【解決手段】左右加速度を測定する加速度センサ5を鉄道車両1に1個設ける。判定ユニット6は、加速度センサ5により測定された左右加速度が、鉄道車両1の転覆を検知するための左右加速度しきい値を超えても(S3:YES)、左右加速度の変化であるジャークが、加速度センサ5の故障を検知するためのジャークしきい値未満である場合には(S4:NO)、加速度センサ5が故障しているので、転覆検知信号を出力しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の特許文献1及び特許文献2記載の技術には、以下の問題があった。
特許文献1記載の技術は、センサ故障による誤検知防止のために、各鉄道車両にセンサユニットを2個以上取り付ける必要があり、センサユニットの設置コストが高かった。しかも、特許文献1記載の技術は、センサユニット毎に測定値としきい値とを比較しており、センサユニットの故障を検知する方法が何も考慮されていなかった。
また、特許文献2記載の技術は、異常加速度に基づいて異常を自動的に判定する方法の記載がなく、測定装置としては良いが鉄道車両の転覆検知装置としては不十分であった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、転覆検知精度を向上させることができ、設置コストが安い鉄道車両転覆検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、次のような構成を有している。
(1)一対のレールに沿って走行する鉄道車両の転覆を検知する鉄道車両転覆検知装置において、前記鉄道車両に設置され、左右加速度を測定する加速度センサと、前記加速度センサにより測定された左右加速度が、前記鉄道車両の転覆を検知するための所定の左右加速度しきい値を超える条件(a)と、前記左右加速度の変化であるジャークが、前記加速度センサの故障を検知するための所定のジャークしきい値未満である条件(b)を満たす場合に、転覆が発生したと判定する判定手段とを有することを特徴とする。
【0009】
上記構成では、加速度センサが一対のレールに沿って走行する鉄道車両の左右方向(車幅方向)の加速度(左右加速度)を測定する。加速度センサにより測定される左右加速度と、転覆を検知するための左右加速度しきい値のみで比較して、転覆を検知すると、加速度センサが故障した場合に、転覆を誤検知する恐れがある。加速度センサは、センサ出力部のアンプがショートする等の故障を発生すると、多くの場合、測定値が急変する。上記構成では、加速度センサにより測定される左右加速度が、鉄道車両の転覆を検知するための左右加速度しきい値を超える条件(a)を満たしても、左右加速度の変化であるジャークが、加速度センサの故障を検知するためのジャークしきい値以上であり、条件(b)を満たさない場合には、判定手段は転覆が発生したと判定しないので、加速度センサの故障に起因する転覆の誤検知が防止される。よって、上記構成によれば、転覆検知精度を向上させることができる。また、上記構成の鉄道車両転覆検知装置によれば、1個の加速度センサが測定する左右加速度に基づいて鉄道車両の転覆と加速度センサの故障を判断するので、加速度センサを各鉄道車両に1個ずつ設ければ良く、設置コストを安くできる。
【0010】
(2)(1)に記載の構成において、前記判定手段は、前記条件(a)と前記条件(b)に加え、更に、前記左右加速度が、前記加速度センサの測定範囲の限界値であるオーバーレンジしきい値未満である条件(c)を満たした場合に、転覆が発生したと判定することが好ましい。
【0011】
例えば、加速度センサは、センサ出力部のアンプがショートする等の故障を発生すると、出力が最大値側に振り切れる。上記構成では、左右加速度が左右加速度しきい値を超える条件(a)と、ジャークがジャークしきい値未満である条件(b)を満たす場合でも、左右加速度が、加速度センサの測定範囲の限界値であるオーバーレンジしきい値以上である場合には、判定手段は転覆が発生したと判定しないので、加速度センサの故障に起因する転覆の誤検知が防止される。よって、上記構成によれば、転覆検知精度を向上させることができる。また、加速度センサが測定する左右加速度に基づいて加速度センサの故障を判断するので、転覆検知精度を安価に向上させることができる。
【0012】
(3)(1)又は(2)に記載の構成において、前記左右加速度しきい値は、前記鉄道車両の重心が軌間から外れる場合の左右加速度を含むことが好ましい。
【0013】
