特開2019-104056(P2019-104056A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2019104056-溶接継手 図000003
  • 特開2019104056-溶接継手 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-104056(P2019-104056A)
(43)【公開日】2019年6月27日
(54)【発明の名称】溶接継手
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20190607BHJP
【FI】
   B23K31/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-218307(P2018-218307)
(22)【出願日】2018年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2017-237599(P2017-237599)
(32)【優先日】2017年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】松尾 昌武
(72)【発明者】
【氏名】廣間 靖典
(57)【要約】
【課題】疲労強度を向上させることができる溶接継手を提供すること。
【解決手段】母材2は、その表面における開先3側の端部に形成されると共に母材2の厚み方向に張り出す第2張出部21を備えるので、溶接継手1の重心Gが荷重軸線A側に近づき過ぎない状態で(第1張出部20側への偏心を保った状態で)止端部Tの剛性を高めることができる。これにより、母材2に引張荷重Fが加わった場合に、溶接部5に適度な曲げモーメントが作用するので、溶接部5のルート部Rの引張応力Sbが低減され、且つ、溶接部5の止端部Tの剛性も上がるので止端部Tに作用する引張応力Saも低減できる。よって、ルート部R及び止端部Tの引張応力を抑制できるので、溶接継手1の疲労強度を向上させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに突合せられる一対の母材と、それら一対の母材の対向間に形成されると共に前記母材の表面および裏面を連通する開先と、前記母材の表面側からの前記開先への片面溶接によって形成される溶接部と、その溶接部の底部に配設される裏当金と、を備え、前記母材が、その裏面における前記開先側の端部に形成されると共に前記母材の厚み方向に張り出す第1張出部を備える溶接継手において、
前記母材は、その表面における前記開先側の端部に形成されると共に前記母材の厚み方向に張り出す第2張出部を備えることを特徴とする溶接継手。
【請求項2】
前記第2張出部の張り出し寸法は、前記第1張出部の張り出し寸法よりも小さい値に設定されることを特徴とする請求項1記載の溶接継手。
【請求項3】
前記第2張出部の張り出し寸法は、前記第1張出部の張り出し寸法の1%以上90%以下に設定されることを特徴とする請求項2記載の溶接継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接継手に関し、特に、疲労強度を向上させることができる溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
突合せ溶接継手の開先に完全溶け込み溶接を行った場合、溶接部のルート部(開先のルート面における母材の裏面側の端部)に応力集中が生じやすくなるという問題点がある。この問題点に対して、例えば、特許文献1には、母材の裏面に突出する突起部(張出部)を備える溶接継手が開示されている。
【0003】
ここで、図2(b)を参照して、従来の溶接継手201に引張荷重Fが作用した場合について説明する。図2(b)は、従来の溶接継手201に引張荷重Fが作用した場合を示す溶接継手201の部分拡大断面図である。なお、図2(b)では、理解を容易にするために、ハッチングを省略して図示し、曲げモーメントに起因する圧縮応力Sc2及び引張応力Sd2の矢印を模式的に(荷重軸線Aに対して傾斜させて)図示している。また、図2(b)の矢印U−Dは、溶接継手201の厚み方向を示している。
【0004】
図2(b)に示すように、溶接継手201は、母材202から厚み方向(図2(b)の矢印D方向)に張出部220が張り出す分、荷重軸線A(張出部220が非形成とされる領域における母材202の厚み方向中央)から溶接継手201の重心G2が張出部220側に偏心する。この溶接継手201に引張荷重Fが加わると、重心G2が荷重軸線Aから偏心する分、溶接部205には曲げモーメントが生じる。
【0005】
