/dayを得るための立ち上げ期間を飛躍的に短縮することができるアナモックス菌群保持用担体、アナモックス菌群付着体、及び廃水処理装置を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のアナモックス菌群保持用担体は、炭素粒子を含むことを特徴とするものであり、炭素粒子が黒鉛粒子、特に、等方性黒鉛粒子であることが望ましく、また、ゼータ電位が−35mV以上0mV以下であることが望ましく、前記炭素粒子の平均粒子径が、2μm以上1000μm以下であることが望ましい。
請求項4記載のアナモックス菌群付着体を攪拌流動させて廃水処理する廃水処理部と、アナモックス活性を消失してアナモックス菌群が脱落して生じた炭素粒子を貯留する廃物貯留部とが分離されていることを特徴とする廃水処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアナモックス菌群保持用担体(以下、単に、担体と称することがある)は、炭素粒子を含むことを特徴とする。この担体は炭素粒子が凝集した凝集体であってもよい。
上記構成であれば、アナモックス菌群がアナモックス菌群保持用担体に付着し易くなるので、窒素除去速度1kg−N/m
3/dayを得るための立ち上げ期間を飛躍的に短縮することができる。
【0013】
上記炭素粒子としては、黒鉛、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレンなどの粒子が挙げられるが、菌が付着するに適した粒子サイズが得られやすい黒鉛粒子が望ましい。黒鉛からなる粒子としては人造黒鉛粒子、天然黒鉛粒子があり、さらに人造黒鉛粒子としては等方性黒鉛粒子、異方性黒鉛粒子が挙げられる。担体の強度や気孔による菌の付着性の観点等から、黒鉛が望ましく、特に等方性黒鉛が望ましく、さらに、黒鉛粒子はカーボンナノチューブなどと比較して大量および安価に製作できるという利点を有する。
【0014】
上記炭素粒子を含むアナモックス菌群保持用担体の見かけのゼータ電位(以下、単にゼータ電位と称する)は−35mV以上0mV以下であることが望ましい。
担体のゼータ電位が−35mV以上0mV以下に規制されていれば、アナモックス菌群が担体に一層付着し易くなる。
なお、上述のゼータ電位は−30mV以上であることがより好ましく、−20mV以上であることがさらに好ましい。
なお、本願における担体のゼータ電位とは、以下で測定した値を言う。
(1)水50mlに担体1gを加える
(2)薬匙で1分間攪拌後、超音波洗浄機(アズワン製超音波洗浄機ASU−10)を用いて周波数40Hz、出力240Wで5分間攪拌する
(3)攪拌後すぐに、ディップセルに(2)を1ml充填し、ゼータ電位測定装置(Malvern社製Ztasizer Nano−ZS90)を用いて波長633nmの赤色レーザーを用いて測定を実施した。なお、測定時のpHは7である。測定は3回行い、その平均値を担体のゼータ電位とした。
【0015】
上記炭素粒子の平均粒子径は、2μm以上1000μm以下であることが望ましく、好ましくは2μm以上500μm以下であり、より好ましくは8μm以上200μm以下である。
上記炭素粒子の平均粒子径を上記範囲とすることでアナモックス細菌群が担体に一層付着し易くなる。
【0016】
上記炭素粒子同士は結着剤により固定されていてもよい。
このように、炭素粒子同士が結着剤により固定されていれば、水中での担体の強度が一層向上し、固定化された炭素粒子の水中での崩壊を防止できるため、上述した作用効果がより発揮される。上記結着材としてはポリビニルアルコール(PVA)が挙げられる。
【0017】
本発明は、上述のアナモックス菌群付着体が廃水処理槽内に配置されていることを特徴とする。
上記アナモックス菌群付着体を用いると、窒素除去速度が所定値に達するまでの立ち上げ期間が飛躍的に短縮され、また、アナモックス菌群は廃水を円滑に処理することが可能となるので、処理能力に優れた廃水処理装置を提供することが可能となる。
【0018】
本発明の別の構成は、上述のアナモックス菌群付着体と、炭素粒子に硝化細菌が付着された硝化細菌付着体とが、同一の廃水処理槽に配置されていることを特徴とする。嫌気性であるアナモックス菌群と好気性である硝化細菌群を適度な溶存酸素量下でそれぞれ作用させることを特長とする本構成をSNAP法と称する。
