【解決手段】芳香族ビニル−共役ジエン共重合体が水素添加された水添共重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された重量平均分子量が30万以上であり、共役ジエン部の水素添加率が80モル%以上である水添共重合体100質量部に対して、架橋ゴム粒子を3〜30質量部含有することを特徴とする、タイヤ用ゴム組成物とする。
芳香族ビニル−共役ジエン共重合体が水素添加された水添共重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された重量平均分子量が30万以上であり、共役ジエン部の水素添加率が80モル%以上である水添共重合体100質量部に対して、
架橋ゴム粒子を3〜30質量部含有することを特徴とする、タイヤ用ゴム組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態に係るゴム組成物において用いられるゴム成分は、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体が水素添加された水添共重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された重量平均分子量が30万以上であり、共役ジエン部の水素添加率が80モル%以上である水添共重合体を含むものである。ここで、本明細書において、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された重量平均分子量とは、検出器として示差屈折率検出器(RI)を用い、溶媒としてTHFを用い、測定温度を40℃、流量を1.0mL/min、濃度を1.0g/L、注入量を40μLとし、市販の標準ポリスチレンを用いてポリスチレン換算で算出した値とする。また、水素添加率は、H
1−NMRを測定して得られたスペクトルの不飽和結合部のスペクトル減少率から計算した値とする。
【0012】
上記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体を構成する芳香族ビニルとしては、特に限定されないが、例えばスチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4−シクロヘキシルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
上記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体を構成する共役ジエンとしては、特に限定されないが、例えば1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
上記芳香族ビニル−共役ジエン共重合体は、特に限定されないが、スチレン及び1,3−ブタジエンの共重合体(スチレンブタジエン共重合体)であることが好ましい。従って、水添共重合体としては、水添スチレンブタジエン共重合体であることが好ましい。また、水添共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、交互共重合体であってもよい。
【0015】
上記水添共重合体は、例えば、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体を合成し、水素添加処理を行うことで合成することができる。芳香族ビニル−共役ジエン共重合体の合成方法は、特に限定されないが、溶液重合法、気相重合法、バルク重合法等を挙げることができ、特に溶液重合法が好ましい。また、重合形式は、回分式及び連続式のいずれであってもよい。なお、芳香族ビニル−共役ジエン共重合体は市販のものを使用することも可能である。
【0016】
水素添加の方法は、特に限定されず、公知の方法、公知の条件で水素添加すればよい。通常は、20〜150℃、0.1〜10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で実施される。なお、水素添加率は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、反応時間等を変えることにより、任意に選定することができる。水添触媒として、通常は、元素周期表4〜11族金属のいずれかを含む化合物を用いることができる。例えば、Ti、V、Co、Ni、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、Pt原子を含む化合物を水添触媒として用いることができる。より具体的な水添触媒としては、Ti、Zr、Hf、Co、Ni、Pd、Pt、Ru、Rh、Re等のメタロセン系化合物;Pd、Ni、Pt、Rh、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等の担体に担持させた担持型不均一系触媒;Ni、Co等の金属元素の有機塩又はアセチルアセトン塩と有機アルミニウム等の還元剤とを組み合わせた均一系チーグラー型触媒;Ru、Rh等の有機金属化合物又は錯体;水素を吸蔵させたフラーレンやカーボンナノチューブ等を挙げることができる。
【0017】
水添共重合体の水素添加率(芳香族ビニル−共役ジエン共重合体の共役ジエン部に対して水素添加された割合)は80モル%以上であり、好ましくは90モル%以上である。
【0018】
水添共重合体の重量平均分子量は、30万以上であれば特に限定されないが、30万〜200万であることが好ましく、30万〜100万であることがより好ましく、30万〜60万であることがさらに好ましい。
【0019】
上記ゴム成分には、上記水添共重合体以外のジエン系ゴムが含まれていても良く、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。
【0020】
ゴム成分中の上記水添共重合体の含有割合は、特に限定されないが、80〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることがより好ましい。
【0021】
