特開2018-95763(P2018-95763A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-95763(P2018-95763A)
(43)【公開日】2018年6月21日
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20180525BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20180525BHJP
   B60C 1/00 20060101ALN20180525BHJP
【FI】
   C08L23/00
   C08L21/00
   B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-243066(P2016-243066)
(22)【出願日】2016年12月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】由里 貴史
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC001
4J002AC01
4J002AC031
4J002AC033
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002BB052
4J002BB142
4J002BB152
4J002BB172
4J002BC053
4J002DA038
4J002DJ016
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD09
4J002FD140
4J002FD150
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】タイヤのWET性能と剛性とがバランス良く向上した加硫ゴムの原料となり、加工性に優れたゴム組成物を提供すること。
【解決手段】ゴム成分の全量を100質量部としたとき、Tgが−40〜20℃であり、かつ完全非晶質のオレフィン系エラストマーを1〜40質量部含有することを特徴とするゴム組成物。さらに液状ゴムを1〜40質量部含有することが好ましく、ゴム成分として末端変性ポリスチレンブタジエンゴムを含有することが好ましく、補強性充填剤としてシリカを含有することが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分の全量を100質量部としたとき、Tgが−40〜20℃であり、かつ完全非晶質のオレフィン系エラストマーを1〜40質量部含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
さらに液状ゴムを1〜40質量部含有する請求項1に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れたゴム組成物に関し、かかるゴム組成物は剛性およびWET性能に優れたタイヤ用加硫ゴムの原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤは様々な走行環境で使用され、例えば雨の中、湿潤路面でのグリップ性能であるWET性能を改良することが求められる。かかるWET性能の向上を目的としてゴム組成物の配合設計を行った場合、得られる加硫ゴムの剛性が低下する場合があり、その結果、例えばタイヤの操縦安定性が悪化する場合があった。つまり、タイヤのWET性能と剛性とは二律背反の関係にあり、これらをバランス良く向上させる技術が求められていた。
【0003】
下記特許文献1では、空気入りタイヤの低発熱性と高モジュラスとの両立を図ることを目的として、ジエン系ゴムを含有するゴム組成物中に、酸変性ポリオレフィンとポリオレフィンとを配合する技術が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、空気入りタイヤの原料となるゴム組成物の加工性を向上することを目的として、ゴム組成物中にメルトマスフローレートが100g/10min以上の酸変性ポリオレフィンを配合する技術が記載されている。
【0005】
また、下記特許文献3では、空気入りタイヤのウェットグリップ性能と高温条件下での操縦安定性とをバランス良く向上することを目的として、ゴム組成物中にシリカ及び融点が60℃以下の結晶性高級α−オレフィン共重合体を配合する技術が記載されている。
【0006】
さらに、下記特許文献4では、加硫ゴムの引裂き強さの向上を目的として、原料となるゴム組成物中にポリオレフィンコポリマーまたはポリプロピレンを配合する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−30800号公報
【特許文献2】特開2016−29118号公報
【特許文献3】特開2011−79940号公報
【特許文献4】特表2002−534548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ただし、本発明者が鋭意検討したところ、上記先行技術では、加硫ゴムとした場合に、タイヤのWET性能と剛性との両立に関し、さらなる改良の余地があることが判明した。加えて、ゴム組成物の加工性に関しても、さらなる改良の余地があることが判明した。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、タイヤのWET性能と剛性とがバランス良く向上した加硫ゴムの原料となり、加工性に優れたゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は下記構成により解決可能である。すなわち本発明は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、Tgが−40〜20℃であり、かつ完全非晶質のオレフィン系エラストマーを1〜40質量部含有することを特徴とするゴム組成物に関する。
