【課題】紫外線照射下で緑色に発光し、幅広い基材にも印刷可能で、デザイン性に優れた印刷が可能なインクジェットインク組成物、インクジェットインクセット、蛍光検出方法、蛍光検出センサー、及び対象物の識別方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るインクジェットインク組成物は、色材(A)を含み、前記色材(A)は300〜400nmに極大吸収波長(a)を有し、前記インク組成物は、前記波長(a)の光を照射したときに発光し、発光強度が最大となる波長が500〜570nmの範囲に含まれる。
前記インク組成物をアセトニトリルにより重量換算で100倍に希釈し、セル長1cmの条件で測定したときの400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算が50以下である請求項1に記載のインク組成物。
前記色材(A)が、β−キノフタロン誘導体、2,5−ビス(ベンズオキサゾリル)チオフェン誘導体、クマリン誘導体、ビススチルベンゼン誘導体、ビス(ジフェニル)オキサゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、及び無機蛍光材料からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のインク組成物。
前記他のインク組成物をアセトニトリルにより重量換算で100倍に希釈し、セル長1cmの条件で測定したときの400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算が50以下である請求項13に記載のインクセット。
前記色材(D)が、希土類キレート化合物、希土類金属ハロゲン化合物、ピレン誘導体、クマリン誘導体、オキサゾール誘導体、2,5−ビス(ベンズオキサゾリル)ナフタレン誘導体、2,5−ビス(ベンズオキサゾリル)チオフェン誘導体、チアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、ピラリゾン誘導体、ベンジジン誘導体、スチルベン誘導体、ビススチルベンゼン誘導体、ビス(ジフェニル)オキサゾール誘導体、及び無機蛍光材料からなる群より選択される少なくとも1種である請求項13〜15のいずれか1項に記載のインクセット。
請求項1〜12のいずれか1項に記載のインク組成物の乾燥物又は請求項7〜10のいずれか1項に記載のインク組成物の硬化物に、300〜400nmの範囲に波長を有する光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記乾燥物又は前記硬化物から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、を含む蛍光検出方法。
請求項1〜12のいずれか1項に記載のインク組成物の乾燥物又は請求項7〜10のいずれか1項に記載のインク組成物の硬化物に、300〜400nmの範囲に波長を有する光を照射することにより前記乾燥物又は前記硬化物から発せられる蛍光を検出する蛍光検出センサー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のインク組成物に用いられる蛍光発光材料は非常に高価なものが多く、耐候性にも課題がある。また、印刷用紙の多くは蛍光増白剤が予め塗布されており、特許文献2〜4に記載のインクジェットインク組成物では、印刷後に紫外線照射下でも画像を認識することが困難であり、使用できる基材が限定されるという課題があった。
【0006】
また、単色で用いる場合は濃淡の表現しかできないという課題に対して、デザイン性のある画像を描くために複数のインクを有するインクセットである特許文献5では、蛍光材料を含むことが記載されているが、蛍光材料の色や発光波長は特定されておらず、多彩な色を有する印刷物を得るためには不十分である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、紫外線照射下で緑色に発光し、幅広い基材にも印刷可能で、デザイン性に優れた印刷が可能なインクジェットインク組成物、インクジェットインクセット、蛍光検出方法、蛍光検出センサー、及び対象物の識別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、下記の3点を見出し、本発明を完成させるに至った。第一に、紫外線照射下で発光し、発光強度が最大となる波長が500〜570nmに含まれることを特徴とするインクジェットインク組成物を用いることで、蛍光増白剤が塗布された印刷用紙を含め、より多くの基材に対して印刷した場合にも認識が可能となる。第二に、インク組成物が可視光下では認識できず、紫外線照射下で発光を有することで、例えば、画像が描かれているような意匠性を有する下地の上にも、可視光下では下地の意匠性を損なわずに印刷することが可能である。第三に、紫外線照射により青色や赤色に発光する従来のインク組成物と組み合わせることで、光の三原色を揃えたデザイン性に優れた画像を得られるインクセットとなる。
【0009】
即ち、本発明のインクジェットインク組成物は、色材(A)を含むインクジェットインク組成物であり、
前記色材(A)は300〜400nmに極大吸収波長(a)を有し、
前記インク組成物は、前記波長(a)の光を照射したときに発光し、発光強度が最大となる波長が500〜570nmの範囲に含まれる。
【0010】
本発明に係るインク組成物の好適例においては、前記インク組成物をアセトニトリルにより重量換算で100倍に希釈し、セル長1cmの条件で測定したときの400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算が50以下である。
【0011】
本発明に係るインク組成物の他の好適例においては、前記色材(A)が、β−キノフタロン誘導体、2,5−ビス(ベンズオキサゾリル)チオフェン誘導体、クマリン誘導体、ビススチルベンゼン誘導体、ビス(ジフェニル)オキサゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、及び無機蛍光材料からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0012】
本発明に係るインク組成物の他の好適例においては、前記色材(A)が、β−キノフタロン誘導体である。
【0013】
本発明に係るインク組成物の他の好適例においては、前記色材(A)が、3−(2−キノリルメチレン)イソインドリン−1−オンである。
【0014】
本発明に係るインク組成物の他の好適例において、前記インク組成物は、対象物の識別に用いられる。
【0015】
本発明に係るインク組成物の他の好適例において、前記インク組成物は、更に、重合性化合物(B)と光重合開始剤(C)とを含み、かつ、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である。
【0016】
本発明に係るインク組成物の他の好適例においては、前記重合性化合物(B)が、ラジカル重合性化合物である。
【0017】
