【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人科学技術振興機構 平成27年度委託研究「遠距離赤外線サーモグラフィー法による土木構造物の非破壊検査」 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】本発明の一態様の検査システムは、検査対象物を加熱する加熱装置と、前記加熱装置によって加熱された前記検査対象物の赤外線画像を撮像する撮像装置と、前記検査対象物の表面状態を検出するセンサと、前記検査対象物の検査画像を生成する検査装置と、を備える。前記検査装置は、前記センサの検出値に基づいて、前記加熱装置、前記撮像装置、前記センサ、および前記検査装置が一体で移動するのに伴って前記撮像装置により連続的に撮像された赤外線画像を合成して前記検査画像を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態における検査システムを示す模式図である。
【
図2】第1実施形態における遠距離加熱装置を示す図である。
【
図3】第1実施形態における撮像装置によって撮像されたサンプル物体の赤外線画像を示す図である。
【
図4】第1実施形態におけるサンプル物体の表面温度の時間的変化を示す図である。
【
図5】第1実施形態における検査システムと検査対象物との位置関係を示す図である。
【
図6】第1実施形態における検査システムに含まれる検査装置の機能ブロック図である。
【
図7】第1実施形態における検査システムの検査処理を示すフローチャートである。
【
図8】第1実施例における遠距離加熱装置が検査対象物を加熱している状態を示す図である。
【
図9A】第1実施例における撮像装置によって撮像された検査対象物の赤外線画像を示す図である。
【
図9B】第1実施例における撮像装置によって撮像された検査対象物の赤外線画像を示す図である。
【
図9C】第1実施例における撮像装置によって撮像された検査対象物の赤外線画像を示す図である。
【
図10A】第1実施例における撮像装置によって撮像された検査対象物のパノラマ温度画像を示す図である。
【
図10B】
図10Aに示すパノラマ温度画像を位相変換することにより得られたパノラマ位相画像を示す図である。
【
図11】第2実施形態における検査システムに含まれる検査装置の機能ブロック図である。
【
図12A】第2実施形態における有限差分法解析により得られたサンプル物体の加熱後の温度分布を示す図である。
【
図13A】
図12Aの各点での温度データに対して位相変換を行うことにより得られた位相画像を示す図である。
【
図14】
図12Aの各点での温度データに基づいて抽出された有効な位相画像範囲を示す図である。
【
図15A】第2実施形態における撮像装置によって撮像された他のサンプル物体の赤外線画像を示す図である。
【
図15C】
図15Aに示す赤外線画像を位相変換することにより得られた位相画像を示す図である。
【
図16】第2実施形態における検査システムの検査処理を示すフローチャートである。
【
図17A】第2実施例における撮像装置によって撮像された検査対象物のパノラマ温度画像を示す図である。
【
図17C】
図17Aに示すパノラマ温度画像を位相変換することにより得られたパノラマ位相画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る検査システム、検査方法、検査プログラム、および記憶媒体のいくつかの実施形態について説明する。
【0022】
[第1実施形態]
(システム構成)
本実施形態の検査システムは、検査対象物の表面を加熱して表面温度の時間的変化データを測定し、この時間的変化データに基づいて検査対象物の内部の欠陥(空隙など)の有無を検査する。
図1は、本実施形態における検査システム1を示す模式図である。検査システム1は、例えば、遠距離加熱装置(加熱装置)10と、撮像装置12と、センサ14と、検査装置16と、距離計18と、電源装置20と、移動装置22とを備える。
【0023】
