【解決手段】本実施形態に係る金属被覆樹脂基材30は、樹脂基材20、樹脂基材20の表面を被覆する金属薄膜層32、及び、樹脂基材20と金属薄膜層32との間に介在して両者と接合する密着層34を備え、樹脂基材20が極性を有する樹脂を含み、密着層34がチオール基及びアミノ基を有する化合物で構成される。
前記樹脂基材が、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂及びアクリロニトリル−スチレン−アクリレート樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の金属被覆樹脂基材。
前記金属薄膜層が、Au、Ag、Cu、Pd、Pt、Al、Mg、Fe、Ti、Cr、及びNiからなる群より選択される単体金属、または、Au、Ag、Cu、Pd、Pt、Al、Mg、Fe、Ti、Cr、及びNiからなる群より選択される2種以上の合金により構成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属被覆樹脂基材。
前記金属薄膜層が、Au、Ag、Cu、Pd及びPtからなる群より選択される単体金属、または、Au、Ag、Cu、Pd及びPtからなる群より選択される2種以上の合金により構成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属被覆樹脂基材。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態の一例について説明する。本実施形態に係る金属被覆樹脂基材は、樹脂基材、樹脂基材の表面を被覆する金属薄膜層、及び、樹脂基材と金属薄膜層との間に介在して両者と接合する密着層を備え、樹脂基材が極性を有する樹脂を含み、密着層がチオール基及びアミノ基を有する化合物で構成されることを特徴とする。
【0017】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、極性樹脂を含む樹脂基材と金属薄膜層とを接合する密着層として、チオール基及びアミノ基を有する化合物で構成された密着層を備えることにより、より簡便な方法で製造でき、且つ、樹脂基材と金属薄膜層との間の密着性に優れる金属被覆樹脂基材が得られることを見出した。即ち、斯かる密着層を備える金属被覆樹脂基材は、チオール基及びアミノ基を有する化合物を樹脂基材の表面に接触させて表面改質し、その後、公知の方法により金属薄膜層を形成することにより、製造することができる。このようにして形成された密着層では、アミノ基が樹脂基材に含まれる極性基により吸着され、樹脂基材と密着すると共に、チオール基が金属薄膜層を構成する金属と密着することにより、樹脂基材と金属薄膜層との優れた密着性が確保される。
【0018】
以下、本実施形態に係る金属被覆樹脂基材の構成要素である、樹脂基材、密着層及び金属薄膜層について詳説する。
【0019】
[樹脂基材]
樹脂基材は、極性を有する樹脂を含有する基材であれば特に制限されない。樹脂基材の形状に特に制限はなく、例えば、フィルム状、シート状及び板状等の形状を有する基材が挙げられる。
【0020】
樹脂基材が含有する極性樹脂としては、化学構造中に極性基を有する樹脂であれば特に制限されない。当該極性基としては、例えば、カルボキシ基、カーボネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、アシル基、アルデヒド基、スルホニル基、エーテル基、エポキシ基、カルボジイミド基、酸無水物基等が挙げられる。
【0021】
極性樹脂の具体例としては、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート樹脂(ASA樹脂)、ポリエーテルスルホン樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。樹脂基材は、極性樹脂を1種単独で含有してもよく、2種以上の極性樹脂を含有していてもよく、また、2種以上の極性樹脂のポリマーアロイを含有していてもよい。
【0022】
樹脂基材には、極性樹脂が有する極性基とカップリング剤が有するアミノ基との結合性の観点から、PC樹脂、ポリエステル樹脂、及び、PC樹脂とASA樹脂又はABS樹脂とのポリマーアロイを用いることが好ましく、PC樹脂とASA樹脂又はABS樹脂とのポリマーアロイを用いることがより好ましい。当該ポリマーアロイを用いる場合、PC樹脂に由来する成分にアミノ基との結合性が高いカーボネート基が含まれ、アミノ基が樹脂基材側に位置し、且つ、チオール基が表面側(金属薄膜層側)に位置する傾向がより高くなりその結果、樹脂基材と金属薄膜層との密着性がより一層向上すると考えられる。