本発明に係るインク組成物の他の好適例においては、前記重合性化合物(B)が、アミノアクリレートを含む。
【0018】
本発明に係るインク組成物の他の好適例では、前記インク組成物において、アミノアクリレートの含有量が0.5〜10質量%である。
【0019】
本発明に係るインク組成物の他の好適例において、前記インク組成物は、更に、有機溶剤(E)及び/又は水と樹脂(F)とを含む。
【0020】
本発明に係るインク組成物の他の好適例において、前記インク組成物は、更に、有機溶剤(E)と水と樹脂(F)とを含み、
前記樹脂(F)は、アクリロニトリル由来の構成単位を含むアクリル樹脂である。
【0021】
本発明に係るインクジェットインクセットは、前記インク組成物と、他のインクジェットインク組成物とを含むインクジェットインクセットであり、
前記他のインク組成物は、色材(D)を含み、
前記色材(D)は300〜400nmに極大吸収波長(d)を有し、
前記他のインク組成物は、前記波長(d)の光を照射したときに発光し、発光強度が最大となる波長が400nm以上500nm未満の範囲、又は570nm超800nm以下の範囲に含まれる。
【0022】
本発明に係るインクセットの好適例においては、前記他のインク組成物をアセトニトリルにより重量換算で100倍に希釈し、セル長1cmの条件で測定したときの400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算が50以下である。
【0023】
本発明に係るインクセットの他の好適例において、
前記色材(A)は300〜400nmに吸収波長域r
Aを有し、
前記色材(D)は300〜400nmに吸収波長域r
Dを有し、
吸収波長域r
Aの少なくとも一部と吸収波長域r
Dの少なくとも一部とが重複吸収波長域r
ADにおいて重複し、
前記色材(A)を含む前記インク組成物及び前記色材(D)を含む前記他のインク組成物は、重複吸収波長域r
ADの光を照射したときに発光する。
【0024】
本発明に係るインクセットの他の好適例においては、前記色材(D)が、希土類キレート化合物、希土類金属ハロゲン化合物、ピレン誘導体、クマリン誘導体、オキサゾール誘導体、2,5−ビス(ベンズオキサゾリル)ナフタレン誘導体、2,5−ビス(ベンズオキサゾリル)チオフェン誘導体、チアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、ピラリゾン誘導体、ベンジジン誘導体、スチルベン誘導体、ビススチルベンゼン誘導体、ビス(ジフェニル)オキサゾール誘導体、及び無機蛍光材料からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0025】
本発明に係るインクセットの他の好適例において、前記インク組成物及び前記他のインク組成物の各々は、更に、重合性化合物(B)と光重合開始剤(C)とを含み、かつ、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である。
【0026】
本発明に係るインクセットの他の好適例においては、前記重合性化合物(B)が、ラジカル重合性化合物である。
【0027】
本発明に係るインクセットの他の好適例においては、前記重合性化合物(B)が、アミノアクリレートを含む。
【0028】
本発明に係るインクセットの他の好適例では、前記インク組成物及び前記他のインク組成物の各々において、アミノアクリレートの含有量が0.5〜10質量%である。
【0029】
本発明に係るインクセットの他の好適例において、前記インク組成物及び前記他のインク組成物の各々は、更に、有機溶剤(E)及び/又は水と樹脂(F)とを含む。
【0030】
本発明に係るインクセットの他の好適例において、前記インク組成物及び前記他のインク組成物の各々は、更に、有機溶剤(E)と水と樹脂(F)とを含み、
前記樹脂(F)は、アクリロニトリル由来の構成単位を含むアクリル樹脂である。
【0031】
本発明に係る蛍光検出方法は、前記インク組成物の乾燥物又は活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である前記インク組成物の硬化物に、300〜400nmの範囲に波長を有する光の照射を行う光照射工程と、
前記光の照射により前記乾燥物又は前記硬化物から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、を含む。
【0032】
本発明に係る蛍光検出センサーは、前記インク組成物の乾燥物又は活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である前記インク組成物の硬化物に、300〜400nmの範囲に波長を有する光を照射することにより前記乾燥物又は前記硬化物から発せられる蛍光を検出する。
【0033】
本発明に係る対象物の識別方法は、前記インク組成物の乾燥物又は活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である前記インク組成物の硬化物を用いて前記対象物に記録された識別情報の検出を行う識別情報検出工程を含み、
前記識別情報の検出は、300〜400nmの範囲に波長を有する光を前記対象物に照射することにより前記乾燥物又は前記硬化物から発せられる蛍光を検出することによって行う。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、幅広い基材上でも紫外線照射下で認識可能であり、比較的安価で耐候性も良好なインク組成物、及びデザイン性にも優れたインクセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本発明のインクジェットインク組成物、及びインクセットを詳細に説明する。本発明のインクジェットインク組成物、は、色材(A)を含むインクジェットインク組成物であり、
前記色材(A)は300〜400nmに極大吸収波長(a)を有し、
前記インク組成物は、前記波長(a)の光を照射したときに発光し、発光強度が最大となる波長が500〜570nmの範囲に含まれることを特徴とする。
【0036】
本発明のインクジェットインク組成物は、印刷物に紫外線照射することで、可視光部に発光を有することを目的としているため、300〜400nmに色材(A)に由来する極大吸収波長(a)を持ち、インク組成物に該吸収波長の光を照射したときに色材(A)に由来する発光を生じ、発光強度が最大となる波長が500〜570nmの範囲に含まれる必要がある。印刷物にブラックライト等の紫外線を照射して発光させたときの発光強度が最大となる波長が可視光部の中でも500〜570nmに含まれると緑色に発色するため、本発明のインクジェットインク組成物は、蛍光増白剤が塗布された基材上でも紫外線照射下で認識可能となる。
【0037】
本発明のインクジェットインク組成物に用いられる色材(a)は、ブラックライト等の紫外線照射下で、可視光部に発光を有することを目的としているため、300〜400nmに極大吸収波長(a)を有する必要がある。なお、極大吸収波長は紫外・可視分光光度計で測定することが出来る。
【0038】