本実施形態に係るゴム組成物は、架橋ゴム粒子を含有するものであり、架橋ゴム粒子とは、ジエン系ゴム構造を有する架橋体からなる粒子状ゴムであり、上記ゴム成分とは区別される。
【0022】
架橋ゴム粒子を構成するジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、ニトリルゴムなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても2種以上併用してもよい。好ましくは、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴムを主成分とするものである。
【0023】
架橋ゴム粒子は、官能基を有する変性ジエン系ゴム粒子であってもよい。官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基、スルホ基などのヘテロ原子を含むものが挙げられる。このような官能基は、ジエン系ゴムの重合時に、官能基が導入されたモノマーを用いて合成してもよく、また重合後の活性末端に官能基を導入してなる末端変性ゴムを用いることもできる。また、架橋によりジエン系ゴム粒子を作製した後に、その粒子表面のC=C二重結合に対して官能基を有する化合物を反応させることにより、粒子表面に官能基を組み込むこともできる。
【0024】
架橋ゴム粒子の含有量は、上記水添共重合体100質量部に対して、3〜30質量部であり、好ましくは5〜30質量部、より好ましくは10〜30質量部である。
【0025】
架橋ゴム粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、30nm〜300μmであることが好ましく、50nm〜200μmであることがより好ましい。ここで、本明細書において平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法から求められる平均粒子径(50%積算値の粒径)である。
【0026】
また、架橋ゴム粒子の形状は特に限定されず、球状、扁平状、樹枝状、不定形のいずれでも良い。
【0027】
架橋ゴム粒子の製造方法も限定されないが、例えば、ゴム分散液を製造して分散状態を維持したまま架橋することにより製造することができる。ゴム分散液としては、懸濁重合により製造されるゴムラテックス、溶液重合されたゴムを水中に乳化させて得られるゴム分散液などが挙げられ、また、架橋剤としては、有機ペルオキシド、硫黄系架橋剤などが挙げられる。また、ゴム粒子の架橋は、ゴムの乳化重合中に、架橋作用を持つ多官能化合物との共重合によっても行うことができる。具体的には、例えば、特開平6−57038号公報、特開平10−204225号公報、特表2004−504465号公報、特表2004−506058号公報、特表2004−530760号公報などに開示の方法を用いることができる。また、架橋ゴム粒子は、塊状の加硫ゴムを粉砕したものであってもよい。
【0028】
本実施形態に係るゴム組成物には、補強性充填剤として、カーボンブラック及び/又はシリカを用いることができる。すなわち、補強性充填剤は、カーボンブラック単独でも、シリカ単独でも、カーボンブラックとシリカの併用でもよい。好ましくは、カーボンブラックとシリカの併用である。補強性充填剤の含有量は、特に限定されず、例えばゴム成分と架橋ゴム粒子との合計100質量部に対して、10〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜100質量部であり、さらに好ましくは30〜80質量部である。
【0029】
上記カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。カーボンブラックの含有量は、ゴム成分と架橋ゴム粒子との合計100質量部に対して、1〜70質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜60質量部である。
【0030】
シリカとしても、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカを含有する場合、その含有量は、ゴムのtanδのバランスや補強性などの観点からゴム成分と架橋ゴム粒子との合計100質量部に対して、10〜120質量部であることが好ましく、より好ましくは15〜100質量部である。
【0031】
シリカを含有する場合、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤をさらに含有してもよい。シランカップリング剤を含有する場合、その含有量はシリカ含有量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0032】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているプロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、ワックス、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0033】
上記加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられ、特に限定するものではないが、その含有量はゴム成分と架橋ゴム粒子との合計100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の含有量は、ゴム成分と架橋ゴム粒子との合計100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0034】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練して作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ゴム成分に対し、架橋ゴム粒子とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0035】
