【解決手段】実施形態に係るゴム流れの評価方法では、充填剤を含有するゴム組成物からなる物体の少なくとも1箇所を測定対象として、前記測定対象にX線を照射してX線小角散乱測定を実施することにより、前記測定対象における充填剤の配向方向と配向度を求め、求めた配向方向と配向度から前記物体におけるゴム流れの方向と大きさを評価する。
充填剤を含有するゴム組成物からなる物体の少なくとも1箇所を測定対象として、前記測定対象にX線を照射してX線小角散乱測定を実施することにより、前記測定対象における充填剤の配向方向と配向度を求め、求めた配向方向と配向度から前記物体におけるゴム流れの方向と大きさを評価する、ゴム流れの評価方法。
前記物体の複数箇所を測定対象として、前記複数の測定対象における充填剤の配向方向と配向度から前記物体におけるゴム流れの方向と大きさを評価する、請求項1に記載のゴム流れの評価方法。
前記物体の互いに直交する三方向におけるそれぞれ複数箇所を測定対象とすることにより、前記物体におけるゴム流れを三次元で評価する、請求項2に記載のゴム流れの評価方法。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤ等のゴム製品は、押し出し工程や加硫成形工程などを経て製造される。かかる製造過程において、ゴム流れが適切に行われていないと、ゴム製品の使用時にはひび割れなどの故障の原因となる。そのため、ゴム流れの方向や大きさを把握することは、押出ダイや加硫成形金型の形状設計及び成形方法の設定を行う上で有益であり、故障率の少ない製品開発に役立てることができる。
【0003】
ゴム流れに関する技術として、特許文献1には、グリーンタイヤを加硫成形する際のゴム流れが適切に行われているかを確認するために、複数のマークからなるパターンを、各マークがグリーンタイヤの径方向に整列するようにサイド部に形成し、その後、該グリーンタイヤを加硫成形する方法が開示されている。
【0004】
ところで、一般にゴム製品を構成するゴム組成物には、ゴムポリマーとともに、補強剤としてカーボンブラックやシリカなどの充填剤が配合されている。従来、ゴム材料中の散乱体(充填剤)の構造情報を取得する方法として、X線小角散乱測定が知られており、高分子材料の反発弾性率などの物性を評価することが提案されている(特許文献2)。しかしながら、X線小角散乱測定により充填剤の配向方向を求めて、それに基づきゴム流れを評価することは開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態に係るゴム流れの評価方法では、充填剤を含有するゴム組成物からなる物体の少なくとも1箇所を測定対象として、その測定対象にX線を照射してX線小角散乱測定を実施することにより、測定対象における充填剤の配向方向と配向度を算出し、得られた配向方向と配向度から上記物体におけるゴム流れの方向と大きさを評価、即ち確認する。
【0013】
評価対象となる物体としては、充填剤を含有するゴム組成物からなる各種ゴム製品、またはその一部を構成するゴム部材が挙げられ、加硫成形されたものでもよく、未加硫状態のゴム部材でもよい。例えば、タイヤの少なくとも一部を構成するタイヤ部材を用いてもよい。より詳細には、押出成形された未加硫のタイヤ部材を用いてもよく、また、未加硫のタイヤ部材を用いて成形したグリーンタイヤにおいてその一部を構成するタイヤ部材を評価対象としてもよく、更には、加硫成形後の製品タイヤにおいてその一部を構成するタイヤ部材を評価対象としてもよい。
【0014】
タイヤ部材は、充填剤を含有するゴム組成物からなるものであり、ゴム組成物を用いた押出成形により作製される。空気入りタイヤを構成するタイヤ部材としては、トレッドゴム、サイドウォールゴム、ビードフィラー、インナーライナー、リムストリップ等が挙げられ、また、カーカスプライやベルトプライのようなゴム組成物中にコードが埋設されたものでもよい。
【0015】
上記ゴム組成物において、ゴム成分としては、ジエン系ゴムなどの各種ゴムポリマーを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)などが挙げられ、これらのゴムポリマーを単独又は2種類以上ブレンドしたものでもよい。
【0016】
充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、タルク、クレー、アルミナなどの各種充填剤が挙げられる。好ましくは、補強効果の高い、カーボンブラックやシリカなどの補強性充填剤であり、一実施形態としては、カーボンブラック及び/又はシリカである。充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して10〜150質量部でもよく、20〜100質量部でもよく、30〜70質量部でもよい。
【0017】
ゴム組成物は、充填剤の他、様々な配合剤を任意成分として含有してもよい。一実施形態として、シランカップリング剤、オイル等の軟化剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤など、通常ゴム工業で使用される各種配合剤を配合することができる。これら各成分の配合量は特に限定されない。かかるゴム組成物は、バンバリーミキサーなどの混合機を用いて各成分を常法に従い混練することにより作製することができる。
【0018】
