【課題】高い重合禁止性能を有しつつも毒性や難溶解性などの不具合がある重合禁止化合物における上記不具合が軽減または解消されながらも、重合禁止効果が維持される重合禁止剤を提供する。
【解決手段】難使用性化合物と、フェノチアジン系化合物と、を含有し、前記難使用性化合物が、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、及び、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、前記フェノチアジン系化合物が、フェノチアジン及びフェノチアジン誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である、ビニル単量体の重合を禁止する重合禁止剤。
前記フェノチアジン系化合物が、3,7−ジオクチルフェノチアジン、3,7−ジクミルフェノチアジン、及び、フェノチアジンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1または2に記載の重合禁止剤。
前記ビニル単量体が、アクリル酸又はアクリル酸誘導体であるか、或いは、メタクリル酸又はメタクリル酸誘導体である請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合禁止剤。
【背景技術】
【0002】
近年、アクリル酸、メタクリル酸、及び、その誘導体に代表されるビニル単量体を原料とする光硬化性樹脂は、その用途を広げている。これに伴い、様々な機能を付与する目的で多様なビニル単量体が提案されている。
【0003】
そのような技術開発の中で、開発される新しいビニル単量体は、従来に比べて分子量が大きくなったり、置換基が付与されたりしているため、沸点が高くなる傾向にある。
【0004】
これらのビニル単量体については、その製造工程において、加熱などにより重合してしまうことを防止するために重合禁止剤が添加されることが通常である。より具体的には、ビニル重合体の多くは、蒸留によって精製されるので、その蒸留工程における加熱によって重合してしまわないように重合禁止剤が添加されるのである。
【0005】
ここで、新しく開発されるビニル単量体は、上記のように沸点が高い傾向があるので、気化温度が低い重合禁止剤を使用すると、重合禁止剤が留出してしまうことがある。そして、留分に重合禁止剤が混入してしまうと、ビニル単量体の重合特性の変化や着色などの問題が生じ、結果としてビニル単量体の品質の低下を引き起こすことになる。
【0006】
このような問題の対策として、気化温度の高い重合禁止剤が提案されている(特許文献1〜4参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、気化温度の高い重合禁止剤として、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(N,N’−Diphenyl−p−phenylenediamine)、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(N−Isopropyl−N’−phenyl−p−phenylenediamine)、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン(N−(1,3−Dimethylbutyl)−N’−phenyl−1,4−phenylendiamine)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(N,N’−Di−2−naphthyl−p−phenylenediamine)などが知られている。これらの重合禁止剤は、酸素の存在下や非存在下のいずれの条件においても高い重合禁止効果を示すことから、有用な重合禁止剤である。
【0009】
しかし、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンは、労働安全衛生法において、「強い変異原性が認められた化合物」に指定されており、その取扱いに高度の注意が必要になるので、この点において使用しにくい。
【0010】
また、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミンは、化学物質排出把握管理促進法において、第一種指定化学物質に指定されており、その取扱いに高度の注意が必要になるので、この点において使用しにくい。
【0011】
また、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンは、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンなどのような薬害の問題がないが、ビニル単量体に対する溶解度が非常に低く、使用しにくいという問題がある。
【0012】
このように、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(以下、これらを総じて「難使用性化合物」と記す場合がある)は、毒性や難溶解性などの不具合があることが知られているが、酸素の存在下や非存在下のいずれの条件においても高い重合禁止効果を示すことから、現在広く一般に使用されている状況である。
【0013】
このような状況であるため、難使用性化合物において毒性や難溶解性などの不具合を改善することの要請は強く、難使用性化合物における上記不具合が軽減されつつ、重合禁止効果は維持された状態の重合禁止剤の開発が切望されていた。
