(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-95080(P2018-95080A)
(43)【公開日】2018年6月21日
(54)【発明の名称】バラスト水処理装置
(51)【国際特許分類】
B63B 13/00 20060101AFI20180525BHJP
C02F 1/32 20060101ALI20180525BHJP
【FI】
B63B13/00 Z
C02F1/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-241582(P2016-241582)
(22)【出願日】2016年12月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】丹下 智陽
【テーマコード(参考)】
4D037
【Fターム(参考)】
4D037AA05
4D037AA06
4D037AB03
4D037BA18
4D037BB01
4D037BB02
4D037CA02
(57)【要約】
【課題】航行する水域に応じて適切な紫外線処理を行うことの可能なバラスト水処理装置を提供する。
【解決手段】紫外線処理手段(3)を備えたバラスト水処理装置であって、バラスト水の電気伝導率を測定する電気伝導率測定手段(6)と、当該電気伝導率測定手段(6)により測定されたバラスト水の電気伝導率に応じて前記紫外線処理手段(3)の出力を制御する制御手段(5)とを備え、前記制御手段(5)は、前記バラスト水の電気伝導率が所定の閾値以上である場合、前記紫外線処理手段(3)の出力を第1の出力値(P1)とし、前記バラスト水の電気伝導率が所定の閾値を下回った場合、前記紫外線処理手段(3)の出力を前記第1の出力値(P1)よりも高い第2の出力値(P2)とするよう制御する、バラスト水処理装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線処理手段を備えたバラスト水処理装置であって、
バラスト水の電気伝導率を測定する電気伝導率測定手段と、当該電気伝導率測定手段により測定されたバラスト水の電気伝導率に応じて前記紫外線処理手段の出力を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記バラスト水の電気伝導率が所定の閾値以上である場合、前記紫外線処理手段の出力を第1の出力値とし、前記バラスト水の電気伝導率が所定の閾値を下回った場合、前記紫外線処理手段の出力を前記第1の出力値よりも高い第2の出力値とするよう制御する、バラスト水処理装置。
【請求項2】
前記電気伝導率の所定の閾値を3S/m以下の範囲の値とする、請求項1に記載のバラスト水処理装置。
【請求項3】
紫外線処理手段により紫外線を照射するバラスト水処理方法であって、
バラスト水の電気伝導率が所定の閾値以上である場合、前記紫外線処理手段の出力を第1の出力値とし、前記バラスト水の電気伝導率が所定の閾値を下回った場合、紫外線処理手段の出力を前記第1の出力値よりも高い第2の出力値とする、バラスト水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紫外線処理手段を備えたバラスト水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タンカー等の船舶は、積み荷の原油等を降ろした後、再度目的地に向けて航行する際、航行中の船舶のバランスを取るため、通常、バラスト水と呼ばれる水をバラストタンク内に貯留する。バラスト水は、基本的に荷上港で取水されて、荷積港で排出される。そのため、それらの場所が異なっていれば、バラスト水中に含まれるプランクトンや細菌類の微生物が世界中を移動することになる。従って、荷上港と異なる水域の荷積港でバラスト水を排出すると、その港に別の水域の微生物を放出することになり、その水域の生態系を破壊するおそれがある。
【0003】
