【解決手段】 反応管104と、反応管104に有機原料M1を導入するための原料導入口105aと、反応管104にガス化剤M2を導入するガス化剤導入口106aと、原料導入口105aとガス化剤導入口106aの間に配置された複数段の棚板120,130を有するガス化装置。
前記原料導入口と最上段の前記棚板の距離、及び、前記ガス化剤導入口と最下段の前記棚板の距離が、前記反応管の半径より大きい、請求項1〜4のいずれかのガス化装置。
ガス化剤/有機原料の供給量の重量比Rが、0.2≦R≦1.0となるように、前記反応管へのガス化剤及び有機原料の導入を制御する制御手段を有する請求項1〜5のいずれかのガス化装置。
【背景技術】
【0002】
現在、将来エネルギーと地球温暖化防止の観点から、再生可能エネルギーの普及が急務となっているが、我が国では、太陽光発電、風力発電に比べ、特に、木本系・草本系の固体バイオマスのエネルギー利用が進んでいない。その理由として、国内の土地状況・森林状況から、集中的な大規模バイオマスプラント利用は成立せず、地産地消型もしくは小中規模分散型のエネルギー規模に成らざるを得ないが、これを効率的、且つ、経済的に成り立させる技術が開発されていないことが一つの原因と考えている。
【0003】
バイオマスのエネルギーを高効率に利用するためには直接燃焼ではなく、一旦ガス燃料状態にして利用することが有効で、広い分野でバイオマスのガス化技術開発が続けられている。その大半は空気または水蒸気・酸素をガス化剤として、バイオマスを理論燃焼当量比以下で部分燃焼させる部分酸化法である。しかし、この部分酸化法はガス化効率が低く、すす・タールの発生も多く、ガス化反応熱に使われた排ガスが生成ガスに混入するため、高品質・高カロリーのガス燃料は得られない。
【0004】
近年、固体バイオマスから発電用ガスエンジンに適合する高カロリーでクリーンなガス燃料が得られる浮遊外熱式ガス化方法が開発され、ガスエンジン燃料、化学合成ガス原料等に利用できることを実証した。その内容は下記特許文献1、および、特許文献2に示されているが、現在では、このガス化技術を生かした高品質・高カロリーのガス燃料を保持しながら、実用機としての経済性・採算性に必要な改良要件が求められている。その要件とは、原料前処理消費エネルギーの削減、ガス化効率の向上による性能改善、装置のコンパクト・低コスト化である。
【0005】
特許文献1のガス化法は浮遊外熱式と呼ばれる方法で、金属反応管内をガス化空間として、該空間に有機原料であるバイオマス粉体とガス化剤となる水蒸気を供給し、反応管の外側を高温燃焼ガス(以下、「熱ガス」と略称する)で、800℃以上の高温に加熱し、ガス化反応に必要な反応熱を高温に加熱された反応管からの輻射によって与えるもので、加熱に使われた熱ガスの燃焼排ガスが生成ガスに混入することがないことから、高品質・高カロリーの生成ガスが得られ、化石代替ガス燃料、ガスエンジン用燃料、ガスタービン用燃料等、各種用途のガス燃料として利用される様になった。
【0006】
しかし、特許文献1は、以下の欠点を残している。
第1の欠点は、水蒸気によってバイオマス粉体を浮遊させる必要があるため、粉体径は約3mmアンダーが要求され、粉砕動力が大きくなることである。
第2の欠点は、ガス化剤となる水蒸気を低減すると、粉体の浮遊状態が保持できず、粗粉体は未反応炭化物になって、落下するか、タール・煤の発生源となって、クリーンなガス燃料が得られなくなることである。
【0007】
特許文献2は、特許文献1と同様の外熱輻射ガス化方式であるが、浮遊せずに落下する粗粉体を反応室の下部の多孔板上でガス化を進める方式である。これによって、微粉砕動力条件を緩和し、ある程度粗く粉砕した原料も利用できるようになった。
【0008】
しかし、実用ガス化装置として見たとき、特許文献2は、次の欠点を残している。
第1の欠点は、3mm以上の粗粉体が多い場合、多孔板上で粗粉体の堆積量が増大し、ガス化反応時間が著しく長くなり、ガス化能力を低下させること。