このような構成であれば、硝化細菌によりアンモニア性窒素の一部が亜硝酸性窒素に変換されると共に、アナモックス菌群によりアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素から窒素ガスに変換することが可能となる。このように、廃水処理反応の一部を硝化細菌が担うこととなれば、アナモックス反応がより円滑に進行する。
【0019】
本発明は、上述のアナモックス菌群付着体を攪拌流動させて廃水処理する廃水処理部と、アナモックス活性を消失してアナモックス菌群が脱落した炭素粒子を貯留する廃物貯留部とが分離されていることを特徴とする。
廃水処理部と廃物貯留部とが分離されていれば、廃水処理部にはアナモックス活性を維持しているアナモックス菌群付着体のみが存在することになる。したがって、廃水処理装置の処理能力を一層向上させることができる。
【0020】
また、担体を構成する炭素粒子を常時または断続的に、上記廃水処理槽に供給する炭素粒子供給部を有することが望ましい。炭素粒子を常時または断続的に廃水処理槽に供給すれば、それが新たな担体となってアナモックス菌群が付着するので、廃水処理装置の処理能力が一層向上する。
具体的には、廃水処理部の上方に、炭素粒子が貯留された貯留槽を設け、この貯留槽から、常時又は所定期間毎に炭素粒子を廃水処理部に落下させるような構成とすれば良い。
以下、本発明を実施例にて説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
本実施例1では、
図1に示すような廃水処理装置を用いた。
図1から明らかように、当該廃水処理装置は反応槽1を有しており、この反応槽1には、廃水処理を行う廃水処理部4と、アナモックス活性を消失してアナモックス菌群が脱落した炭素粒子(以下、廃物と称することがある)を貯留しておく廃物貯留部5とを有している。このように、廃物貯留部5を設けることにより、廃物が廃水処理部4に滞留して、廃水処理部4における処理能力が低下するのを抑制できる。また、反応槽1には、廃水流入部2から廃水が供給される一方、処理水流出部3から処理水が流出する構造である。なお、
図1において、6はアナモックス菌群が付着した炭素粒子(アナモックス菌群付着体)、7はアナモックス菌群が脱落した炭素粒子、9は撹拌機である。
【0022】
ここで、上記廃水処理部4と上記廃物貯留部5とは、遮蔽板8によって分離されており、この遮蔽版8は、下方にいくにしたがって上記廃物貯留部5が先細り状となるように、傾斜配置されている。このような構成とするのは、以下に示す理由による。上記廃水処理装置を運転すると、
図2に示すように、上方にはアナモックス活性を維持しているアナモックス菌群付着体の塊31が存在する一方、下方にはアナモックス活性を消失してアナモックス菌群が脱落した炭素粒子30が存在する。上記炭素粒子30は、水面を押圧することにより、遮蔽版8により形成された下端開口部8aを通って、廃水処理部4から廃物貯留部5に移動させることができる。この際、下端開口部8aが大きいと、炭素粒子30のみならず、アナモックス菌群付着体の塊31まで廃物貯留部5に移動することがある。このような事態が生じるのを防止すべく遮蔽版8を傾斜させ、下端開口部8aを小さくしている。これによって、廃物貯留部5の大きさを確保しつつ、アナモックス菌群付着体の塊31が廃物貯留部5に移動するのを抑制している。
【0023】
図1に示した廃水処理装置において、反応槽1(容積:1.55L)中に、黒鉛粒子を20ml(充填率は1.3体積%)、アナモックス菌群を78ml(充填率は5.0体積%)投入した後、供試廃水で反応槽1を満たした。上記黒鉛粒子は、東洋炭素社製等方性黒鉛粒子であってゼータ電位−9.1mV,平均粒子径40μmのものであり、これを水に懸濁させて使用した。
【0024】
なお、上記黒鉛粒子の平均粒子径は、以下に示す方法で測定した。
また、本願において炭素粒子の平均粒子径は以下の方法で測定した値を言う。
(1)ビーカーに純水60ccを投入し、黒鉛粒子を5mg投入した
(2)界面活性剤ポリエチレンオキサイド(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル)を2ml、(1)のビーカーへ滴下した (3)(2)のビーカーを超音波洗浄機(アズワン製超音波洗浄機ASU−10)で5分間、超音波処理を行った (4)HORIBA製Partica LA−950V2を用い、カーボン測定条件によって粒径測定を実施した。
【0025】