検査対象物Tとしては、遠距離加熱装置10から出力される加熱光によって温度変化するものであれば何れの材料で形成されてもよい。検査対象物Tは、例えば、無機材料、有機材料、複合材料(炭素繊維強化プラスチックなど)などを材料として形成されるものであってよい。検査対象物Tは、例えば、橋梁やトンネルなどの大型構造物、飛行機、ロケット、自動車、船舶などの一部であってよい。
【0024】
遠距離加熱装置10は、例えば、ある程度以上の遠距離に位置する検査対象物Tを効率よく加熱することが可能な、集光用の回転放物面の反射鏡を有する遠距離加熱ハロゲンランプである。
図2は、本実施形態における遠距離加熱装置10を示す図である。遠距離加熱装置10は、例えば、ハロゲンランプ11と、回転放物面で形成された反射鏡13とを備える。遠距離加熱装置10は、ハロゲンランプ11の放射する光を反射鏡13で反射して検査対象物Tに放射する。遠距離加熱装置10は、対象距離において平行光とみなせる光である加熱光を検査対象物Tに照射し、検査対象物Tを加熱する。遠距離加熱装置10は、例えば、20m遠方に位置する検査対象物を加熱することが可能である。尚、遠距離加熱装置10は、レーザーを用いて検査対象物Tを加熱するものであってもよい。
【0025】
図3は、本実施形態における遠距離加熱装置10によってサンプル物体SOを加熱した場合のサンプル物体SOの赤外線画像の示す図である。サンプル物体SOは、例えば、コンクリートで形成されている。このサンプル物体SOは、試験用に生成された人工的な空洞を内部に備える。このサンプル物体SOを撮像すると、撮像画像において、内部に空洞が位置する欠陥部と欠陥部以外の健全部とが表れる。
図3に示すように、サンプル物体SOの中央部に位置する欠陥部Aの表面温度が、周囲の健全部の表面温度よりも高いことが分かる。
【0026】
図4は、このサンプル物体SOの表面温度の時間的変化を示す図である。
図4に示すように、サンプル物体SOは、加熱により表面温度が上昇した後、表面温度が低下するが、この温度低下時における挙動が、欠陥部と、健全部とで互いに異なる。例えば、欠陥部の表面温度の低下速度は、健全部の表面温度の低下速度よりも遅い。このような表面温度の時間的変化の違いを把握することで、サンプル物体SOの内部における欠陥の有無を検査することができる。
【0027】
撮像装置12は、遠距離加熱装置10によって加熱された検査対象物Tの表面の温度変化データおよび連続的な赤外線画像を取得する。撮像装置12は、例えば、赤外線カメラである。
【0028】
センサ14は、検査対象物Tの表面上における歪み、傾斜などの表面状態に関するデータ、検査対象物Tの表面との間の距離などを検出する。センサ14は、例えば、三次元センサである。センサ14により検出されたセンサ測定値は、撮像装置12によって撮像された連続的な赤外線画像のどの点とどの点が対応しているかを正確に検知し、3次元の位置補正(歪み補正)を行うために利用される。
【0029】
検査装置16は、撮像装置12によって測定された検査対象物Tの表面の温度変化データおよび連続的な赤外線画像に基づいて、検査対象物Tの内部の欠陥の有無を検査するための検査画像を生成する。この場合、検査装置16は、センサ14によって測定されたセンサ測定値に基づいて画像の歪み補正を行う。即ち、検査装置16は、センサ14のセンサ検出値に基づいて、遠距離加熱装置10、撮像装置12、センサ14、および検査装置16が一体で移動するのに伴って撮像装置12により連続的に撮像された赤外線画像を合成して検査画像を生成する。
【0030】
検査装置16は、例えば、内部に備えられた記憶媒体に記憶されたプログラムに基づき、検査処理を実行するコンピュータ(制御コンピュータ)などである。尚、本実施形態におけるコンピュータとは、パソコンに限らず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコンなども含み、プログラムによって検査装置16の機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0031】
距離計18は、移動装置22の移動距離を測定する。距離計18は、例えば、レーザー距離計などである。
【0032】