第2の欠点は、ガス化剤としての水蒸気供給量を下げると、多孔板上での粗粉体の堆積量の増大がますます顕著となり、ガス化反応時間が更に長くなって、ガス化性能を著しく悪化させるため、反応水を低減させることが難しく、過剰の水蒸気量を供給せざるを得ず、それゆえにガス化の熱効率が低下することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは前述の事情に呼応して、バイオマスの高エネルギー利用の基本技術であるガス化技術の開発を進めているが、ガス化先端技術である特許文献1及び2の技術の実績を踏襲しながら、更なる技術向上を図っている。特許文献1、2のガス化の基本原理は、反応管外側からの加熱による反応管壁からの輻射熱によってガス化反応熱をガス化体(バイオマスと水蒸気の混合流体)に与える外熱輻射式水蒸気改質反応である。これによって、高品質・高カロリーのガス燃料を熱化学的に生成させる実用技術が構築されている。生成ガスはガス燃料として、そのままガスエンジン、ガスタービンに使用でき、小型プラントでありながら、蒸気タービンを用いた大型の燃焼発電の効率を凌ぐ高い発電効率が得られている。また、得られる生成ガスは水素と一酸化炭素を主成分としており、メタノール、エタノ―ル、GTL(ガスからの液体燃料合成)等の液体燃料の化学合成原料となる合成ガスとしても利用可能である。この様に、多くの利点をもつ技術であるが、実用機としての採算性・経済性を見た場合、更なる機能向上が求められる。
【0011】
上記に鑑み、本願に開示の発明は、好適に有機原料をガス化できるガス化装置及び生成ガスの製造方法を提供することを課題とする。一態様では、特許文献1,2に代替できるガス化装置、及び/又は、特許文献1,2よりも優れるガス化装置、及び/又は、特許文献1,2の欠点を改善又は解消したガス化装置を提供することを課題とする。更なる態様では、有機原料のガス化効率を向上させ、粗粉砕の有機原料の使用を可能にし、及び/又は、ガス化装置を小型化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願には、下記発明が開示される。
<構成1>
反応管と、
前記反応管に有機原料を導入するための原料導入口と、
前記原料導入口よりも下に位置し、前記反応管にガス化剤を導入するためのガス化剤導入口と、
前記原料導入口と前記ガス化剤導入口の間に配置された複数段の棚板を有するガス化装置。
<構成2>
前記棚板が、網目を有する構成1のガス化装置。
<構成3>
前記棚板が、有機原料が落下可能な開口を有する構成1又は2のガス化装置。
<構成4>
前記開口の位置が各段の前記棚板ごとに相違する構成3のガス化装置。
<構成5>
前記原料導入口と最上段の前記棚板の距離、及び、前記ガス化剤導入口と最下段の前記棚板の距離が、前記反応管の直径より大きい、構成1〜4のいずれかのガス化装置。
<構成6>
ガス化剤/有機原料の供給量の重量比Rが、0.2≦R≦1.0となるように、前記反応管へのガス化剤及び有機原料の導入を制御する制御手段を有する構成1〜5のいずれかのガス化装置。
<構成7>
反応管と、
前記反応管に有機原料を導入するための原料導入口と、
前記原料導入口よりも下に位置し、前記反応管にガス化剤を導入するためのガス化剤導入口と、
前記原料導入口と前記ガス化剤導入口の間に配置された複数段の棚板を有するガス化装置を用いた生成ガスの製造方法であって、
前記反応管を加熱した状態で、
前記原料導入口から前記反応管に有機原料を導入するとともに、前記ガス化剤導入口から前記反応管にガス化剤を導入することを特徴とする、生成ガスの製造方法。
【0013】
本願の有機原料は、バイオマス、特に、粉体状のバイオマスであることが好ましい。ガス化剤は、水蒸気であることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明の一実施形態のガス化装置1である。断熱壁102で囲った反応炉本体101は反応管104を内蔵し、反応管104を外面から熱ガスHGで加熱する様になっている。
【0016】
