【実施例】
【0017】
図1に示すように、実施例に係る製造方法で製造される車両内装部材10は、該車両内装部材10の土台となる基材12と、この基材12の表側に設けられ、該車両内装部材10の意匠面を構成する表皮材14とを備えている。車両内装部材10は、概略的な全体形状が、上部および下部と比べて上下方向中央部を車室側に膨らませるように湾曲させた三次元形状で形成されている。車両内装部材10は、基材12と表皮材14とが互いに対応する形状で形成されて、基材12の表面と表皮材14の裏面とを接着して一体化することで、厚み方向に重なる複層構造の板状体として構成される。
【0018】
図1に示すように、車両内装部材10は、表皮材14を糸で縫うことで意匠面に現れる複数の縫い目で構成されるステッチ模様16が、左右方向に延在するように設けられている。また、車両内装部材10には、縫い目が左右に並ぶステッチ模様16に沿って延在する段状部18が設けられ、2枚の本革等の皮状物を縫製した際に現れる皮状物材同士の繋ぎ目を当該段状部18によって表現している。車両内装部材10は、実際に縫製して得られるステッチ模様16と成形で疑似的に設けられた段状部18によって、本物に近い風合いを出すことを狙っている。なお、実施例のステッチ模様16は、シングルステッチである。
【0019】
図1および
図2に示すように、基材12は、得るべき車両内装部材10の形状に応じて、上部および下部と比べて上下方向中央部を車室側に膨らませるように湾曲させた三次元形状で基本的に形成されている。基材12は、車両内装部材10の形状を保持し得る剛性を有する比較的硬質な樹脂成形品であり、車両内装部材10において車体側に配置される。基材12は、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(PC/ABS)などの熱可塑性樹脂で構成される。
【0020】
図1および
図2に示すように、表皮材14は、得るべき車両内装部材10の形状に応じて、上部および下部と比べて上下方向中央部を車室側に膨らませるように湾曲させた三次元形状で基本的に形成されている。表皮材14は、基材12と比べて軟質な樹脂成形品であり、車両内装部材10において車室側に配置される。また、表皮材14は、可撓性を有している。
【0021】
図1に示すように、実施例の表皮材14は、車両内装部材10の表面側を構成する表皮層20と、この表皮層20の裏側に設けられ、基材12と接合されるクッション層22とを有する複層構造になっている。表皮層20は、可撓性を有するソリッドの合成樹脂で構成され、クッション層22は、弾力性を有する発泡体で構成されている。表皮層20上で発泡体を発泡成形することで表皮層20とクッション層22とを接合したり、シート状の表皮層20とシート状のクッション層22とを接着剤やフレームラミネーション等で接合したりすること等によって、表皮層20とクッション層22とが積層化される。実施例の表皮層20は、熱可塑性エラストマーから形成されている。表皮層20をなす熱可塑性エラストマーとしては、 オレフィン系エラストマー(TPO)や塩化ビニール系エラストマーやスチレン系エラストマーなどがあるが、この中でも、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂にエチレン‐プロピレンゴム(EPDM,EPM)等のゴムを分散して得られるオレフィン系エラストマーが好ましい。クッション層22としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系材料、ポリウレタンあるいはスチレンなどを発泡させたものがあるが、その中でもポリエチレン発泡体(PEF)が好ましい。
【0022】
図2〜
図4に示すように、実施例に係る製造方法で用いる圧着装置30は、基材12をセット可能な第1型32と、表皮材14をセット可能な第2型34とを備え、第1型32と第2型34とが相対的に進退移動可能に構成されている。実施例では、第1型32の下側に第2型34が配置され、第1型32を第2型34に対して進退させて型閉じおよび型開きしている。
【0023】
図2〜