【0014】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明の重合禁止剤は、難使用性化合物における上記不具合が軽減されながらも、重合禁止効果が維持されるものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、以下に示す重合禁止剤が提供される。
【0016】
[1]難使用性化合物と、フェノチアジン系化合物と、を含有し、前記難使用性化合物が、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、及び、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、前記フェノチアジン系化合物が、フェノチアジン及びフェノチアジン誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である、ビニル単量体の重合を禁止する重合禁止剤。
【0017】
[2]前記難使用性化合物と前記フェノチアジン系化合物との含有割合(難使用性化合物:フェノチアジン系化合物)が、質量比で、2:1〜1:10である前記[1]に記載の重合禁止剤。
【0018】
[3]前記フェノチアジン系化合物が、3,7−ジオクチルフェノチアジン、3,7−ジクミルフェノチアジン、及び、フェノチアジンからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]または[2]に記載の重合禁止剤。
【0019】
[4]前記ビニル単量体が、アクリル酸又はアクリル酸誘導体であるか、或いは、メタクリル酸又はメタクリル酸誘導体である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の重合禁止剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明の重合禁止剤は、高い重合禁止性能を有しつつも毒性や難溶解性などの不具合がある難使用性化合物における上記不具合が軽減されながらも、重合禁止効果が維持されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0022】
[1]重合禁止剤:
本発明の重合禁止剤の一実施形態は、難使用性化合物と、フェノチアジン系化合物と、を含有し、この難使用性化合物が、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、及び、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であり、フェノチアジン系化合物が、フェノチアジン及びフェノチアジン誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である、ビニル単量体の重合を禁止するものである。
【0023】
このような重合禁止剤は、高い重合禁止性能を有しつつも毒性や難溶解性などの不具合がある難使用性化合物における毒性や難溶解性などの不具合が軽減されながらも、重合禁止効果が維持される。
【0024】
ここで、難使用性化合物にフェノチアジン系化合物を混合すると、フェノチアジン系化合物は難使用性化合物と比較して重合禁止性能が劣るにもかかわらず、その混合物は、重合禁止性能が、同量の難使用性化合物の重合禁止性能と同等であるか、または、同量の難使用性化合物の重合禁止性能より優れることが分かった。
【0025】
つまり、難使用性化合物は、使用量を減らすことにより毒性や難溶解性などの不具合が軽減されることになるが、一方で、使用量が低減した結果、重合禁止性能が低下してしまう。ここで、フェノチアジン系化合物を混合することにより、上記不具合が軽減することを達成しつつ、重合禁止性能の低下を回避することができる。
【0026】
なお、フェノチアジン系化合物は、難使用性化合物に比べて重合禁止性能が高いものではないが、毒性が低く且つビニル単量体に対する溶解性も良好であり、その使用が簡便なものである。
【0027】
このように、難使用性化合物にフェノチアジン系化合物を混合することで、難使用性化合物の毒性や難溶解性などの不具合が軽減されながらも、重合禁止性能は相乗的に向上することになる。具体的には、本発明の重合禁止剤は、特に、ビニル単量体に対する溶解性が良好になり、難使用性化合物と同等または優れた重合禁止性能が発揮されることになる。
【0028】
更に言えば、本発明の重合禁止剤は、添加する難使用性化合物の一部を、不具合の小さいフェノチアジン系化合物に代えることによって、難使用性化合物の添加量を低減させることができ、これに起因して、難使用性化合物が有する不具合(毒性や難溶解性など)が軽減または解消される。ここで、フェノチアジン系化合物は、毒性や難溶解性などの不具合は小さいが、難使用性化合物に比べて重合禁止性能が劣る。しかし、難使用性化合物と組み合わせることにより、混合物全体(重合禁止剤全体)として、優れた重合禁止性能を発揮する難使用性化合物と同等またはそれ以上の顕著な重合禁止性能を発揮することになる。
【0029】
なお、本発明の重合禁止剤は、蒸留時に留分に重合禁止剤が留出してビニル単量体の重合特性の低下や着色などを引き起こすことがない。
【0030】
本発明の重合禁止剤は、難使用性化合物とフェノチアジン系化合物との含有割合(質量比)が、2:1〜1:10であることが好ましく、1:1〜1:9であることが更に好ましく、1:1〜1:6であることが特に好ましい。上記範囲を満たすことにより、難使用性化合物における毒性や難溶解性などの不具合が更に軽減されながらも、重合禁止効果が維持または向上される。