また、アナモックス菌群の生育促進のために、下記表1及び表2に示す2種類のトレースエレメントを供試廃水1000mlごとに各1mlずつ添加した。さらに、上記供試廃水は、下記表3に示した無機合成廃水(T−N954mg/L)を、T−N100〜1300mg/Lになるように水道水で希釈または濃度を上げて調整した。T−Nとは全窒素濃度で、ここでは、
T−N=[NH
4−N]+[NO
3−N]+[NO
2−N]
である。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
処理運転は流量と濃度を徐々に上昇させることにより窒素負荷(T−N負荷)を増大させた。滞留時間は8〜20h、供試廃水T−N濃度(以下、窒素濃度と略す)を100〜1300mg/Lでの運転である。
窒素負荷Lvの計算は以下の通りである。
Lv=(C×Q)/(V×1000)
Lv:窒素負荷(kg−N/m
3/day)
C:供試廃水T−N(mg/L)
Q:流量(L/day)
V:リアクター容積(L)
【0030】
上記供試廃水を処理した結果を
図3に示す。窒素除去速度とはT−N窒素除去速度である。運転開始から8日目までは窒素除去速度0.08〜0.10kg−N/m
3/dayでほぼ横ばいに推移した。下記(1)式で示す窒素除去率は、運転初期から67.2〜90.7%であり、非常に高くなっていることが認められた。
【0031】
δ=((C0-C1)/C0)×100・・・(1)
δ:窒素除去率(%)
C0:供試廃水T−N(mg/L)
C1:処理水T−N(mg/L)
【0032】
また、11〜15日にかけて窒素除去速度は徐々に上昇し、18日目以降は、急激に窒素除去速度が向上していることが確認できた。更に、運転21日目には窒素除去速度が0.55kg−N/m
3/day、26日目には窒素除去速度が1.06kg−N/m
3/day、32日目に窒素除去速度が1.50kg−N/m
3/dayになっていることが認められた。このように、26日目で窒素除去速度1.0kg−N/m
3/dayを超えていることから、本発明であれば立ち上げ期間を1ヶ月以下に短縮できることがわかる。
また、18日目に赤褐色のグラニュールと思われる塊が確認でき、さらに発生した窒素ガスが黒鉛粒子に付着し系外へ流出する現象が確認された。加えて、窒素除去速度が極めて優れるといわれている3.0kg−N/m
3/dayを、90日程度で達成していることも認められた。なお、
図9にアナモックス菌群付着体の見かけのゼータ電位測定結果を示す。ゼータ電位測定は、担体の見かけのゼータ電位測定方法と同様の方法でおこなった。ゼータ電位の値は−26.6mVであった。アナモックス菌付着前の担体のゼータ電位は−9.1mVであったことから、担体にアナモックス菌群が付着してゼータ電位が変化していることが分かる。
【実施例2】
【0033】
上記実施例1と同様にして、担体のゼータ電位(菌が付着してない状態でのゼータ電位)と実験開始後90日目のアナモックス活性との関係について調べた。その結果を
図4に示す。なお、ゼータ電位は炭素粒子の粒子径分布を変えることにより調整した。
図4から明らかように、ゼータ電位は−35〜0mV、好ましくは−30〜0mV、より好ましくは−20〜0mVであれば良いことが認められた。
また、上記実施例1と同様にして、黒鉛粒子(炭素粒子)の平均粒子径と実験開始後90日目のアナモックス活性との関係について調べたので、その結果を
図5に示す。
図5から明らかように、炭素粒子の平均粒子径は2〜1000μm、好ましくは2〜500μm、より好ましくは8〜200μmであれば良いことが認められた。
【実施例3】
【0034】
平均粒子径20μmの黒鉛粒子をPVAで結着させてアナモックス菌群保持用担体を作成した。この担体を
図6に示す廃水処理装置に充填する他は、上記の実施例1と同様にして処理運転を行った。
図6において、
図1と同様の機能を有するものについては同一の番号を付している。また、
図6において、15はアナモックス菌群付着体、17は分離部である。
【0035】
実験の結果、1か月で窒素除去速度1.25kg−N/m
3/dayを達成し、運転173日目(写真を
図6に示す)には最大窒素除去速度5.95kg−N/m
3/dayを達成した。以上のことから、本実施例3の構成であっても、アナモックス菌群を高速で処理することが可能であることが認められた。
なお、
図7において、下方にはアナモックス活性を維持しているアナモックス菌群付着体の塊31が存在する一方、上方にはアナモックス活性を消失したアナモックス菌群付着体の塊30が存在するような構成であり、