【0023】
PC樹脂とASA樹脂又はABS樹脂とのポリマーアロイにおいて、両者の比率は特に制限されないが、例えば、ASA樹脂又はABS樹脂に対するPC樹脂の質量比が50%以上99%以下であることが好ましい。
【0024】
樹脂基材は、極性樹脂以外の成分を含有していてもよく、例えば、極性樹脂以外の樹脂や、有機溶剤又は触媒等の残渣成分等を含有していてもよい。樹脂基材における極性樹脂の含有量は、例えば、樹脂基材の総量に対して80質量%以上であってよく、密着性向上の観点から、95質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。樹脂基材の厚さは、金属被覆樹脂基材の用途や要求特性等に応じて適宜決定されるものであり、特に制限されないが、例えば1mm以上10mm以下であり、2mm以上7mm以下であることが好ましい。
【0025】
樹脂基材は、例えば、極性樹脂を成形することにより得られる。極性樹脂の成形方法は、特に制限されるものではなく、射出成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形等の各種成形方法が採用される。また、樹脂基材には密着性を更に向上させるために表面処理が施されていてもよい。当該表面処理としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられる。
【0026】
[密着層]
本実施形態に係る金属被覆樹脂基材において、密着層は、チオール基及びアミノ基を有する化合物(以下「カップリング剤」とも称する)で構成され、樹脂基材及び金属薄膜層の両者と接合する。より詳しくは、上述の通り、カップリング剤が有するアミノ基が樹脂基材に含まれる極性樹脂が有する極性基により吸着されて樹脂基材と密着し、カップリング剤が有するチオール基が金属薄膜層を構成する金属と結合する。これにより、樹脂基材及び金属薄膜層のそれぞれとの優れた密着性を有する。後述するように、本実施形態に係る密着層は、例えば樹脂基材の表面にカップリング剤を接触させること(以下「カップリング処理」ともいう)により形成される。
【0027】
カップリング剤としては、分子中にチオール基及びアミノ基をそれぞれ1個以上有する化合物であれば特に制限されず、例えば、チオール基及びアミノ基をそれぞれ1個有する化合物、チオール基及びアミノ基のいずれか一方又は両方を2個以上有する化合物、チオール基及びアミノ基をそれぞれ1個以上有するモノマーの重合体、チオール基を1個以上有するモノマーとアミノ基を1個以上有するモノマーとの共重合体等が挙げられる。中でも、後述するカップリング処理の容易性、及び、入手し易さ等から、チオール基及びアミノ基をそれぞれ1個又は2個有する化合物が好ましく、チオール基及びアミノ基をそれぞれ1個有する化合物がより好ましい。
【0028】
好適なカップリング剤としては、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
NH
2−X−SH (1)
式(1)において、Xはスペーサー基を表す。スペーサー基は、アミノ基及びチオール基の両者と結合し得る基であれば特に制限されず、例えば、置換基を有してもよい2価の炭化水素基等が挙げられる。スペーサー基は、炭素数が1以上20以下であることが好ましい。炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基及びこれらの組合せよりなる群から選択される基が挙げられる。2価の脂肪族炭化水素基は直鎖状及び分岐状のいずれであってもよい。2価の脂肪族炭化水素基及び2価の脂環式炭化水素基は飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよい。2価の炭化水素基は、例えば、炭素数が1以上20以下であり、2以上16以下であることが好ましく、2以上11以下であることがより好ましい。上記式(1)で表される化合物を使用することにより、より高い密度でカップリング剤を有し、樹脂基材と金属薄膜層との密着性により優れる密着層を形成することができる。
【0029】
