特開2019-100692(P2019-100692A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-100692(P2019-100692A)
(43)【公開日】2019年6月24日
(54)【発明の名称】防衛システム
(51)【国際特許分類】
   F41H 13/00 20060101AFI20190603BHJP
   H01S 3/095 20060101ALI20190603BHJP
   H01S 3/22 20060101ALI20190603BHJP
   B64B 1/40 20060101ALI20190603BHJP
【FI】
   F41H13/00
   H01S3/095
   H01S3/22
   B64B1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-23208(P2018-23208)
(22)【出願日】2018年2月13日
(31)【優先権主張番号】15/824,588
(32)【優先日】2017年11月28日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】507351702
【氏名又は名称】武久 究
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100129953
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 康弘
(72)【発明者】
【氏名】武久 究
【テーマコード(参考)】
5F071
【Fターム(参考)】
5F071AA04
5F071EE02
5F071JJ01
5F071JJ10
(57)【要約】
【課題】高出力で高品質のレーザ光を取り出せる化学励起酸素ヨウ素レーザを含む防衛システムを提供すること。
【解決手段】本発明は化学励起酸素ヨウ素レーザ(COIL:Chemical Oxygen-Iodine Laser)を用いた防衛システム100に関するものである。防衛システム100は、化学励起酸素ヨウ素レーザ103と、化学励起酸素ヨウ素レーザ102を高度17kmより高い高度に滞在する高高度気球(HAA:high-altitude airship)101とを、備えている。化学励起酸素ヨウ素レーザ103において、ガスが光軸方向に流れ、複数の排気管を備えていてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学励起酸素ヨウ素レーザと、
前記化学励起酸素ヨウ素レーザを高度17kmより高い高度に滞在する高高度気球とを、備えた防衛システム。
【請求項2】
前記化学励起酸素ヨウ素レーザがレーザ共振器と一重項酸素発生器を含み、
前記レーザ共振器が、前記一重項酸素発生器から繋がっている複数の注入管と、外部に繋がる複数の排気管とを備えることを特徴とした請求項1に記載の防衛システム。
【請求項3】
一重項酸素とヨウ素とが前記注入管から前記レーザ共振器内に供給され、前記一重項酸素と前記ヨウ素とがレーザ共振器内で光軸方向に流れることを特徴とする請求項2に記載の防衛システム。
【請求項4】
前記一重項酸素発生器にはバッファガスが満たされ、
塩素ガスを前記一重項酸素発生器に供給する前に、前記バッファガスによって、外部の圧力とほぼ同等に満たすことを特徴とした請求項2に記載の防衛システム。
【請求項5】
前記化学励起酸素ヨウ素レーザが一重項酸素発生器を含み、
前記高高度気球がヘリウムによって浮かび、
前記高高度気球から前記一重項酸素発生器にヘリウムガスがバッファガスとして供給されることを特徴とした請求項1に記載の防衛システム。
【請求項6】
前記化学励起酸素ヨウ素レーザが一重項酸素発生器を含み、
前記高高度気球がヘリウムによって浮かび、
バッファガスであるヘリウムガスがヘリウムガス容器から前記一重項酸素発生器に供給されている請求項1に記載の防衛システム。
【請求項7】
前記化学励起酸素ヨウ素レーザのレーザ共振器からの排出ガスがバッグに溜められることを特徴とする請求項5、又は6に記載の防衛システム。
【請求項8】
前記化学励起酸素ヨウ素レーザが回転ディスク型の一重項酸素発生器を備えることを特徴とした請求項1〜7のいずれか1項に記載の防衛システム。
【請求項9】
別の高高度気球をさらに備え、
前記別の高高度気球が集光鏡を含み、前記化学励起酸素ヨウ素レーザから取り出されたレーザ光が、前記別の高高度気球に入射することを特徴とした請求項1〜8のいずれか1項に記載の防衛システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学励起酸素ヨウ素レーザを用いた防衛システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素レーザとは、励起状ヨウ素原子(I(23/2))から波長1.315μmのレーザ光を発生させるレーザであり、COIL(Chemical Oxygen-Iodine Laser)と呼ばれている。COILは高出力の連続波で動作することで広く知られている。COILでレーザ動作させるには、一重項励起状酸素分子(O(Δ))を、塩素ガスとBHP溶液との化学反応によって発生させている。BHP溶液とは、過酸化水素水(H)と水酸化カリウム(KOH)あるいは水酸化ナトリウム(NaOH)との混合溶液のことである。
(Δ)は一重項酸素と呼ばれることがある。一重項酸素を発生させる反応容器は一重項酸素発生器(SOG:singlet oxygen generator)と呼ばれている。発生したO(Δ)とヨウ素分子とをミキシングすることで、ヨウ素分子はヨウ素原子に分解する。さらに、基底状態のヨウ素原子は、O(Δ)からエネルギー移乗されることで、励起状のヨウ素原子(I(23/2))が発生する。これにより、COILがレーザ動作する。これに関しては、非特許文献1〜4に記載されている。
【0003】
COILの動作中は、一重項酸素とヨウ素原子と、ヘリウムや窒素などのバッファガスと共に、レーザ共振器内に供給される。これと同時に、失活した酸素、ヨウ素分子及びバッファガスなどの反応生成物はレーザ共振器から真空ポンプによって排気される。その理由としては、レーザ共振器内での全圧が通常、約1000Pa(約7.5Torr)以下にする必要があるからである。
【0004】
化学レーザは宇宙区間で用いる場合に他のレーザに比べて有利である。この理由としては、化学レーザは電源無しに動作できるからである。さらにまた、宇宙空間で使われる場合は、真空ポンプも不要になるからである。したがって、宇宙配備型防衛システムのレーザとしては、HF化学レーザが第一に考えられている。宇宙配備用レーザに関しては、非特許文献5において説明されている。ところが、ヨウ素レーザを宇宙空間で用いるのは難しい。その理由としては、BHP溶液をSOGの容器内に納めるために重力が必要だからである。
【0005】
COILからのレーザ光は一般にビーム質が悪い。このことは、長距離伝搬が必要な防衛システムにCOILを用いることにおいても問題であった。その理由としては、一般的なCOILのレーザ共振器ではフレネル数が大きいからであり、その結果、高次の横モードで発振するからである。例えば、ビーム径が5cmで共振器長が1mの場合、フレネル数は475になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5229100号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Stephen C. Hurlick, et al., “COIL technology development at Boeing,” Proceedings of SPIE Vol. 4631, 101-115 (2002).