一般的に、鉄道車両の転覆限界は、重心に加わる重力と左右方向に加わる横方向力との合力の向きが、レールの垂線を横切るときとされている。しかし、横方向力になる横風が発生しても、鉄道車両は、車体姿勢が変わらない限り、転覆時の左右加速度が発生しない。そのため、上記構成では、横方向力が0で転覆する限界の左右加速度として、鉄道車両の重心が軌間から外れる場合の左右加速度を、内側転覆を検知するための左右加速度しきい値とする。よって、上記構成によれば、停止している鉄道車両の転覆を検知するための左右加速度しきい値を簡単に設定できる。
【0014】
(4)(1)乃至(3)の何れか一つに記載の構成において、転覆が発生したと前記判定手段が判定した場合に、緊急防護無線を自動的に発報する自動発報装置に転覆検知信号を出力する転覆検知信号出力手段を有することが好ましい。
【0015】
上記構成では、転覆の誤検知により緊急防護無線が発報されることが少なくなり、列車を円滑に運行させることができる。
【発明の効果】
【0016】
従って、本発明によれば、転覆検知精度を向上させることができ、設置コストが安い鉄道車両転覆検知装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る鉄道車両転覆検知装置の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る鉄道車両転覆検知装置4(以下「転覆検知装置4」ともいう。)を適用した鉄道車両1を示す図である。以下の説明において、図中右側を車両進行方向に対して右側、図中左側を車両進行方向に対して左側とする。そして、車両左側の車輪33Aが車両左側のレール10Aに接する位置を第1車輪接触点Aといい、車両右側の車輪33Bが車両右側のレール10Bに接する位置を第2車輪接触点Bといい、第1車輪接触点Aと第2車輪接触点Bとの間の間隔を、軌間Gという。
【0020】
鉄道車両1は、車体2の前後に台車3がそれぞれ回転自在に配置されている。台車3は、台車枠31の車幅方向に車軸32が架設され、その車軸32の左右両端部に車輪33A,33Bが取り付けられている。鉄道車両1は、レール10A,10Bに沿って走行する際に発生する上下方向の振動が、台車3の枕ばね34A,34Bと軸ばね35A,35Bにより吸収される。
【0021】
鉄道車両1には、転覆検知装置4と自動発報装置7が設けられている。転覆検知装置4は、加速度センサ5と判定ユニット(判定手段、転覆検知信号出力手段の一例)6を備える。加速度センサ5は、各鉄道車両1に1個ずつ設置されている。加速度センサ5は、前後いずれか一方の台車3に対応する位置に配設され、鉄道車両1が左右に振動するときの左右加速度を所定のサンプリング間隔で測定する。判定ユニット6は、加速度センサ5により測定された左右加速度を入力し、転覆が発生したか否かを判定する。判定ユニット6は、転覆が発生したと判定すると、自動発報装置7に転覆検知信号を出力する。自動発報装置7は、判定ユニット6から転覆検知信号を入力すると、緊急防護無線を自動的に発報し、付近を走行する列車を緊急停止させる。
【0022】
図2は、判定ユニット6のブロック図である。判定ユニット6は、ローパスフィルタ回路61と、第1絶対値処理回路62と、ジャーク算出回路63と、第2絶対値処理回路64と、転覆検知回路65とを備える。
【0023】
ローパスフィルタ回路61は、加速度センサ5から左右加速度のアナログ信号を入力して、所定周波数以下の成分を抽出する。
【0024】
第1絶対値処理回路62は、ローパスフィルタ回路61を通過した左右加速度を絶対値化する。加速度センサ5は、例えば右方向の加速度を正方向の加速度、左方向の加速度を負方向の加速度として検出するので、絶対値処理は、加速度センサ5により測定された左右加速度と左右加速度しきい値とを符号なしで比較するために行う。
【0025】
ジャーク算出回路63は、ローパスフィルタ回路61を通過した左右加速度の一定時間内における変化(ジャーク)を算出する。加速度センサ5は、故障したときの多くが、測定値を急変させる。よって、ジャークに基づいて加速度センサ5の故障を検知することができるので、ジャーク算出回路63を設けてジャークを算出する。
【0026】
第2絶対値処理回路64は、ジャーク算出回路63が算出したジャークを絶対値化する。第1絶対値処理回路62と同様に、ジャークとジャークしきい値との比較を符号無しで行うためである。
【0027】
転覆検知回路65は、左右加速度絶対値とジャーク絶対値を用いて転覆が発生したか否かを判定し、転覆が発生したと判定した場合に転覆検知信号を自動発報装置7(
