【課題】枠の断面積を低減しても大型のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクルに要求される剛性を維持することができ、当該断面積の低減によって枠体の内寸を拡大することができると共に、高い寸法精度や平坦度を有するFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体及びその効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】Si:20〜40質量%、Mg:0.2〜1.2質量%、Cu:2質量%以下、Fe:2質量%以下、Cr:0.4質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金粉末焼結体の押出材2で構成されていること、を特徴とするFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1。
Si:20〜40質量%、Mg:0.2〜1.2質量%、Cu:2質量%以下、Fe:2質量%以下、Cr:0.4質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金粉末(または粉末焼結体の)押出材で構成されていること、
を特徴とするFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体。
Si:20〜40質量%、Mg:0.2〜1.2質量%、Cu:2質量%以下、Fe:2質量%以下、Cr:0.4質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金粉末を焼結し、アルミニウム合金粉末焼結体を得る第一工程と、
前記アルミニウム合金粉末焼結体を押出し、押出材を得る第二工程と、
前記押出材同士を摩擦攪拌接合し、枠体を得る第三工程と、を含むこと、
を特徴とするFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
LSI及び超LSI等の半導体装置やFPD(フラットパネルディスプレイ)パネルは、半導体ウエハやFPD(フラットパネルディスプレイ)用原版に光を照射することでパターンが形成される(リソグラフィによるパターン形成)。ここで、ゴミが付着した露光原版を用いた場合は当該ゴミが光を吸収及び/又は反転するため、パターンが良好に転写されない(例えば、パターンの変形やエッジの不明瞭)。その結果、半導体装置やFPD(フラットパネルディスプレイ)パネルの品質及び外観等が損なわれ、性能や製造歩留まりの低下が生じてしまうという問題があった。
【0003】
このため、リソグラフィに関する工程は通常クリーンルームで行われるが、当該環境下においても露光原版へのゴミの付着を完全に防止することはできないため、露光原版の表面にゴミよけのためのペクリルが設けられるのが一般的である。ペクリルはペクリル枠体及び当該ペクリル枠体に張設したペクリル膜から構成され、露光原版の表面に形成されたパターン領域を囲むように設置される。リソグラフィ時に焦点を露光原版のパターン上に合わせておけば、ペクリル膜にゴミが付着した場合であっても、当該ゴミが転写に影響することはない。
【0004】
ここで、従来の一般的な半導体用のペリクルは大きくても150mm角程度であったが、近年のFPD(フラットパネルディスプレイ)の大型化に伴ってペリクルの大型化も進んでおり、例えば、1000mm角を超える大きさのペリクル枠体も要求されるようになっている。ペリクル枠体には高い寸法精度や平坦度に加えて、ペリクル膜の張力で変形しない強度が要求されるところ、ペリクル枠体の大型化に伴ってこれらの要求を満たすことが難しくなっている。
【0005】
これに対し、例えば、特許文献1(特開2009−3111号公報)においては、アルミニウム合金からなるペリクル枠であって、この素材アルミニウム合金が、質量%で、Mg:3.5%を超え、5.5%以下を含み、更にTi:0.005〜0.15%、B:0.0005〜0.05%の一種または二種を含むとともに、Fe:0.15%以下、Si:0.10%以下に各々規制し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有するとともに、このアルミニウム合金の1万倍の走査型電子顕微鏡による組織観察において、観察される晶出物の視野内に占める合計面積率が5%以下であり、かつ観察される晶出物で最大の晶出物の径が円相当径で3μm以下である組織を有することを特徴とするペリクル枠、が開示されている。
【0006】
上記特許文献1に記載のペリクル枠においては、ペリクル枠の素材をMg含有量が比較的高い5000系アルミニウム合金とし、晶出物が少ない組織とすることで、白点欠陥の発生が抑制されることに加えて、厚みが比較的薄くても剛性を確保でき、薄型テレビの著しい大型化に対応する、大型化を可能としたアルミニウム合金製ペリクル枠を提供することができる、とされている。
【0007】
また、特許文献2(特開2006−284927号公報)においては、アルミニウム合金製の枠体と、前記枠体よりも弾性係数の大きい材料からなる補強部材と、を備える支持枠であって、前記補強部材が、前記枠体に形成された埋設凹部に埋め込まれていることを特徴とする支持枠、が開示されている。
【0008】
前記特許文献2に記載のペリクル用支持枠においては、アルミニウム合金製の枠体のみで構成した場合よりも曲げ剛性やせん断剛性が高くなるので、これを大型化しても撓みや歪みが発生し難い。しかも、枠体に形成した埋設凹部に補強部材を埋め込む構成としたので、枠体と補強部材とを簡単かつ確実に一体化させることが可能となる、とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているペリクル枠であっても、大型が急速に進んでいるFPD(フラットパネルディスプレイ)用パネルに用いられるペリクル枠体に要求される高い寸法精度、平坦度、ヤング率及び強度等を全て実現することは困難である。特に、近年では、露光エリアを最大化するためにペリクル枠体の内寸を拡大することが切望されているところ、枠を細くすると十分な剛性を担保することができなかった。