【非特許文献2】Masamori Endo, “History of COIL development in Japan: 1982-2002,” Proceedings of SPIE Vol. 4631, 116-127 (2002).
【非特許文献3】Edward A. Duff and Keith A. Truesdell, “Chemical oxygen iodine laser (COIL) technology and development,” Proceedings of SPIE Vol. 5414, 52-68 (2004)
【非特許文献4】Jarmila Kodymova, “COIL-Chemical Oxygen Iodine Laser: Advances in development and applications,” Proceedings of SPIE Vol. 5958, 595818 (2005)
【非特許文献5】Jim F. Riker, et al., “An Overview of the Space-Based Laser (SBL) Program,” Proc. SPIE 4632, 181 (2002)
【非特許文献6】Lewis Jamison, Geoffrey S. Sommer, Isaac R. Porche III, “High-Altitude Airships for the Future Force Army,” Technical Report, The RAND Corporation (2005)http://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/technical_reports/2005/RAND_TR423.pdf.
【非特許文献7】Performance of a High-Efficiency 5-cm Gain Length Supersonic Chemical Oxygen-Iodine Laser” by Tilghman L. Rittenhouse, Stephen P. Phipps, and Charles A. Helms
【非特許文献8】インターネット検索:http://www.altitude.org/air_pressure.php.
【非特許文献9】“An Atmospheric Turbulence Profile Model for Use in Army Wargaming Applications I” by David H. Tofsted, Sean G. O’Brien, and Gail T. Vaucher, ARL-TR-3748
【非特許文献10】“Propagation of High Energy Laser Beams in Various Environments” by Phillip Sprangle, Joseph Penano, Naval Research Laboratory, June 8, 2007.
【非特許文献11】V. N. Azyazov, S. Yu. Pichugin, M. C. Heaven, “A simplified kinetics model for the COIL active medium,” Proceedings of SPIE Vol.7915, 791505 (2011)
【非特許文献12】“Chemical Laser Modeling with Genetic Algorithms” by David L. Carroll, AIAA Journal, Vol. 34, 338-346 (1996)
【非特許文献13】The Magic of Relay Mirrors’ by Edward A. Duff and Donald C. Washburn in Proceedings of SPIE Vol. 5453, pp. 137-144 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常のCOILを図12に示す。SOG201から発生した一重項酸素は、供給ダクト202内を流れ、レーザ共振器203を通過し、排気ダクト204内を流れ、外部に排気される(矢印205)。酸素やヨウ素などの反応生成物は、排気ダクト204から真空ポンプ(不図示)によって排気される。レーザ共振器203はリアミラー206とフロントミラー207を備えており、レーザ光L200aがフロントミラー207から取り出される。図12に示されているように、ガスの流れと光軸とは互いに直交している。これにより、取り出されるレーザ光L200aの断面が矩形になり、円形にはならない。そのため、レーザ共振器203が短いことから、TEM00の単一横モードでの発振が困難になっている。
【0009】
本発明の目的は、高出力で高品質のレーザ光を取り出せるCOILを備えた防衛システムを提供することである。また他の目的としては、高高度飛行船で運べる軽いCOILを備えた防衛システムを提供することである。なお高高度飛行船(high-altitude airship)に関しては、非特許文献6において説明されている。なお、高高度飛行船(high-altitude airship)のことを、HAAと略す。