本発明の極大吸収波長の測定方法では、色材をアセトニトリルにより重量換算で50000倍に希釈し試験溶液とした。得られた試験溶液について、UV−3100PC(島津製作所社製)、セル長1cmの石英セルを用いて、300〜400nmの吸光度を測定し、得られたスペクトルより極大の吸光度を有する波長を極大吸収波長とした。
【0039】
本発明のインクジェットインク組成物は、紫外線照射下で緑色に発光することを目的としているため、前記吸収波長(a)の光を照射したときに色材(A)に由来する発光を生じ、発光強度が最大となる波長が500〜570nmに含まれる必要がある。色材(A)に由来する発光強度が最大となる波長が500nm未満では青色が強い発光となり、570nmを超えると黄色が強い発光となり、インクセットにした際に十分な色域が再現不可能である。なお、発光強度が最大となる波長は蛍光分光光度計によって測定することが出来る。
【0040】
本発明の発光強度が最大となる波長の測定方法では、インク組成物をアセトニトリルにより重量換算で1000倍に希釈し試験溶液とした。得られた試験溶液について、Fluorolog R−3(HORIBA Jobin Yvon社製)、セル長1cmの石英セルを用いて、上述の「本発明の極大吸収波長の測定方法」で求めた極大吸収波長で光励起させ400〜800nmの発光強度を測定し、得られたスペクトルより発光強度が最大となる波長を求めた。
【0041】
インクジェットインク組成物は、可視光下では認識できず、紫外線照射下で発光するため認識可能となることが好ましく、400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算が50以下であることが好ましく、35以下であることがより好ましく、25以下であることが更により好ましい。400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算が50以下であると、印刷部が着色しにくいため可視光下で印刷部が認識可能となりにくく、下地の意匠を損ないにくい。上記積算の下限は特に限定されず、上記積算は、例えば、0.1以上であり、典型的には1以上であり、より典型的には10以上である。なお、400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算は可視分光光度計で測定することが出来る。
【0042】
本発明の400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算の測定方法では、インク組成物をアセトニトリルにより重量換算で100倍に希釈し試験溶液とする。得られた試験溶液について、セル長1cmの条件で、具体的には、UV−3100PC(島津製作所社製)、セル長1cmの石英セルを用いて、400〜800nmの範囲を1nm毎に吸光度を測定し、得られたスペクトルより400〜800nmの範囲の1nm毎の吸光度を全て足しあわせて、400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算を求めることができる。
【0043】
本発明のインクジェットインク組成物に用いる色材(A)は、紫外線照射下で緑色の発光を有する材料であり、300〜400nmに極大吸収波長(a)を有する必要がある。また、前記波長(a)の光を照射したときに発光し、発光波長が最大となる波長が500〜570nmに含まれる必要がある。
【0044】
色材(A)の含有量としては、発色性の観点からインクジェットインク組成物中に0.005〜5質量%が好ましく、0.01〜1質量%がより好ましく、0.1〜0.3質量%が更により好ましい。色材(A)の含有量が0.005質量%以上では紫外線照射下で十分な発色が得られやすく、5質量%以下であれば含有量の増加に応じて発光強度が増加しやすい。
【0045】
色材(A)の具体例としては、β−キノフタロン誘導体、2,5−ビス(ベンズオキサゾリル)チオフェン誘導体、クマリン誘導体、ビススチルベンゼン誘導体、ビス(ジフェニル)オキサゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、無機蛍光材料が挙げられる。これらの中でも、発色性の観点から、β−キノフタロン誘導体が好ましく、3−(2−キノリルメチレン)イソインドリン−1−オンであることがより好ましい。なお、色材(A)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
本発明のインクジェットインクセットにおいて、他のインクジェットインク組成物に用いる色材(D)は、紫外線照射下で緑色以外の発光を有する材料であり、300〜400nmに極大吸収波長(d)を有する必要がある。また、前記波長(d)光を照射したときに発光し、発光波長が最大となる波長が400nm以上500nm未満の範囲、又は570nm超800nm以下の範囲に含まれる必要がある。
【0047】
色材(D)の含有量としては、発色性の観点から、他のインクジェットインク組成物中に0.005〜5質量%が好ましく、0.01〜1質量%がより好ましく、0.1〜0.3質量%が更により好ましい。色材(D)の含有量が0.005質量%以上では紫外線照射下で十分な発色が得られやすく、5質量%以下であれば含有量の増加に応じて発光強度が増加しやすい。
【0048】
色材(D)の具体例としては、希土類キレート化合物、希土類金属ハロゲン化合物、ピレン誘導体、クマリン誘導体、オキサゾール誘導体、2,5−ビス(ベンズオキサゾリル)ナフタレン誘導体、2,5−ビス(ベンズオキサゾリル)チオフェン誘導体、チアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、ピラリゾン誘導体、ベンジジン誘導体、スチルベン誘導体、ビススチルベンゼン誘導体、ビス(ジフェニル)オキサゾール誘導体、無機蛍光材料が挙げられる。これらの中でも、発色性の観点から、希土類キレート化合物、2,5−ビス(ベンズオキサゾリル)ナフタレン誘導体、及び2,5−ビス(ベンズオキサゾリル)チオフェン誘導体が好ましい。なお、色材(D)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
前記インクジェットインク組成物は、一実施形態において、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物、即ち、紫外線等の活性エネルギー線の照射により硬化させることができるインクジェットインク組成物である。本発明に係るインクジェットインク組成物は、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である場合、更に、重合性化合物(B)と光重合開始剤(C)とを含む。本発明において、重合性化合物とは、エチレン性不飽和基を有する化合物であり、活性エネルギー線の照射によりエチレン性不飽和基(例えばアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基又はアリル基を構成する炭素−炭素二重結合)を介して重合反応を起こす化合物である。中でも、反応性等の観点で、アクリレート、メタアクリレート等のラジカル重合性化合物が好ましい。また、重合性化合物(B)の含有量は、粘度調整、インクの硬化性、塗膜の柔軟性、及び塗膜の硬度の観点から、インクジェットインク組成物中に50〜99質量%であることが好ましく、70〜97質量%がより好ましく、90〜95質量%が更により好ましい。