そこで、バラスト水中に含まれる微生物の含有量を低減するために、バラスト水処理装置が用いられている。例えば、特許文献1に記載のバラスト水処理装置は、バラスト水に紫外線を照射して、微生物の殺滅処理(殺菌処理)をする紫外線処理手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−248510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、殺滅処理するべき微生物のうち、淡水域に生息する微生物は海水域に生息する微生物よりも紫外線耐性を持つものが多い。したがって、淡水域を航行することのある船舶において、紫外線処理手段の出力を海水域と同一とすると、殺滅処理が不完全となるおそれがあった。また、これを防ぐために淡水域に生息する微生物に適した高出力の紫外線処理手段を導入すると、航行する割合の多い海水航路及び汽水航路においてエネルギーのロスが生じるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、航行する水域に応じて適切な紫外線処理を行うことの可能なバラスト水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、紫外線処理手段を備えたバラスト水処理装置であって、バラスト水の電気伝導率を測定する電気伝導率測定手段と、当該電気伝導率測定手段により測定されたバラスト水の電気伝導率に応じて前記紫外線処理手段の出力を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記バラスト水の電気伝導率が所定の閾値以上である場合、前記紫外線処理手段の出力を第1の出力値とし、前記バラスト水の電気伝導率が所定の閾値を下回った場合、前記紫外線処理手段の出力を前記第1の出力値よりも高い第2の出力値とするよう制御する、バラスト水処理装置が提供される。
【0008】
このような構成によれば、電気伝導率測定手段により測定された電気伝導率が所定の閾値を下回った場合に淡水域であると判断し、紫外線処理手段の出力を第1の出力値よりも高い第2の出力値に保つことで、海水又は汽水域でエネルギーのロスを生じさせることなく、淡水域でも完全に殺滅処理を行うことが可能となる。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
【0010】
好ましくは、前記電気伝導率の所定の閾値を3S/m以下の範囲の値とする。
【0011】
また、本発明によれば、紫外線処理手段により紫外線を照射するバラスト水処理方法であって、バラスト水の電気伝導率が所定の閾値以上である場合、前記紫外線処理手段の出力を第1の出力値とし、前記バラスト水の電気伝導率が所定の閾値を下回った場合、紫外線処理手段の出力を前記第1の出力値よりも高い第2の出力値とする、バラスト水処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るバラスト水処理装置の概略を示す図である。
【
図2】
図1のバラスト水処理装置において、制御手段により制御される、バラスト水の電気伝導率とランプ出力の関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の変形例に係るバラスト水処理装置において、制御手段により制御される、バラスト水の電気伝導率とランプ出力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るバラスト水処理装置の実施形態について、以下図面を参照しながら説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0014】
<バラスト水処理装置の構成>
図1は、本実施形態に係るバラスト水処理装置の構成を示す概略図である。
図1に示すように、本実施形態のバラスト水処理装置は、海水等の船外の水をシーチェストSCから船内に取り込んでバラスト水として圧送するポンプ1と、フィルタを備えバラスト水を濾過処理するバラスト水濾過装置2と、紫外線ランプによりバラスト水に紫外線を照射して微生物を殺菌処理する紫外線処理手段としての紫外線リアクタ3と、バラスト水を貯留するバラストタンク4と、バラスト水処理装置の各処理の制御を行う制御手段5と、バラスト水の電気伝導率(電気伝導度とも言う)を測定する電気伝導率測定手段6とを備える。
【0015】
なお、本明細書において「バラスト水」については、バラストタンク4に導入(流入)される前又はバラストタンク4から排出(流出)された後に拘わらず、また、バラスト水濾過装置2に導入(流入)される前又はバラスト水濾過装置2から排出(流出)された後に拘わらず、さらには、紫外線リアクタ3に導入(流入)される前又は紫外線リアクタ3から排出(流出)された後に拘わらず、船内に取り込まれた水を全て「バラスト水」と表現し、これは、海水、淡水、汽水等を含む。
【0016】
また、本実施形態に係るバラスト水処理装置は、上記各構成要素を流通する複数のラインL1〜L8を備える。「ライン」とは、配管により形成される、流路、経路、管路等の流体の流通が可能なラインの総称である。
【0017】
具体的には、