このようにして得られるゴム組成物は、タイヤ用として用いることができ、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途、サイズの空気入りタイヤのトレッド部やサイドウォール部などタイヤの各部位に適用することができる。ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【0036】
本実施形態に係る空気入りタイヤの種類としては、特に限定されず、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる重荷重用タイヤなどの各種のタイヤが挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
〈水添共重合体の合成例1〉
窒素置換された耐熱反応容器に、シクロヘキサンを2.5L、テトラヒドロフランを50g、n−ブチルリチウムを0.12g、スチレンを100g、1,3−ブタジエンを400g入れ、反応温度50℃で重合を行った。重合が完了した後にN,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシランを1.7g加えて、1時間反応させた後、水素ガスを0.4MPa−ゲージの圧力で供給し、20分間撹拌し反応させ、ポリマー末端を水素化リチウムとした。次いで、水素ガス供給圧力を0.7MPa−ゲージ、反応温度を90℃とし、チタノセンジクロリドを主とした触媒を用いて目的の水素添加率となるまで反応させ、溶媒を除去することにより、水添共重合体1を得た。
【0039】
得られた水添共重合体の重量平均分子量は、測定装置として(株)島津製作所製「LC−10A」を用い、カラムとしてPolymer Laboratories社製「PLgel−MIXED−C」を、検出器として示差屈折率検出器(RI)を用い、溶媒としてTHFを用い、測定温度を40℃、流量を1.0mL/min、濃度を1.0g/L、注入量を40μLとして測定し、標準ポリスチレンによるポリスチレン換算で35万であった。結合スチレン量は20質量%であり、ブタジエン部の水素添加率は90モル%であった。なお、結合スチレン量はH
1−NMRを用いて、スチレン単位に基づくプロトンと、ブタジエン単位(水素添加部を含む)に基づくプロトンとのスペクトル強度比から求めた。
【0040】
〈水添共重合体の合成例2〉
水素添加を行う反応時間を変更し、目的の水素添加率を変更した以外、合成例1と同様の方法によって水添共重合体2を得た。得られた水添共重合体2の重量平均分子量は、標準ポリスチレンによるポリスチレン換算で35万、結合スチレン量は20質量%、ブタジエン部の水素添加率は80モル%であった。
【0041】
〈実施例及び比較例〉
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、加硫促進剤及び硫黄を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で、加硫促進剤及び硫黄を添加混合して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。
【0042】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
・水添SBR1:上記合成例1に従い作製した水添共重合体1
・水添SBR2:上記合成例2に従い作製した水添共重合体2
・BR:JSR(株)製「BR01」
・シリカ:エボニック社製「UltrasilVN3」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
・オイル:JXエネルギー(株)製「プロセスNC140」
・架橋ゴム粒子1:ランクセス社製「ナノプレンM20」、ジエン系ゴムをベースとするTg=−20℃のヒドロキシ基を有するポリマーゲル、平均粒子径=60nm
・架橋ゴム粒子2:ランクセス社製「ナノプレンBM750H」、BRをベースとするTg=−75℃のヒドロキシ基を有するポリマーゲル、平均粒子径=60nm
・架橋ゴム粒子3:リーハイテクノロジーズ社製「PD140」、加硫ゴムの粉砕物、平均粒子径=100μm
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ワックス:日本精蝋(株)製「OZOACE0355」
・シランカップリング剤:エボニック社製「Si69」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製「ノクセラ−D」
・加硫促進剤2:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
・加硫促進剤3:川口化学工業(株)製「アクセルTBZT」
【0043】
得られた各ゴム組成物について、加工性及び補強性を評価した。評価方法は次の通りである。
【0044】
・加工性:最終混合工程で排出した未加硫ゴムを8インチロールにてシート状にし、表面及び両端部の状態を観察した。表面及び両端部が滑らかな状態にあるものを「○」、表面がごつごつしているか、両端部がギザギザ状であるかの少なくとも一方に該当する場合を加工性に劣るものとして「×」と表示する。
【0045】
・補強性:得られたゴム組成物を160℃で30分間加硫した所定形状の試験片を用いて、JIS K6251に準じて、引張試験(ダンベル状3号形)を実施して300%伸張時の応力(S300)を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示する。数値が大きいほど、応力が大きく、補強性に優れることを示す。
【0046】
【表1】
【0047】
結果は、表1に示す通りであり、比較例1と比較例2との対比より、水添SBRの一部をBRに置換することにより、加工性は改善するものの、補強性が悪化することが分かる。また、比較例1と比較例3との対比より、通常加工性の改善に用いられるオイルを増量すると、補強性が悪化することが認められた。
【0048】
比較例1と実施例1〜5との対比より、架橋ゴム粒子を用いることにより、水添共重合体の特性である補強性が維持されているか乃至は改善しつつ、加工性が改善されることが認められた。