反応管104は、内径Dの縦型円筒管である。他の断面形状(例えば、楕円、4角形、6角形、8角形等)でもよい。反応管104の内部空間をガス化空間と呼ぶ。
【0017】
反応管104には、原料導入管105とガス化剤導入管106とが接続されている。原料導入管105の先端が原料導入口105aであり、ガス化剤導入管106の先端がガス化剤導入口106aである。ガス化剤導入口106aは、原料導入口105aよりも下方に位置する。
【0018】
原料導入口105aとガス化剤導入口106aの間の高さ位置に、多段棚110が配置されている。本例の多段棚110は、2段の棚板120,130で構成される。
図2及び
図3に例示的な棚板120,130を平面視で示す。
【0019】
棚板120は、円形であり、取付部材121によって反応管104の内壁に取り付けられている。棚板130は、ドーナッツ形状であり、外周部分が直接反応管104の内壁に取り付けられている。
【0020】
棚板120は、反応管104との間に開口122を有し、棚板130は、中央に開口132を有する。開口122,132は、粉砕した有機原料M1が容易に通過できるサイズがよい。棚板120,130の面積は、反応管104の断面積の50〜90%がよく、60〜80%が更によい。開口122,132が上下で重ならないように、各段の開口122,132の位置を変えるのがよい。有機原料M1の堆積量や落下速度を調整するために、棚板120,130に傾斜を設けてもよい。例えば、開口122,132に向けて下降する傾斜にするとよい。
【0021】
棚板120,130は、網製が良い。特に、金網や多孔性セラミックスがよい。網目は、有機原料M1が通過できない大きさがよい。網目は、有機原料M1の粉砕サイズよりも小さいのがよい。網目は、原料サイズと原料性状(落ちやすさ)によって、0.5〜10mmが選ばれる。
【0022】
棚板120と原料導入口105aの間の距離L1及び棚板130とガス化剤導入口106aの間の距離L2は、内径D以上がよい。棚板120と棚板130の間の距離L3は、内径Dの1/2以上がよく、内径D以上が特によい。
【0023】
有機原料M1及びガス化剤M2は、それぞれ、原料導入口105a及びガス化剤導入口106aから反応管104に導入され、管壁からの輻射熱を受けてガス化し、生成ガスFGを発生させる。有機原料M1は、途中、棚板120,130で滞留しながら段階的に落下していく。そのため、ガス化剤M2の供給量を小さくても、効率的なガス化反応が生じる。L1〜L3を上記寸法とすることで、反応に必要な輻射熱を効率よく供給できる。ガス化反応で生じた生成ガスFGは、反応管104上方の取出管108から炉外の利用系に送られる。灰M3等の反応残滓は、反応管104下方の排出口107から排出可能である。
【0024】
本実施形態の有機原料M1はバイオマスである。粉砕したバイオマスが好ましい。有機原料M1は、水分や土等他の成分を含んでもよい。ガス化剤M2は、反応水(又は水蒸気)である。本実施形態のガス化剤M2は、酸素、二酸化炭素、窒素、空気等の他の成分を含んでもよい。
【0025】
反応管104からの有効輻射透過長さから、内径Dは35cm以下がよい。有機原料M1の供給量は反応管断面積に対し200kg/h・m
2以下を基準とする。水蒸気改質反応を十分進行させるため、反応管104は800℃以上に加熱するのがよい。有機原料M1の供給量B(g/min)に対するガス化剤M2の供給量W(g/min)の比R(=W/B)は、0.2≦R≦1.0がよい。上記実施形態では、2段の棚板120,130を示したが、3段以上でもよい。
【0026】