図1に示すように、ラインL1はシーチェストSCとポンプ1を接続するラインであり、開閉弁V1を有する。ラインL2はポンプ1とバラスト水濾過装置2を接続するラインであり、ラインL3はバラスト水濾過装置2と紫外線リアクタ3を接続するラインである。また、ラインL4は、紫外線リアクタ3とバラスト水を船外へ排出する船外排出口DPを接続するラインであり、上流側から電気伝導率測定手段6と開閉弁V2をこの順に有する。なお、ラインL1〜ラインL4は、これらを合わせて、シーチェストSCと船外排出口DPとを接続する主管とも呼ばれる。なお、本実施形態において電気伝導率測定手段6はラインL4に設けられているが、上記主管中であればどの位置に設けても良い。
【0018】
次に、ラインL5は、一端がラインL2と接続され、他端がラインL3と接続されて、バラスト水濾過装置2をバイパスするラインであり、開閉弁V3を有する。ラインL6は、一端が紫外線リアクタ3と開閉弁V2の間の位置においてラインL4と接続され、他端がバラストタンク4に接続されて、紫外線リアクタ3とバラストタンク4を接続するラインであり、開閉弁V4を有する。そして、ラインL7は、一端が開閉弁V4とバラストタンク4の間の位置においてラインL6と接続され、他端が開閉弁V1とポンプ1の間の位置においてラインL1と接続されて、バラストタンク4とポンプ1を接続するラインであり、開閉弁V5を有している。
【0019】
また、本実施形態において、バラスト水濾過装置2は、濾過処理中にフィルタの洗浄を行うフィルタ洗浄手段(図示せず)を備えており、フィルタ洗浄手段により排出される洗浄汚水を船外へ排出するラインL8が接続される。ラインL8には、開閉弁V6が設けられる。
【0020】
そして、制御手段5は、ポンプ1及び、上述した開閉弁V1〜V6の開閉を制御することにより、バラスト水のバラストタンク4への漲水(バラスト動作)制御及びバラストタンク4からの排水(デバラスト動作)制御を行う。また、制御手段5は、バラスト水の流量制御及び、紫外線リアクタ3の出力制御も行う。
【0021】
<バラスト水処理装置の動作>
次に、以上のように構成された本実施形態のバラスト水処理装置の動作を説明する。
【0022】
まず、バラスト動作時には、制御手段5は、開閉弁V1,V4,V6を開き、開閉弁V2,V3,V5を閉じて、ポンプ1を起動するとともに、紫外線ランプ30に通電する。ポンプ1の起動により、シーチェストSCから船外の水(海水等)が取り込まれ、ラインL1,L2を通ってバラスト水濾過装置2へと通水される。バラスト水濾過装置2へ通水されたバラスト水は、フィルタにより濾過処理された後、ラインL3を通って紫外線リアクタ3へと流れる。ここで、上述したバラスト水濾過装置2のフィルタ洗浄手段により、バラスト水濾過装置2へ流入したバラスト水の一部は、フィルタ洗浄の汚水としてラインL8を通って船外へと排出される。紫外線リアクタ3を通過するバラスト水には紫外線ランプ30により紫外線が照射され、殺菌処理がなされる。そして、殺菌処理がなされたバラスト水はラインL4の一部とラインL6を通過してバラストタンク4へと送り込まれる。
【0023】
一方、デバラスト動作時には、開閉弁V5,V3,V2を開き、開閉弁V1,V4,V6を閉じて、ポンプ1を起動するとともに紫外線ランプ30に通電する。ポンプ1の起動により、バラストタンク4の水がラインL7、ラインL1の一部、ラインL5、ラインL3の一部を通って紫外線リアクタ3へと流れ、その後、ラインL4を通って船外排出口DPから船外へと排出される。船外へ排出するバラストタンク4内のバラスト水がバラスト水濾過装置2を通らず、ラインL5によりバイパスされているのは、バラストタンク4内のバラスト水は上述したバラスト処理時にすでに一度濾過処理を行っているためである。
【0024】
なお、バラストタンク4内のバラスト水の残量が少なくなってからは、ポンプ1がキャビテーションを起こさないよう開閉弁V1を開き、船外から取り込んだ水と一緒にバラストタンク4内のバラスト水を排水するのが好ましい。この場合は、開閉弁V3を閉じて開閉弁V6を開き、バラスト水濾過装置2による濾過処理を行ってから排水しても良い。
【0025】
また、本実施形態では、バラスト動作時及びデバラスト動作時における紫外線ランプ30の出力(電力)Pは、処理するバラスト水の電気伝導率σに応じて制御手段5により制御される。具体的には、制御手段5は、電気伝導率σが高いときは紫外線ランプ30の出力Pを第1の出力値P1とし、電気伝導率σが所定の閾値σ1を下回ると紫外線ランプ30の出力を第1の出力値P1よりも高い第2の出力値P2とする2値制御を行う。ここで、出力値を第2の出力値P2とする電気伝導率σの閾値σ1は、3.0S/m(ジーメンス/メートル)以下とすることが好ましい。より好ましくは、1.5S/m以下である。より好ましくは、1S/m以下である。さらに好ましくは、0.4S/m〜0.8S/mである。具体的には、0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1.0,1.1,1.2,1.3,1.4,1.5,1.6,1.7,1.8,1.9,2.0,2.1,2.2,2.3,2.4,2.5,2.6,2.7,2.8,2.9,3.0S/mであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