【0050】
重合性化合物(B)の具体例としては、ステアリルアクリレート、アクリロイルモルホリン、トリデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、デシルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、イソオクチルアクリレート、オクチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、N−ビニルカプロラクタム、イソアミルアクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート、EO(エチレンオキシド)変性2−エチルヘキシルアクリレート、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルイミダゾール、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、(2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチルアクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、ビニロキシエトキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、6−ヒドロキシヘキシルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジアクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,8−オクタンジオールジアクリレート、1,7−ヘプタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、PO(プロピレンオキシド)変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、EO変性ジグリセリンテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びEO変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが挙げられる。これらの中でも、反応性等の観点で、フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、ビニロキシエトキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、PO(プロピレンオキシド)変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びEO変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。なお、重合性化合物(B)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
また、重合性化合物(B)は、印刷層の強度を上げるため、アクリレートオリゴマーを含んでもよい。アクリレートオリゴマーとは、アクリロイルオキシ基(CH
2=CHCOO−)を一つ以上有するオリゴマーであり、官能基数は2〜6であることが好ましい。また、アクリレートオリゴマーは、分子量が2000〜20000であることが好ましい。なお、該分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量である。そして、アクリレートオリゴマーの具体例としては、アミノアクリレートオリゴマー[アミノ基(−NH
2)を複数持つアクリレートオリゴマー]、ウレタンアクリレートオリゴマー[ウレタン結合(−NHCOO−)を複数持つアクリレートオリゴマー]、エポキシアクリレートオリゴマー[エポキシ化合物由来のアクリレートオリゴマー]、シリコーンアクリレートオリゴマー[シロキサン結合(−SiO−)を複数持つアクリレートオリゴマー]、エステルアクリレートオリゴマー[エステル結合(−COO−)を複数持つアクリレートオリゴマー]及びブタジエンアクリレートオリゴマー[ブタジエン単位を複数持つアクリレートオリゴマー]等が挙げられる。これらの中でも、耐候性、及び硬化性を向上する観点から、ウレタンアクリレートオリゴマー、及びアミノアクリレートオリゴマーが好ましい。なお、アクリレートオリゴマーの含有量は、インク組成物の全質量中0.5〜10質量%が好ましい。アクリレートオリゴマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
更に、重合性化合物(B)は硬化性を向上する観点からアミノアクリレートを含むことが好ましい。アミノアクリレートの具体例としてはEBECRYL 7100(ダイセル・オルネクス社製)等が挙げられる。なお、アミノアクリレートの含有量は、硬化性向上の観点から、インク組成物の全質量中0.5〜10質量%が好ましく、0.7〜5質量%が好ましく、1〜3質量%が好ましい。アミノアクリレートは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
本発明のインクジェットインク組成物が活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である場合、光重合開始剤(C)は、活性エネルギー線を照射することで、上述した重合性化合物の重合を開始させる作用を有する。前記光重合開始剤(C)の含有量は、該インク組成物の全質量中1〜25質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、3〜7質量%であることが更により好ましい。上記光重合開始剤(C)の含有量が1質量%以上では、印刷物が硬化不良となりにくく、25質量%以下であると、低温時に析出物が発生しにくくインク組成物の吐出が不安定になりにくい。光重合開始剤(C)の開始反応を促進させるため、光増感剤等の助剤を併用することも可能である。
【0054】
前記光重合開始剤(C)としては、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、フォスフィンオキサイド系化合物等が挙げられ、硬化性の観点から、照射する活性エネルギー線の波長と光重合開始剤の吸収波長ができるだけ重複するものが好ましい。
【0055】
前記光重合開始剤(C)の具体例としては、
2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、
ベンゾフェノン、
1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、
2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、
フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、
2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、
2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、
2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、
ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、
ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、
2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、
1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]、
エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)、
2,4−ジエチルチオキサントン、
2−イソプロピルチオキサントン、
2−クロロチオキサントン等が挙げられる。これらの中でも、インクの硬化性の観点から、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、及びビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドが好ましく、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイドが特に好ましい。なお、光重合開始剤(C)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
上記インクジェットインク組成物は、特に、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である場合、光安定剤を更に含有してもよい。光安定剤は、紫外線を吸収し、紫外線による劣化を防止する作用を有する。光安定剤としては、シアノアクリレート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、ベンジリデンカンファー系化合物、無機微粒子等が挙げられ、中でも、紫外線吸収がより短波長にあるヒドロキシフェニルトリアジン系化合物がインクの硬化性の観点から好ましい。硬化性の観点から、照射する活性エネルギー線の波長と光安定剤の吸収波長が出来るだけ重複しないものが好ましい。なお、光安定剤の含有量は、インク組成物の全質量中0.01〜15質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることが更に好ましい。該光安定剤の含有量が0.01質量%以上では、充分な紫外線の吸収効果が得られやすく、15質量%以下であると、印刷層の硬化性が低くなりにくい。
【0057】
前記光安定剤の具体例としては、
2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、
2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、
2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルフォニックアシッド、
2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、
2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシベンゾフェノン−2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、
ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、
2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、
2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、
2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、
2―ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、
2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−(ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、
2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、
2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、
2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2,2’−メチレン−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、
メチル−3−[3−t−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネートとポリエチレングリコールとの縮合物、
2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、
2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、
2,6−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、
ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。光安定剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
前記インクジェットインク組成物は、特に、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である場合、重合禁止剤を更に含有してもよい。重合禁止剤は、インク組成物中に発生する活性ラジカルと反応し、重合反応が起こることを防止する機能を有する。また、インクジェットインク組成物に重合禁止剤を配合すると、更に保存安定性を向上させることができる。上記重合禁止剤の含有量は、インクの全質量中0.001〜5質量%であることが好ましく、0.001〜1質量%であることが更に好ましい。上記重合禁止剤の含有量が0.001質量%以上では、保存安定性の向上効果が十分に得られやすく、5質量%以下であると、印刷層の硬化性は維持しやすく低下しにくい。
【0059】
前記重合禁止剤としては、ハイドロキノン系化合物、フェノール系化合物、フェノチアジン系化合物、ニトロソ系化合物、N−オキシル系化合物等が挙げられる。
【0060】