この曲げモーメントによって溶接部205のルート部R2(開先203のルート面230と張出部220の裏面との連設部分)には圧縮応力Sc2が生じるため、引張荷重Fに起因してルート部R2に生じる引張応力Sb2の一部が圧縮応力Sc2によって相殺される。よって、ルート部R2に生じる応力を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002―144031号公報(例えば、段落0027、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の技術では、溶接部205の曲げモーメントによって溶接部205の止端部T2(開先203のルート面230と母材202の表面との連設部分)には引張応力Sd2が作用する。即ち、止端部T2には、引張荷重Fに起因する引張応力Sa2に加え、溶接部205の曲げモーメントに起因する引張応力Sd2を合成した応力が作用するため、止端部T2に疲労破壊が生じやすくなる。よって、溶接継手201の疲労強度を十分に確保することができないという問題点があった。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、疲労強度を向上させることができる溶接継手を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために本発明の溶接継手は、互いに突合せられる一対の母材と、それら一対の母材の対向間に形成されると共に前記母材の表面および裏面を連通する開先と、前記母材の表面側からの前記開先への片面溶接によって形成される溶接部と、その溶接部の底部に配設される裏当金と、を備え、前記母材が、その裏面における前記開先側の端部に形成されると共に前記母材の厚み方向に張り出す第1張出部を備えるものであり、前記母材は、その表面における前記開先側の端部に形成されると共に前記母材の厚み方向に張り出す第2張出部を備える。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の溶接継手によれば、母材は、その表面における開先側の端部に形成されると共に母材の厚み方向に張り出す第2張出部を備えるので、溶接継手の重心を第1張出部側から荷重軸線(第1張出部および第2張出部が非形成とされる領域における母材の厚み方向中央)側に近づけることができる。これにより、母材に引張荷重が加わった場合に、溶接部に生じる曲げモーメントを低減できるので、溶接部の止端部(第2張出部の表面と溶接部との連設部分)に作用する引張応力を低減できる。よって、止端部に疲労破壊が生じることを抑制できるので、溶接継手の疲労強度を向上させることができるという効果がある。
【0011】
請求項2記載の溶接継手によれば、請求項1記載の溶接継手の奏する効果に加え、第2張出部の張り出し寸法は、第1張出部の張り出し寸法よりも小さい値に設定されるので、溶接継手の重心を荷重軸線よりも第1張出部側に位置させることができる。これにより、母材に引張荷重が加わった場合に、溶接部に生じる曲げモーメントが過剰に低減することを抑制できる。
【0012】
即ち、溶接部に生じる曲げモーメントによって溶接部のルート部(第1張出部の裏面と溶接部との連設部分)には圧縮応力が生じるので、母材への引張荷重によってルート部に作用する引張応力の一部を、かかる圧縮応力で相殺することができる。よって、溶接部のルート部に作用する引張応力を低減させ、ルート部に疲労破壊が生じることを抑制できるので、溶接継手の疲労強度を向上させることができるという効果がある。
【0013】
請求項3記載の溶接継手によれば、請求項2記載の溶接継手の奏する効果に加え、次の効果を奏する。第2張出部の張り出し寸法は、第1張出部の張り出し寸法の1%以上90%以下に設定されるので、母材に引張荷重が加わった場合に、溶接部に生じる曲げモーメントが過剰に増大、若しくは、低減することを抑制できる。これにより、溶接部の止端部とルート部との双方に生じる応力を低減できるので、それら止端部およびルート部に疲労破壊が生じることを抑制できる。よって、溶接継手の疲労強度を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)は、本発明の一実施形態における溶接継手の溶接前の状態を示す部分拡大断面図であり、(b)は、溶接継手の溶接後の状態を示す部分拡大断面図である。
図2】(a)は、本発明の溶接継手に引張荷重が作用した場合を示す溶接継手の部分拡大断面図であり、(b)は、従来の溶接継手に引張荷重が作用した場合を示す溶接継手の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、溶接継手1の全体構成について説明する。図1(a)は、本発明の一実施形態における溶接継手1の溶接前の状態を示す部分拡大断面図であり、図1(b)は、溶接継手1の溶接後の状態を示す部分拡大断面図である。なお、図1の矢印U−Dは、溶接継手1の厚み方向を示している。
【0016】
図1に示すように、溶接継手1は、構造体(本実施形態では、鉄道車両の構体)の一部を構成する突合せ溶接継手である。溶接継手1は、互いに突合せられる一対の母材2と、それら一対の母材2の対向間に形成されると共に母材2の厚み方向と直交する方向(図1の紙面垂直方向)に延設される開先3と、その開先3の底部に配設される裏当金4と、開先3及び裏当金4によって取り囲まれる空間に形成される溶接部5と、を備える。
【0017】