本実施形態では、かかるゴム組成物からなる物体の少なくとも1箇所を、X線小角散乱測定の測定対象とする。測定対象は、上記物体をそのまま用いて測定に供してもよいが、通常は、上記物体からシート状に切り出したものを測定試料として用いることが好ましい。
【0019】
好ましくは、上記物体の複数箇所を測定対象として、これら複数の測定対象における充填剤の配向方向と配向度から上記物体におけるゴム流れの方向と大きさを評価することである。例えば、
図5に示すように、物体10の表面12におけるゴム流れを評価する場合、当該表面12における縦xと横yのそれぞれ複数箇所を測定対象とすることができる。図の例では、表面12を縦横でm×n個(m,nはそれぞれ1以上の整数)のマトリクス状に分割して測定対象としており、各位置から測定対象となるシート状のゴムシートを測定試料14として切り出す。
【0020】
あるいはまた、上記物体の互いに直交する三方向におけるそれぞれ複数箇所を測定対象とすることにより、上記物体におけるゴム流れを三次元で評価してもよい。例えば、
図6に示すように、物体20の縦xと横yと高さzにおけるそれぞれ複数箇所を測定対象とすることができ、図の例では、縦横高さでm×n×p個(m,n,pはそれぞれ1以上の整数)に分割して測定対象としており、各位置から測定対象となるシート状のゴムシートを測定試料22として切り出す。その際、測定試料22は、例えば、(1)xy平面に平行なゴムシート22Aのみを測定試料として切り出してもよく、また、(2)xy平面に平行なゴムシート22Aとともに、これに垂直な平面(例えばyz平面)に平行なゴムシート22Bを測定試料として切り出してもよい。上記(1)の場合、高さ方向における各層で同一平面内のゴム流れを求めることができ、その積み重ねにより三次元でのゴム流れを評価することができる。上記(2)の場合、xy平面でのゴム流れの方向とともにその高さ方向における傾斜も求めることができ、より正確にゴム流れを評価することができる。
【0021】
X線小角散乱(SAXS:Small-angle X-ray Scattering)測定は、散乱角が数度以下の散乱X線を測定する手法であり、散乱角は通常10°以下である。X線小角散乱測定では、
図1に示すように、測定試料にX線を照射すると、測定試料を構成する物質の電子密度を反映してX線が散乱され、その散乱の強度分布を表す二次元の散乱像が検出器にて得られる。
【0022】
なお、本実施形態において、X線小角散乱測定を行う際に使用するX線としては、例えば10
10(photons/s/mrad
2/mm
2/0.1%bw)以上の高輝度X線であることが好ましい。このようなX線を放射するシンクロトロンとしては、高輝度光科学研究センターのSPring−8などが挙げられる。また、X線小角散乱測定におけるカメラ長(即ち、測定試料から散乱X線の検出器までの距離)は、特に限定されず、例えば6〜16mでもよい。検出器としては、CCDカメラ等の一般的なX線検出器を用いることができる。
【0023】
図2は、散乱像の一例を示したものである。散乱像は、散乱強度の大きさを示したものであり、ここでは白色に近いほど散乱強度が大きく、黒色に近いほど散乱強度が小さいことを示し、その等高線を白線(点線)で示している(
図3において同じ)。従って、散乱中心から遠ざかるにつれて、散乱強度は小さくなる。なお、散乱中心(散乱像の中央の黒色部分)及びそこから下方に延びる黒色の線は、ビームストッパによる影の部分であり、散乱強度の大きさを示すものではない。
【0024】
図2は、充填剤による配向を持たない無配向の散乱像を示している。充填剤は、その配合量が少ないと、
図2に示すような括れを持たない散乱像が得られる。これに対し、充填剤の配合量が多くなると、充填剤の配向が強くなって、
図3に示すように、散乱像は、充填剤の配向方向Eにおいて括れたような形状を示し、異方性(配向による散乱の角度依存性)を示す。すなわち、散乱中心を通る水平な赤道線上において、両側の散乱像が散乱中心に向かって狭まった形状を呈しており、散乱中心を通る赤道方向Eでは、これに垂直な子午線方向Mよりも、散乱強度の勾配が大きくなっている。
【0025】
かかる充填剤の配向は、主として押出成形時や加硫成形時におけるゴム流れに起因して形成されるものであり、
図3に示す例では、充填剤が主として散乱像の赤道方向Eに並んだ形態となることで、周期構造による散乱強度の干渉が子午線方向Mに強く現れているので、赤道方向Eが配向方向となっている。そのため、上記測定試料に対してX線小角散乱測定を実施して散乱像を取得することにより、得られた散乱像から充填剤の配向方向を求めることができる。また、この充填剤の配向方向は、物体におけるゴム流れの方向に垂直な方向である。そのため、充填剤の配向方向を求めることにより、物体におけるゴム流れの方向を特定することができる。
【0026】
本実施形態では、散乱像から充填剤の配向方向とともに配向度も算出する。充填剤の配向度は、
図3に示すような二次元の散乱像において、配向の周期構造の大きさを算出し、その算出結果から散乱角2θを求めて、散乱中心から2θまでの範囲において得られる散乱強度を、散乱中心の周りの各角度で全周にわたって算出して、
図4に示すような散乱中心の周り(この例では反時計回り)の角度に対する積分強度のグラフを求め、積分強度の山形のピークについての半値幅をWとして、次式により算出される。