図1参照)に出力する。
【0028】
転覆検知回路65の動作を
図3に基づいて具体的に説明する。
図3は、転覆検知回路65の動作を示すフロー図である。
転覆検知回路65は、ステップ1(以下「S1」と略記する。)、左右加速度絶対値を第1絶対値処理回路62から入力して取得する。そして、S2において、転覆検知回路65は、ジャーク絶対値を第2絶対値処理回路64から入力して取得する。
【0029】
そして、S3において、転覆検知回路65は、左右加速度絶対値が左右加速度しきい値を超えるか否かを判断する。ここで、左右加速度しきい値とは、鉄道車両1の転覆を検知するための左右加速度をいう。
【0030】
左右加速度しきい値の決め方を説明する。
図4は、外側転覆を説明する図である。
図5は、内側転覆を説明する図である。鉄道車両1の転覆は、著しく大きな風圧力や超過遠心力などの横方向力が車体2に加わった場合に、左右一方の車輪(
図4では車輪33B、
図5では車輪33A)にのみ荷重がかかる状態になり、安全限界を超えて、鉄道車両1が横転する現象をいう。そのため、転覆が発生するかどうかの限界は、鉄道車両1の重心R1に加わる重力と横方向力との合力の方向が軌間Gに収まるか否かによって決定する。すなわち、重心R1に加わる合力の方向が軌間Gより外側に向けば、その方向に鉄道車両1が横転する。よって、転覆の安全限界は、合力の方向(合力の方向がレール面Fと交わる作用点E)が、レールの垂線の上{
図4ではレール10B(又は第2車輪接触点B)、
図5ではレール10A(第1車輪接触点A)}を横切る時となる。尚、重心R1は、枕ばね34A,34Bや軸ばね35A,35Bのバネ力を考慮して、鉄道車両1の実際の重心Rの高さHに対して1.25倍の高さ1.25Hとする。
【0031】
重心R1に加わる重力は、車体2や台車3の質量や乗客によるものであり、変動が小さい。一方、横方向力は、鉄道車両1の走行速度や、横風の風圧力により、大きく変動する。そのため、合力の方向は、主に、横方向力の大きさによって変位する。横方向力の大きさは、左右加速度(左右加速度の絶対値)により認識できる。
【0032】
例えば
図4に示すように、鉄道車両1がカーブを走行する場合、鉄道車両1の重心R1には、カーブ外側(図中右側)に向かって水平面Iと平行に、遠心力(横方向力の一例)が加わる。遠心加速度をa、レール面の傾斜角をθとした場合、鉄道車両1の重心R1には、レール面Fと平行に、大きさがa×cosθの力がカーブ外側に向かって加わる。一方、カーブには、遠心力を抑制するために、カーブ外側のレール10Bをカーブ内側のレール10Aより高くしてカントCが設けられている。そのため、重心R1には、重心R1に加わる重力Wを1とした場合、大きさが1×sinθの力が、レール面Fと平行にカーブ内側に向かって加わる。よって、鉄道車両1に加わる超過遠心加速度は、a×cosθ−1×sinθとなる。これより、加速度センサ5が測定する左右加速度が大きくなるほど、遠心加速度aが大きくなることが分かる。遠心加速度aが大きくなると、転覆角度(重心R1と軌間Gの中心GAとを結ぶ線Lと、重力Wと遠心加速度aとの合力とがなす角度)αが大きくなり、鉄道車両1は、作用点Eが第2車輪接触点B側に移動し、第2車輪接触点Bにかかる荷重が第1車輪接触点Aにかかる荷重より大きくなる。作用点Eが第2車輪接触点Bよりカーブ外側(軌間Gの外側)に移動すると、鉄道車両1は、車輪33Aをレール10A(
図1参照)から浮き上がらせ、図中M1方向に横転し、カーブ外側に転覆する。
【0033】
よって、外側転覆時の左右加速度しきい値は、左右加速度が、重心R1に加わる重力Wと鉄道車両1の図中右方向に加わる遠心加速度a(横方向力の一例)との合力の向きが軌間G(レール10Bの第2車輪接触点B)より外側(カーブ外向きの外側)に外れるときの左右加速度に決めることができる。尚、外側転覆時の左右加速度しきい値は、地点毎に設定することが望ましい。地点によって転覆する遠心加速度aが変わるからである。
【0034】
一方、鉄道車両1がカーブで停車し(走行速度が0)、遠心力が発生しない場合に、カーブ外側から鉄道車両1に横風の風圧力が加えられると、
図4に示す遠心加速度aと反対向き(図中左向き)の横方向力が重心R1に加わる。この場合、重心R1には、重力Wを1とした場合、レール面Fと平行に、レール面の傾斜角θによるカーブ内向きの力(1×sinθ)と、横風による横方向力とを合わせた力(a×cosθ)が作用する。この合わせた力(a×cosθ+1×sinθ)と重力Wとの合力の向きがレール10A(第1車輪接触点A)よりレール内側(図中左側)にずれると、鉄道車両1は、レール内側に向かって横転し、転覆する。