2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルカンジイル基、アルケンジイル基が挙げられ、その炭素数は、例えば1以上20以下であり、2以上16以下が好ましく、2以上11以下がより好ましい。アルカンジイル基の具体例としては、メチレン基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、プロピレン基、ブタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基、ウンデカン−1,11−ジイル基、ヘキサデカン−1,16−ジイル基等が挙げられる。アルケンジイル基の具体例としては、エテン−1,2−ジイル基、プロペン−1,3−ジイル基、1−ブテン−1,4−ジイル基、2−ペンテン−1,5−ジイル基、3−ヘキセン−1,6−ジイル基等が挙げられる。
【0030】
上記式(1)においてXで表されるスペーサー基としては、炭素数が2以上16以下であるアルカンジイル基が好ましく、炭素数が2以上11以下であるアルカンジイル基がより好ましい。更には、入手の容易性やコストの観点からは、スペーサー基として炭素数が2以上6以下であるアルカンジイル基が好ましく、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基がより好ましい。なお、本実施形態に係るカップリング剤は、分子中のアミノ基が極性樹脂に含まれる極性基により吸着され、樹脂基材と密着する。また、分子中のチオール基が金属薄膜層を構成する金属と密着する。そのため、例えば上記式(1)においてXで表されるスペーサー基(炭化水素基)の炭素数が少なく、アミノ基とチオール基との間の距離が短い場合であっても、樹脂基材と金属皮膜層との良好な密着性を確保することができる。
【0031】
密着層を構成するカップリング剤の具体例としては、2−アミノエタンチオール(システアミン)、3−アミノプロパンチオール、4−アミノブタンチオール、5−アミノヘプタンチオール、6−アミノヘキサンチオール、8−アミノオクタンチオール、11−アミノウンデカンチオール、16−アミノヘキサデカンチオール及びこれらの塩酸塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
[金属薄膜層]
金属薄膜層を構成する金属は、金属被覆樹脂基材の用途等に応じて適宜決定されるものであり、特に制限されない。金属薄膜層に含まれる金属は、1種の金属からなる単体金属であってもよく、2種以上の金属からなる合金であってもよい。
【0033】
金属薄膜層は、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Pt、Al、Mg、Fe、Ti、Cr及びNiからなる群より選択される単体金属により構成されていてもよく、又は、Au、Ag、Cu、Pd、Pt、Al、Mg、Fe、Ti、Cr及びNiからなる群より選択される2つ以上の金属の合金により構成されていてもよい。密着層を構成するカップリング剤が有するチオール基との結合性の観点から、金属薄膜層は、Au、Ag、Cu、Pd及びPtからなる群より選択される単体金属、又は、Au、Ag、Cu、Pd及びPtからなる群より選択される2つ以上の金属の合金により構成されることが好ましい。
【0034】
金属薄膜層の厚さは、金属被覆樹脂基材の用途や要求特性等に応じて適宜決定すればよく、特に制限されない。金属薄膜層の厚さは、例えば1nm以上1μm以下の範囲であればよく、10nm以上100nm以下の範囲が好ましい。金属薄膜層が厚すぎると、樹脂基材及び密着層との密着性が低下することがあり、金属薄膜層が薄すぎると、所望の金属色を呈する金属被覆樹脂基材の作製が困難になることがある。
【0035】
[金属被覆樹脂基材の製造方法]
以下に、本実施形態に係る金属被覆樹脂基材の製造方法の一例を説明する。しかしながら、本実施形態に係る金属被覆樹脂基材は、以下の方法で製造されるものに限定されない。なお、以下の説明では、樹脂基材としてPC樹脂からなる基材を用い、カップリング剤として上記式(1)で表される化合物を用いた場合を例に説明する。
【0036】
まず、樹脂基材の表面に密着層を形成する。本実施形態に係る密着層は、例えば、樹脂基材の表面にカップリング剤を接触させるカップリング処理により形成すればよい。具体的には、カップリング剤を含有するカップリング液を調製し、樹脂基材を該カップリング液中に浸漬する方法、或いは、公知の塗布装置を用いて樹脂基材の表面に該カップリング液を塗布する方法等が挙げられる。
【0037】