【0031】
(1−1)難使用性化合物:
難使用性化合物は、高い重合禁止性能及びビニル単量体の着色の防止性能を有しつつも、その使用の際に、毒性や難溶解性などの不具合がある化合物を意味する。
【0032】
そして、難使用性化合物としては、具体的には、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン、及び、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンである。
【0033】
(1−2)フェノチアジン系化合物:
難使用性化合物と混合するフェノチアジン系化合物としては、特に制限はなく、例えば、アルキル化フェノチアジン、アリール化フェノチアジン、アラルキル化フェノチアジンなどを挙げることができる。
【0034】
これらの中でも、フェノチアジン系化合物としては、3,7−ジオクチルフェノチアジン、3,7−ジクミルフェノチアジン、及び、フェノチアジンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの化合物を用いることにより、難使用性化合物における毒性や難溶解性などの不具合が更に軽減されながらも、重合禁止効果が維持または向上される。
【0035】
(1−3)その他の成分:
本発明の重合禁止剤は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、難使用性化合物及びフェノチアジン系化合物以外に、その他の成分を更に含有していても良い。
【0036】
その他の成分としては、例えば、フェノール系化合物、N−オキシル系化合物、キノン系化合物などを挙げることができる。
【0037】
その他の成分の含有割合は、例えば1〜99質量%とすることができる。
【0038】
(1−4)ビニル単量体:
本発明の重合禁止剤は、ビニル単量体の重合を禁止するものである。ここで、「ビニル単量体の重合を禁止する」とは、ビニル単量体が、熱や光等を契機に互いに重合反応をして意図せずに重合体を形成してしまうことを防止することを意味する。
【0039】
ビニル単量体としては、アクリル酸又はアクリル酸誘導体であるか、或いは、メタクリル酸又はメタクリル酸誘導体であることが好ましい。即ち、ビニル単量体としては、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体などを挙げることができる。
【0040】
ビニル単量体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシ、メチル(メタ)アクリル酸γ−ブチロラクトン−3−イル、(メタ)アクリル酸アダマンチル及びその誘導体、(メタ)アクリル酸ビシクロへキシル及びその誘導体、(メタ)アクリル酸ステアリル等を挙げることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1〜11、比較例1〜8)
<重合禁止性能試験>
まず、市販のメタクリル酸エトキシエチルを10%NaOH水溶液30mlで3回洗浄して抽出し、イオン交換水で3回洗浄してpHが中性になるのを確認した。無水硫酸マグネシウムを加え良く混ぜ濾過し、重合禁止剤を除去したメタクリル酸エトキシエチル調整液(ビニル単量体のみの調整液)を得た。
【0043】
次に、上記メタクリル酸エトキシエチル調整液に、難使用性化合物として、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(精工化学製の「ノンフレックスH」)、または、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(精工化学製の「ノンフレックスF」)を添加するとともに、フェノチアジン系化合物であるフェノチアジン誘導体を、表1に示す割合となるように添加して、試験液とした。
【0044】
次に、上記試験液をTG−DTA装置測定用試料容器に入れ、窒素気流下(窒素雰囲気下)及び大気雰囲気下の両方の条件で密栓した。その後、TG−DTA装置(リガク社製のTG 8120)を用いて所定温度での発熱ピークの立ち上がりまでの時間を測定し、これを誘導時間とした。測定結果を表1に示す。
【0045】
なお、測定条件は、大気雰囲気下で160℃とした。また、試験液の量(仕込み量)は、10mgとした。
【0046】
なお、以下、表1〜表3中、Hは、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(精工化学製「ノンフレックスH」)を示し、Fは、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(精工化学製「ノンフレックスF」)を示し、DOPTZは、3,7−ジオクチルフェノチアジンを示し、DCPTZは、3,7−ジクミルフェノチアジンを示す。PTZは、フェノチアジンを示す。
【0047】
