(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-96093(P2018-96093A)
(43)【公開日】2018年6月21日
(54)【発明の名称】河川における増水検知装置
(51)【国際特許分類】
E02B 3/00 20060101AFI20180525BHJP
【FI】
E02B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-240907(P2016-240907)
(22)【出願日】2016年12月13日
(71)【出願人】
【識別番号】594026251
【氏名又は名称】田中鉄筋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111349
【弁理士】
【氏名又は名称】久留 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 進
(57)【要約】
【課題】堤防の状態に応じて氾濫の危険性を判断できるようにして、水害を未然に防止できるようにした増水検知装置を提供する。
【解決手段】堤防上面91で報知を行う報知器8と、この報知器8にワイヤー7で連結され河川の法面92に設けられる水位検知器2とを設けるようにする。この水位検知器2は、筒状部材3の内側で上下動するフロート4を設けて構成し、フロート4が最上部にきたときにセンサー5に接触して危険水位に達したことを検知する。また、増水時のフロート4の上昇を可能にすべく、筒状部材3の底面に開口部31を設けるとともに、側面に穴部32を設け、ベルヌーイの定理によってフロート4が下方に引き込まれないようにする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の法面側に設けられる水位検知器と、
当該水位検知器に接続され、当該水位検知器で増水状態が検出された場合に、堤防上面側で報知を行う報知器と、
を備えたことを特徴とする増水検知装置。
【請求項2】
前記水位検知器が、筒状部材と、当該筒状部材の内側で長手方向に沿ってスライドするフロートと、当該フロートが所定の位置に浮き上がったことを検知するセンサーとを備えて構成されるものである請求項1に記載の増水検知装置。
【請求項3】
前記筒状部材が、側面に穴部を設けて構成されるものである請求項2に記載の増水検知装置。
【請求項4】
前記フロートが、円形の筒状部材の内側で間欠的に接触しうる非円形断面を有する部材で構成されるものである請求項2に記載の増水検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川の増水を検知できるようにした増水検知装置に関するものであり、より詳しくは、堤防からの氾濫を未然に報知できるようにした増水検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、異常気象による集中豪雨が増えてきており、これに伴って河川の氾濫に伴う水害などが多々報告されている。このような河川の氾濫に伴う水害を未然に防止するには、水位を逐次計測して氾濫危険水位に達したか否かを検出しておき、危険水位に達した場合に近隣住民に避難勧告などを出す方法などが考えられる。
【0003】
このような危険水位に達したか否かを検出できるようにしたシステムとして、下記の特許文献1に記載されるようなシステムなどが提案されている。
【0004】
このシステムは、
図5に示すように、川底から立設するように設けられた柱状の自立型水位測定装置100と、この自立型水位測定装置100で検出された水位を受信するセンター局101とを有し、センター局101で受信した水位に基づいて増水の状態を判断できるようにしたものである。このようなシステムによれば、川底からの水位を検出して増水状態を判断できるとともに、遠方のセンター局101で一括集中的に河川の増水状態を判断して、近隣住民などに警報などを通知することができるというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−75371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなシステムを用いた場合であっても、現実的には、河川の氾濫を未然に防止することが難しい。
【0007】
すなわち、上記特許文献1に記載されるシステムでは、河川の川底から自立型水位測定装置100を立設させて水位を検出させるようにしているが、河川が氾濫するか否かは、堤防の高さと水位との距離によって決まるものであるため、単に川底からの水位だけでは危険水位を検出することができない。
【0008】
また、このような川底に自立型水位測定装置100を立設するには、大掛かりな工事が必要であるばかりでなく、増水による流木などによって自立型水位測定装置100が流されてしまう可能性もある。
【0009】
さらには、堤防の近くに住む住民にとっては、堤防が高く設けられているため、堤防の内側(河川側)における水位の状態を判断することができず、堤防に登って河川の状態を判断しなければならない。
【0010】
そこで、本発明は上記課題を解決するために、河川の氾濫の危険性を判断できるようにして水害を未然に防止できるようにした増水検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、河川の法面側に設けられる水位検知器と、当該水位検知器に接続され、当該水位検知器で増水状態が検出された場合に、堤防上面側で報知を行う報知器とを備えるようにしたものである。
【0012】