図4に示すように、第1型32は、基材12の裏側の凹形状に合わせて凸状に形成された基材セット部36を有し、基材セット部36に基材12を嵌め合わせて、基材12の表側を第2型34に向けた状態でセット可能になっている。第2型34は、表皮材14の表側に向けた凸形状に合わせて凹状に形成された表皮材セット部38を有し、表皮材セット部38に表皮材14を嵌め合わせて、表皮材14の裏側を第1型32に向けた状態でセット可能になっている。また、第2型34は、真空吸引等によって表皮材14のセット状態を保持する負圧保持手段(図示せず)を有している。実施例の第2型34は、表皮材セット部38に開口する吸引孔から空気を吸引して、表皮材セット部38にセットされた表皮材14の本体部分14aとの間に負圧を発生させる負圧保持手段によって、本体部分14aを表皮材セット部38の型面に引きつけて保持している。
【0024】
図2〜
図4に示すように、第1型32は、凸形状の基材セット部36の周り(外側)に設けられた基材面部40を備えている。また、第2型34は、凹形状の表皮材セット部38の周り(外側)に設けられた表皮材面部42を備え、基材面部40と表皮材面部42とが圧着装置30を閉じた際に相対する。第2型34は、表皮材14において表側に露出する部分となる本体部分14aを表皮材セット部38で支持し、表皮材14において本体部分14aの外側に延びる周縁部分14bを表皮材面部42で支持するようになっている。
【0025】
図2〜
図4に示すように、圧着装置30は、第1型32の基材面部40に設けられ、第2型34にセットされた表皮材14の周縁部分14bを保持可能な保持手段44を備えている。保持手段44は、第1型32に、第2型34の表皮材面部42に対して進退可能に設けられ、進退手段46によって、基材面部40から突出する突出状態(
図2参照)と、第1型32に収納されて基材面部40から突出しないまたは基材面部40から突出量が最小になる退避状態(
図4(a)参照)との間で移動するように構成されている。実施例では、進退手段46として、保持手段44を第2型34に向けて付勢するばね等の付勢手段が用いられている。
【0026】
前記保持手段44は、進退手段46によって突出状態に向けて常に付勢されており、第1型32と第2型34とを開いた状態で突出状態にあり(
図2および
図3(a))、表皮材面部42に面する先端が該表皮材面部42から離れた位置に配置される。保持手段44は、第1型32と第2型34とが近づくと先端が表皮材面部42に移動規制され(
図3(b))、この当接状態から第1型32と第2型34とが更に近づくと、表皮材面部42に押されて退避状態に向けて移動し、第1型32と第2型34とを閉じたときに退避状態になる(
図4(a))。保持手段44は、第1型32と第2型34とが閉じた状態から開かれると、進退手段46の付勢によって突出状態に向けて移動し、先端が表皮材面部42から離れると突出状態になる(
図4(b))。
【0027】
図2〜
図4に示すように、保持手段44は、自身の進退方向に軸線(長手)が延在する棒状に形成されて、実施例では、丸棒形状である。また、保持手段44は、表皮材14の周縁部分14bに当たる先端面が半球状(実施例)等の湾曲した滑らかな形状や、角が面取りされた平面などで形成され、表皮材14の周縁部分14bにおける一部範囲に当たるようになっている。第1型32には、本体部分14aの四方を囲むように延出する表皮材14の周縁部分14bに対応して、基材セット部36の四方を囲むように設けられた基材面部40の各辺に、複数の保持手段44が互いに離して配置されている。
【0028】
次に、前述した圧着装置30を用いた実施例に係る製造方法について説明する。射出成形等の成形方法により、所定の三次元形状に成形された基材12を用意する(
図2)。また、真空成形等の成形方法により、所定の三次元形状に成形された表皮材14を得て、この表皮材14の所定箇所をミシンで縫うことでステッチ模様16を形成しておく(
図2)。このように、表皮材14は、所定形状に賦形すると共にステッチ模様16が形成されたものが用意される。ここで、基材12は、得るべき車両内装部材10の外形形状に合わせて基本的に形成されるのに対して、表皮材14は、基材12に被さる本体部分14aから周縁部分14bが四方に延出するように、基材12よりも大きく形成される。
【0029】
表側の面に接着剤を塗布した基材12を、裏側の面が基材セット部36に面するように該基材セット部36に嵌め合わせて、第1型32にセットする(
図3(a))。また、表皮材14については、本体部分14aの表側の面が型面に面するように、本体部分14aを表皮材セット部38に嵌め合わせると共に、表皮材セット部38からはみ出る周縁部分14bを表皮材面部42に配置する(
