(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-105048(P2019-105048A)
(43)【公開日】2019年6月27日
(54)【発明の名称】木造建築物の屋根構造
(51)【国際特許分類】
E04B 7/04 20060101AFI20190607BHJP
【FI】
E04B7/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-236884(P2017-236884)
(22)【出願日】2017年12月11日
(71)【出願人】
【識別番号】516288147
【氏名又は名称】株式会社しくみ
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泉
(57)【要約】
【課題】木材の有する強度を最大限に引き出すことにより、垂木及び横架材による高耐力の結合部を安価且つ容易に、美観を損なうことなく、且つ、高い施工性で実現することができる、木造建築物の屋根構造を提供する。
【解決手段】垂木2を横架材4に形成される欠き溝12に支持させる木造建築物の屋根構造であって、欠き溝12は、アリ溝部24を有し、垂木2は、台形断面部26を有し、台形断面部26をアリ溝部24に嵌入することにより垂木2と横架材4とに形成される結合部14を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂木を横架材に形成される欠き溝に支持させる木造建築物の屋根構造であって、
前記欠き溝は、アリ溝部を有し、
前記垂木は、台形断面部を有し、
前記台形断面部を前記アリ溝部に嵌入することにより前記垂木と前記横架材とに形成される結合部を備える、木造建築物の屋根構造。
【請求項2】
前記垂木に止め具により止め付けられる野地板を含み、
前記野地板は、前記横架材に当接されるとともに、前記台形断面部と所定の間隙を有して離間している、請求項1に記載の木造建築物の屋根構造。
【請求項3】
前記止め具は、前記垂木の前記結合部が存在しない箇所に設けられる、請求項2に記載の木造建築物の屋根構造。
【請求項4】
前記横架材は、桁、母屋、及び棟木の少なくとも何れかである、請求項1から3の何れか一項に記載の木造建築物の屋根構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物の屋根構造に関し、詳しくは横架材への垂木の支持に係る屋根構造に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より、日本の木造建築物は、木造軸組工法(在来工法)で建築され、木材の力を巧みに利用して強度と共に美しさも追求してきている。一方、現代の木造建築は、合理化や工期短縮、職人の不足等の理由で結合部に金物を多用している。木造建築物の屋根構造においては、垂木を桁、母屋、棟木等の横架材の角部に形成された欠き溝に乗せかけた状態で、垂木と横架材とに金物をビスや釘等で取り付け、垂木を横架材に結合する(例えば特許文献1参照)。このような金物には、その形状から、ひねり金物や、くら金物といったものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−144583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の金物を使用した垂木と横架材との結合は、金物を垂木及び横架材に取り付けるために多数のビスや釘等を木材に打ち込む必要がある。このため、施工に時間がかかると共に、作業も容易ではなく、また、建築物の美観を損なうおそれがある。
【0005】
更には、従来の金物を使用した結合部では、多数のビスや釘等を木材に打ち込む必要があるため、作業員による打ち込み忘れを招くことが懸念される。この場合には、建築物の耐力が低下するおそれがある。また、施工時に、現場においてビスや釘等の打ち込み箇所に配慮しなければ、柱や土台に生じる剪断力により木材に割れが生じ、特に地震などで柱に引抜力が生じた場合、当該割れが促進され、建築物の耐力が著しく低下するおそれもある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、木材の有する強度を最大限に引き出すことにより、垂木及び横架材による高耐力の結合部を安価且つ容易に、美観を損なうことなく、且つ、高い施工性で実現することができる、木造建築物の屋根構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の木造建築物の屋根構造は、垂木を横架材に形成される欠き溝に支持させる木造建築物の屋根構造であって、欠き溝は、アリ溝部を有し、垂木は、台形断面部を有し、台形断面部をアリ溝部に嵌入することにより垂木と横架材とに形成される結合部を備える。
【0008】
好ましくは、垂木に止め具により止め付けられる野地板を含み、野地板は、横架材に当接されるとともに、台形断面部と所定の間隙を有して離間している。