【0011】
本発明に係るゴム組成物は、上記特定のオレフィン系エラストマーを所定量含有することにより、ゴムの可塑化効果が発揮され、その結果、ゴム組成物の加工性が向上するとともに、得られる加硫ゴムの剛性を維持しつつ、高い温度領域のtanδが改善することで、タイヤのWET性能が向上する。なお、本発明に係るゴム組成物が、さらに液状ゴムを1〜40質量部含有する場合、ゴム組成物の加工性と、得られる加硫ゴムのタイヤのWET性能と剛性とがさらに向上するため好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るゴム組成物は、Tgが−40〜20℃であり、かつ完全非晶質のオレフィン系エラストマーを含有する点が特徴である。
【0013】
上記オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、1−ペンテン、4−メチルペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのαーオレフィンを繰り返し単位として有するポリオレフィンが挙げられる。これらの繰り返し単位の中でも、エチレン、プロピレンおよびブチレンからなる群より選択される少なくとも1種からなる単量体を繰り返し単位として有する重合体を使用することが好ましい。
【0014】
本発明では、上記ポリオレフィンとして、特にガラス転移温度(Tg)が−40〜20℃であり、かつ完全非晶質であるものを使用する。ゴム組成物の加工性を向上しつつ、得られる加硫ゴムのタイヤのWET性能と剛性とをさらに向上するためには、Tgが−20〜10℃のポリオレフィンを使用することがより好ましい。
【0015】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、Tgが−40〜20℃であり、かつ完全非晶質のオレフィン系エラストマーを1〜40質量部含有する。ゴム組成物の加工性を向上しつつ、得られる加硫ゴムのタイヤのWET性能と剛性とをさらに向上するためには、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、上記特定のオレフィン系エラストマーを1〜25質量部含有することがより好ましい。
【0016】
本発明に係るゴム組成物は、好適にはゴム成分としてジエン系ゴムを含有する。ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエン(BR)、ポリスチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられる。必要に応じて、末端を変性したもの(例えば、末端変性SBRなど)、あるいは所望の特性を付与すべく改質したもの(例えば、改質NR)も好適に使用可能である。
【0017】
上記ジエン系ゴムの中でも、ゴム組成物の加工性と、得られる加硫ゴムの剛性およびタイヤのWET性能とをバランス良く向上するためには、ゴム組成物中に末端変性SBRを配合することが好ましく、特には、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、末端変性SBRを5〜80質量部含有することが好ましい。
【0018】
本発明に係るゴム組成物は、さらに液状ゴムを含有する場合、ゴム組成物の加工性と、得られる加硫ゴムのタイヤのWET性能と剛性とがさらに向上するため好ましい。液状ゴムは、架橋および鎖延長反応によってゴム弾性体となり得る、分子量が数千の鎖状分子であり、流動性を有する。好ましくは、分子末端にアミノ、ヒドロキシ、カルボキシ、イソシアネート、チオールまたはハロゲンなどの官能基を有する。液状ゴムとしては、ジエンゴム系(1,2−BR、1,4−BR、1,4−IR、SBR、NBR、CR、IIR)、シリコーンゴム系、ウレタンゴム系、および多硫化ゴム系などが挙げられる。ゴム組成物中の液状ゴムの配合量は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、1〜40質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがより好ましい。
【0019】
本発明に係るゴム組成物は、充填剤としてシリカを含有することが好ましい。シリカとしては、通常のゴム補強に用いられる湿式シリカ、乾式シリカ、ゾル−ゲルシリカ、表面処理シリカなどが用いられる。なかでも、湿式シリカが好ましい。シリカの配合量は、ゴム成分の全量を100質量部としたとき、20〜120質量部であることが好ましく、40〜100質量部であることがより好ましい。
【0020】
シランカップリング剤としては、分子中に硫黄を含むものであれば特に限定されず、ゴム組成物においてシリカとともに配合される各種のシランカップリング剤を用いることができる。例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(例えば、デグサ社製「Si69」)、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(例えば、デグサ社製「Si75」)、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプトシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランが挙げられる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは3〜10質量部である。
【0021】