【0011】
また、上記特許文献2に記載されているペリクル用支持枠においては、枠体への埋設凹部の形成や補強部材との一体化等が必要であり、製造工程が複雑化すると共に高価になってしまう。加えて、補強部材には、枠体よりも弾性係数が大きい鉄やチタン等の異種材料を用いることから、加工精度や信頼性を十分に担保することが困難であった。
【0012】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、枠の断面積を低減しても大型のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクルに要求される剛性を維持することができ、当該断面積の低減によって枠体の内寸を拡大することができると共に、高い寸法精度や平坦度を有するFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体及びその効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠及びその製造方法について鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有するアルミニウム合金粉末焼結体の押出材を用いること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明は、
Si:20〜40質量%、Mg:0.2〜1.2質量%、Cu:2質量%以下、Fe:2質量%以下、Cr:0.4質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金粉末(または粉末焼結体の)押出材で構成されていること、
を特徴とするFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体、を提供する。
【0015】
本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体は、上記組成範囲のアルミニウム合金粉末焼結体の押出材で構成されていることから、ペリクル枠体の材質として従来用いられている7000系(Al−Zn−Mg系)アルミニウム合金、6000系(Al−Mg−Si系)アルミニウム合金及び5000系(Al−Mg系)アルミニウム合金と比較して、高いヤング率を有している。
【0016】
特に、SiはAl母相中にSi相として晶出することでヤング率の向上に寄与することに加え、耐摩耗性を向上させると共に熱膨張率を低下させる効果を有している。本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体においては、Si含有量を20質量%以上とすることで、高いヤング率、優れた耐摩耗性及び低い熱膨張係数を実現し、40質量%以下とすることで、加工性の低下及びSi相の粗大化による強度・靭性の低下を抑制している。なお、より好ましいSi含有量は24〜28質量%である。
【0017】
また、本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体においては、摩擦攪拌接合部によって前記押出材同士が一体となっていること、が好ましい。アルミニウム合金粉末焼結体の押出材を用いてペリクル枠体を構成するためには押出材同士の接合が必須となるが、固相接合であり比較的接合温度が低い摩擦攪拌接合によって押出材同士を一体化することで、顕著な歪みや強度低下等を伴うことなく接合を達成することができる。
【0018】
アーク溶接やレーザ溶接等の溶融溶接を用いて押出材同士を接合すると、接合部が急冷凝固組織となって母材との機械的及び熱的性質の差異が大きくなってしまうことから、高い寸法精度や信頼性等が要求されるペリクル枠体に用いることは困難である。また、溶融溶接では接合部に小さな気孔欠陥が形成される場合があるが、ペリクル枠体では極めて小さな欠陥であっても深刻な問題となる。これに対し、摩擦攪拌接合による被接合材の歪みは極めて小さいことに加え、接合部(攪拌部)は基本的に溶融凝固を伴わない再結晶組織となり、母材との差異を比較的小さくすることができる。
【0019】
また、本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体においては、枠体のヤング率が80GPa以上であること、が好ましい。枠体のヤング率を80GPa以上とすることで、大型FPD(フラットパネルディスプレイ)用のペリクル枠体であっても剛性を十分に担保することができ、従来のペリクル枠体よりも枠を細くすることができる。
【0020】
また、本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体においては、短辺の長さが330mm以上であり、長辺の長さが430mm以上であること、が好ましい。本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体は高いヤング率を有するアルミニウム合金粉末焼結体の押出材で構成され、十分な剛性を有していることから、枠体が大型化してもペリクル枠体として用いることができる。
【0021】
更に、本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体においては、略同一の形状及び大きさを有する4つの前記押出材で構成されていること、が好ましい。ペリクル枠体を構成する押出材の形状及び大きさを統一することで、各押出材間の品質のばらつきを抑制することができ、摩擦攪拌接合部の位置も均等に配置することができることから、ペリクル枠体の各種特性を均質化することができる。
【0022】
また、本発明は、
Si:20〜40質量%、Mg:0.2〜1.2質量%、Cu:2質量%以下、Fe:2質量%以下、Cr:0.4質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金粉末を焼結し、アルミニウム合金粉末焼結体を得る第一工程と、
