(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-95201(P2018-95201A)
(43)【公開日】2018年6月21日
(54)【発明の名称】タイヤ騒音の評価方法、装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20180525BHJP
G06F 17/50 20060101ALI20180525BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
B60C19/00 H
G06F17/50 612H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-244508(P2016-244508)
(22)【出願日】2016年12月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 健介
【テーマコード(参考)】
5B046
【Fターム(参考)】
5B046AA04
5B046FA12
5B046JA01
5B046JA04
5B046JA08
(57)【要約】
【課題】より適切なタイヤ騒音の評価方法を提供する。
【解決手段】評価方法は、タイヤから発生する音の波形データを取得するステップ(ST1〜4)と、波形データに基づき心理音響評価量を評価値として算出するステップ(ST5)と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤから発生する音の波形データを取得するステップと、
前記波形データに基づき心理音響評価量を評価値として算出するステップと、を含む、タイヤ騒音の評価方法。
【請求項2】
前記心理音響評価量は、ラウドネス[単位:sone]、シャープネス[単位:acum]、ラフネス[単位:asper]、変動強度[単位:vacil]、の少なくとも1つを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記波形データを取得するステップは、トレッド形状を示す画像データ及び接地端の形状データを用いた走査解析を実行して面積変動データを取得し、面積変動データに基づき音の波形データを取得する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
基本トレッドパターンの画像データの一部を変更することによって複数のトレッドパターンを生成し、各々のパターンについて評価値を取得することを複数回繰り返し実行し、基本パターンよりも評価値の良いパターンを表示するステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記波形データを取得するステップは、FEM(有限要素法)又はBEM(境界要素法)を用いたシミュレーションにより波形データを生成する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
タイヤから発生する音の波形データを取得する波形データ取得部と、
前記波形データに基づき心理音響評価値を評価値として算出する評価値算出部と、を備える、タイヤ騒音の評価装置。
【請求項7】
前記心理音響評価量は、ラウドネス[単位:sone]、シャープネス[単位:acum]、ラフネス[単位:asper]、変動強度[単位:vacil]、の少なくとも1つを用いる、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記波形データ取得部は、トレッド形状を示す画像データを取得するトレッド画像取得部と、接地端の形状を取得する接地端形状取得部と、前記画像データ及び前記接地端の形状を用いた走査解析を実行して面積変動データを取得する走査解析実行部と、面積変動データに基づき音の波形データを算出する波形データ算出部と、を有する、請求項6又は7に記載の装置。
【請求項9】
基本トレッドパターンの画像データの一部を変更することによって複数のトレッドパターンを生成し、各々のパターンについて評価値を取得することを複数回繰り返し実行し、基本パターンよりも評価値の良いパターンを表示する複数パターン評価実行部を備える、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記波形データ取得部は、FEM(有限要素法)又はBEM(境界要素法)を用いたシミュレーションにより波形データを生成する、請求項6〜9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ騒音の評価方法、装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの走行時に発生する騒音には、ポンピング音、パターン加振音と呼ばれるパターンノイズが知られている。ポンピング音は、パターンの溝が路面に踏み込んだ時に空気を圧縮し、路面から離れる時に空気を解放することで発生する音である。パターン加振音は、トレッドパターンが接地するときに路面と衝突し、そのときの衝撃により発生する音である。
【0003】
タイヤ騒音を予測する方法は、特許文献1に開示されている。従来においては、有限要素法や画像解析によってタイヤから発生する音の波形データを取得し、波形データから得られる音の大きさ(波形のレベル)や周波数毎のレベルを評価値としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−136926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年では、車内乗員や車外の音環境に対する要求が高まっており、人の感性により近い評価指標を用いた手法が望まれる。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、より適切なタイヤ騒音の評価方法、装置、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0008】
すなわち、本発明のタイヤ騒音の評価方法は、タイヤから発生する音の波形データを取得するステップと、前記波形データに基づき心理音響評価量を評価値として算出するステップと、を含む。