前記重合禁止剤の具体例としては、フェノール、o−、m−又はp−クレゾール、2−t−ブチル−4−メチルフェノール、6−t−ブチル−2,4−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−t−ブチルフェノール、4−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2−メチル−4−t−ブチルフェノール、4−t−ブチル−2,6−ジメチルフェノール等のフェノール系化合物、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、メチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2−メチル−p−ハイドロキノン、2,3−ジメチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン4−メチルベンズカテキン、t−ブチルハイドロキノン、3−メチルベンズカテキン、2−メチル−p−ハイドロキノン、2,3−ジメチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、ベンゾキノン、t−ブチル−p−ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン等のハイドロキノン系化合物、フェノチアジン等のフェノチアジン系化合物、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等のニトロソ系化合物、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル系化合物等が挙げられる。これらの中でも、ヒドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩が、保存安定性の向上効果と硬化性の維持の観点から好ましい。なお、重合禁止剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
前記インクジェットインク組成物は、別の実施形態において、水系又は溶剤系のインクジェットインク組成物である。本発明に係るインクジェットインク組成物は、水系又は溶剤系のインクジェットインク組成物である場合、更に、有機溶剤(E)及び/又は水と樹脂(F)とを含む。
【0062】
有機溶剤(E)及び水は、前記インクジェットインク組成物において、分散媒として機能する。有機溶剤(E)としては、特に限定されず、例えば、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶剤;ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;1,3−ブタンジオール等のアルカンジオール系溶剤等が好適に用いられ、中でも、乾燥性及び溶解性の観点から、1,3−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、ブチルジグリコール、又はジエチルジグリコールが好ましい。有機溶剤(E)、水、又はこれらの組み合わせの含有量は、吐出安定性及び乾燥性の観点から、インクジェットインク組成物中、80.0〜99.9質量%であることが好ましく、85.0〜99.0質量%であることがより好ましい。有機溶剤(E)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
樹脂(F)は、前記インクジェットインク組成物において、バインダーとして機能する。樹脂(F)としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等が好適に用いられ、中でも、塗膜物性の観点から、塩化ビニル樹脂又はアクリル樹脂が好ましい。樹脂(F)の含有量は、吐出安定性及び塗膜物性の観点から、インクジェットインク組成物中、0.1〜20.0質量%であることが好ましく、1.0〜15.0質量%であることがより好ましい。樹脂(F)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
特に、上記インクジェットインク組成物が水を含む場合、樹脂(F)としては、アクリル樹脂がより好ましい。また、アクリル樹脂は、発色性の観点から、アクリロニトリル由来の構成単位、アクリル酸由来の構成単位、メタクリル酸由来の構成単位、スチレン由来の構成単位等を含むことが好ましく、アクリロニトリル由来の構成単位を含むことがより好ましい。より具体的には、物性に優れる塗膜を与えるエマルションインクを得やすいことから、インクジェットインク組成物は、水系又は溶剤系のインクジェットインク組成物である場合、更に、有機溶剤(E)と水と樹脂(F)とを含み、前記樹脂(F)は、アクリロニトリル由来の構成単位を含むアクリル樹脂であることが好ましい。
【0065】
上記インクジェットインク組成物には、その他の成分として、着色剤、分散剤、酸化防止剤、表面調整剤、可塑剤、防錆剤、溶剤、非反応性ポリマー、充填剤、pH調整剤、消泡剤、荷電制御剤、応力緩和剤、浸透剤、導光材、光輝材、磁性材、乳化剤等の添加剤を必要に応じて使用してもよい。
【0066】
本発明に係るインクジェットインクセットは、上記インクジェットインク組成物と、他のインクジェットインク組成物とを含む。他のインクジェットインク組成物は、1種以上で用いられ、印刷のデザイン性等の観点から、2種以上で用いられることが好ましい。他のインクジェットインク組成物は、色材(A)の代わりに、色材(D)を含む以外は、本発明に係るインクジェットインクセットと同様の組成を有してもよい。
【0067】
上記他のインクジェットインク組成物は、印刷のデザイン性等の観点から、紫外線照射下で青色又は赤色に発光することが好ましく、紫外線照射下で発光し、発光強度が最大となる波長が400nm以上500nm未満の範囲、又は570nm超800nm以下の範囲に含まれることがより好ましく、紫外線照射下で発光し、発光強度が最大となる波長が400nm以上500nm未満の範囲に含まれる第1の他のインクジェットインク組成物と、紫外線照射下で発光し、発光強度が最大となる波長が570nm超800nm以下の範囲に含まれる第2の他のインクジェットインク組成物とを含むことが更により好ましい。
【0068】
上記インクセットは、発光の効率等の観点から、いずれのインクジェットインク組成物も、同一波長の紫外線を照射したときに同時に発光することが好ましい。具体的には、前記色材(A)は300〜400nmに吸収波長域r
Aを有し、前記色材(D)は300〜400nmに吸収波長域r
Dを有し、吸収波長域r
Aの少なくとも一部と吸収波長域r
Dの少なくとも一部とが重複吸収波長域r
ADにおいて重複し、前記色材(A)を含む前記インク組成物及び前記色材(D)を含む前記他のインク組成物は、重複吸収波長域r
ADの光を照射したときに発光することが好ましい。ここで、吸収波長域とは、色材の300〜400nmにおける極大吸収波長の吸光度をA
maxとして、(A
max×0.5)となる範囲の波長域を意味する。なお、極大吸収波長の吸光度及び吸収波長域は、上述の「本発明の極大吸収波長の測定方法」に記載の方法で測定することができる。