電源装置20は、例えば、遠距離加熱装置10、撮像装置12、センサ14、検査装置16、距離計18、および移動装置22に対して電源を供給する。電源装置20は、例えば、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池などの二次電池、その他の電池である。
【0033】
移動装置22は、遠距離加熱装置10、撮像装置12、センサ14、検査装置16、距離計18、および電源装置20を、検査対象物Tに沿って移動可能に搭載する。移動装置22は、例えば、車輪23と、移動台24と、モータなどの動力源(図示しない)とを備える。
【0034】
図5は、本実施形態における検査システム1と検査対象物Tとの位置関係を示す図である。
図5に示すように、遠距離加熱装置10、撮像装置12、センサ14、検査装置16、距離計18、および電源装置20を搭載した移動装置22は、例えば、レール26に沿って、移動方向Vに移動する。移動装置22は、例えば、等速移動を行う。尚、移動装置22が非等速移動を行うものである場合には、不適切データの除去、平均化などのデータ補正を行ってよい。
【0035】
遠距離加熱装置10と、撮像装置12と、センサ14とは、移動方向Vに沿って、順に移動台24上に配置されている。移動装置22の移動に伴い、遠距離加熱装置10と、撮像装置12と、センサ14とは、互いに同期しながら移動方向Vに移動する。この移動装置22の移動に伴い、遠距離加熱装置10は、検査対象物Tの検査領域Rを連続的に移動方向Vに沿って加熱する。撮像装置12は、遠距離加熱装置10によって加熱された検査対象物Tの検査領域Rの温度を連続的に移動方向Vに沿って測定する。また、センサ14は、検査対象物Tの検査領域Rの表面状態などを連続的に移動方向Vに沿って測定する。
【0036】
図6は、本実施形態における検査システム1に含まれる検査装置16の機能ブロック図である。撮像装置12によって取得された検査領域Rの温度変化データおよび連続的な赤外線画像、センサ14によって測定された検査対象物Tの検査領域Rのセンサ測定値、並びに、距離計18によって測定された移動装置22の移動距離データは、検査装置16に入力される。検査装置16は、これらのデータに基づいて、検査対象物Tの内部の欠陥の有無を検査するための検査画像を生成する。上記の検査システム1は、遠距離加熱装置10から出力された加熱光が、検査対象物Tの表面に対して垂直に入射するように使用されてもよいし、検査対象物Tの表面に対して斜め方向から入射するように使用されてもよい。検査対象物Tの検査領域Rと遠距離加熱装置10との間の距離は変化してもよい。
【0037】
検査装置16は、例えば、画像処理部30と、変換部32と、制御部34と、表示部36と、記憶部D1とを備える。
【0038】
画像処理部30は、距離計18によって測定された移動装置22の移動距離に基づいて、撮像装置12から入力された検査領域Rの連続的な赤外線画像を合成し、検査領域Rの全体についての1枚の連続温度画像であるパノラマ温度画像(合成画像)を生成する。また、この場合、画像処理部30は、センサ14から入力されたセンサ測定値に基づく画像歪み補正を行う。これにより、画像処理部30は、誤差±1画素の精度で、パノラマ温度画像を生成することが可能である。
【0039】
変換部32は、画像処理部30により生成されたパノラマ温度画像の各画素における温度−時間データに対して位相変換(フーリエ変換)を行って位相値と周波数との関係を示すデータを算出することで、1枚のパノラマ位相画像(位相画像)を生成する。位相画像とすることで、遠距離加熱装置10の構造や検査対象物の表面状態に起因する不均一な加熱分布による検査結果への影響を低減することができ、温度画像よりも高精度な検査が可能となる。変換部32は、例えば、高速フーリエ変換を行ってよい。以上の画像処理部30および変換部32により、検査装置16は、連続的に撮像された赤外線画像を合成して合成画像を生成し、合成画像を位相変換した位相画像を検査画像として生成する。
【0040】