【0010】
またさらに他の目的としては、電源が不要のCOILを備えた防衛システムを提供することである
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の防衛システムは、レーザ共振器とSOGとを有するCOILを備えている。COILはHAAに載せられて、高度17kmより高い高度で滞空する。レーザ共振器には、SOGと繋がった多数の入力ポートと、外部に繋がる多数の排気ポートとが設けられていてもよい。
【0012】
以上に述べた物や本発明の特徴や長所は、下記の詳細説明と図面とによってさらに理解されるものであるが、これらは本発明を限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本実施形態にかかる防衛システムは、化学励起酸素ヨウ素レーザと、前記化学励起酸素ヨウ素レーザを高度17kmより高い高度に滞在する高高度気球とを、備えたのである。
【0014】
上記の防衛システムは、前記化学励起酸素ヨウ素レーザがレーザ共振器と一重項酸素発生器を含み、前記レーザ共振器が、前記一重項酸素発生器から繋がっている複数の注入管と、外部に繋がる複数の排気管とを備えることが好ましい。
【0015】
上記の防衛システムにおいて、一重項酸素とヨウ素とが前記注入管から前記レーザ共振器内に供給され、前記一重項酸素と前記ヨウ素とがレーザ共振器内で光軸方向に流れることを特徴とすることが好ましい。
【0016】
上記の防衛システムは、前記化学励起酸素ヨウ素レーザが一重項酸素発生器を含み、前記一重項酸素発生器にはバッファガスが満たされ、塩素ガスを前記一重項酸素発生器に供給する前に、前記バッファガスによって、外部の圧力とほぼ同等に満たすことが好ましい。
【0017】
上記の防衛システムは、前記化学励起酸素ヨウ素レーザが一重項酸素発生器を含み、前記高高度気球がヘリウムによって浮かび、前記高高度気球から前記一重項酸素発生器にヘリウムガスがバッファガスとして供給されることが好ましい。
【0018】
上記の防衛システムは、前記化学励起酸素ヨウ素レーザが一重項酸素発生器を含み、前記高高度気球がヘリウムによって浮かび、バッファガスであるヘリウムガスがヘリウムガスシリンダから前記一重項酸素発生器に供給されていることが好ましい。
【0019】
上記の防衛システムにおいて、前記化学励起酸素ヨウ素レーザのレーザキャビティからの排出ガスがバッグに溜められることが好ましい。
【0020】
上記の防衛システムにおいて、前記化学励起酸素ヨウ素レーザが回転ディスク型の一重項酸素発生器を備えることが好ましい。
【0021】
上記の防衛システムは、別の高高度気球をさらに備え、前記別の高高度気球が集光鏡を含み、前記化学励起酸素ヨウ素レーザから取り出されたレーザ光が、前記別の高高度気球に入射することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、高出力で高品質のレーザ光を取り出せる、防衛システム用のCOILを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施形態1にかかるヨウ素レーザを用いた防衛システム100を示した構成図である。
図2図2は、SOG107の構成図である。
図3図3は、フレネル数に依るビームのパワー損失を示したグラフである。
図4図4は、高度に対する気圧を示したグラフである。
図5図5は、本シミュレーションにおけるCOIL300を示した説明図である。
図6図6は、本シミュレーションにおけるレーザ共振器の分割に関する説明図である。
図7図7は、COIL300におけるレーザ共振器の断面を示した説明図である。
図8図8は、外気圧をパラメータとしたレーザ出力のシミュレーション結果である。
図9図9は、励起ヨウ素密度の分布を示すシミュレーション結果である。
図10図10は、実施形態2にかかるレーザ共振器を示した説明図である。
図11図11は、実施形態3にかかるレーザ共振器を示した説明図である。
図12図12は、通常のCOIL200を示した構成図である。
図13図13は、COIL200においてピンホールを用いてレーザ発振させた説明図である。
図14図14は、C値と高度との関係を示したグラフである。
図15図15は、C値に対するスポット径を示すグラフである。
図16図16は、付加的シミュレーションにおけるCOILの構成を示す説明図である。
図17図17は、COIL500に対する一次元シミュレーションモデルの説明図である。
図18図18は、バッファガスとしてNを用いた場合のシミュレーション結果である。
図19図19は、バッファガスとしてHeを用いた場合のシミュレーション結果である。
図20図20は、ヨウ素レーザを用いた防衛システム600の構成図である。
図21図21は、実施形態4にかかるヨウ素レーザを用いた防衛システム700の概念構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。実施例は単に本発明を例示するものであり、本発明はこれらの実施例に限定するものではない。なお、同じ符号が付いた物体は同じ物体を示す。
【0025】
実施の形態1.