好ましくは、止め具は、垂木の結合部が存在しない箇所に設けられる。
好ましくは、横架材は、桁、母屋、及び棟木の少なくとも何れかである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の木造建築物の屋根構造によれば、木材の有する強度を最大限に引き出すことにより、垂木及び横架材による高耐力の結合部を安価且つ容易に、美観を損なうことなく、且つ、高い施工性で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る木造建築物の屋根構造を示す斜視図である。
【
図2】垂木と横架材との結合部を拡大した斜視図である。
【
図3】結合部を形成するに際して横架材のアリ溝部に垂木を嵌入する過程を示す斜視図である。
【
図4】結合部及び野地板を
図2のA方向から見た側面図である。
【
図5】結合部に作用する力を
図4のB−B断面矢視で概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る木材建築物の屋根構造を示す斜視図である。この屋根構造は、建築物の例えば木造軸組工法(在来工法)で建築され、複数の垂木2と複数の横架材4とを備えている。垂木2及び横架材4は角材であり、横架材4は一般の屋根構造を構成する桁6、母屋8、及び棟木10等である。
【0012】
この屋根構造では、
図1の手前側から3本目の垂木2を代表して図示して説明すると、横架材4の上面4aに垂木欠きとして欠き溝12が形成されている。欠き溝12は屋根構造の外方下側に向けて傾斜しており、欠き溝12に垂木2を支持させることにより、垂木2と横架材4との結合部14が複数形成される。
図1の手前側から6本目の垂木2を代表して図示して説明すると、垂木2の上面2aには野地板16が釘又はビス等の止め具18によって複数個所が止め付けられる。
【0013】
止め具18は、垂木2の結合部14が存在しない箇所に適宜設けられる。野地板16の上面16aにはルーフィング(防水シート)20が配置され、また、ルーフィング20の上面20aには瓦やスレート材等の屋根材22が固定される。なお、
図1においては、屋根構造の説明上、野地板16、ルーフィング20、及び屋根材22は一部のみ示している。
【0014】
図2は、垂木2と横架材4との結合部14を拡大した斜視図である。本実施形態の欠き溝12は、横架材4の一対の角部4bを含む上面4bを断面台形状に切り欠いたアリ溝部24として形成されている。本実施形態の垂木2は、断面台形状をなしており、台形断面部26が垂木2の長手方向の全体に亘って形成されている。台形断面部26は、アリ溝部24よりも台形高さが若干低いため、垂木2はアリ溝部24に台形高さ方向の全体が収まる形で嵌入されている。アリ溝部24及び台形断面部26は、製材所にて横架材4及び垂木2をプレカット加工することにより容易に形成可能である。
【0015】
図3は、結合部14を形成するに際し、横架材4のアリ溝部24に垂木2を嵌入する過程を示す斜視図である。
図3中に矢印で示すように、設置された横架材4の各アリ溝部24に対し、斜め下方から垂木2を順に嵌め入れていくことにより、垂木2が各横架材4に所定の嵌め合いで嵌合される。こうして、屋根構造において垂木2の設置、及び結合部14の形成が行われ、結合部14では、横架材4と垂木2とが木材の摩擦力及び圧縮力に基づく所定の嵌合力で結合される。
【0016】
図4は、結合部14及び野地板16を
図2のA方向から見た側面図である。前述したように、垂木2はアリ溝部24に台形高さ方向の全体が収まる形で嵌入されている。従って、結合部14の形成に伴い、野地板16は、横架材4の上側外方の角部4bに当接されるとともに、垂木2の上面2a、即ち台形断面部26の上面26aと所定の間隙Gを有して離間している。そして、止め具18は、垂木2の結合部14が存在しない箇所に複数設けられるため、各止め具18の打ち込みに伴い、垂木2が野地板16に対して
図4中に矢印で示す方向の引張力F1で引っ張られる。
【0017】
図5は、結合部14に作用する力を
図4のB−B断面矢視で概略的に示した図である。垂木2に引張力F1が作用することにより、垂木2はアリ溝部24に嵌入された状態で、全体的に野地板16に向けて引き上げられる。この際、野地板16と垂木2との間に間隙Gが確保されていることにより、垂木2の上方への若干の移動が許容される。
【0018】
これにより、結合部14には、垂木2及びアリ溝部24の嵌合部28に交差する方向に作用する木材の圧縮力と、嵌合部28に沿った方向に作用する木材の摩擦力に基づく所定の拘束力F2が作用する。なお、この拘束力F2は間隙Gに近づくほど大きくなる。従って、前述した横架材4と垂木2との嵌合力と、引張力F1に基づく拘束力F2とにより、屋根構造において垂木2と横架材4との強固な結合部14が形成される。
【0019】