制御部34は、例えば、所定の周波数における、変換部32により生成されたパノラマ位相画像を表示部36に表示するように制御する。検査システム1の利用者は、この表示部36に表示されたパノラマ位相画像を参照することで、検査対象物Tの内部の欠陥などの有無を検査することができる。また、制御部34は、検査装置16に接続されたキーボードなどのユーザインターフェース(図示しない)を介して利用者が入力した周波数におけるパノラマ位相画像を、表示部36に表示するように制御してもよい。
【0041】
表示部36は、制御部34の制御下において、所定の周波数におけるパノラマ位相画像を表示する。表示部36は、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Electroluminescence)表示装置などであってよい。
【0042】
記憶部D1は、撮像装置12から入力された検査領域Rの温度変化データおよび連続的な赤外線画像、センサ14から入力されたセンサ測定値、距離計18から入力された移動装置22の移動距離データ、画像処理部30により生成されたパノラマ温度画像、変換部32により生成されたパノラマ位相画像などを記憶する。記憶部D1は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリなどで実現される。
【0043】
また、上記の検査装置16の各機能部のうち一部または全部は、プロセッサがプログラム記憶部(図示しない)に記憶されたプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現されてよい。プログラムは、検査装置16の作動開始時に予めインストールされていてもよいし、他のコンピュータからダウンロードされてよいし、コンパクトディスクなどの可搬型記憶媒体からインストールされてもよい。また、検査装置16の各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって実現されてもよい。
【0044】
(動作フロー)
次に、本実施形態の検査システム1の動作について説明する。
図7は、本実施形態における検査システム1の検査処理を示すフローチャートである。
【0045】
まず、遠距離加熱装置10は、移動装置22の移動方向Vに沿う移動に伴い、検査対象物Tの検査領域Rに対して加熱光を連続的に照射し、検査対象物Tの検査領域Rを連続的に加熱し、距離加熱装置10と同期して移動する(距離加熱装置10と共に移動する)撮像装置12は、遠距離加熱装置10によって加熱された検査対象物Tの検査領域Rを連続的に撮像して、温度変化データおよび連続的な赤外線画像を取得し、遠距離加熱装置10と同期して移動する(距離加熱装置10と共に移動する)センサ14は、検査対象物Tの検査領域Rの表面状態などを連続的に測定して、センサ測定値を取得(ステップS101)。撮像装置12は、取得した温度変化データおよび連続的な赤外線画像を検査装置16に出力する。センサ14は、取得したセンサ測定値を検査装置16に出力する。また、距離計18は、移動装置22の移動距離を測定して、移動距離データを取得し、検査装置16に出力する。
【0046】
次に、検査装置16の画像処理部30は、距離計18によって測定された移動装置22の移動距離に基づいて、撮像装置12から入力された検査領域Rの連続的な赤外線画像を合成し、検査領域Rの全体についての1枚のパノラマ温度画像を生成する(ステップS103)。この場合、画像処理部30は、センサ14から入力されたセンサ測定値に基づく画像歪み補正を併せて行う。
【0047】
次に、変換部32は、画像処理部30により生成されたパノラマ温度画像の各画素における温度−時間データに対して位相変換を行って位相値と周波数との関係を示すデータを算出することで、1枚のパノラマ位相画像を生成する(ステップS105)。
【0048】
次に、制御部34は、所定の検査周波数におけるパノラマ位相画像を、表示部36に表示させる(ステップS107)。検査システム1の利用者は、この表示部36に表示されたパノラマ位相画像を参照することで、検査対象物Tの内部の欠陥などの有無を検査することができる。以上により、本フローチャートの処理を終了する。
【0049】
[実施例1]