以下、本開示の第1の実施形態について、図1を用いて説明する。図1は、化学励起酸素ヨウ素レーザを用いた防衛システム100(以下、防衛システム100と略す。)のコンセプトを示した構成図である。
防衛システム100は、アーム102aと102bとで吊り下げられたCOIL103を運ぶHAA101を備えている。HAA101はヘリウムで満たされており、高度約20kmで滞空している。COIL103はSOG107とレーザ共振器104を含んでいる。レーザ共振器104には注入管108と排気管114とが繋がれている。
COIL103でレーザ発振させるために、SOG107から注入管108を通って、一重項酸素がレーザ共振器104内に供給される。SOG107から注入管108を通ってバッファガスとしてのNガスがレーザ共振器104に供給される。レーザ共振器104はフロントミラー105とリアミラー106とを含む。ここでレーザ共振器と言及するものは、単にフロントミラー105とリアミラー106とで構成されたものだけではなく、一重項酸素やヨウ素やバッファガスで満たされた空間も示すものである。
【0026】
もしも注入管108と排気管114とが金属パイプから成ると、注入管108と排気管114とは未反応の塩素ガスによって腐食する。そこで、注入管108と排気管114は、ガラス管か塩ビパイプなどの非金属が好ましい。注入管108は、IとNの貯蔵容器109とパイプ110を介して繋がっている。IとNの混合ガスは貯蔵容器109からレーザ共振器104内に供給される。レーザ共振器104は、排気管114によって外部空間に繋がっている。
【0027】
COIL103は長いレーザ共振器104を有しているため、高品質のレーザ光L1を簡単に発生できる。これに関しては後述する。取り出されたレーザ光L1は折り返しミラー121で反射して、凹レンズ122を通る。凹レンズ122はレーザ光L2を直径約6mに拡大する。レーザ光L2は大きな集光鏡123に当たる。集光鏡123はレーザ光L3をターゲットのミサイル900に向ける。集光鏡123は凹面鏡であり、レーザ光L3をミサイル900で集光させている。集光鏡123は回転するため、レーザ光L3をどの方向にでも向かわせることができる。レーザ光L3はターゲットのミサイル900まで長距離伝搬する。
【0028】
COIL103のSOG107の詳細を図2に示す。図示されているように、SOG107は回転ディスク型SOGである。SOG107には多数のディスク112と容器118を含む。容器118には、過酸化水素水(H)と水酸化カリウム(KOH)あるいは水酸化ナトリウム(NaOH)との混合溶液であるBHP溶液111が溜められている。ディスク112はBHP溶液111中にその半分まで浸されている。ディスク112はモータ113によって回転される。
【0029】
COIL103はHAA101に搭載されており、宇宙配備型レーザではないため、BHP溶液111を容器118内で安定して溜めることができる。容器118には注入管119が取り付けられている。ClガスとNガスは、図示されてない貯蔵容器から容器118内に、注入管119を通って供給される。注入管119には、図示されていないバルブが備わっているため、ClガスとNガスとは、容器118内に注入管119によって独立に供給される。注入管119は、容器118の右端に取り付けられているように図示されているが、実際は長い容器118の側面側に多数の注入管119を取り付けると良く、それによって全ガス流量を高められる。なお、回転ディスク型SOGに関しては、例えば、特許文献1、及び非特許文献7において説明されている。
【0030】
回転ディスク型SOG107を用いる理由に関して説明する。高度20km前後では、BHP溶液111の温度がマイナス10℃程度になるため、BHP溶液111の粘度が高くなる。しかしながら回転ディスク型SOGでは基本的に高い粘度のBHP溶液を用いても容易に動作できる。これとは反対に、スプレー型やバブル型のSOGでは、低粘度のBHP溶液が必要である。その理由としては、スプレー型やバブル型のSOGにおいてBHP溶液の粘度が高くなると、微小なドロップを形成するのが困難だからである。
【0031】
このような低温では、水蒸気トラップ無しでCOILを動作させるのに十分な程度に、BHP溶液の蒸気圧が低くなる。冷却装置無しでBHP溶液111をマイナス10℃前後の最適温度に保つことができるので、COIL103の全体としての重量が低減できる。
【0032】
本発明の特徴の一つに、フレネル数を小さくできる長いレーザ共振器104を利用できることである。フレネル数Nは下記の式(1)で表される。
=a/(λL) ・・・(1)
ここで、aはミラーの半径、Lはレーザ共振器長、λはレーザ波長を表し、ここではλ=1.315μmである。
【0033】
図3に示されたように、小さいフレネル数では回折損失が大きい。それにより、小さいフレネル数の長いレーザ共振器では、単一横モード(TEM00モード)でレーザ発振でき、TEM01などの高次モードの発振を抑制できる。さらに、供給されたガスがレーザ共振器104の光軸方向に沿って流れることから、レーザ光L1の断面は円形になる。長いレーザ共振器104から取り出される円形断面のレーザ光は、TEM00モードを発振するために有利である。TEM00モードのビームはガウシャンビームと呼ばれ、全てのモードの中で最も拡がり角が小さい。その結果、長距離伝搬に適している。
【0034】