このように構成すれば、堤防上面から吊り下げた状態で水位検知器を取り付けることで、堤防との高さに応じた氾濫危険水位を検出することができるとともに、堤防上面に設けられた報知器によって、近隣住民に危険を知らせることができるようになる。
【0013】
また、このような発明において、当該水位検知器を、筒状部材と、当該筒状部材の内側で長手方向に沿ってスライドするフロートと、当該フロートが所定の位置に浮き上がったことを検知するセンサーとを備えて構成する。
【0014】
このように構成すれば、増水に伴う水の圧力でフロートを強く押し上げることができ、簡単なリミットスイッチを強く押圧することで、確実に増水の状態を検出することができるようになる。
【0015】
さらに、前記筒状部材を、側面に穴部を設けて構成するようにする。
【0016】
このように構成すれば、フロートの浮き上がりに伴う筒状部材の内部の空気を外に逃がすことができ、スムーズにフロートを上下動させることができるようになる。
【0017】
また、前記フロートを、円形の筒状部材の内側で間欠的に接触しうる非円形断面を有する部材で構成する。
【0018】
このように構成すれば、フロートが筒状部材の内壁で間欠的に接触するので、接触面積を小さくすることで、筒状部材の内部に昆虫などの異物が入った場合であっても、スムーズにフロートを上下動させることができるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、河川の法面側に設けられる水位検知器と、当該水位検知器に接続され、当該水位検知器で増水状態が検出された場合に、堤防上面側で報知を行う報知器とを備えるようにしたので、堤防上面から吊り下げた状態で水位検知器を取り付けることで、堤防との高さに応じた氾濫危険水位を検出することができ、また、堤防上面に設けられた報知器によって、近隣住民に危険を知らせることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施の形態における増水検知装置の設置状態を示す図
【
図4】同形態における穴部を下方に設けなかった場合の状態図
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0022】
この実施の形態における増水検知装置1は、
図1に示すように、河川の法面92側に沿って取り付けられた水位検知器2と、この水位検知器2に接続され、水位検知器2で増水状態が検出された場合に報知を報知器8とを備えて構成される。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0023】
まず、この水位検知器2は、河川の法面92に設けられるものであって、
図1に示すようなケージ6に収容された状態で使用される。このケージ6は、水位検知器2への外部からの悪戯を防止するとともに、増水によって水位検知器2が流れ方向に傾斜してしまわないようにするために設けられている。この水位検知器2は、
図2や
図3などに示すように、筒状部材3と、この筒状部材3の縦長方向に沿った内側の中空部分でスライドするフロート4と、このフロート4によって押圧されるセンサー5などを設けて構成されている。
【0024】
この筒状部材3は、耐腐食性を有する部材で構成されており、例えば、耐腐食処理の施された金属製部材や、ステンレスなどの部材などで構成される。この筒状部材3は底部には、フロート4の底面によって塞がれる開口部31が設けられており、これによって、この開口部31から水を浸入させられるようにしている。また、この筒状部材3の側面には、複数の穴部32が設けられており、フロート4が上昇した場合に、内部の空気を外部に逃がすようにしている。なお、このように側面に穴部32を設ける場合、内部に昆虫やゴミなどの異物が入り込んでしまい、フロート4の上下動を阻害してしまう可能性がある。このため、ここでは、昆虫やゴミなどの異物が入り込まないように、直径1〜3mm程度の径としておく。もちろん、このような異物の混入を防止することができる場合は、穴径を大きくしておくとともに、外部にネットなどを設けて異物の混入を防止するようにしてもよい。そして、このように構成された筒状部材3を、ワイヤー7などを介して、報知器8側に連結しておく。
【0025】
この筒状部材3の内側に収容されるフロート4は、筒状部材3の内側の長手方向に沿ってスライド可能に設けられるものであって、ここでは、中空状の樹脂などで構成される。このフロート4の底部については、筒状部材3の底部に設けられた開口部31を塞ぐような形状となっており、これによって底部からの異物の侵入を防止できるようにしている。また、このフロート4の外周部分は、可能な限り筒状部材3の内壁との摩擦を小さくできるように、
図3に示すように、間欠的な凸部41を有するような非円形形状としており、これによって、その凸部41のみを筒状部材3の内壁に接触させてスムーズに上下動させるようにしている。
【0026】
この筒状部材3の内側の上部には、フロート4の接触を検知するセンサー5が設けられる(
図2参照)。このセンサー5としては、防水型のリミットスイッチなどが利用され、浮力によって浮き上がってきたフロート4によってスイッチがONとなり、また、逆に、水位が減ってフロート4が下がった場合にスイッチがOFFとになるようにしている。
【0027】
このセンサー5によるON/OFFは、導線によって報知器8に出力される。
【0028】
この報知器8は、河川の堤防9の上面であって、可能であれば堤防9の外側下方から視認できるような位置に設けられる。そして、この報知器8によって、センサー5がONの状態のときには、警告灯を回転させたり、あるいは、警報音を出力させたりする。あるいは、この報知器8によるONの状態であることを、遠方の基地局に無線で出力するようにしてもよい。
