【解決手段】トレッド部10にタイヤ周方向に延びる主溝12が設けられ、主溝12の内部に主溝12の左右の陸部32、34を連結する凸状補強部20が設けられた空気入りタイヤにおいて、左右のうち少なくとも一方の陸部32において、主溝12の側壁16に対して凹形状となった凹部40が凸状補強部20の周りに形成されたことを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
図8(a)に示すような、タイヤ周方向に延びる主溝212を有する空気入りタイヤは、主溝212の部分での剛性が低いために、接地したときに
図8(b)に示すように接地面の一部が凹み接地面の幅が狭まるような変形を起こす場合がある。このような変形は面内収縮と呼ばれる。特に、主溝212の他に横溝が設けられ多数のブロックが形成された空気入りタイヤでは、トレッド部210の剛性が低いため面内収縮が起こりやすい。面内収縮が起こると、空気入りタイヤの接地性が悪くなりタイヤ性能に悪影響が生じる。
【0003】
そこで、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されているように主溝内に突起状の補強部を設ければ、トレッド部の主溝の部分での剛性が高くなり、面内収縮が生じにくくなると考えられる。しかし、突起状の補強部が、主溝内を流れる水にとっての障害物となってしまうため、空気入りタイヤの排水性が悪くなってしまう。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態について図面に基づき説明する。なお、本実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。また図面は、説明の都合上、長さや形状等が誇張されて描かれたり、模式的に描かれたりする場合がある。
【0010】
また以下の説明において、左右とはタイヤ幅方向を左右方向とした場合の表現である。
【0011】
本実施形態の空気入りタイヤの基本的な構造は次の通りである。まず、束ねられた鋼線にゴムが被覆されたビードコアと、ビードコアのタイヤ径方向外側に設けられたゴム製のビードフィラーとからなるビード部が、タイヤ幅方向両側に設けられている。カーカスが、タイヤ幅方向両側でビード部を包むと共に、これらのビード部間で空気入りタイヤの骨格を形成している。カーカスのタイヤ径方向外側にはスチールコードがゴムに被覆された1又は2以上のベルトからなるベルト層が設けられ、そのタイヤ径方向外側にベルト補強層が設けられている。さらにそのタイヤ径方向外側にはトレッド部10が設けられている。またカーカスのタイヤ幅方向両側にはサイドウォールが設けられている。またカーカスの内側にはインナーライナーが設けられている。これらの部材の他にも必要に応じて複数の部材が設けられている。
【0012】
本実施形態の空気入りタイヤのトレッドパターンを
図1に示す。なお
図1の上下方向がタイヤ周方向で、左右方向がタイヤ幅方向である。
【0013】
本実施形態の空気入りタイヤのトレッド部10にはタイヤ周方向に延びる複数の主溝12が設けられている。さらにトレッド部10にはタイヤ幅方向に延びる複数の横溝14が設けられている。そのため陸部が、主溝12及び横溝14によって複数のブロック30、32、34に区画されている。図示されていないが、ブロック30、32、34にはサイプ等の細溝が設けられていても良い。なおブロック30、32、34とは、厳密には、主溝12及び横溝14に囲まれた部分で、溝底よりも上(タイヤ径方向外側)の部分を言うものとする。
【0014】
主溝12の内部には複数の凸状補強部20が所定間隔毎に設けられている。
図1〜
図3に示すように、凸状補強部20は、主溝12の内部において、主溝12の左右のブロック32、34と接し、これらを連結している。凸状補強部20は主溝12の内部にあるので、凸状補強部20の上面22は接地面にならず、凸状補強部20の上で主溝12がタイヤ周方向に連通している。そのため、空気入りタイヤの接地時には、凸状補強部20の上面22と路面との間が水の流路として確保される。
【0015】
図2に示すように、左右のブロック32、34のうち一方のブロック32における凸状補強部20の周りには、凹部40が形成されている。凹部40は、主溝12の側壁16に対して、主溝12の幅方向外側に向かって凹形状となっている。凹部40は主溝12の内部にのみ開口しており、接地面側には開口していない。そのため、凹部40の上(タイヤ径方向外側)にはトレッド部10の接地面36が存在する。