【0035】
よって、内側転覆時の左右加速度しきい値は、左右加速度が、重心R1に加わる重力Wと横風の風圧力(横方向力の一例)との合力の向きが軌間G(レール10Aの第1車輪接触点A)よりカーブ内側に外れるときの左右加速度に決めることができる。
【0036】
以上より、鉄道車両1の重心R1に加わる重力Wと鉄道車両1の左右方向に加わる横方向力との合力の向きが軌間Gから外れるときの左右加速度を、鉄道車両1の転覆を検知するための左右加速度しきい値に決めることができる。
【0037】
ここで、横風が発生しても、停車中の鉄道車両1は、車体2の姿勢が図中M2方向に変わらない限り、左右加速度が発生しない。そのため、内側転覆の左右加速度しきい値は、最終的に、横方向の力が0で転覆する場合の左右加速度と考えることができる。すなわち、
図5に示すように、重心R1が軌間G(レール10Aの第1車輪接触点A)よりカーブ内側に外れる場合の左右加速度を内側転覆時の左右加速度しきい値にすることができる。これによれば、横方向力に関係なく、内側転覆時の左右加速度しきい値を設定することができる。
【0038】
図3に示すように、転覆検知回路65は、左右加速度絶対値が左右加速度しきい値以下である場合には(S3:NO、
図6参照)、正常に走行しているので、S1に戻る。つまり、転覆検知回路65は転覆検知信号を出力しない。
【0039】
一方、転覆検知回路65は、左右加速度絶対値が左右加速度しきい値を超える場合には(S3:YES)、S4において、ジャーク絶対値がジャークしきい値未満か否かを判断する。ここで、ジャークしきい値とは、加速度センサの故障を検知するためのジャークをいう。加速度センサ5は、正常時には左右加速度が緩やかに変化し、故障時には左右加速度が急変する。そこで、加速度センサ5の故障を検知するために、ジャーク絶対値とジャークしきい値とを比較する。転覆検知回路65は、ジャーク絶対値がジャークしきい値以上である場合には(S4:NO、
図8参照)、加速度センサが故障していると考えられるので、S1に戻る。つまり、転覆検知回路65は加速度センサ5の故障に起因して転覆検知信号を出力しない。
【0040】
一方、ジャーク絶対値がジャークしきい値未満である場合には、転覆検知回路65は、S5において、左右加速度絶対値がオーバーレンジしきい値未満か否かを判断する。ここで、オーバーレンジしきい値とは、加速度センサ5が左右加速度を測定できる測定範囲の限界値をいう。加速度センサ5は、例えばセンサ出力部のアンプがショートすると、出力が最大値側に振り切れ、測定範囲の限界値(上限値)を超える左右加速度を測定する。そこで、加速度センサ5の故障を検知するために、左右加速度絶対値をオーバーレンジしきい値と比較する。転覆検知回路65は、左右加速度絶対値がオーバーレンジしきい値以上である場合には(S5:NO、
図9参照)、加速度センサ5のアンプ等が故障したと考えられるので、S1に戻る。つまり、転覆検知回路65は加速度センサ5の故障に起因して転覆検知信号を出力しない。
【0041】
これに対して、転覆検知回路65は、左右加速度絶対値がオーバーレンジしきい値未満である場合には(S5:YES、
図7参照)、加速度センサ5が故障していない状態で転覆を検知しているので、S6において、転覆検知信号を自動発報装置7に出力し、処理を終了する。
【0042】
自動発報装置7は、転覆検知信号を入力すると、緊急防護無線を自動的に発報する。緊急防護無線が発報されると、付近を走行する列車が緊急停止し、併発事故が防止される。転覆検知回路65が、ジャーク絶対値とジャークしきい値との比較、及び、左右加速度絶対値とオーバーレンジしきい値との比較を行うことにより、加速度センサ5の故障に起因する転覆の誤検知を防止するので、付近を走行する列車は、転覆の誤検知により緊急停止しない。
【0043】
以上説明した本実施形態の転覆検知装置4は、一対のレール10A,10Bに沿って走行する鉄道車両1の転覆を検知する転覆検知装置4において、鉄道車両1に設置され、左右加速度を測定する加速度センサ5と、加速度センサ5により測定された左右加速度(左右加速度絶対値)が、鉄道車両1の転覆を検知するための所定の左右加速度しきい値を超える条件(a)(
図3のS3)と、左右加速度の変化であるジャーク(ジャーク絶対値)が、前記加速度センサの故障を検知するための所定のジャークしきい値未満である条件(b)(
図3のS4)を満たす場合に(