【0009】
本発明のタイヤ騒音の評価装置は、タイヤから発生する音の波形データを取得する波形データ取得部と、前記波形データに基づき心理音響評価値を評価値として算出する評価値算出部と、を備える。
【0010】
このように、タイヤから発生する音の波形データに基づき心理音響評価量を評価値として算出するので、単純に騒音レベルを評価値とした場合に比べて、より人間の感性に近い評価を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のタイヤ騒音の評価装置を示すブロック図。
【
図2】評価装置が実行するタイヤ騒音の評価処理ルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
[タイヤ騒音の評価装置]
装置1は、タイヤ騒音を評価するための評価値を算出する装置である。具体的に、
図1に示すように、波形データ取得部11と、評価値算出部12と、複数パターン評価実行部13と、を有する。複数パターン評価実行部13は省略可能である。
【0014】
波形データ取得部11は、タイヤから発生する音の波形データを取得する。波形データは、時間軸に対する変動波形を示すデータである。本実施形態では、接地変動解析として画像処理法を利用している。具体的には、波形データ取得部11は、トレッド形状を示す画像データを取得するトレッド画像取得部11aと、接地端の形状を取得する接地端形状取得部11bと、画像データ及び接地端の形状を用いた走査解析を実行して面積変動データを取得する走査解析実行部11cと、面積変動データに基づき音の波形データを算出する波形データ算出部11dと、を有する。
【0015】
トレッド画像取得部11aは、
図3に示すように、タイヤのトレッドパターンの平面視の画像データを取得する。接地端形状取得部11bは、同図に示すように、接地端の形状を取得する。本実施形態では、タイヤFEM(Finite Element Method;有限要素法)モデルを用いて所定内圧及び所定荷重をかけて所定路面に接地させ、そのときの接地端の形状を取得する。勿論、計測などにより得られた接地端の形状を入力してもよい。走査解析実行部11cは、同図に示すように、画像データ及び接地端の形状を用い、両者をタイヤ周方向に相対的に移動させ、接地端を通過する接地面の変動データを算出する。接地面の変動データの一例として、周方向位置に対する面積変動を示すデータが挙げられる。波形データ算出部11dは、接地面の面積変動データに基づき音の波形データを算出する。例えば、接地面の面積変動データに仮想速度を与えることで、周方向位置に対する変動波形データを、時間軸に対する変動波形データに変換することが挙げられる。
【0016】
本実施形態では、波形データ取得部11は、画像処理法を利用しているが、音響解析を実行して波形データを取得するように構成してもよい。また、実測によりサンプリングした音の波形データを取得するように構成してもよい。さらに、FEM(Finite Element Method;有限要素法)又はBEM(Boundary Element Method;境界要素法)を用いたシミュレーションにより波形データを生成するようにしてもよい。
【0017】
評価値算出部12は、波形データに基づき心理音響評価量を評価値として算出する。心理音響評価量は、ラウドネス、又は、ラウドネスの値を用いて算出される評価値である。ラウドネスは、心理音響評価量として広く知られている。定常的な音に対するラウドネス[単位:sone]は、ISO532に規定されている。ラウドネスは、人が感じる音の大きさを表す指標であり、単純に音波のレベルを示すものではない。
【0018】
ラウドネスの値を用いて算出される評価値としては、シャープネス[単位:acum]、ラフネス[単位:asper]、変動強度[単位:vacil]が挙げられる。シャープネスは、音の甲高さを示し、周波数分析した結果の重心が高域に偏る割合で示される。ラフネスは、音の粗さ感を示し、ラウドネスの変調周期が比較的短く(約70Hz)変動する時に感じる評価値である。変動強度は、音の変動感を示し、ラウドネスの変調周期が長く(4Hz)変動する時に感じる評価値である。これらの評価値は、小さいほど良好である。また、心理音響評価量としては、上記以外に、トナリティ、トーントゥノイズレシオ、会話明瞭度があるが、トレッドパターンの評価については、ラウドネス、シャープネス、ラフネス、及び変動強度の方が有用である。
【0019】
この中でも、タイヤのパターンの最小繰り返し単位(ピッチ)を、繰り返す時に周方向長さを微小に変更するバリアブルピッチを採用する際に、バリアブルピッチや繰り返しパターンに起因する騒音は、シャープネス(高調波とのバランス)及び変動強度により評価することが好ましい。
【0020】
本実施形態では、基本トレッドパターンの画像データの一部を変更することによって複数のトレッドパターンを生成し、各々のパターンについて評価値を取得することを複数回繰り返し実行する複数パターン評価実行部13を設けている。画像データの変更方法は、(1)位相をずらす方法、(2)パターンの角度を変更する方法、(3)陸部の面積を変更する方法、(4)溝面積を変更する方法がある。位相をずらす方法については、タイヤ赤道の一方側を他方側に対してタイヤ周方向に位相をずらす方法と、タイヤ赤道を挟んで対となる陸部をタイヤ周方向に位相をずらす方法がある。
【0021】
一例として、タイヤ赤道の一方側(上型)を他方側(下型)を基本パターンからズラした複数のパターンについて、シャープネスの評価値X
i(i=−30mm〜+30mm)を算出する。タイヤの赤道とショルダーの間にあるメディエイト陸部(Me)についてタイヤ周方向に基本パターンからズラした複数のパターンについて、シャープネスの評価値Yj(j=0〜−30mm)を算出する。基本パターンの評価値X
0,Y
0よりも値の低い評価値は、騒音が改善されることを意味する。基本パターンの評価値と複数の他のパターンの評価値とに基づき、コンピュータが示唆を出力するようにしてもよい。例えば、X
−20<X
0であれば、複数パターン評価実行部13は、シャープネスをより改善するためには、上下位相を−20mmずらすことが良いと報知する。また、Y
