅方向端部の傾斜面33も上を向いていても良い。また、スキージー層30の幅方向端部の傾斜面32が下を向いていても良く、その場合において、ブチル層31の幅方向端部の傾斜面33は上下のどちらを向いていても良い。スキージー層30の表面34に対するスキージー層30の傾斜面32の角度θ1は、20°以上35°以下である。また、ブチル層31の傾斜面33のブチル層31の表面35に対するブチル層31の傾斜面33の角度θ2も、20°以上35°以下である。
【0021】
これらの傾斜面32、33は一次成型の前に形成される。これらの傾斜面32、33は、スキージー層30及びブチル層31の押出成型の際に、傾斜面32、33の形状を有する口金によって形成されても良い。また、これらの傾斜面32、33は、スキージー層30及びブチル層31が押出成型された後、それらの端部がカットされることにより形成されても良い。
【0022】
一次成型において、ブチル層31及びスキージー層30は、ラバーチェーファー13のドラム軸方向内側の部分を含むドラム軸方向中央部に積層される。このとき、
図4に示すように、スキージー層30の幅方向端部がブチル層31の幅方向端部よりもドラム軸方向外側に配置されるようにして、ブチル層31の上からスキージー層30が貼り付けられる。そのため、ブチル層31の幅方向端部は、スキージー層30とラバーチェーファー13によって挟まれる。
【0023】
ここで、ブチル層31とラバーチェーファー13との重なり幅L1が5mm以上20mm以下になるように、貼り付けがなされる。また、ブチル層31の幅方向端部からスキージー層30の幅方向端部までの距離L0が5mm以上20mm以下になるように、貼り付けがなされることが望ましい。
【0024】
なお、
図3及び
図4では各タイヤ構成部材(すなわちインナーライナー17、カーカスプライ11、サイドウォールゴム16等)が上下に離れて描かれているが、一次成型がなされた後は各タイヤ構成部材が上下に密着している。
【0025】
次に本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態では、ブチル層31の幅方向端部にブチル層31の表面35に対する傾斜面33が設けられるため、ブチル層31がラバーチェーファー13に貼り付けられたときに、ラバーチェーファー13とブチル層31とによる段差が形成されにくい。そのため、ブチル層31の幅方向端部の上からスキージー層30が被せられても、ブチル層31の幅方向端部近傍にエアーが残りにくい。
【0026】
また、スキージー層30の幅方向端部にスキージー層30の表面34に対する傾斜面32が設けられるため、スキージー層30がラバーチェーファー13に貼り付けられたときに、ラバーチェーファー13とスキージー層30とによる段差が形成されにくい。そのため、スキージー層30の上からスチールチェーファー20が被せられても、スキージー層30の幅方向端部近傍にエアーが残りにくい。
【0027】
ここで、スキージー層30の表面34に対するスキージー層30の傾斜面32の角度θ1及びブチル層31の傾斜面33のブチル層31の表面35に対する角度θ2が20°以上であるため、スキージー層30及びブチル層31(特にブチル層31)が幅方向端部近傍において薄くなり過ぎてエアーが透過しやすくなることを防ぐことができる。また、スキージー層30の表面34に対するスキージー層30の傾斜面32の角度θ1及びブチル層31の傾斜面33のブチル層31の表面35に対する角度θ2が35°以下であるため、スキージー層30及びブチル層31の幅方向端部が段差を形成することを防ぐことができる。
【0028】
また、ブチル層31とラバーチェーファー13との重なり幅L1が5mm以上であるため、ブチル層31とラバーチェーファー13とが十分に密着し、これらの間にエアーが残ることを防ぐことができる。また、ブチル層31とラバーチェーファー13との重なり幅L1が20mm以下であるため、一次成型においてブチル層31がビード10の周りに巻き上げられてしまいラバーチェーファー13の割れ等の原因となることを防ぐことができる。
【0029】
また、ブチル層31の幅方向端部からスキージー層30の幅方向端部までの距離L0が5mm以上であれば、ラバーチェーファー13とスキージー層30とが確実に接触でき、スキージー層30及びブチル層31の幅方向端部近傍にエアーが残ることを防ぐことができる。また、ブチル層31の幅方向端部からスキージー層30の幅方向端部までの距離L0が20mm以下であれば、ブチル層31の幅方向の長さが短くなり過ぎず、ブチル層31がエアーの透過を防ぐことができる。
【0030】
本実施形態の効果を確認するため、表1の比較例及び表2の実施例の空気入りタイヤの評価を行った。表1及び表2において、L0はブチル層の幅方向端部からスキージー層の幅方向端部までの距離を示し、L1はラバーチェーファーとブチル層との重なり幅を示している。また表1及び表2において、θはブチル層及びスキージー層における幅方向端部の傾斜面と表面とのなす角度を示しており、上記実施形態におけるθ1及びθ2に相当する。実施例の空気入りタイヤは上記実施形態の構成を満たすのに対し、比較例の空気入りタイヤはいずれかの構成を満たさない。
【0031】
評価項目はエアー入り不良発生率及び耐エアー透過性とした。エアー入り不良発生率の評価では、評価者が、サイズ11R22.5のタイヤを100本製造して外観を観察し、エアー残りによる外観不良が確認されたタイヤの本数を数え、不良率を算出した。数値が小さいほど不良率が低いことを意味している。また、耐エアー透過性の評価では、評価者が、サイズ11R22.5のタイヤをリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付けて内圧を850kPaとし、90日放置後に内圧を測定し、内圧の降下代を指数化した。指数が大きいほど、内圧が降下しなかったことを意味し、インナーライナーがエアー透過を防いだことを意味している。
【0032】
結果は表1及び表2の通りで、実施例の空気入りタイヤは比較例の空気入りタイヤよりもエアー入り不良発生率が低いことが確認できた。また、実施例の空気入りタイヤは耐エアー透過性も良好であることが確認できた。