図4は、ガス化装置1のプラント全体の系統図である。原料である有機原料粉体は原料タンク201から一部は熱ガス発生炉206へ燃料として送られ、空気による通常燃焼によって800℃以上の熱ガスHGを反応炉へ送り出す。一方、原料タンク201からの一部原料は有機原料M1として、原料ホッパ209、フィーダ210、原料導入管105を経て反応管104のガス化空間に供給される。ガス化剤M2である水蒸気は、反応水M4の流量を流量調節弁207で調整し、反応炉本体101の加熱に使用された熱ガスHGを熱源とした蒸気過熱器208によって所定温度に加熱することで生成され、反応管104の下部のガス化剤導入管106からガス化空間に供給される。反応管104内のガス化空間では、フィーダ210からの有機原料M1が多段棚110で受け止められ、上段の棚板120から下段の棚板130に段階的に停留しながら落下する間に、ガス化剤M2と反応管壁からの輻射熱を受けて水蒸気改質ガス化反応を生じてガス化し、生成ガスFGが発生する。反応で生じた灰M3は反応管104の底部から排出される。生成ガスFGは、ルーツブロア220によって吸引されて、ガス精製装置212、ガスタンク213を経て、エンジン214に送られ、発電機216によって発電・送電217する。生成ガスFGを化学プラント用原料の合成ガスとして利用する場合はエンジン214前の切換弁218によって化学プラント219へ送って使用する。
【0027】
図5は、大容量化のために、複数の反応管104を一つの反応炉本体101に収めたクラスター型のガス化装置1Aである。各反応管104の構造・機能は、ガス化装置1の反応管104と同一とできる。ただし、各反応管104からの熱ガスHGの排気及び生成ガスFGは、それぞれ、熱ガス・マニホールド140と生成ガス・マニホールド141に纏められて、反応炉外へ送られる。
【0028】
粗粉砕の有機原料を使用し、ガス化剤の供給量を最小限に押さえた場合でも、ガス化反応が支障なく生じ、目標の生成ガス性状が得られるかを確認するための実験を行った。実験に使用したガス化装置の小型試験機1Bの系統図を
図6に示す。電気炉301内にSUS製円筒状の反応管104を垂直に配置した。反応管104の外壁は、電気炉301により均一に加熱される。反応管104内のガス化空間は、内径54mm、長さ900mmであり、原料導入口105aとガス化剤導入口106aの間の高さに2段の棚板120,130からなる多段棚110を設けた。棚板120は、円形であり、ガス化空間の中央に配置し、棚板130はドーナッツ状であり、ガス化空間の外周部に配置した。棚板120,130はともに1mm網目の金網である。棚板120と原料導入口105aの距離は500mm、棚板130とガス化剤導入口106aの距離は400mmとした。
【0029】
原料タンク201の有機原料(バイオマス)M1をフィーダ210よって原料導入口105aから落下供給し、同時に、反応水M4を電気加熱水蒸気発生器302で蒸発させ、さらに蒸気過熱器303に通して加熱したガス化剤(水蒸気)M2をガス化剤導入口106aから反応管104に上昇流で供給した。発生した生成ガスFGは、水冷管304で冷却し、フィルター305で煤塵を除去した後にガスタンク213に収集した。このようにして得た生成ガスFGをサンプリンして、ガスクロマトグラフを用いてガス組成を分析した。煤塵の発生量は、試験終了後に装置を分解し秤量した。
【0030】
試験条件と結果を
図7に纏めた。ここで、装置全系統圧力は常圧である。
図7の試験番号(1-1)〜(1-3)は本発明の試験条件と試験結果を示す。試験番号(2-1)〜(2-3)は特許文献1の代表的な試験条件と試験結果である。
【0031】
試験番号(1-1)〜(1-3)は、試験番号(2-1)〜(2-3)に対し、反応管断面当たりバイオマス供給量Bが2.2倍、反応水供給量Wが1/2であった。したがって、反応水供給量Wに対するバイオマス供給量Bの比R(=W/B)は、前者は0.9、後者は4である。また、(1-1)〜(1-3)では、粒径0.3〜8mmの粗粒粉体の有機原料M1を使用したが、(2-1)〜(2-3)では、浮遊状態とするため、0.3mm以下の微粒子の有機原料M1を使用した。
【0032】
試験番号(1-1)〜(1-3)の生成ガスの組成はH
2が大きく、C
2H
4、C
2H
6が小さく、(2-1)〜(2-3)よりクリーンなガス化反応であることを示している。これは煤塵量D/BTが1/10〜1/20に激減していることからも証明されている。D/BTは供給原料の内の未反応分の比率を示しており、ガス化率に直すと、本発明の方式は99%を超えているのに対し、従来の浮遊外熱方式では94%以下に止まっている。ここで、ガス化率は外熱を含めたガス化効率とは異なる原料粗粉体のみのガス化割合を示すものとする。