上記の第1実施形態における検査システム1の動作を検証するために、遠距離加熱装置10の熱源として集光反射鏡を備えた2kw出力のハロゲンランプを使用し、撮像装置12として赤外線カメラ(FLIR A315,検出波長7.5〜13μm)を使用し、遠距離加熱装置10から4.3m離れたコンクリート壁面(検査対象物T)に対する連続移動検査を行った。本実施例では、検査対象物Tの表面の約5mの距離を10mm/secの移動速度で検査し、検査中の温度データはサンプリング周波数1Hzの条件で取得した。
図8は、本実施例における遠距離加熱装置10が検査対象物Tを加熱している状態を示す図である。
【0050】
図9A、
図9B、および
図9Cは、本実施例における撮像装置12によって連続的に撮像された加熱後の検査対象物Tの赤外線画像を示す図である。画像処理部30は、このような連続的な赤外線画像を合成し、検査領域Rの全体についての1枚のパノラマ温度画像を生成する。
【0051】
図10Aは、本実施例における撮像装置12によって撮像された検査対象物Tのパノラマ温度画像(加熱後70秒経過時)を示す図である。撮像装置12による実際の加熱範囲は、
図8に示すように、例えば、直径約1mの円形領域であるが、連続移動後の画像を合成したことにより、加熱領域(
図10A中の明るく表示されている領域)が筋状に表示されていることが分かる。一方、加熱中心からの距離に伴う加熱分布の存在により生じた温度差の大きなコントラストにより、このパノラマ温度画像では検査対象物T内で生じた小さな温度差などの検出は困難であることが分かる。
【0052】
図10Bは、
図10Aに示すパノラマ温度画像を位相変換することにより得られたパノラマ位相画像を示す図である。このパノラマ位相画像では、
図10Aに示すパノラマ温度画像で見られた加熱分布に伴う大きなコントラストが低減され、検査対象物Tの表面や内部状態に依存して生じた小さな位相値変化の確認が容易となっていることが分かる。このようなパノラマ位相画像を生成することで、検査対象物Tの内部の欠陥などの有無を検査することができる。
【0053】
以上において説明した本実施形態によれば、検査対象物に対して広範囲かつ高精度に検査を行うことができる。また、センサの検出値に基づいて、撮像装置により連続的に撮像された赤外線画像を合成して検査画像を生成することで、大面積の検査対象物を高精度かつ高効率で検査することができる。また、遠方に位置する検査対象物の検査を行うことができる。
【0054】
[第2実施形態]
以下、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態と比較して、第2の実施形態は、検査装置がパノラマ位相画像から検査に有効な位相画像範囲を抽出する点が異なる。このため、構成などについては第1の実施形態で説明した図および関連する記載を援用し、詳細な説明を省略する。
【0055】
(システム構成)
図11は、本実施形態における検査システム2に含まれる検査装置17の機能ブロック図である。位相画像を用いた検査では、遠距離加熱装置10による加熱範囲の中央付近では加熱分布の影響を低減することが可能であるが、ある範囲を超えると位相値が大きく変化し欠陥検出が困難となる場合がある。即ち、検査対象物Tにおいて、遠距離加熱装置10により加熱光を照射した範囲の温度は、その後低下していくが、照射した範囲から離れた領域では温度が逆に上昇する場合がある。欠陥の有無を検査するためには、温度が低下していく範囲の温度データを選別して利用する必要がある。このため、本実施形態の検査装置17は、第1実施形態における検査装置16と比較して、以下の機能を有する抽出部38をさらに備えている。
【0056】
抽出部38は、検査に有効な位相画像範囲を抽出する。抽出部38は、例えば、画像処理部30によって生成されたパノラマ温度画像の各画素における加熱後の経過時間と表面温度との関係を、加熱終了時刻における温度(各画素における温度の最大値)で正規化する。次に、抽出部38は、正規化後のデータに対する最小二乗近似から一次近似式を算出し、その傾きが負となる範囲を算出する。抽出部38は、この傾きが負となる範囲に相当するパノラマ位相画像を有効な位相画像範囲として抽出する。即ち、抽出部38は、パノラマ温度画像(合成画像)の各画素における加熱後の経過時間と表面温度との関係に基づいて、検査画像の有効な範囲を抽出する。