本発明に係るゴム組成物は、ジエン系ゴム、オレフィン系エラストマー、液状ゴム、シリカおよびシランカップリング剤に加えて、カーボンブラック、加硫系配合剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、やオイルなどの軟化剤、加工助剤などを配合することができる。
【0022】
カーボンブラックは、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。
【0023】
本発明に係るゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを1〜80質量部配合することが好ましく、5〜60質量部であることがより好ましい。
【0024】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましい。
【0025】
加硫系配合剤としては、硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などが挙げられる。
【0026】
加硫系配合剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。加硫後のゴム物性や耐久性などを考慮した場合、ゴム成分100質量部に対する硫黄の配合量は、硫黄分換算で0.1〜10質量部が好ましい。
【0027】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。ゴム成分100質量部に対する加硫促進剤の配合量は、0.1〜10質量部が好ましい。
【0028】
本発明に係るゴム組成物は、ジエン系ゴム、オレフィン系エラストマー、液状ゴム、シリカおよびシランカップリング剤に加えて、必要に応じて、カーボンブラック、加硫系配合剤、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、やオイルなどの軟化剤、加工助剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0029】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系配合剤以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は、各ゴム組成物を150℃にて30分間加熱、加硫して得られたゴムサンプルを下記の評価条件に基づいて評価を行った。
【0031】
(1)WET性能(ウェットグリップ)
東洋精機(株)製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz, 静歪10%, 同歪1%, 温度0℃で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。数値が高いほど、WET性能に優れることを意味する。
【0032】
(2)剛性(硬度)
JISK6253に準拠したタイプAデュロメータを使用し、23℃で測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。数値が高いほど、剛性に優れることを意味する。
【0033】
(3)加工性
JIS K6300に準拠して東洋精機(株)製ロータレスムーニー測定機を用い、未加硫ゴムを100℃で1分間余熱後、4分後のトルク値をムーニー単位で測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。数値が低いほど、ゴム組成物の加工性に優れることを意味する。
【0034】
(ゴム組成物の調製)
表1の配合処方に従い、実施例1〜7および比較例1〜5のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す(表1において、各配合剤の配合量を、ゴム成分100質量部に対する質量部数で示す)。
a)エラストマー成分
オレフィン系エラストマー1;住友化学社製「タフセレンX1102」、Tg:−9℃、非晶性ポリオレフィン
オレフィン系エラストマー2;住友化学社製「タフセレンX1104」、Tg:−24℃、非晶性ポリオレフィン
オレフィン系エラストマー3;三井化学社製「APL6509T」、Tg:80℃、非晶性ポリオレフィン
オレフィン系エラストマー4;三井化学社製「タフマーP−0275」、Tm:28℃、結晶性ポリオレフィン
スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン−水添SB−スチレンブロック共重合体);旭化成社製「S.O.E. S1611」、Tg:9℃
b)ゴム成分
SBR1(末端未変性SBR);ランクセス社製「VSL5025−0HM」
SBR2(末端変性SSBR);JSR社製「HPR350」
BR;宇部興産社製「BR150B」
c)シリカ;東ソー・シリカ社製「ニップシールAQ」
d)カーボンブラック;三菱化学社製「ダイアブラックN341」
e)シランカップリング剤;エボニック・デグサ社製「Si69」
f)オイル;JOMO社製「プロセスNC140」
g)液状ゴム;クラレ社製「LBR307」(Tg−95℃、液状ポリブタジエン)
h)亜鉛華;三井金属鉱業社製「亜鉛華1号」
i)老化防止剤;住友化学社製「アンチゲン6C」
j)ステアリン酸;花王社製「ルナックS−20」
k)ワックス;日本精鑞社製「OZOACE0355」
l)硫黄;鶴見化学工業社製「5%油入微粉末硫黄」
m)加硫促進剤
加硫促進剤1;住友化学社製「ソクシノールCZ」
加硫促進剤2;大内新興化学工業社製「ノクセラーD」
【0035】
【表1】
【0036】
表1の結果から、実施例1〜5に係るゴム組成物は加工性に優れ、かつこれらの加硫ゴムはWET性能および剛性に優れることが分かる。特に、液状ゴムを配合したゴム組成物は加工性に優れると共に、加硫ゴムのWET性能に優れることが分かる。