【0033】
この試験結果を総合評価すると、反応管104の中間位置に多段棚110を設けたことで、原料供給量に対する反応水量を低減でき、ガス化率・ガス化効率が向上し、従来以上にクリ―ンなガス燃料が得られることが明確となった。しかも、8mm程度の粗紛砕の有機原料の使用が可能となるため、粉砕動力の低減が達成できる。
【0034】
以下、本発明の意義を理論面から考察する。発明が解決しようとする課題に述べた背景を踏まえ、下記の4項目の課題達成が望ましいと言える。
1)外熱輻射ガス化方式の優れたガス化機能の基本条件を保持して「高品質・高カロリーの生成ガス」を確保すること
2)粗粉砕原料を使用可能にすること
3)「過剰な反応水を低減する」ことによって熱効率・ガス化効率を向上させること、
4)前記2)、3)の性能向上によって、ガス化空間当たりのガス化効率を向上させ「コンパクトなガス化装置」にすること
【0035】
課題1)は、「高品質・高カロリーの生成ガス」を得るための輻射外熱式の最も重要な要件はバイオマス原料が水蒸気とガス化反応に必要な反応熱を反応管壁からの必要温度以上の輻射熱で賄うことである。
先ず、反応熱に必要な温度はバイオマス組成中のチャー成分(固定炭素)が水蒸気改質反応によってガス化する為には800℃以上熱が必要であることから、反応管壁温度は800℃以上に加熱することが望ましい。
バイオマスガス化反応熱は反応温度によっても異なるが、これまでの基礎実験と解析から、反応熱は温度が高く成る程大きくなり、生成ガス中のH
2組成比が増える。反応温度が800→1000℃に上がると、反応熱は略500→1100kcal/kgに上がる。この反応熱を反応管壁輻射熱で与えるための必要反応管面積は次式で表される。
A=H×W /Φ・σ[Tw
4―Tg
4] (1)
ただし、
A=ガス化体を囲む輻射面積(反応管面積)
H=反応熱(kcal/kg)
W=バイオマス原料(kg/h)
Φ=ガス化体と反応管の輻射形態係数(−)
σ=ステファンボルツマン定数[4.88×10
−8](kcal/m
2hK
4)
Tw
=反応管壁温度(K)
Tg=ガス化体温度(K)
即ち、この条件を満足させることが、「高品質・高カロリーの生成ガス」を作り出す必須条件である。
Tw=900℃+273℃=1173K
Tg=800℃+273℃=1073K
H=750kcal/kg
W=29kg/h
Φ=0.7
とすれば、この条件のガス化での必要輻射面積を(1)式より求めると、A=0.773m
2である。よって、内径Dが0.3mの反応管の場合、管長0.82m以上が必要となる。
【0036】
課題2)特許文献1では、水蒸気により原料粉体を浮遊状態に保つことが必要である。そのため、原料の粉砕度(粉砕サイズ)を、0.5mm以下など、非常に小さくする必要がある。本発明では、多段棚を用いて有機原料を段階的に落下させつつ、棚板に積層した有機原料をガス化させることから、粉砕サイズの大きい有機原料を効率的にガス化できるようになった。
【0037】
粉砕と消費動力の関係は、杉材のハンマーミル粉砕試験において、表1のデータが得られている。このデータから明らかなように、粉砕サイズを大きくすることで粉砕のための消費動力を節減することができる。例えば、3mm以下粉砕から、6mm以下粉砕に変更することで、全消費エネルギーの3.8%が節減できることになり、これは、熱効率・ガス化効率の3.8%向上と同意である。さらに、原料として使用可能なバイオマス種の拡大にも有利に展開できる効果もある。このように、粉砕サイズの大きい有機原料が使用可能となることの意義は大きい。
【表1】
【0038】
次に、課題3)の「過剰な反応水を低減する」ことによる熱効率・ガス化効率について検討する。
ガス化効率は次式の冷ガス効率で定義される。
ガス化効率(%)=冷ガス効率(%)=Q1÷(Q2+Q3)×100(%)・・・(2)