【0069】
上記他のインクジェットインク組成物は、印刷のデザイン性等の観点から、可視光下では認識できず、紫外線照射下で発光するため認識可能となることが好ましく、400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算が50以下であることが好ましく、35以下であることがより好ましく、25以下であることが更により好ましい。400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算が50以下であると、印刷部が着色しにくいため可視光下で印刷部が認識可能となりにくく、また下地の意匠を損ないにくい。上記積算の下限は特に限定されず、上記積算は、例えば、0.1以上であり、典型的には1以上であり、より典型的には10以上である。なお、上記他のインク組成物について上記積算を測定する方法は、本発明に係るインク組成物について同様の積算を測定する方法について前述したのと同様である。
【0070】
インク組成物中又は他のインク組成物に粒子が存在する場合、吐出安定性の観点から、インク中に分散している粒子は、体積平均粒子径が0.05〜0.4μmであり、かつ、体積最大粒子径が0.2〜1μmであることが好ましい。体積平均粒子径が0.4μm以下であり、かつ、体積最大粒子径が1μm以下であると、インクを安定に吐出することが困難となりにくい。なお、本明細書において、体積平均粒子径及び体積最大粒子径は、動的光散乱法により測定されるものをいい、具体的には、動的光散乱法を用いた測定機器によって測定できる。
【0071】
上記インク組成物及び他のインク組成物は、それぞれ前記色材(A)及び前記色材(D)と、必要に応じて適宜選択される各種成分とを混合し、必要に応じて、使用するインクジェットプリントヘッドのノズル径の約1/10以下のポアサイズを持つフィルターを用い、得られた混合物を濾過することによって、調製できる。
【0072】
上記インク組成物は、その40℃における粘度が、5〜25mPa・sであることが好ましく、5〜15mPa・sであることが更に好ましい。40℃におけるインク粘度が上記特定した範囲内にあれば、良好な吐出安定性が得られやすい。なお、本明細書において、インク粘度は、レオメーター(Antonpaar社製MCR301)を用いて40℃、ずり速度100s
−1にて測定されるものをいう。
【0073】
本発明のインク組成物及びインクセットによる印刷は、種々のインクジェットプリンタを使用して実施することができる。インクジェットプリンタとしては、例えば、荷電制御方式又はピエゾ方式によりインク組成物を噴出させるインクジェットプリンタを挙げることができ、1パスの印刷あるいはマルチパスの印刷を行うことができる。また、本発明のインクジェットインク組成物は、紫外線照射条件下で発光するため、壁紙等の屋内用物品に印刷することを目的としたインクジェットプリンタによる印刷に好適に適用できる。
【0074】
本発明のインクジェットインク組成物が活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である場合、上記インク組成物を用いてインクジェットプリンタによる印刷を行った後、印刷面に活性エネルギー線を照射して、インク組成物を硬化させることによって印刷物を形成することができる。上記インクジェットインク組成物の硬化に用いられる活性エネルギー線源としては、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、色素レーザー、LEDランプ等の紫外線源、並びに電子線加速装置等が使用できる。活性エネルギー線の波長は、硬化の効率等の観点から、光重合開始剤(C)の吸収波長と重複していることが好ましく、具体的には、活性エネルギー線の主波長が、360〜425nmであることが好ましい。活性エネルギー線の照射エネルギー量(積算光量)は、硬化性の観点から、200〜2,000mJ/cm
2であることが好ましい。
【0075】
本発明の印刷物は、紫外線照射下での発光を目的としており、発光の効率等の観点から、該紫外線は300〜400nmであることが好ましく、例えばピーク波長が365nmのブラックライト等を用いることがより好ましい。
【0076】
本発明に係るインクジェットインク組成物は、対象物の識別に好適に用いることができる。詳細は、本発明に係る、対象物の識別方法について後述する通りである。具体的には、本発明に係るインク組成物は、偽造の防止、トレーサビリティー情報の管理等に好適に用いることができる。
【0077】
本発明に係る蛍光検出方法は、本発明に係るインク組成物の乾燥物、又は本発明に係るインク組成物が活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である場合には、該活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の硬化物に、300〜400nmの範囲に波長を有する光の照射を行う光照射工程と、前記光の照射により前記乾燥物又は前記硬化物から発せられる蛍光を検出する蛍光検出工程と、を含む。上記蛍光検出方法は、例えば、上記乾燥物又は上記硬化物からなる印刷層を有する印刷物において、上記乾燥物又は上記硬化物の形状、領域等を検出することに用いられる。上述の光照射工程及び蛍光検出工程を行う方法としては、特に限定されず、例えば、目視、蛍光分光光度計、本発明に係る蛍光検出センサー等を用いて行うことができる。
【0078】
本発明に係る蛍光検出センサーは、本発明に係るインク組成物の乾燥物、又は本発明に係るインク組成物が活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である場合には、該活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の硬化物から発せられる蛍光を検出する蛍光検出センサーであって、前記蛍光は、300〜400nmの範囲に波長を有する光を前記乾燥物又は前記硬化物に照射することにより前記乾燥物又は前記硬化物から発せられる。上記蛍光検出センサーは、上記蛍光検出方法と同様に、例えば、上記乾燥物又は上記硬化物からなる印刷層を有する印刷物において、上記乾燥物又は上記硬化物の形状、領域等を検出することに用いられる。センサー素子としては、特に限定されず、蛍光の検出に用いられる公知のセンサー素子を用いることができる。
【0079】