【0016】
図3に示すように、凹部40は、主溝12の側壁16と平行又はほぼ平行で側壁16より主溝幅方向外側にある凹部底面48と、凸状補強部20のタイヤ周方向の前後面24、26の一部と距離を置いて対向する内面42、44と、凸状補強部20の上面22の一部と距離を置いて対向する内面46とによって形成されている。この凹部40は、例えば
図3に矢印で示すような方向の水の流路となる。従って凹部40は水の流路の拡張部分として機能し得る。上記の凸状補強部20は凹部底面48に連結されている。
【0017】
図2〜
図4に示すように、凸状補強部20は左右に高低差を有する。
図4に示すように、凸状補強部20の上面22は、タイヤ周方向から見て、凸状補強部20の最高位置27から最低位置28へ引かれる仮想直線23に対して下に凸になるよう湾曲している。上記の凹部40は凸状補強部20の低い方と接するブロック32に形成されている。ここで、凸状補強部20の最高位置27における高さH2は主溝12の深さH1の40%以上60%以下であることが望ましく、凸状補強部20の最低位置28における高さH3は主溝12の深さH1の20%以上30%以下であることが望ましい。
【0018】
凸状補強部20は、所定の厚み(タイヤ周方向の長さ)を有する。本実施形態の場合、凸状補強部20の厚みは主溝幅方向に一定である。凸状補強部20の厚みL2(
図2(b)参照)は、凸状補強部20が連結している左右のブロック32、34のタイヤ周方向の長さL1(
図2(b)参照)の40%以下であることが望ましい。なお、凸状補強部20が連結しているブロックのタイヤ周方向の長さが左右のブロック32、34で異なる場合は、凸状補強部20の厚みL2は、左右のブロック32、34のタイヤ周方向の長さの平均値の40%以下であることが望ましい。
【0019】
また、凹部40の容積は凸状補強部20の体積の65%以上であることが望ましい。ここで、凹部40の容積には、凸状補強部20の凹部40内に入り込んでいる部分の体積が含まれる。また、凸状補強部20の体積にも、凸状補強部20の凹部40内に入り込んでいる部分の体積が含まれる。
【0020】
1本の主溝12の内部にある全ての凸状補強部20が上記のような特徴を備えていることが望ましい。また、以上の凸状補強部20は、複数の主溝12のうちの少なくとも1つに設けられていれば良い。もちろん、凸状補強部20が、複数の主溝12のうちの半数以上に設けられていても良いし、全ての主溝12に設けられていても良い。
【0021】
本実施形態の空気入りタイヤの作用効果は次の通りである。まず、上記の通り主溝12の内部に主溝12の左右のブロック32、34を連結する凸状補強部20が設けられているため、トレッド部10の剛性が高く、トレッド部10の面内収縮が起こりにくくなっている。また、左右のうち一方のブロック32において、主溝12の側壁16に対する凹部40が凸状補強部20の周りに形成されており、この凹部40が水の流路となる。そのため、主溝12の内部に凸状補強部20が存在するにもかかわらず、排水性が確保される。
【0022】
また、凸状補強部20が左右で高低差を有するため、
図5に示すように、ブロック32、34の摩耗が進行して凸状補強部20の最高位置27付近が接地面に現れてしまっても、最低位置28付近は接地面に現れない。そのため、凸状補強部20の上面22と路面との間が水の流路として確保され、空気入りタイヤの排水性が確保される。
【0023】
また、凸状補強部20の低い方と接するブロック32に凹部40が形成されているため、凸状補強部20の高い方と接するブロック34に凹部40が形成された場合と比較して、凹部40を上下方向(タイヤ径方向)に大きくすることができる。そのため空気入りタイヤの排水性が確保される。
【0024】
また、凹部40が主溝12の内部にのみ開口し接地面側には開口していないため、凹部40が接地面側にも開口している場合と比較して、トレッド部10の接地面積及び剛性が確保されている。そのため空気入りタイヤの制動性能及び旋回性能が確保されている。
【0025】