母材2は、金属材料からなる板状体であり、一対の母材2が開先3を挟んで対称の形状に形成される。母材2は、その裏面側における開先3側の端部に形成されると共に母材2の厚み方向(図1の矢印D方向)に張り出す第1張出部20と、母材2の表面側における開先3側の端部に形成されると共に母材2の厚み方向(図1の矢印U方向)(第1張出部20の張り出し方向とは反対方向)に張り出す第2張出部21と、を備える。なお、母材2のうち、第1張出部20及び第2張出部21が非形成とされる領域を基部22と定義する。
【0018】
第1張出部20は、その裏面を構成する第1張出面20aと、その第1張出面20a及び基部22の裏面を接続する第1接続面20bと、を備える。第1張出面20aは、基部22の裏面と平行な平坦面として構成され、第1接続面20bは、第1張出面20aと基部22の裏面とを接続する緩やかな湾曲面として構成される。
【0019】
第2張出部21は、その表面を構成する第2張出面21aと、その第2張出面21a及び基部22の表面を接続する第2接続面21bと、を備える。第2張出面21aは、第1張出面20aと平行な平坦面として構成され、第2接続面21bは、第2張出面21aと基部22の表面とを接続する緩やかな湾曲面として構成される。
【0020】
基部22は、その板厚tが所定の寸法(本実施形態では、4mm)に設定され、基部22からの第1張出部20の張り出し寸法t1(本実施形態では、2mm)が基部22からの第2張出部21の張り出し寸法t2(本実施形態では、1mm)よりも大きく設定される。
【0021】
また、第1張出面20a及び第2張出面21aのそれぞれの基部22側(開先3側とは反対側)の端部は、母材2の突合せ方向と直交する同一平面上に位置し、母材2の突合せ方向における第1張出面20aの幅寸法L1(本実施形態では、8.5mm)よりも第2張出面21aの幅寸法L2(本実施形態では、3.5mm)が小さく設定される。即ち、開先3の延設方向(図1の紙面垂直方向)と直交する平面で切断した断面における第1張出部20の断面積に比べ、第2張出部21の断面積が小さく設定される。
【0022】
ここで、開先3の延設方向と直交する平面で切断した断面視において、基部22の厚み方向中央を通る直線(図1(b)に2点鎖線で示す直線)を「荷重軸線A」と定義する。第1張出部20の張り出し寸法t1に比べて第2張出部21の張り出し寸法t2が小さく設定される(第1張出部20の断面積に比べ、第2張出部21の断面積が小さく設定される)ので、溶接継手1(第1張出部20及び第2張出部21が形成される領域)の重心Gは、荷重軸線Aよりも第1張出部20側に若干偏心している。
【0023】
開先3は、母材2の突合せ方向(図1の左右方向)で所定間隔を隔てて対向する一対のルート面30を備え、母材2の裏面(第1張出面20a)側と表面(第2張出面21a)側とを連通するV形の開先として構成される。溶接継手1に片面溶接による完全溶け込み溶接が施されることで溶接部5が形成され、溶接部5は、開先3への溶接によって溶接金属が凝固した部位である。溶接部5の表面は、一対の第2張出面21aの開先3側の端部どうしを接続する湾曲面として構成される。
【0024】
次いで、図2(a)を参照して、溶接継手1に引張荷重Fが作用した場合について説明する。図2(a)は、本発明の溶接継手1に引張荷重Fが作用した場合を示す溶接継手1の部分拡大断面図である。なお、図2(a)では、理解を容易にするために、ハッチングを省略して図示し、後述の曲げモーメントに起因する圧縮応力Sc及び引張応力Sdの矢印を模式的に(荷重軸線Aに対して傾斜させて)図示している。また、図2(a)の矢印U−Dは、溶接継手1の厚み方向を示している。
【0025】
図2(a)に示すように、母材2の突合せ方向での引張荷重Fによる応力(例えば、100MPa)が母材2(基部22)に加わった場合、溶接部5の止端部T(溶接部5と第2張出面21aとの連設部分)には引張応力Saが作用する。同様に、溶接部5のルート部R(溶接部5と第1張出面20aとの連設部分)にも引張応力Sbが作用する。この他、溶接継手1の重心Gが荷重軸線Aよりも第1張出部20側に偏心する分、溶接部5には曲げモーメントが生じる。
【0026】
溶接部5の曲げモーメントによってルート部Rには圧縮応力Scが作用するため、引張荷重Fに起因してルート部Rに作用する引張応力Sbの一部は、曲げモーメントに起因する圧縮応力Scによって相殺される。よって、ルート部Rに生じる応力を低減することができる。この一方で、溶接部5の曲げモーメントによって止端部Tには引張応力Sdが生じる。よって、止端部Tには引張荷重Fに起因する引張応力Saに加え、曲げモーメントに起因する引張応力Sdが作用するため、止端部Tで生じる応力はルート部Rに生じる応力に比べて大きくなる。
【0027】
ここで、図2(b)に示すように、従来の溶接継手201は、母材202の裏面側のみに張出部220が設けられるため、溶接継手201(張出部220が形成される領域)の重心G2が荷重軸線Aから大きく(本実施形態の溶接継手1の重心Gよりも大きく)偏心する。よって、ルート部R2に生じる応力を比較的大きく低減できる一方で、止端部T2に生じる応力が増大する。