前記アルミニウム合金粉末焼結体を押出し、押出材を得る第二工程と、
前記押出材同士を摩擦攪拌接合し、枠体を得る第三工程と、を含むこと、
を特徴とするFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の製造方法も提供する。
【0023】
本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の製造方法においては、アルミニウム合金粉末焼結体の押出材同士を摩擦攪拌接合によって接合することで、顕著な歪みや強度低下等を伴うことなく接合を達成することができる。また、接合部における微小な気孔欠陥等の発生を抑制することができる。加えて、一般的な溶融溶接を用いる場合と比較して、接合部と接合部以外の領域との差異を小さくすることができる。
【0024】
また、アルミニウム合金粉末焼結体の押出材の接合には、例えば、比較的安価な熱間工具鋼製の接合ツールを用いることができる。接合工程に外部熱源等が必要ないことから、簡便かつ安価に接合を達成することができる。
【0025】
また、本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の製造方法においては、前記切削加工後の前記枠体の短辺の長さを330mm以上、長辺の長さを430mm以上とすること、が好ましい。本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の製造方法においては、高いヤング率を有するアルミニウム合金粉末焼結体の押出材を固相接合である摩擦攪拌接合で接合することから、枠体を大型化すると共に板幅を小さくした場合であっても、良好な枠体を得ることができる。
【0026】
また、本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の製造方法においては、前記第三工程において、略同一の形状及び大きさを有する4つの前記押出材で前記枠体を構成すること、が好ましい。ペリクル枠体を構成する押出材の形状及び大きさを統一することで、押出及び摩擦攪拌接合の作業性を向上させることができ、製造コストを低減することができる。
【0027】
更に、本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の製造方法においては、前記摩擦攪拌接合を接合用ツールの位置制御にて施すこと、が好ましい。摩擦攪拌接合の主な制御方法には、ツールの位置制御、荷重制御及びトルク制御が存在するが、鋼等と比較すると塑性変形抵抗が小さいアルミニウム合金の場合、位置制御を用いることで、接合部(攪拌部)の位置(深さ)を正確に制御することができる。FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体では、接合部裏面における未接合部の形成は深刻な問題となるが、位置制御を用いて適切に摩擦攪拌接合を施すことによって当該未接合部の形成を完全に抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、枠の断面積を低減しても大型のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクルに要求される剛性を維持することができ、当該断面積の低減によって枠体の内寸を拡大することができると共に、高い寸法精度や平坦度を有するFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体及びその効率的な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体及びその製造方法についての代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0031】
1.FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体
図1に、本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の斜視図を示す。FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1は、Si:20〜40質量%、Mg:0.2〜1.2質量%、Cu:2質量%以下、Fe:2質量%以下、Cr:0.4質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金粉末焼結体の押出材で構成されており、ペリクル枠体の材質として従来用いられている7000系(Al−Zn−Mg系)アルミニウム合金、6000系(Al−Mg−Si系)アルミニウム合金及び5000系(Al−Mg系)アルミニウム合金と比較して、高いヤング率を有している。以下、各添加元素の限定理由について説明する。
【0032】
(1)Si
SiはAl母相中にSi相として晶出することでヤング率の向上に寄与することに加え、耐摩耗性を向上させると共に熱膨張率を低下させる効果を有している。本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体においては、Si含有量を20質量%以上とすることで、高いヤング率、優れた耐摩耗性及び低い熱膨張係数を実現し、40質量%以下とすることで、加工性の低下及びSi相の粗大化による強度・靭性の低下を抑制している。なお、より好ましいSi含有量は24〜28質量%である。
【0033】
(2)Mg
Mgの含有量は、0.2〜1.2質量%となっている。Mgの含有量をこの範囲に設定することによって、析出強化による強度向上を図ることができる。(Mg
2Si、Al
2CuMgによる析出強化)。なお、より好ましいMg含有量は0.55〜0.90質量%である。
【0034】
(3)Cu
Cuの含有量は、2質量%以下となっている。Cuの含有量をこの範囲に設定することによって、上記のMgと同様に析出強化による強度向上を図ることができる。(Mg
2Si、Al