以上のように本実施形態の木造建築の屋根構造では、垂木2の台形断面部26を横架材4のアリ溝部24に嵌入することにより、木材の圧縮力及び摩擦力を利用した嵌合力により垂木2と横架材4との結合部14が形成される。これにより、木材の有する強度を最大限に引き出しながら、アリ溝部24及び台形断面部26による高耐力の結合部14を安価且つ容易に、美観を損なうことなく、且つ、高い施工性で実現することができる
【0020】
具体的には、アリ溝部24をプレカット加工した桁6、母屋8、及び棟木10等の横架材4と、断面が台形断面部26となるようにプレカット加工した垂木2とを用意し、施工現場にて垂木2をアリ溝部24に嵌入するだけの簡単な作業により結合部14を形成可能である。このため、ひねり金物やくら金物を垂木2及び横架材4に取り付けるために、多数のビスや釘等を木材に打ち込む必要はなく、施工時間を短縮することができ、施工時に金物が邪魔になることもない。また、建築物の美観を損なうこともない。
【0021】
更には、従来の金物を使用した結合部では、多数のビスや釘等を木材に打ち込む必要があるため、作業員によるビスの打ち込み忘れを招くことが懸念される。しかし、本実施形態では、このような懸念は払拭され、作業員の熟練度に左右されることなく結合部1の強度品質を均一に確保しながら、建築物の耐力を向上することができる。
【0022】
また、木材に割れを防止するために、現場において金物を固定するためのビスや釘等の打ち込み箇所を配慮する必要はない。従って、垂木2及び横架材4に生じる剪断力による木材に割れを確実に防止することができる。また、地震などで垂木2に引抜力が生じた場合であっても、木材の圧縮力及び摩擦力を利用した嵌合力によって、木材の割れを抑制しながら、引抜力に十分に耐え得る結合部14を形成することができる。
【0023】
更には、野地板16は、垂木2の上面2aに止め具18により止め付けられ、横架材4の角部4bに当接されるとともに、垂木2の上面2a、即ち台形断面部26の上面26aと間隙Gを有して離間している。これにより、野地板16を垂木2に止め具18により止め付けることによって、間隙Gにおいて引張力F1による垂木2の引き上げが許容され、引張力F1に基づく拘束力F2を結合部14に作用させることができる。従って、横架材4と垂木2との嵌合力に加え、拘束力F2を結合部14に作用させることができるため、屋根構造において垂木2と横架材4とのより一層強固な結合部14を形成することができる。
【0024】
しかも、野地板16は、垂木2の上面2aに止め具18により止め付けられたとき、横架材4の角部4bに当接されることにより、屋根構造全体で見たとき、垂木2と横架材4との隙間を低減することができる。従って、垂木2と横架材との隙間を埋めるための施工を別途行わなくとも、安価且つ容易に、美観を損なうことなく、且つ、高い施工性で高気密な木造建築物を実現することができる。
【0025】
また、止め具18は、垂木2の結合部14が存在しない箇所に設けられるため、止め具18の止め付けによって結合部14の耐力が損なわれることはない。従って、屋根構造において垂木2と横架材4とのより一層強固な結合部14を形成することができる。
【0026】
本発明は上記実施形態に制約されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0027】
例えば、欠き溝12の位置、溝形状、及び垂木2の断面形状は上記各形態に限定されない。具体的には、屋根構造に設置する垂木2の傾斜角に応じて、欠き溝12を横架材4の少なくとも上側外方の角部4bを含む領域に形成すれば良い。また、欠き溝12の少なくとも一部にアリ溝部24が存在し、また、垂木2の少なくとも一部にアリ溝部24に嵌合される台形断面部26が存在すれば良い。また、台形断面部26は、必ずしも垂木2の長手方向の全体に亘って形成されなくとも良いし、結合部14も垂木2の少なくとも1個所に形成されれば良い。
【0028】
また、例えば、欠き溝12の上開口を大きく確保し、欠き溝12の底部の領域のみにアリ溝部24を形成することも可能である。これにより、
図3に示したような横架材4のアリ溝部24に対して斜め下方から垂木2を順に嵌め入れる設置方法ではなく、横架材4の上方から各欠き溝12に垂木2を一旦乗せかけた後、垂木2を回動して各アリ溝部24に嵌め込むことで設置することも可能である。これにより、高耐力の結合部14をより一層高い施工性で実現することができる。
【0029】
また、垂木2及び横架材4は角材に限定されるものではなく、横架材4に欠き溝12が形成され、欠き溝12にアリ溝部24を有し、垂木2に台形断面部26を有し、台形断面部26をアリ溝部24に嵌入することにより結合部14が形成されるのであれば、丸太等の棒材であっても良い。
【符号の説明】
【0030】
2 垂木
2a 上面
4 横架材
6 桁
8 母屋
10 棟木
12 欠き溝
14 結合部
16 野地板
18 止め具
24 アリ溝部
26 台形断面部
26a 台形断面部の上面
G 間隙