ただし、
Q1:生成ガスの常温状態の低位発熱量
Q2:有機原料の低位発熱量
Q3:熱ガス発生に使われた燃料の低位発熱量
ここで、Q1は反応温度と反応時間によって定まる固定量であり、Q2は有機原料供給量によって定まる固定量であり、Q3は「ガス化反応熱量」と「ガス化剤(水蒸気)の反応温度までの加熱量」である。また、「ガス化反応熱量」は反応温度と反応時間によって定まる固定量である。よって、ガス化効率の向上には、「ガス化剤(水蒸気)の反応温度までの加熱量」の低減が有効であり、故に、ガス化剤(水蒸気)供給量をW(kg)、有機原料供給量をB(kg)とすれば、比R=W/Bを低減すればよいことがわかる。
【0039】
そこで、まず、有機原料供給量に対する必要最小反応水量を求める。
本発明の外熱輻射式ガス化反応の実績一例を半実験式で示すと次の様になる。
●反応温度800℃の場合(水素H
2容積組成:34.7%)
C
1.4H
2O
0.9+0.36H
2O → 0.70H
2+0.72CO+0.27CH
4+0.08C
2H
2+0.25CO
2
●反応温度900℃の場合(水素H
2容積組成:46.0%)
C
1.4H
2O
0.9+0.70H
2O → 1.20H
2+0.61CO+0.20CH
4+0.05C
2H
2+0.49CO
2
●反応温度1000℃の場合(水素H
2容積組成:52.0%)
C
1.4H
2O
0.9+1.01H
2O → 1.65H
2+0.53CO+0.16CH
4+0.01C
2H
2+0.68CO
2
ただし、C
1.4H
2O
0.9は杉木材の元素分析から求めた簡略分子式で、分子量は33.2である。
【0040】
上記反応式より、1モルの有機原料(33.2g)をガス化するための水蒸気(反応水H
2O)の必要最小量は、800℃では6.48g(水の1モル、18g×0.36)、900℃では12.6g、1000℃では18gである。よって、R値の必要最小値は、800℃では0.195、900℃では0.379、1000℃では0.542である。現実のガス化反応において、水蒸気量を上記の必要最小量に近づけることができれば、最高のガス化効率の向上を達成できることになる。
【0041】
しかるに、特許文献1,2では、有機原料を浮遊させた状態でガス化反応を進行させる必要があることから、比R=2.〜2.5という過剰な水蒸気の供給を必要とした。本発明者らのこれまでの経験による通常の運転条件は、管断面積に対する有機原料粉体供給量は300kg/m
2h以下、最大反応管直径は管壁からの輻射透過能力から350mm以下であるが、この運転条件で水蒸気量を必要最小量にした場合は、水蒸気の流速が0.1m/s程度に下がり、有機原料を浮遊させる浮力は全く得られず、原料微粉の終末流速からみて、ほぼ全量が落下することになる。
【0042】
これに対し、本発明では、複数段の棚板を用いて有機原料を段階的に落下させ、棚板に積層した有機原料をガス化させることから、特許文献1,2のような過剰な水蒸気は不要であり、必要最小限により近い水蒸気でガス化反応を充分に進行させることができる。
【0043】
水蒸気の供給量を必要最小限とした場合(ケース1)と、原料供給比Rを2とした場合(ケース2)で反応に熱量(外熱に相当)で比較すると次の様になる。
●ケース1
1)反応温度800℃で有機原料1kgのガス化に必要な熱量:
反応熱441kcl/kg + 水蒸気過熱999×0.195kcal/kg=636kcal/kg
2)反応温度900℃で有機原料1kgのガス化に必要な熱量:
反応熱583kcl/kg + 水蒸気過熱1050×0.379kcal/kg=981kcal/kg
3)反応温度1000℃で有機原料1kgのガス化に必要な熱量:
反応熱707kcl/kg + 水蒸気過熱1104×0.542kcal/kg=1305kcal/kg
●ケース2
1)反応温度800℃で有機原料1kgのガス化に必要な熱量:
反応熱441kcl/kg + 水蒸気過熱999×2 kcal/kg=2439kcal/kg