カップリング剤を含有するカップリング液は、液体媒体にカップリング剤が溶解又は分散したものであればよいが、密着層の厚さの均一性の観点から、カップリング剤が溶解した溶液であることが好ましい。カップリング剤を溶解する溶媒としては、例えば、イオン交換水等の水、又は、アルコール溶媒等の極性有機溶媒、並びに、これらの混合溶媒等が挙げられ、カップリング剤の溶解度に応じて適宜選択すればよい。カップリング液は、カップリング剤の樹脂基材に対する密着性を損なわない範囲で他の成分を添加してもよいが、実質的にカップリング剤及び溶媒のみを含有することが好ましい。
【0038】
カップリング処理に使用されるカップリング液中のカップリング剤の含有量は、カップリング剤及び媒体の種類等によって適宜調整すればよく、例えば0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。カップリング処理として、樹脂基材の表面にカップリング液を塗布する場合は、塗布に適当な粘度とする観点から、カップリング液中のカップリング剤の含有量を1質量%以下にすることが好ましい。
【0039】
カップリング液を用いるカップリング処理は、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段で行えばよい。
【0040】
カップリング処理により、チオール基及びアミノ基を有するカップリング剤を含むカップリング液を樹脂基材の表面に接触させることで、樹脂基材に含まれるPC樹脂のエステル結合(−COO−)とカップリング剤のアミノ基(−NH
2)とがアミド結合(−CONH−)を形成する。これにより、樹脂基材とカップリング剤とが密着し、それと同時に、樹脂基材側にアミノ基が存在し、最表面にチオール基(−SH)が存在することになると考えられる。
【0041】
カップリング処理の温度は、樹脂基材の変形及び変質等が生じない範囲であれば特に制限されず、例えば、20℃以上50℃以下の範囲でよく、20℃以上30℃以下の範囲が好ましい。カップリング処理による上記反応は、室温(25℃)近傍で十分に進行し、カップリング剤と樹脂基材との密着性を得ることができる。よって、カップリング処理による樹脂基材の表面改質において加熱処理を施す必要がないため、温度上昇に伴う樹脂基材の変形又は変質の発生を抑えることができる。
【0042】
カップリング処理後の樹脂基材は、金属薄膜層を形成する前に、イオン交換水等の洗浄水で樹脂基材表面を洗浄することが好ましい。また、洗浄した樹脂基材を乾燥することが好ましい。樹脂基材の乾燥方法としては、例えば、風乾、エアーブロー乾燥、真空乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。樹脂基材の乾燥は、樹脂基材の変形及び変質等が生じない温度範囲で行うことが好ましく、例えば、80℃以下で乾燥することが望ましい。その観点から、風乾又はエアーブロー乾燥により樹脂基材を乾燥させることが好ましい。
【0043】
次いで、カップリング処理された樹脂基材の密着層が形成された表面に、金属薄膜層を形成する。金属薄膜層の形成方法としては、上述の金属材料からなる金属薄膜を形成する公知の方法がいずれも適用でき、特に制限されないが、例えば、物理蒸着法(PVD法)及び化学蒸着法(CVD法)等が挙げられる。PVD法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等が挙げられ、CVD法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等が挙げられる。これらの中では、金属薄膜層の形成し易さ等の点で、スパッタリング法が好ましい。
【0044】
図1は、スパッタリング法により、カップリング処理された樹脂基材の表面に金属薄膜層を形成するスパッタリング装置10を示す模式図である。
図1に示すスパッタリング装置10は、真空チャンバ12を備えた、従来公知の構造を有する。真空チャンバ12は、周壁部14を有し、かかる周壁部14の内周面における周上の一箇所には、ターゲット16が、スパッタカソード18を介して交換可能に取り付けられている。また、真空チャンバ12の底壁部上には、樹脂基材20を取り外し可能に支持する支持装置22が、立設されている。更に、この支持装置22には、図示しないスパッタアノードが設置されている。そして、周壁部14の内周面上に位置するスパッタカソード18と、支持装置22に設けられたスパッタアノードとの間に、図示しない電源装置にて電圧が印加されるようになっている。