図7参照)、転覆が発生したと判定する判定ユニット6(判定手段の一例)とを有する。
【0044】
本実施形態の転覆検知装置4では、加速度センサ5が一対のレール10A,10Bに沿って走行する鉄道車両1の左右方向(車幅方向)の加速度(左右加速度)を測定する。加速度センサ5により測定される左右加速度と、転覆を検知するための左右加速度しきい値のみで比較して、転覆を検知すると、加速度センサ5が故障した場合に、転覆を誤検知する恐れがある。加速度センサ5は、センサ出力部のアンプがショートする等の故障を発生すると、多くの場合、測定値が急変する。本実施形態の転覆検知装置4では、加速度センサ5により測定される左右加速度が、鉄道車両1の転覆を検知するための左右加速度しきい値を超える条件(a)を満たしても(
図3のS3:YES)、左右加速度の変化であるジャークが、加速度センサ5の故障を検知するためのジャークしきい値以上であり、条件(b)を満たさない場合には(
図3のS4:NO)、判定ユニット6(判定手段の一例)は転覆が発生したと判定しないので、加速度センサ5の故障に起因する転覆の誤検知が防止される。よって、本実施形態の転覆検知装置4によれば、転覆検知精度を向上させることができる。また、本実施形態の転覆検知装置4によれば、1個の加速度センサ5が測定する左右加速度に基づいて鉄道車両1の転覆と加速度センサ5の故障を判断するので、加速度センサ5を各鉄道車両に1個ずつ設ければ良く、設置コストを安くできる。
【0045】
また、本実施形態の転覆検知装置4では、判定ユニット6は、上記条件(a)と上記条件(b)に加え、更に、左右加速度(左右加速度絶対値)が、加速度センサ5の測定範囲の限界値であるオーバーレンジしきい値未満である条件(c)(
図3のS5)を満たした場合に、転覆が発生したと判定する。例えば、加速度センサ5は、センサ出力部のアンプがショートする等の故障を発生すると、出力が最大値側に振り切れる。本実施形態では、左右加速度(の絶対値)が左右加速度しきい値を超える条件(a)と、ジャーク(の絶対値)がジャークしきい値未満である条件(b)を満たす場合でも(
図3のS3:YES、S4:YES)、左右加速度が、加速度センサの測定範囲の限界値であるオーバーレンジしきい値以上である場合には(
図3のS5:NO)、判定ユニット6は転覆が発生したと判定しないので、加速度センサ5の故障に起因する転覆の誤検知が防止される。よって、本実施形態の転覆検知装置4によれば、転覆検知精度を向上させることができる。また、加速度センサ5が測定する左右加速度に基づいて加速度センサ5の故障を判断するので、転覆検知精度を安価に向上させることができる。
【0046】
また、本実施形態の転覆検知装置4は、左右加速度しきい値は、鉄道車両1の重心R1が軌間Gから外れる場合の左右加速度を含む(
図5参照)。かかる転覆検知装置4は、停止している鉄道車両1の転覆を検知するための左右加速度しきい値を簡単に設定できる。
【0047】
また、本実施形態の転覆検知装置4は、転覆が発生したと判定した場合に、緊急防護無線を自動的に発報する自動発報装置7に転覆検知信号を出力する判定ユニット6(転覆検知信号出力手段の一例)を有するので(
図3のS3:YES、S4:YES、S5:YES、S6参照)、転覆の誤検知により緊急防護無線が発報されることが少なくなり、列車を円滑に運行させることができる。
【0048】
従って、本実施形態によれば、転覆検知精度を向上させることができ、設置コストが安い転覆検知装置4を提供することができる。
【0049】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。
例えば、上記実施形態では、加速度センサ5を各鉄道車両1に1個ずつ設置したが、鉄道車両1の前後台車位置に1個ずつ設置して各鉄道車両1に2個ずつ設けても良い。転覆検知装置4は、加速度センサ5が2個になれば、各加速度センサ5の測定値に基づいて転覆を判定する判定結果を比較し、より一層転覆検知精度を向上させることができる。
例えば、転覆検知回路65は、条件(c)の判断(
図3のS5)を省略しても良い。
例えば、判定ユニット6は第1及び第2絶対値処理回路62,64を省略しても良い。
例えば、鉄道車両1が他の鉄道車両1と連結されて列車を編成する場合には、各鉄道車両1の加速度センサ5を1個の判定ユニット6に接続しても良い。この場合、判定ユニット6は、各加速度センサ5から左右加速度を異なるタイミングで入力し、転覆を検知すると良い。この場合、判定ユニット6を共通化して転覆検知装置4の設置コストを更に安くできる。