【0029】
次に、このように構成された増水検知装置1の使用方法について説明する。
【0030】
まず、この増水検知装置1を設置する場合、
図1に示すように、河川の堤防9の上面にコンクリートで土台を作り、そこに報知器8を設置する。このとき、この増水検知装置1としては、数十メートル〜数百メートル間隔で設置しておくようにする。
【0031】
そして、その報知器8にワイヤー7を介して連結された水位検知器2を、河川の法面92側に垂れ下げておき、増水危険水位の位置にセンサー5が位置する状態でワイヤー7を固定する。そして、その状態で、水位検知器2を覆うようにケージ6を取り付け、水位検知器2が増水によって傾かないようにしておく。これにより、センサー5の位置と法面92の距離を「氾濫する危険性のある距離」と設定して、河川の氾濫を報知できるようにする。
【0032】
このように増水検知装置1が設置された状態で、河川の水位が増えて危険水位に達した場合、水位検知器2の底部の開口部31(
図2参照)から水が浸入し、フロート4を持ち上げる。このとき、フロート4は、外周部分に設けられた間欠的な凸部41が筒状部材3の内壁に接触してスライドするため、仮に、内部に異物が存在している場合であっても、スムーズにスライドさせて上下動させることができる。また、このようにフロート4が上方にスライドする際、筒状部材3の内部の空気は、穴部32を介して外部に排出され、スムーズにフロート4をスライドさせることができるようになる。また、増水に伴って側面の穴部32から流入してきた水については、非円形のフロート4の隙間を介してフロート4の下方に導くことができ、これによって、開口部31に速い水が流れた場合であっても、開口部31の圧力と筒状部材3の内部の圧力をほぼ同じにすることが可能となり、筒状部材3の内部と開口部31との圧力差によってフロート4が開口部31に引き戻されるようなことがなくなる。すなわち、このような側面に穴部32を筒状部材3の下方に設けていない場合は、
図4に示すように、筒状部材3の下方の開口部31に速い水が流れると、ベルヌーイの定理によって開口部31における圧力が低がり、フロート4が開口部31側に引き戻されてしまう。これに対して、
図2に示すように、筒状部材3の側面下方にも穴部32を設けていると、そこから浸入する水によって開口部31との圧力をほぼ同じにすることができ、フロート4の浮力によってフロート4を上方に持ち上げることができるようになる。
【0033】
そして、このようにフロート4が上昇することによってセンサー5に接触すると、センサー5がONの状態になり、これによって報知器8の警告灯が回転したり、あるいは、警報音が出力されたりする。これにより、近隣住民に対して危険水位に達したことなどを報知することができるようになる。
【0034】
このように上記実施の形態によれば、河川の法面92側に設けられる水位検知器2と、当該水位検知器2に接続され、当該水位検知器2で増水状態が検出された場合に、堤防上面91側で報知を行う報知器8とを備えるようにしたので、堤防上面91から吊り下げた状態で水位検知器2を取り付けることで、堤防との高さに応じた氾濫危険水位を検出することができるとともに、堤防上面91に設けられた報知器8によって、近隣住民に危険を知らせることができるようになる。
【0035】
また、水位検知器2を、筒状部材3と、当該筒状部材3の内側で長手方向に沿ってスライドするフロート4と、当該フロート4が所定の位置に浮き上がったことを検知するセンサー5とを備えるように構成したので、増水に伴う水の圧力でフロート4を強く押し上げることができ、簡単なリミットスイッチを強く押圧して増水の状態を確実に検出することができるようになる。
【0036】
さらに、筒状部材3の側面に穴部32を設けるようにしたので、フロート4の浮き上がりに伴う内部の空気を外部に逃がすことができ、スムーズにフロート4を上下動させることができるようになる。
【0037】
また、前記フロート4を、円形の筒状部材3の内側で間欠的に接触しうる非円形断面を有する部材で構成したので、フロート4の外周部分の凸部41と筒状部材3の内側を間欠的に接触させることができ、接触面積を小さくして、スムーズにフロート4を上下動させることができるようになる。
【0038】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
【0039】
例えば、上記実施の形態では、水位検知器2として、フロート4を上下動させる水位検知器2を用いるようにしたが、軸方向に間欠的な電極を設けておき、この電極に通電したことによって水位を検出できるようにしてもよい。
【0040】
また、上記実施の形態では、筒状部材3の底部に開口部31を設けるとともに、フロート4の底面でこの開口部31を塞ぐようにしているが、樹脂が溶けて筒状部材3に密着してしまう可能性もあるため、フロート4の底部を非平面状にしておくとともに、筒状部材3の開口部31を塞いで植物や昆虫などの侵入を防止するようにしてもよい。この場合、水の浸入を可能にするために、小さな穴部32だけは設けるようにしておく。
【0041】
さらに、上記実施の形態では、ケージ6で水位検知器2を覆うようにしているが、ケージ6で覆うことなく水位検知器2を吊り下げるようにしてもよく、あるいは、その水位検知器2を直接法面92に固定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1・・・増水検知装置
2・・・水位検知器
3・・・筒状部材
31・・・開口部
32・・・穴部
4・・・フロート
41・・・凸部
5・・・センサー
6・・・ケージ
7・・・ワイヤー
8・・・警報器
9・・・堤防
91・・・堤防上面
92・・・法面