【0045】
また、真空チャンバ12の周壁部14の周方向の互いに異なる箇所には、ガス導入パイプ24とガス排出パイプ26とが、それぞれの一端部において、真空チャンバ12内に開口した状態で接続されている。そして、ガス導入パイプ24は、真空チャンバ12側とは反対側の端部において、不活性ガスなどの反応ガスを供給するガス供給装置(図示せず)に接続されている。一方、ガス排出パイプ26は、真空チャンバ12側とは反対側の端部側において、真空ポンプ(図示せず)に接続されている。
【0046】
スパッタリング装置10を用いて、樹脂基材20の表面上に、金属薄膜層を形成する際は、
図1に示すように、周壁部14の内周面上に、スパッタカソード18を介して、ターゲット16を取り付ける。ターゲット16は、上述の金属薄膜層を構成する金属材料からなる。そして、真空チャンバ12内の支持装置22に樹脂基材20をセットし、樹脂基材20の表面をターゲット16と対向させる。樹脂基材20は、上述の極性を有する樹脂を含む樹脂基材である。
【0047】
次に、ガス排出パイプ26に接続された真空ポンプ(図示せず)を作動して、真空チャンバ12内を真空状態とする。このときの真空チャンバ12内の圧力は、例えば1Pa〜5Pa程度とされる。その後、例えば、アルゴンガス等の不活性ガスを、図示しないガス供給装置から、ガス導入パイプ24を通じて、真空チャンバ12内に導入する。そして、不活性ガスが真空チャンバ12内に充満したら、図示しない電源装置を作動させて、スパッタカソード18とスパッタアノード(図示せず)との間に所定の電圧を印加する。これにより、真空チャンバ12内におけるターゲット16と樹脂基材20との間の空間にプラズマを発生させて、ターゲット16の放出面(樹脂基材20との対向面)においてスパッタリング現象を惹起させて、ターゲット16から金属の原子を放出させ、樹脂基材20の表面に衝突させて、付着させる。このようにして、樹脂基材20の表面に金属薄膜層を形成することにより、本実施形態に係る金属被覆樹脂基材が作製される。
【0048】
図2に、本実施形態に係る金属被覆樹脂基材30の概略構成を示す。上記のようにして樹脂基材20の密着層34が形成された表面に金属薄膜層32が形成されると、密着層34においてスペーサー基36を介して金属薄膜層32が形成される側の表面に配向しているチオール基が、金属薄膜層32を構成する金属Mと結合する。これにより、樹脂基材20と金属薄膜層32とが強固に結びつき、両者の十分な密着性が確保されると考えられる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例)
樹脂基材として、ポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル−スチレン−アクリレート樹脂(ASA樹脂)との共重合型樹脂(PC−ASA樹脂)からなる基材を用いた。当該樹脂基材は、化学構造中に極性基として、エステル結合、シアノ基及びカルボン酸基を有する。
【0051】
純水に2−アミノエタンチオールを0.1質量%の濃度になるように溶解したカップリング液を調製した。このカップリング液に、樹脂基材を室温で1分間浸漬させた。次に、浸漬後の樹脂基材をイオン交換水で1分間洗浄し、続いて、洗浄した樹脂基材をエアーブロワーによるブロー乾燥を行い、表面処理された樹脂基材を得た。
【0052】
次に、樹脂基材のカップリング液で処理された表面に、
図1に示すスパッタリング装置を用いて、スパッタリング法により、Ag−Pdから構成される金属薄膜層を形成し、金属被覆樹脂基材Aを作製した。具体的には、まず、Ag−Pdのターゲットをスパッタリング装置に設置した。次に、樹脂基材のカップリング液で処理された表面が上記ターゲットと対向するように、樹脂基材をスパッタリング装置内に設置した。そして、スパッタリング装置の真空チャンバ内を8.0×10
−3Paまで排気した後、アルゴンガスを導入して真空チャンバ内の全圧を2.0×10
−2Paとした。次いで、6kWの電力を加えて、樹脂基材の処理表面にAg−Pd合金から構成される金属薄膜層を形成し、金属被覆樹脂基材Aを得た。金属被覆樹脂基材Aの金属薄膜層の膜厚は40.0nmであった。また、金属被覆樹脂基材Aの金属薄膜層の表面をX線光電子分光分析(アルバック・ファイ株式会社製、商品名「PHI5000 VersaProbe」)にて分析した結果、金属薄膜層を構成するAg−Pd合金の組成比は、Agが93原子%で、Pdが7原子%であった。