−10<Y
0であれば、複数パターン評価実行部13は、シャープネスをより改善するためには、Me部位相を−10mmずらすことが良いと報知する。
【0022】
別の例として、2つのパターン(パターン1、2)について、音圧レベル及びラウドネスを算出した。音圧レベルでは、パターン1が88.6[dB(A)]であり、パターン2が88.4[dB(A)]であり、パターン2の方が小さく、良好であると判断できる。しかし、ラウドネスでは、パターン1が64[sone]であり、パターン2が66.2[sone]となり、パターン1の方が小さく、良好であると判断できる。使用する評価値によって判定結果が逆になる場合がある。
【0023】
[タイヤ騒音の評価方法]
上記装置1を用いたタイヤ騒音の評価値を算出する方法を、
図2を用いて説明する。
【0024】
まず、ステップST1において、トレッド画像取得部11aがトレッド形状を示す画像データを取得する。次のステップST2において、接地端形状取得部11bが接地端の形状を取得する。次のステップST3において、走査解析実行部11cが画像データ及び接地端の形状を用いた走査解析を実行して面積変動データを取得する。次のステップST4において、波形データ算出部11dが面積変動データに基づき音の波形データを算出する。すなわち、ステップST1〜4を実行することで、波形データ取得部11は、タイヤから発生する音の波形データを取得する。
【0025】
次のステップST5において、評価値算出部12は、波形データに基づき心理音響評価量を評価値として算出する。前記心理音響評価量は、ラウドネス[単位:sone]、シャープネス[単位:acum]、ラフネス[単位:asper]、変動強度[単位:vacil]、の少なくとも1つを用いる。
【0026】
次のステップST6において、複数パターン評価実行部13は、所定量のパターンについての評価値が得られたかを判定する。所定量の評価ができたと判定するまで、ステップST7にて、基本パターンの一部を変更して新たな変更パターンを生成し、ステップST1〜7を繰り返し実行する。
【0027】
ステップST6において、所定量のパターンについての評価値が得られたと判断された場合には、複数パターン評価実行部13は、次のステップST8において、基本パターンよりも評価値が良い(低い)パターンを表示する。
【0028】
以上のように、本実施形態のタイヤ騒音の評価方法は、タイヤから発生する音の波形データを取得するステップ(ST1〜4)と、波形データに基づき心理音響評価量を評価値として算出するステップ(ST5)と、を含む。
【0029】
本実施形態のタイヤ騒音の評価装置は、タイヤから発生する音の波形データを取得する波形データ取得部11と、波形データに基づき心理音響評価値を評価値として算出する評価値算出部12と、を備える。
【0030】
このように、タイヤから発生する音の波形データに基づき心理音響評価量を評価値として算出するので、単純に音のレベルを評価値とした場合に比べて、より人間の感性に近い評価を行うことが可能となる。
【0031】
本実施形態において、心理音響評価量は、ラウドネス[単位:sone]、シャープネス[単位:acum]、ラフネス[単位:asper]、変動強度[単位:vacil]、の少なくとも1つを用いる。
【0032】
これらの評価値を用いることで、人間の完成に近い評価を具体的に行うことが可能となる。
【0033】
本実施形態の方法において、波形データを取得するステップは、トレッド形状を示す画像データ及び接地端の形状データを用いた走査解析を実行して面積変動データを取得し、面積変動データに基づき音の波形データを取得する(ST1〜4)。
本実施形態の装置において、波形データ取得部11は、トレッド形状を示す画像データを取得するトレッド画像取得部11aと、接地端の形状を取得する接地端形状取得部11bと、画像データ及び接地端の形状を用いた走査解析を実行して面積変動データを取得する走査解析実行部11cと、面積変動データに基づき音の波形データを算出する波形データ算出部11dと、を有する。
【0034】
このようにすれば、画像データの変更のみで複数のトレッドパターンを自動評価できるので、有用である。
【0035】
本実施形態の方法において、基本トレッドパターンの画像データの一部を変更することによって複数のトレッドパターンを生成し、各々のパターンについて評価値を取得することを複数回繰り返し実行し、基本パターンよりも評価値の良いパターンを表示するステップ(ST8)を含む。
本実施形態の装置において、基本トレッドパターンの画像データの一部を変更することによって複数のトレッドパターンを生成し、各々のパターンについて評価値を取得することを複数回繰り返し実行し、基本パターンよりも評価値の良いパターンを表示する複数パターン評価実行部13を備える。
【0036】
このようにすれば、基本トレッドパターンに対してより心理音響評価が良好なパターンを見つけることが可能となる。
【0037】
本実施形態の方法において、波形データを取得するステップは、FEM(有限要素法)又はBEM(境界要素法)を用いたシミュレーションにより波形データを生成する。
本実施形態の装置において、波形データ取得部11は、FEM(有限要素法)又はBEM(境界要素法)を用いたシミュレーションにより波形データを生成する。
【0038】
このように、既知のシミュレーション方法を用いて波形データを生成することも有用である。
【0039】
本実施形態に係るコンピュータプログラムは、上記方法を構成する各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。言い換えると、上記方法を使用しているとも言える。
【0040】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0041】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0042】
11…波形データ取得部
11a…トレッド画像取得部
11b…接地端形状取得部
11c…走査解析実行部
11d…波形データ算出部
12…評価値算出部
13…複数パターン評価実行部