【0057】
(有効な位相画像範囲の抽出方法の検証)
上記の有効な位相画像範囲の抽出方法について、その効果の解析的な検討を行った。
図12Aは、有限差分法解析により得られたサンプル物体SOに対する加熱後の温度分布を示す図である。この
図12Aに示す温度分布は、サンプル物体SOとしてコンクリートを用いた場合の例である。上記の有限差分法解析では加熱分布として標準偏差50mmのガウス分布状の加熱を行った場合を想定しており、加熱中心の最大入力熱量は500Wとした。
図12Aは、図中左下を加熱中心とした1/4モデルの計算結果を示している。この加熱条件にて100秒間の加熱を行い、その後、サンプリング周波数1Hzの条件で2048秒間の温度変化データを算出した。さらに、得られた温度データに対して、赤外線画像取得時の温度ノイズを再現する為、標準偏差0.065℃の正規分布に従った乱数を疑似ノイズとして付加している。
【0058】
図12Bは、
図12Aの横軸に沿った加熱終了直後の温度値の分布を示す図である。一方、
図13Aは、
図12Aの温度画像の各画素における温度−時間データに対して位相変換を行って位相値と周波数との関係を示すデータを算出することで得られた位相画像を示す図である。
図13Bは、
図13Aの横軸に沿った位相値の分布を示す図である。
【0059】
図13Bに示すように、位相データでは加熱中心に近い一定の範囲(図中の破線で囲まれた範囲)でノイズの影響が小さく、かつ位相値がおおよそ一定になることが分かる。この範囲を利用することで、加熱分布の影響が低減された条件での検査が可能となると考えられる。一方、加熱中心から離れると、ある点から位相値が大きく変化することが分かる。これは位相変換前の温度値がノイズと同程度に小さくなることにより、ノイズの影響が位相データに反映されたためである。このため、加熱時の温度分布およびノイズの影響を回避しながら検査を行うために、抽出部38は、
図13B中の破線で囲まれた範囲を有効な位相画像範囲として抽出する。
【0060】
図14は、
図12Aに示す温度データから検査に有効な位相画像範囲を抽出した結果を示す図である。
図14における黒色で表示された範囲が抽出された位相画像範囲を示す。
図14と
図13Aとを比較すると、
図14に示す抽出された範囲が、
図13Aに示す位相画像における位相値がおおよそ一定となる範囲(
図13Bにおいて破線で囲まれた範囲)と一致していることが確認できる。以上により、上記の有効な画像範囲の抽出が有効であることが分かる。
【0061】
図15Aは、本実施形態における撮像装置12によって撮像された他のサンプル物体の赤外線画像を示す図である。サンプル物体は、その内部に欠陥Cを含んでいる。尚、検査対象物Tには、欠陥Cの存在を実際に確認するための穴部Xが設けられている。
【0062】
図15Bは、
図15Aに示す温度画像に対して上記の抽出処理を適用し、位相画像へ変換した場合の有効な位相画像範囲を示す図である。
図15Bにおける黒色で表示された範囲が検査に有効な位相画像範囲を示す。
図15Cは、
図15Aに示す温度画像を位相変換することにより得られた位相画像を示す図である。
図15Cに示す位相画像の内、
図15Bに示す有効な位相画像範囲の位相画像を用いることで高精度な検査を行うことができる。
【0063】
(動作フロー)
次に、本実施形態の検査システム2の動作について説明する。
図16は、本実施形態における検査システム2の検査処理を示すフローチャートである。
【0064】
まず、遠距離加熱装置10は、移動装置22の移動方向Vに沿う移動に伴い、検査対象物Tの検査領域Rに対して加熱光を連続的に照射し、検査対象物Tの検査領域Rを連続的に加熱し、距離加熱装置10と同期して移動する撮像装置12は、遠距離加熱装置10によって加熱された検査対象物Tの検査領域Rを連続的に撮像して、温度変化データおよび連続的な赤外線画像を取得し、遠距離加熱装置10と同期して移動するセンサ14は、検査対象物Tの検査領域Rの表面状態などを連続的に測定して、センサ測定値を取得(ステップS201)。撮像装置12は、取得した温度変化データおよび連続的な赤外線画像を検査装置17に出力する。センサ14は、取得したセンサ測定値を検査装置17に出力する。また、距離計18は、移動装置22の移動距離を測定して、移動距離データを取得し、検査装置17に出力する。