【0027】
配向度(%)={(180−W)/180}×100
配向度は、充填剤がどの程度配向しているかを示す指標であり、ゴム流れが大きいほど、配向度は大きくなるので、配向度を算出することにより、ゴム流れの大きさを特定することができる。
【0028】
このように、本実施形態によれば、充填剤を含有するゴム組成物からなる物体に対し、その少なくとも1箇所を測定対象としてX線小角散乱測定を行うことにより、当該測定対象での充填剤の配向方向及び配向度を求めることができる。そのため、測定対象の採取箇所に応じて当該物体におけるゴム流れの方向と大きさを把握することができ、全体的なゴムの流れを表現することができる。ゴム流れを把握できれば、ゴム流れを要因とするゴム製品使用時のひび割れ等の故障を回避できるように、押出ダイや加硫成形金型の形状設計や成形方法の設定を行うことができ、故障率の少ないゴム製品の開発に役立てることができる。
【実施例】
【0029】
バンバリーミキサーを使用して、常法に従い、天然ゴム(RSS#3)100質量部に対し、シリカ(東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」)30質量部、シランカップリング剤(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック社製「Si69」)2.4質量部、亜鉛華(三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」)2質量部、ステアリン酸(花王(株)製「ルナックS−20」)1質量部、硫黄(細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」)2質量部、加硫促進剤1(大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」)1質量部、加硫促進剤2(大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」)1質量部を添加し混練して、未加硫ゴム組成物を調製した。
【0030】
得られた未加硫ゴム組成物をブロック状に切り出し、
図7(A)に示すように、切り出した未加硫ゴムブロック30を、矩形平板状のゴム板32を成形可能な加硫金型40の下型42の凹部44の1つの角部にセットした。その後、
図7(B)に示すように上型46を閉め、加硫金型40内で160℃×30分加硫した後、
図7(C)に示すように加硫金型40を開いてゴム板32を得た。かかる成形方法から、得られたゴム板32において、ゴム流れは
図7(A)において矢印34で示す方向に生じていることは明らかである。
【0031】
得られたゴム板32を、
図7(C)において二点鎖線で示すように縦×横=3×4の12個の領域に分割し、各領域から厚さ1.0mmのゴムシートを切り出して測定対象とし、X線を照射してX線小角散乱測定を実施した。X線小角散乱測定の測定条件は、
・X線の波長:1.5Å
・カメラ長:6m
・qレンジ:0.005〜0.3nm
−1
・X線照射時間:1秒
とした。
【0032】
各測定対象について、X線小角散乱測定により取得した散乱像からシリカの配向方向を求めた。その結果を
図8に示す。
図8では、散乱強度の大きさを、一定間隔の等高線ごとに白色と黒色で交互に示している。各散乱像から、それぞれの測定対象での充填剤の配向方向と配向度を算出し、配向方向を
図9に、配向度を
図10にそれぞれ示した。符号36が未加硫ゴムブロック30をセットした位置の測定対象に相当する。また、配向方向は、
図7(C)に示すx方向を0°とした角度である。
【0033】
この配向方向の算出結果と、
図7(A)に示すゴム板成形時のゴム流れの方向34とから、配向方向に垂直な方向がゴム流れの方向であることが分かる。
図11は、各測定対象において、配向方向と垂直な方向をゴム流れの方向とし、またその配向度をゴム流れの大きさとして示した図である。
図11中、各測定対象における矢印の向きがゴム流れの方向を示し、矢印の長さがゴム流れの大きさを示す。このように、X線小角散乱測定によりゴム流れの方向と大きさを把握できることが分かる。
【0034】
なお、この結果は、以上の試験に先立ち実施した予備試験の結果からも裏付けられている。予備試験では、上記で調製した未加硫ゴム組成物を用いて、標線間距離20mm、幅5mm、厚さ2mmの短冊状の未加硫ゴムサンプルを作成し、これを25%及び50%伸長させて、伸長前と伸長後のサンプルについて、上記と同様のX線小角散乱測定を実施し、散乱像を得た。その結果、伸長前では
図2に示すような括れない散乱像であったのに対し、伸長後では
図3に示すような括れを持つ散乱像であり、伸長方向とは垂直な方向にシリカが配向していた。また、25%伸長したサンプルでは配向度が21%であったのに対し、50%伸長したサンプルでは配向度が34%であり、伸長率が大きいほど配向度が大きかった。未加硫ゴムサンプルの伸長方向はゴム流れの方向と同一視でき、また伸長率はゴム流れの大きさと同一視できるため、配向方向に垂直な方向がゴム流れの方向であり、また配向度がゴム流れの大きさを表すことの裏付けになると考えられる。
【0035】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。