図3(a))。
【0030】
次に、第1型32を第2型34に近づけるように移動させて、第1型32と第2型34とを閉じる(
図3(b))。第1型32を第2型34に近づけて閉じるとき、表皮材14の本体部分14aに基材12が当たる前に、突出状態にある保持手段44を表皮材14の周縁部分14bに当てて、保持手段44と第2型34の表皮材面部42との間に該周縁部分14bを挟んで、表皮材14を移動しないように保持する(
図3(b))。仮に、表皮材14の周縁部分14bが第2型34から浮き上がる等、ずれた状態で第2型34にセットされていたとしても、型閉じに伴って保持手段44に押されて、表皮材14の周縁部分14bが適正な位置にセットされる。
【0031】
前記第1型32を第2型34に近づけるにつれて、表皮材14の周縁部分14bを表皮材面部42に押し当てた状態にある保持手段44が、表皮材面部42に押されて、進退手段46の付勢に抗して基材面部40からの突出量が小さくなるように移動する。表皮材14の周縁部分14bを保持手段44で弾力的に押さえたもとで第1型32と第2型34とを閉じて、接着剤が付与された基材12の表側の面と表皮材14における本体部分14aの裏側の面とを突き合わせて、基材セット部36と表皮材セット部38とで挟んで基材12と表皮材14の本体部分14aとを圧着する(
図4(a))。このように、圧着に際して、本体部分14aの四方を囲むように延出する表皮材14の周縁部分14bの各辺を、互いに離して配置された複数の保持手段44で保持し、表皮材14を第2型34に対して内側へずれないように保持している。
【0032】
前記第2型34において負圧保持手段による表皮材14の保持開始のタイミングは、本体部分14aを表皮材セット部38にセットした後や、保持手段44で周縁部分14bを表皮材面部42に押さえ付けた以降など、基材12と表皮材14の本体部分14aとが圧着される前の適宜時期を選択可能である。なお、実施例では、本体部分14aを表皮材セット部38にセットした後、型閉じを開始する前に、第2型34において負圧保持手段による表皮材14の保持を開始し、型閉じするまでに亘って負圧保持手段による表皮材14の保持を維持している。
【0033】
基材12と表皮材14の本体部分14aとを圧着した後に、第1型32と第2型34とを開き(
図4(b))、得られた圧着物を取り出し(
図5(a))、表皮材14の周縁部分14bを基材12の裏側に巻き込んで接着したり、表皮材14の周縁部分14bを切断したりするなど、所定の後処理を施すことで、車両内装部材10が得られる(
図5(b))。
【0034】
前述したように、第1型32と第2型34とを型閉じするとき、表皮材14の本体部分14aに基材12が当たる前に、保持手段44によって第2型34の表皮材面部42との間に周縁部分14bを挟んで表皮材14を保持している。これにより、型閉じ途中において、基材12と表皮材14の本体部分14aとが、すれ合う等、接触したとしても、表皮材14が周縁部分14bが保持手段44で押さえられて内側への移動が規制されているので、表皮材14が位置ずれすることを回避できる。また、表皮材14の周縁部分14bが第2型34の表皮材面部42から浮き上がった状態でセットされていたとしても、保持手段44が表皮材14の周縁部分14bに当たることで、表皮材14を適性なセット位置に補正することができ、型閉じ途中における基材12と表皮材14の本体部分14aとの接触自体を抑えることができる。このように、表皮材14が第2型34に対して適切に保持されたもとで、基材12と表皮材14とを圧着するので、表皮材14におけるシワ等の不良の発生を抑えて、品質に優れた車両内装部材10を得ることができる。
【0035】
前記保持手段44は、第2型34に押されて第1型32と第2型34との近接に伴って突出量が小さくなるように退避するので、保持手段44が第1型32と第2型34との型閉じに邪魔にならない。進退手段46によって付勢された保持手段44を、第1型32と第2型34との開閉を用いて進退移動させるので、例えばシリンダ等の駆動手段を用いて第1型32と第2型34との開閉に連動させて保持手段44を進退させる構成などと比べて、保持手段44の進退させる構成が簡単である。しかも、進退手段46に付勢された保持手段44によって、表皮材14の周縁部分14bを弾力的に押さえるので、周縁部分14bへの過剰な負荷を軽減でき、周縁部分14bに孔があく等、破損の発生を防止できる。