2)反応温度900℃で有機原料1kgのガス化に必要な熱量:
反応熱583kcl/kg + 水蒸気過熱1050×2 kcal/kg=2683kcal/kg
3)反応温度1000℃で有機原料1kgのガス化に必要な熱量:
反応熱707kcl/kg + 水蒸気過熱1104×2 kcal/kg=2915kcal/kg
【0044】
以上をまとめると表2の様になる。水蒸気の供給量を必要最小限とした場合(ケース1)、反応に必要な熱量は、特許文献1(ケース2)の1/2以下になっており、「過剰な反応水を低減する」ことの効果の大きさは明らかである。
【表2】
【0045】
ガス化装置の性能はガス化効率で評価されるので、表2の検討結果を用いてケース1とケース2のガス化効率を比較した。ここで、反応管の加熱に使われる熱ガスの外部への熱損失を25%とし、有機原料及び熱ガス燃料は低位発熱量4400kcal/kg無水無灰基準とした。
評価結果を表3に示す。表3から約1.3倍の大きなガス化効率向上が示された。これは、通常の部分酸化ガス化法のガス化効率が60〜65%、特許文献1でも63〜70%であるのに対し、水蒸気の供給量を必要最小限とすることで、83〜90%のガス化効率を達成できることを示す。これは、これまでにない最高のガス化効率である。ガス化効率の向上は、約30%となる。
【表3】
【0046】
課題4)上記の多段棚による効果が期待できると、「コンパクトなガス化装置」が実現可能である。課題2の反応水低減による水蒸気発生装置の小型化、課題3のガス化効率上昇によるバイオマス原料供給量削減によるコンパクト化も期待できるが、多段棚による多段ガス化による反応管長の短縮化が最も大きな効果を生む。輻射外熱式では反応管壁からの輻射熱量でガス化能力が決まるが、棚板上の有機原料は浮遊することなく、積層した準静止状態でガス化するため、輻射熱は棚板上下の限られた範囲の反応管壁から受けることになる。よって、輻射必要面積を確保できるように、棚板上下の反応管長さL1,L2,L3を上述のように設定することで、十分なガス化能力を得ることができる。2段式の多段棚110を使用したガス化装置において、反応管104の内径D=0.3mを想定した場合、L1=0.3m、L2=0.3m,L3=0.15mとし、全長0.8m程度の反応管104で十分なガス化能力を得ることができる。特許文献1,2の反応管では、主として一次ガス化の後に浮遊未反応原料(主に固定炭素)が後流部に流れることに起因して10m以上の全長が必要であったことと比較すると、コンパクト化の顕著さは明らかである。
【0047】
上記と同様の設計思想、すなわち、「棚板の上下に一定反応管長さを確保する」という設計思想の下で棚板の段数を更に増加させていけば、反応管一本当たりのガス化能力はそれに応じて増大し、反応炉全体をコンパクトに纏めることが出来る。
【0048】
本願装置による生成ガスはH
2とCOの組成比率が高く、エンジン、タービン等のガス燃料に使用できるだけでなく、化学合成原料としての合成ガスとしても利用可能である。この場合、H
2/CO容積比は2/1が望ましい。この場合は反応温度を上げる、又は、ガス化反応炉の負荷(原料と水蒸気の供給量)を下げ、反応時間を大きくすることによって、H
2/CO容積比を大きくすることができる。
【0049】
反応管中間位置に有機原料を受けるための複数団の棚板を設け、ガス化剤/有機原料の供給量の比Rを1以下とした低反応水条件にすることによって、8mm等の粗粉体を含む有機原料粉体を外熱輻射式水蒸気改質反応でガス化することできる。有機原料となる粉体に8mm大の粗粉体が使用できることから、バイオマスの粉砕動力を大幅に削減でき、さらに、反応水の大幅削減によって、ガス化効率は80〜90%が見込める高性能ガス化装置が実現できる。また、生成ガスは外熱輻射方式の特長である高品質・高カロリー性状は保持され、ガス燃料としての用途に止まらず、液体燃料化学合成原料としての合成ガスとしても使用できる。
【0050】
上記実施形態に記載した装置やその要素の寸法、形状、配置、個数、材料、手順等は例示であり、他の態様も可能である。