なお、比較例8は、重合禁止剤を添加していない場合を示している。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果から、「H」で示すN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(比較例1)と「F」で示すN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(比較例2)は、窒素雰囲気下及び大気雰囲気下のいずれの条件においても、重合誘導時間が長いことが分かる(即ち、優れた重合禁止性能を有することが分かる)。そして、更に、実施例1〜11においても、比較例1,2の場合と同程度に重合誘導時間が長くなっている。このように、実施例1〜11においては、難使用性化合物であるN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの含有割合が比較例1,2に比べて小さいにもかかわらず、フェノチアジン系化合物と混合することにより、優れた重合禁止性能を発揮していることが分かる。
【0050】
なお、実施例1〜11と同程度となるように難使用性化合物の含有割合を減少させると、比較例6、7から分かるように、窒素雰囲気下及び大気雰囲気下の条件における重合誘導時間が短くなる。即ち、難使用性化合物を単独で使用した場合、その重合禁止性能は、含有量に依存する。これは、例えば、比較例2と比較例7とを比較することで分かる。
【0051】
一方で、実施例6と比較例7を比較すると、比較例7におけるN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの添加量は、10ppmであり、実施例6におけるN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの添加量も同様に10ppmである。このように、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの添加量はいずれも10ppmであるが、実施例6では、窒素雰囲気下及び大気雰囲気下のいずれの条件においても、重合誘導時間が非常に長いことが分かる。
【0052】
ここで、実施例6で使用するフェノチアジン系化合物である3,7−ジオクチルフェノチアジンは、これ単独では、窒素雰囲気下及び大気雰囲気下の条件における重合誘導時間が短く(比較例3を参照)、重合禁止性能に劣る。しかし、例えば実施例6に示すように、難使用性化合物と混合することにより、重合誘導時間が非常に長くなるという優れた効果を奏することが分かる。
【0053】
<重量減少開始温度>
TG−DTA装置(リガク社製のTG 8120)を用い、所定の温度における重量減少量を測定した。具体的には、表2に示す各重合禁止剤をTG−DTA装置に供し、昇温させ、重合禁止剤の重量の減少(即ち、重合禁止剤の気化)が確認された最初の温度を「重量減少開始温度」とした。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2の結果から、難使用性化合物であるN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンに、フェノチアジン系化合物である3,7−ジオクチルフェノチアジンまたは3,7−ジクミルフェノチアジンを混合した混合物(重合禁止剤)は、単独のN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンと同様に高い気化温度を示すことが分かる。
【0056】
表2の結果からも明らかなように、本発明の重合禁止剤を用いた場合、ビニル単量体を蒸留する際にも留分側への留出が生じることがなく、良好にビニル単量体の蒸留を行うことができることが分かる。
【0057】
<ビニル単量体に対する溶解度>
ビニル単量体に対する溶解度の評価を行った。具体的には、ビニル単量体としてアクリル酸n−ブチルを用い、このアクリル酸n−ブチル100ml(液温25℃)に溶解する重合禁止剤の質量(g)を測定した。即ち、液温25℃のアクリル酸n−ブチル100mlに0.1gずつ重合禁止剤を添加し、撹拌した後、静置した状態で目視にて観察を行い、溶解可能な重合禁止剤の質量を観測した。
【0058】
なお、溶解の有無は、液中に重合禁止剤が確認できない場合には溶解されたと判断し、液中に重合禁止剤が確認できた場合には溶解不可と判断した。添加できた重合禁止剤の量を、ビニル単量体に対する溶解度(g/100ml(25℃))とした。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3中、「F」で示されるN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンは、上述の通り、ビニル単量体に対する溶解度が非常に低く、使用しにくいものである。
【0061】
表3より、難使用性化合物であるN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンと、3,7−ジオクチルフェノチアジン等のフェノチアジン系化合物との混合物は、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン単独の場合に比べて、ビニル単量体に対して良好な(例えば、3,7−ジオクチルフェノチアジンとの混合物は8倍)の溶解度を示すことが分かる。
【0062】
表1〜表3から、難使用性化合物とフェノチアジン系化合物の混合物は、難使用性化合物と同等の重合禁止性能を有しつつ、ビニル単量体を蒸留する際にも留分側への留出が生じることがないので良好にビニル単量体の蒸留を行うことができることが分かる。更に、本発明の重合禁止剤は、添加する難使用性化合物の一部を、不具合の小さいフェノチアジン系化合物に代えることによって、難使用性化合物の添加量を低減させることができることに起因して、難使用性化合物が有する不具合(毒性や難溶解性など)が軽減または解消されていることが分かる。