【0065】
次に、検査装置17の画像処理部30は、距離計18によって測定された移動装置22の移動距離に基づいて、撮像装置12から入力された検査領域Rの連続的な赤外線画像を合成し、検査領域Rの全体についての1枚のパノラマ温度画像を生成する(ステップS203)。この場合、画像処理部30は、センサ14から入力されたセンサ測定値に基づく画像歪み補正を併せて行う。
【0066】
次に、変換部32は、画像処理部30により生成されたパノラマ温度画像の各画素における温度−時間データに対して位相変換を行って位相値と周波数との関係を示すデータを算出することで、1枚のパノラマ位相画像を生成する(ステップS205)。
【0067】
次に、抽出部38は、画像処理部30によって生成されたパノラマ温度画像の各画素において加熱後の経過時間と表面温度との関係を、加熱終了時刻における温度(各画素における温度の最大値)で正規化する(ステップS207)。
【0068】
次に、抽出部38は、正規化後のデータに対する最小二乗近似から一次近似式を算出し、その傾きを取得する(ステップS209)。さらに、抽出部38は、取得した傾きが負となる範囲を算出し、この傾きが負となる範囲に相当するパノラマ位相画像を有効な位相画像範囲として抽出する(ステップS211)。
【0069】
次に、制御部34は、所定の検査周波数における、抽出部38により抽出された有効な位相画像範囲のパノラマ位相画像を表示部36に表示させる(ステップS213)。検査システム2の利用者は、この表示部36に表示されたパノラマ位相画像を参照することで、検査対象物Tの内部の欠陥の有無を検査することができる。以上により、本フローチャートの処理を終了する。
【0070】
[実施例2]
上記の第2実施形態における検査システム2の動作を検証するために、上記の実施例1と同じ遠距離加熱装置10および撮像装置12を使用し、同一条件下にてコンクリート壁面(検査対象物T)に対する連続移動検査を行った。
図17Aは、本実施例における撮像装置12で撮像された検査対象物Tのパノラマ温度画像(加熱後70秒経過時)を示す図である。
【0071】
図17Bは、
図17Aに示すパノラマ温度画像の各画素の温度データに対して上記の抽出処理を適用して有効な位相画像範囲の選定を行った結果である(
図17Bにおける黒色で表示された範囲が検査に有効な位相画像範囲を示す)。これより、
図17Bに示す画像内のほぼすべての範囲が検査に有効であることが分かる。
【0072】
図17Cは、
図17Aに示すパノラマ温度画像の有効な位相画像範囲を位相変換することにより得られたパノラマ位相画像を示す図である。尚、本実施例では、
図17Bに示す画像内のほぼすべての範囲が検査に有効であるため、
図17Aに示すパノラマ温度画像の全体を位相変換したパノラマ位相画像を検査に利用することができる。このようなパノラマ位相画像を生成することで、検査対象物Tの内部の欠陥などの有無を検査することができる。
【0073】
以上において説明した本実施形態によれば、検査対象物に対して広範囲かつ高精度に検査を行うことができる。また、センサの検出値に基づいて、撮像装置により連続的に撮像された赤外線画像を合成して検査画像を生成することで、大面積の検査対象物を高精度かつ高効率で検査することができる。また、遠方に位置する検査対象物の検査を行うことができる。
【0074】
また、パノラマ温度画像の各画素における加熱後の経過時間と表面温度との関係に基づいて、検査に有効な範囲を抽出することで、検査精度を向上させることができる。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせなどは一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求などに基づき種々変更可能である。