一方、図12に示す従来のCOIL200では、レーザ共振器203から取り出されるレーザ光L200aは矩形断面を有している。このためフレネル数が大きいことからビーム品質が悪い。したがって、単一横モードで発振させるために、レーザ共振器203内にピンホール板を配置する必要がある。ところが、図13に示されたように、発振するレーザ光L200bは、活性領域208よりも遙かに小さな断面積を有することになる。その結果、ピンホール板209無しのCOILに比べて、発振効率が大幅に低下することになる。したがって、本実施形態のCOIL103では、活性領域が小さな断面積なので、発振効率を下げることなく、TEM00モードで発振させることができる。
【0035】
防衛システム100は高度17kmより高い高度で滞空している。もし高度が17kmより高いと、図4に示されたように、大気圧は0.10気圧(10kPa)より低くなる。高度による大気圧に関しては、例えば、非特許文献8に示すような、計算サイトが様々ある。したがって、ターゲットでの照射強度を低減させるサーマルブルーミングや吸収の影響は、地表付近を伝搬させる場合に比べて、およそ1/10になる。
【0036】
HAA101は高度約20kmで滞空しているため、大気揺らぎの構造パラメータCは、10−18程度で、図14に示されているように、地表の場合の1/10より小さい。これに関しては、非特許文献9において説明されている。
【0037】
ターゲットのミサイル900における大気揺らぎを考慮したスポット径の見積もりに関して説明する。スポット径は回折拡がりと大気揺らぎ起因の拡がりとの両方を考慮して見積もられる。回折拡がりによる拡がり角の半角θdiffは、下記(2)式で計算される。
θdiff〜2M λ/πD ・・・(2)
【0038】
ここで、Mはビーム品質パラメータで、取り出されるレーザ光L1が回折限界なので、約1.0である。λはレーザ波長で1.315μmである。Dはレーザ光L3が取り出された直後の直径であり、ここでは約6mである。一方、大気揺らぎ起因の拡がり角の半角θturbulenceは下記(3)式で表される。
θturbulence〜2(C L/λ1/3)3/5 ・・・(3)
【0039】
ここでLはターゲットまでの距離である。上記両方の拡がりを考慮すると、距離L離れた場所でのスポット径dは、下記(4)式で表される。
d〜2√(θdiffturbulence) L ・・・(4)
【0040】
距離をパラメータとして、Cに対するスポット径を計算した結果を図15に示す。C値が約10−18の場合、ターゲットのミサイル900が100km離れた場所にあると、レーザ出力1MWでは6kW/cmの照射強度になる。これはターゲットのミサイル900のハウジングにダメージを生じさせることができる。これとは反対に、もしもCOILが地表付近に配置していると、約5×10−17もの大きなCの結果、ビーム径は約1mにもなってしまう。その結果、照射強度は約0.1kW/cmと小さくなってしまう。これではターゲットミサイル900を打ち落とすことはほとんど不可能である。以上が、本発明において、COIL103をHAAに搭載することで小さなC値の大気中に持ち上げることの理由である。揺らぎを有する大気中を伝搬する場合のビーム径に関しては、非特許文献10において説明されている。
【0041】
本発明において、このような揺らぎの小さな大気中のビーム伝搬は、他の特長もある。本防衛システムでは、可変ミラーなどの補正光学系を備える必要がない。補正光学系は従来のレーザ防衛システムには必要である。したがって、COIL103を軽くすることができる。
【0042】
本発明のさらに他の特長として、COIL103には真空ポンプが不要になる。COIL103は約20kmの高度に配置されることから、外の大気圧は非常に低い。したがって、COIL103は、レーザ動作の前と動作中において、真空ポンプによって排気しなくてもレーザ発振できる。その結果、COIL103には真空ポンプは不要である。高速な真空ポンプは非常に重いため、COIL103をさらに軽くできる利点がある。又、真空ポンプは電源、及び冷却水を必要とする。したがって、COIL103はHAAで容易に搭載できる。
【0043】
真空ポンプ無しにレーザ動作できることを確かめるために、図5に示されたCOIL300をシミュレーションした。COIL300は約6mの長さのレーザ共振器を有する。シミュレーションは、非特許文献11に示されたレート方程式に基づいたものである。その反応式は、N分子の衝突によるヨウ素分子の乖離を含んでいるため、高い圧力のN雰囲気において正確にシミュレーションできると考えられる。利得や圧力広がりの係数は、非特許文献12を参照した。
【0044】
COIL300はSOG307を含んでいる。SOG307は回転ディスク312を含んでいる。回転ディスク312は、BHP溶液311に半分浸されている。回転ディスク312はモータ313に繋がれている。モータ313はレーザ動作の前と動作中に回転ディスク312を回転させている。
【0045】
Clガスはレーザ動作前と動作中に、注入管319を通り、SOG307の容器318内に供給される。一重項酸素とNなどのバッファガスは、SOG307から注入管308a〜308dを通り、レーザ共振器304内に供給される。レーザ共振器304からの反応生成物は、排気管314a、314b、314cを通って外部に排出される。レーザ共振器304におけるミラー305、306の近くにはそれぞれパージ管317が接続されている。これらのパージ管317を通り、Nガスがレーザ共振器304内に供給される。したがって、ミラー305、306の表面は綺麗に保たれる。
【0046】
COIL300のシミュレーションでは、図6に示したように、レーザ共振器304を光軸に沿って63分割した。各分割部において各ガス密度が割り当てられる。シミュレーション条件は下記の通りである。
【0047】