また、上記のように凸状補強部20の上面22が凸状補強部20の最高位置27から最低位置28へ引かれる仮想直線23に対して下に凸になるよう湾曲している。そのため、凸状補強部20の上面22が仮想直線23と一致する場合や、上面22が仮想直線23に対して上に凸になるよう湾曲している場合と比較して、凸状補強部20の位置での水の流路が広くなっており、空気入りタイヤの排水性が良好になっている。
【0026】
また、凸状補強部20の最高位置27における高さH2が主溝12の深さH1の40%以上60%以下であり、凸状補強部20の最低位置28における高さH3が主溝12の深さH1の20%以上30%以下である場合、面内収縮の防止と排水性の確保が特に良好に両立される。また、凸状補強部20の厚みL2がブロック32、34のタイヤ周方向の長さL1の40%以下であれば、主溝12の容積が十分に確保され、排水性が確保される。また、凹部40の容積が凸状補強部20の体積の65%以上であれば、凸状補強部20による水流の阻害分が凹部40によって相殺され、排水性が確保される。
【0027】
以上の実施形態に対し、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、様々な変更を行うことができる。
【0028】
凸状補強部120の形状としては、上記実施形態の形状の他、
図6(a)に示すように上面122が湾曲せず平面である形状や、
図6(b)に示すように左右の高低差が無い形状等があり得る。また
図6(c)に示すように、凸状補強部120の厚みが主溝幅方向に変化していても良い。また、
図6(d)に示すように、凹部140は、主溝112の左右両側のブロック32、34における凸状補強部120の周りに設けられていても良い。
【0029】
また、トレッド部における陸部は、上記実施形態のように主溝12及び横溝14により区画されたブロック30ではなく、主溝のみによって区画されタイヤ周方向に連続して延びるリブであっても良い。その場合、上記実施形態のような凸状補強部20が主溝内でリブとリブとを連結する。
【0030】
本実施形態の効果を確認するため、表1に示す従来例、比較例及び実施例の空気入りタイヤのアイス制動性能、アイス旋回性能、スノー加速性能及びハイドロ性能を評価した。
【0031】
従来例、比較例及び実施例の空気入りタイヤは、いずれもタイヤ周方向に延びる複数の主溝を有するものであった。従来例の空気入りタイヤは、
図7(a)に示すように、主溝12内に凸状補強部が無いものであった。比較例の空気入りタイヤは、
図7(b)に示すように、主溝12内に上記実施形態のものと同じ形状の凸状補強部20が設けられていたが、上記実施形態のような凹部が無いものであった。実施例の空気入りタイヤは、
図2に示すように、主溝12内に上記実施形態のものと同じ凸状補強部20及び凹部40が設けられたものであった。
【0033】
<アイス制動性能>
アイス路面上で各タイヤを装着した車両を時速40kmで走行させABSを作動させたときの制動距離を測定し、その逆数を算出した。そして算出値を比較例1の結果を100とする指数に変換した。指数が大きいほどアイス制動性能に優れていることを示す。
【0034】
<アイス旋回性能>
アイス路面上で各タイヤを装着した車両を半径6メートルの定常円で旋回させ、そのラップタイムを測定し、ラップタイムの逆数を算出した。そして算出値を比較例1の結果を100とする指数に変換した。指数が大きいほどアイス旋回性能に優れていることを示す。
【0035】
<スノー加速性能>
スノー路面上で各タイヤを装着した車両を時速0kmから加速させ、時速40kmに達するまでの時間を測定し、その時間の逆数を算出した。そして算出値を比較例1の結果を100とする指数に変換した。指数が大きいほどスノー加速性能に優れていることを示す。
【0036】
<ハイドロ性能>
水深8mmのウェット路面上で各タイヤを回転させ、ハイドロプレーニング現象が発生したときの速度を測定し、測定値を比較例1の結果を100とする指数に変換した。指数が大きいほど、ハイドロプレーニング現象が発生したときの速度が大きく、ハイドロ性能に優れていることを示す。
【0037】
結果は表1の通りで、比較例は従来例よりもアイス制動性能、アイス旋回性能及びスノー加速性能に優れるがハイドロ性能が悪化することが確認された。一方、実施例は従来例よりもアイス制動性能、アイス旋回性能及びスノー加速性能に優れ、さらにハイドロ性能にも優れることが確認された。