本発明に係る、対象物の識別方法は、本発明に係るインク組成物の乾燥物、又は本発明に係るインク組成物が活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物である場合には、該活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物の硬化物を用いて前記対象物に記録された識別情報の検出を行う識別情報検出工程を含み、前記識別情報の検出は、300〜400nmの範囲に波長を有する光を前記対象物に照射することにより前記乾燥物又は前記硬化物から発せられる蛍光を検出することによって行う。識別情報としては、例えば、紙幣、金券等に記録された偽造防止コード;食料品の包装等に記録されたトレーサビリティー情報等が挙げられる。上記方法においては、識別情報は、上記乾燥物又は上記硬化物を用いて対象物に記録されているため、可視光下では認識できず、紫外線照射下で初めて認識可能となる。よって、識別情報を改ざんしにくいため、紙幣、金券等の偽造防止や、トレーサビリティー情報の適切な管理等を有効に行うことができる。上記識別方法の結果、真の識別情報が検出された場合には、対象物は、真正品、正規品等と判定することができ、真の識別情報が検出されなかったり、そもそも識別情報そのものが検出されなかったりした場合には、対象物は、偽造品、非正規品等と判定することができる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0081】
<インクの調整方法>
表1又は2に示す配合処方に従い、撹拌しながら各原料を混合した。2時間の撹拌の後、完全に溶解したことを確認し、混合物をフィルターでろ過し、インク1〜11を調製した。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
1)3−[(キノリン−2−イル)メチリデン]イソインドリン−1−オン
2)2,5−ビス(t−ブチルベンゾキサゾリル)チオフェン
3)ユウロピウム(III)テノイルトリフルオロアセトナート
4)アミノアクリレート(ダイセルオルネクス株式会社)
5)光重合開始剤(BASFジャパン株式会社)
6)表面調整剤(ビックケミージャパン株式会社)
7)光安定剤(BASFジャパン株式会社)
8)ポリビニルピロリドンK−30(株式会社日本触媒)
9)<エマルションの合成方法>
フラスコに水600g、ネオペレックスNo6(花王社製ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)10g、エマルゲンLS−114(花王社製高級アルコール系エーテル)5.5gを投入し撹拌しながら、上記フラスコの内温を80℃まで昇温させた。一方、スチレン252g、アクリロニトリル108g、アクリル酸40gを混合して単量体混合物を得た後、過硫酸カリウム3.5gを80℃に保った上記フラスコに投入し、上記単量体混合物を分液ロートから撹拌下3時間で上記フラスコに滴下した。その後、1時間かけて重合を完結させ、粒子径0.1μmのエマルションを合成した。
10)表面調整剤(ビックケミージャパン株式会社)
【0085】
<極大吸収波長と吸収波長域の測定方法>
各蛍光色材0.010gをアセトニトリルに溶解して10.000gとし、得られた希釈溶液0.200gをアセトニトリルに溶解し10.000gとし試験溶液を得た。得られた試験溶液をUV−3100PC(島津製作所社製)、セル長1cmの石英セルを用いて、300〜400nmの吸光度を測定し、極大吸収波長と吸収波長域を求めた。結果を表3に示す。
【0086】
<印刷物の作製方法>
実施例1、2、及び6、並びに比較例1及び2
インク1〜4として示す各インク組成物を、インクジェットプリンタを用いて、表5又は6に示す条件(基材及び印刷濃度)で平均塗布量6.0〜7.0g/m
2で印刷し、直後にメタルハライドランプ(800mW/cm
2、200mJ/cm
2)を照射し硬化させ、印刷物を得た。
【0087】
実施例3〜5、7、及び8、並びに比較例3〜6
インク5〜10として示す各インク組成物を、インクジェットプリンタを用いて、表5又は6に示す条件(基材及び印刷濃度)で平均塗布量6.0〜7.0g/m
2で印刷し、乾燥させ、印刷物を得た。
【0088】
<発光強度が最大となる波長の測定方法>
各インク組成物0.100gをアセトニトリルに溶解し10.000gとし、得られた希釈溶液1.000gをアセトニトリルに溶解し10.000gとし試験溶液を得た。得られた試験溶液をFluorolog R−3(HORIBA Jobin Yvon社製)、セル長1cmの石英セルを用いて、上述の<極大吸収波長と吸収波長域の測定方法>で求めた極大吸収波長で光励起させ400〜800nmの発光強度を測定し、発光強度が最大となる波長を求めた。結果を表4に示す。
【0089】
<400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算の測定方法>
各インク組成物0.100gをアセトニトリルに溶解し10.000gとし試験溶液とした。得られた試験溶液をUV−3100PC(島津製作所社製)、セル長1cmの石英セルを用いて、400〜800nmの範囲を1nm毎に吸光度を測定し、400〜800nmにおける1nm毎の吸光度の積算を求めた。結果を表4に示す。
【0090】
<表面タック性>
得られた印刷物に対して、指触し目視によって、下記の評価基準に基づいて評価を行った。結果を表4に示す。
◎:指触硬化していて、ベタつき感もなし。
○:指触硬化しているが、ベタつき感が残る。
×:指触硬化しておらず、指触した部分に擦過痕が残る。
【0091】
<紫外線照射下での外観評価>
紫外線照射下での印刷物の外観については、暗室で印刷物にブラックライト(アズワン社製UVランプ、ピーク波長365nm)を照射して目視によって、下記の評価基準に基づいて評価を行った。結果を表5及び6に示す。
○:印刷部の認識が可能。
△:印刷部の認識は可能であるが、困難。
×:印刷部の認識が不可能。
【0092】
<耐候性評価>
印刷物に対して、ブラックライトブルーランプ(三共電気社製)を用いてピーク強度360nmの紫外線を168時間継続して照射し促進試験を実施した。試験前後の印刷物の発光強度を測定し、下記の評価基準に基づいて評価した。なお、発光強度はFluorolog R−3(HORIBA Jobin Yvon社製)を用いて、求めた。結果を表5に示す。
○:(試験後の発光強度/試験前の発光強度)が70%以上。
×:(試験後の発光強度/試験前の発光強度)が70%未満。
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
11)アルティマグロスWX(日本製紙株式会社)
12)両面マット紙(IJ1001−A4)(株式会社SO−KEN)
【0098】
表5から明らかなように、紫外線照射下で発光し、発光強度が最大となる波長が500〜570nmの範囲に含まれるインクジェットインク組成物を用いることで、蛍光増白剤が塗布された印刷用紙を含め、より多くの基材に対して印刷が可能となり、耐候性も十分な印刷物を得ることができた(実施例1及び3〜5)。更に、アミノアクリレートを含む場合は、表面タック性に特に優れる印刷物を得ることができた(実施例2)。
【0099】
一方、紫外線照射下で青色に発光する比較例1、3、又は5は蛍光増白剤が含まれる塗工紙上では、紫外線照射下でも基材の発光と同調して認識不可能であった。更に、紫外線照射で赤色に発光する比較例2、4、又は6は、耐候性が著しく悪い結果であった。
【0100】
また、表6から明らかなように2種類以上のインク組成物を組み合わせたインクセットとした際に、単色では表現できなかった色が再現可能となり、光の三原色であるRGBを揃えることで、より多彩な色が発現可能となった。(実施例6〜8)