塩素(Cl)ガス流量:30mol/s
生成効率(Cl流量に対するO流量の割合):0.90
(Δ) 生成効率(全Oに対するO(Δ)の生成割合):0.60
ヨウ素分子流量:0.006mol/s
N2 ガス流量:0.06mol/s
レーザ共振器:長さ6m、内径10cm
注入管(308a、308b、308c、308d):4カ所
排気管(314a、314b、314c):3カ所(内径10cm、長さ1m)
【0048】
バッファガスはNとした。バッファガスはヨウ素分子を流すために用いられ、ヨウ素分子の流量の10倍とした。図5では、それぞれの排気管(314a、314b、314c)が1カ所しか示されていないが、実際には光軸と平行方向における1カ所に6本の管が配置され、反応生成物の排気流量を高めている。これに関しては断面図である図7に示してある。
例えば、排気管314aには、実際には、排気ポート314a1、314a2、314a3、314a4、314a5、及び314a6の6本が付いている。これらの6本の排気ポート314a1、314a2、314a3、314a4、314a5、及び314a6は半径方向に並べられており、レーザ共振器304から外方向に向いている。これらの6本の排気ポート314a1、314a2、314a3、314a4、314a5、及び314a6内のガス流速は、粘性領域(平均圧力が100Paより高い領域)と中間領域(1Paから100Paの間の圧力領域)とで妥当とされるKnudsenの公式と呼ばれる、圧力依存性を有するコンダクタンスの公式から見積もられた。
【0049】
排気管を多く設ける別の理由がある。排気管の数を増やすことで、全流量を落とさずに、径の小さい排気管を用いることができる。小径ではコンダクタンスが小さくなる。その結果、ヨウ素分子が排気管314a、314b、314c内を流れる間に容易にトラップされやすくなる。その理由としては、高度約20kmでは外気がマイナス50℃前後であるため、ヨウ素分子が冷却されるからである。
【0050】
外気圧をパラメータとしたシミュレーション結果を図8に示す。シミュレーションでは、レーザ共振器内には最初に外気圧と同じ圧力の空気、すなわち21%の酸素と79%の窒素、で満たされるとした。シミュレーション結果、COIL300は、外気圧が25000Pa(約0.25気圧)より低い場合、連続的にレーザ発振できることが示された。これは、COIL300が高度12kmより高い高度に配置すれば、真空ポンプ無しに動作できることを意味している。したがって、真空ポンプを有しないCOIL300は軽くなる。それにより、このCOILをHAAに搭載するのが有利になる。好ましくは、HAAは高度17kmより高い高度に滞空する。これは図4に示されているように、外気圧は約10000Paより低い。この場合、取り出されるレーザ出力は、外部が完全に真空の場合の出力に比べて、その80%以上が得られる。HAAは高度17kmより高い高度に滞空するため、成層圏を飛ぶことになる。成層圏では対流圏に比べて大気揺らぎが小さい。したがって、COILは安定的に動作できる。
【0051】
本実施形態のCOILの他の特徴として、長いレーザ共振器304内に一重項酸素を速やかに満たすため、及び反応生成物を速やかに排出するために、COILは多くの注入管と排気管を備えている。従来のCOILが、光軸とガス流が直交する横方向流を有する一つの理由としては、利得長が短いことである。これは、単に長いレーザ共振器を用いても、利得長を長くすることはできないことを意味している。したがって、本発明では、COILには多くの注入管と排気管が備えられ、多数の高利得領域を形成している。
【0052】
これを確認するために、前記条件下で、レーザ共振器304内における励起ヨウ素原子の密度を図9にプロットした。そのプロットが示すように、励起ヨウ素原子密度は、注入管308a、308b、308c及び308dの場所において極大になる。位置(z)が注入管から離れると、密度は減少していき、排気管314a、314b、及び314cが取り付けられた場所において極小になる。したがって、本発明では、レーザ共振器304では、多くの注入管314と排気管を多数有することが好ましい。
【0053】
しかしながら、もしも従来のCOILにおいて、長いレーザ共振器に多くの排気管を設けるのであれば、多数の真空ポンプが必要になる。これに対して、本実施形態では真空ポンプが不要であるため、COILを軽くすることができる。このように、本実施形態のCOILはHAAに搭載することが有利である。本実施形態のCOILは真空ポンプが不要なので、真空ポンプを動作させるための電源も不要である。
【0054】
実施の形態2.
次に実施の形態2について、図10を用いて説明する。図10はレーザ共振器104bを示した図であり、これは図1に示されたCOIL103に対応する第一実施例とは異なる。レーザ共振器104b以外の防衛システムの構造は実施形態1の防衛システム100と同等である。したがって、その説明は省略する。
【0055】
レーザ共振器104bはフロントミラー105とリアミラー106bを備えている。レーザ共振器104b内には、凸レンズ131、132が配置されている。凸レンズ131と凸レンズ132との間には、ピンホール板133が配置されている。これら凸レンズ131と凸レンズ132とによって、ビームがピンホール板133において集光するようになっている。ピンホール板133は、高次の横モードを抑制することができる。その結果、TEM00のみがレーザ発振できるようになる。したがって、高品質のビームを発振できる。なお凸レンズ131、132にはそれらの表面に反射防止膜が施されている。
【0056】
実施の形態3.