この電気伝導率σの閾値σ1は、処理するバラスト水(すなわち航行中の水域)が海水又は汽水であるか、あるいは淡水であるかを判断する閾値となっている。つまり、制御手段5は、淡水域に生息する微生物が海水域又は淡水域に生息する微生物よりも紫外線耐性を持つという知見に基づき、バラスト水が海水又は汽水であれば紫外線ランプ30の出力Pを第1の出力値P1とし、バラスト水が淡水であれば紫外線ランプ30の出力Pを第1の出力値P1よりも高い第2の出力値P2とするよう制御しているのである。
【0027】
本願では、バラスト水処理装置の制御手段5が紫外線ランプ30をこのように制御をしていることによって、船舶が海水域又は汽水域を航行する場合には、紫外線ランプ30を出力の低い第1の出力値P1(一定値)とすることで必要以上のエネルギー(電力)のロスを防止することができ、他方、船舶が淡水域を航行する場合には、紫外線ランプ30を出力の高い第2の出力値P2とすることで、海水域に生息するものよりも紫外線耐性を持つ微生物であっても、確実に殺滅処理を行うことが可能となっている。
【0028】
なお、上述した「2値制御」とは、電気伝導率σに応じて、海水・汽水域に対応する略一定の第1の出力値P1と、淡水域に対応する略一定の第2の出力値P2の2つの出力値のいずれかを選択する制御のことを示すものである。しかしながら、本発明の範囲には、
図3(a)に示すように紫外線ランプ30の出力Pが電気伝導率σの閾値σ1近傍で連続的に変化する形態や、
図3(b)に示すように、電気伝導率σに応じた紫外線ランプ30の出力Pが第1の出力値P1又は第2の出力値P2の一定値ではない形態も含まれるものとする。つまり、本発明は、
図3に示すように、電気伝導率σの範囲を伝導率の高い海水・汽水領域Rh、伝導率の低い淡水領域Rl、及び閾値σ1近傍の遷移領域Rtの3つの領域に分け、遷移領域Rtにおいてランプ出力Pが急激に変化するよう制御されることを特徴とするものであるといえる。また、より一般的には、本発明は、遷移領域Rtにおける電気伝導率σに対するランプ出力Pの平均変化率が、海水・汽水領域Rh及び淡水領域Rlにおけるランプ出力Pの平均変化率よりも大きくなるよう制御されることを特徴とするものであるといえる。なお、遷移領域Rtにおけるランプ出力Pの平均変化率は、海水・汽水領域Rh及び淡水領域Rlにおけるランプ出力Pの平均変化率の2倍以上とすることが好ましく、5倍、10倍、また、それ以上としてもよい。
【0029】
<変形例>
以上、本発明の好ましい実施形態について説明した。しかし、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の形態で実施することができる。特に、発明の均等な範囲において開閉弁やポンプの上流下流に係る順序を一部入れ替えたり、新たなライン、開閉弁、ポンプ等を追加したりしてもかまわない。
【0030】
また、上述した実施形態においては、バラスト水処理装置はバラスト水濾過装置2を備えていたが、紫外線リアクタ3のみとすることや、バラスト水を浄化する他の装置を有していても良い。
【0031】
また、上述した実施形態においては、紫外線ランプ30の出力値は電気伝導率の閾値σ1を用いた2値制御を行っていたが、バラスト水の電気伝導率σがσ1よりも高い場合に、電気伝導率σに応じて紫外線ランプ30の出力Pをさらに変化させ、3つ以上の出力値に変化させる多値制御を行うことも可能である。ただし、閾値を増やすことで複雑な制御が必要となるため、本願の目を達成する限りにおいては、上述した2値制御を行うことがより好ましい。
【符号の説明】
【0032】
1 :ポンプ
2 :バラスト水濾過装置
3 :紫外線リアクタ(紫外線処理手段)
4 :バラストタンク
5 :制御手段
6 :電気伝導率測定手段
30 :紫外線ランプ
DP :船外排出口
L1〜L8 :ライン
P :(紫外線ランプの)出力
P1 :第1の出力値
P2 :第2の出力値
Rh :海水・汽水領域
Rl :淡水領域
Rt :遷移領域
SC :シーチェスト
V1〜V6 :開閉弁
σ :電気伝導率
σ1 :閾値