2CuMgによる析出強化)。また、ヤング率向上、耐食性向上にも寄与する。2質量%より多くなると、陽極酸化皮膜性が低下する。なお、より好ましいCu含有量は0.11〜0.30質量%である。
【0035】
(4)Fe
Feの含有量は、2質量%以下となっている。Feの含有量をこの範囲に設定することによって、ヤング率向上、耐食性向上に寄与する。2質量%より多くなると、伸び、熱伝導性、押出が低下する。なお、より好ましいFe含有量は0.7質量%以下である。
【0036】
(5)Cr
Crの含有量は、Cr:0.4質量%以下となっている。Crの含有量をこの範囲に設定することによって、結晶を微細化し、靱性の向上に寄与する。なお、より好ましいCr含有量は0.03〜0.26質量%である。
【0037】
(6)Al
(1)〜(5)の成分の他、残部は実質的にAlからなる。また、その他の成分として、不可避不純物が含まれていてもよい。
【0038】
FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1は、アルミニウム合金粉末焼結体の押出材2によって構成されており、4つの押出材2が摩擦攪拌接合部4によって一体となっている。なお、
図1では摩擦攪拌接合部4の領域を誇張して示しているが、切削加工を施して得られるFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1においては、摩擦攪拌接合部4とその他の領域は外観上大差が無い。ここで、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1は略同一の形状及び大きさを有する4つの押出材2で構成されていることが好ましい。FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1を構成する押出材2の形状及び大きさを統一することで、各押出材2間の品質のばらつきを抑制することができることに加えて、摩擦攪拌接合部4を均等に配置することができ、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の各種特性を均質化することができる。
【0039】
また、摩擦攪拌接合によって形成される摩擦攪拌接合部4と押出材2は比較的近い機械的性質とすることができ、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1は全体として均質な機械的性質を有している。ここで、摩擦攪拌接合部4及び摩擦攪拌接合部4近傍の熱影響部のビッカース硬度は、押出材2(摩擦攪拌接合部4以外の領域)の70〜130%となることが好ましい。
【0040】
押出材2のヤング率は、80GPa以上であることが好ましい。押出材2のヤング率を80GPa以上とすることで、大型FPD(フラットパネルディスプレイ)用のペリクル枠体であっても剛性を十分に担保することができ、従来のペリクル枠体よりも枠を細くすることができる。なお、押出材2のより好ましいヤング率は85GPa以上である。
【0041】
また、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の短辺(
図1のA)の長さは330mm以上であり、長辺(
図1のB)の長さは430mm以上であることが好ましい。FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1は高いヤング率を有するアルミニウム合金粉末焼結体の押出材2で構成されていることから、枠体が大型化してもペリクル枠体として十分に用いることができる。
【0042】
図2にFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1のC−C’断面図を示す。FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の枠の最大幅(
図2のW)は6mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1は高いヤング率を有するアルミニウム合金粉末焼結体の押出材2で構成されていることから、枠幅を小さくしても剛性を担保することができる。ここで、枠の最大幅を6mm以下とすることで枠体近傍における露光不良を抑制することができ、5mm以下とすることでFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の内寸をより拡大することができる。
【0043】
FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の断面形状は、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限されず、従来公知の種々の形状とすることができるが、上辺及び下辺が平行な四辺形とすることが好ましい。FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の上辺にはペリクル膜を張設するための幅が必要であり、下辺には接着用粘着層を設けて露光原版に接着するための幅が必要である。
【0044】
FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の平坦度は、150μm以下とすることが好ましく、100μm以下とすることがより好ましい。FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の平坦度を向上させることで、ペリクルを露光原版に貼り付けた場合のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の変形量を小さくすることができる。なお、上記の平坦度は、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の各コーナー4点と4辺の中央4点の計8点において高さを測定することで仮想平面を算出し、当該仮想平面からの各点の距離のうち、最高点から最低点を差引いた差により算出することができる。