実施形態3にかかる防衛システムを、図11を用いて説明する。図11は、レーザ共振器104cを用いた構成の図であり、これは図1に示されたCOIL103に適用できる実施形態1、2とは異なる。レーザ共振器104c以外の防衛システムの構造は防衛システム100と同等である。したがって、その説明は省略する。
【0057】
レーザ共振器104cはフロントミラー105cとリアミラー106cとを備えている。フロントミラー105cとリアミラー106cの両方とも内面が凹面形状になっている。レーザ共振器104cの内部には、フロントミラー105cとリアミラー106cとの間に凸レンズ131bが設けられている。レーザ共振器104cの内部には、フロントミラー105cとリアミラー106cとの間にピンホール板133bが設けられている。凸レンズ131bとリアミラー106cとが、ピンホール板133bにビームをフォーカスしている。ピンホール板133bは高次の横モードを抑制している。その結果、TEM00モードのみでレーザ発振できる。図11に示されているように、フロントミラー105cから取り出されるレーザ光L1は広がっている。したがって、折り返しミラー121で反射した後、レーザ光L2は集光鏡123において大きな直径を有するようになる。これにより、レーザ光L3は強く集光できるようになる。
【0058】
レーザ共振器104cの特長としては、フロントミラー105cとリアミラー106cとにおけるビーム強度を低くできる。したがって、フロントミラー105cとリアミラー106cに施された反射コーティングにダメージが生じる確率を低減できるようになっている。さらにまた、凸レンズ131bと凹レンズ131cとは反射防止コーティングが備えられているが、一般的にそれらは反射コーティングに比べて、ダメージ閾値は高い。
【0059】
シミュレーションの補足
図16に示されたCOIL500という別のモデルに対してもシミュレーションを追加で行った。COIL500はレーザ共振器504を備えている。シミュレーションを追加した目的としては、SOG内でのO(Δ)の失活を考慮した場合でもCOIL500が発振するかを確かめることである。つまり、COILの外部よりも高い圧力にするために、SOG内に高気圧のバッファガスを満たす必要があるかもしれないからである。
【0060】
レーザ共振器504は長さ2mで、内径0.1mである。レーザ共振器504は反射率99.9%のリアミラー505と反射率99.0%のフロントミラー506が備えられている。フロントミラー506からレーザ光L5が取り出される。COIL500は2つのSOG507a、507bを有している。SOG507aには複数の回転ディスク512aがある。SOG507bにも複数の回転ディスク512bがある。回転ディスク512a、512bは直径30cmである。回転ディスク512a、512bは、それぞれBHP溶液511a、511b中に半分浸されている。
【0061】
また回転ディスク512aは3mmピッチで並んでおり、長さは1mである。回転ディスク512bも3mmピッチで並んでおり、長さは1mである。したがって、回転ディスク512a及び512bの合計は666枚である。回転ディスク512a、512bとは、それぞれモータ513a、513bに繋がれており、レーザ動作の前と動作中に回転するようになっている。反応表面からのO(Δ)の発生率としては、一般的なSOGでの値である0.1mol/s/mとした。O(Δ)の初期発生効率は90%、Cl利用効率は90%とした。
【0062】
注入管508と排気管514がレーザ共振器504に接続されている。パージ管517は2枚のミラー505、506の近くのレーザ共振器504にそれぞれ繋がれている。注入管519a、519bはSOG507a、507bの容器518a、518bにそれぞれ接続されている。注入管519a、519bはSOG507の左側、及びSOG507bの右側に接続されているように描かれているが、実際はSOG507a、507bの側面に多くの注入管が接続されている。これにより、回転ディスク512a、512bとの表面で生じるClとBHP溶液との反応を促進している。
【0063】
COIL500のシミュレーションモデルを図17に示す。図17は、レーザ共振器504内部とSOG507a、507bの内部を対象とした1次元モデルを示している。レーザ共振器504の内部断面積は、SOG507a、507bの内部断面積と異なるため、レーザ共振器504、及びSOG507a、507bにおけるそれぞれの分割長は、同じ流量のガスに対して同じ滞在時間となるように調整されている。
【0064】
(Δ)を発生させるために、注入管519a、519bからClとNとをSOG507a、507bに注入する前に、SOG507a、507bにはNのみを注入する。それにより内部全体の圧力を外部の圧力と等しくする。O(Δ)を発生させる前に、SOG507a、507b、及びレーザ共振器504にはNかHeのバッファガスが、外部の圧力と等しくなるまで満たされる。この工程により、SOG507a、507bとレーザ共振器504からの酸素を排気管514から外部に排出できるようになる。したがって、ClをSOG507a、507b内への供給を開始すると直ぐに高効率の一重項酸素を得ることが容易になる。
【0065】
外部の圧力をパラメータとしたシミュレーション結果を図18に示す。これによると、COIL500は外圧が約10000Paより低い場合に連続的にレーザ発振することが判る。一方、外部圧力が約20000Paより高い場合、レーザ出力は少しずつ低下していき、最終的にはレーザ発振が止まる。
【0066】
さらに別のシミュレーションがCOIL500を対象として行われた。これはバッファガスとしてNの代わりにHeを用いた場合である。シミュレーション結果を図19に示す。図19によると、COIL500は、外部圧力が10000Paより低いと連続的にレーザ発振することが判る。Heをバッファガスとして用いる特長としては、HeはNより軽いことである。
【0067】
さらにまた、Heのバッファガスは、COIL500を搭載したHAA(ただし図16には示されていない)を浮かすための気球から供給することができる。例えば、HAAはヘリウムガスによって浮かび、そのヘリウムガスがバッファガスとして、HAAからSOGに供給される。つまり、HAAは浮かばせるガスとしてヘリウムで満たされた気球を含むからであり、HAAの気球からのヘリウムがバッファガスとしてCOILに供給される。したがって、バッファガスとしての余計なガス容器が不要になる。HAAを浮かすためには大量のHeが必要であるため、バッファガスとしてのHeの消費量は、もしもレーザ動作時間が1分程度であれば、無視できる程度に小さい。
【0068】