図2の場合とは、塊30と塊31との上下関係が逆になっている。このようなことを考慮して、分離部7が廃水処理装置の上部に配置されている。
【実施例4】
【0036】
アナモックス菌群を付着させた担体のみならず、硝化細菌を付着させた担体を用い(所謂、SNAP法を用い)、1槽式の硝化脱窒について検討した。実験条件を下記に示す。なお、廃水処理装置としては、上記第1実施例の実施例1と同様のものを用いた。
【0037】
(1)1槽式硝化脱窒装置仕様
リアクター:1.1L
アナモックス菌群付着体の充填率:5体積%
硝化細菌付着体の充填率:5体積%
制御温度:25℃
曝気量(窒素/空気の比が1/9の混合ガスを使用):1L/min
【0038】
(2)運転条件
合成廃水処理(下記表4の合成廃水を40mg/Lに希釈処理)
滞留時間 6〜8h
【0039】
アナモックス菌群付着体としては、上記実施例1で運転終了した後のものを用いた。
硝化細菌付着体としては、下記表4の合成廃水NH
4−N200mg/Lで培養し、硝化細菌を付着させた担体を用いた。曝気には窒素/空気の比1/9の混合ガス使用し、溶存酸素を1mg/L以下になるように調整した。
【0040】
【表4】
【0041】
実験の結果、運転20日目に窒素除去率が安定し、窒素除去率50〜62%を得た。硝化細菌付着体によりアンモニア性窒素の一部が亜硝酸性窒素に変換し、アナモックス菌群付着体によりアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とが窒素ガスに変換しているものと考えられる。なお、
図9に硝化菌群付着体の見かけのゼータ電位測定結果を示す。ゼータ電位測定は、担体の見かけのゼータ電位測定方法と同様の方法でおこなった。ゼータ電位の値は−10mVであった。硝化菌群付着前の担体のゼータ電位は−30.9mVであったことから、担体に付着菌群が付着してゼータ電位が変化していることが分かる。
【実施例5】
【0042】
実施例4において長期間運転すると黒鉛粒子の一部が系外に流出し、処理速度が低下することがある。そこで、本実施例5では、定期的な黒鉛粒子の補充を検討した。実施例4の運転終了後、黒鉛粒子年間補充率0.01重量%、0.1重量%、1重量%、2重量%、5重量%の5系列で廃水処理装置を運転した。黒鉛粒子年間補充率とは、例えば1重量%補充であれば、1.1Lの装置に年間で11gの黒鉛粒子を補充することである。具体的には、11gの黒鉛粒子を12回に分け毎月11/12gずつ補充した。その他の運転条件は実施例4と同様である。1年間運転した窒素除去率を下記表5に示す。
【0043】
【表5】
【0044】
表5から明らかように、試料2、3、4、5の場合に除去率の標準偏差が安定してきており、特に、試料3、4、5の場合に除去率の標準偏差が極めて安定してきていることが認められる。したがって、黒鉛粒子年間補充率は0.1重量%以上であることが好ましく、特に1重量%以上であることが好ましいことがわかる。
なお、黒鉛粒子の追加はSNAP法の場合に限定するものではなく、実施例1〜実施例3で示したアナモックス菌群付着体のみ用いる場合にも適用しうる。
【実施例6】
【0045】
平均粒子径が5μmの活性炭(和光純薬製粉末活性炭素 製品コード037−02115)を担体として用い、実施例1と同様の方法で処理運転を行った。担体のゼータ電位は−21.5mVであった。運転後1ヶ月において窒素除去速度は1.07kg−N/m
3/dayであった。アナモックス菌群付着体のゼータ電位は−24.3mVであった。
【0046】
PVA単独の担体を用いたアナモックス菌群担持体を用いて、実施例1と同様の方法で処理運転を行った。窒素除去速度は運転後3ヵ月後においても0.2kg−N/m
3/dayに過ぎなかった。
【0047】
平均粒子径が1100μmあるいは0.1μmの炭素粒子を担体として用い、実施例1と同様の方法でアナモックス菌群担持体を作成して処理運転を行った。運転後1ヶ月において窒素除去速度は0.1kg−N/m
3/dayに過ぎなかった。
【0048】
(その他の事項)
上記実施例1〜実施例6では1槽式の廃水処理装置について説明したが、このような構造に限定するものではなく、
図8に示すように、担体と処理水とを分離する分離槽20を設け、返送管路19を用いて分離した担体を廃水処理槽1に戻すような構成としても良い。なお、
図8において、
図1及び
図6と同様の機能を有するものについては同一の番号を付している。また、
図8において、18は流出担体破砕用撹拌機である。