【0045】
また、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1を用いて、各種ペリクルを構成することができる。例えば、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の上面に透明性のペリクル膜を覆設すると共に、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1の下面に接着層を形成し、当該接着層の下面に保護膜を剥離可能に覆設すると、大型化した場合であっても歪み等が発生し難い。なお、従来公知の種々の表面処理や表面被覆によってFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1を黒色化することができ、露光時の光の反射が転写パターンを不鮮明にするといった問題を回避することができる。
【0046】
2.FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の製造方法
図3に、本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の製造方法の工程図を示す。本発明のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の製造方法は、アルミニウム合金粉末を焼結してアルミニウム合金粉末焼結体を得る第一工程(S01)と、アルミニウム合金粉末焼結体を押出して押出材を得る第二工程(S02)と、押出材同士を摩擦攪拌接合して枠体を得る第三工程(S03)と、を含んでいる。以下、各工程等について詳細に説明する。
【0047】
(1)第一工程(S01:アルミニウム合金粉末の焼結)
第一工程(S01)は、第二工程(S02)で押出材2を得るために、アルミニウム合金粉末を焼結する工程である。ここで、アルミニウム合金粉末は、Si:20〜40質量%、Mg:0.2〜1.2質量%、Cu:2質量%以下、Fe:2質量%以下、Cr:0.4質量%以下であり、残部がAl及び不可避不純物からなっている。
【0048】
アルミニウム合金粉末は、予備成形することが好ましい。予備成形の方法は、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限されず、従来公知の種々の方法で施すことができ、例えば、プレス法やCIP法等を用いることができる。なお、予備成形の成形圧は、アルミニウム合金粉末の組成、形状及び粒径等に応じて適宜設定すればよい。
【0049】
また、予備成形体を焼結する条件はアルミニウム合金粉末の組成、粒径及び形状等や、予備成形体の密度等に応じて適宜調整し、熱間押出によって良好な押出材を得ることができる状態の焼結体が得られる焼結条件を用いればよい。当該焼結条件としては、例えば、予備成形体を1Torr以下の真空度で炉内温度が100〜400℃に制御された真空炉内で0.5〜2時間保持した後、真空度を1Torr以下(好ましくは0.1Torr以下)に保ちながら、予備成形体の温度が520〜570℃になるように炉内を昇温し、1〜6時間保持すればよい。
【0050】
(2)第二工程(S02:焼結体の熱間押出)
第二工程(S02)は、第一工程(S01)で得られた焼結体の熱間押出により、押出材2を得るための工程である。
【0051】
熱間押出の方法及び条件は、本発明の効果を損なわない範囲で特に制限されず、従来公知のアルミニウム合金粉末焼結体の熱間押出方法及び条件を用いればよいが、熱間押出の温度は400〜500℃程度に設定すればよい。
【0052】
また、熱間押出する場合、金型前方に金属板(例えば、純アルミニウムや5000系のアルミニウム合金等)を押出材料である焼結体の前に配置してもよい。これにより、押出材2の表面に金属板組成の薄い皮膜を形成させることができ、Al−Si系材料が最表面にある場合に起こり得るSiとAlの界面における経時的な孔食や全面腐食を抑制することができる。ここで、金属板の表面に存在する薄い異種合金皮膜は摩擦攪拌接合によって攪拌部中に巻き込まれることから、摩擦攪拌接合の予備処理として当該異種合金皮膜を被接合領域から除去しておくことが好ましい。
【0053】
熱間押出された成形体は、必要に応じて、所望の形状を付与するために鍛造等を行う。この場合、当該鍛造等に先立って、成形体の熱処理を実施してもよい。例えば、200〜400℃で0.5〜2時間程度の熱処理を施すことにより、熱間押出された成形体の鍛造性を高めることができる。
【0054】
(3)第三工程(S03:押出材の摩擦攪拌接合)
第三工程(S03)は、第二工程(S02)で得られた押出材2同士を摩擦攪拌接合することにより、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1を得るための工程である。
【0055】
レーザ溶接等の溶融溶接で押出材2同士を接合する場合、接合部は急冷凝固組織となり接合部以外の領域と比較して硬度が高くなる場合がある。また、材料が溶融する程の熱量が投入されるため、熱影響部での軟化も顕著になる。これらの局所的な機械的性質の変化はFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1に関して好ましくないが、固相接合である摩擦攪拌接合を用いることで、接合部とそれ以外の領域の機械的性質の差異を小さくすることができる。
【0056】
図4に、摩擦攪拌接合を施す際の押出材2の配置例を示す。略同一の形状及び大きさを有する押出材2を用い、4つの押出材2を摩擦攪拌接合で一体とすることにより、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1を構成することが好ましい。FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1を構成する押出材2の形状及び大きさを統一することで、押出及び摩擦攪拌接合の作業性を向上させることができ、製造コストを低減することができる。
【0057】