例えば、もしもHAAがHeにより全浮力が10000kgあるならば、400000モル前後のHeが必要になる。一方、バッファガスとして100mol/sの流量で供給する場合、もしも浮力が1/10失うまで許すのであれば、400秒間バッファガスを注入することができる。なお、ミサイル1発を撃墜するには、数秒のレーザ動作で十分である。さらに、COIL動作中では、酸素分子がCOILの外部に放出される。そのため、実際の浮力の損失は無視できる。発生する酸素分子を外部に放出することで、COILの全重量は軽くなる。ヘリウムがHAAからSOGに供給される時は、HAAは十分高い高度を飛ぶことができる。
【0069】
これらの追加シミュレーションによると、COIL500は、気圧が10000Paより低くなる高度17kmより高い高度に留まることで、真空ポンプ無しにレーザ動作できる。
【0070】
変形例
次に図20を用いて防衛システム600を説明する。図20は、変形例としてのヨウ素レーザを用いた防衛システム600の構成図である。この変形例では、防衛システム600は第一HAA601と第二HAA656とを含むものである。
【0071】
第一HAA601は高度17kmより高い高度を滞空している。第一HAA601はCOIL603、折り返し鏡621、凹レンズ622、及びミラー623を搭載している。COIL603は前述した実施例と同等の構造を有するため、COIL603の説明は省略する。第二HAA656は矩形の折り返し鏡657と矩形の集光鏡658を備えている。
【0072】
取り出されたレーザ光L1は折り返し鏡621で反射して、凹レンズ622を通る。これによりレーザ光L2は広がり、ミラー623に当たる。ミラー623はレーザ光L3をほぼ平行かあるいは僅かに集光するビームにする。ミラー623は回転できるようになっており、レーザ光L3をあらゆる角度に進ませることができる。レーザ光L3は、折り返し鏡657までの長距離を伝搬する。ミラー623からのレーザ光L3は折り返し鏡657に当たる。折り返し鏡657はレーザ光L3を反射させて集光鏡658に向かわせる。集光鏡658は凹面鏡から成る。集光鏡658はレーザ光L4を反射させてターゲットのミサイル900に集光する。第一HAA601は高度17kmより高い高度で滞空している。したがって、本変形例における防衛システム600もまた前述した実施形態の特長を有している。
【0073】
第二HAA656はミサイル900から20〜30kmのより近い場所で滞空することができるため、集光鏡658は、防衛システム100で使われる集光鏡123よりも小さくできる。また、第一HAA601におけるミラー623は、HAA656の折り返し鏡657におけるビームを小さくする必要がないため、第一HAA601は、第二HAA656よりもミサイル900から遙かに遠くに離れて滞空することができる。さらに、もし、第二HAA656が別のミサイルによって撃墜されたとしても、COIL603を搭載している第一HAA601は撃墜されることはない。第二HAA656、折り返し鏡657、及び集光鏡658の開発コストは、COIL603の開発コストに比べると遙かに安いため、経済的なメリットがある。第二HAA656を用いる防衛システムは、リレーミラーと呼ばれ、非特許文献13において説明されている。
【0074】
実施の形態4.
次にヘリウムをバッファガスに用いた他の実施形態を、図21を用いて説明する。図21はヨウ素レーザを用いた防衛システム700の概念構成図である。本防衛システムでは、ヘリウムで満たされたHAA701がCOIL703を搭載している。COIL703はSOG707とレーザ共振器704とを含む。SOG707には回転ディスク712が含まれ、これはBHP溶液711内で半分浸されている。回転ディスク712にはモータ713が取り付けられている。レーザ共振器704には、注入管708a、708b、及び708cが取り付けられている。さらに、レーザ共振器704には、排気管714a、714bが取り付けられている。排気管714a、714bには、リサイクルバッグ721が繋がれている。
【0075】
レーザ共振器704はフロントミラー705とリアミラー706とを備えている。COIL703を発振させるために、注入管708a、708b、及び708cを介して、SOG707からレーザ共振器704内に一重項酸素が供給される。それによりレーザ共振器704内で、励起ヨウ素原子が生成してレーザ発振し、フロントミラー705からレーザ光L7が取り出される。
【0076】
SOG707において一重項酸素を発生させるために、ClガスがClガス容器722から供給される。またバッファガスとしてのヘリウムがヘリウムガス容器733から供給される。それにより、ClとHeの混合ガスが、注入管724a、724bからSOG707内に供給される。図中の矢印はガスの流れる方向を示している。
【0077】
コンプレッサ726がヘリウムガス容器733とHAA701との間に設けられている。ヘリウムガス容器733には、最初に高圧のヘリウムが満たされている。しかしもしも内部のヘリウム圧が、外部の圧力より下がると、ヘリウムはコンプレッサ726を経由してHAA701から供給される。したがって、ヘリウムガス容器733には、常時、高圧のヘリウムガスが満たされるようになっている。
【0078】
一方、レーザ共振器704からの反応生成物はリサイクルバッグ721に溜められる。レーザ共振器704からの排出ガスはリサイクルバッグ721に溜められる。したがって、ヘリウムは外部に捨てられることはない。ヘリウムは高価なので、経済的なシステムになっている。
【0079】
本発明は以上の実施例に示したが、本発明の目的と効果に反しない他の様々な形態も含むものとし、これらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
本発明は以上のように説明されたが、実施形態は多くの変更を伴うこともある。そのような変更は、本発明の目的は分野から逸脱しないものであり、そのような全ての変更点は、以下の請求項の範囲に含まれることを想定したものであり、同分野の者には、明らかに逸脱しないと考えられるものである。
【符号の説明】
【0081】
100、600、700 防衛システム
103、200、300、500 COIL(化学励起酸素ヨウ素レーザ)
101、701 HAA(高高度気球)
104、203、304 レーザ共振器
105 フロントミラー
106 リアミラー
108 注入管
109 貯蔵容器
110 パイプ
111 BHP溶液
112 ディスク
113 モータ
114 排気管
118 容器
119 注入管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21