【0028】
これに対して、本実施形態の溶接継手1によれば、母材2の表面における開先3側の端部に第2張出部21が形成され、その第2張出部21が母材2の厚み方向に張り出して形成される。これにより、従来の溶接継手201のように母材202の裏面側のみに張出部220が設けられる構成に比べ、溶接継手1の重心Gを荷重軸線A側に近づけることができるので、母材2に引張荷重Fが加わった場合に、溶接部5に生じる曲げモーメントを低減できる。また、第2張出部21を形成することで止端部T側における母材2の剛性を高めることができる。即ち、溶接部5の止端部Tに作用する応力を低減させつつ、止端部T側における母材2の剛性を高めることにより、止端部Tに生じる応力を許容応力(例えば、100MPa)以下に低減させることができる。よって、止端部Tで疲労破壊が生じることを抑制し、溶接継手1の疲労強度を向上させることができる。
【0029】
ここで、裏当金4を用いて完全溶け込み溶接を行った場合、母材2及び裏当金4における熱影響(例えば、形状や剛性の変化)によってルート部Rに応力が集中しやすくなるため、引張荷重Fに起因する引張応力がルート部Rに作用すると、ルート部Rに生じる応力が許容応力(例えば、100MPa)を超えてしまう。即ち、止端部T側に第2張出部21を張り出させることで止端部Tに作用する応力を低減できる一方で、第2張出部21の張り出し寸法t2を過剰に大きく(例えば、2mm以上に)設定すると、溶接継手1の重心Gが荷重軸線Aと一致する(若しくは、第2張出部21側に偏心する)ため、ルート部Rに圧縮応力Scが生じなくなる(若しくは、圧縮応力Scとは逆方向の引張応力が生じる)。よって、引張荷重Fに起因する引張応力Sbを相殺することができなくなり、ルート部Rに生じる応力が許容応力を超えてしまう。
【0030】
これに対して、本実施形態の溶接継手1によれば、第2張出部21の張り出し寸法t2は、第1張出部20の張り出し寸法t1よりも小さい値に設定される(第1張出部20の断面積に比べ、第2張出部21の断面積が小さく設定される)ので、溶接継手1の重心Gを荷重軸線Aよりも第1張出部20側に若干偏心させることができる。これにより、引張荷重Fに起因する曲げモーメント(圧縮応力Sc)を利用して、ルート部Rに作用する引張応力Sbの一部を相殺することができる。
【0031】
即ち、第2張出部21の張り出し寸法t2を、第1張出部20の張り出し寸法t1よりも小さい値に設定する(溶接継手1の重心Gを荷重軸線Aよりも第1張出部20側に若干偏心させる)ことにより、溶接部5の止端部Tに作用する応力を低減させつつ止端部T側における母材2の剛性を高めることと、溶接部5に適度な曲げモーメントを生じさせる(曲げモーメントに起因する引張応力がルート部Rで生じることを防止する)こととを両立させることができる。これにより、ルート部R及び止端部Tのそれぞれに生じる応力を許容応力以下に低減させることができるので、溶接継手1の疲労強度を向上させることができる。
【0032】
また、ルート部R及び止端部Tのそれぞれに生じる応力は許容応力以下に低減するが、上述した通り、止端部Tで生じる応力はルート部Rに比べて若干大きくなる。これにより、止端部T側で疲労破壊が生じやすくなるため、疲労破壊が生じても容易に発見することができる。
【0033】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、基部22の板厚t、第1張出部20及び第2張出部21の張り出し寸法t1,t2、第1張出面20a及び第2張出面21aの幅寸法L1,L2、及び、開先3の開先角度の数値は例示であり、適宜設定できる。
【0034】
詳しくは、基部22の板厚tや、各部(第1張出部20、第2張出部21、裏当金4及び溶接部5)の材質や重量に応じて、第1張出部20及び第2張出部21の張り出し寸法t1,t2、幅寸法L1,L2、及び、開先3の開先角度を適宜設定することにより、溶接継手1の重心Gを所望の位置(荷重軸線Aよりも若干第1張出部20側に偏心する位置であって、ルート部R及び止端部Tで生じる応力が許容応力以下となる位置)に設定すれば良い。
【0035】
よって、例えば、上記実施形態では、基部22の板厚tが4mm、第1張出部20の張り出し寸法t1が2mm、第2張出部21の張り出し寸法t2が1mmにそれぞれ設定される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、基部22の板厚tは4mm以上8mm以下、第1張出部20の張り出し寸法t1は0.5mm以上5mm以下、第2張出部21の張り出し寸法t2は0.005mm以上4.5mm以下に設定すれば良い。
【0036】
また、上記実施形態では、第2張出部21の張り出し寸法t2(1mm)が第1張出部20の張り出し寸法t1(2mm)の50%の値に設定される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、第2張出部21の張り出し寸法t2は、第1張出部20の張り出し寸法t1の1%以上90%以下に設定されることが好ましい。
【0037】