図5に、押出材2に摩擦攪拌接合を施して得られた枠体の概略図を示す。4つの押出材2が摩擦攪拌接合部4によって一体となっているが、一般的な摩擦攪拌接合においては接合終端部にツール穴が形成されてしまう。これに対し、例えば、
図5に示す点線で枠体10の両側部を切断することで、接合欠陥を含まないFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1を確実に得ることができる。
【0058】
また、切削加工後の枠体10の短辺の長さを330mm以上、長辺の長さを430mm以上とすること、が好ましい。高いヤング率を有するアルミニウム合金粉末焼結体の押出材2を固相接合である摩擦攪拌接合で接合することから、切削加工後の枠体10を大型化すると共に板幅を低下させた場合であっても、良好なFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠1を得ることができる。
【0059】
摩擦攪拌接合の方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の摩擦攪拌接合方法を用いることができるが、接合用ツールの位置制御にて施すことが好ましい。位置制御を用いることで、接合部(攪拌部)の位置(深さ)を正確に制御することができる。FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体1では、接合部裏面における未接合部の形成は深刻な問題となるが、位置制御を用いて適切に摩擦攪拌接合を施すことによって当該未接合部の形成を完全に抑制することができる。
【0060】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0061】
≪実施例≫
Si27%、Fe0.25%、Cu0.25%、Mg0.7%、Cr0.15%の組成を有するアルミニウム合金粉末をCIP成形後に565℃真空雰囲気中で4時間保持することで焼結し、かさ密度2.3g/cm
3の外径250mmの円柱状に成形した(第一工程)。なお、原料として用いたアルミニウム合金粉末の粒度は93%が150μm未満である(ロータップ法)。
【0062】
次に、得られた焼結体を熱間押出用ビレットとして熱間押出を施した。具体的には、ビレットを450℃で加熱し10インチ押出機のコンテナに挿入し、押出成形によって幅100mm、厚さ8mmの板状の押出材を得た(第二工程)。
【0063】
次に、4枚の押出材を
図4に示す状態に配置し、押出材同士を摩擦攪拌接合することによって
図5に示す枠体を得た(第三工程)。なお、接合には専用の摩擦攪拌接合装置を用い、ツールの位置制御によって摩擦攪拌接合を施すことで、押出材同士の突合せ領域に無欠陥接合部を形成させた(接合終端部にはツールの引抜穴が残存する)。摩擦攪拌接合後の枠体の概観写真を
図6に示す。
【0064】
次に、得られた枠体を切削加工することで長辺940mm、短辺760mm、枠幅6mm及び枠厚6mmのFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体を得た。得られたFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の概観写真を
図7に示す。FPD(フラットパネルディスプレイ)ペリクル枠体には歪み等は認められず、良好なFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体が得られている。当該FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の摩擦攪拌接合部の拡大写真を
図8に示す。摩擦攪拌接合部とそれ以外の領域は、一見して判別が困難な程度に差異が無く、外観上も極めて均質なFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体が得られている。
【0065】
得られたFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体に使用する材料に引張試験を施し、応力−ひずみ曲線からヤング率を求めたところ、89GPaであった。従来知られているA5052アルミニウム合金製のFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体使用する材料のヤング率は69GPa程度であり、得られたFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体使用する材料は高いヤング率を有していることが分かる。なお、引張試験の条件はヤング率および耐力測定までは、クロスヘッド変位速度を0.5mm/minとし、それ以降は5mm/minとした。
【0066】
FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体の接合部断面の水平方向の硬度分布を
図9に示す。なお、接合部は枠体の長手方向に対して垂直に切断し、板厚中心における水平方向の硬度分布を測定した。接合部(攪拌部)は組織の微細化による硬度上昇、接合部(攪拌部)の外側には熱影響による硬度低下が認められるが、これらの硬度上昇及び硬度低下は顕著ではなく、母材の70〜130%の範囲となっている。
【0067】
≪比較例≫
押出材同士の接合にレーザ溶接を用いたこと以外は実施例と同様にして、FPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体を得た。また、実施例と同様にして、レーザ溶接部の硬度分布を測定した。得られた結果を
図10に示す。
【0068】
急冷凝固組織からなるレーザ溶接部では顕著な硬度上昇が認められ、熱影響部の硬度低下も大きい。接合部とそれ以外の領域における機械的性質の差異に起因する、寸法精度や長期信頼性の低下は、大型となるFPD(フラットパネルディスプレイ)用ペリクル枠体において特に顕著になるため、アルミニウム合金粉末押出材の接合にレーザ溶接を用いることは困難であることが分かる。