【0053】
(比較例)
樹脂基材に対して、カップリング液を用いる表面処理を施さなかったこと以外は、実施例の方法に従って、金属被覆樹脂基材B1を作製した。金属被覆樹脂基材B1の金属薄膜層の膜厚は40.0nmであった。また、金属被覆樹脂基材B1の金属薄膜層を構成するAg−Pd合金の組成比は、Agが93原子%で、Pdが7原子%であった。
【0054】
(参考例)
樹脂基材及び金属薄膜層を間に介在する中間層として、アミノ基を有するシランカップリング剤で構成された第1中間層と、チオール基を有するシランカップリング剤で構成された第2中間層とを備える、金属被覆樹脂基材B2を作製した。より具体的には、コーティング溶液を用いた中間層形成を、以下の方法により行ったこと以外は、実施例の方法に従って、金属被覆樹脂基材B2を作製した。
【0055】
純水にアミノ基を有するシランカップリング剤(信越シリコーン株式会社製、KBM−903)を0.1質量%の濃度になるように溶解した第1シランカップリング剤溶液を調製した。また、エタノールにチオール基を有するシランカップリング剤(信越シリコーン株式会社製、KBM−803)を0.1質量%の濃度になるように溶解した第2シランカップリング剤溶液を調製した。第1シランカップリング剤溶液中に、樹脂基材を室温で1分間浸漬させた。浸漬させた樹脂基材を、続けて第2シランカップリング剤溶液中に室温で1分間浸漬させた。この2段階カップリング処理後の樹脂基材をイオン交換水で1分間洗浄し、洗浄した樹脂基材エアーブロワーを用いてブロー乾燥を行い、表面処理された樹脂基材を得た。このようにして表面処理された樹脂基材を用いて、実施例の方法に従って金属被覆樹脂基材B2を作製した。金属被覆樹脂基材B2の金属薄膜層の膜厚は40.0nmであった。また、金属被覆樹脂基材B2の金属薄膜層を構成するAg−Pd合金の組成比は、Agが93原子%で、Pdが7原子%であった。
【0056】
<耐湿密着性試験>
JIS K 5600−7−2 B法に基づき温度50℃及び湿度95%RHの雰囲気中に、各金属被覆樹脂基材を静置する耐湿試験を行い、PC−ASA樹脂基材に対する金属層の剥離の有無を調べた。ここで、金属層の剥離評価は、JIS K 5600−5−6に基づいて評価試験を実施し、剥離がなかったものを密着性に優れたものとして評価結果を○で示し、剥離があったものを密着性に劣るものとして評価結果を×で示した。各金属被覆樹脂基材の耐湿密着性の評価結果を表1に示す。
【0057】
<耐熱密着性試験>
温度80℃の雰囲気中に、各金属被覆樹脂基材を静置する耐熱試験を行い、PC−ASA樹脂基材に対する金属層の剥離の有無を調べた。ここで、金属層の剥離評価は、JIS K 5600−5−6に基づいて評価試験を実施し、剥離がなかったものを密着性に優れたものとして評価結果を○で示し、剥離があったものを密着性に劣るものとして評価結果を×で示した。各金属被覆樹脂基材の耐熱密着性の評価結果を表1に示す。
【0058】
<耐水密着性試験>
水温40℃の雰囲気中に、各金属被覆樹脂基材を静置する耐水試験を行い、PC−ASA樹脂基材に対する金属層の剥離の有無を調べた。ここで、金属層の剥離評価は、JIS K 5600−5−6に基づいて評価試験を実施し、剥離がなかったものを密着性に優れたものとして評価結果を○で示し、剥離があったものを密着性に劣るものとして評価結果を×で示した。各金属被覆樹脂基材の耐水密着性の評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
チオール基及びアミノ基を有する化合物で構成され、樹脂基材と金属薄膜層とを接合する密着層を備える実施例の金属被覆樹脂基材Aでは、耐湿密着性、耐熱密着性及び耐水密着性がいずれも優れる(○)と評価された。また、2つの層からなる中間層を設けた参考例の金属被覆樹脂基材B2においても、耐湿密着性、耐熱密着性及び耐水密着性がいずれも優れる(○)と評価された。即ち、実施例の金属被覆樹脂基材Aでは、密着層が単一の化合物を用いて簡便な方法で形成されたにもかかわらず、樹脂基材に接合する第1中間層と金属薄膜層に接合する第2中間層とを設けた金属被覆樹脂基材B2に匹敵する、耐湿密着性、耐熱密着性及び耐水密着性を有することがわかった。一方、樹脂基材と金属薄膜層とが直接接合する比較例では、耐湿密着性、耐熱密着性及び耐水密着性のいずれにおいても×と評価され、樹脂基材と金属薄膜層との密着性が十分に確保されなかった。