これにより、溶接部5に生じる曲げモーメントが過剰に増大、若しくは、低減することを抑制し(適度な曲げモーメントを溶接部5に生じさせ)、溶接部5のルート部R及び止端部Tのそれぞれに生じる応力を許容応力以下に低減させることができる。
【0038】
また、第2張出部21の張り出し寸法t2は、第1張出部20の張り出し寸法t1の25%以上75%以下に設定されることがより好ましく、第1張出部20の張り出し寸法t1の50%に設定されることが更に好ましい。第2張出部21の張り出し寸法t2が第1張出部20の張り出し寸法t1の25%以上75%以下に設定されることにより、より適度な曲げモーメントを溶接部5に生じさせ、溶接部5のルート部R及び止端部Tのそれぞれに生じる応力をより効果的に許容応力以下に低減させることができる。
【0039】
また、第2張出部21の張り出し寸法t2が第1張出部20の張り出し寸法t1の50%に設定されることにより、溶接部5に更に適度な曲げモーメントを生じさせ、溶接部5のルート部R及び止端部Tのそれぞれに生じる応力を更に効果的に許容応力以下に低減させることができる。
【0040】
言い換えると、第2張出部21の張り出し寸法t2が第1張出部20の張り出し寸法t1の50%に近付くほど、ルート部R及び止端部Tに生じる応力のバランスをとることができる。よって、第1張出部20の張り出し寸法t1や第2張出部21の張り出し寸法t2を極力小さい値に設定しつつ、溶接部5のルート部Rや止端部Tに疲労破壊が生じることを抑制できるので、母材2の重量の増加を抑制しつつ、溶接継手1の疲労強度を向上させることができる。
【0041】
上記実施形態では、溶接継手1が鉄道車両の構体の一部を構成する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、溶接継手1を適用する他の構造体として、輸送機器(例えば、自動車やタンクローリ、搬送車両等)、鋼構造物(例えば、橋梁)、非鉄金属構造物(アルミ構造体)等が例示される。即ち、板状体からなる母材どうしを突合せる部位を有する構造体であれば、本発明の技術思想を適用できる。
【0042】
上記実施形態では、母材2が金属材料から構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、母材2がセラミックから構成されても良い。即ち、突合せ溶接によって完全溶け込み溶接が行われる母材であれば、本発明の技術思想を適用できる。
【0043】
上記実施形態では、第2張出面21aが第1張出面20aと平行な平坦面として構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、第2張出面21aを第1張出面20aに対して傾斜する面として構成しても良く、第2張出面21aの一部または全部を湾曲面から構成しても良い。
【0044】
上記実施形態では、第1接続面20b及び第2接続面21bの曲率についての説明を省略したが、第1接続面20b及び第2接続面21bの曲率半径や湾曲形状は適宜設定できる。例えば、第1接続面20b及び第2接続面21bの曲率半径は、基部22の板厚tよりも大きく設定することが好ましいが、板厚t以下に設定しても良い。
【0045】
上記実施形態では、基部22の板厚tよりも、第1張出部20の張り出し寸法t1(第2張出部21の張り出し寸法t2)が小さく設定される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、基部22の板厚tと第1張出部20の張り出し寸法t1(第2張出部21の張り出し寸法t2)とを同一の値に設定する構成や、基部22の板厚tよりも第1張出部20の張り出し寸法t1(第2張出部21の張り出し寸法t2)を大きく設定する構成でも良い。
【0046】
上記実施形態では、開先3がV形の開先として構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、開先3をU形の開先として構成しても良い。また、開先3をレ形の開先や、J形の開先として構成しても良い。即ち、上記実施形態では、一対の母材2が開先3を挟んで対称に形成される場合を説明したが、これに限られるものではない。例えば、一対の母材のうちの少なくとも一方の母材が板状体から構成される場合であれば、本発明の技術思想を適用できる。
【0047】
上記実施形態では、裏当金4の全体が第1張出面20aの全体(溶接部5の底面)に当接される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、裏当金4に当接しない領域を第1張出面20aに設ける構成でも良い。
【0048】
上記実施形態では、溶接部5の表面が湾曲面として構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、グラインダー仕上げによって溶接部5の表面を平坦面とする構成でも良い。
【符号の説明】
【0049】
1 溶接継手
2 母材
20 第1張出部
21 第2張出部
3 開先
4 裏当金
5 溶接部
t1 第1張出部の張り出し寸法
t2 第2張出部の張り出し寸法
図1
図2