【0036】
前述したように、棒状に形成された保持手段44の先端によって表皮材14の一部範囲を押さえているので、表皮材14の周縁部分14bが三次元形状を有しており、それに応じた形状の表皮材面部42であっても、保持手段44で該周縁部分14bを適切に押さえることができる。従って、保持手段44の押さえによって、表皮材14を保持することができ、得られる車両内装部材10の表面を形作る表皮材14の品質を向上させることができる。
【0037】
前述したように、保持手段44によって表皮材14の周縁部分14bを押さえることで、第2型34の表皮材面部42と表皮材14の周縁部分14bとに隙間ができることを防止できる。これにより、第2型34の表皮材セット部38と表皮材14の本体部分14aとの間に負圧保持手段によって負圧をより適切に発生させることができる。従って、表皮材14を第2型34に対してより適切な位置で保持させることができる。
【0038】
前記表皮材14の周縁部分14bには、保持手段44の保持に起因する凹凸が形成されることがある。しかし、周縁部分14bは、切断によって除去されるか、または基材12の裏側に巻き込まれるので、製造過程で保持手段44に起因する凹凸が表皮材14の周縁部分14bに形成されても、その凹凸が車両内装部材10の品質の低下に繋がることがない。
【0039】
(変更例)
前述した構成に限定されず、例えば以下のようにも変更することができる。
【0040】
(1)
図6に示すように、第2型34の表皮材面部42にシール材48を固定し、表皮材14を第2型34にセットする際に、表皮材14の周縁部分14bをシール材48に重ねるように配置してもよい。シール材48は、接着剤や両面テープ等によって固定される。シール材48は、低通気性で、かつ弾力性を有する材料で、表皮材14と略同じ硬さまたは表皮材14よりも柔らかくなるように構成される。シール材48を構成する材料としては、例えば、独立気泡構造を有するゴムスポンジ、独立気泡構造を有するポリエチレンフォーム、低通気性のウレタンフォームなどを用いることができる。
【0041】
前記表皮材14を第2型34にセッ卜すると、シール材48に表皮材14の周縁部分14bが重ねられ、柔軟で弾力性を有するシール材48によって、表皮材14の周縁部分14bと第2型34の表皮材面部42との間が隙間なく埋められる。これにより、第2型34の負圧保持手段により表皮材14を吸引したとき、表皮材14の本体部分14aと表皮材セット部38との密着性を向上させることが可能となり、表皮14材におけるシワの発生を抑えることが可能となる。このように、三次元形状の基材12と該基材12に対応した形状の表皮材14とを第1型32と第2型34とにセットし、表皮材14を真空吸引しながら型閉じして、表皮材14を基材12に接着する際に、表皮材14を第2型34にセットするにあたり、表皮材14の周縁部分14bを第2型34の表皮材面部42に重ねると共に、その表皮材面部42と表皮材14の周縁部分14bとの間をシール材48によりシールしている。ここで、シール材48を保持手段44に対応した位置に配置しても、保持手段44から外側または内側へ外れた位置に配置しても、何れであってもよい。
【0042】
図6(b)に示すように、圧着装置30を型閉じすると、表皮材14の周縁部分14bが第1型32の基材面部40または保持手段44に押され、シール材48が圧縮される。なお、表皮材14の周縁部分14bには、シール材48への押し付けに起因する凹凸が形成されるが、この凹凸が形成された部分は、切断によって除去されるか、または基材12の裏側に巻き込まれる。従って、製造過程でシール材48に起因する凹凸が表皮材14の周縁部分14bに形成されても、その凹凸が使用者の目に付くことはない。
【0043】
(2)圧着装置は、実施例に限らず、第1型と第2型との配置が逆であっても、横方向または斜め方向に第1型と第2型とが配置されてもよい。また、第2型を移動させて圧着装置を開閉してもよい。
(3)基材ではなく、表皮材に接着剤を塗布しておいても、基材および表皮材の両方に接着剤を塗布してもよい。
(4)保持手段は、実施例のように棒状に限らず、表皮材の周縁部分をライン状に押さえるなど、周縁部分の適宜範囲を押さえるようにすればよい。
(5)ステッチ模様としては、シングルステッチ、ダブルステッチなど様々な形態に対応できる。